2023年10月2日月曜日

「DXで医療再生」に説得力欠く日経 大林尚編集委員「核心~英独にみた医療DXの功罪」

日本経済新聞の大林尚編集委員は9月下旬に「健康保険組合連合会が両国(英独)へ派遣した調査団に同行する機会を得た」らしい。おいしい海外出張に見える。遊んできた訳ではないと示すために朝刊オピニオン面に「核心:英独にみた医療DXの功罪~EU水準に追いつけ日本」という記事を書いたのだろうが、出張報告の域を出ない出来だった。中身を見ながら注文を付けていく。

錦帯橋


【日経の記事】

20世紀に2度の大戦で死闘を繰り広げた英国とドイツは国の制度も好対照を成す

医療制度に関していえば、財源調達に英国が税方式を採っているのに対しドイツは社会保険方式だ。日本は明治中期以降、ドイツ帝国の鉄血宰相ビスマルクが制定した健康保険法を手本に、曲折を経ながらも制度を整えてきた。


◎無駄な対比

英国とドイツは国の制度も好対照を成す」と冒頭で書いているので英独比較が軸になるのかと思えるが、そういう構成にはなっていない。「健康保険組合連合会」の「調査団」が訪問したのが英独だったから英独の話を中心に記事をまとめただけだろう。それはそれでいいので読者に変な期待を持たせるような書き方はしない方がいい。「好対照」を軸に話を展開するなら「医療DX」でも「好対照」だと見せる必要がある。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

国内居住者すべてに健康保険への加入を義務づけ、加入者と家族は保険証を出せば原則どの医療機関にかかってもよいという独自の体制を完成させたのは1960年代。医療界が「世界に冠たる」という枕ことばで語る、この皆保険制度をうらやむ国は多い。

だが「冠たる」に値しないケースがままあることを、コロナ禍が浮き彫りにした。発熱外来で検査を受けられない。肺炎の症状を呈しているのに病院のICU(集中治療室)がみつからない。2021年夏には、産気づいた女性がコロナ感染を理由にして9つの産科に受け入れを拒まれ、やむなく自宅で早産したが、赤ちゃんが死亡するという悲劇があった。

少なくとも世界に引けを取らない水準への医療再生が岸田政権の政治課題だ。カギを握るのは、デジタル技術を縦横に生かす医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の深化である。


◎「世界に引けを取らない水準」?

世界に引けを取らない水準」がよく分からない。「産気づいた女性がコロナ感染を理由にして9つの産科に受け入れを拒まれ、やむなく自宅で早産」するような事態は世界水準では起きないのか。記事を読み進めると英国では「パンデミック初期、医療崩壊が現実になった」ようだ。となると英国と日本だけが世界水準を下回っているのか。その辺りが漠然としたまま「医療再生」の鍵が「医療DXの深化」だと言われても困る。

さらに見ていく。


【日経の記事】

医療情報は個人情報のなかでも最も慎重に扱われるべきものだ。堅牢(けんろう)な保護ルールを施し、デジタル化した医療データを治療や研究にもっと使いやすくする。病院の繁閑を誰もが手元のスマホで簡便・瞬時に確認できるようにする。どの国にもあてはまる目標であろう。

英独の取り組みはどうか。9月下旬、筆者は健康保険組合連合会が両国へ派遣した調査団に同行する機会を得た。日本以上にコロナに苦しんだ欧州である。医療再生にはDXが必要条件になるという方向性は英独に一致していた


◎「方向性は一致していた」なら…

医療再生にはDXが必要条件になるという方向性は英独に一致していた」らしい。改めて言うが、何のために冒頭で「20世紀に2度の大戦で死闘を繰り広げた英国とドイツは国の制度も好対照を成す」と書いたのか。

さらに見ていく。


【日経の記事】

ドイツのデジタル化の現状は日本に似ている。医療と健康に関するデジタルインフラを担う政府機関ゲマティークで、デジタル戦略とデータ標準化を統括するヘッヒャール氏は「わが国の医療サービスはEU(欧州連合)の他の国々より質が高い。それがあだになり、DXに取り組む動機が鈍っていた」と釈明した。


◎話が違うような…

わが国の医療サービスはEU(欧州連合)の他の国々より質が高い。それがあだになり、DXに取り組む動機が鈍っていた」という「ヘッヒャール氏」のコメントは引っかかる。素直に受け取ればドイツは「DX」劣等生でありながら「医療サービス」優等生だったはずだ。優等生なのになぜ「医療再生」が必要なのか。「DX」によって「医療サービス」優等生の優秀さがさらに高まるのなら分かる。しかし大林編集委員の見立てではドイツも「医療再生」が必要な状況のはずだ。どういうことなのか。

この後の説明も理解に苦しんだ。


【日経の記事】

EU水準に追いつこうと、ゲマティークが躍起になっているのが電子処方箋アプリの普及だ。患者はアプリに蓄積した医師の処方箋データをかかりつけの薬局に送信し、宅配便などで薬を受け取る。この利点は、日本でも大問題になっているポリファーマシー(多剤投与)の抑止にひと役買う可能性ではないか

いくつかの慢性疾患を患う高齢者があちこちの診療科をかけもち受診し、そのたびに薬を処方される。薬箱はあふれかえり、飲み合わせが悪かったり副作用リスクがわかりにくくなったりする。

個々の医師は診断に自信をもって処方しても、結果として患者は用法・用量を守るのが難しくなり、かえって健康を損なうおそれが強まる。合成の誤謬(ごびゅう)だ。処方箋アプリは長寿化が進行する日本にこそ必要だろう。


◎「ポリファーマシーの抑止にひと役買う」?

電子処方箋アプリの普及」が「ポリファーマシー(多剤投与)の抑止にひと役買う」と大林編集委員は見ているようだが、なぜそう言えるのか。日本では「お薬手帳」で「多剤投与」の状況をチェックできる。それでも「ポリファーマシー」の問題が起きているのに「電子処方箋アプリの普及」でなぜ状況が改善するのか。その「可能性」が十分だと見るならば、そこはもう少し詳しく説明すべきだ。

続きを見ていく。


【日経の記事】

ドイツにとっての決定的な刺激剤は、デジタル医療データのEU共通基盤「欧州ヘルスデータ・スペース」(EHDS)だ。22年5月、関連法案が欧州議会に提出された。完成すればEU市民は域内27のどの国でも自らの医療データを取り出し、医師の診察を受けられるようになる。

ドイツは国内のシステムをEHDSに接続する時期を25年に定めた。ゲマティークはデンマーク、スウェーデンなど北欧のデジタル先進国から医療DXのよい点を導入すべく試行錯誤を重ねている。日本もEUに入れてくれるなら医療DXが一気に進むのに、と話を聞きながら夢想した。


◎「医療DXのよい点」とは?

今回の記事を読んでも「医療DXのよい点」がよく分からない。「産気づいた女性がコロナ感染を理由にして9つの産科に受け入れを拒まれ、やむなく自宅で早産」するような事態を避けられると言いたいのかと思ったが、そういう話は出てこない。「ポリファーマシー」の問題を解決できそうな感じもしない。「EHDS」が「完成すればEU市民は域内27のどの国でも自らの医療データを取り出し、医師の診察を受けられるようになる」らしいが、そうなると何が良くなるのかは教えてくれない。「コロナ感染を理由」に「受け入れを拒まれ」る事態を防げるのか。そうではないとしたら、なぜ「EHDS」が「医療再生」に繋がるのか。

色々と疑問が湧く中で話は英国へと移る。


【日経の記事】

一方、16年の国民投票でEU離脱を選択した英国は、コロナ禍で受けた傷がドイツよりもはるかに深かった。医療制度を運営する国民医療制度(NHS)傘下の病院・診療所はパンデミック初期、医療崩壊が現実になった。

同国の医療DXは「医療も介護もデジタルファースト」をうたった19年のNHS長期計画が原点だ。これを足がかりに、医療崩壊に直面したジョンソン保守党政権はデジタル化を遮二無二推し進めた。ハンコック保健相(当時)は「全てのGP(家庭医)はリモート診察をデフォルトに」と宣言したが、のちに女性問題で辞任することになる。

独立系研究機関ナフィールド・トラストのカリー局長補佐は「デジタルで問題が魔法のように解消するという期待が政治家には強すぎる」と、冷ややかにみていた。

コロナ後、情勢が落ち着くにつれGP診療所で重い役割を果たすようになったのが、受診予約を入れた患者のトリアージを一手に引き受ける受付係だ。治療の優先順位だけでなく、診察は対面かオンラインか、担当するのはGPかナースプラクティショナー(診療看護師)か――などを仕分けしてゆく。

この機能を医療職以外が担うのには賛否あろうが、勤務医の働き方改革が迫られている日本の病院にも参考になる点はあろう。


◎どこが「DXで医療再生」?

医療再生にはDXが必要条件になるという方向性は英独に一致していた」はずなのに、英国に関しては「医療崩壊に直面したジョンソン保守党政権」が「デジタル化を遮二無二推し進めた」ものの上手くいかなかったという話になっている。なのに「医療再生にはDXが必要条件」なのか。「コロナ後、情勢が落ち着くにつれGP診療所で重い役割を果たすようになったのが、受診予約を入れた患者のトリアージを一手に引き受ける受付係」だとしたら「DX」が「医療再生」の原動力になっているようには見えない。

そして記事は以下のように終わる。


【日経の記事】

医療制度はどの国にも一長一短ある。日本とは対照的に、医療機関へのアクセスを厳格に制限しているNHSは、18週間以上の手術待ち患者を760万人抱えている。この英国医療最大の弱点をDXがどこまで救うのか。次なる課題である。


◎結局あまり意味がなさそうだが…

デジタル化を遮二無二推し進めた」英国では「18週間以上の手術待ち患者を760万人抱えている」らしい。なのに「この英国医療最大の弱点」を「DX」が救うのか。結局「DX」と「医療再生」はあまり関係なさそうという感想しか持てない。


※今回取り上げた記事「核心:英独にみた医療DXの功罪~EU水準に追いつけ日本」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD280TR0Y3A920C2000000/


※記事の評価はD(問題あり)。大林尚編集委員への評価はC(平均的)からDへ引き下げる。大林編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

大林尚編集委員の「人口戦略」が見えない日経「核心~今年は島根県を失うのか」https://kagehidehiko.blogspot.com/2022/04/blog-post_4.html

年金70歳支給開始を「コペルニクス的転換」と日経 大林尚上級論説委員は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/70.html

「オンライン診療、恒久化の議論迷走」を描けていない日経 大林尚編集委員「真相深層」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/blog-post_21.html

「財政破綻はある日突然」? 日経 大林尚上級論説委員「核心」に見える根拠なき信仰https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/06/blog-post_28.html


日経 大林尚編集委員への疑問(1) 「核心」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_72.html

日経 大林尚編集委員への疑問(2) 「核心」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_53.html

日経 大林尚編集委員への疑問(3) 「景気指標」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post.html

なぜ大林尚編集委員? 日経「試練のユーロ、もがく欧州」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_8.html

単なる出張報告? 日経 大林尚編集委員「核心」への失望
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_13.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_16.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_17.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_33.html

まさに紙面の無駄遣い 日経 大林尚欧州総局長の「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_18.html

「英EU離脱」で日経 大林尚欧州総局長が見せた事実誤認
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_25.html

「英米」に関する日経 大林尚欧州総局長の不可解な説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_60.html

過去は変更可能? 日経 大林尚上級論説委員の奇妙な解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_14.html

年金に関する誤解が見える日経 大林尚上級論説委員「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/blog-post_6.html

今回も問題あり 日経 大林尚論説委員「核心~高リターンは高リスク」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_28.html

日経 大林尚論説委員の説明下手が目立つ「核心~大戦100年、欧州の復元力は」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/100.html

株安でも「根拠なき楽観」? 日経 大林尚上級論説委員「核心」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_20.html

日経 大林尚上級論説委員の「核心~桜を見る会と規制改革」に見える問題
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/blog-post_25.html

2020年も苦しい日経 大林尚上級論説委員「核心~選挙巧者のボリスノミクス」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/2020.html

2023年9月7日木曜日

店舗に張り付いて客単価を調べた日経の安西明秀記者は面白いかも

日本経済新聞の安西明秀記者は粗削りだが面白いかも。7日の朝刊 投資情報面に載った「記者の目:コメダ、群抜く収益力~損益分岐点比率低く 店舗数ドトール猛追、客単価の高さ強み」という記事を読んでそう感じた。ツッコミを入れながら中身を見ていきたい。

宮島連絡船

【日経の記事】

名古屋発祥の喫茶店「コメダ珈琲店」を展開するコメダホールディングスが首都圏で攻勢に出ている。店舗数はグループ1000店に達しスターバックスコーヒージャパンやドトールコーヒーを猛追する。ビジネス街でも豊富なメニューで居間でくつろぐような需要を掘り起こせるとみて、都心部を開拓しようとしている。

7月、JR新橋駅から徒歩3分のビルにコメダ珈琲店「新橋烏森通り店」が開業した。都内で働く50代会社員は「コメダは昔懐かしい雰囲気が好きで利用する」と話す。


◎具体的な数字を見せないと…

コメダホールディングスが首都圏で攻勢に出ている」と冒頭で打ち出したのだから、出店数などの数字を見せて「首都圏で攻勢に出ている」実態を読者に伝えないと。しかし出てくるのは「『新橋烏森通り店』が開業した」という話だけ。これでは辛い。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

いちよし経済研究所の鮫島誠一郎氏は新型コロナウイルス禍が本格化する前の2019年度の外食各社の損益分岐点比率を調べた。損益分岐点比率は売上高に対して利益が出る水準を示し、低いほど収益力が高い。ドトール・日レスホールディングスは83%だった。ファミリーレストランなど他の外食も70~90%程度だが、コメダは29%と群を抜いて低かった

コメダに財務的な強みをもたらすのは95%に達するフランチャイズチェーン(FC)だ。直営店は限られるため、実態は外食というよりもロイヤルティー収入も得る食品卸に近い。「コーヒーやパンは自社製造だが多額の設備投資は必要ない。店舗の建物など固定資産はFC側のものだ」(コメダ)。少ない資産と低いコストが収益力の高さとなっている。


◎FC比率の問題なら…

見出しでも「損益分岐点比率低く」と打ち出しているが、その要因が「FC比率が高いから」ならば、あまり意味はない。固定費負担が少ないのだから「損益分岐点比率」が低く出るのは当然。同じくらいのFC比率の同業他社と比べても「損益分岐点比率」が低いのかどうかが知りたい。

さらに見ていく。一番気になったくだりだ。


【日経の記事】

コメダの強みはそれだけではない。週末のお昼時、名古屋市の都心部・栄周辺にある3大チェーンの店舗で記者が合計100人の来店客の注文を観察した。ドトールコーヒーショップの客単価は約530円、スタバは約570円だったのに対し、コメダは約850円で客単価の高さが際立つ。


◎どうやって「観察」?

週末のお昼時、名古屋市の都心部・栄周辺にある3大チェーンの店舗で記者が合計100人の来店客の注文を観察した」らしい。各社が「客単価」を公表していないということか。安西記者の頑張りには敬意を表したい。ここまでやる記者はなかなかいないだろう。

ただ、実際にどうやって「観察」したのかは気になる。レジ近くの席に張り付いて店員が客に知らせる合計金額を聞き取っていたのか。ちょっと怪しい感じにはなりそう。

さらに続きを見ていこう。


【日経の記事】

コメダの客層は家族連れなどが多く食事を長時間楽しんでいる姿が目立つ。アイスコーヒー(480円)だけでなく、グラタン(910円)や熱々のパンにソフトクリームを乗せた看板スイーツ、シロノワール(680円)などフードが豊富だ。鮫島氏は「コメダの強みはフード。差異化できる」と指摘する。


◎これだけ?

コメダの強みはフード」というコメントを使っているが、記事の説明では「強み」は感じられない。「フードが豊富」なのが「強み」なら他社が追随するのは難しくなさそう。「いや難しい」という話なら、なぜそうなるのかを解説してほしい。

さらに見ていく。


【日経の記事】

コメダ珈琲店は1968年に名古屋で1号店を開業した。500店達成は13年で、それから10年間で店舗網を倍増させた。和風喫茶などの他業態や海外を除き、8月末時点で国内で944店のコメダ珈琲店を運営するが、コメダHDの甘利祐一社長は「首都圏をはじめ、国内にまだまだ出店余地がある」と意気込む。


◎首都圏以外の出店余地は?

首都圏をはじめ、国内にまだまだ出店余地がある」という社長コメントを使うのならば「首都圏」以外でどこに「出店余地」があるのかは触れてほしかった。

終盤を一気に見ていこう。


【日経の記事】

スターバックスコーヒージャパンは6月末で1846店を展開。ドトールコーヒーは「エクセルシオールカフェ」などを除いた主力業態の「ドトールコーヒーショップ」に限れば8月末で1067店で「ようやく背中が見えてきた」(事業会社コメダの木村雄一郎執行役員)。

コメダの24年2月期は売上高にあたる売上収益が前期比12%増の425億円、純利益が8%増の58億円で過去最高を見込む。営業利益率は外食では異例の20%を超え、自己資本利益率(ROE)も14%と高水準だ。

コメダは3年後にはグループ1200店を計画しており、今後は人手不足の中の接客教育など、居心地のいい空間を保つためのFC支援も欠かせない。さらなる飛躍には海外市場の攻略も重要だ。


◎「ようやく背中が見えてきた」?

ようやく背中が見えてきた」という発言は実際にあったのだろう。だが「944店」と「1067店」ならば大差はない。記事中で使うコメントとして適切なのか疑問が残る。

営業利益率は外食では異例の20%を超え」に関してはFC比率95%という店舗構成を考えると驚くような数字ではない。FC中心の同業他社の中でも「異例の20%を超え」ならば、そこを強調してもいいだろうが…。

結論部分にも不満が残る。「今後は人手不足の中の接客教育など、居心地のいい空間を保つためのFC支援も欠かせない。さらなる飛躍には海外市場の攻略も重要だ」と訴えたかったのならば「FC支援」や「海外市場の攻略」にも紙幅を割くべきだ。今回はそこは要らないと判断したのならば、別の結論にしないと説得力は生まれない。

「結論に説得力を持たせるために何を材料として提示すべきか」を意識して記事を書けば完成度の高い記事になりやすい。そのことを肝に銘じてほしい。


※今回取り上げた記事「記者の目:コメダ、群抜く収益力~損益分岐点比率低く 店舗数ドトール猛追、客単価の高さ強み」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230907&ng=DGKKZO74225350W3A900C2DTA000


※記事の評価はD(問題あり)。客単価を店舗に出向いて調べた頑張りを買って安西明秀記者への評価はC(平均的)とする。

2023年7月9日日曜日

長すぎる昔話は何のため? 日経の赤川省吾 欧州総局長「風見鶏~ポスト・プーチンの幻想」

7月9日の日本経済新聞朝刊総合3面に欧州総局長の赤川省吾氏が書いた「風見鶏~ポスト・プーチンの幻想」という記事は出来が悪かった。中身を見ながら赤川氏に記事の書き方を助言したい。まず長すぎる昔話を見ていこう。

宮島連絡船


【日経の記事】

ロシアの民間軍事会社ワグネルの反乱で、プーチン体制を支える軍・治安組織に亀裂があることが露呈した。ロシアはどこに向かうのか。東西冷戦下の共産諸国で起きた混乱を基に展望してみる。

今年2月、冷戦下のソ連・東欧ブロックを熟知する政治家が静かに人生の幕をおろした。ハンス・モドロウ、95歳。共産圏の中核国だった東ドイツの独裁政党・ドイツ社会主義統一党(SED)の幹部で、盟主ソ連を含む東側陣営に幅広い人脈を築いた人物である。

穏健派だったモドロウ氏の別名は「東独のゴルバチョフ」。東欧革命のうねりが最高潮に達した1989年、ドレスデン県第1書記(県知事)から閣僚評議会議長(首相)に就く。沈みゆく共産圏を立て直そうともがいたものの、まもなく東側陣営は瓦解した。

実はモドロウ氏をもっと早い段階で東独の国家指導者に担ぎ、ペレストロイカ(改革)を掲げるソ連指導者ゴルバチョフ氏とタッグを組んで共産圏を再興するという極秘計画があった。

策を練ったのは東独の秘密警察・国家保安省の退役将校。ソ連国家保安委員会(KGB)の協力のもとに当時、権勢を振るっていた保守強硬派の国家指導者ホーネッカーに対するクーデターを画策した。87年、首謀者が秘密裏に集まり、モドロウ氏に決起を促したと噂される。

生前のモドロウ氏に真偽を確かめたことがある

KGB高官らに求められて顔を出したことは認める一方、「体制転覆の話はしていない」。経済政策を巡る議論をしただけという。「私が国家を率いるのにふさわしい人物かクーデター派が見極める会合だったのだろう」(モドロウ氏)

結局、モドロウ氏は動かなかった。歴史に「もしも」は禁物だが、決起したら失敗していた。反乱の兆しをつかんだホーネッカーは、忠誠を誓う主流派の治安要員に監視させていた。

クーデター計画は幻に終わったが、国家の先行きへの危機感からエリート層が一枚岩でなくなった状況はいまのロシアに似る。東独は89年、市民が西独国境に押し寄せてベルリンの壁が崩壊した。

この策が練られた頃、ロシアのプーチン大統領はKGB職員として東独に駐在していた。上司が絡む密計を知っていた可能性がある。そうでなくてもエリートが割れれば指導者の威信に傷がつくことは東欧革命で自らが体験したはずだ。


◎バランスを考えよう!

ここまでの昔話で記事の3分の2を占める。さすがに長い。ベテランの筆者が書くコラムは昔話が長くなりやすい。「生前のモドロウ氏に真偽を確かめたことがある」という話をしたくて長々と思い出を語ってしまったということか。それでも「ロシアはどこに向かうのか」をこの昔話からきちんと「展望」できているならまだいい。しかし、そうはなっていない。

続きを見ていく。


【日経の記事】

疑心暗鬼の権力者は独裁化する。ある欧州主要国で外交政策を担当する与党重鎮は心配する。「ロシアはスターリン時代に逆戻りするかもしれない」

プーチン体制はいつまで続くのか。東独と異なり混乱を恐れるロシア国民は民衆蜂起ではなく耐乏を選ぶとの見立てが欧州では多い。軍・治安組織でワグネルに続く反逆が起きるかがカギを握る。

反乱は保守的すぎる独裁者の「終わりの始まり」となるだけで民主化へのカウントダウンとは限らない。ポスト・プーチンでただちに民主国家になるというのは甘い幻想だ


◎だったら何のために…

かつての「東ドイツ」と同じ道をロシアが辿るという見方ならば昔話をするのも分かる。しかし「東独と異なり混乱を恐れるロシア国民は民衆蜂起ではなく耐乏を選ぶとの見立てが欧州では多い」「ポスト・プーチンでただちに民主国家になるというのは甘い幻想だ」と赤川氏は書いている。だったら何のために「東ドイツ」の話を長々としたのか。

記事の終盤も見ておこう。


【日経の記事】

次の権力者がウクライナと停戦しても欧州は以前のようなロシア融和策に戻らない。「全占領地の返還」と「戦争犯罪の謝罪」がロシア制裁を解除する条件だと外交当局者は口をそろえる。高いハードルにより制裁の半ば恒久化が視野に入る。

中国はデリスキング(リスク低減)、ロシアはデカップリング(分断)。それが主要7カ国(G7)の外交指針となり、ロシア貿易はさらに制約が強まる。ロシアでの資源権益にこだわる日本に独裁国家と手を切る覚悟はあるだろうか


◎この結論では…

コラムを書く時は「何を訴えたいのか」をまず考えてほしい。それを結論部分に持ってくる。今回の記事で言えば「ロシアでの資源権益にこだわる日本に独裁国家と手を切る覚悟はあるだろうか」だ。結論に説得力を持たせられるように記事を組み立てるのが実力のある書き手だ。残念ながら赤川氏はその域に達していない。

ロシアでの資源権益にこだわる日本に独裁国家と手を切る覚悟はあるだろうか」といった話は最後に取って付けたように出てくる。赤川氏には「モドロウ氏」の昔話をしたいという考えが最初にあり、結論部分を適当に作って記事を締めたのだろう。だから昔話がやたらと長く、その昔話が結論部分とリンクしていない。それでは説得力のあるコラムにならないことに赤川氏は気付いていないのだろうか。


※今回取り上げた記事「風見鶏~ポスト・プーチンの幻想」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230709&ng=DGKKZO72611600Y3A700C2EA3000


※記事の評価はD(問題あり)。赤川省吾 欧州総局長への評価もDとする。

2023年6月14日水曜日

日経 藤田和明上級論説委員の「中外時評~キーエンスを見抜いた投資家」に欠けていること

日本経済新聞の藤田和明上級論説委員が相変わらず苦しい。14日の朝刊オピニオン面に載った「中外時評~キーエンスを見抜いた投資家」という記事も中身が乏しかった。何が問題なのか。内容を見ながら助言したい。

錦帯橋

【日経の記事】 

大企業も多くは最初はベンチャーだ。屈指の高収益で知られるセンサー大手のキーエンス。株式上場は1987年10月で大阪証券取引所第2部だった。売上高はまだ100億円に満たなかったが、高い将来性を見抜いて上場直後から投資したファンドマネジャーがいる。現在はフィデリティ・ジャパンの副会長をつとめる蔵元康雄氏(87)だ。

蔵元氏は69年に米資産運用会社フィデリティに入社、同社最初の日本株アナリストとなり東京事務所を開設した。個々の企業を徹底的に歩いて調査し投資するフィデリティの哲学を、日本で実践した。

「面白い会社がある」。キーエンスの噂を耳にし、創業者の滝崎武光氏にアポの電話を入れた。返事は「日中は忙しいから18時に」。本社は大阪府高槻市。駅から住宅地を抜け、まだ規模の小さい当時の拠点も訪れた。

40%という高い売上高営業利益率に驚いた。工場を持たないファブレスで営業社員の大半がエンジニア。顧客のニーズを聞いて歩き、すぐ会社に報告して新製品を設計、直販する。中間マージンをそぎ落とす効率経営だった。

滝崎氏は当時40代。強い起業家精神と新製品開発へのひたむきな情熱にひかれた。しかも「社用車なし・接待なし・ゴルフなし」の3つのレスだという。極めて高いコスト意識に再度驚かされた。

大証2部上場時の時価総額は800億円弱。それがいま17兆円だ。35年で200倍以上になった。「株価ではなく、会社を買うのが投資の本質だ。はっきりした理念を持つ経営者の会社を選び、長期の成長に参画するのが株主になるということ」と蔵元氏はいう。


◎肝心なことを書かないと…

キーエンスを見抜いた投資家」として「蔵元康雄氏」を取り上げるなら、その実績はしっかり説明してほしい。「はっきりした理念を持つ経営者の会社を選び、長期の成長に参画するのが株主になるということ」と「蔵元康雄氏」は言っているのだから、かなりの資金を投じて長期保有し莫大なリターンを得たのだろう。しかし、その辺りの記述が見当たらない。

キーエンスの時価総額が「35年で200倍以上になった」のは分かった。問題は「蔵元康雄氏」が関わった「フィデリティ」のファンドだ。そこが「35年」でどうなったのかを見せるべきだ。ファンドが消えていたりキーエンス株を手放していたりした場合、記事の前提は崩れてしまう。それを隠すためにあえて触れなかったのか。それとも書き手としての力量不足で言及を怠ったのか。いずれにしても問題ありだ。

そもそも「上場直後」だと投資のタイミングとしてはそれほど早くない。「キーエンスを見抜いた投資家」ならば公募・売り出しに応募して「上場前」から投資していてほしい。「40%という高い売上高営業利益率に驚いた」のは「上場直後」なのだろう。だとしたら、むしろ遅い。

ついでに言うと「『社用車なし・接待なし・ゴルフなし』の3つのレスだという。極めて高いコスト意識に再度驚かされた」という説明も引っかかる。「ゴルフなし」が「極めて高いコスト意識」と何か関係あるのか。接待ゴルフ禁止ならば「接待なし」に含まれるはず。社内のゴルフコンペなども禁止していたのならば、休日の過ごし方にまで介入するダメな会社だ。藤田上級論説委員はその辺りが気にならないのか。

記事の続きを見ていこう。


【日経の記事】

キーエンスのほか、京セラやセコム、ニトリなど若き経営者に会って投資先に選んできた。「現在の貸借対照表ではなく、将来の損益計算書を考える」。5年、10年先をみて有望な企業を見いだし、資金面から応援することで成長の果実を得る。それが資産運用業の神髄だといえる。


◎上場直後に投資したのなら…

5年、10年先をみて有望な企業を見いだし、資金面から応援することで成長の果実を得る。それが資産運用業の神髄だといえる」のならば「上場直後」にキーエンス株を買った「蔵元康雄氏」のファンドはキーエンスを「資金面から応援」できていない気がする。「上場直後」に増資したとは考えにくい。「大阪証券取引所」が用意した流通市場でキーエンス株を買ってもキーエンスに「資金」は入らない。そこは藤田上級論説委員も分かるはずだ。

記事の結論にも注文を付けておこう。


【日経の記事】

目の前の株価だけをみれば常に揺れている。ただその底流で第2、第3のキーエンスのような物語が進んでいるはずだ。資産運用業を通じた個人マネーが企業の長期成長を支え、果実が配られる。そうしたストーリーの積み重ねが今後の日本に必要になる


◎そんな必要ある?

第2、第3のキーエンス」が存在するとして「資産運用業を通じた個人マネーが企業の長期成長を支え」る必要があるだろうか。「第2、第3のキーエンス」を探している個人投資家は個別株に投資すればいい(未公開株についてはここでは考えない)。「資産運用業を通じ」て投資する場合はアクティブファンドを買うことになるだろう。しかし手数料が高い。アクティブファンドの高コストを藤田上級論説委員はどうやって正当化するのか。「高いコストを補って余りあるほどリターンが高い」とはなっていないことを藤田上級論説委員も知っているはずだ。

資産運用業を通じた個人マネー」はインデックスファンドに向かうのが好ましい(天才的な眼力がある個人を除く)。そうなると「第2、第3のキーエンス」を探すような話ではなくなる。それではダメで「資産運用業を通じた個人マネー」がアクティブファンドに向かうべきだと藤田上級論説委員が考えるのならば、その理由を記してほしかった。個人投資家をアクティブファンドへ誘導すれば「資産運用業」界は潤うだろうが投資家のためにはならない。


※今回取り上げた記事「中外時評~キーエンスを見抜いた投資家

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230614&ng=DGKKZO71842690T10C23A6TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。藤田和明上級論説委員への評価はDを維持する。藤田上級論説委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

マーケットへの理解不足が目立つ日経 藤田和明編集委員の「スクランブル」https://kagehidehiko.blogspot.com/2023/04/blog-post_18.html

IT大手にマネーが「一極集中」と日経 藤田和明編集委員・後藤達也記者は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/it_26.html

「FANG」は3社? 日経 藤田和明編集委員「一目均衡」の説明不足
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/fang.html

改善は見られるが…日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_2.html

「中国株は日本の01年」に無理がある日経 藤田和明編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/01.html

「カラー取引」の説明不足に見える日経 藤田和明編集委員の限界
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_37.html

東証は「4市場」のみ? 日経 藤田和明編集委員「ニッキィの大疑問」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_28.html

合格点には遠い日経 藤田和明編集委員の「スクランブル」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_10.html

説明に無理がある日経 藤田和明編集委員「一目均衡~次世代に資本のバトンを」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_28.html

新型肺炎が「ブラックスワン」に? 日経 藤田和明編集委員の苦しい解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_4.html

「パンデミック」の基準は? 日経1面「日米欧、時価総額1割減」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/11.html

「訴えたいこと」がないのが透けて見える日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/09/blog-post_74.html

2023年6月5日月曜日

日経 滝田洋一特任編集委員に引退勧告 「核心~日本株、33年ぶりの檜舞台」

日本経済新聞社はいつまで滝田洋一特任編集委員に記事を書かせるつもりなのだろう。60代後半の滝田氏に特任編集委員の肩書を与える理由がよく分からない。記事のレベルが卓越しているなら文句はないが現実は逆だ。5日の朝刊オピニオン面に載った「核心~日本株、33年ぶりの檜舞台」という記事を読むと引退勧告したくなる。中身を見ながらあれこれツッコミを入れていこう。

宮島連絡船

【日経の記事】

日本の街を歩き回る訪日外国人(インバウンド)。羽振りよく買い物を楽しみ、今年1~3月の1人当たり旅行消費額は21.2万円にのぼった。新型コロナ禍前の2019年1~3月には14.7万円だったのと比べて44%も増えた。

株式市場では外国人投資家が4月以降、日本株を爆買いしている。株式買越額は5月第4週までの9週連続で合計7.4兆円に(財務省調べ)。日経平均株価は3万1000円台に乗せ、33年ぶりにバブル後の高値をつけた。

外国勢の日本株投資とインバウンド消費。両者に共通するのは、円安で日本がとても「お買い得」なことだ。ドルが元手の外国人投資家にとって、日本株の値札は「ドル建ての日経平均株価」である。

ドル建て日経平均が290ドルに迫る過去最高値をつけたのは、21年2月のことだ。円安が進んだ結果、足元ではドル建て日経平均は220ドル台にとどまっている

だから日本の投資家は高値警戒感を抱く3万1000円台という水準も、外国勢には「お値打ち価格」。ニューヨークのビジネスホテル並みの料金で、東京の一流ホテルに泊まれる感覚といえる。


◎なぜ日本株が「お買い得」?

日本株に関して円安で「お買い得」になると見る理由が謎だ。PERやPBRといった指標で割安感を見る場合、円建てでも「ドル建て」でも数値は変わらない。

ドル建て日経平均が290ドルに迫る過去最高値をつけたのは、21年2月」で、これと比較して現状が「220ドル台」だから「お買い得」と滝田氏は見ているのかもしれない。あまり意味のない比較だと思うが、これを受け入れるとしても、だったら円建ての日経平均に関しても「過去最高値」(1989年)と比べるべきだ。そうなると「お買い得」感に大差はない。

さらにツッコミを入れていく。


【日経の記事】

経済全体でみると、30年近く続いたデフレからの出口が近づく。今年1~3月期の国内総生産(GDP)は実質で前期比年率1.6%増えたが、名目では同7.1%増に。名目GDPは年換算で570兆円と過去最高を更新した。

企業の売り上げも利益も、給与明細も、政府の税収も、そして株価も、経済活動でまず目に入るのは名目値である。デフレから脱却するにつれてそれらの数字は自然に伸びやすくなる。日本がその転換点を迎えたとみれば、日本買いの好機ともなる。


◎「30年近く続いたデフレ」?

30年近く続いたデフレからの出口が近づく」との認識なら経済関連の記事を書くのはやめた方がいい。まず「デフレ」は「30年近く続い」てはいない。過去30年の物価はほぼ横ばい。わずかな下落を含めても物価上昇率がマイナスだった年は半分ほどだ。

デフレからの出口が近づく」と書いているので「現状はまだデフレ」と滝田氏は信じているのだろう。ちなみに岸田文雄首相は、黒田東彦氏が日銀総裁を務めた10年間の評価について「デフレではない状況を作り出したのは大きな成果」だと述べたらしい。滝田氏から見ると「首相は分かっていない。まだまだデフレなのに…」となるのだろうか。

続きを見ていく。


【日経の記事】

思い出すのは、速水優総裁時代に日銀が唱えた「ダム論」である。ダム(企業)の水(収益)が、やがてあふれ出し設備投資や個人消費に向かう――というものだ。

だがモノよりカネが値打ちを持つデフレ下では、ダムの水はたまり続け、企業の内部留保(利益剰余金)は500兆円を超えた。そのデフレが終わるとなると、ためていたカネを動かす出番となる。


◎「内部留保=カネ」?

上記のくだりから判断すると「内部留保=カネ」と滝田氏は思い込んでいるのだろう。よくある誤解だが、内部留保は全て現預金として蓄えられている訳ではない。設備投資などに使って企業の手元には既に「カネ」がない場合もある。

滝田氏は文の作り方もうまくない。1つ例を挙げよう。


【日経の記事】

賃上げのおかげで停滞していた消費も持ち直している。それは企業活動にも追い風だ。ヒト、モノ、カネが回り始めれば、日本経済は長期停滞を脱却する窓が開く。


◎「賃上げのおかげで停滞」?

賃上げのおかげで停滞していた消費も持ち直している」と書くと「『賃上げのおかげで停滞していた消費』も持ち直している」とも取れる。「停滞していた消費も賃上げのおかげで持ち直している」と直せば問題は解消する。

ベテランの書き手でありながら、この辺りの配慮ができないところにも滝田氏の限界が見える。やはり引退勧告をしておくべきだろう。


※今回取り上げた記事「核心~日本株、33年ぶりの檜舞台

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230605&ng=DGKKZO71562470S3A600C2TCS000


※記事の評価はD(問題あり)。滝田洋一特任編集委員への評価もDを維持する。滝田特任編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

融資を「ヘリマネ」と誤解した日経 滝田洋一編集委員の「核心」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/05/blog-post.html

日経 滝田洋一編集委員 「核心」に見える問題点(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_4.html

日経 滝田洋一編集委員 「核心」に見える問題点(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_24.html

日経 滝田洋一編集委員 「核心」に見える問題点(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_5.html

引退考えるべき時期? 日経 滝田洋一編集委員 「核心」(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_32.html

引退考えるべき時期? 日経 滝田洋一編集委員 「核心」(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_40.html

市場をまともに見てない? 日経 滝田洋一編集委員「羅針盤」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_69.html

日経 滝田洋一編集委員「リーマンの教訓 今こそ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_16.html

市場への理解が乏しい日経 滝田洋一編集委員「羅針盤」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_9.html

株式も「空前の低利回り」? 日経 滝田洋一編集委員の怪しい解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_19.html

今回も市場への理解不足が見える日経 滝田洋一編集委員「核心」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_25.html

「TPP11とEUの大連携」を日経 滝田洋一編集委員は「秘策」と言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/tpp11eu.html

2023年5月23日火曜日

パワハラの具体的内容に欠けるFACTA「狂える『近鉄の老虎』小林哲也会長」

FACTAが経営者を批判する記事は総じて品がない。それでも事実の裏付けがしっかりしていればまだいい。しかし、そこも怪しい。6月号に載った「狂える『近鉄の老虎』小林哲也会長」 という記事も例外ではない。中身を見ながら問題点を指摘したい。

宮島

【FACTAの記事】

純粋持ち株会社の近鉄GHDへ15年に移行すると決めたのは小林氏だ。自らは事業を行わず、グループ各社の株式を保有することでグループ会社の事業をコントロールすることだけを事業目的とするのが純粋持ち株会社だ。小林氏はKNT|CTHDやKNTの一体何をコントロールしていたのか。取締役としての善管注意義務をどこに置き忘れたのか。自身の監督責任を棚に上げて小林氏は米田氏を詰問し、罵詈雑言を浴びせまくった。御年79歳の小林氏はアンガーコントロールができないご高齢なのだ。同業の私鉄各社の社長・会長たちは普段の小林氏の言動を見聞きして「あのパワーハラスメントはひどすぎる」と眉をひそめる。


◎どんな「罵詈雑言」?

小林氏は米田氏を詰問し、罵詈雑言を浴びせまくった」と言うものの具体的にどんな言葉を発したのか記していない。なのに「同業の私鉄各社の社長・会長たちは普段の小林氏の言動を見聞きして『あのパワーハラスメントはひどすぎる』と眉をひそめる」と発言の主を特定できないコメントを使って「パワーハラスメント」があったと印象付ける。これは頂けない。

記事の続きも見ておく。


【FACTAの記事】

小林氏は早稲田大学在学中に始めた少林寺拳法にのめり込み、一時は関西実業団少林寺拳法連盟の会長を務め、近鉄社内にも実業団少林寺拳法連盟の支部を作らせた。物理的パワハラもやりかねない雰囲気だから周囲が震え上がる。ただし典型的な内弁慶で、一歩会社の外に出ると借りてきた猫のようにおとなしくなる。


◎「やりかねない」と言われても…

物理的パワハラもやりかねない雰囲気だから周囲が震え上がる」という説明も感心しない。「物理的パワハラもやりかねない雰囲気」ということは「物理的パワハラ」の事実を確認できていないのだろう。なのに「物理的パワハラもやりかねない」人物だとイメージさせる書き方をするのはいかがなものか。

記事には他にも引っかかる部分があった。


【FACTAの記事】

「小林氏が地位に恋々とするのは、小林夫人が近鉄GHDのファーストレディーであり続けたいからだ」と解説する近鉄OBもいる。雑誌や新聞に小林氏を批判する記事が出ると、夫人は「ウチの主人は辞めないといけないのですか」と知り合いに電話をかけまくるという

近鉄GHDのトップ人事撤回を報じた4月25日付の産経新聞朝刊は「企業はトップ人事を発表する前に、新社長を取り巻く問題がないかなどのチェックを当然行う。今回の事態はそれが不十分だったことを示している」と指摘し、小林氏の統治能力に難があることを強くにおわせた。この記事を読んでパニックに陥った小林夫人からの電話ラッシュに知人たちはさぞや困惑したことだろう


◎どうでもよい話では?

小林夫人」の話は要らない。「小林夫人」が近鉄の経営に介入しているならまだ分かる。「知り合いに電話をかけまくる」だけなら取り上げる意味はない。あと「この記事を読んでパニックに陥った小林夫人からの電話ラッシュに知人たちはさぞや困惑したことだろう」と書いているが筆者は「4月25日付の産経新聞朝刊」が出た後に「小林夫人からの電話ラッシュ」があったかどうか確認したのだろうか。

記事には気になる点がまだある。


【FACTAの記事】

小林氏が一旦は会長を退くと決断したのは昨年末、三重交通GHDのO会長が退任の意向を固めたことが影響したとの見方もある。O氏は近鉄の社長候補に名前が挙がっていたが、前任の山口昌紀社長が小林氏を選んだために三重交通に転じた経緯がある。関西財界ではO氏の知名度が圧倒的に高く、小林氏は本体社長に就いた後も、その動向を気にしていたフシがある。3歳若いO氏が先に退けば、小林氏の居座りがさらに目立ってしまうために、仕方なく取締役相談役になると3月に発表した、というのだ。


◎何のための「O会長」

O会長」をイニシャルにしているのが意味不明。「昨年末、三重交通GHDのO会長が退任の意向を固めた」などと書いているので人物は簡単に特定できる。記事中で本名を隠す意味がない。

他にも気になる点はある。

【FACTAの記事】

KNT|CTHDは調査委員会を立ち上げ、事実の解明と事態収拾を急ぐ。「KNT問題が解決するまでの小林氏留任」というのが近鉄GHDの公式見解。だが調査委員会が結果を出すまでに少なくとも3~6カ月はかかる。小林氏が半年だけ会長任期を延長するというのは非現実的。24年6月までやれば2025年国際博覧会(大阪・関西万博)は目前だ。在任中のレガシーがない小林氏だけに「万博で一旗揚げる」と言い出しかねない。近鉄GHD傘下の全従業員2万6605人(連結ベース)が恐れていた最悪のシナリオが浮上する


◎本当に「全従業員」が恐れていた?

近鉄GHD傘下の全従業員2万6605人(連結ベース)が恐れていた最悪のシナリオが浮上する」という話に至っては明らかにおおげさ。「全従業員2万6605人」に聞き取り調査をした訳でもないだろう。

記事の最終段落も見ておこう。


【FACTAの記事】

思うままに感情を爆発させるパワハラ行為は正しいのか、近鉄GHD内の人事異動に正当性はあるか、自らの出処進退に驕りや打算はないか、と熟考できないはずはない――。少林寺拳法とは、単に体を鍛える運動ではなく、正義を愛し人道を重んじる「人づくり」の行なのだから。


◎根拠を示さないと…

思うままに感情を爆発させるパワハラ行為は正しいのか」と問うなら「小林哲也会長」に「パワハラ行為」があったと言える根拠が欲しい。しかし今回の記事にはそれが見当たらない。となるとただ悪口を並べただけの記事に見えてしまう。


※今回取り上げた記事「狂える『近鉄の老虎』小林哲也会長」 https://facta.co.jp/article/202306019.html


※記事の評価はE(大いに問題あり)

2023年5月13日土曜日

民間の医療保険へと読者を誘導する日経 土井誠司記者の罪

民間の医療保険は「愚か者向けの保険」と言っても過言ではない。しかし日本経済新聞の土井誠司記者が13日の朝刊マネーの学び面に書いた「働く女性、がん治療費に備え~まず50万円超、生活費も貯蓄」という記事では民間の医療保険を前向きに取り上げていた。この記事を参考にして無駄な保険に入ってしまう読者がいるかもと考えると罪深い。

錦帯橋

医療費の負担を抑える健康保険の高額療養費制度を利用できれば、入院・入院外合わせても10万円未満で収まるケースもありそうだ」と「高額療養費制度」について触れてはいる。この制度があれば追加で民間の医療保険に入る必要はない。しかし「治療にかかる費用は病院に払う医療費だけではない」などと言って民間の医療保険に誘導していく。そこを見ていこう。


【日経の記事】

こうした制度を知ったうえで蓄えが足りなかったり、治療が長引くのが不安だったりするなら民間の保険が選択肢になる。若い女性では預貯金が十分でないとか、貯金があっても教育費や住宅ローンの返済などで使い道が決まっている場合があり、保険の必要性が高そうだ。


◎「保険の必要性が高そう」?

若い女性では預貯金が十分でないとか、貯金があっても教育費や住宅ローンの返済などで使い道が決まっている場合があり、保険の必要性が高そうだ」という説明が謎。「預貯金が十分でないとか、貯金があっても教育費や住宅ローンの返済などで使い道が決まっている場合」は若くない女性でも男性でも当たり前にある。

若い女性」はがんなどになるリスクが「若くない女性」よりも小さい。なので公的保険に民間の医療保険を上乗せする理由は「若くない女性」以上になくなる。「預貯金が十分でない」なら余計な保険に加入せず「預貯金」を増やす方が得策だ。「3割負担の現役世代なら窓口で払うのは、乳がんが約18万円と約1万8000円、子宮がんは約19万円と約1万円」と土井記者も書いている。支払い額20万円程度のリスクに保険で備える必要はない。

差額ベッド代」などがかかると心配するなら「預貯金」を増やして対応すればいい。その前にがんになったら個室を諦めれば済む。必要な医療が受けられなくなる訳ではない。

記事の続きを見ていこう。


【日経の記事】

女性向け医療保険は、女性特有や女性に多い病気に対する保障を厚くした商品だ。通常の医療保険に女性向けの特約を付加するものもある。乳房や子宮、卵巣の疾病や、妊娠・出産に関する症状などの入院・手術の費用をカバーする。がんは乳がんや子宮がんに限らず、大腸がんや胃がんなど他の部位も対象になる。

「キュア・レディ・ネクスト」はオリックス生命保険の女性向け医療保険。1日当たりの入院日額を通常の医療保険に5000円上乗せし「個室に入りたい女性のニーズにも応えられる」と説明する。上乗せ分を合わせた日額1万円の一般的なプラン(1入院の支払限度日数60日)だと保険料(月額、終身払い)は30歳で2145円、40歳は2410円。がんと診断されたときなどに一時金(50万円)が出る特約を付けると2940円、3435円になる。

三井住友海上あいおい生命保険は医療保険「&LIFE 医療保険A(エース)セレクト」に「女性疾病給付特約」を加えると入院給付金が2倍になる。入院10日目まで一律10万円出るプラン(同60日)は月額の保険料(終身)が30歳が2560円で40歳は2675円。50万円の一時金が出る「ガン診断給付特約」を付けると3147円、3461円になる。

女性向けの医療保険は保障が厚い分、通常の医療保険より保険料は高めだ。加入は30~40代が中心。がんだけでなく、妊娠・出産のリスクや他の病気に備えたいという女性も多いようだ。


◎なぜ特定の保険を紹介?

土井記者はなぜ「キュア・レディ・ネクスト」と「&LIFE 医療保険A(エース)セレクト」を記事で取り上げたのか。「保険料」と「保障」内容を見て、この2つの保険が優れていると見たのなら、まだ分かる。しかし記事にそうした説明はない。結局、特定の保険に誘導する実質的な“広告”になっている。そこが残念。


※今回取り上げた記事「働く女性、がん治療費に備え~まず50万円超、生活費も貯蓄

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230513&ng=DGKKZO70928890S3A510C2PPK000


※記事の評価はD(問題あり)。土井誠司記者への評価もDとする。