2017年5月7日日曜日

肝心の情報が欠けた週刊ダイヤモンド特集「がんと生きる」

週刊ダイヤモンド5月13日号の特集「がんと生きる [仕事][家庭][家計][治療]」は全体としては悪くない出来だが、「Part 4~ プレシジョン・メディシンは救世主!? がん治療の最前線」は期待外れの内容だった。がん患者にとって最も関心が高いのは最新治療法の動向だろう。だが、取材班は「治療法の効果」という肝心の情報を伝えていない。
浅井の一本桜(福岡県久留米市)
      ※写真と本文は無関係です

記事の一部を見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

日本のプレシジョン・メディシンがまだ研究の途上段階にある中、複数の大学病院は先駆けて複数の遺伝子を解析できる検査を自由診療で提供。従来の治療が効かない患者が殺到している

「もう、あなたに効く薬はありません」──。京都大学病院のがん薬物治療科教授である武藤学の元には、他の病院でそう宣告された患者が全国から集まってくる。

彼らの目当ては、「がんクリニカルシーケンス検査」。クリニカルシーケンスとは、患者ごとに異なるドライバー遺伝子異常(がんの原因となる遺伝子異常)を検出し、効果が期待できる分子標的薬による治療へと結び付けるための検査である。

分子標的薬はミサイルのごとく特定の遺伝子を狙って攻撃する薬で、“プレシジョン・メディシンの申し子”ともいえる抗がん剤。逆に言えば、ターゲットとなる遺伝子異常がなければ、薬の効果が期待できない。さまざまな分子標的薬が登場しているが、その効果を発揮させるためには患者ごとのドライバー遺伝子異常の検出が不可欠なのである。

中略)下図は、京大病院で行われているオンコプライム検査の流れと成果である。まず患者から採取されたがん組織を米国の検査会社に送付し解析。次に、戻ってきたレポートに記されているドライバー遺伝子異常に対応する分子標的薬があるか、国内の専門会社が調べて追記し京大病院に提出する。それを基に院内で治療法を検討し、患者に伝える、という流れだ。

検査が開始された2015年4月から16年2月までに検査を受けた人の半数以上が60歳以下と比較的若い。そして気になる検査結果だが「検査を受けた人の約7割が、何らかの薬の情報を得られた」(武藤)という。

しかしながら、全ての人がこの検査から治療へとたどり着くわけではない。理由はさまざまだが、そもそもこの検査を受けるほぼ全員が、従来の治療が効かない患者。たとえ薬の情報が分かっても、自分のがんには保険が利かないケースがほとんどなのだ。その薬の臨床研究にタイミングよく参加できればいいが、そうでなければ治療は保険外の自由診療。検査とは別に高額な医療費が掛かる。


◎大きな効果があった患者はいる?

プレシジョン・メディシン」について「救世主!?」「従来の治療が効かない患者が殺到している」などと期待を持たせておいて、この治療の効果に関しては情報がない。
矢部川(福岡県八女市)※写真と本文は無関係です

記事に付けた図によると、2015年4月~16年10月に「京大病院で行われているオンコプライム検査」を受けた88人のうち、「検査で見つかった治療法を実際に受けた」のは「19人」にとどまったという。それはそれでいい。記事でも「全ての人がこの検査から治療へとたどり着くわけではない」と書いている。問題は「19人」が「検査で見つかった治療法」で助かったかどうかだ。

一部の患者でもいいので高い治療効果が出たとなれば朗報だ。一方、治療法だけ見つかっても効果は出なければ意味がない。今回の特集では「プレシジョン・メディシン」について6ページにわたって延々と綴っているものの、肝心の情報は出てこない。

「プレシジョン・メディシンで治療法が見つかれば、高い治療効果が期待できるのか」には、きちんと答えを出してほしかった。そこは全く情報がないと言うのならば、その点を記事中で明示すべきだ。


※今回取り上げた特集「がんと生きる [仕事][家庭][家計][治療]
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/20100

※特集全体の評価はC(平均的)。担当者の評価は以下の通りとする。

臼井真粧美副編集長(暫定E→暫定C)
柳澤里佳記者(暫定B→暫定C)
野村聖子記者(暫定D→暫定C)

2017年5月6日土曜日

「積み立て優位」に無理がある日経 田村正之編集委員

日本経済新聞の田村正之編集委員がまた問題のある記事を書いていた。6日の朝刊マネー&インベストメント面に載った「投信 高値づかみしない 損益指標、積み立て優位」という記事の中で「積立投資」の優位性を訴えているが、説得力はない。「『インベスター・リターン』(保有者の平均損益)という指標を当てはめて検証してみよう」と田村編集委員は言う。だが、この指標を用いること自体が不適切だ。
蹴洞橋(けほぎばし、福岡県八女市)
      ※写真と本文は無関係です

記事の一部を見てみる。

【日経の記事】

では高値づかみを防ぐにはどうすればいいのか。一部の投資家が実践して成果を上げているのが積み立てだ。自動的に毎月、定額を買い続ける方法なので、上昇相場やテーマに引かれてつい買いたくなる「心理のワナ」から逃れられる。

積み立ての代表的な仕組みの一つが確定拠出年金(DC)。この制度を通じて投信を保有する人に限って、平均損益を見てみよう(表C右)。

全般に良好で、基準価格の騰落率を大幅に上回る。投資対象が国内株でも海外株でも同じ。運用者が独自に銘柄を選ぶアクティブ型でも、値動きが市場平均(指数)に連動するインデックス型でも傾向は同じだ。

定額の積み立てでは価格が高いときに購入口数が少なく、安いときに口数が多くなる。平均購入コストを抑えられる効果があり、このケースでも効いている。

モーニングスターの坂本浩明アナリストは「米国でも投信の高値買い・安値売りは多い。DC向け投信で保有者損益が基準価格の騰落率を上回りやすいのも日本と同じ傾向」と話す。


◎「保有者の平均損益」を用いる意味ある?

基準価格の騰落率」と「保有者の平均損益」を比べて「積み立て優位」といった結論を導き出すのはおかしい。DCを通じた投信保有者は全員が「積み立て」ではある。だが、投資を始めた時期にはバラツキがある。
三池港(福岡県大牟田市)※写真と本文は無関係です

例えば、過去10年のうち前半は下落相場で後半は上昇相場だったとしよう。そして、積み立てを始めた人の多くが後半スタートだった場合、「保有者の平均損益」が10年間の「基準価格の騰落率」を上回るのは当然だ。そのデータを基に、積み立て投資が有利かどうかを論じても意味がない。

積み立て投資が有利かどうかを見るならば、「毎月決まった額を10年間積み立てた場合」と他の投資手法を比べればいいはずだ。大して難しい試算でもない。なのになぜ「保有者の平均損益」という不適切な数字を持ってきたのか理解に苦しむ。

次の説明はさらに問題を感じた。

【日経の記事】

一般に売られる投信でも、自分で積み立てている人は損益が比較的高めのようだ。表Cの一般向け投信の欄を見ると、保有者損益はアクティブ型で基準価格騰落率より大きく劣るのに対して、インデックス型はほぼ同水準を維持する。

インデックス型はアクティブ型に比べて「積み立てに使う人が比較的多いとみられる」(坂本氏)。ネット証券では投信積み立ての対象としてインデックス型が上位に入ることが多い。


◎単なる「推測」では?

一般に売られる投信でも、自分で積み立てている人は損益が比較的高めのようだ」と田村編集委員は言うが、これまた根拠は乏しい。「インデックス型はアクティブ型に比べて『積み立てに使う人が比較的多いとみられる』(坂本氏)」と書いているだけで、それぞれどの程度の積み立て比率なのかは分かっていないようだ。
平尾台(北九州市)※写真と本文は無関係です

仮に積み立て比率に差があるとしても、それが「保有者損益はアクティブ型で基準価格騰落率より大きく劣るのに対して、インデックス型はほぼ同水準を維持する」理由かどうかは断定できない。例えば「アクティブファンドでは利益が出るとすぐに手放してしまう人がインデックス型に比べて多い」という傾向があれば、それがアクティブ型の「保有者損益」の低さにつながる。

推測の域を出ないレベルの話なのに「自分で積み立てている人は損益が比較的高めのようだ」などと書くと、読者に要らぬ先入観を与えてしまう。

今回の記事のテーマは「投信 高値づかみしない」で、それに対する田村編集委員の答えは「世界株式型の投信を定額で積み立てる方法」だ。しかし、自分ならもっと有効な方法を提示できる。記事の最後を見た後で、その方法を紹介したい。

【日経の記事】

相場の流れを見極められる自信があれば、タイミングを計って売買する手法は有力な選択肢。そうでなければ、世界株式型の投信を定額で積み立てる方法が、これまで有利だったことを覚えておきたい。



◎もっと有効な方法が…

定額で積み立てる方法」は原則として有利でも不利でもない。「積み立て優位」とする田村編集委員の主張に説得力がないのは既に見てきた通りだ。ならば「高値づかみしない」ためにはどうすればいいのか。ヒントは記事に出てきた「図B」にある。ここでは「投信市場の資金流出入額」と「東証株価指数」が連動することを示している。

過去10年で資金が「流出」となっているのは、リーマンショック直後など3回しかなく、いずれも短い期間だ。経験則としては「投信の高値づかみを避けたいならば、資金流出の時に買う」でいいのではないか。

今後もこのやり方は絶対に有効だとは言わない。だが、過去10年の動きから「高値づかみ」を避ける方法を考えるならば「積み立て投資」よりも有効だと思える。「違う。やはり積み立て投資だ」と田村編集委員は反論できるだろうか。



※今回取り上げた記事「投信 高値づかみしない 損益指標、積み立て優位
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170506&ng=DGKKZO16000400S7A500C1PPE000


※記事の評価はD(問題あり)。田村正之編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。田村編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

「購買力平価」に関する日経 田村正之編集委員への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_20.html

リバランスは年1回? 日経 田村正之編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_1.html

無意味な結論 日経 田村正之編集委員「マネー底流潮流」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_26.html

なぜETFは無視? 日経 田村正之編集委員の「真相深層」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_24.html

功罪相半ば 日経 田村正之編集委員「投信のコスト革命」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_84.html

投資初心者にも薦められる日経 田村正之編集委員の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_64.html

「実質実効レート」の記事で日経 田村正之編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_10.html

ミスへの対応で問われる日経 田村正之編集委員の真価(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_58.html)

日経 田村正之編集委員が勧める「積み立て投資」に異議
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_2.html

「投信おまかせ革命」を煽る日経 田村正之編集委員の罪(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_3.html)

運用の「腕」は判別可能?日経 田村正之編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_21.html

「お金のデザイン」を持ち上げる日経 田村正之編集委員の罪
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_61.html

2017年5月5日金曜日

日経 粟井康夫記者の秀作「追跡 ニュースの現場」に残る疑問

5日の日本経済新聞 朝刊国際1面に載った「追跡 ニュースの現場~香港の自由 守る意地 中国『発禁本』店長ら拘束 台湾で再開、準備続く」という記事は、良い意味で日経らしくない秀作だった。
日田駅に停車中の「ななつ星in九州」(大分県日田市)
            ※写真と本文は無関係です

中国共産党内の権力闘争や醜聞など、中国本土では販売が禁じられている『発禁本』を扱う出版社、巨流伝媒が経営する書店」である「銅鑼湾書店」の営業休止問題を追い、「店長だった林栄基(62)」に話を聞いている。当事者に丁寧に取材しているし、筆者である粟井康夫記者の問題意識も伝わってくる。日経は中国の闇の部分を踏み込んで報じるような新聞社ではない印象があるが、何かが変わり始めているのかもしれない。

とは言え、記事には疑問点も残る。終盤を見てみよう。

【日経の記事】

事件後、発禁本の売れ行きは急速に落ち込んだ。同じ銅鑼湾でブックカフェ「人民公社」を営む鄧子強(42)は「16年は売上高が前年比3~4割減少するなど、最悪の年だった」と嘆く。顧客の9割を占める中国本土の旅行者からは「監視カメラはないか」「税関で見つかると、ひどい目に遭わないか」と心配する声が増えたという。

だが最高指導部人事を決める今年秋の共産党大会が迫るにつれて、ブックカフェの売り上げには徐々に回復の兆しもみえる。「習体制に次は何が起きるのかを知りたい読者は多い」と鄧はみる。今年1月には中国の大富豪、肖建華(45)が香港の高級ホテルから姿を消す事件が起きたが、鄧の店には肖の失踪を共産党内の権力闘争と絡めた書籍が早くも並んでいた。

発禁本は天安門事件で武力弾圧に反対して失脚した元党総書記、趙紫陽の極秘回顧録など中国の近現代史を扱った書籍から、噂を元にしたゴシップ本まで玉石混交だ。だが習の政敵だった薄熙来のスキャンダルを詳細に伝えるなど、外部からはわかりにくい中国政治の内幕を垣間見る貴重な機会を提供している。

林は香港の民主運動家らと協力し、台湾に新しい「銅鑼湾書店」を今年後半に開く準備を進めている。「書店は民主の種をまく手段になるし、抵抗のシンボルでもある。かつて銅鑼湾書店がそうだったように」。ささやかな自由の砦(とりで)を守る試みは続く。


◎他の「発禁本」販売店は睨まれない?

記事には「同じ銅鑼湾でブックカフェ『人民公社』を営む鄧子強」が出てくる。このブックカフェの関係者は連れ去られてもいないし、営業休止にも追い込まれていないようだ。だとするとなぜ「銅鑼湾書店」は当局に睨まれたのか。狙われた「銅鑼湾書店」が例外なのか、営業を続けている「人民公社」が例外なのか。その辺りの事情は解説してほしかった。
矢部川沿いの桜(福岡県八女市)※写真と本文は無関係です

林は香港の民主運動家らと協力し、台湾に新しい『銅鑼湾書店』を今年後半に開く準備を進めている」と書いてあるので、「銅鑼湾書店」を香港で再開する選択肢はないのだろう。一方で「人民公社」は営業を続け、「ブックカフェの売り上げには徐々に回復の兆しもみえる」という。この差は謎だ。


※今回取り上げた記事「追跡 ニュースの現場~香港の自由 守る意地 中国『発禁本』店長ら拘束 台湾で再開、準備続く
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170505&ng=DGKKZO16053110V00C17A5FF1000

※記事の評価はB(優れている)。香港支局の粟井康夫記者への評価は暫定でBとする。

2017年5月3日水曜日

あと一歩踏み込みが…日経「J・フロント 相談役廃止へ」

3日の日本経済新聞朝刊企業総合面に載った「J・フロント 相談役廃止へ 奥田元会長らは特例で留任」という記事の中身は非常に興味深い。しかし、踏み込みが足りないために肝心の部分がよく分からない。このニュースで重要なのはなぜ「制度廃止は新任にとどめ」たかだ。推測でもいいから、そこに触れてほしかった。
カトリック久留米教会(福岡県久留米市)
        ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

J・フロントリテイリングは相談役制度を廃止する。産業界全体に対し、経営トップ経験者による「院政」につながるとの批判が増えていることに対応する。ただ、制度廃止は新任にとどめ、奥田務元会長(77)と茶村俊一前会長(71)の2人の現職相談役は特例を設けて留任する

大手小売りで相談役制度をなくす例は珍しい。Jフロントは5月25日の株主総会に定款変更を提案し、規定廃止を正式に決める。企業統治を強化し、経営の透明性を高める狙いだ。

日本では社長や会長退任後も相談役や顧問として経営に関与し続ける例が少なくない。例えば東芝の場合、複数の相談役による影響力行使が経営危機を招いた一因との指摘がある。経済産業省は3月、相談役・顧問について情報開示の拡充を求める報告書をまとめた。投資家の間にも疑問を呈する声が増えている。Jフロントの方針は、こうした動きを受けたものだ。

一方、現任の相談役については「終任時まで効力を有する」との付則を設ける。2013年に会長兼最高経営責任者(CEO)を退任してから相談役に就いている奥田氏らは、任期満了まで現職にとどまる。

◇   ◇   ◇

相談役制度を廃止する」理由が「経営トップ経験者による『院政』につながるとの批判が増えていることに対応する」ものならば、「現任の相談役」にも退いてもらうのが筋だ。しかし、なぜか「現任の相談役については『終任時まで効力を有する』との付則を設ける」らしい。

制度廃止に抵抗する「現任の相談役」がいて、その人物に配慮した結果なのだろうか。だとしたら「相談役による影響力行使」がJ・フロントにもあり、今後もしばらくは「影響力」が残ることになる。その辺りが興味深いところなのに、記者もJ・フロントに遠慮があるのか素通りしてしまう。

さらに言えば「任期満了」がいつになるのかも気になる。まさか「終身」ではないだろうが、任期が残り1~2年ならば「特例を設けて」まで留任させる必要があるのかとの疑問も生じる。

しかし、奥田務氏が「特例」にまですがって相談役のポストに執着しているとしたら情けない。77歳になってもまだ何か影響力を残したいのか。「特例」が自ら求めたものではないのならば、特例の適用を拒んで即座に相談役を退いてはどうだろう。その方が晩節を汚さずに済むと思えるが…。


※今回取り上げた記事「J・フロント 相談役廃止へ 奥田元会長らは特例で留任

http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170503&ng=DGKKZO16027490S7A500C1TI1000

※記事の評価はC(平均的)。

日経ビジネス篠原匡記者が語る「サウジ世俗化」の謎

日経ビジネスの篠原匡記者(ニューヨーク支局)が5月1日号で「FRONTLINE ニューヨーク~ウーバーに見るサウジの世俗化」という苦しい記事を書いていた。ニューヨーク発でサウジアラビアに絞った話に仕上げるのを許すとしても、その中身がお粗末すぎる。「サウジは今まさに、世俗化に向けてアクセルを踏もうとしている」と篠原記者は言うが、その後に続く事例のどこが「世俗化」なのか謎だ。
平成筑豊鉄道 行橋駅(福岡県行橋市)※写真と本文は無関係です

【日経ビジネスの記事】

コーランの戒律に厳格なワッハーブ派を国是とするサウジは今まさに、世俗化に向けてアクセルを踏もうとしている。

米配車アプリ、ウーバー・テクノロジーズの躍進にその一端が見て取れる。

サウジの女性はクルマの運転が事実上禁じられており、外出の際は親や夫に送り迎えを頼むなど不便を強いられている。ところが、3年ほど前にウーバーが進出したことで、移動にウーバーを使う女性が急増した。ウーバーによれば、直近のアクティブユーザーの8割が女性だという。

「いまだに女性が運転できないのはナンセンスだと思うけどウーバーがある。(女性の運転を巡る問題は)テクノロジーが解決した」と外資系企業に勤めるサウジ女性は語る。


◎「テクノロジーが解決した」?

女性が運転できない」問題は、ウーバーの進出によって「テクノロジーが解決した」と篠原記者は言う。しかし、料金を払って車を他者に運転してもらうことで「解決」できるのであれば、タクシーを利用すれば済む。ウーバーの進出を待つまでもない。

サウジの交通事情はよく分からないが、タクシーではダメでウーバーならば問題なしとなる理由は考えにくい。例えば「宗教上、知らない男性と2人で車に乗るのは厳禁」となっているのならば、ウーバーでは問題を解決できない。タクシーは危険でウーバーは安全というなら分かるが、そこに大差がありそうな感じもしない。仮にあるのならば、記事中で説明すべきだ。

あくまで推測だが、ウーバーが自社に都合のいい情報提供をして、篠原記者が鵜呑みにしてしまったのではないか。


◎これは「世俗化」?

ウーバーの進出を「世俗化」と捉えるのも無理がある。「サウジの女性はクルマの運転が事実上禁じられて」いる状況は変わっていないはずだ。ならば「世俗化」とは言えないのではないか。
千仏鍾乳洞(北九州市)※写真と本文は無関係です

「知らない男性と2人で車に乗るのは厳禁」から「容認」に変わったのならば「世俗化」かもしれない。だが、その場合はタクシーも利用できることになり、「テクノロジーが解決した」という見方が崩れてしまう。


◎舌足らずな表現

ついでに、記事中の舌足らずな表現を指摘しておきたい。まず「コーランの戒律に厳格なワッハーブ派を国是とするサウジ」について。「ワッハーブ派を国是」はやや不自然だ。「コーランの戒律に厳格なワッハーブ派のを国是とするサウジ」などとした方が好ましい。

米配車アプリ、ウーバー・テクノロジーズ」も引っかかった。ウーバーは「配車アプリ」そのものではない。「米配車アプリ大手のウーバー・テクノロジーズ」などとすれば問題は解消する。

篠原記者がこれから優れた書き手になる可能性はほぼない。記事を書かせ続けるのならば、周囲が問題点をしっかり補ってあげるべきだ。今回の記事を見る限り、それができているとは思えない。


※記事の評価はD(問題あり)。篠原匡記者への評価もDを維持する。


※篠原記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス篠原匡記者の市場関連記事に要注意(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_93.html

日経ビジネス篠原匡記者の市場関連記事に要注意(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_67.html

相変わらず辛い日経ビジネスNY支局 篠原匡記者の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_22.html

2017年5月2日火曜日

日経「金投資 広がる選択肢」松沢巌記者が与える誤解

4月29日の日本経済新聞朝刊マネー&インベストメント面に載った「金投資 広がる選択肢  有事に強く、ETF拡大」 という記事は、不正確な説明が目に付いた。この面は投資初心者を想定して作っているはずなので、筆者の松沢巌記者には読者に誤解を与えないような書き方を心掛けてほしかった。
巨瀬川と鯉のぼり(福岡県うきは市)
   ※写真と本文は無関係です

具体的に問題のある部分を見ていこう。

【日経の記事】

世界的な金の広報調査機関であるワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、16年の金の投資需要は重量換算で前年比7割増の1561トンで、ETFは532トンと投資全体の34%を占めた。「米国の利上げやトランプ大統領の当選、日本のマイナス金利や英国の欧州連合(EU)離脱決定などが投資需要を押し上げた」(WGC)



◎「利上げ」は強材料?

利上げ」は原則として金価格の弱材料だ。しかし記事では、金の「投資需要を押し上げた」要因の1つに「米国の利上げ」を挙げている。需要押し上げ要因には「日本のマイナス金利」も入っているので、さらに分かりにくい。利上げ局面で金価格がする場合もあるが、だからと言って上記のような説明で済ませるのは感心しない。

次の説明はさらに問題が多い。

【日経の記事】

金ETFと並び個人投資家になじみの深いのが純金積立だ。指定した金額で毎月地金を購入する投資手法で、国内では田中貴金属工業グループと三菱マテリアルの2社が市場シェアの9割を占める。

三菱マテリアルの純金積立では、毎月の投資額を最低3000円から1000円単位で設定できる。価格変動リスクを抑えるため、金が安い日に多く、高い日は少なく買うといった手法をとる。購入額に応じ、1000円あたり25~30円の手数料がかかる。



◎「価格変動リスク」を抑えられる? ~その1

金が安い日に多く、高い日は少なく買うといった手法」を取れば「価格変動リスク」を抑えられるような書き方をしているが、これは誤りだ。「指定した金額で毎月地金を購入する投資手法」はいわゆるドルコスト平均法のことだろう。どういうタイミングで買ったとしても、将来の「価格変動リスク」は同じように負う。

久留米工業大学(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です
少し考えれば分かるはずだ。例えば、今後半年で金相場が半分に下がった場合、現在保有している金の価値の目減りをドルコスト平均法の採用で抑えられるだろうか。半年後に振り返って「ドルコスト平均法のおかげで価値の目減りは2割で済んだ」などとはならないはずだ。

価格変動リスク」に関しては松沢記者に決定的な誤解がありそうな気もする。それは以下の記述からもうかがえる。

【日経の記事】

価格変動リスクを抑え、少ない元手でより大きな金額の取引ができる市場も登場した。東京商品取引所が15年5月に開設した「金限日取引」(ゴールドスポット)だ。従来の金先物取引に比べ取引単位(1キロ)を100グラムに小口化。取引時に必要な委託証拠金も1万円弱と、先物取引の10分の1程度で済む。

この市場での取引価格は現在1グラム4500円台。1万円程度のお金で45万円ほどの金を売買でき、価格が上昇した時に得られる利益も相対的に大きくなる。

金限日取引の残高は4月下旬時点で12万6千枚(枚は最低取引単位=100グラム)と、原油先物市場の約14万枚に次ぐ東商取第2位の市場規模に成長した。

通常の先物取引と違い、決済期限がない。投資家は自分の判断で投資期間を選ぶことができる。差金決済が原則だが、委託業者によっては金地金(現物)の受け渡しもできる。



◎「価格変動リスク」を抑えられる? ~その2

『金限日取引』(ゴールドスポット)」だと「価格変動リスクを抑え」られると記事では解説している。これは信じがたい。しかも、なぜ「価格変動リスクを抑え」られるのか教えてはくれない。

従来の金先物取引に比べ取引単位(1キロ)を100グラムに小口化」しても価格変動リスクは変わらない。「通常の先物取引と違い、決済期限がない」ことも価格変動リスクとは無関係だ。どういう根拠で「価格変動リスクを抑え~」と書いたのか推測さえ難しい。



※今回取り上げた記事「金投資 広がる選択肢  有事に強く、ETF拡大
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170429&ng=DGKKZO15813990X20C17A4PPE000

※記事の評価はD(問題あり)。松沢巌記者への評価も暫定でDとする。

2017年4月29日土曜日

日経「慶応大学は大阪弁で」に感じる門井慶喜氏の誤解

作家の門井慶喜氏がどういう人物か知らないが、28日の日本経済新聞夕刊ナビ面に載った「プロムナード~慶応大学は大阪弁で」という記事は、歴史的な事実に基づいて書いているのか不安になる内容だった。「ざっくり言うと、慶応大学は、大阪弁でつくられた大学なのだ」と門井氏は教えてくれるが、どうも怪しい。
田主丸大塚古墳(福岡県久留米市)
        ※写真と本文は無関係です

記事に疑念を抱いたのは冒頭部分からだ。

【日経の記事】

慶応大学はいまの日本でもっとも都会的な感じがする大学のひとつだが、その創立者・福沢諭吉は大阪弁だった。


◎大阪弁は「非都会的」?

上記の書き方からは「大阪弁≠都会的」との前提を感じる。しかし、大阪(少なくとも大阪市)は疑う余地のない大都会だ。門井氏は「都会=東京」とでも思っているのだろうか。

さて、問題の部分を見ていこう。

【日経の記事】

もともと大坂の生まれなのである。諭吉の父は豊前中津藩の下級藩士だが、鴻池、加島屋(かじまや)といったような豪商に藩が莫大な借金をしている、その事務のため、ながらく大坂の蔵屋敷に勤番していた。この父は、諭吉が3歳のときに病死した。

一家そろって中津へ帰ると、中津の人が、

「そうじゃちこ」

と言うところを、福沢家の人々は、

「そうでおます」

と言ったので話が通じなかったと諭吉自身、のちに『福翁自伝』で回想している。あるいは諭吉少年はいじめられたかもしれない。青年となり、ふたたび大坂へ出て緒方洪庵の適塾に入ったときのあの魚が水を得たような生活ぶりは、むろん向学心もあったにしろ、一種、帰郷のよろこびも大きかったのではないか。ざっくり言うと、慶応大学は、大阪弁でつくられた大学なのだ


◎「慶応大学は、大阪弁でつくられた」?

福沢諭吉が生涯のほとんどで大阪弁を話していた、あるいは慶應義塾を創立した時に大阪弁を話していたのなら「ざっくり言うと、慶応大学は、大阪弁でつくられた大学なのだ」との説明でよいだろう。だが、門井氏の説明ではよく分からない。「中津ではずっと大阪弁で通したのか」「適塾時代は大阪弁だったのか」「東京(江戸)でも大阪弁だったのか」といった疑問が残る。
九州大学伊都キャンパス(福岡市西区)
         ※写真と本文は無関係です

福澤研究センター 都倉武之が語る 福澤展のツボ~方言と福澤諭吉」という記事によると「福澤は再び大阪に出て適塾に学びます。この頃福澤がどんな言葉を遣っていたのかは、よくわかりません」となっている。江戸・東京での言葉については以下の記述がある。

福澤の後半生はもっぱら江戸・東京生活です。自然東京の言葉になじんだ福澤は、大工さんなどに親しみ、かなりきつい『べらんめえ』でしゃべることもあったと伝えられています。そのあげく、口癖は『途方もねえ』だったとか

この説明が事実ならば「ざっくり言うと、慶応大学は、大阪弁でつくられた大学なのだ」と言うには程遠い。とりあえず「慶応大学は、大阪弁でつくられた大学」だとは思わない方が無難だ。


※今回取り上げた記事「プロムナード~慶応大学は大阪弁で
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170428&ng=DGKKZO15862730Y7A420C1NZ1P00


※記事の評価はD(問題あり)。門井慶喜氏への評価も暫定でDとする。


※今回参考にした資料「福澤研究センター 都倉武之が語る 福澤展のツボ~方言と福澤諭吉
http://keio150.jp/fukuzawa2009/blog_t/2009/05/post-f58c.html