2019年7月6日土曜日

「他者の説明責任に厳しく自分に甘く」が残念な出口治明APU学長

他者に説明責任を求める者は自らの説明責任もきちんと果たすべきだ--。この主張に異論を唱える人は稀だろう。しかし、多くの人は「他者に厳しく自分に甘く」となってしまう。
瑞鳳殿(仙台市)※写真と本文は無関係です

これからの組織はパワハラに限らず、組織における言動が全て明るみに出ても、何一つ恥じることなく経営説明責任が果たせるようにしなければならない」と日本経済新聞の記事で訴えていた立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明氏も、自らの説明責任にはやはり寛大なようだ。

間違い指摘に対し回答は届いたが「間違いかどうか」には言及せず逃げている。

問い合わせと回答は以下の通り。


【立命館アジア太平洋大学への問い合わせ】

立命館アジア太平洋大学学長 出口治明様

1日の日本経済新聞朝刊女性面に載った「ダイバーシティ進化論~パワハラ防止法が成立 共感得られる言動を」という記事についてお尋ねします。

記事には「かつて阪神タイガースの江本孟紀投手が『ベンチがアホやから野球がでけへん!』と監督に言って、現役を引退した」との記述があります。

 一方、2018年5月4日付のAERAdot.の記事では江本氏が当時を以下のように振り返っています。

『アホやから』発言があったのは、81年8月26日、ヤクルト戦です。この年は先発とリリーフで都合よく使われていて、不満もたまっていました。それでも、この日は『絶対に勝つ』と燃えていました。それが、4-2で勝っていた8回に、ツーアウト2、3塁でピンチを迎えた。すかさず内野陣がマウンドに集まる。敬遠か、勝負か、それとも投手交代か。中西太監督の指示を仰ごうとベンチを見ると…… 姿が消えていた。ベンチの意志は分からぬまま。結局打たれて同点。そこで交代となり、ロッカールームへ引きあげる時に、周囲の人を気にせずに『何考えとんねん!アホか!』と怒鳴ってしまいました。これが記者の耳に入った。すると、翌日の紙面には『ベンチがアホやから野球がでけへん』との見出しになってしまった。これが発言の真相です

ベンチがアホやから」発言に関する他の記事を見ても、基本的に上記の内容と同様です。だとすると江本氏の「ベンチがアホやから野球がでけへん!」は独り言に近いもので、「監督に」向かっては言っていないはずです。

『ベンチがアホやから野球がでけへん!』と監督に言って」との説明は誤りではありませんか。問題なしのと判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

これからの組織はパワハラに限らず、組織における言動が全て明るみに出ても、何一つ恥じることなく経営説明責任が果たせるようにしなければならない。コンプライアンスとは、法令順守のような狭い意味ではないのだ」と記事の中で出口様は訴えています。ならば、江本氏の名誉にも関わる今回の件で「説明責任」を果たさない選択はないはずです。

記事の中で他に気になった点を記しておきます。以下のくだりについてです。

「(パワハラを)起こさないため、上司は家族や恋人に接するように部下に接してみてはどうか。家族や恋人に言わないようなことを、部下に言っていいはずがない。自分の言動がどこに出ても恥ずかしくないものであれば何の問題もないのだ

この手の助言を時々目にしますが、意味があるのでしょうか。部下に「おいコラ」「バカ!」と言うような「パワハラ上司」であっても「家族や恋人」にはそういう発言はしないとの前提が出口様にはありそうです。

しかし、自分の子供に向かって「バカ!」と言う人は「パワハラ上司」に限らず珍しくないでしょう。「パワハラ上司」ならば、なおさらです。

今回の助言はむしろ逆効果かもしれません。記事の説明だと、「家族や恋人」に言うようなことならば「部下に言っていい」とも取れます。それは「パワハラ」を正当化する材料にもなります。

さらに言えば、「恋人に接するように部下に接して」みる場合、セクハラの問題が出てきます。新たに赴任してきた男性部長が部下を前に「私は恋人に接するように部下に接します」と宣言したら、女性の部下はどう感じるでしょうか。

出口様のような著名な方が日本経済新聞という影響力の大きなメディアを通じて自らの考えを発信するのであれば、事実関係も含め内容を慎重に検討すべきです。今回の記事に関しては、それが十分にできていないと感じました。


【出口氏からの回答】

鹿毛さま

僕の記事につき、貴重なご意見をいただき本当にありがとうございました。いただいたアドバイスは参考にさせていただきます。良かったら、一度、APUにお訪ねください。いろいろお話を聞かせていただきたいです。これからもよろしくお願いいたします。

出口

◇   ◇   ◇

かつて阪神タイガースの江本孟紀投手が『ベンチがアホやから野球がでけへん!』と監督に言って、現役を引退した」との記述に誤りがあれば認めて訂正などの対応を取ればいい。誤りではないとの考えならば、その根拠を示せばいい。簡単な話だ。しかし「いただいたアドバイスは参考にさせていただきます」で逃げてしまっている。

今回、日経へもほぼ同じ内容の問い合わせを送っており日経からの回答はない。推測だが、日経は問い合わせがあったことも出口氏には伝えていない気がする。

出口氏が返信した点は評価するものの、上記の内容で説明責任を果たしたとは言えない。APUの学長としてこれで学生に模範を示したと出口氏は考えるのか。「学長も偉そうなことを言っている割に、自分のミスを指摘された時には逃げるんだな」と思われてもいいから質問には答えたくない。そういうことなのだろう。


※今回取り上げた記事「ダイバーシティ進化論~パワハラ防止法が成立 共感得られる言動を
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190701&ng=DGKKZO46714400Y9A620C1TY5000


※記事の評価はD(問題あり)。出口治明氏への評価は暫定C(平均的)から暫定Dに引き下げる。出口氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

女性「クオータ制」は素晴らしい? 日経女性面記事への疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/04/blog-post_18.html

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