2018年5月13日日曜日

行数埋めただけの 日経 大場俊介次長「風見鶏~清和会がつなぐ人口問題」

「訴えたいことがないなら書かないで」とお願いしたくなるような記事が13日の日本経済新聞朝刊総合3面に出ていた。「風見鶏~清和会がつなぐ人口問題」というその記事では「国際人口問題議員懇談会」の会長ポストを「清和会」で占めてきたことを延々と説明するものの、必要性がほとんど感じられない。「行数を埋めるためにひたすらダラダラ書いてみました」とでも言うべき中身だ。
南蔵院の釈迦涅槃像(福岡県篠栗町)※写真と本文は無関係

筆者は大場俊介政治部次長。そのダラダラぶりをまずは見ていこう。

【日経の記事】

南北首脳会談に続き、初の米朝首脳会談のシンガポール開催が決まるなど北朝鮮を巡る首脳外交がかまびすしい。戦後の残された課題が動きだす一方、深刻さが変わらない問題もある。人口減少だ。

 福田康夫元首相は4月の講演で「人口が減っても経済は成長するなんて夢のようなことを言う人もいるが、もう少し現実的に考えた方がいい」と訴えた。「国会で議論してほしいがまったくない。これでは日本の将来は暗い」と厳しい。国際人口問題議員懇談会の名誉会長を務める。

同懇談会が設立されたのは1974年。ローマクラブが人口増を背景に人類の危機を訴えた報告書「成長の限界」を発表してから2年後のことだ。

初代会長は安倍晋三首相の祖父、岸信介元首相。人口の急増が途上国の経済発展の大きな妨げになっているとして、自身を団長に国会議員有志でアジアの人口事情を視察したのがきっかけだった。

先進国の多くは、出生率も死亡率も高い多産多死から、どちらも低い少産少死に移る「人口転換」を経験する。その過程で、出生率が高いまま死亡率だけが低下する多産少死の時期がある。それで日本は奇跡的な高度経済成長を遂げた。岸氏が首相を務めたのはそんな時代だった。

2代目会長を継いだのは福田赳夫元首相。康夫氏の父である。赳夫氏が首相の時代も日本はまだ人口が増え、安定成長期だった。

首相を退いた後の83年に西ドイツのシュミット元首相らとともに「OBサミット」を創設。主要国の大統領や首相経験者らが集まり、安全保障や人口、開発、環境など地球規模の問題を議論した。95年7月に死去する2カ月前の東京総会でも、人口増と食糧供給の均衡などについて熱弁を振るった。

3代目会長は安倍首相の父、晋太郎元外相。4代目は中山太郎元外相、5代目が福田康夫氏だ。

その後、谷垣禎一前自民党幹事長が会長を務めたが、それまでは現在の自民党最大派閥である清和政策研究会(現細田派)の系譜でつないできた。同派は福田赳夫氏が首相退陣後の79年に命名した「清和会」が起源。首相や森喜朗元首相の出身派閥でもある。

岸氏や赳夫氏が経験した人口増の時代は終わり、日本はその後、人口減という新たな段階に突入した。

◇   ◇   ◇

やっと「国際人口問題議員懇談会」と「清和会」の関係の説明が終わった。これだけの行数を割いたのだから、これと絡めて「人口問題」を論じてくれるのだろうと思ってしまう。しかし、そうはならない。続きを見ていこう。

【日経の記事】

2014年5月に民間有識者らの日本創成会議が全国の市区町村の半数を「消滅可能性都市」とする提言を発表。安倍政権はこれをきっかけに、地方創生を政権の目玉に位置づけた。

だが目に見えやすい子育て支援とは違い、人口減対策は効果が出るまで時間がかかる。

政府は新型交付金制度を創設したが、一千兆円を超す借金を抱えながらでは限界がある。首相は外国人労働者の受け入れ拡大について今年の夏に方向性を示す意向だが、単純労働者でなくあくまで一定のスキルを持つ人が対象。「移民政策はとらない」としている。

地方の人口減の裏返しでもある東京一極集中は、是正の掛け声もむなしく加速している。東京で大地震が起きたら経済活動は壊滅的な打撃を受けるのは間違いない。

◇   ◇   ◇

安倍政権」に関して「地方創生を政権の目玉に位置づけた」「移民政策はとらない」などと記した上で、「人口減対策は効果が出るまで時間がかかる」「東京で大地震が起きたら経済活動は壊滅的な打撃を受けるのは間違いない」などと記している。異論はないが、ごく当たり前のことを言っているだけだ。
宇佐神宮(大分県宇佐市)※写真と本文は無関係です

この程度の話をしたいのならば、「清和会」と「国際人口問題議員懇談会」の関係を延々と振り返る必要はない。長々とした説明が正当化されるためには「このことを訴えるには、やはり紙幅を割いて過去の経緯を説明しないと無理だな」と読者を納得させなければならない。だが、今回の記事内容ならば「清和会」と「国際人口問題議員懇談会」の話は基本的に不要だ。

記事の最後は以下のようになっている。

【日経の記事】

人口減を食い止められなければ、それを前提に国の「体質」を変えていくしかない。ではどうしたらいいのか。

福田氏に聞いた。「将来が不安なのは指針がないからだ。政治が考えて官僚に指示しなくてはいけない。清和会という派閥次元の問題ではなく、すべての政治家の責任だ

◇   ◇   ◇

清和会という派閥次元の問題ではなく、すべての政治家の責任だ」と言うのが結論ならば、なおさら「清和会」と「国際人口問題議員懇談会」の関係をダラダラと振り返る意味はない。国会議員は人口問題に関心が薄く、真面目に考えているのは「清和会」関連の議員だけといった事情がもしあるのなら、その実態を伝えるべきだ。

人口問題」に関して「政治家がもっとしっかり考えなきゃ」とでも大場次長は訴えたかったのだろうか。そんな、誰でも言えるような具体性の乏しい主張をする上で、「清和会」と「国際人口問題議員懇談会」の関係を長々と説明する意義があったのか。答えは明らかだ。

福田康夫元首相」に「人口問題」で話を聞いて「風見鶏」の記事を作り上げられないかと大場次長は思い付いたのだろう。だが、福田氏からはこれと言ったコメントが得られなかった。自分自身にも特に訴えたいことはない。だから「清和会」と「国際人口問題議員懇談会」の話をダラダラと書いて、後はよく聞くような一般論を述べて一丁上がりとしたのだろう。

気持ちは分からなくもない。だが、書き手としては落第点しか与えられない。大場次長は政治部内でそれなりの力があるはずだ。「書きたいことがある人間に『風見鶏』を当てる」という仕組みをぜひ作ってほしい。「そんな仕組みにしたら、書く人はいなくなっちゃうよ」と言いたくなるかもしれない。だとしたら「風見鶏」自体を終わりにすべきだ。


※今回取り上げた記事「風見鶏~清和会がつなぐ人口問題
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180513&ng=DGKKZO30319770Q8A510C1EA3000

※記事の評価はD(問題あり)。大場俊介政治部次長への評価も暫定でDとする。

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