2020年4月22日水曜日

原油は「増産競争で市場崩壊」と日経 松尾博文編集委員は言うが…

22日の日本経済新聞朝刊マーケット総合2面に「原油の供給過剰 出口見えず NY原油、初のマイナス価格~増産競争で市場崩壊」という記事が載っている。見出しで引っかかったのが「市場崩壊」だ。冒頭で松尾博文編集委員は以下のように書いている。
筑後川沿いの菜の花(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

米原油市場で先物価格が史上初めて、買い手がつかない「マイナス取引」となった。期近5月物に限る「瞬間風速」とはいえ、産油国の増産競争は市場の崩壊を招いた。出口の見えない供給過剰は原油価格を長期的に低迷させ、新型コロナウイルス危機が終息しても、石油の将来に禍根を残すことになりかねない。



◎「市場の崩壊」とは?

「市場の崩壊」とはどういう状況を指すのだろうか。個人的には「何らかの理由で売買が全く成立しなくなり市場としての機能を果たせなくなること」だと感じる。

であれば「買い手がつかない『マイナス取引』となった」としても「市場の崩壊」は起きていない。市場の価格発見機能も生きている。その価格が「マイナス」となっただけだ。

松尾編集委員は「市場の崩壊」を別の意味で捉えているのかもしれない。しかし、記事中にその説明はない。「需給バランスは崩壊し、市場はOPECの手に負えなくなった」との記述があるので「需給バランスが大きく崩れる=市場の崩壊」と見ているのかもしれないが、一般的な認識とは乖離しているのではないか。

記事にはもう1つ気になる解説があった。

【日経の記事】

問題はコロナ危機が終息した後、石油需要が戻ってくるかだ。新型コロナは社会のありようを変えるきっかけになりうる。テレワークやオンライン授業は意外とうまくいく。多くの人がそんな感想を抱いたはずだ。

コロナ後もこれが定着すれば、世界各地で国際会議が開かれ、通勤ラッシュにもまれる、そんな日常が変わるかもしれない。エネ研の小山氏は「移動に要するエネルギー需要が構造的に抑制される可能性がある。デジタルなど代替手段に置き換えられ、石油需要抑制が進むかもしれない」という。

IEAは「世界エネルギー展望」の最新版で、石油消費は30年代にピークを迎え、乗用車向けに限れば20年代後半にピークを迎えると予測した。コロナ危機はピーク到来を早める可能性がある。

サウジのアブドルアジズ・エネルギー相は英フィナンシャル・タイムズ紙に「石油はまだ数十年、エネルギーの中心であり続ける」と述べた。気付いていないのは産油国だけかもしれない。



◎辻褄は合うような…

「石油消費は30年代にピークを迎え、乗用車向けに限れば20年代後半にピークを迎える」という「予測」と、「石油はまだ数十年、エネルギーの中心であり続ける」とのコメントは矛盾しない。

「30年代にピークを迎え」るとしても、そこで「エネルギーの中心」から外れるとは限らない。「コロナ危機」が「ピーク到来を早め」たとしても、それは同じだ。

「エネルギーの中心であり続ける」かどうかを考える上で、いつ「石油消費」が「ピークを迎え」るかは重要ではない。「エネルギーの中心」かどうかは他の「エネルギー」との比較で決まる。既に「石油消費」が「ピークを迎え」ていたとしても、「エネルギー」消費で「石油」が圧倒的な地位を維持しているのならば、「エネルギーの中心」という位置付けは変わらない。

「気付いていないのは産油国だけかもしれない」と松尾編集委員は記事を締めている。だとしたら「石油はまだ数十年、エネルギーの中心であり続ける」との認識が甘すぎると思える材料を示してほしかった。


※今回取り上げた記事「原油の供給過剰 出口見えず NY原油、初のマイナス価格~増産競争で市場崩壊」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200422&ng=DGKKZO58332600R20C20A4EN2000


※記事の評価はD(問題あり)。松尾博文編集委員への評価もDを据え置く。松尾編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

二兎を追って迷走した日経 松尾博文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/08/blog-post_7.html

「タンカー攻撃」の分析で逃げが目立つ日経 松尾博文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_15.html

2020年4月20日月曜日

「本格参入」済みでは? 日経「JFE系、ペットボトル再生に本格参入」

日本経済新聞のニュース記事で「本格参入」という言葉を使っていたら要注意だと以前から訴えてきた。20日の朝刊1面に載った「JFE系、ペットボトル再生に本格参入~国内の廃プラ増へ対策」という記事はその典型だ。1面に載せるに値しないネタを1面に持ってくるための技として「本格参入」を使ったのだろう。気持ちは分かるが、読者への背信行為と言うほかない。
筑後川と菜の花(福岡県久留米市)
    ※写真と本文は無関係です

記事の全文を見た上で具体的に指摘したい。

【日経の記事】

リサイクル大手のJFEエンジニアリングは、ペットボトルのリサイクル事業に本格参入する。子会社などが約100億円を投じ、津市にリサイクル工場を新設する。使用済みペットボトルなどの廃プラスチック(廃プラ)は中国が輸入規制し、日本国内で未利用の廃プラが増える懸念が強まっている。新工場が本格稼働すれば、国内の未利用の廃プラの4%程度を再利用できる計算だ。

プラスチック循環利用協会(東京・中央)によると、2018年に国内で発生した廃プラは891万トン。うちリサイクルされなかった廃プラは142万トンにのぼる。計算方法の変更で前年と単純比較できないが中国の輸入規制の影響が出ているようだ。有害廃棄物の移動を制限するバーゼル条約では21年から廃プラも国際的な移動が制限される。日本では未利用の廃プラの処理が課題だ。

JFEエンジ子会社のJ&T環境と、リサイクル専業の協栄産業(栃木県小山市)が共同出資会社を設立した。JFEエンジの津製作所(津市)に工場を造り、21年9月に稼働させる。稼働から2年以内に年6万トンの使用済みペットボトルを受け入れる計画だ。


◎多少は「参入」しているはずだが…

「リサイクル大手のJFEエンジニアリングは、ペットボトルのリサイクル事業に本格参入する」と書いているのだから実験的な形では既に「リサイクル事業」へ「参入」しているはずだ。しかし記事中には、その説明が見当たらない。

「JFEエンジ子会社のJ&T環境」のホームページで川崎ペットボトルリサイクル工場の概要を見ると、稼働日は2002年4月1日で、処理能力は年間1万5000トンとなっている。今回の「本格参入」は「年6万トン」。現状の年1万5000トンを「本格参入」に至っていないと見るのはかなり苦しい。

そこは記者も分かっているのだろう。だからこそ現状を説明しなかったのではないか。だとしたら、やはり騙しだ。

さらに言えば「2年以内に年6万トンの使用済みペットボトルを受け入れる」のが「JFEエンジ子会社のJ&T環境と、リサイクル専業の協栄産業(栃木県小山市)」によって設立された「共同出資会社」だというのも気になる。

「共同出資会社」の出資比率に記事では触れていない。「協栄産業」が過半を出資している場合「JFE系、ペットボトル再生に本格参入」という話がさらに成立しなくなってくる。



※今回取り上げた記事「JFE系、ペットボトル再生に本格参入~国内の廃プラ増へ対策」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200420&ng=DGKKZO58243060Z10C20A4MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

日経女性面での女性管理職クオータ制導入論が苦しい出口治明氏

立命館アジア太平洋大学学長の出口治明氏は熱心な女性管理職クオータ制導入論者だ。しかし、その主張に説得力はない。20日の日本経済新聞朝刊女性面に載った「ダイバーシティ進化論~クオータ制で女性管理職を ロールモデル作る最良策」という記事を見ながらツッコミを入れていきたい。
筑後川沿いの菜の花(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】 

年度が変わり、新しく管理職になった方も多いでしょう。どんな組織であれキーワードは女性です。すでに経済社会は製造業からサービス業に主軸を移しています。そのユーザーは7割が女性。中高年男性にニーズは分かりません。こうした需給のミスマッチに対応するのがクオータ制です。

女性にゲタを履かせる制度はおかしいという意見があります。たしかに形式的には不平等ですが、男女格差がある現実を考えれば実質的には平等といえます。無意識のうちに男性が高いゲタを履いているのが今の日本ですから。

クオータ制の一番の狙いはロールモデルを作ること。まずは女性の管理職を作りましょう。例えば管理職10人のうち、3人を女性と決める。最初は無作為でもいいから選ぶと、次は自分かもしれないと他の女性たちは準備します。それがクオータ制の本質です。


◎なぜ「管理職」が対象?

「中高年男性にニーズは分かりません」と言い切って良いのか疑問が残るが、取りあえず受け入れてみる。だとしても、なぜ「まずは女性の管理職を作りましょう」となるのか。「需給のミスマッチに対応する」のであれば、商品開発部門などで「クオータ制」導入を検討するのが筋だろう。総務部長や経理部長を女性にして「需給のミスマッチに対応」できるのか。

そして業種を限定すべきだ。「需給のミスマッチに対応」するのが目的ならば、鉄鋼メーカーや半導体メーカーで「クオータ制」を導入してもあまり意味がない。「例えば管理職10人のうち、3人を女性と決める」と言うが、それも固定すべきではない。「女性ユーザーが8割の企業では商品開発部門のスタッフの8割を女性に」といった具合にすべきではないか。

「無意識のうちに男性が高いゲタを履いているのが今の日本ですから」という説明も是としない。「無意識のうちに男性が高いゲタを履いている」と言える根拠を示さないのは感心しない。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

料亭などでは女将が店を仕切っています。そこに嫁いだ女性は義母という身近なロールモデルがいるから見よう見まねで仕事に取り組みます。ベンチャーも同じです。スティーブ・ジョブズを目指せといっても実感を持てませんが、大学の先輩が起業していたら「自分も」と思うもの。身近なロールモデルが個人の意識を変えるのです。



◎「需給のミスマッチに対応」は?

「需給のミスマッチに対応するのがクオータ制」ではなかったのか。「身近なロールモデル」を作るための「クオータ制」に話が変わってきていないか。

個人的には「身近なロールモデル」が必要だとは思わないが、ここでも取りあえず受け入れてみる。ただ、やはり「クオータ制」は必要ない。

「スティーブ・ジョブズを目指せといっても実感を持てませんが、大学の先輩が起業していたら『自分も』と思うもの」と出口氏も書いている。この場合「大学の先輩」の性別は関係ないはずだ。女性管理職が身近にいなくても、身近にいる有能な男性管理職を「ロールモデル」にすれば済む。

さらに話を進めよう。

【日経の記事】

たとえクオータ制で選ばれた女性が他の管理職に比べて少し能力が劣ったとしても問題ありません。人をつくるのはポストです。そもそも「管理職にはなれない」と思って仕事をしてきたのだから、最初は差があって当然。ポストに就いたら出来るようになります。フランスではクオーター制によって内閣が男女同数になりました。政治はおかしくなりましたか?


◎だったら「男性」でもいいのでは?

上記の説明を信じれば「管理職なんて誰でもいい」はずだ。「ポストに就いたら出来るようになります」と言えるのならば、男性も「ポストに就いたら」問題は解消するはずだ。女性ユーザーのニーズが分からないなどと心配する必要はない。それとも「ポストに就いたら出来るように」なるのは女性だけなのか。

「フランスではクオーター制によって内閣が男女同数になりました。政治はおかしくなりましたか?」との問いかけも感心しない。これに対する個人的な答えは「それを判断できるほどフランスの政治を見ていない」だ。「政治はおかしく」なっていないと出口氏が判断しているのならば、その根拠を示してほしい。

記事を最後まで見ていこう。

【日経の記事】

こういう話をすると「女性は管理職になりたがらないから登用できない」という反論が出ます。でも女性の社会的地位が低く、無意識の偏見が社会の隅々まで行き渡っている社会で、女性は家事も育児も介護も押しつけられているのです。この上、管理職になるのは大変だと思うのは当たり前です。ゆがんだ社会構造がそうした意識を生み出しているのだと、管理職はしっかり認識してください。

女性の活躍においては、だれもが総論賛成のようです。でも重要なのは各論の実行。クオータ制はアンコンシャスバイアスを排除し、人為的に時間軸を短縮してロールモデルを作り出す最良の方法と考えます。


◎「無意識の偏見」がある?

「無意識の偏見が社会の隅々まで行き渡っている社会」と出口氏は言うが、やはり根拠は示していない。「無意識の偏見」は「無意識」ゆえに存在を確認するのが非常に難しいだろう。なのになぜ「無意識の偏見が社会の隅々まで行き渡っている」と断言できるのか。

「女性は家事も育児も介護も押しつけられている」との見方にも賛成できない。特に「育児」が引っかかる。ほとんどの女性は「『育児』なんてやりたくない。こんな面倒な役割はできれば放棄して、何か他のことに打ち込みたい」と願っているのか。自分が知る女性の多くは「育児」を自ら進んでやっているように見えたが…。

自分は男性ではあるが「家事も育児も介護も」やってきた。しかし「押しつけられている」と感じたことはない。もちろん「押しつけられている」人もいるのだろう。だが、単純に「女性は家事も育児も介護も押しつけられている」と言い切ってよいのか。それこそ「偏見」ではないのか。

最後に文の書き方で注文を付けておく。

「無意識の偏見が社会の隅々まで行き渡っている社会」と書くと「社会」を繰り返すので拙い印象を与える。「無意識の偏見が隅々まで行き渡っている社会」とした方が良い。

「クオータ制はアンコンシャスバイアスを排除」といきなり「アンコンシャスバイアス」が出てくるのも好ましくない。この言葉を使うならば訳語を入れるべきだ。今回はその前に「無意識の偏見」と書いているのだから、最後まで「無意識の偏見」で通した方が分かりやすい。


※今回取り上げた記事「ダイバーシティ進化論~クオータ制で女性管理職を ロールモデル作る最良策」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200420&ng=DGKKZO58186250X10C20A4TY5000


※記事の評価はD(問題あり)。出口治明氏への評価はDで据え置く。出口氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

女性「クオータ制」は素晴らしい? 日経女性面記事への疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/04/blog-post_18.html

「ベンチがアホ」を江本氏は「監督に言った」? 出口治明氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_2.html

「他者の説明責任に厳しく自分に甘く」が残念な出口治明APU学長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/apu.html

日経で「少子化の原因は男女差別」と断定した出口治明APU学長の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/apu.html

日経「ダイバーシティ進化論」巡り説明責任 果たした出口治明APU学長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/apu.html

日経「ダイバーシティ進化論」に見えた出口治明APU学長の偏見
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/apu.html

2020年4月18日土曜日

「外貨建ての保険商品」を前向きに紹介する日経 渡辺淳記者の罪

日本経済新聞の渡辺淳記者は金融業界の回し者と見ておいた方が良いだろう。18日の朝刊マネー&インベストメント面に載った「円・ドル…為替が動くワケ~政策が左右、外貨運用はリスクも」という記事で「外貨建ての保険商品」を前向きに紹介しているからだ。
筑後川と菜の花(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

そのくだりを見てみよう。

【日経の記事】

人生100年時代を見据えた資産運用を考える時、利回りが見込める外貨投資は貴重な運用先となる。たとえば、外貨建ての保険商品。金利が低い日本円で運用するより、比較的高い外貨で運用すれば途中で解約しても多くの返戻金が見込める。数年前には豪ドル建ての保険が人気だった。

資源の輸出先として依存度の高い中国が減速すると、豪ドルは昨夏に対円で約10年ぶりとなる安値をつけた。返戻金を円換算した受け取り額が目減りするため、家計にとっては痛手となる。


◎「貴重な運用先」?

「利回りが見込める外貨投資は貴重な運用先となる」としても、その後に「たとえば、外貨建ての保険商品。金利が低い日本円で運用するより、比較的高い外貨で運用すれば途中で解約しても多くの返戻金が見込める」と解説するのは感心しない。

「外貨建ての保険商品」と言えば、無駄に手数料が高い金融商品の代表格ではないか。「外貨建て保険 投資に不適な“高”手数料 運用するなら外債で十分」という週刊エコノミストの記事(2019年10月21日付)で横川由理記者は以下のように書いている。

「外貨建て保険は、保険料の払い込みから保険金の支払いまで、すべて外貨建てで行われる。元本保証なのは外貨ベースであって、円での保証はない。保険金や解約返戻金を円で受け取る場合、円高になっていると元本割れするリスクがある。円から外貨、外貨から円に両替する際に為替手数料もかかる。それにもかかわらず、銀行で資産運用の相談を行うと真っ先に勧めてくるのは、銀行が得る販売手数料が群を抜いて高いからだ。販売手数料は円建て保険では保険料の2~3%、投資信託は基準価額の0~3%程度なのに対し、外貨建て保険は保険料の6~8%にものぼる」

手数料が高くても「外貨建ての保険商品」には、それを上回る魅力があると考えているのならば、渡辺記者はそこを説明すべきだ。そんな魅力があるとは思えないが…。

次に「金利」に関する説明に注文を付けたい。

【日経の記事】

為替を「投機」対象にするヘッジファンドや個人投資家の存在も大きい。一般に短期的な利益を追求しているので、ヘッジファンドや「ミセス・ワタナベ」と呼ばれるような個人投資家は金利差に注目する。日本の個人投資家の間では、金利の低い円よりも豪ドルやトルコリラといった高金利通貨が人気だ。



◎「高金利通貨」はいいことばかり?

まず「豪ドル」は「高金利通貨」なのかとの疑問が浮かぶ。オーストラリアの政策金利は過去最低の0.25%。「豪ドル」には確かに「高金利通貨」というイメージがあったが、現状では当てはまらない気がする。

それより問題なのは「金利」に関する説明だ。記事に付けた「為替相場の基本的な変動要因」という表では「金利差 高金利通貨は通貨高に」となっている。

間違ってはいないが、これだと投資初心者には誤解を与えてしまう。「高金利通貨」の方が低金利通貨より金利収入は多くなる上に「通貨高に」なるのであれば選択は容易だ。資金は全て「高金利通貨」で運用すべきとなる。金利が低い上に通貨安となる「低金利通貨」を持つべき理由はない。

実際には「高金利通貨」で「高金利」のメリットを享受しようとすると中長期的には通貨安で相殺されやすい。つまり「高金利通貨は通貨『安』に」となる。

悩ましいのは、だからと言って「高金利通貨は通貨高に」という説明が誤りとは言えないことだ。利上げは短期的には「通貨高」を招きやすい。なので渡辺記者も「高金利通貨は通貨高に」と書いたのだろう。

この辺りは分かりにくい面がある。だが、為替市場を見ていく上では重要な要素なので、丁寧に説明してほしかった。


※今回取り上げた記事「円・ドル…為替が動くワケ~政策が左右、外貨運用はリスクも」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200418&ng=DGKKZO58155300W0A410C2PPD000


※記事の評価はD(問題あり)。渡辺淳記者への評価はDで据え置く。渡辺記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

肝心なことが抜けた日経「保険販売、手数料が高騰」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_76.html

ぐるなび会長の寄付で「変わる相続」語れる? 日経「ポスト平成の未来学」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post.html

ATMの管理に「月700万円」もかかる? 日経「曲がり角のATM(上)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/atm700-atm.html

2020年4月17日金曜日

東洋経済で「会社は株主のもの」は「誤り」と主張した岩井克人氏に異議

「会社は株主のものである」という「ミルトン・フリードマン」の主張は「理論的な誤り」だと国際基督教大学特別招聘教授で東京大学名誉教授の岩井克人氏が週刊東洋経済4月18日号で語っている。面白そうな話だが、その根拠に説得力があるとは思えなかった。
耳納連山と菜の花(福岡県久留米市)
      ※写真と本文は無関係です

特集「牙むく株主」の中の「会社はモノでありヒト 会社財産は会社の所有物」という記事で岩井氏は以下のように述べている。

【東洋経済の記事】

では、どうしたらミルトン・フリードマンの呪縛から抜け出せるのか? その道はただ1つ。「会社は株主のものでしかない」という見方は「理論的な誤り」であることを示すことである。

企業には、街角の八百屋さんのような法人化されていない「単なる企業」と、トヨタ自動車のような「法人化された企業」がある。この2つをまったく同じに扱ったのがフリードマンの誤りだ。法人企業の別名──それが「会社」だ。


◎「単なる企業」?

まず「街角の八百屋さんのような法人化されていない『単なる企業』」という説明が引っかかる。「企業」とは「営利を目的として、継続的に生産・販売・サービスなどの経済活動を営む組織体」(デジタル大辞泉)だ。「街角の八百屋さん」が「法人化されていない」場合、一般的には「企業」とは呼ばないだろう。

続きを見ていく。

【東洋経済の記事】

「単なる企業」も「法人企業」としての「会社」も、営利的な経済活動をする「企業」であるという点では同じだ。だが、両者の間では、法律的な構造や経済的な仕組みに根源的な違いがある。

「単なる企業」の場合「企業はオーナーのもの」である。八百屋が売るリンゴや仕入れ用のトラックなど、商売道具はすべてオーナーの所有物。だから店頭のリンゴを店の主人が食べても誰もとがめない。オーナーの権利は無限だ。


◎「法人化」してても同じでは?

岩井氏の説明によれば、「単なる企業」は「法人化されていない」企業を指す。しかし「企業はオーナーのもの」という理屈は「法人化され」たオーナー企業でも同じだ。「店の主人」が唯一の株主であるオーナー企業であれば、「店頭のリンゴを店の主人が食べても誰もとがめない」はずだ。

さらに見ていこう。

【東洋経済の記事】

裏腹に、責任も無限である。仕入れに使うトラックが事故を起こせばオーナーが法廷に立つ。業績の悪化で信用金庫からの借金が返せなくなったら、オーナーの個人資産が差し押さえられる。「単なる企業」のオーナーは権利も無限だが、責任も無限なのである。

これに対して法人企業、つまり会社はまったく別の仕組みだ。フリードマンに心酔して、「会社は株主のものである」と信じ込み、百貨店の株主が地下の果物売り場にあるリンゴをがぶりと食べたらどうなるか。窃盗罪である。

なぜなら、株主は会社財産の所有者ではないからである。法人としての会社が所有者である。「法人」とは法律上ヒトとして扱われるモノのことである。店頭の商品も、工場の機械も、社長室の机も、すべて法律上のヒトとしての会社の所有物なのである。また外部との取引契約もすべて法人としての会社の名で結ばれ、裁判では法人としての会社が被告や原告になる。

では、株主は何を所有しているのか? 会社の株式を所有しているのである。株式とはモノとしての会社の別名であり、モノとしての会社を売り買いする市場が株式市場なのである。
 
したがって、株主の責任は有限である。会社が倒産しても、債権者は会社財産しか差し押さえられない。株主は株券の価値を失う以外は、個人資産は失わない。

責任が有限ならば、権利も当然有限である。会社の株主が、単なる企業のオーナーのように、会社に対して無限の権利を要求するならば、無限の責任を引き受けなければならない。会社は株主のものでしかないというフリードマンの主張は、理論的な誤りなのである。


◎矛盾してない?

「株主は何を所有しているのか?」との問いの答えは「会社の株式を所有しているのである」ということらしい。そして「株式とはモノとしての会社の別名」だと言う。だとすると「モノとしての会社」を「所有している」のは「株主」となる。なのに「会社は株主のものである」という主張は誤りなのか。

「モノ」に関して「有限」の「権利」しか有していない場合、その「権利」者は「モノ」を所有していないという前提を岩井氏の主張には感じる。しかし、そうとは言い切れないはずだ。

ペットとして飼っている犬や猫への虐待が法律で禁じられている場合、ペットへの「権利」は「有限」だ。しかしペットショップでカネを払って犬を買った飼い主に対して「その犬はあなたのものではない」と主張するのは無理がある。


※今回取り上げた記事「会社はモノでありヒト 会社財産は会社の所有物」
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/23400


※記事の評価は見送る。

2020年4月16日木曜日

「投資の常識」が分かってない? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」

16日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~『政府の拳』は万能か」という記事はツッコミどころが多かった。筆者は「本社コメンテーター」の梶原誠氏。「投資の常識」が分かってないのではと思える記述も見られた。
福岡県久留米市の家屋
      ※写真と本文は無関係です

記事の冒頭から見ていこう。

【日経の記事】

この1カ月で、マネーの流れが「売り」から「買い」に一変した米国市場の商品が2つある。

1つは航空機大手、ボーイングの株式だ。新型コロナウイルスの拡散で旅客需要が激減、株価は3月、年初から73%安まで急落した。だがその後、トランプ大統領が支援を表明。米政府の景気対策にも事実上の支援策が盛り込まれて株価は底を入れた。


◎「買いに一変」?

記事に付けた「ボーイング」のグラフを見ると「株価は底を入れた」とは言えそうだ。しかし「マネーの流れが『売り』から『買い』に一変した」との説明は苦しい。「底入れはしたものの、その後は安値圏で一進一退」といったところではないか。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

もうひとつは格付けが投機的等級の「ジャンク債」だ。3月は景気悪化による信用不安で売り込まれたが、4月9日に米連邦準備理事会(FRB)がまさかの購入を表明。価格上昇に弾みがついた。

これまでの投資の常識では片付かないことが起き始めた。株や社債への投資でも、企業だけでなく政府や中央銀行の出方を読み切らないと投資収益は稼げない。


◎「投資の常識」で片付くのでは?

「これまでの投資の常識では片付かないことが起き始めた」と大きく出ているが同意できない。「株や社債への投資」で「政府や中央銀行の出方」が影響を及ぼすのは当たり前だ。「政府や中央銀行の出方」は「株や社債への投資」に何ら影響を与えないというのが「投資の常識」だと信じてきたのならば、梶原氏は投資関連の記事を書く上で決定的に資質が欠けている。

さらに言えば、現状でも「政府や中央銀行の出方を読み切らないと投資収益は稼げない」とは思えない。株式のリターンが長期的にはプラスだとの前提で考えれば、「政府や中央銀行の出方」を全く読まずにインデックスファンドを購入して長期保有しても「投資収益は稼げ」るはずだ。

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

米国だけではない。コロナ危機対策で世界の政府が打ち出した財政刺激策は合計8兆ドル。世界の主な中央銀行も証券の購入でバランスシートを7兆ドルは拡大すると見られる。「ウイルスVS世界の政府・中銀」という構図が鮮明だ。

コロナは、企業経営者や投資家の心理を凍り付かせた。資本主義をマヒから救うには、政府が乗り出して火を付けるしかない。筆者が投資家なら、世界の政策通の助けを借りて各国の次の一手を読み、政策の恩恵を受ける資産を先回りして買うだろう。

実は「政策の先取り」という手法を教えてくれたのは、かつて「債券王(ボンド・キング)」と呼ばれて米債券投資会社のピムコを率いたビル・グロス氏だ。

2008年のリーマン危機の際、恐慌を避けるために米政府が支出を増やし始めるや公的資金で救われる企業の社債を買いあさって荒稼ぎした。「(危機に立ち向かう)政府の拳」。グロス氏は投資戦略をこう名付けた。



◎矛盾してない?

「ビル・グロス氏」が「リーマン危機の際」に「政策の先取り」で「荒稼ぎした」のであれば、「政府や中央銀行の出方」を読む投資手法は少なくとも10年以上前にはあったはずだ。なのになぜ「これまでの投資の常識では片付かないことが起き始めた」と言えるのか。

「政府や中央銀行の出方」を読む投資手法は以前から当たり前にある。そして、その手法に頼らなくても、おそらく「投資収益は稼げ」る。その辺り、梶原氏も本当は分かっているとは思うが…。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~『政府の拳』は万能か」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200416&ng=DGKKZO58089810V10C20A4TCT000


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。梶原氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html

「米国は中国を弱小国と見ていた」と日経 梶原誠氏は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_67.html

日経 梶原誠氏「ロス米商務長官の今と昔」に感じる無意味
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post.html

ツッコミどころ多い日経 梶原誠氏の「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/deep-insight.html

低い韓国債利回りを日経 梶原誠氏は「謎」と言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_8.html

「地域独占」の銀行がある? 日経 梶原誠氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_18.html

日経 梶原誠氏「日本はジャンク債ゼロ」と訴える意味ある?
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_25.html

「バブル崩壊後の最高値27年ぶり更新」と誤った日経 梶原誠氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/27.html

地銀は「無理な投資」でまだ失敗してない? 日経 梶原誠氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_56.html

「日産・ルノーの少数株主が納得」? 日経 梶原誠氏の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_13.html

「霞が関とのしがらみ」は東京限定? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight.html

「儒教資本主義のワナ」が強引すぎる日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight_19.html

梶原誠氏による最終回も問題あり 日経1面連載「コロナ危機との戦い」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/1.html

色々と気になる日経 梶原誠氏「Deep Insight~起業家・北里柴三郎に学ぶ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/deep-insight.html

2020年4月14日火曜日

発表待ちでお願いしたい 日経「高島屋、投信販売に参入」

「待っていれば発表されるネタは原則として発表を待て」と以前から日本経済新聞に求めているが、待つつもりはなさそうだ。「高島屋が投信販売に参入する」というニュースを日経は発表前に記事にしている。
筑後川橋と菜の花(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

まず13日の夕刊総合面に「高島屋、投信販売に参入へ」という記事が載った。全文は以下の通り。

【日経の記事】

高島屋がインターネット証券最大手のSBI証券と業務提携し、今春にも投資信託など金融商品の販売に参入することが13日までに分かった。高島屋が金融商品仲介業に登録し、独立系金融アドバイザー(IFA)として自社の顧客にSBIが取り扱う投資信託などの商品の販売を仲介する。幅広い顧客と接点を持つ小売業が本格参入すれば、投資家の裾野拡大につながりそうだ。

◇   ◇   ◇

さらに14日の朝刊金融経済面に「高島屋、投信販売に参入~SBI証券と提携発表」という記事が3段見出し付きで出ている。全文は以下の通り。

【日経の記事】

高島屋とSBI証券は13日、投資信託の販売など金融分野で業務提携契約を結んだと正式に発表した。SBIが取り扱う投信の販売が柱。高島屋は若年層の取り込みを狙う一方、40代以下が顧客全体の6割を占めるSBI側も接点が少なかった富裕層などの獲得で預かり資産の拡大を見込む。

高島屋の子会社で金融事業を担う高島屋ファイナンシャル・パートナーズが今春にも独立系金融アドバイザー(IFA)として金融商品仲介業に登録し、営業全面再開後の高島屋日本橋店(東京・中央)に相談の専用カウンターを設ける。高島屋の村田善郎社長は同日の電話会見で「百貨店ならではの安心感を訴求しながら、金融商品をお客さまに届けるようにしたい」と話した。



◎「抜く」意味ある?

夕刊の記事は発表前に「抜いた」もので、朝刊の記事は「正式に発表した」ことを受けて書いてある。しかし普通の読者にすれば、あまり意味はない。同じような内容の記事が夕刊に続いて翌日の朝刊にも出ているだけだ。まず、これが無駄だ。

単に内容が重なるだけならば害は少ない。より大きな問題は記事の内容が縛られやすいことだ。

今回、発表前に記事にできたのは高島屋関係者の協力があったからだと推測できる。夕刊の記事で「幅広い顧客と接点を持つ小売業が本格参入すれば、投資家の裾野拡大につながりそうだ」と持ち上げているのも、協力者への配慮のように見える。

朝刊の記事によると「高島屋ファイナンシャル・パートナーズが今春にも独立系金融アドバイザー(IFA)として金融商品仲介業に登録」するそうだ。しかし「SBIが取り扱う投信の販売が柱」であれば「独立」性は期待しにくい。「高島屋」の顧客にとって「SBIが取り扱う投信」を中心に投資を考えるメリットはない。一般消費者の立場から言えば、このネタの筋は良くない。

しかし記事では「百貨店ならではの安心感を訴求しながら、金融商品をお客さまに届けるようにしたい」という「高島屋の村田善郎社長」の発言を肯定的に伝えている。これだと「高島屋」寄りの記事と言うしかない。


※今回取り上げた記事

「高島屋、投信販売に参入へ」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200413&ng=DGKKZO57975060T10C20A4EAF000


「高島屋、投信販売に参入~SBI証券と提携発表」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200414&ng=DGKKZO57981930T10C20A4EE9000


※記事の評価はいずれもC(平均的)