2018年5月12日土曜日

「ESG投資」で肝心の情報をぼかす日経 太田明広記者の罪

日本経済新聞の太田明広記者は金融業界の側に立って記事を書くタイプなのだろう。12日朝刊のマネー&インベストメント面に載った「ESG投資 個人も注目~情報開示進み商品充実」という記事を読む限り、そう判断するしかない。「ESG投資」について「これまでは機関投資家が中心だったが、個人投資家にもじわり浸透し始めた」と太田記者は言うが、「個人投資家についても『昨年からESG投資に関する問い合わせが増えている』(野村証券の上田謙佑商品企画課長)」といった漠然とした根拠しか示していない。

この記事には他にも色々と問題を感じた。中身を見た上で具体的に指摘してみる。
流川桜並木(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

専門家が複数の企業を束ねて運用する投資信託を購入するのも手だ。1社に投資するよりもリスク分散できる効果もある。日興アセットマネジメントが運用する投信「日興エコファンド」は、環境問題への対応力に優れた日本企業に投資している。4月末時点でトヨタ自動車や三井住友フィナンシャルグループなど83社を組み入れている。

アムンディ・ジャパンの「アムンディ・ターゲット・ジャパン・ファンド」は、実際の資産価値と比べて株価が割安な企業を投資対象とする。対話を通じて企業価値の向上を促し、投資リターンを高める狙いだ。3月末時点でトッパン・フォームズや日本電気硝子などを組み入れている。

新たな商品も増えている。大和証券投資信託委託は昨年9月、「女性活躍」など3つの日本株ESG指数に連動する上場投資信託(ETF)を上場した。株式のように、取引時間中ならいつでも売買できる。

環境に配慮した事業に資金の使い道を限定した債券である「グリーンボンド(環境債)」を購入する手もある。東京都は昨年12月、個人向けの環境債を約100億円発行した。豪ドル建ての5年債(利率は年2.55%)で、調達した資金は道路照明の発光ダイオード(LED)への切り替えなどに充てる。

ではこうした商品の肝心の運用成績はどうなのかリターンは商品によってばらつきがあるが、表Bではここ3年ほどの成績がプラスの投信を主に掲載した

過去3年間の基準価格をみると、「女性活躍応援ファンド」は2.1倍に上昇した。働く女性の増加が収益拡大につながる求人サイト運営のディップなどの銘柄を、4月末時点で上位に組み入れている。「アムンディ・ターゲット」は31%上昇。いずれの商品も代表的な株価指数であるTOPIX(東証株価指数)の11%を上回っている(図C)。ESG投資への関心が高まり、取り組みに熱心な企業に資金が流入していることも影響しているようだ。



◎「肝心の運用成績」から逃げてない?

ではこうした商品の肝心の運用成績はどうなのか」と書いているので、「ESG投資が運用手法として優れているのか説明が出てくる」と期待してしまうが、太田記者は見事に裏切ってくれる。
九州鉄道記念館(北九州市)※写真と本文は無関係です

リターンは商品によってばらつきがあるが、表Bではここ3年ほどの成績がプラスの投信を主に掲載した」という。「ESG投資でも運用成績はまちまちです。ここでは良かったやつだけ紹介しますね」と言われても困る。ESG投資は全体として市場平均を上回る成績を上げてきたのかどうかは触れるべきだ。

ESG投資全体で見れば市場平均と大差はないのだろう。金融業界の側に立つ太田記者としては、それでは困るので「成績がプラスの投信を主に掲載」する選択をしたのだと推測できる。

しかも、運用成績が良かった投信だけを取り上げて「ESG投資への関心が高まり、取り組みに熱心な企業に資金が流入していることも影響しているようだ」と書くのにも問題を感じる。「リターンは商品によってばらつきがある」のだから、リターンが芳しくない商品もあるはずだ。

太田記者のやり方で良ければ、成績の良くない投信を並べて「ESG投資への関心が高まらず、取り組みに熱心な企業に資金が流入しにくいことも影響しているようだ」とも書ける。記事の説明はあまりにご都合主義的だ。

記事には、ESG投資に関する注意点も盛り込んではいる。これにも問題を感じた。

【日経の記事】

一方、注意すべき点もある。ESGによる企業選定に世界共通の基準は無く、似たようなテーマの投信でも組み入れる銘柄はそれぞれ異なる。ニッセイアセットマネジメントの林寿和氏は「イメージ向上を狙う企業がPR活動に注力した場合、ESGで高い評価を受けてしまうような可能性もある」と指摘する。

投信の目論見書などの資料を参考に、運用会社がどんな企業にどんな方針で投資しているか、点検する必要がある。投資の最終的なリターンは、運用会社の選別眼に左右される面もあることには留意したい。


◎コストの高さになぜ触れない?

記事では「主なESG関連の投資信託」として6本を紹介している。その信託報酬は1.57~1.92%とかなり高い。例えば「朝日ライフSRI社会貢献ファンド」では、信託報酬が1.92%で販売手数料が3.24%(いずれも税込み)。投資した最初の年に投資額の5%超を手数料として取られる計算だ。もっと低コストの投信はいくらでもある。

ゆえに、記事で紹介した6本は検討に値しない投信だと思う。太田記者がどうしてもこうした投信を並べて紹介したいのならば、記事中で「高コスト」であることは明言してほしい。表に信託報酬の年率を入れているのが救いではあるが、投資初心者はこれだけでは高コストだと理解できない可能性が高い。

太田記者は今後も金融業界に寄り添った投資関連記事を書いていくのだろう。だとしても、もう少し読者(投資家)に配慮してもいいのではないか。マネー&インベストメント面は本来、投資などに関して読者に役立つ情報を提供する紙面のはずだ。



※今回取り上げた記事「ESG投資 個人も注目~情報開示進み商品充実
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180512&ng=DGKKZO30363440R10C18A5PPE000

※記事の評価はD(問題あり)。太田明広記者への評価も暫定でDとする。

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