2018年10月14日日曜日

日経 吉野直也記者「風見鶏~歌姫がトランプ氏にNO」の残念な中身

筆者の多くが「訴えたいこと」を持っていないのが日本経済新聞の政治コラム「風見鶏」の問題点だ。吉野直也記者もそうした筆者の1人と言える。14日の朝刊総合3面に載った「風見鶏~歌姫がトランプ氏に『NO』」という記事では「テイラー・スウィフト」の民主党支持表明を取り上げている。
九重"夢"大吊橋(大分県九重町)※写真と本文は無関係です

「スウィフトの発言は共和党が上下両院で過半を握る議会の構成を変える追い風になるのか。トランプ氏の信任投票の側面がある中間選挙まで20日あまりだ」と吉野記者は記事を締めている。いわゆる「成り行きに注目」型の結びだ。これでは署名入りでコラムを書く意味がない。

記事の全文を見た上で、改めてこの問題を考えたい。

【日経の記事】

米国の人気歌手が国内政治を揺らしている。テイラー・スウィフトが11月の米中間選挙で野党、民主党への支持を明言し、投票を呼びかけた。写真共有アプリ「インスタグラム」にメッセージを掲載してから48時間で新たな有権者登録が24万人と急増。9月の新規登録者19万人を上回った。

民主党支持の理由を「(トランプ氏が大統領に当選してからの)2年間の出来事で違うと感じるようになった」と説明した。

スウィフトは昨年、性被害を訴える「#MeToo」(「私も」の意味)運動の活動家らと米誌タイムの「パーソン・オブ・ザ・イヤー(今年の人)」に選ばれた。

世界の歌姫と称されるスウィフトはインスタグラムに1億1200万人以上のフォロワーを持つ。2015年7月、ワシントンのナショナルズ・パークで開いたスウィフトのコンサートに行く娘に同伴した。4万人を超える観客のうち小中高生の女子の多さが印象に残った。

スウィフトは米南部が発祥の地とされるカントリー音楽の歌手としてデビューし、ポップのリスナーも開拓した。南部は共和党が強い保守地盤。スウィフトが有権者登録しているテネシー州も南部だ。

ロックやポップミュージシャンは民主党支持者が大半、カントリー音楽は共和党支持者と相性がよいといわれる。スウィフトの民主党支持表明が驚かれたのはこうした通説を裏切ったのも一因だ。トランプ大統領は「彼女の音楽が25%ほど嫌いになった」と語った。

ミュージシャンの政治的な発言は反発も生む。「ブッシュ(大統領)が私たちと同じテキサスなんて恥だわ」。03年、イラク戦争の開戦直前に女性カントリー音楽グループ、ディクシー・チックスが欧州でのコンサートで反戦を主張した。

その直後から同グループの曲を流したラジオ局に抗議が殺到した。「祖国の危機に同じテキサス人が大統領を攻撃するのは許せない」。放送停止に踏み切る局が相次ぎ、CDの売り上げは一気に落ちた。

日本でも人気歌手の発言は注目される。8月に沖縄県知事だった翁長雄志氏の訃報を受け、同県出身の歌手、安室奈美恵さんがホームページでコメントした。「知事のご遺志が受け継がれ、多くの人に愛される沖縄であることを願っております」

自民党には当時「安室さんが9月の沖縄県知事選に積極的に関与するのではないか」と警戒する空気もあった。ポップ音楽と政治は大衆の心をつかまなければならないという点で共通する。

16年大統領選も人気歌手が政治的な立場を明らかにした。ケイティ・ペリーは民主党候補、ヒラリー・クリントン氏を応援した。投票日前日、ペンシルベニア州での集会にはジョン・ボン・ジョヴィに加え、ブルース・スプリングスティーンが登場した。

ノースカロライナ州に移動すると今度はレディー・ガガが駆けつけた。トランプ氏の集会に歌手はいなかった。有権者は人気歌手が寄り添うクリントン氏ではなく、一人で戦うトランプ氏を選んだ。

「13歳の女の子に選挙権が与えられない限り(スウィフトの民主党支持表明は)影響がない」。共和党の大統領候補指名争いの経験がある元アーカンソー州知事のマイク・ハッカビー氏はツイートした。18歳で選挙権が得られることが念頭にある。

スウィフトの発言は共和党が上下両院で過半を握る議会の構成を変える追い風になるのか。トランプ氏の信任投票の側面がある中間選挙まで20日あまりだ。


◎知ってることを書いただけ?

記事の前半は「テイラー・スウィフト」に関するこれまでの流れの説明だ。これは問題ない。
平和公園(長崎市)※写真と本文は無関係です

さらに「ミュージシャンの政治的な発言は反発も生む」と過去の事例を紹介し、「安室奈美恵さん」の話に移る。さらには「16年大統領選も人気歌手が政治的な立場を明らかにした」という話を教えてくれる。これもいいだろう。そうした問題を踏まえて、吉野記者はどう分析して、何を訴えるのか。そろそろ本題に入らないと残りは20行足らずだ。

しかし「13歳の女の子に選挙権が与えられない限り(スウィフトの民主党支持表明は)影響がない」という「マイク・ハッカビー氏」のツイートを紹介した後に「成り行きに注目」で記事を締めてしまう。これでは困る。

「マイク・ハッカビー氏」の見方が正しいと吉野記者が感じるのならば、それを説得力のある形で示せばいい。記事では「写真共有アプリ『インスタグラム』にメッセージを掲載してから48時間で新たな有権者登録が24万人と急増」などと「テイラー・スウィフト」の影響力の大きさにも言及している。

それらを総合して、今回の「テイラー・スウィフト」の動きを吉野記者がどう見たのかを書くべきだ。それができないのならば、吉野記者は「風見鶏」の筆者から外れた方がいい。


※今回取り上げた記事「風見鶏~歌姫がトランプ氏に『NO』」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181014&ng=DGKKZO36464020T11C18A0EA3000


※記事の評価はD(問題あり)。吉野直也記者への評価はDを維持する。吉野記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

トランプ氏の発言を不正確に伝える日経 吉野直也記者
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_7.html

トランプ大統領「最初の審判」を誤解した日経 吉野直也次長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_13.html

2018年10月13日土曜日

日経「アシックス、シューズ工場自動化」に足りない情報

13日の日本経済新聞朝刊企業面に載った「アシックス、シューズ工場自動化 日米欧、消費地で生産」という記事には肝心な情報が抜けていた。「独アディダス」が「シューズ生産のほぼ全てを自動化した工場『スピードファクトリー』をドイツと米国に持つ」のに、追いかける「アシックス」がなぜ「シューズ全体の生産工程の3分の1を自動化」するにとどまるのか。そこは触れてほしかった。
グラバー園(長崎市)※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

アシックスはシューズの自動生産に乗り出す。2019年春に鳥取県の工場の一部でロボットを導入。手作業に頼っていた工程の人員を半分にする。将来は欧米で導入を目指す。主力生産拠点だったアジアは人件費が高騰。工場自動化で消費地に生産回帰して、流行に合わせて商品の提供スピードを高める動きが、国内外のスポーツ用品メーカーで広がっている。

鳥取県の生産子会社の工場で、シューズのアッパー(甲被)と靴底を貼り合わせる工程でロボットを導入する。若者に人気が高い「オニツカタイガー」やウオーキングシューズを作る。投資額は明らかにしていない。

ロボ導入で同工程の作業人員を半減。シューズ全体の生産工程の3分の1を自動化できる。靴底の成形に3Dプリンターの導入を検討するなど自動化を進める方針だ。

シューズ生産は縫製や素材の貼り合わせなど、多くが手作業だ。アシックスは人件費の安さを理由に、生産の約4割をベトナムで手掛ける。インドネシア、中国にも拠点を持つ。アジアで生産して日本や欧米で販売するビジネスモデルで成長してきた。

だが経済成長に伴ってベトナムなどは人件費が大幅に上昇。過酷労働や児童労働など人権問題のリスクもある。アジアから日本や欧米に商品供給する時間がかかり、移り変わりが早い消費者の嗜好に即応しきれていない課題も抱えていた。

日本での生産比率は数%。だが自動生産のノウハウを国内工場で培い、今後は欧米でも同様の生産を目指す。

生産自動化は、スポーツ用品で世界最大手の米ナイキや2位の独アディダスが先行している。アディダスはシューズ生産のほぼ全てを自動化した工場「スピードファクトリー」をドイツと米国に持つ。顧客の好みに応じてカスタマイズしたシューズを少量生産することが可能で、ドイツの産官学が推進する「インダストリー4.0」を象徴する工場とされる。

アシックスも世界大手を追うため、コスト削減や、商品の企画から生産・販売までの期間短縮で流行に素早く対応する体制づくりを急ぐ。


◎かえって高コストになるような…

「アディダス」の「スピードファクトリー」は「シューズ生産のほぼ全てを自動化」しているので、人件費を気にせず「ドイツと米国」で生産できるのだろう。

しかし、「アシックス」は「3分の1を自動化」するだけなので、残りの3分の2の工程では人件費がかかる。なのに「自動生産のノウハウを国内工場で培い、今後は欧米でも同様の生産を目指す」という。これも分からない。

「アシックスは人件費の安さを理由に、生産の約4割をベトナムで手掛ける。インドネシア、中国にも拠点を持つ」という。だとしたら、「欧米」に生産を移すと人件費の増加を招いて競争力が低下しそうだ。その辺りの解説がないのも残念だ。

記事の書き方だと「3分の1を自動化」した工場を「欧米」にも造ると取れる。推測の域を出ないが、実際は「アディダス」並みの自動化ができるようになった段階で「欧米」にも拠点を設けるのではないか。でないと、最初から負けが見えている。

現段階では工場の完全自動化について「アディダス」に大きく後れを取っているのだろう。なぜ「アディダス」にできて「アシックス」には不可能なのか。その差をいつまでにどうやって埋めようとしているのか。そこを描けていれば、興味深く読める完成度の高い記事に仕上がったと思える。


※今回取り上げた記事「アシックス、シューズ工場自動化 日米欧、消費地で生産」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181013&ng=DGKKZO36431860S8A011C1TJC000


※記事の評価はC(平均的)。

2018年10月12日金曜日

道路の「寸断」は誤用? 岡本隆司 京都府立大教授の誤解

「道路の『寸断』」は誤用であり「もちろん『分断』が正しい」と京都府立大学文学部教授の岡本隆司氏は言う。しかし、どうも怪しい。週刊東洋経済のコラムで「ここでは、やはり言語感覚が問題である。言論・言語をなりわいにしている当のマスコミが、醜悪拙劣なことばを用いながら恬(てん)として恥じないのは、どう考えてもおかしい」とも述べているが、岡本氏の「言語感覚」に「問題」はないのか。
別府駅と「油屋熊八の像」※写真と本文は無関係

東洋経済には以下の内容で問い合わせを送った。

【東洋経済への問い合わせ】

京都府立大学文学部教授 岡本隆司様   
週刊東洋経済 担当者様  

週刊東洋経済10月13日号の「歴史の論理 東アジアと日本の運命 第92回 『生前退位』の怪 言語感覚に注意せよ」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

「とくに漢語をもって然りとする。誤用もあえて辞さない。今夏もおびただしかった災害に関していえば、いわく道路の『寸断』。いわく『義援金』の募集。もちろん『分断』『義捐(えん)』が正しい。根拠の乏しい常用漢字に盲従したり、漢字の誤用を定着させたりしているのは、『生前退位』の場合とまったく同断である」

「道路の『寸断』」は誤りで「道路の『分断』」と表記すべきだと岡本様は断言しています。本当にそうでしょうか。

デジタル大辞泉によると「寸断」とは「長く続いているものをきれぎれに切ること。ずたずたに切ること」で、「台風で国道が寸断される」という例文を付けています。

一方、「分断」については「一つにつながっているものを分かれ分かれに切り離すこと」と説明しており、例文は「がけ崩れで鉄道が分断される」となっています。デジタル大辞泉を信じれば「道路の『寸断』」は誤りとは言えません。

「赤っ恥な日本語づかい500連発」という書籍には以下の記述があります。

「『土砂崩れが発生し、道路が寸断された』という表現をよく聞くが、誤用というケースが多い。『寸断』とは細かく切ること、ずたずたにすること。『道路が寸断された』といえば、いたるところで土砂崩れが発生して何か所も道路がふさがった状態をいう。つまり、道路が一か所ふさがっただけでは『寸断』とはいわないのである」

この説明も納得できます。個人的にも「道路が寸断された」と聞くと、あちこちで道路が通れなくなっている状況をイメージします。ただ、この書籍の筆者も「何か所も道路がふさがった状態」であれば「道路の『寸断』」は誤用ではないとの立場です。

「道路の『寸断』」が誤用で「もちろん『分断』が正しい」という岡本様の説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。推測ですが、「道路が一か所ふさがっただけで『道路の寸断』と表現するのは誤りだ」と岡本様は言いたかったのではありませんか。しかし、そうは書いていません。

「どんな文章でも、見てもらうもの、公のものであって、新聞雑誌の記事はその最たるものであろう。にもかかわらず、醜陋(しゅうろう)な表現を多数の人々におしつけている、という自覚にも乏しい」と岡本様は記事の中で述べています。その岡本様自身も言葉に関する誤った認識を「多数の人々におしつけている」ように私には見えます。この見方は間違っていますか。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「歴史の論理 東アジアと日本の運命 第92回 『生前退位』の怪 言語感覚に注意せよ」
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/19012


※記事の評価はD(問題あり)。岡本隆司京都府立大学文学部教授への評価も暫定でDとする。

2018年10月11日木曜日

「軍事境界線が対馬海峡まで南下」に説得力欠く佐藤優氏

作家の佐藤優氏は優れた書き手だとは思う。訴えたいことも、しっかり持っている。ただ週刊東洋経済10月13日号に載った「知の技法 出世の作法(第552回)『新アチソンライン』を構築するトランプ大統領」という記事には問題を感じた。
平和公園(長崎市)※写真と本文は無関係です

台湾やフィリピンを含む「新アチソンライン」において、日本は「西の端」なのか。また「米朝和平の実現」によって「現在の北緯38度軍事境界線が対馬海峡まで南下する」との解説は根拠に欠けるのではないか。この2点について以下の内容で問い合わせを送った。


【東洋経済への問い合わせ】

佐藤優様  週刊東洋経済 担当者様

10月13日号の「知の技法 出世の作法(第552回)『新アチソンライン』を構築するトランプ大統領」という記事についてお尋ねします。記事の終盤で、佐藤様は以下のように説明しています。

<記事の当該部分>

朝鮮半島で北朝鮮との関係を安定化させた後、トランプ氏が着手するのは、「新アチソンライン」とも呼ぶべき防衛線の構築だと思われる。「アチソンライン」というのは、1950年に当時のアメリカ国務長官だったディーン・アチソンが行った演説で提起したもので、アリューシャン列島、日本、沖縄、フィリピンの外側に、彼らの考える対共産圏の防衛線を引いた。朝鮮半島は、防衛圏の外側に置かれた。そのことが朝鮮戦争を誘発した。

アチソン演説を「アメリカは朝鮮半島には介入しない」というシグナルと受け取った北朝鮮は、その5カ月後に韓国に侵攻した。トランプ政権下で再構築されるアチソンラインに「新」が付されるのは、かつてと異なり台湾が米国の防衛圏に含まれているからだ。

いずれにせよ、米朝和平の実現によって、朝鮮戦争が起こったことで幻となったアメリカの西太平洋の防衛線が復活する可能性がある。そこでは日本が朝鮮半島と角突き合わせる「西の端」に置かれることになる。現在の北緯38度軍事境界線が対馬海峡まで南下すると言うことでもある。


--ここからが質問です。

気になったのは「そこ(新アチソンライン)では日本が朝鮮半島と角突き合わせる『西の端』に置かれることになる」との説明です。

「新アチソンライン」では「台湾が米国の防衛圏に含まれている」と佐藤様自身が書いています。そして「新アチソンライン」の内側に位置するフィリピンや台湾は日本より西に位置しています。「そこでは日本が朝鮮半島と角突き合わせる『西の端』に置かれることになる」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

週刊東洋経済では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

せっかくの機会なので、記事に関する感想も加えておきます。

今回の記事では「現在の北緯38度軍事境界線が対馬海峡まで南下すると言うことでもある」と結論付けていますが、説得力に欠けると感じました。

「そもそも韓国が中国、北朝鮮と組んで日米と対峙するだろうか」との疑問は湧きますが、取りあえず受け入れてみます。しかし、米国がなぜ韓国を「防衛圏」の外に置くのかが謎です。佐藤様もその理由に触れていません。「現在の北緯38度軍事境界線が対馬海峡まで南下する」と見るのならば、米国に関して「フィリピンや台湾は守るが韓国からは手を引く」と見る理由が要ります。

さらに気になるのが在韓米軍の存在です。佐藤様は「朝鮮戦争の休戦協定を平和協定に転換」すれば「米軍を中心とする朝鮮国連軍が解体される。直ちに在韓米軍の撤退には至らないとしても、朝鮮半島における米国のプレゼンスは著しく低下する」と書いています。

そして「現在の北緯38度軍事境界線が対馬海峡まで南下する」と話を進めていきます。だとすると「在韓米軍の撤退には至らない」状況でも「現在の北緯38度軍事境界線が対馬海峡まで南下する」ことになります。

対馬海峡を隔てて日米が中国、韓国、北朝鮮と対峙している時に、まだ「在韓米軍」が残っている訳です。現状で言えば、北朝鮮に米軍基地があるようなものです。かなり奇妙ではありませんか。これがあり得ると考えるのならば、その理由も欲しいところです。

こうした点を考慮すると「現在の北緯38度軍事境界線が対馬海峡まで南下すると言うことでもある」との説明には、やはり頷けません。

私からの質問と意見は以上です。お忙しいところ恐縮ですが、「西の端」に関しては回答をお願いします。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「知の技法 出世の作法(第552回)『新アチソンライン』を構築するトランプ大統領」
https://dcl.toyokeizai.net/ap/registinfo/init/toyo/2018101300


※記事の評価はD(問題あり)。過去の記事も含めて判断し、佐藤優氏への評価はC(平均的)とする。

2018年10月10日水曜日

偵察衛星あっても米軍は「目隠し同然」と誤解した日経 秋田浩之氏

朝鮮半島の「南北境界線の上空を飛行禁止区域」にすると、米軍は北朝鮮の動向に関して「目隠しされたにひとしい」状態になるだろうか。あり得ない気がするが、日本経済新聞の秋田浩之氏(肩書は本社コメンテーター)はそう断言していた。秋田氏は偵察衛星の存在を忘れているのではないか。日経には以下の内容で問い合わせを送った。 
九重"夢"大吊橋(大分県九重町)※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】 

日本経済新聞社 本社コメンテーター 秋田浩之様

10日朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~南北共演、極まる核危機」という記事についてお尋ねします。まず問題としたいのは「先月18~19日の南北首脳会談で交わされた軍事分野合意文書」に関する以下のくだりです。

「とりわけ米側が怒っているのが、南北境界線の上空を飛行禁止区域にしてしまったことだ。米韓両軍はこの上空に頻繁に偵察機などを飛ばし、北朝鮮軍を見張っている。それが封じられたら、目隠しされたにひとしい」

本当に「南北境界線の上空を飛行禁止区域」にしてしまうのは「目隠しされたにひとしい」と言えるでしょうか。7月31日付の日経の記事では「米紙ワシントン・ポスト(電子版)は30日、北朝鮮がミサイルを製造しているとの兆候を米情報当局がつかんでいると報じた。ここ数週間に偵察衛星が撮った写真などによると、大陸間弾道ミサイル(ICBM)1基か2基を平壌郊外にある工場で製造中とみられるという」と報じています。

「南北境界線の上空」が「飛行禁止」になっても「偵察衛星」での監視はできます。それで「大陸間弾道ミサイル(ICBM)1基か2基を平壌郊外にある工場で製造中」といった情報まで得られるのであれば「目隠しされたにひとしい」とは言えません。

「それ(南北境界線の上空での飛行)が封じられたら、目隠しされたにひとしい」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

次は以下の記述に関する質問です。

「しかし、冷静に状況をながめれば、現実は逆だと思う。北朝鮮による核武装という最悪のシナリオが、瀬戸際に近づいているとみるべきだ」

ここからは「北朝鮮はまだ核武装していない」と判断できます。しかし、記事の中で秋田様は「米研究機関などの分析によれば、北朝鮮は20~60個の核爆弾を持ち、核施設は40~100カ所にわたる」と説明しています。こちらを信じれば、北朝鮮は「核武装」していると見るのが自然です。

記事の説明は矛盾していませんか。問題ないとすれば、「核爆弾」を保有していても「核武装」には当たらない状況があるはずです。それはどんな状況なのですか。そこを明らかにせずに「北朝鮮による核武装という最悪のシナリオが、瀬戸際に近づいているとみるべきだ」と訴えても意味はありません。

「北朝鮮、核弾頭小型化に成功 米情報機関が分析 米報道」という日経の記事(2017年8月9日付)では「日本政府も北朝鮮の核兵器について、8日発表の17年版防衛白書で『小型化・弾頭化の実現に至っている可能性が考えられる』と分析している」と報じています。

「核弾頭小型化に成功」した可能性を日本政府も認めているのに、「北朝鮮はまだ核武装はには至っていない」との前提で議論を進めるのは適切でしょうか。「核武装が現実となった可能性が高い」とみるべきではありませんか。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

最後に1つ付け加えると「目隠しされたにひとしい」は「目隠しされたに等しい」と表記してほしかった。簡単な漢字を避けて平仮名を続けると、かえって読みにくい。


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~南北共演、極まる核危機」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181010&ng=DGKKZO36272150Z01C18A0TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。秋田浩之氏への評価はDを維持する。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html

「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html

「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html

「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html

話の繋がりに難あり 日経 秋田浩之氏「北朝鮮 封じ込めの盲点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_5.html

ネタに困って書いた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/deep-insight.html

中印関係の説明に難あり 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/deep-insight.html

「万里の長城」は中国拡大主義の象徴? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_54.html

「誰も切望せぬ北朝鮮消滅」に根拠が乏しい日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_23.html

日経 秋田浩之氏「中ロの枢軸に急所あり」に問題あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_30.html

日経ビジネス特集「無定年時代」への問い合わせに回答あり

日経ビジネス10月8日号の特集「『無定年』時代~年金激減後の働き方」への問い合わせに大して回答があった。内容に問題はないし、回答までの時間も短く評価できる。問い合わせ、回答の順で紹介したい。
別府湾(大分県別府市)※写真と本文は無関係


【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 田村賢司様 武田安恵様 吉岡陽様

10月8日号の特集「『無定年』時代~年金激減後の働き方」についてお尋ねします。この中の「定年が近づく前に確認しよう あなたの老後生活 健全度チェック」という記事に以下の記述があります。

「まずは定年時点で、退職金と合わせて貯蓄が3000万円以上あるか確認したい。そして次に、年金、再雇用後の給料など、定年後の収入から支出を差し引いた不足額が100万円以内に収まっているか、チェックしよう『不足額を100万円以内に抑えられれば、貯蓄3000万円を30年かけて取り崩すことで対応できる』と馬養氏は話す。貯蓄が少ない、もしくは支出が100万円を上回る場合は、働く頻度を増やすか支出を抑える努力が求められる」

文脈から考えて「支出が100万円を上回る場合」は「不足額が100万円を上回る場合」の誤りではありませんか。「支出」を用いるならば「支出超過額」でしょうか。

付け加えると、今回の「健康度チェック」は他にも問題ありです。貯蓄1億円で定年直前の年収は1000万円、60歳定年の後は無収入、支出見込み額500万円というケースで考えましょう。

チェック1の「貯蓄額3000万円以上」で10点を得ますが、「定年後の年間収支」で「不足額が100万円超」となって2点、「定年後の仕事の報酬」が「現役時の4割程度より下」で2点に留まり、合計で14点です。4段階評価の下から2番目の「やや危険レベル」となります。「なるべく現役時の半分程度の収入は確保できるよう妻にもパート・アルバイトなどしてもらう」必要があるそうです。納得できますか。

年間500万円を5年間取り崩すとしても65歳時点で7500万円の貯蓄があります。ここでは貯蓄額を1億円としましたが、これが10億円となると「やや危険レベル」には何の説得力もありません。「貯蓄額3000万円以上」を一律に10点としては、適切な評価は困難です。

他にも、特集で引っかかった点を列挙しておきます。まずは「働きたくても働けない~介護離職者の壮絶な戦い」という記事についてです。


(1)「認知症」患者も「健やか」?

記事に出てくる「大久保礼子さん」の気持ちを「母にはいつまでも健やかであってほしい」と記述しています。しかし記事によると大久保さんの母は「認知症」で「町内を徘徊して警察に保護されることも何度もあった」そうです。

「いつまでも健やかであってほしい」というのは、現状が「健やか」な人に使う言葉ではありませんか。かなり進行した「認知症」を抱える大久保さんの母は「健やか」とは言い難いでしょう。


(2)「両立無理」なのにバイトの面接?

記事の前半で大久保さんは「(母親の介護と)仕事の両立なんて到底無理」と語っています。しかし、その後に「飲食店のアルバイト」の面接を受けて「不採用」になった話が出てきます。「両立なんて到底無理」と言っている人がアルバイトの面接に臨むのは辻褄が合いません。

大久保さんは「食品工場の深夜の出荷作業」の求人に触れて「でも、昼間は介護で、夜は仕事では『過労死』してしまう」とも述べています。これも解せません。記事によると、大久保さんの母親はデイサービスに「週3日」通っています。「短期宿泊するショートステイ」も利用しています。だとすれば「週3日」は昼間に働けます。

記事の情報から判断すると、大久保さんは「昼間に週1~3回は働けるのに働いていないだけ」だと思えます。


(3)「働き続けなければならない」=「無定年」?

特集の冒頭で「生計を立てるために働き続けなければならない現実が迫る。いわば、定年がなくなる『無定年』時代の到来だ」と記しています。

「無定年時代」と聞くと「定年がない時代」だと思ってしまいます。しかし「定年が近づく前に確認しよう あなたの老後生活 健全度チェック」という記事もそうですが、特集では「定年後に働き続ける」という前提で話が進みます。これでは「無定年」とは言えません。


(4)所得代替率36%は「年金崩壊」?

「PART 1~年金崩壊カウントダウン 2050年代に積立金は枯渇か」という見出しの「年金崩壊」は大げさだと思いませんか。「2050年代に積立金は枯渇か」となっているので、この頃に「年金崩壊」が起きると見ているのでしょう。

しかし「積立金が枯渇」した「翌52年」でも年金の「所得代替率」は「36.1%」です。「マクロ経済スライドを適切に実施」すると「所得代替率は46.8%と許容範囲内にとどまり、公的年金の機能は維持される」ようですが、10ポイントしか差がありません。

所得代替率36%は「年金崩壊」で、46%ならば「年金崩壊回避」と言えるでしょうか。恣意的に線引きしない限り、2つを「崩壊」と「崩壊回避」に分けるのは難しいでしょう。


(5)なぜ「2030年代前半」?

「PART 1~年金崩壊カウントダウン 2050年代に積立金は枯渇か」という記事に付けたグラフには「2030年代前半には枯渇の恐れが顕在化し、危機感が広がる恐れも」という説明文が付いています。

しかし、なぜ「枯渇の恐れが顕在化」する時期を「2030年代前半」と特定しているのか記事を読んでも分かりません。記事では「2050年代に積立金は枯渇か」と既に「枯渇の恐れ」を伝えているので、「2020年代前半」に「危機感」が広がってもおかしくありません。と言うより、その方が自然です。

「2030年代前半には枯渇の恐れが顕在化し、危機感が広がる恐れも」と書いてあると「2020年代には枯渇の恐れが顕在化せず、危機感も広がらない」との示唆を感じます。なぜそんな書き方をしているのか理解できませんでした。


(6)「中田大悟准教授らの試算」のはずでは?

グラフに関してもう1つ注文を付けます。「積立金」が「2050年代前半」に枯渇する推移を表す線には「中田大悟准教授らの試算」と書いてあります。しかし注記では「日本総合研究所の西沢和彦・主席研究員と創価大学の中田大悟准教授の推計を基に本誌で積立金の推移をイメージ化した。図は2人の作成ではなく、あくまで概念図」と説明しています。

これは感心しません。注記の通りならば、「中田大悟准教授らの試算」ではなく「本誌が描くイメージ(中田大悟准教授らの推計を基に作成)」とでもすべきでしょう。

読者の多くは小さな文字で書かれた注記まで目を通さないはずです。「中田大悟准教授らの試算」との説明を見れば「中田大悟准教授らの試算」をそのままグラフ化したと思うのが自然です。しかし、注記によれば、そうではありません。なぜこんな手法を選んだのですか。これでは「意図的に読者を誤解させようとしている」と思われても仕方がありません。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。


【日経BP社の回答】

日経ビジネスをご愛読頂き、ありがとうございます。ご質問に回答させて頂きます。

「支出が100万円を上回る場合」は、ご指摘の通り、不足額が100万円を上回る意味で表記しました。「支出が多くて不足額が100万円を上回る場合」と丁寧に説明するべきでした。分かりにくい表現であったと反省し、今後の記事の参考にさせて頂きます。

健康度チェックについては貯蓄が1億円や10億円のケースについては当初から想定しておりませんでした。一律に「健康度」を測ることが難しいことは承知の上で、専門家の意見を踏まえながら作成しましたが、今後は誤解を招かないよう努力していきたいと存じます。

(1)~(6)のご指摘については、真摯に受け止め、今後の編集に役立てていく所存です。

◇   ◇   ◇


※今回取り上げた特集「『無定年』時代~年金激減後の働き方」
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/special/100201085/?ST=pc

※特集の評価はD(問題あり)。担当者らの評価は以下の通りとする(敬称略)。

田村賢司(Dを維持)
武田安恵(Dを維持)
吉岡陽(C→D)

2018年10月9日火曜日

乳がん検診「ぜひ受けるべき」? 日経 佐々木玲子女性面編集長に問う

「がん検診を受けるのは良いことだ」と当たり前に信じている人も多いだろう。この問題は、調べれば調べるほど「受けない」という選択に傾きそうな気がする。少なくとも単純に「受けるべきだ」とは言えない。ところが8日の日本経済新聞朝刊女性面に「女性はぜひ(乳がんの)検診を受けて」と訴える記事が載っていた。筆者の佐々木玲子 女性面編集長には以下の内容で意見を送っておいた。
白池地獄(大分県別府市)※写真と本文は無関係

【日経女性面編集長へのメール】

日本経済新聞社 女性面編集長 佐々木玲子様

8日の朝刊女性面に載った「取材を終えて〉早期発見へ検診身近に」という記事について意見を述べさせていただきます。引っかかったのは以下の説明です。

「『女性はぜひ検診を受けて』と辻さん。早期発見は治療のカギ。09年に検診車での乳がん検診を導入したベネッセホールディングスでは、親友を乳がんで亡くした当時の人事担当の女性が制度化に尽力した。働く女性が増えるなか、業務の合間に受けやすい検診の広がりに期待したい」

これを読んだ女性の多くは「乳がん検診を受けるのは無条件に好ましいことだ」と思うかもしれません。しかし、実際には必ずしもそうとは言えません。2016年12月11日付の日経ヘルス「『乳がん検診、行かなきゃ』…その思い込みは捨てよう」という記事では以下のように記しています。

「乳がんを含めたがん検診の目的は、死亡率を下げること。しかし実際は、検診により新しく発見される罹患者数は増えているのに、死亡率は下がっていない。聖路加国際病院乳腺外科の山内英子部長は、『そろそろ、必ず検診に行かねばならないという“がん検診神話”は捨ててほしい。乳がん検診の場合、発症リスクの低い人が検診を受けることで、過剰診断や偽陽性、被曝のリスク、精神的な負担などの不利益が、検診による利益を上回ることも。発症リスクを考慮して、必要な人が、その人に合った方法で検診を受けてほしい』と話す」

「乳がん検診」に関して「仮に効果がなくても害はない」と言えるならば「女性はぜひ検診を受けて」と呼びかけても罪は少ないでしょう。しかし、「過剰診断」などのマイナスも大きいのです。単純に「受けて損はない」とは言えません。

「女性はぜひ検診を受けて」と訴えるのであれば「検診を受けると長生きする確率が高まるという明確なエビデンスが日本人女性についてあるかどうか」を確認する必要があります。海外での効果だと日本人に当てはまるとは限りません。

また、検診ががん死亡率を下げるとしても、総死亡率(がん以外での死亡も含む)を下げる効果がなければ意味はありません。

乳がんに限らずがん検診については、がん死亡率を下げる場合でも総死亡率は下がらない(がん以外での死亡率が上がって相殺される)との報告もあります。記事を書く上では、こうした点も考慮すべきです。

せっかくの機会ですので「がん診断経て働き続ける~時短・在宅勤務利用/自然な受け入れ安心」というメインの記事にも2つ注文を付けておきます。


(1)不自然な日本語では?

「治療中は仕事はおろか『涙しか出ない日』もあった」という文に不自然さを感じました。「AはおろかBもあった」と言う場合、「AもBも」あったはずです。今回の場合「仕事はもちろんあったし『涙しか出ない日』もあった」と解釈すると、文脈的にうまく繋がりません。単純には直しにくいのですが、例えば「治療中は仕事はおろか食事さえ満足にできない日もあった」などとすれば問題は解消します。
活水女子大学(長崎市)※写真と本文は無関係


(2)受身は少なめに

「患者の就労支援は、3月に策定された第3期がん対策推進基本計画でも重要課題に位置づけられた」というくだりでは同一文中に受身表現が2回出てきます。これらは「使う必要のない受身」です。「患者の就労支援は、3月に策定した第3期がん対策推進基本計画でも重要課題に位置づけた」としても何の問題もありません。「受身を使わない選択肢はないか」と考える癖を身に付けてください。

色々と注文を付けてきましたが、前任の佐藤珠希氏が編集長を務めていた時期よりも、女性面の質は向上していると思えます。当時は偏見や事実誤認に基づく記事が頻繁に載っていました。

参考までに、2016年12月に佐藤珠希氏へ送ったメールの内容を加えておきます。佐藤氏からの返信はありませんでした。

~佐藤氏に送ったメール~

日本経済新聞 女性面編集長 佐藤珠希様

12月30日の「女・男 ギャップを斬る~共働き社会 追いつかぬ政策 平日の子連れパパ 定着を/母に求める水準高すぎる」という記事について意見を述べさせていただきます。 記事は水無田気流氏と池田心豪氏に佐藤様がインタビューする内容となっています。この中で特に水無田氏の発言に問題を感じました。

記事の中では、女性だけが負担を強いられているかのような発言が出てきます。例えば「保育園の入園手続きは煩雑で仕事復帰へのプレッシャーも大きい。母親は精神的・時間的コストを一人で負っている」と水無田氏は述べていますが、父親が「精神的・時間的コスト」を負っているケースも当然にあります。家庭によって事情はそれぞれなのに「母親は精神的・時間的コストを一人で負っている」と断言するのは正しいのでしょうか。

より大きな問題があるのは以下の発言です。

「私も子どもが生まれたときは非常勤講師だったので、預け先探しに苦労した。専門学校の夜間講義の日は公営の一時保育に預け、午後9時に授業が終わると迎えに飛んで行き、寝ている息子を引き取りタクシーで帰る。託児コストで講義報酬の半分近くが消えた。両立のコストを女性だけが担っている。社会構造の問題だ」

「我が家の場合は両立のコストを女性である自分だけが担った」と言うのは分かります。しかし、それはあくまで水無田氏の話です。なのに、なぜか水無田氏は「両立のコストを女性だけが担っている。社会構造の問題だ」と全体に広げてしまいます。保育園への子供の送り迎えをしている男性など日本中に山ほどいます。それは佐藤様もご存じのはずです。なのに「両立のコストを女性だけが担っている」といった水無田氏の誤った認識を正さないまま、記事にしてよいのですか。

「両立のコストを負っている男性もいますよね」とインタビュー時に聞いてもいいでしょう。偏見が強すぎる部分については省いて記事にする選択もあります。しかし、そうした手を打たず、誤解に基づく水無田氏の発言をそのまま載せてしまったのは、佐藤様にも責任があります。

そもそも「両立のコストを女性だけが担っている」状況がおかしいと思うのならば、水無田氏はなぜ自ら改善に動かなかったのでしょうか。「託児コストで講義報酬の半分近くが消えた」と述べていますが、夫が働いていたのであれば、「託児コスト」の一部を負担してもらえばよいでしょう。夫が無職であれば、送り迎えは分担できそうです。健康上の問題などでそれも難しい場合はあり得ます。ただ、その場合は「社会構造の問題」というより、「個別の家庭の問題」と見るべきです。

「母親は精神的・時間的コストを一人で負っている」「両立のコストを女性だけが担っている」といった誤った情報を読者に届けるのは、そろそろ終わりにしませんか。水無田氏をどうしても使いたいのならば止めません。ただ、偏見に満ちた思い込みに関しては、佐藤様から働きかけて改めてあげてはどうでしょう。読者の利益を考えればそうすべきですし、結果として水無田氏の名誉も守られるはずです。

◇   ◇   ◇

※今回取り上げた記事

「がん診断経て働き続ける~時短・在宅勤務利用/自然な受け入れ安心」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181008&ng=DGKKZO36169230V01C18A0TY5000

「取材を終えて〉早期発見へ検診身近に」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181008&ng=DGKKZO36169240V01C18A0TY5000


※記事の評価はD(問題あり)。女性面全体のレベル向上を評価して佐々木玲子女性面編集長への評価はC(平均的)とする。


※水無田気流氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経女性面「34歳までに2人出産を政府が推奨」は事実?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/34.html

日経女性面に自由過ぎるコラムを書く水無田気流氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_5.html

日経女性面で誤った認識を垂れ流す水無田気流氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_30.html

「男女の二項対立」を散々煽ってきた水無田気流氏が変節?
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_58.html