2020年4月13日月曜日

「財政ファイナンスの副作用」に疑問残る週刊エコノミストの記事

週刊エコノミスト4月21日号に載った「独眼経眼~財政ファイナンスの効果と副作用」という記事には疑問が残った。ソニーフィナンシャルホールディングス・シニアエコノミストの渡辺浩志氏は「財政ファイナンスの副作用」について以下のように説明している。
耳納連山と菜の花(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です

【エコノミストの記事】

米国では政府が2兆㌦の経済対策を表明すると、連邦準備制度理事会(FRB)は国債等の無制限買い入れを決定。これはもはや「財政ファイナンス(中銀による財政赤字の穴埋め)」だが、リーマン・ショック(2008年)をしのぐ危機に面し、悠長に財政規律を語っている余裕はなくなった。

中略)過去の量的緩和は流動性相場を生み、株価や原油価格をつり上げた。リーマン・ショック後、FRBは約6年かけて3・5兆㌦の量的緩和を行ったが、今回は各国中銀が数カ月間に7兆㌦もの現金を市中に投下する。桁外れの量的緩和が株価の急騰を招くだろう。

リスクは財政ファイナンスの副作用だ。紙幣を刷ってばらまけば、インフレや金利の急騰が起こる。現在は隔離政策による人工不況だが、財政ファイナンスは真性不況を招き得る。劇薬は効果も副作用も強いと覚悟しておくべきだ。


◎だったら日本は?

「連邦準備制度理事会(FRB)は国債等の無制限買い入れを決定。これはもはや『財政ファイナンス(中銀による財政赤字の穴埋め)』」だとすると、日銀による異次元緩和も「財政ファイナンス」に当たると見てよいだろう。

「紙幣を刷ってばらまけば、インフレや金利の急騰が起こる」という説明は教科書的には正しいのだろう。だが「だったら、なぜ日本では『インフレや金利の急騰』が問題となっていないのか」とは思う。そこは解説が欲しい。

「現在は隔離政策による人工不況だが、財政ファイナンスは真性不況を招き得る」との説明も引っかかった。「隔離政策による人工不況」は「真性不況」に当たらないとの前提を感じるが、「隔離政策」による需要減退が深刻な景気後退を招けば、立派な「真性不況」ではないのか。

また、ウイルスを原因とする「不況」よりも「財政ファイナンス」を原因とする「不況」の方が「人工不況」と呼ぶに相応しい気がする。

ついでに記事の説明で引っかかった点を追加で指摘したい。

【エコノミストの記事】

世界の株価は約35%暴落した。大半は景気後退を織り込んだものだが、3月中旬以降の下落(約20%分)は、現金確保のための投げ売りであり、金融危機の発生を懸念した動きであったと見られる。それゆえ、各国が金融危機対策の荒業を見せると、株価は投げ売り前の水準に向けて急回復した。



◎「大半」と言える?

「約35%暴落」のうち「約20%分」が「現金確保のための投げ売り」によるもので、残り15%分が「景気後退を織り込んだもの」らしい。つまり「景気後退を織り込んだもの」は半分に満たない。なのに「大半は景気後退を織り込んだもの」と言えるだろうか。


※今回取り上げた記事「独眼経眼~財政ファイナンスの効果と副作用」
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20200421/se1/00m/020/063000c


※記事の評価はC(平均的)。渡辺浩志氏への評価も暫定でCとする。

2020年4月10日金曜日

「『長年の謎』から格付けの意義を問う」中空麻奈氏に感じた「謎」

BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部副会長の中空麻奈氏を書き手としては評価していない。週刊東洋経済4月11日号に載った「マネー潮流~『長年の謎』から格付けの意義を問う」という記事はそれほど酷い出来ではないが、やはり苦しい。 
筑後川沿いの菜の花(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です

まず引っかかったのが以下のくだりだ。

【東洋経済の記事】

筆者は信用分析を長年行ってきたが、いまだに謎がある。キャッシュフローを重視してつけられた格付けが散見されることである。財務内容がどうであれ、1.営業キャッシュフローが潤沢、2.擬似的なキャッシュフロー(株など)を潤沢に保有、3.債券市場につねにアクセス可能、の3点を満たすか、どれかが突出している場合には、比較的高い格付けがなされてきた。

3月16日、S&Pが米ボーイングの格付けをAマイナスからトリプルBへ2ノッチ引き下げ、かつ見通しとして引き下げの方向を継続した。「737MAX」機のトラブルに加え、新型コロナウイルスにより航空需要が落ちたためという。

だが、そもそもボーイングの2019年12月期の連結決算で、自己資本はマイナス83億ドルで実質債務超過であったことを指摘したい。債務超過でもシングルA格が付与される謎。ほかにも米フィリップモリスなど、同様の事例は多い。


◎「謎」だと思う理由が「謎」

まず「自己資本はマイナス83億ドルで実質債務超過であったことを指摘したい」という説明が謎だ。「自己資本はマイナス」であれば、正真正銘の「債務超過」だ。なぜ「実質」を付けたのか。

「債務超過でもシングルA格が付与される謎」と書いたのも理解できない。答えは中空氏自身が既に示している。「キャッシュフローを重視してつけられた格付け」だからではないのか。

「財務内容がどうであれ、1.営業キャッシュフローが潤沢、2.擬似的なキャッシュフロー(株など)を潤沢に保有、3.債券市場につねにアクセス可能、の3点を満たすか、どれかが突出している場合には、比較的高い格付けがなされてきた」と自ら説明しているではないか。

現実問題としても、たとえ「債務超過」であっても、稼ぐ力が十分にあれば返済能力を高いと見なせるケースはあり得る。

続きを見ていこう。

【東洋経済の記事】

しかも、である。こうしたキャッシュフロー重視による格付けが主流であるのならば、先の3点を満たすソフトバンクグループ(SBG)の格付けがダブルB格であったことはおかしい、ということになるであろう。ボーイングがシングルA格を付与されていたことと整合性が取れないのではないか。



◎「整合性」は取れるような…

「3点を満たすか、どれかが突出している場合には、比較的高い格付けがなされてきた」と中空氏は書いている。「比較的高い格付けがなされてきた」に関しては「例外はあるが、高い格付けを得られるケースが多い」という意味だとしよう。

であれば「ソフトバンクグループ」は例外に属すると見なせば良い。仮に「ソフトバンクグループ」が「3点を満たす」としても、満たし方には高低がある。低いレベルでしか満たしていないのならば「高い格付けがなされ」なくても不思議ではない。

記事からは何とも言えないが「3点を満たす」と「S&P」が判断していない可能性もある。

さらに続きを見ていく。

【東洋経済の記事】

そのSBGについて、今般、S&Pはアウトルックをネガティブに変更、ムーディーズはBa1からBa3に2ノッチ格下げ、かつ、引き続き格下げ方向で見直し、とした。その事由を見ると結局、同社が投資している株式市場の下落がきっかけになったように読める。
しかし、株価は上がりもするが下がりもする。「株式保有に傾注しているような企業経営に問題がある」という指摘なら理解できるが、株価が落ちたことを格下げ事由にするのであれば、株価が上がれば格上げすることにもなりかねず、腑に落ちない。



◎なぜ「腑に落ちない」

「株価が落ちたことを格下げ事由にするのであれば、株価が上がれば格上げすることにもなりかねず、腑に落ちない」という説明も謎だ。「擬似的なキャッシュフロー(株など)を潤沢に保有」している「ソフトバンクグループ」の場合、その資産の価格動向が返済能力を左右する。

「株価が落ちたことを格下げ事由にする」のに、逆があり得ないのならば確かに「腑に落ちない」。しかし「株価が上がれば格上げする」のは自然な動きではないか。

やはり中空氏は問題が多い。


※今回取り上げた記事「マネー潮流~『長年の謎』から格付けの意義を問う」
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/23351


※記事の評価はD(問題あり)。中空麻奈氏への評価はDを維持する。中空氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

BNPパリバの中空麻奈氏に任せて大丈夫? 東洋経済「マネー潮流」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/bnp.html

日経「エコノミスト360°視点」に見えるBNPパリバ 中空麻奈氏の実力不足
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/360bnp.html

2020年4月9日木曜日

やはり苦しい「強化物」 日経「大王製紙、段ボール原紙輸出増」

日本経済新聞の企業ニュース記事でよく見られる「強化」物は総じて完成度が低い。7日の朝刊企業2面に載った「大王製紙、段ボール原紙輸出増~主力工場に200億円 装置刷新」という記事もそうだ。記事の全文を見た上で問題点を指摘したい。
筑後川沿いの菜の花(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

大王製紙は段ボール原紙の輸出を強化する。約200億円を投じて主力の三島工場(愛媛県四国中央市)の製造装置を刷新し、このほど商業運転を始めた。同工場での段ボール原紙の生産量は、従来より5割増の年間72万トンに増える見込み。ネット通販の拡大などを受け、中国や東南アジアなどで中長期的な成長が見込める段ボール向け市場の開拓を急ぐ。

三島工場は大王製紙の基幹拠点だ。これまで印刷・情報用紙を生産していた「抄紙機」と呼ぶ装置を段ボール原紙向けに改造した。製品は主に輸出に振り向ける。

段ボールの需要はネット通販などの拡大を受けて国内外で成長が見込まれている。特に「中国や東南アジアでの需要は中長期的に伸びる」(大王製紙)。さらに中国は環境保全のため段ボール原紙の原料となる古紙の輸入を規制しており、製紙会社が供給する段ボール原紙の需要が高まっている。

足元では新型コロナウイルスの感染拡大で産業向けの段ボール需要などが落ち込む一方、「巣ごもり消費」の増加で食品や日用品の荷動きは堅調とみられる。

大王製紙は当面は一定の受注のめどが立ったと判断し、商業運転に踏み切った。

大王製紙の今回の取り組みは、洋紙の需要減少を受けた構造改革の一環でもある。日本製紙連合会(東京・中央)によると、2019年の印刷・情報用紙の出荷量は741万4千トンと前年比7.7%減った。このため19年10月に洋紙向けだった一部の抄紙機の稼働を止め、改造を続けてきた。今後は需要が見込める段ボール原紙の生産・輸出に本腰を入れる。


◎輸出はどのくらい増える?

「大王製紙、段ボール原紙輸出増」と見出しで打ち出しているのだから、どのくらいの「輸出増」になるのかは記事の肝だ。しかし、そこが明確になっていない。

「同工場での段ボール原紙の生産量は、従来より5割増の年間72万トンに増える見込み」と書いているので、年間の「生産量」は24万トン「増える」のだろう。「製品は主に輸出に振り向ける」のだから「輸出」は24万トン近く増やすと計算はできる。

だが「大王製紙、段ボール原紙輸出増」と打ち出すのであれば、「輸出」がどのくらい増えるかは明示してほしい。

さらに言えば、これまでどの程度の輸出実績があるのか分からないのも辛い。100万トンが124万トンになるのと、10万トンが34万トンになるのではインパクトがかなり違う。仮に輸出実績が分からないのならば、その点は記事に盛り込むべきだ。


※今回取り上げた記事「大王製紙、段ボール原紙輸出増~主力工場に200億円 装置刷新」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200407&ng=DGKKZO57717270W0A400C2TJ2000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年4月6日月曜日

「鎖国への誘惑」あり得る? 日経 太田泰彦編集委員「経営の視点」

日本経済新聞の太田泰彦編集委員は経済記事の書き手として問題が多い。6日の朝刊企業面に載った「経営の視点~鎖国への誘惑を断てるか ウイルスが引き裂く世界」という記事を読んでも、その評価は変わらない。記事を見ながら問題点を指摘していく。
筑後川橋(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】  

マスクが足りなければ、中国からの供給に頼るほかない。その中国は人道支援の名を借りて、マスク外交で他国に貸しをつくろうとしている。マスクのようなありふれた製品ですら国家戦略の武器となる。



◎国内でも作れるような…

「マスクが足りなければ、中国からの供給に頼るほかない」と冒頭で言い切っているが同意できない。3月31日付の日経の記事によると「アイリスオーヤマ(仙台市)は6月から国内でマスクの生産を始める」らしい。不足分を国内生産などで補う手も当然ある。

続きを見ていく。

【日経の記事】

新型コロナウイルスがあぶり出したのは「つくる側が買う側に勝る」という不条理な力学だ。感染の拡大が止まらなければ、人工呼吸器や医薬品は奪い合いとなるかもしれない。それらの製品を生産して輸出できる国や企業は、地政学的に強い立場になるだろう。



◎状況次第では?

「新型コロナウイルスがあぶり出したのは『つくる側が買う側に勝る』という不条理な力学だ」という説明もおかしい。ならばなぜ原油相場は急落したのか。「つくる側」が安値で売りたがっているからか。

「つくる側が買う側に勝る」かどうかは基本的に需給次第だ。需給が緩んでいれば「買う側」優位となるし、供給不足ならば「つくる側」優位。それが市場経済の原則だ。個人的には「不条理」を感じない。

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

通商問題といえば、これまでは輸入を阻む関税にばかり関心が集まっていた。だが非常時には、外国への供給を止める輸出制限が焦眉のリスクとなる。供給を断たれる恐怖が世界中を覆えば、各国は備蓄と自給自足に向かって走り出す。鎖国への誘惑である。



◎そんな「誘惑」ある?

「人工呼吸器や医薬品」が不足して「備蓄と自給自足に向かって走り出す」動きはあるだろう。だからと言って、それを「鎖国への誘惑」と捉えるのは飛躍が過ぎる。

日本で考えれば分かる。「人工呼吸器や医薬品」を抱え込むために「鎖国」を選ぶ場合、原油や食料はどうやって確保するのか。

さらに記事を見ていく。

【日経の記事】

いつの日かコロナ危機が去った後、世界は自由で開かれたグローバリゼーションの軌道に戻れるだろうか。楽観的にはなれない理由がいくつもある。

中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は3月16日、イタリアのコンテ首相と電話会談し「健康のシルクロード」を建設すると宣言した。直ちに送り込んだのが、マスクや検査キットなどだ。欧州の人口の半分を奪ったペストの歴史が念頭にあったに違いない。

病原菌は14世紀に中国からシルクロード経由で流れ込んだ。中国と欧州を結ぶ現代の「一帯一路」も、災禍を運ぶルートと見られるのではないか。そう考えた習政権は、危機を逆手にとり看板を「インフラ」から「健康」にすげ替えた。


◎決め付けて大丈夫?

「ペスト」に関して「病原菌は14世紀に中国からシルクロード経由で流れ込んだ」と太田編集委員は断言している。しかし日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究理事の保坂修司氏が書いた日経ビジネスの記事では「黒死病の発生源は中央アジアとされることが多いが、正確にいうと、実ははっきりしない」「中央アジアで発症したものが、東は中国、西は中東、欧州へと拡大していったという分析も可能だ」と解説している。となると、太田編集委員の説明を信じる気にはなれない。

太田編集委員の記事をさらに見ていく。

【日経の記事】

トランプ米大統領は慌てたのだろう。30日にコンテ首相に電話し、1億ドルの物資供給で対抗した。感染を抑え込めず経済が弱った国を舞台にして、米中が援助を競い合う構図である。



◎悪くない話では?

記事の流れから判断すると「米中が援助を競い合う構図」を太田編集委員は否定的に捉えているのだろう。だが、悪くない話ではないか。

「供給を断たれる恐怖が世界中を覆えば、各国は備蓄と自給自足に向かって走り出す。鎖国への誘惑である」と憂慮していたのではないか。「米中が援助を競い合う構図」は「鎖国」とは逆方向の動きに見える。

最後まで一気に見ていこう。

【日経の記事】

ウイルスの前線は、アフリカ大陸やアジア各地へと移動しつつある。人類共通の敵と戦うべき時なのに、米中の覇権競争の戦場もウイルスを追って世界に拡散していく。

国際情勢はコロナで視界不良となった。では舞台裏に目を凝らしてみよう。トランプ大統領は26日、米国が台湾を外交面で強力に支持する通称「台北法案」に署名、同法は成立した。建前だった「一つの中国」政策から台湾の独立性を認める方向へと、大きく舵(かじ)を切る内容だ。

ワシントンの動きに呼応するように、半導体受託生産で世界最大の台湾積体電路製造(TSMC)が米国に最先端工場建設を検討していることが明らかになった。同社はクアルコム、エヌビディア、華為技術(ファーウェイ)など米中双方の大手の生産を受託する。

太平洋をまたぐ供給網が交差するのが台湾である。米国の目には、台湾が技術流出の抜け穴と映る。現に中国企業は台湾から技術者を大量に引き抜き、半導体の国産化を急ぐ。封鎖した武漢市でも、半導体工場だけは止めなかった。

たった一種のウイルスが国境の意味を変えた。技術的な鎖国を目指し、生産を国内に囲う大国の動きが加速する。マスクの供給不安は、そんな近未来の世界の姿を暗示している。日本企業に備えはあるだろうか。


◎「技術的な鎖国を目指し」てる?

「台湾積体電路製造(TSMC)が米国に最先端工場建設を検討していること」が「技術的な鎖国を目指」す動きだと太田編集委員は捉えているのだろう。

だが「台湾が技術流出の抜け穴」と見ているのならば「半導体受託生産」から台湾企業を外す必要がある。台湾企業が「米国に最先端工場」を作ったとしても「技術流出」は防げそうもない。

さらに言えば「台湾積体電路製造(TSMC)が米国に最先端工場建設を検討していること」と「台北法案」の関連付けも強引だ。「ワシントンの動きに呼応するように」と書いているが、「台北法案」が「台湾の独立性を認める方向へと、大きく舵(かじ)を切る内容」だとすると、「米国に最先端工場」を「建設」することと直接的な関係は感じられない。

そもそも「台湾の独立性を認める」動きと「技術的な鎖国」に何の関係があるのか。「風が吹けば桶屋が儲かる」的な関係があるのならば、記事中に説明が欲しい。

太田編集委員は「たった一種のウイルスが国境の意味を変えた」と大きく出ている。しかし結局、記事中にそれを裏付ける材料は見当たらない。



※今回取り上げた記事「経営の視点~鎖国への誘惑を断てるか ウイルスが引き裂く世界」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200406&ng=DGKKZO57601970S0A400C2TJC000


※記事の評価はD(問題あり)。太田泰彦編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。太田編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

問題多い日経 太田泰彦編集委員の記事「けいざい解読~ASEAN、TPPに冷めた目」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/05/blog-post_21.html

日経 太田泰彦編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_94.html

説明不十分な 日経 太田泰彦編集委員のTPP解説記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_6.html

日経 太田泰彦編集委員の力不足が目立つ「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_18.html

日経 太田泰彦編集委員のTPP解説記事に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_12.html

日経 太田泰彦編集委員の辻褄合わない「TPPルール」解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/tpp.html

「日本では病院のデータ提供不可」と誤解した日経 太田泰彦編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_26.html

「イノベーションが止まる」に無理がある日経 太田泰彦編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_25.html

2020年4月5日日曜日

「国債」は「安全資産」にあらず? 日経1面「チャートは語る」

5日の日本経済新聞朝刊1面に載った「チャートは語る金融市場 解けぬ緊張~社債や新興国通貨、再度の急落警戒」という記事はあまり意味がないと感じた。記事では「恐怖指数」「通貨OP」「国債」「社債」「安全資産」に関して「市場ストレスマップ」を載せているが「恐怖指数」の推移を見れば市場の緊張度はほぼ分かる気がする。「恐怖指数」では「社債や新興国通貨」の緊張度は分からないものの、新型コロナウイルスに関して株式市場の緊張度と「金融市場」全体の緊張度に大きな差が生じる局面は考えにくい。
筑後川と菜の花(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係

さらに気になったのが「安全資産」の分類だ。記事では「安全資産」として「ドル指数(ドルの実効レート)」「ドル・円」「ドル・スイス」の3つを挙げている。「ドル指数」はともかく「ドル・円」「ドル・スイス」が「安全資産」というのは理解に苦しむ。「ドル・円」相場の変動で利益を得ようとすればリスクは小さくない。それでも「安全資産」なのか。

そもそも代表的な「安全資産」と言えば「国債」だ。なのに今回の「市場ストレスマップ」では「国債」と「安全資産」を別物として扱っている。これだと「国債≠安全資産」と誤解を与えてしまう。

最後に用語の説明に関して指摘したい。

【日経の記事】

社債は、日米欧それぞれの企業が発行する社債の破綻(デフォルト)確率を取引するクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)と呼ばれる指数を使って色の濃淡を描いている。3月18~24日にかけて色が最も濃くなった。



◎CDSは「指数」?

上記の説明だと「CDS」は「社債の破綻(デフォルト)確率を取引」していると取れる。「破綻確率」は「CDS」の保証料率に影響を与えるが「確率」そのものを「取引」している訳ではない。

また「クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)と呼ばれる指数」と書くと「CDS」が「指数」の名称になってしまう。言うまでもなく金融派生商品の名前だ。

「破綻(デフォルト)」という説明も引っかかる。「債務不履行(デフォルト)」とすべきだ。


※今回取り上げた記事「チャートは語る金融市場 解けぬ緊張~社債や新興国通貨、再度の急落警戒」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200405&ng=DGKKZO57658440T00C20A4MM8000



※記事の評価はD(問題あり)。黄田和宏記者と富田美緒記者への評価もDを据え置く。富田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

トリプルB格も「低格付け債」? 日経 富田美緒記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_13.html

2020年4月4日土曜日

色々と気になる日経 梶原誠氏「Deep Insight~起業家・北里柴三郎に学ぶ」

4日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に梶原誠氏(肩書は本社コメンテーター)が書いた「Deep Insight~起業家・北里柴三郎に学ぶ」という記事は引っかかる部分が多かった。中身を見ながら具体的に指摘したい。
筑後川沿いの菜の花(福岡県久留米市)
       ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

低迷する東京株式市場で、逆行高を演じる銘柄がある。医療機器大手のテルモだ。4月3日までの1カ月間で日経平均株価が15%下げたのに対し、テルモ株は1%上昇した。



◎「1%上昇」では…

「逆行高を演じる銘柄がある。医療機器大手のテルモだ」と勢いよく書き出したものの、その上昇率は「1カ月間」でわずか「1%」。ほぼ横ばいだ。「逆行高」は間違いではないが、かなり苦しい。最初の段落で「この記事、大丈夫かな?」と不安になる。

次に気になったのが以下のくだりだ。

【日経の記事】

新型コロナは危機の連鎖を引き起こした。まず、人々を「健康の危機」に陥れた。次に襲ったのが「グローバル化の危機」だ。保護貿易主義の連鎖などで以前からグローバル化は後退していたが、コロナ封じの副産物として世界の分断が進み、より深刻になった。

2つの危機が生み出したのが「資本主義の危機」だ。経済活動の停止やサプライチェーンの分断で景気が悪化。おびえた投資家は株に手が出せなくなり、企業にマネーが流れなくなった。企業は成長に向けた投資に加え、配当や自社株買いを手控えてでも現金を確保したいので投資家に報いられない。投資リターンが落ちるので、投資家の株離れは加速する。



◎「資本主義の危機」?

まず「おびえた投資家は株に手が出せなくなり」との認識に同意できない。日経も3月26日付で「ネット証券、口座開設が急増 株価急落で初心者参入」という記事を書いている。「株に手が出せなく」なるどころか、新たに手を出す「投資家」がたくさんいるのではないか。

それに、需要が急減すれば企業利益が大きく落ち込むのは当然だ。それに呼応して株価が急落するのも自然な動きだ。割安だと見れば押し目買いを入れる投資家が出てくる。そうした意味で「資本主義」は機能しているように見える。新型コロナウイルスの影響で様々な需要が急減したからと言って「資本主義の危機」を叫ぶのは安易ではないか。

次は以下のくだりに注文を付けたい。

【日経の記事】

医療や医薬のビジネスは莫大な先行投資が欠かせない。ましてや数年に1度の未知の感染症への対策は、研究開発投資への支持が得にくい。それでも渋沢は投資家を説得して資金を集め、業績が軌道に乗るまで頭を下げて説明を続けるだろう。自ら立ち上げた第一国立銀行(現みずほ銀行)の創生期でそうしたように、だ。



◎「研究開発投資への支持が得にくい」?

今の社会の雰囲気からすれば、新型コロナウイルス関連の「研究開発投資」は「支持」が得やすいのではないか。

「(話題の株)アンジェス、逆行高 『パンデミック』で思惑」という3月12日付の記事で日経は以下のように説明している。

「アンジェスは5日、大阪大学やタカラバイオと共同で新型コロナウイルスのワクチンを開発すると発表。ワクチンへの関心からアンジェス株は5日、6日と制限値幅の上限(ストップ高水準)まで上昇したが、その後は相場全体の下落に合わせて利益確定売りが膨らんでいた」

「未知の感染症への対策は、研究開発投資への支持が得にくい」のならば「新型コロナウイルスのワクチンを開発すると発表」した「アンジェス」の株価はなぜ急騰したのか。

最後にもう1つ。

【日経の記事】

だが多くの日本の経営者は同業他社との横並びに代表される「ノーリスク・ノーリターン」の意識が染みついていると、経営学者や投資家は以前から指摘してきた。コロナの衝撃は今、経営者に「萎縮したままでいいのか」と問いかけている。



◎「ノーリスク・ノーリターン」?

長年、数多くの経済記事を読んできたが「日本の経営者」には「『ノーリスク・ノーリターン』の意識が染みついている」との「指摘」に触れた記憶はない。

仮にそうした「指摘」が数多くあるとしても、まともに受け取る必要はない。明らかに間違っているからだ。

少し考えれば分かる。例えば同業他社が揃って大幅増産に乗り出したとしよう。その時に「横並び」で増産投資に踏み切るのは「ノーリスク」だろうか。「同業他社との横並び」を選択することにも当然に「リスク」はある。

「ローリスク・ローリターンを好む傾向がある」といった説明ならば違和感はないのだが…。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~起業家・北里柴三郎に学ぶ」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56717810S0A310C2ENI000/


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。梶原氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html

「米国は中国を弱小国と見ていた」と日経 梶原誠氏は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_67.html

日経 梶原誠氏「ロス米商務長官の今と昔」に感じる無意味
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post.html

ツッコミどころ多い日経 梶原誠氏の「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/deep-insight.html

低い韓国債利回りを日経 梶原誠氏は「謎」と言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_8.html

「地域独占」の銀行がある? 日経 梶原誠氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_18.html

日経 梶原誠氏「日本はジャンク債ゼロ」と訴える意味ある?
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_25.html

「バブル崩壊後の最高値27年ぶり更新」と誤った日経 梶原誠氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/27.html

地銀は「無理な投資」でまだ失敗してない? 日経 梶原誠氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_56.html

「日産・ルノーの少数株主が納得」? 日経 梶原誠氏の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_13.html

「霞が関とのしがらみ」は東京限定? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight.html

「儒教資本主義のワナ」が強引すぎる日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight_19.html

梶原誠氏による最終回も問題あり 日経1面連載「コロナ危機との戦い」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/1.html

2020年4月2日木曜日

不要な自社物 日経「日本資産運用基盤、QUICKと営業アプリで提携」

2日の日本経済新聞朝刊金融経済面に載った「日本資産運用基盤、QUICKと営業アプリで提携」というベタ記事は日経の「自社物」だ。結論から言うと、この記事はなくていい。
筑後川と菜の花(福岡県久留米市)
      ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

日本資産運用基盤グループ(東京・中央)とQUICK(東京・中央)は1日、金融機関の対面営業向けアプリ提供などで提携したと発表した。アプリ提供は2020年度に始める。営業員がタブレットなどの画面に目標金額やリスク許容度を入力すると、自動で資産形成プランを作成できる。顧客である個人に対する営業員の助言の質向上につなげる。


◎色々と不備が…

まず普通の記事として考えてみよう。「日本資産運用基盤グループ」も「QUICK」もそれほど知名度の高い企業でもないので、何を手掛けている会社なのか記事中に説明が欲しい。

「アプリ提供」をどちらの会社がやるのか(あるいは両社がやるのか)も記事からは判断できない。「営業員がタブレットなどの画面に目標金額やリスク許容度を入力すると、自動で資産形成プランを作成できる」として、これにどの程度の新規性があるのかも触れていない。

本当にこの「発表」にニュース価値があるのならば、その辺りはしっかり説明すべきだ。しかしベタ記事なので、大したニュース価値はないとの判断なのだろう。

「ニュース価値は乏しいし、提携に関する十分な説明もできないが、自社物の発表だから載せた」といったところか。日経の社内事情は理解できるものの、一読者の立場で言えば「要らない記事」だ。


※今回取り上げた記事「日本資産運用基盤、QUICKと営業アプリで提携」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200402&ng=DGKKZO57500480R00C20A4EE9000


※記事の評価はD(問題あり)