2020年5月31日日曜日

「給付金申請しない」宣言の底意が透ける日経 大石格編集委員「風見鶏」

31日の日本経済新聞朝刊総合3面に載った「風見鶏~高所得者とは誰のことか」という記事では、筆者の大石格編集委員が「一律10万円の特別定額給付金」もらいませんアピールをしているのが引っかかった。これに関して冒頭で以下のように説明している。
グラバー園の旧スチイル記念学校(長崎市)
          ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

一律10万円の特別定額給付金の申請はお済みだろうか。私事になるが、あれやこれや思い悩み、申請しないことにした。

「将来世代に借金を残さない」と胸をはれるほど、殊勝な心がけというわけではない。定年間近なので、老後を考えれば、カネがあるに越したことはない。来年だったならば、大手を振って申請しただろう。

要するに「一律支給ではなく、所得制限を設けるべきだ」との論陣を張った手前、そのくせおまえはもらうのかよ、などと悪意ある書き込みをSNS(交流サイト)にされたら嫌だなというのが本音である


◎2つの疑問が…

この説明が成り立つためには2つの条件がある。まず、大石編集委員が「『一律支給ではなく、所得制限を設けるべきだ』との論陣を張った」という事実が知られていること。さらに大石編集委員が「申請した」かどうかが「悪意ある書き込み」をする人に容易に知られること。いずれも大石編集委員が黙っていればバレないと思える。

論陣を張った」と書いているので、大石編集委員の署名入り記事を調べてみたが、それらしきものはない。社説のことを言っていると推察できる。社説であれば、筆者が誰かを知るのはかなり困難だ。

「会社としてそういう主張をしていて、自分もその一員なのだから…」という反論は考えられる。だが「個人としては『所得制限を設けるべきだ』との主張に反対」と言って「申請」すれば済む。

さらに言えば「申請した」かどうかは、本人が明かさない限り簡単には分からない(役所や家族から情報が漏れる可能性はある)。「悪意ある書き込み」が嫌ならば、「申請した」かどうかを言わなければ済む。

なのになぜ「申請しないことにした」と宣言したのか。「『一律支給ではなく、所得制限を設けるべきだ』との論陣を張った」身として、ちゃんと自分は「申請」を見送ったとアピールしたかったのだろう。底意が透けて見えている。

記事には他にも気になる点がある。続きを見ていこう。

【日経の記事】

知名度ゼロの筆者でもそう思うのだから、いの一番にやり玉にあがりそうな自民党が「給付金は受け取らない」と決めたのは賢明な立ち回りといってよい。

国会議員は毎年、歳費と文書通信交通滞在費と立法事務費を合計して、約4000万円を支給される。目下、若干減額中だが、給付金を受け取れば「金持ちのくせに」と批判されるのは目に見えている

このところの文春砲のさく裂ぶりからして「臆面もなく10万円を手にした政治家たち」という記事が載っても不思議ではない

2004年に年金保険料の未払い騒動があり、福田康夫官房長官や菅直人民主党代表のクビが飛んだ。カネ目の話は炎上しやすい。報道のかなりの部分は誤解だったのだが、渦中にどう釈明しても耳を貸してもらえなかった。


◎いきなり「文春砲」

注釈なしに、いきなり「文春砲」と書くのは感心しない。俗語の使用は慎重にすべきだ。

このところの文春砲のさく裂ぶりからして『臆面もなく10万円を手にした政治家たち』という記事が載っても不思議ではない」と他人事のように語っているのも気になる。

給付金を受け取れば『金持ちのくせに』と批判されるのは目に見えている」としたら、日経はどうすべきなのか。「批判」に加わらなくていいのか。あるいは擁護に回るのか。「文春」に任せるべき問題とも思えない。

さらに記事を見ていこう。

【日経の記事】

では、どれくらい収入があれば高所得者なのか。なかなか難しい問題だ。リーマン危機後の09年に定額給付金を配ったときも百家争鳴となった。

与謝野馨経済財政相は配るのは「年収1000万円未満」と提案し、河村建夫官房長官は1500万円未満を「ひとつの案」と発言した。自民党では「地域の実情に応じて都道府県が判断」という声が出たが、責任丸投げに怒った知事たちの反発もあり、最後は所得制限なしで決着した。

支給対象が困窮世帯から一律へ急転した今回のドタバタ劇は、まるでこのときのビデオを再生しているかのようだった。


◎「難しい」で終わり?

今回の記事のテーマは「高所得者とは誰のことか」だ。なのに「では、どれくらい収入があれば高所得者なのか。なかなか難しい問題だ」で逃げている。「だったら記事は書かない方が…」と言いたくなる。

そして昔話が始まる。「風見鶏」にありがちなパターンだ。上記のくだりでは「リーマン危機後の09年に定額給付金を配ったとき」を振り返る。さらに続く昔話も見ておこう。

【日経の記事】

もうひとつ思い出したことがある。1983年の今ごろ、街中でこんな歌をよく耳にした。

●(庵点)鈴木も佐藤も寄っといで

●(庵点)祭りだ祭りだまつりごと

●(庵点)よそさま脱税あたり前

●(庵点)庶民は税金ガラス張り

作詞はのちに映画「私をスキーに連れてって」をヒットさせる脚本家の一色伸幸さん。参院選に名乗りをあげたサラリーマン新党のキャンペーンソングだ。

勤め人は源泉徴収でがっちり徴税されるのに、自己申告の自営業や農家は収入をごまかしているのではないか。業種別の所得捕捉率をもじって、トーゴーサンやクロヨンという言い回しが飛び交っていた。

自営業や農家を支持基盤とする自民党は捕捉率向上に動こうとはしなかった。89年に消費税を導入した際、所得税の比率が下がったので大した不公平ではなくなったという話になり、サラ新は勢いを失い、間もなく消えていった。


◎昔話に紙幅を割くより…

ダラダラと昔話をする余裕があるのならば「高所得者とは誰のことか」をしっかり論じてほしかった。しかし大石編集委員にそのつもりはなさそうだ。記事を読む限り、この件で新たに取材した形跡も見当たらない。

終盤も見ておく。

【日経の記事】

日本経済にとって自営業者が大事な存在なのはその通りだが、だから所得捕捉が曇りガラスでよいというのはおかしな話だ。きちんと把握したうえで、必要ならば税の減免措置を広げるのが筋だろう。

所得格差の拡大もあり、行政が補助を出す機会は近年、増えている。学校の授業料や給食代などなど。本当の金持ちは誰なのか。それを見極められないまま、所得制限うんぬんを議論していても意味がないのではなかろうか



◎「所得制限うんぬん」の議論に「意味がない」?

最後は自分で自分たちの主張を否定するような話になっている。「本当の金持ちは誰なのか。それを見極められないまま、所得制限うんぬんを議論していても意味がないのではなかろうか」と大石編集委員は言う。

だったら「『一律支給ではなく、所得制限を設けるべきだ』との論陣を張った」ことも無意味ななずだ。

やはり大石編集委員は書き手として資質に欠ける。「定年間近」らしいが、定年後は記事を書かない道を歩んでほしい。


※今回取り上げた記事「風見鶏~高所得者とは誰のことか
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200531&ng=DGKKZO59798490Q0A530C2EA3000


※記事の評価はD(問題あり)。大石格編集委員への評価もDを維持する。大石編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

日経 大石格編集委員は東アジア情勢が分かってる?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_12.html

ミサイル数発で「おしまい」と日経 大石格編集委員は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_86.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_15.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_16.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_89.html

どこに「オバマの中国観」?日経 大石格編集委員「風見鶏」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_22.html

「日米同盟が大事」の根拠を示せず 日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_41.html

大石格編集委員の限界感じる日経「対決型政治に限界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_70.html

「リベラルとは何か」をまともに論じない日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_30.html

具体策なしに「現実主義」を求める日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_4.html

自慢話の前に日経 大石格編集委員が「風見鶏」で書くべきこと
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_40.html

米国出張はほぼ物見遊山? 日経 大石格編集委員「検証・中間選挙」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_18.html

自衛隊の人手不足に関する分析が雑な日経 大石格編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_27.html

2020年5月30日土曜日

「ネットと民主主義 深まる相克」に説得力欠く日経 村山恵一氏

本社コメンテーター」の肩書を持つ日本経済新聞の書き手で最も問題が少ないと評価してきたのが村山恵一氏だが、最近は苦しい内容の記事も散見される。30日の朝刊総合2面に載った「ネットと民主主義 深まる相克~トランプ氏、SNS規制へ大統領令」という記事にも説得力は感じなかった。
藤波ダム(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

ネットと民主主義」で本当に「相克」が深まっているのか。記事を見ていこう。

【日経の記事】

トランプ米大統領が28日、ツイッターなどSNS(交流サイト)の規制強化に向けた大統領令に署名した。SNSの運営会社が投稿内容に介入するのをけん制する狙いがある。民主主義を強固なものにすると熱狂的に迎えられたはずのネット。世論を乱し混乱をまねきかねない現実もある。ネットの理想を取り戻せるか



◎そんな話あった?

民主主義を強固なものにすると熱狂的に迎えられたはずのネット」という説明がまず引っかかる。個人的には「熱狂的に迎え」た記憶はない。社会の中で自分が例外だと感じたこともない。

取りあえず「民主主義を強固なものにすると熱狂的に迎えられた」のだとしよう。そして「世論を乱し混乱をまねきかねない現実もある」と認めよう(「まねきかねない」は「招きかねない」と表記してほしかった)。だからと言って「ネットと民主主義」に「相克」が深まっていると言えるだろうか。

多様な意見や情報が自由に飛び交えば「混乱」が起きることもあるだろう。それは「民主主義」を弱めている訳ではない。「民主主義」とは「人民が権力を所有し行使する政治形態」(デジタル大辞泉)を指す。現実が「ネットの理想」とかけ離れているとしても「人民が権力を所有し行使する政治形態」が揺らいでいないのならば、「民主主義」との「相克」を心配する必要はない。

では、今回の「トランプ米大統領」と「ツイッター」の件はどうなのか。記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

米国では通信品位法230条によってSNS会社が保護されている。内容が不適切だとして投稿の閲覧制限、削除をして利用者に訴えられても会社は法的責任を問われない。大統領令は免責対象を狭めようとしている。

きっかけはトランプ氏の投稿に対し、誤解される恐れのある情報を含むとして閲覧者に事実確認するようツイッターが注記したことだ。「SNSを強力に規制するか、閉鎖させる」。トランプ氏は怒りを爆発させた。



◎「民主主義」だからこそ…

今回の件は「トランプ氏の投稿に対し、誤解される恐れのある情報を含むとして閲覧者に事実確認するようツイッターが注記したこと」が「きっかけ」だと村山氏も書いている。つまり、自由に情報発信したい「トランプ氏」と、それに注文を付けた「ツイッター」との対立と言える。「トランプ氏」が言論の自由を奪おうとしているのではない。自らの「言論の自由」を強く求めているとも言える。

SNSを閉鎖させる」となれば問題はあるが、今のところ「ネットと民主主義」に大きな「相克」は感じられない。米国が「民主主義」の国だからこそ今回のような問題が起きるのではないか。「ネット」上も含めて多様な意見がぶつかり、解を見つけていくことで「民主主義を強固なもの」にできるという考え方も成り立つ。

記事の続きを見てみよう。

【日経の記事】

ツイッターやフェイスブックなどSNSが相次ぎ誕生した2000年代半ば、「ウェブ2.0」の潮流が起きた。誰もが情報の受け手、送り手になれる時代の到来だ。様々な意見の交換、英知の結集ができ、民主主義を前進させるとの声があがった。が、目の前の事態は理想から遠い



◎「ネット」に期待し過ぎでは?

「(ネット上では)様々な意見の交換、英知の結集ができ、民主主義を前進させるとの声があがった。が、目の前の事態は理想から遠い」と村山氏は言う。随分とお行儀の良い世界を「理想」として描いているのだろう。

ネット」の現実には色々と醜い部分もある。個人的には、それが当たり前だと思う。それでも言論の自由は大切だと感じる。「様々な意見の交換、英知の結集」をするために言論の自由を認めるならば、汚い部分も必ず付いてくる。それでも「民主主義」を守る上で役に立つと思えるのだが…。


※今回取り上げた記事「ネットと民主主義 深まる相克~トランプ氏、SNS規制へ大統領令
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200530&ng=DGKKZO59791040Z20C20A5EA2000


※記事の評価はD(問題あり)。村山恵一氏への評価もDを維持する。村山氏については以下の投稿も参照してほしい。

「日本の部長、データを学べ」に説得力欠く日経 村山恵一氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_16.html

日経 村山恵一氏の限界見える「Deep Insight~注目 シェア人類の突破力」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/deep-insight_6.html

2020年5月29日金曜日

「米国工場のライン削減」は誤報だった? 日経「日産 最終赤字6712億円」

29日の日本経済新聞朝刊1面に載った「日産最終赤字6712億円 前期、11年ぶり~構造改革費6000億円」という記事で気になることがあった。「米国で工場のラインを削減するという話はどうなったのか?」と。
練習機T-33A 若鷹(福岡県うきは市)
      ※写真と本文は無関係です

27日付の「日産、3000億円コスト削減~新型コロナ拡大で追加策」という記事では「日産は米国に完成車工場を2つ持つ。そのうち主力セダンなどを生産するミシシッピ州の工場で3つある製造ラインを1つ削減する方向で調整している」と報じており、これが「3000億円コスト削減」の柱だと示唆する内容だった。

しかし29日の記事に付けた「2023年度までの新中期計画の骨子」という表で「固定費3000億円削減(18年度比)」のところを見ると「生産能力を2割減の540万台まで引き下げ→スペイン工場の閉鎖検討」「車種数2割削減→韓国・ロシアで低価格ブランド『ダットサン』撤退」「一般管理費15%削減」となっているだけで、米国には触れていない。

日産のニュースリリースには「北米の各工場での生産車種をセグメントごとに集約し、効率を改善する」とは出てくるが「ミシシッピ州の工場で3つある製造ラインを1つ削減する」という話にはなっていない。

調整している」と逃げを打っているので誤報とは言い切れないが、何かを間違えた感じは否めない。間違い自体を責めるつもりはない。問題は2つある。

まず、待っていれば発表されるネタを事前に報道するのは原則としてやめた方がいい。これは何度も訴えていることだ。

27日の記事を読んだ人が「ミシシッピ州の工場で3つある製造ラインを1つ削減する」方向だと誤解していてもおかしくない。頑張って事前に報じると、どうしても正確さを欠いてしまう。それでも記事にする社会的な意味があるかと言えば、ほぼない。余計な混乱を招くだけだ。

どうしても報じたいのならば、間違えた時のフォローは丁寧にすべきだ。今回で言えば「ミシシッピ州の工場で3つある製造ラインを1つ削減する方向で調整している」という話はどうなったのか1面の記事に盛り込むべきだ。今回は総合2面と企業1面にも関連記事が載っている。スペースはたっぷりあるのに「ミシシッピ州の工場」のライン削減の話がどうなったか全く触れていない。

きちんとフォローするつもりがないのならば、待っていれば発表されるネタは発表を待つべきだ。それが日経のためでもあるし、読者のためでもある。


※今回取り上げた記事「日産最終赤字6712億円 前期、11年ぶり~構造改革費6000億円


※記事の評価はC(平均的)。「日産、3000億円コスト削減~新型コロナ拡大で追加策」という記事に関しては以下の投稿を参照してほしい。

雑な作りが残念な日経「日産、3000億円コスト削減」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/05/3000.html

2020年5月28日木曜日

日経 山本裕二記者の技術不足が見える「石油製品、鈍い需要回復」

28日の日本経済新聞朝刊マーケット商品面に載った「石油製品、鈍い需要回復~アジア市場年初比5割安 コロナで移動制限残り」という記事は完成度が低すぎる。筆者の山本裕二記者は記事を書くための基礎的技術を身に付けていないのだろう。
浮羽稲荷神社(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係

まず記事の前半を見ていく。

【日経の記事】

アジア市場で石油製品の需要の回復が鈍い。多くの国では新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるための移動制限が残っていて、経済活動の復活に時間がかかっている。ガソリンや軽油などの価格は足元で年初比5割ほど安い。石油需要の約4割を占めるアジア地域で消費回復が遅れたままだと、石油会社の採算が悪化し、供給体制が弱体化しかねない。


アジア地域の指標となるシンガポール市場では石油製品価格が軒並み安い。ガソリン価格が1バレル35ドル前後、ガスオイル(軽油)が同38ドル、航空機燃料(ケロシン)が同37ドルとそれぞれ年初比で5割程度下落している。新型コロナの感染拡大に伴う移動制限で輸送燃料の需要が鈍い

石油天然ガス・金属鉱物資源機構の竹原美佳氏は「中国を除くアジア地域で石油需要が本格的に回復するのは10月からになるだろう」とみる。


◎肝心の情報が…

見出しで「石油製品、鈍い需要回復」と打ち出し、冒頭でも「アジア市場で石油製品の需要の回復が鈍い」と書いている。この場合、必ず入れるべき情報が2つある。(1)需要はどのくらい回復しているのか(2)なぜ「回復が鈍い」と言えるのか--。今回の記事には、いずれの情報も見当たらない。「新型コロナの感染拡大に伴う移動制限で輸送燃料の需要が鈍い」などと書いているだけで、そもそも「需要」に関する具体的なデータが出てこない。

石油製品価格」が「需要」に関するデータだと山本記者は考えているかもしれない。しかし、「価格」は基本的に需給で決まる。「価格」が上がっていても需要が「回復」していない場合はある。逆に「需要」の「回復」過程で「価格」が下がっても不思議ではない。供給面の影響があるからだ。この辺りは山本記者も分かっているとは思うが…。

記事の後半に気になる説明が出てくるので、それも見ておこう。

【日経の記事】

アジア市場の石油製品消費の回復はまだ先になりそうだ。国際エネルギー機関(IEA)が14日発表した月報によるとアジア地域では12月時点でも主要な製品需要の落ち込みが続く見通しだ



◎「回復」さえしてない?

需要の回復」は見られるものの、その勢いが「鈍い」のだと思って読み進めてきた。しかし、その前提が崩れるような記述だ。「アジア地域では12月時点でも主要な製品需要の落ち込みが続く見通し」だとすると、そもそも現状で「需要の回復」が見られるのか怪しくなってくる。

どの時点との比較かといった問題かもしれないが、「需要」が「回復」傾向にあるかどうかは明確に読者に示すべきだ。

今回の完成度で読者に記事を届けられるのは悪い意味で凄い。担当デスクと一緒にしっかり反省してほしい。


※今回取り上げた記事「石油製品、鈍い需要回復~アジア市場年初比5割安 コロナで移動制限残り
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200528&ng=DGKKZO59577640W0A520C2QM8000


※記事の評価はD(問題あり)。山本裕二記者への評価は暫定でDとする。

「少子化対策は行うべきなのか」山田昌弘氏の主張に異論あり

今回は山田昌弘氏が書いた「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?」という本を取り上げる。自分は少子化を放置すべきとの立場だが、この本の解説の多くは納得できた。ただ「少子化対策は行うべきなのか」に関する記述には異論がある。そのくだりを見ていこう。
藤波ダム(福岡県うきは市)
    ※写真と本文は無関係です

【本の引用】

まず、少子化対策を「すべきでない」という意見の理由を見てみよう。

一方には、結婚、出産は個人的なものだから、国家は介入すべきでないという「反国家主義」的イデオロギーに基づく考え方からくるものがある。

もう1つは、個人のために国がお金をかけるべきでない、出産を奨励するためにお金を使うくらいなら、移民を積極的に導入すべきだという意見である。

政治的には対極に位置するように見える立場の人が、同じ結論に達しているのは興味深いが。

ただ、現実に「結婚したい、子どもを産み育てたい」という若者は圧倒的に多い。彼らの希望をかなえることが、同時に、持続可能な社会を作るものであるなら、それを政府や社会が後押しすることが必要だと私は考える。


◎そもそも人が多過ぎる…

自分は「少子化対策を『すべきでない』」と思っている。しかし上記の2つの理由は当てはまらない。「すべきでない」と考える理由は「人が多過ぎるから」だ。個人の感覚的な問題ではあるが、日本の人口は1000万人もいれば十分だ。今の水準から半減してもまだ多い。

後付けではあるが、それらしく基準を設けるならば「少なくとも食料自給率が100%になるまで人口減少(少子化)を放置すべきだ」といったところか。

環境問題も新型コロナウイルス問題も、人口が大幅に減れば対応が容易になる。日本列島に1億人が住んでいる状態よりも1000万人の方が「持続可能」性は高いだろう。

ただ「持続可能」性に強くこだわってはいない。最終的には日本列島に住む人がゼロになってもいい。戦争や飢餓が原因というのは困るが、人々の自由な選択の結果として少子化が進み、30世紀の世界では「日本人」が消滅しているとしても、そこを避けたいとは思えない。

山田氏は少子化対策が必要との立場だが、その主張にも疑問を感じた。まず「現実に『結婚したい、子どもを産み育てたい』という若者は圧倒的に多い」かどうかだ。この本の中で山田氏は以下のように記している。

【本の引用】

近年の様々な調査を総合すると、恋人のいない若年未婚者の15%から25%程度しか「婚活」を行っていない。つまり、少なめに見積もっても、恋人のいない未婚者の4分の3は、自分から積極的に結婚相手探しをしていないのである。

恋人がほしいと思っている人の割合が約5割であるので、恋人がほしいと思っていたとしても、半数以上は、待っているだけで何もしていないことになる。


◎やる気がないなら…

結婚したい、子どもを産み育てたい」と「本気」で思っている「若者」が「圧倒的に多い」ならば「恋人がほしいと思っている人の割合が約5割」とはならないだろう。「結婚はしたいですか。したくないですか」といった質問に「いずれはしたい」と答えたからと言って「結婚したい」という気持ちが「本気」だとは限らない。

気合を入れて頑張っているのに結果が出ない「若者」を応援するのは分かる。しかし「待っているだけで何もしていない」ような「若者」も助けるべきなのか。

仮に、やる気のない「若者」の「結婚相手探し」を支援するとしても「少子化対策」と捉えるべきかとの問題が残る。

結婚する人が増えて、子供が増えて、出生率が上がれば「少子化対策」は成功となるのだろう。だが、ここでの問題は「結婚したい、子どもを産み育てたい」と願う「若者」の希望が実現しているかどうかだ。

そういう「若者」の希望を政府の後押しで全て叶えたとしよう。しかし「結婚したい」と考える人の割合が大きく低下したため、出生率は上向かなかったとする。この場合「少子化対策」としては失敗となってしまう。それは指標が間違っているからだ。

結婚したい」と考える「若者」を支援したいのならば、その結果は「結婚したいのに結婚できない人の比率」といった数値で評価すべきではないか。


※今回取り上げた本「日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?


※本の評価はB(優れている)。山田昌弘氏への評価も暫定でBとする。

2020年5月27日水曜日

雑な作りが残念な日経「日産、3000億円コスト削減」

27日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「日産、3000億円コスト削減~新型コロナ拡大で追加策」という記事は雑な作りが目立った。記事の全文は以下の通り。
浮羽稲荷神社(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

日産自動車が年間3000億円規模のコスト削減に踏み切ることが26日、分かった。新型コロナウイルス感染拡大で業績悪化に歯止めがかからず、設備廃棄や販管費抑制などの追加のコスト削減を実施することで収益改善を急ぐ

28日に発表する20年3月期の連結最終損益は11年ぶりに赤字に転落したもようだ。販売台数も前の期比13%減の479万台まで落ち込んでいた。

日産は米国に完成車工場を2つ持つ。そのうち主力セダンなどを生産するミシシッピ州の工場で3つある製造ラインを1つ削減する方向で調整している。調査会社によると、日産の米国の生産能力は年約110万台で、ライン削減により米国の生産能力は約1割減るとみられる。日産の19年度の米国での生産台数は約69万台と前年度比15%減っており、米生産拠点は過剰設備となっていた。


◎「3000億円」の内訳は?

年間3000億円規模のコスト削減に踏み切る」と言うが、その内訳がまず分からない。具体的な「コスト削減」策として出てくるのは「ミシシッピ州の工場で3つある製造ラインを1つ削減する」という話のみ。ただ、「製造ラインを1つ削減する」だけで「年間3000億円規模のコスト削減」になるのか疑問だ。

最初の段落では「販管費抑制」という文字も見える。なので「製造ラインを1つ削減する」以外にも何らかの「コスト削減」策があるのだろう。ただ、その中身には全く触れていない。

今回の記事では、第2段落が無駄だと感じた。まずは「コスト削減」の中身をしっかり説明してほしい。「28日に発表する20年3月期の連結最終損益は~」といった話は、紙面に余裕がある場合に記事の最後に付ければ十分だ。

冗長さも気になった。「設備廃棄や販管費抑制などの追加のコスト削減を実施することで収益改善を急ぐ」というくだりは「実施すること」が要らない。例えば「設備廃棄や販管費抑制などの追加のコスト削減で収益改善を急ぐ」としても何の問題もない。「実施」「こと」といった言葉は省ける場合が多い。記事を書く時は簡潔な表現を心掛けてほしい。


※今回取り上げた記事「日産、3000億円コスト削減~新型コロナ拡大で追加策
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200527&ng=DGKKZO59608770W0A520C2EA1000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年5月26日火曜日

「治験1カ月前倒し」で1面3段見出しの価値ある? 日経「国産ワクチン7月治験」

国産ワクチン7月治験~アンジェス、年内実用化狙う」という記事が26日の日本経済新聞朝刊1面に3段見出し付きで載っている。関心の高いテーマなのは分かるが、1面3段はやり過ぎだと感じた。
練習機T-33A 若鷹(福岡県うきは市)
       ※写真と本文は無関係です

記事の一部を見ていこう。

【日経の記事】

アンジェスは25日、開発中のワクチンの投与によって抗体ができることを動物実験で確認したと発表した。治験は当初は9月開始を予定。その後は8月への前倒しを検討していたが早期実施に踏み切る。大阪大学医学部付属病院と大阪市立大学医学部付属病院で数十人程度を対象に行う。9月にも結果が出る見通し。


◎1カ月ずつ早まっているが…

アンジェス」が新型コロナウイルスの「ワクチン」を開発するという話は3月に記事になっている。4月14日には「アンジェス、コロナワクチンの治験開始を1カ月前倒し」という記事も出している。これが「8月への前倒しを検討」に当たる。そして今回は「新型コロナウイルスワクチンの臨床試験(治験)を7月から始める」らしい。

要は「8月」が「7月」になるだけだ。報じるなとは言わないが、1面で3段見出しを立てる必要があるとは思えない。厳しく言えば煽り過ぎだ。

治験」の規模は「数十人程度」で「9月にも結果が出る見通し」だと言う。そして「年内にも承認を受け実用化される可能性がありそうだ」とも書いている。

わずか「数十人程度」を2~3カ月調べて「年内にも承認を受け実用化」すると聞くと「急ぎ過ぎではないのか。本当に大丈夫か」との疑問は浮かぶ。

この話、どうも急ぎ過ぎていて嫌な予感がする。


※今回取り上げた記事「国産ワクチン7月治験~アンジェス、年内実用化狙う
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200526&ng=DGKKZO59530870V20C20A5MM8000


※記事の評価はC(平均的)