2018年8月15日水曜日

「無事これ名馬」だが…日経 大塚節雄記者に注文

日本経済新聞の大塚節雄記者を取り上げたいとずっと思いながら、できずにいた。まず、大塚記者がニューヨーク発で書く市場関連記事はツッコミどころが少ない。ならば褒めるべき点はないかと考えてみるが、そこまでの出来でもない。そんな大塚記者をようやく取り上げることにしたのは、14日の夕刊マーケット・投資面に載った「ウォール街ラウンドアップ~トルコショック、米国株に死角」という記事にツッコミを入れてみたくなったからだ。

増水した筑後川と筑後川橋(福岡県久留米市)
          ※写真と本文は無関係です
 まずは以下のくだりから。

【日経の記事】

国際決済銀行(BIS)によると、今年3月末時点の各国銀行のトルコに対する与信はスペインの809億ドル(9兆円弱)を筆頭にフランスの351億ドル、イタリアの185億ドルが続く。だが、実は米国も181億ドルとイタリアのすぐ下の4番手につける。

さらにデリバティブなどにまつわる潜在的なリスク負担のうち「延長保証」は米国が136億ドルと最大の担い手。JPモルガンによると、こうしたリスクにはトルコ国債のクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の関連も含まれる。どれも経営に響く問題ではないもようだが、欧州銀への伝染が意識されるとき、米銀も無関係とはいえない。


「延長保証」って何

無知を晒しているだけかもしれないが「延長保証」が何のことを言っているのか分からなかった。「デリバティブなどにまつわる潜在的なリスク負担」の一部であり「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の関連も含まれる」という「延長保証」について色々と調べてもみたものの、ヒントさえ見つけられなかった。日経の読者には大塚記者の説明で伝わるのだろうか。

延長保証」が分からないのだから「136億ドル」がどういう数字かも判断できない。CDSで「136億ドル」と言われれば「想定元本ベースの数字なのかな」と推測できる。だが、「延長保証」だとお手上げだ。

次に移ろう。

【日経の記事】

ゴールドマン・サックスの米国株ストラテジスト、デービッド・コスティン氏らによると、中国、ブラジル、インドなど主要新興国での売上比率が高い企業群のうち23%が直近の決算で売上高の市場予想を大きく下回った。主要500社のおよそ2倍に及ぶ。これらの企業群でつくる株価指数の上昇率は年初来で5.5%とS&P500種の8.0%に見劣りする。



◎「大きく」と言われても…

経済記事ではデータが重要だ。できるだけ具体的な数字を記事で示してほしい。「主要新興国での売上比率が高い企業群」の中で「直近の決算で売上高の市場予想を大きく下回った」企業の比率が「23%」という数字に意味はない。

売上比率が高い」「売上高の市場予想を大きく下回った」の基準が不明だからだ。例えば「大きく下回った」を「10%以上下回った」にするか「50%以上下回った」にするかで該当する企業の比率は「大きく」変わるはずだ。

大塚記者は「これらの企業群でつくる株価指数の上昇率は年初来で5.5%とS&P500種の8.0%に見劣りする」とも書いているが、「5.5%」と「8.0%」ならば大差ない。この流れで対比させるならば「これらの企業群でつくる株価指数」が年初来で下げていてほしい。

こんな感じでツッコミは入れてみた。とは言え、大きな問題ではない。ツッコミどころの少ないマーケット関連記事を書ける大塚記者は日経では貴重な存在だ。

大塚記者が書いた記事を100本近くは読んでいる気がする。それでもツッコミを入れる余地がわずかしかなかった点は高く評価したい。「無事これ名馬」とでも言いたくなる記者だ。


※今回取り上げた記事「ウォール街ラウンドアップ~トルコショック、米国株に死角
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180814&ng=DGKKZO34128600U8A810C1ENI000


※記事の評価はC(平均的)。過去の記事も含めた判断で大塚節雄記者への評価はB(優れている)とする。

2018年8月14日火曜日

日経「一目均衡」に見える小平龍四郎編集委員の限界

14日の日本経済新聞朝刊 投資情報面に載った「一目均衡~リーマンからテスラへ 」という記事は苦しい内容だった。事実誤認はあるし、拙い説明も目立つ。筆者である小平龍四郎編集委員には頑張ってほしいが、書き手としての限界は隠しようがない。
「おとしよりが出ます注意」の看板
(大分県日田市)※写真と本文は無関係です

まずは日経への問い合わせの内容を見てほしい。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 アジア総局編集委員 小平龍四郎様

14日の日本経済新聞朝刊 投資情報面に載った「一目均衡~リーマンからテスラへ 」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

むしろリスクマネーを調達する企業は、四半期の決算や開示が義務化されているかどうかにかかわらず、資本の提供者に経営や財務を小まめに説明するよう求められている。リーマン破綻後に米国型と異なる市場づくりを目指すようになった欧州も、主要な大企業の情報開示は頻繁かつ詳細だ。アジア各国も、共産党の影響力が強い中国を除けば、情報開示を促し投資家の声を経営に反映させやすくする方向で、市場改革が進む

小平様の説明を信じれば、シンガポールでも情報開示を促す方向で「市場改革」が進んでいるはずです。

しかし「シンガポール取引所、四半期開示の見直し検討 上場企業の負担緩和」という今年1月11日の日経の記事では以下のように報じています。

シンガポール取引所(SGX)は11日、上場企業に課している四半期決算の開示ルールの見直しを検討すると発表した。年4回の開示義務を年2回に軽減したり、開示が必要な項目を減らしたりする案を検討する。開示ルールを簡素化する世界の取引所の流れに対応する狙いだという

こちらは小平様の説明とは正反対と言っていい内容です。1月の記事で「東京証券取引所も17年3月期決算から決算短信の記載内容の一部を自由に変更できる簡素化に踏みきっている」と書いているように、日本も含めて「開示ルールを簡素化する」のが「世界の取引所の流れ」だと思えます。「アジア各国も、共産党の影響力が強い中国を除けば、情報開示を促し投資家の声を経営に反映させやすくする方向で、市場改革が進む」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

2つ目の質問です。記事の中で小平様は「決算発表でのアナリストへの八つ当たりやタイの洞窟救出劇で活躍したダイバーへの差別発言など、このところのマスク氏の言動は周囲の眉をひそめさせるものが目立った」と書いています。

米国のカリスマ経営者の一人、イーロン・マスク氏」の「差別発言」とは「タイの洞窟で遭難した少年サッカーチームを救った英国人ダイバーをツイッター上で『小児性愛者』と罵倒した」(7月19日の日経の記事)ことを指すのでしょう。

これは「差別発言」ですか。何に対する差別なのでしょう。「英国人差別」ですか。それとも「ダイバー差別」ですか。あるいは「小児性愛者差別」なのでしょうか。ちなみに7月19日の記事には「テスラCEO、英ダイバーへの罵倒発言を謝罪」という見出しが付いており「差別発言」とはしていません。

例えば、殺人に無関係な人を「人殺し」と罵るのは「差別発言」ですか。マスク氏の発言も似たようなものです。発言内容に問題があるのは否定しませんが、「差別発言」だとは思えません。

ついでに言うと「決算発表でのアナリストへの八つ当たりやタイの洞窟救出劇で活躍したダイバーへの差別発言」とすると「ダイバーはアナリストへの八つ当たりやタイの洞窟救出劇で活躍した」とも解釈できます。「決算発表でのアナリストへの八つ当たりや、タイの洞窟救出劇で活躍したダイバーへの差別発言」と読点を入れるべきです。

せっかくの機会なので、以下の記述についても問題点を指摘しておきます。

リーマン・ショックをきっかけに株式市場の短期主義を是正する手だてが、世界の市場当局者の間で議論されてきた。四半期決算・開示の見直しや攻撃的アクティビズムの抑制策なども浮上した。しかし、それらが企業行動を著しく短期的にさせると示す明確な証拠は多くない

小平様は「それら四半期決算・開示や攻撃的アクティビズム」のつもりで記事を書いているのでしょう。しかし、形式的に解釈すれば「それら=四半期決算・開示の見直しや攻撃的アクティビズムの抑制策など」となります。上手い書き方とは言えません。

付け加えると「それらが企業行動を著しく短期的にさせると示す明確な証拠は多くない」という曖昧な説明も引っかかります。

まず「著しく短期的にさせると示す明確な証拠は多くない」と言われると、「ある程度は短期的にさせると示す明確な証拠は多くある」のかとは思います。「著しく」の基準を明示していないのも気になります。

また「明確な証拠は多くない」との説明は「明確な証拠は少ないながらもある」と示唆しているようでもあります。この辺りは明確に書くよう心掛けてください。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇

記事の最後の段落で小平編集委員は以下のように書いている。

【日経の記事】

リーマンからテスラへ。10年を経てもなお市場の短期主義へのいら立ちは、時として間欠泉のように噴き出す。非公開化によって四半期決算から逃れることはできても、経営情報の開示が免除されるわけでは決してない。それが洋の東西を問わず、この10年で確認された資本のおきてだ。


◎訴えたいことがない?

上記の結論にツッコミを入れるのは難しくない。「非公開化によって」四半期ベースの「経営情報の開示が免除される」可能性は十分にある。日本の無借金企業の経営者が自分で全ての株を買い付けて「非公開化」する場合、四半期ベースで「経営情報の開示」をする必要はないだろう。
東京体育館(東京都渋谷区)※写真と本文は無関係です

「非公開後も大株主がいる場合の話だ」と小平編集委員は言うかもしれない。だが、そうは書いていない。また、大株主が求めた場合に「経営情報の開示が免除されるわけでは決してない」のは今も20年前も変わらない。「この10年で確認された資本のおきて」とは言い難い。

ただ、こうしたツッコミにあまり意味がないだろう。「それが洋の東西を問わず、この10年で確認された資本のおきてだ」と訴えたくて小平編集委員は記事を書いたのではないと感じるからだ。

「特に訴えたいことはないが『一目均衡』の順番が回ってきた。リーマンショックから10年の節目が近いので、それで何か書けないか。リーマンとテスラを結び付けたらどうだろう」などと考えて記事を書いたのではないか。

「だから説明に色々と問題があるし、結論にも説得力がない」と考えると腑に落ちる。個人的には「これを訴えたい」という明確な意思を持った記者に「一目均衡」を書いてほしい。適任なのは小平編集委員ではないはずだ。


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「一目均衡~リーマンからテスラへ 」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180814&ng=DGKKZO34117110T10C18A8DTA000


※記事の評価はD(問題あり)。小平龍四郎編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。小平編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 小平龍四郎編集委員  「一目均衡」に見える苦しさ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_15.html

基礎知識が欠如? 日経 小平龍四郎編集委員への疑念(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_11.html

基礎知識が欠如? 日経 小平龍四郎編集委員への疑念(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_73.html

日経 小平龍四郎編集委員の奇妙な「英CEO報酬」解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_19.html

工夫がなさすぎる日経 小平龍四郎編集委員の「羅針盤」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_3.html

やはり工夫に欠ける日経 小平龍四郎編集委員「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_11.html

ネタが枯れた?日経 小平龍四郎編集委員「けいざい解読」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_20.html

山一破綻「本当に悪かったのは誰」の答えは?日経 小平龍四郎編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/10/blog-post_10.html

2018年8月13日月曜日

記事の粗製乱造が過ぎる日経「鉱山機械、省人化磨く」

夏枯れの時期でネタがなく、日曜の紙面を埋めるのが大変なのは分かる。とは言え、12日の日本経済新聞朝刊 総合5面に載った「鉱山機械、省人化磨く 資源価格回復 日立建機、無人ダンプ」という記事は、レベルが低すぎる。日経のまとめ物は総じて問題のある記事が多いが、その中でも今回は粗製乱造が過ぎる。
旧門司三井倶楽部(北九州市)※写真と本文は無関係です

まずは最初の段落を見ていこう。

【日経の記事】

堅調な世界景気に加え電気自動車(EV)の増産で活況の鉱山分野で、建設機械大手が先手を打っている。日立建機は休みなく稼働する採掘現場の効率化に向け、石炭鉱山で無人ダンプの運行を実験する。コマツは買収した米鉱山機械メーカーが持つ地中深くの採掘に適した機械を、既存の顧客に売り込んでいく。



◎「先手を打っている」でまとめ?

最近の日経に多いのが2社でのまとめ物だ。以前も述べたが、業界動向をまとめるならば、最低でも3社は欲しい。業界に広がっている動きだと見せるためには2社では苦しい。

しかも今回は「先手を打っている」という聞き慣れないまとめだ。普通は「相次ぎ増産」とか「東南アジアへの進出広がる」といった話でまとめる。「鉱山分野で、建設機械大手が先手を打っている」という書き方にまず不安を感じる。

しかも取り上げるのは「日立建機」と「コマツ」のみ。両社の関連性の薄そうな話を「先手を打っている」で結び付けているのだから、さらに苦しそうだ。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

鉱山機械は資源メジャーなどが石炭や鉄鉱石の採掘、運搬に使う。資源価格の回復に伴い、建機メーカーの受注が増えている。石炭では国際指標のオーストラリア産が1トン100ドル超と、直近の最安値である16年初めの2倍以上に上昇した。

「中国で採掘ニーズが高まっている」(日立建機)。実際、日立建機は2018年4~6月期の鉱山機械の売上高が前年同期より31%多い355億円。コマツは14%増え2415億円だった。

世界の自動車メーカーがEVの車種を増やしており、電気モーターや各種部品の配線に大量に使う銅なども需要が拡大している。

建機大手の先行きに対する見立ては強気だ。日立建機の先崎正文執行役は「(18年度は)堅調な銅価格を背景にして中南米中心に需要増が見込まれる」と語る。コマツの今吉琢也執行役員は「受注が想定を上回る可能性がある」と話す。


◎なぜ背景説明を先に?

前文の後で4段落を背景説明に費やしている。「先手を打っている」話は後回しだ。これはニュース記事の原則に反している。日経では「新聞文章の基本」として以下のように定めているはずだ。

『要点先述』。一般の記事はニュースの核心となる部分から書き始め、重要度の順に沿って書き進める。読者にニュースのポイントを真っ先に伝えるためである。紙面が込んできた場合、記事が後方の段落から削られていくのに対処するためでもある

今回の記事では、記者だけでなく企業報道部のデスクも「まず背景説明」が気にならなかったようだ。だから日経は怖い。基本を身に付けていないデスクが、記者をまともに指導できるはずがない。

さて、いよいよ「ニュースの核心となる部分」に移ろう。ここもまた苦しい。

【日経の記事】

鉱山の採掘現場は年中無休の稼働が数十年間続く。人手が最も必要となるのがダンプを使った運搬作業だ。日立建機は省力化の需要をにらみ、オーストラリアで無人ダンプの開発を急ぐ。7月、石炭鉱山会社の豪ホワイトヘイブンと試験導入で合意。19年の事業化に向けて実験を始める

日立建機はホワイトヘイブンに無人ダンプを6台納める。無人システムではコマツが実用化で先行しているが、石炭鉱山での導入は珍しい。日立製作所が鉄道事業を持つ強みを生かし、機械の台数が増えても通信の混雑を抑えられる技術を活用できるところなどに特徴がある。



◎実験はいつ始める?

19年の事業化に向けて実験を始める」「無人ダンプを6台納める」と書いているが、いつ実験が始まり、いつ無人ダンプを納入するのかは謎だ。これは困る。
増水した筑後川と新しい神代橋(福岡県久留米市)
            ※写真と本文は無関係です

それにメインの事例にニュース性が感じられない。上記の話は7月9日に日立建機が発表した内容に沿っている。

「無人ダンプの実験相次ぐ」といったまとめ物の2番手や3番手の事例に使うのは理解できるが…。1カ月以上前に発表となったネタをメインに持ってくる度胸は悪い意味で凄い。

最後に、コマツの事例も見ておこう。

【日経の記事】

資源の採掘が進むと地表から掘る露天掘りではとりにくくなる。将来、地中に坑道をつくって採掘する坑内掘りが主流になると見込まれている。

コマツは17年に坑内掘り機械のメーカー、米ジョイ・グローバル(現コマツマイニング)を3000億円強で買収した。露天掘りの機械しか持っていなかったコマツは世界の事業拠点で坑内掘り用を売り込んでいる。

コマツは世界規模で販路を整えるため7月、マレーシアの自動車製造・販売会社UMWと、東南アジア5カ国で鉱山機械などの販売会社を設立すると発表した。



◎買収から1年以上が経過しているが…

これもかなり古い話だ。「米ジョイ・グローバル(現コマツマイニング)を3000億円強で買収」してから1年以上が経っている。つまり、コマツグループとして「坑内掘り機械」を売り始めてから1年以上になる。

ニュース性の乏しい話を2つだけ用意して、「鉱山分野で、建設機械大手が先手を打っている」と結び付けて90行以上のまとめ記事にする。「日経の粗製乱造もここまで来たか」と嘆くほかない。

おそらく記者は日経産業新聞の紙面を埋める過程で粗製乱造のやり方を習得し、それを日経本紙でも活用しているのだろう。日経の企業報道部で生きていくための知恵とも言えるので、同情すべき要素もある。そこが難しいところだ。


※今回取り上げた記事「鉱山機械、省人化磨く 資源価格回復 日立建機、無人ダンプ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180812&ng=DGKKZO34081440R10C18A8EA5000


※記事の評価はE(大いに問題あり)。

2018年8月12日日曜日

内部進学85%でも「ほぼ全員」? 東洋経済「ザ・名門高校」

週刊東洋経済8月11~18日号の特集「ザ・名門高校」では雑な説明が目立った。例えば「キリスト教の教育者である新島襄が立ち上げた同志社は四つの系列校を抱える。ほぼ全員が同志社大学へ進学」と書いてあるのに、内部進学率が90%を超えているのは1校のみ。それも91%に過ぎない。東洋経済には以下の内容で問い合わせを送った。
福岡県立久留米高校(久留米市)※写真と本文は無関係です

【東洋経済への問い合わせ】

週刊東洋経済編集部 長谷川隆様 福田恵介様 林哲矢様

8月11~18日号の特集「ザ・名門高校」の中の「私大付属校の人気と実力 私大付属 慶応が内部進学率で突出 付属校間で合格枠に差」という記事についてお尋ねします。まずは以下のくだりについてです。

関東の早慶MARCHと同様、関西では関関同立が私立ブランドとして定着している。最も人気の高いのが同志社と関西学院だ。同志社は京都、関西学院は西宮(兵庫県)を地盤とし、大阪からも通いやすい点が人気の理由だ

この説明は謎です。「大阪からも通いやすい点が人気の理由だ」としたら「関関同立」の中で最も通いやすいのは大阪府吹田市を地盤とする関西大学です。なのになぜ「最も人気の高いのが同志社と関西学院」となるのですか。

記事では「同志社と同じく京都が地盤なのが立命館」とも書いています。だとすると「立命館」も「大阪からも通いやすい点」では「同志社」と似たようなものです。なぜ記事のような説明になるのか教えてください。

2つ目の質問です。

記事には「キリスト教の教育者である新島襄が立ち上げた同志社は四つの系列校を抱える。ほぼ全員が同志社大学へ進学」との記述があります。しかし、記事に付けた表を見ると内部進学率は同志社香里91.00%、同志社国際85.82%、同志社84.73%、同志社女子80.75%となっています。例えば、戦争に参加した兵士の85%が生還したとしましょう。この場合、皆さんは「兵士のほぼ全員が生還した」と考えますか。

ほぼ全員が同志社大学へ進学」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御誌では、読者からの問い合わせを無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

結局、回答はなかった。

※今回取り上げた特集「ザ・名門高校
https://dcl.toyokeizai.net/ap/registinfo/init/toyo/2018081100

※特集全体の評価はD(問題あり)。福田恵介記者への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。長谷川隆記者と林哲矢記者は暫定でDとする。今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

佐倉高校は千葉市にある? 東洋経済「ザ・名門高校」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_19.html

表紙の「沖縄外し」が気になる東洋経済「ザ・名門高校」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_80.html

愛知は本当に「2トップ」?東洋経済「ザ・名門高校」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_9.html

「北野」「天王寺」の説明が苦しい東洋経済「ザ・名門高校」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_8.html

四国では「高松」が断トツ? 東洋経済「ザ・名門高校」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_55.html

「福岡知らず」が過ぎる東洋経済の特集「ザ・名門高校」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_1.html

「熊本高校同窓会」の説明に難あり 東洋経済「ザ・名門高校」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_11.html

早大「内部進学人気」に疑義あり 東洋経済「ザ・名門高校」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_16.html

2018年8月11日土曜日

「富裕層の2%がビジネスジェット保有」に見える日経の説明不足

「日本の富裕層の2%がビジネスジェットを保有している」と聞いて信じられるだろうか。因みに日本での保有機数は90機程度で、民間保有に限るとさらに少ないらしい。どうも辻褄が合わない。しかし、11日の日本経済新聞の記事でホンダジェットの藤野道格社長はそう語っている。藤野社長ではなく、筆者ら(古川慶一記者と杉本貴司記者)に説明不足の問題がありそうだ。
飛び立ったハンググライダー(福岡県久留米市)
           ※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 古川慶一様 杉本貴司様

11日の朝刊総合6面に載った「ホンダジェット、上期納入首位 『世界販売絶対負けぬ』 米ホンダエアクラフトカンパニー 藤野道格社長」という記事についてお尋ねします。記事の中で藤野社長は以下のように述べています。

日本にもビジネスジェットを買える人は十分にいるが、保有率が非常に低い。例えば米国では富裕層の18%ほどがビジネスジェットを保有しているとされ、欧州の主要国は8%、日本は2%ほどにとどまる。ポテンシャルは十分だ

ビジネスジェットの日本での保有は90機程度と言われています。日本の富裕層の「2%」がビジネスジェットを保有しているのですから、日本には富裕層が約4500人しかいない計算になります。あまりに少な過ぎませんか。

野村総合研究所では「純金融資産保有額が1億円以上5億円未満」の世帯を「富裕層」、「5億円以上」を「超富裕層」と定義し、日本には2015年時点で121.7万世帯あると推計しています。こちらから計算すると、2万機以上のビジネスジェットが既にあるはずです。

超富裕層」の7.3万世帯で考えても、「2%」の保有比率ならば1000機を超えます。「米国では富裕層の18%ほどがビジネスジェットを保有しているとされ、欧州の主要国は8%、日本は2%ほどにとどまる」という情報は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

例えば「富裕層」の定義を「資産30億円以上」などとすれば、藤野社長の発言と整合するかもしれません。しかし、これでは一般的な定義とかけ離れ過ぎています。独自の定義に基づいて「富裕層」の「2%」などと言っているのであれば、その定義を記事中で明示すべきです。

さらに言うと「日本でも6月にホンダジェットの受注を始めた。ただ、日本の市場は90機弱と小さい」という聞き手側のコメントにも説明不足を感じます。

断りなく「日本の市場は90機弱」と書いてある場合「日本での販売は年間90機弱」と解釈するのが自然です。しかし、「90機弱」というのは「日本での保有機数」を指すと思われます。それを市場規模として使うなとは言いません。しかし「90機弱」が何の数字なのかは明確にすべきです。

業界では顧客の保有機数で市場規模を語るのが常識なのかもしれません。しかし、ほとんどの読者は「常識」を共有していないはずです。その辺りを補って記事を作り上げるのが古川様と杉本様の仕事です。今回はそれができていません。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「ホンダジェット、上期納入首位 『世界販売絶対負けぬ』 米ホンダエアクラフトカンパニー 藤野道格社長
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180811&ng=DGKKZO34074070Q8A810C1EA6000

※記事の評価はD(問題あり)。古川慶一記者への評価はDで確定させる。杉本貴司記者への評価は暫定でDとする。古川記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

悪い意味で無邪気な日経 未来学面「考えるクルマ 街へ空へ」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_26.html

「熊本高校同窓会」の説明に難あり 東洋経済「ザ・名門高校」

週刊東洋経済8月11~18日号の特集「ザ・名門高校」には、どう解釈すればいいのか迷う記述がある。「熊本の総会にはかつて800人、東京では1000人集まった。ところが今は700人程度」と書いてあったら、「今は700人」を何の人数だと判断したらよいのだろう。東洋経済に送った問い合わせの内容は以下の通り。
米軍 佐世保基地(長崎県佐世保市)※写真と本文は無関係です

【東洋経済への問い合わせ】

週刊東洋経済編集部 長谷川隆様 福田恵介様 林哲矢様

8月11~18日号の特集「ザ・名門高校」の中の「地域の誇り 名門校の横顔 九州・沖縄 済々黌、熊高の兄弟対決 鹿児島で伝統の『甲鶴戦』」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

『江原会(こうげんかい)』という熊本中学・熊本高校同窓会の活動も盛んだ。『熊本の総会にはかつて800人、東京では1000人集まった。ところが今は700人程度。熊高は済々黌よりも県外に出る人が多いのかもしれない』(創立120周年実行委員長・林田淳一氏)

ところが今は700人程度」をどう理解すればよいのか迷いました。(1)「熊本の総会」が「今は700人程度」(2)「東京」が「今は700人程度」(3)「熊本の総会」と「東京」を合わせて「今は700人程度」(4)「熊本の総会」も「東京」もそれぞれ「今は700人程度」--のどれかでしょう。正解を教えてください。

付け加えると、「同窓会の活動も盛んだ」と書いているのに、参加者が減っている話を持ってくるのはしっくり来ません。また「熊高は済々黌よりも県外に出る人が多い」というのは、参加者が減っている理由になっていません。「林田淳一氏」は「済々黌」に比べて「熊本の総会」の参加者が少ない理由を説明しているのでしょうが…。

今回問題としたくだりは色々な意味で読者を迷わせる作りになっています。今後は構成を工夫してください。

九州関連でもう1つ注文を付けておきます。今号の表紙では「福岡を牛耳る修猷館、福岡高、筑紫丘」と打ち出していますが、特集では3校が「福岡を牛耳る」姿を描いていません。これは読者を欺く手法ではありませんか。

特集の中の「名門校 すごい卒業生人脈 福岡県 修猷館、福岡高、筑紫丘 御三家の強すぎる母校愛」というのが「福岡を牛耳る修猷館、福岡高、筑紫丘」に対応する記事なのでしょう。

この記事では「福岡を牛耳る」に関する言及がないだけでなく「強すぎる母校愛」と取れる記述も見当たりません。見出しと本文はきちんと合致するように誌面を作ってください。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御誌では、読者からの問い合わせを無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた特集「ザ・名門高校
https://dcl.toyokeizai.net/ap/registinfo/init/toyo/2018081100

※特集全体の評価はD(問題あり)。福田恵介記者への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。長谷川隆記者と林哲矢記者は暫定でDとする。今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

佐倉高校は千葉市にある? 東洋経済「ザ・名門高校」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_19.html

表紙の「沖縄外し」が気になる東洋経済「ザ・名門高校」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_80.html

愛知は本当に「2トップ」?東洋経済「ザ・名門高校」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_9.html

「北野」「天王寺」の説明が苦しい東洋経済「ザ・名門高校」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_8.html

四国では「高松」が断トツ? 東洋経済「ザ・名門高校」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_55.html

「福岡知らず」が過ぎる東洋経済の特集「ザ・名門高校」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_1.html

内部進学85%でも「ほぼ全員」? 東洋経済「ザ・名門高校」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/85.html

早大「内部進学人気」に疑義あり 東洋経済「ザ・名門高校」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_16.html

2018年8月10日金曜日

「障害者」巡る問題多い日経「ポスト平成の未来学」

深く考えていないのか、説明が下手なのか、その両方なのか--。9日の日本経済新聞朝刊 未来学面に載った「ポスト平成の未来学 第10部 共生社会へ~違いを強みに 障害者の視点を生かす」という記事には色々と問題を感じた。
河童と桜(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

記事には理解できない説明も出てきたので、筆者らに以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 山本公彦様 小柳優太様

9日の朝刊未来学面に載った「ポスト平成の未来学 第10部 共生社会へ~違いを強みに 障害者の視点を生かす」という記事についてお尋ねします。以下のくだりが何度読んでも理解できませんでした。

障害者の視点が仕事に変化をもたらすこともある。昨年、保険契約の仕組みの問題点を小山さんが指摘した。契約書には『本人の署名または家族による代筆』が必要だが、手などに障害がある人は代筆に限られ、本人が契約できない。同社は8月から、代筆できる対象者を広げるなど内規を改めた

まず「手などに障害がある人は代筆に限られ、本人が契約できない」との説明が謎です。「家族による代筆」が認められているのであれば、「代筆」を選んで「本人が契約」できるのではありませんか。

家族による代筆」では代筆した人の契約となり、「本人が契約できない」と仮定しましょう。この場合、「代筆できる対象者を広げる」措置を取ったところで「本人が契約できない」状況は変わりません。

本人の署名または家族による代筆」が「本人の署名または家族・友人による代筆」に改まったのを受けて「友人」に代筆してもらっても、「友人」の契約になってしまいます。

記事の説明は誤りではありませんか。控えめに言っても説明不足だと思えます。問題なしとの判断であれば、どう理解すれば良いのか教えてください。

推測ですが「手などに障害がある人は代筆に限られ、家族がいない場合は契約ができない」と言いたかったのではありませんか。それならば「代筆できる対象者を広げるなど内規を改めた」とうまく結び付きます。

日経では、読者の間違い指摘を無視する悪しき伝統が長く続いています。まずは、山本様と小柳様が日経を正しい方向へ導く「」になってみませんか。「様々な場所でいぶき始めている『芽』を枯らすことなく、大切に育てていくことこそが、新たな時代の幕を開くこととなる」と記事で訴えたのですから。

ついでに言うと、この文は「こと」を3回繰り返しているのに拙さを感じます。例えば「様々な場所でいぶき始めている『芽』を枯らさず大切に育てていくことこそが、新たな時代の幕を開く条件となる」とすれば1回で済みます。

せっかくの機会なので。記事を読んだ感想も添えておきます。

まず「健常者との『差』を個性として捉えきれないことから生じる偏見は、なお社会に根強く残る」との説明が引っかかりました。「健常者との『差』」は「数学が苦手」とか「歌が下手」と同列の「個性として捉え」て良いのでしょうか。だとしたら、社会全体で保護する必要ないでしょう。

関連記事では「企業に義務付けられている障害者雇用の割合(法定雇用率)が4月、2.0%から2.2%へと引き上げられた」とも書いています。「個性として捉え」てよいのならば、こうした政策は不要です。単なる「個性」とは一線を画しているからこそ、保護策や優遇策が正当化されるはずです。

アクサ生命保険」に関する事例にも疑問が残りました。記事では「人事部門で多様性推進の業務を担当している」という「先天性全盲の小山恵美子さん(49)」を取り上げた上で「同社では09年から障害者雇用を本格化。障害の有無に関わらず、仕事を分担することで、様々な顧客の立場に立った考え方が深まるなどのプラス効果が出ている」と書いています。

これは本当ですか。記事には「スライド映像を見られないので、必要なことはメモしています」という「小山恵美子さん」のコメントが出てきます。「障害の有無」と関係なく「仕事を分担する」場合、「スライド映像」の作成を「小山恵美子さん」が担う可能性が出てきます。しかし、常識的にはあり得ないでしょう。仮に可能だとしても、かなり酷な業務分担になるはずです。

最後に取り上げるのは以下のくだりです。

国内の2017年の障害者実雇用率は2%未満で、共生とは程遠い。より多くの人が多様性を認め、障害者と共に歩もうと意識を変えない限り、共生の実現は難しい

説得力に欠ける漠然とした説明になっていませんか。「国内の2017年の障害者実雇用率は2%未満で、共生とは程遠い」と書いていますが、「2%未満共生とは程遠い」と言える根拠は示していません。何%になると「共生」となるのかも不明です。

山本様と小柳様が現状をどう認識しているのかも気になりました。「共生とは程遠い」のですから、今は「障害者隔離社会」とでも呼ぶべき状態でしょうか。個人的にはむしろ「障害者隔離社会とは程遠い」と思えますが…。

それに、「共生」しているかどうかは「障害者実雇用率」で測れるのですか。「障害者実雇用率」が高くても、障害者を健常者と分けて離島で過酷な労働をさせているだけならば、「共生」と呼ぶには値しないでしょう。

「深く考えずに、何となくそれらしいことを書いてみたのでは?」と思える記述が今回の記事では目に付きました。「障害の有無にかかわらず仕事を分担するっていいことなのかな? 例えば、全盲の人に写真撮影の役割を担わせるのは無理じゃないかな。アクサ生命はこの問題にどう対処しているんだろう?」などと立ち止まって考えれば、もっと説得力のある記事になった気がします。

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追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「ポスト平成の未来学 第10部 共生社会へ~違いを強みに 障害者の視点を生かす
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180809&ng=DGKKZO33950440Y8A800C1TCP000


※記事の評価はD(問題あり)。山本公彦記者と小柳優太記者への評価も暫定でDとする。