2018年5月10日木曜日

国債買い入れまだ減ってない? 日経ビジネスの誤解

日経ビジネス5月7日号の「時事深層 POLICY~『出口』への隘路、さらに険しく 黒田日銀、2期目の現実」という記事は引っかかる点が2つあった。「金融機関の関係者を除けば日銀による金融緩和の効果を真っ向から否定する人はいないのか」「日銀はまだ国債買い入れの減額に動いていないのか」という問題だ。記事を信じれば答えはいずれもイエスとなるが、どうも怪しい。筆者らに送った問い合わせと、それに対する回答は以下の通り。
島原武家屋敷街(長崎県島原市)※写真と本文は無関係

【日経BP社への問い合わせ】 

日経ビジネス編集部 山田宏逸様 田村賢司様

5月7日号の「時事深層 POLICY~『出口』への隘路、さらに険しく 黒田日銀、2期目の現実」という記事についてお尋ねします。

まず「マイナス金利で体力をすり減らす金融機関を除けば、日銀による金融緩和の効果を真っ向から否定する人はいないだろう」との記述に関してです。これは多数いるのではありませんか。私もその1人ですが、それでは説得力に欠けるので著名人で例を挙げます。野口悠紀雄氏です。同氏は安倍政権誕生による金融緩和への期待が高まっていた2013年1月に「金融緩和で日本は破綻する」という本を書いています。

その後も異次元緩和には一貫して否定的で、17年10月には日本経済新聞出版社から「異次元緩和の終焉~金融緩和政策からの出口はあるのか」という書籍も出しています。同社のホームページで書籍紹介を見ると、異次元緩和について「基本的には、経済の基本を改善せず、国債市場を歪めただけの結果に終わった」と述べているようです。

野口氏は「(金融機関以外で)日銀による金融緩和の効果を真っ向から否定する人」と言えるのではありませんか。

次に「機を見て国債買い入れを減らす、機を見てETF(上場投資信託)の買い入れを減らす。機を見て10年債金利を誘導目標から外す……。想像可能な出口の作法はいくつかある」との記述を取り上げます。

記事からは「まだ日銀は国債買い入れの減額に動いていない」と読み取れます。しかし、日銀が国債の買い入れを減らしているのは広く知られた話です。日経でも4月18日付の「日銀ウオッチ『80兆円めど』乖離広がる」という記事では以下のように記しています。

3月末時点で、日銀が保有する長期国債は前年同月に比べて49兆4233億円の増加にとどまった。増加額は13カ月連続で縮小し、2013年4月に量的・質的金融緩和を始めた時に掲げた『年間50兆円ペース』をついに下回った

増加額は16年ごろには80兆円規模に達していました。買い入れは既に減らしているのではありませんか。「80兆円めど」という国債増加額の方針に関して下方修正するという意味かなとも考えましたが、そうは書いていません。ここは、どう理解すればよいのでしょうか。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願いします。


【日経BP社の回答】

弊誌「日経ビジネス」をご愛読いただき、誠にありがとうございます。5月7日号の時事深層「黒田日銀、2期目の現実~『出口』への隘路、さらに険しく」に問い合わせいただいた件につきまして、回答いたします。

◆「金融緩和の効果」をめぐって「真っ向から否定する人はいない」との表現について

一般論として、金融緩和の結果として円安となり、輸出産業の採算改善、また日本の株高につながったとの見方は多いかと思います。そうした前提で、このような表現といたしました。ご指摘の野口氏も自身のウェブサイトで「緩和の影響は、株価が上昇し、為替レートが円安になったことだけだった」としています。ただ、それが国債市場の歪みなど、様々な弊害をもたらしているとの批判が多く聞かれるのもご指摘の通りです。本記事もそれを踏まえ、緩和からの「出口」の難しさについてまとめた次第です。おっしゃるように「金融緩和の効果」が本当の経済の強さにつながっているとの観点では疑問が持たれているかと思いますので、より的確に表現する余地はあったかと考えております。

◆「機を見て国債買い入れを減らす、機を見てETF(上場投資信託)の買い入れを減らす。機を見て10年債金利を誘導目標から外す……。想像可能な出口の作法はいくつかある」とした表現について

国債買い入れが80兆円ペースを下回る月があるのはご指摘の通りです。ただ、日銀は年間80兆円ペースでの買い入れという政策は依然として掲げたままです。本誌としましては、日銀が明確に減額のアナウンスをした上で買い入れを減らすということを念頭にこうした記述といたしました。ご指摘のような解釈も可能かと思いますので、以後、表現に十分に気を付け、より具体的な表現にしていきたいと考えます。

◇   ◇   ◇

回答の内容は基本的にこれで良いと思える。付け加えると、野口氏は「緩和の影響は、株価が上昇し、為替レートが円安になったことだけだった」と言っているかもしれないが、金融緩和によって円安・株高が実現したことを前向きに評価している訳ではない。

著書で野口氏はこう述べている「実際に円安と株高が実現した。問題はそれが実体経済を動かさなかったことである」。「円安・株高の実現は評価できるが、それ以外のマイナスが目立つのでダメ」と言っているのではない。「円安・株高に実体経済を良くする効果がなかったのでダメ」との趣旨だ。

やはり、野口氏に関しては「日銀による金融緩和の効果を真っ向から否定」していると見る方が自然だ。


※今回取り上げた記事「時事深層 POLICY~『出口』への隘路、さらに険しく 黒田日銀、2期目の現実
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/depth/042701026/?ST=pc


※記事の評価はD(問題あり)。山田宏逸記者への評価は暫定でDとする。田村賢司主任編集委員への評価はDを維持する。

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