2019年7月12日金曜日

事例の説明に問題あり 日経 佐藤初姫記者「少子化対策 盲点を探る」

12日の日本経済新聞朝刊経済面に載った「少子化対策 盲点を探る(下)減りゆく産婦人科 安心の出産・育児 遠く」という記事は、いくつか引っかかる点があった。まずは事例の使い方だ。
鮎川港(宮城県石巻市)※写真と本文は無関係です

冒頭の事例を見てみよう。

【日経の記事】

「えっ、あの産婦人科もうなくなっちゃったんだ」。里帰り出産を希望していた都内の30代女性は、茨城県の実家近くの産婦人科がすべて閉院したと聞いて驚いた。茨城県は産科医の数が全都道府県で9番目に少ない。仕方なく都内の病院で産むことを決めた。「親が近くにいたほうが安心できたけど仕方がない」



◎「近く」とは?

筆者の佐藤初姫記者は「茨城県では里帰り出産も難しいほど産婦人科が少ない」と訴えたいのだろう。だが、この事例では何とも言えない。

まず「実家近く」の範囲が不明だ。最寄りの「産婦人科」まで50キロメートル以上あるのならば「里帰り出産」をためらうのも分かる。しかし「茨城県」ではちょっと考えにくい。

実家近く」が徒歩圏内であれば「産婦人科がすべて閉院」している場合もあるだろう。しかし、それで「里帰り出産」を諦めたのならば同情する気にはなれない。

実家」の市町村名などを明らかにしていない点などから推測すると、大したことのない話を大げさに書いたのではないか。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

妊娠から出産後の乳幼児健診まで数年間にわたり妊婦と並走する産婦人科医は、いわば母子の「かかりつけ医」だ。だが厚生労働省によると、全国の産婦人科や産科の病院数は2017年10月時点で1313施設と、統計を取り始めた1972年以降で最少となった。減少は27年連続だ。

少子化が進んだ地方で産科の集約が進んだことなどが影響しているという。近隣の産科が減り、残った産科医の労働環境が過酷になる状況も生じた。

特に分娩を扱う産科医は24時間体制で出産に備え、他の診療科と比べても長時間労働の傾向がある。筑波大学の石川雅俊氏らの調査では、産科医の66%で時間外労働が過労死水準の年960時間を超え、27%は年1920時間以上にのぼった。出産年齢の上昇で死産率が上がり、合併症などを引き起こす「ハイリスク妊娠」も増えた。医師の負担は増している。


◎産婦人科は増やすべき?

記事のテーマは「少子化対策 盲点を探る」だ。佐藤記者は「減りゆく産婦人科」を問題視しているので「産婦人科」を増やせば「少子化対策」になるとみているのだろう。

しかし、その根拠は示していない。「少子化が進んだ地方で産科の集約が進んだことなどが影響している」と言うが、だったら「産科」が多い東京は出生率が高いのか。

出産する上で「産婦人科」が近くにあった方が便利だとは思う。しかし「産婦人科」が近くにあるかどうかで子供を持つかどうかを決める人は極めて稀ではないか。もちろんこれは推測だ。佐藤記者が「違う」と確信できるのならば、「産婦人科」を増やすと出生率が上向くという根拠を示してほしかった。

もう1つ事例の問題を見ておく。

【日経の記事】

厚労省もこうした状況を踏まえ、産婦人科医を取り巻く環境を改善することを検討している。長時間労働を減らす働き方改革の推進に加え、妊婦の診療料を上乗せする「妊婦加算」制度を18年に導入した。だがコンタクトレンズの処方などでも上乗せできる仕組みだったために「少子化対策に逆行する」との批判が噴出。凍結を余儀なくされるなど対策は迷走気味だ。

「リスクがゼロと言い切れない以上、うちでは薬を処方できません」。東京・世田谷に住む20代の妊娠中の女性は、風邪で高熱を出して受診した内科で医師にこう拒まれた。「どうしても体調が優れない場合には産婦人科を受診してください」と言われ、結局、診察料だけを支払って帰った。

妊婦加算は本来、妊婦への投薬や治療で丁寧な診察を促す狙いがあった。凍結後に開かれた厚労省の検討会も「質の高い診療やこれまで十分に行われてこなかった取り組みを評価・推進することは必要」との結論で一致した。手法を変えて報酬を上乗せする仕組みづくりを検討している。

ただ報酬面で手当てしても産婦人科医に負担が集中する状況が変わらなければ、問題の解決にはつながらない。検討会では、妊産婦を診療した経験が少なかったり、投薬について正確に判断する自信がなかったりするなど、「妊産婦の診療に積極的でない医師や医療機関が一定数存在する」との課題が指摘された。

子どもが減り、産科も減る。負の循環に歯止めをかけるには、病院や地域が連携して安心して子どもを産み育てられる環境をつくることも欠かせない


◎「世田谷」の事例は何が問題?

東京・世田谷に住む20代の妊娠中の女性」の事例は何が問題なのかよく分からない。
御番所公園展望台(宮城県石巻市)※写真と本文は無関係

妊婦加算」の問題と絡めていると取れるが、「東京・世田谷に住む20代の妊娠中の女性」の話が「凍結」前なのか後なのか説明がない。

凍結」前の話だとしても「薬を処方できません」という医師の判断に問題があったと言える材料は見当たらない。

佐藤記者は「処方されるべきなのに、そうならなかった」と見ているのだろう。しかし「風邪」は薬では治らないとも言われる。百歩譲って薬を処方すべき症状だとしても、それは「東京・世田谷に住む20代の妊娠中の女性」がどんな状況にあって、何の薬を求めたのかによる。

例えば解熱剤を求めたとしても「この症状ならば解熱剤は必要ない。副作用のリスクの方が大きい」と医師が判断したのならば「薬を処方できません」との判断に至るのは当然だ。

「医療の常識からすれば処方するのが当然」と佐藤記者が見ているのならば、その根拠を示すべきだ。

子どもが減り、産科も減る。負の循環に歯止めをかけるには、病院や地域が連携して安心して子どもを産み育てられる環境をつくることも欠かせない」という結びも感心しない。こんな漠然とした結論しか導けないのならば、記事を書く意味は乏しい。


※今回取り上げた記事「少子化対策 盲点を探る(下)減りゆく産婦人科 安心の出産・育児 遠く
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190712&ng=DGKKZO47257250R10C19A7EE8000


※記事の評価はD(問題あり)。佐藤初姫記者への評価はDを据え置く。佐藤記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

保険料抜きで就業不能保険の実力探る日経 佐藤初姫記者
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/12/blog-post_17.html

1 件のコメント:

  1. お腹がくちくなったら、眠り薬にどうぞ。
    歴史探偵の気分になれるウェブ小説を知ってますか。 グーグルやスマホで「北円堂の秘密」とネット検索するとヒットし、小一時間で読めます。北円堂は古都奈良・興福寺の八角円堂です。 その1からラストまで無料です。夢殿と同じ八角形の北円堂を知らない人が多いですね。順に読めば歴史の扉が開き感動に包まれます。重複、 既読ならご免なさい。お仕事のリフレッシュや脳トレにも最適です。物語が観光地に絡むと興味が倍増します。平城京遷都を主導した聖武天皇の外祖父が登場します。古代の政治家の小説です。気が向いたらお読み下さいませ。(奈良のはじまりの歴史は面白いです。日本史の要ですね。)

    読み通すには一頑張りが必要かも。
    読めば日本史の盲点に気付くでしょう。
    ネット小説も面白いです。

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