2016年10月6日木曜日

どの程度の「急上昇」? 日経「欧州国債、利回り急上昇」

「読者への嫌がらせでもしているつもりか」と言いたくなる記事が5日の日本経済新聞夕刊総合面に出ていた。「欧州国債、利回り急上昇 中銀の量的緩和縮小 観測」という見出しに釣られて記事を読んでみたが、どの程度の「急上昇」なのか具体的な数字がない。これでは辛い。
柳川の川下り(福岡県柳川市) ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

【ロンドン=黄田和宏】4日の欧州債券市場で、各国の国債利回りが幅広い年限で急上昇(価格は下落)した。ユーロ圏の長期金利の指標となるドイツの10年債利回りは、取引終了にかけて一時マイナス0.04%台に大きくマイナス幅を縮小。スペイン10年債は2週間ぶりに1%台に乗せた。欧州中央銀行(ECB)が量的緩和策の規模を縮小するとの観測を受けて、債券売りが広がった。

米通信社ブルームバーグがECB関係者の話として、「この1カ月間に、政策当局者の間で資産購入の規模を縮小する必要が出てくるとの非公式の総意が形成された」と報じたのがきっかけだ。報道によれば、購入額を月額100億ユーロ減らす案が浮上しているという。

外国為替市場では、金利上昇を受けてユーロに買いが優勢となった。対ドルでは一時1ユーロ=1.12ドル台半ばと、報道直前の1.11ドル半ばから上昇に転じた。対円では一時1ユーロ=115円台半ばと、9月中旬以来の円安・ユーロ高水準をつけた。

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例えば「日経平均が大幅高」との見出しが付いている記事で、どの程度の上昇だったのかが抜けていたらどう感じるだろうか。今回の記事では「4日の欧州債券市場で、各国の国債利回りが幅広い年限で急上昇(価格は下落)した」と伝えているのだから、4日の「各国の国債利回り」が前日に比べてどの程度の「急上昇」だったのかは何が何でも入れるべきだ。

しかし「ドイツの10年債利回りは、取引終了にかけて一時マイナス0.04%台に大きくマイナス幅を縮小。スペイン10年債は2週間ぶりに1%台に乗せた」と書いているだけだ。「黄田記者はあえて上昇幅に触れなかったのかな?」と思わせるような作りになっている。為替市場の話を入れる余裕があるのだから「紙面に余裕がなくて…」との弁明も難しい。

現状では欧州の国債利回りの多くがゼロに近い水準なので、わずかな幅の動きでも率で見れば「急上昇」になってしまう。そういう意味でも、どの程度の「利回り急上昇」なのかは欲しい。


※記事の評価はD(問題あり)。暫定でDとしていた黄田和宏記者への評価はDで確定とする。黄田記者に関しては「日経 黄田和宏記者『英国債利回り、一部マイナス』の矛盾」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_13.html)も参照してほしい。

2016年10月5日水曜日

東洋経済 山田雄大記者の秀作「スズキ おやじの引き際」

週刊東洋経済10月8日号の巻頭特集「スズキ おやじの引き際」は秀作だった。「鈴木修会長(86)。自動車業界のレジェンドに残された最大かつ最後の仕事は、長男・俊宏社長(57)への真の継承だ」という山田雄大記者の問題意識がインタビューの中で明確に出ている。スズキという企業を理解する上でも貴重な資料と言える。
つづら棚田(福岡県うきは市) ※写真と本文は無関係です

一部を引用したい。

【東洋経済の記事】

--そうした組織の問題を正していくのは経営者の責任です。そこで会長と社長の役割分担は?

私の時代にたこつぼ人事も、縦割りの組織の人事もやっていたわけですから、私が反省して、先頭に立ってそれを直さなくちゃいかん。

社長はコミュニケーションを横断的なやり方でやっていく。業務執行とはそういうことですから。

--確かに社長はCOO(最高執行責任者)です。ただ、今はCEOも兼務されている。

だから最終的に決定をする。

--しかし、会長が実権を握ったままに見えます。

それは40年続いたものですから1年や2年でできるわけではありませんよ。最低5年はかかるんじゃないですかね。

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会長兼CEOとして絶対的な権力を握り続けて、社長は単なる部下という例は珍しくない。セブン&アイホールディングスでは、ちょっと前まで鈴木敏文氏がそういうスタイルで経営を続けてきた。しかし、CEO職まで譲っているのに、それでも前面に出ていくのは記憶にない。その意味で鈴木修氏は“斬新”だ。社内外で老害が強く意識されているのだろう。山田記者は臆せずにその点を突いている。そこは評価できる。

記事には以下のようなやり取りもある。

【東洋経済の記事】

--会長の存在感はあまりに大きい。やはり一歩引いて周りを押し立てるべきでは。

なぜ下がる必要があるかね。

--ではさらに前に出る、と。

それがないと3兆円企業をやっていけませんよ。10人や50人の企業ならやっていけるけど。

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ここでも「一歩引いて周りを押し立てるべきでは」と問いかけている。当たり障りのないインタビューにはしないという山田記者の意思を感じる。

記事には「鈴木会長はもう引退した方がいいな」と感じられるくだりが複数あって、スズキを見ていくうえで参考になった。その部分を見ていこう。

【東洋経済の記事】

--一歩引くつもりはない。

引くなら会社を辞めればいい。月給100万円くらいもらって、毎日がゴルフ。その方が楽。だけど3兆5000億円までいった企業を、見て見ぬふりをして、自分は楽隠居なんて、そんなのは社会的使命を果たしていない。

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鈴木会長は会社を辞めても、なぜかスズキから給料をもらい続けるつもりのようだ。仕事をしないのに、引退後も「月給100万円くらいもらって」と考える非常識さが見て取れて興味深い。

もう1つは以下のやり取りだ。

【東洋経済の記事】

--敵ですか。

ウチは8割を販売店さんに売っていただいている。大手さんと違って、スズキは自動車メーカーで最後発です。13番目から12番目になり、11番、10番、5番となっていった。商品企画などスズキ自体の努力はあるが、それにプラスして50%は販売店さんの努力。販売店さんに協力していただいたからこそである。

それを、スズキの車を売らせてやるんだから感謝しろ、という“上から目線”で、販売店との間にすき間風を吹かせたのが過去7~8年。

私は過去10年間、国内営業から遠ざかっていたが、2014年9月ごろからどうもおかしいな、と感じていた。翌1月に17項目にわたって国内営業の指標を調べてみた。すると見事に右肩下がりの状況だった。

たとえば3万5000~4万ある販売店で、ウチの車を1台でも売っていただいたお店が何店あるか。調べてみたら右肩下がり。年間に一定の台数を売っていただいている副代理店とかアリーナ店の数も右肩下がり。そういうことで業販(業者販売)のセールスが減っていた。右肩上がりは架空登録だけよ。

おかしいと感じた僕の“カンピュータ”が当たっていた。それは経験があるから当たるんです。

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まずトップとして経営を指揮する立場にいながら「過去10年間、国内営業から遠ざかっていた」のは問題だ。経営者ならば国内営業の状況は常に注視すべきだ。おかしくなったのが「過去7~8年」なのに「2014年9月ごろからどうもおかしいな、と感じていた」のであれば遅すぎる。経営者として怠慢だと言われても仕方がない。なのに鈴木会長は「僕の“カンピュータ”が当たっていた。それは経験があるから当たるんです」などと自画自賛している。

インタビューからは鈴木会長が「困った経営者」の域に達しているのが良く分かる。山田記者がうまく引き出している。俊宏社長へのインタビュー記事も会長インタビューと同様に興味深かった。詳細は省くが、困った老害会長を否定せず、かと言って盲従もせず、何とかうまく折り合いを付けていこうとする俊宏社長の苦労ぶりが浮き彫りになる内容だった。

東洋経済の経営者インタビュー記事としては久しぶりに満足できる出来だった。山田記者の迫力は2015年10月31日号の巻頭特集「TSUTAYA 破壊と創造」での杉本りうこ記者に通じるものがあった。


※特集の評価はB(優れている)。山田雄大記者への評価もBを維持する。2015年10月31日号の巻頭特集「TSUTAYA 破壊と創造」については「『TSUTAYA特集』に見えた東洋経済 杉本りうこ記者の迫力」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_27.html)を参照してほしい。

2016年10月4日火曜日

やはり工夫に欠ける日経 小平龍四郎編集委員「一目均衡」

日本経済新聞の小平龍四郎編集委員が書くコラムは相変わらず苦しい。4日朝刊の投資情報面に載った「一目均衡~韓国のブルース・リーは問う」も、「韓国のブルース・リー」が何かを問うてるようには思えなかった。韓国取材でこれといった話は聞けなかったのに、強引に日本の問題と絡めて記事を仕上げたように見える。
北九州市側から見た関門橋 ※写真と本文は無関係です

まずは記事の前半部分を見ていく。

【日経の記事】

9月末、韓国・ソウルで一人の投資家に会った。彼の名はブルース・リー。2014年に資産運用会社ゼブラ・インベストメント・マネジメントを一人で立ち上げた。韓国初のアクティビスト(もの言う株主)とされる人物だ。

往年の香港アクションスターと同じ呼び名は、かつて籍を置いた金融機関の上司がつけた。それが今では韓国の資産運用業界の「闘う投資家」として定着しつつある。「まだ運用規模が小さいため情報開示の義務はない」としたが、中小型の韓国企業2銘柄に投資しているもようだ

韓国経済では今、財閥経営への批判が高まっている。昨年はサムスングループの不透明な再編を、米投資会社のエリオット・マネジメントが激しく攻撃した。ごく最近ではロッテグループ会長の背任・横領疑惑に経済界が揺れている。

市場とのあつれきや不祥事のなかで注目されるようになったのは、企業統治(コーポレートガバナンス)だ。取締役会に加わらないオーナー家が経営に公然と影響力を持つといった問題を韓国企業は抱える。

リー氏によれば「中小の上場企業も同じような『財閥的問題』を抱えており、資本の無駄遣いがまん延している」。だからこそ小型株にアクティビズムの手法が有効と考えた。

社外取締役との会合を求めたり成長戦略を提案したりと、リー氏の手法はもの言う株主としてはオーソドックスだ。米国の基準では穏当な部類に入る。それでも身内意識の強い韓国では、ときに批判も受ける。「言っていることは正論だが、韓国で成功するかどうかは未知数」。ソウルの資産運用業界を回るとそんな声も聞かれた。

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◎オーナー家が影響力を持つのはダメ?

取締役会に加わらないオーナー家が経営に公然と影響力を持つといった問題を韓国企業は抱える」との説明は引っかかった。「取締役会に加わらないオーナー家」は「経営に影響力を持つ」べきではないと小平編集委員は考えているのだろう。これに同意できるだろうか。

例えば、他企業との合併を模索している上場企業でオーナー家が30%の出資比率を維持しているとしよう。役員を送り込んでいないオーナー家が合併に反対を表明し、これを受けて経営陣が合併を断念した場合、「コーポレートガバナンスに問題がある」と考えるべきなのか。「大株主であっても役員以外は経営に口出すな」というのでは、それこそ株式会社としてのガバナンスが正常に働かないはずだ。

仮に「取締役会に加わらないオーナー家」は株主であっても黙っているべきだとしよう。だとしたら「取締役会に加わらないアクティビスト」も黙っているべきではないのか。「オーナー家は正しく影響力を行使できないが、アクティビストならば必ずできる」とでも小平編集委員は考えているのだろうか。


◎「韓国のブルース・リー」は「闘う投資家」?

韓国のブルース・リー」は「今では韓国の資産運用業界の『闘う投資家』として定着しつつある」らしい。しかし、どうも怪しい。「中小型の韓国企業2銘柄に投資しているもようだ」との説明から判断すると、投資先は2社で具体的な社名は明らかにしていないのだろう。アクティビストの活動としては「社外取締役との会合を求めたり成長戦略を提案したり」といった穏健なものだ。韓国にアクティビストが根付いていないとしても、この程度で「韓国のブルース・リー=闘う投資家」とのイメージが定着するだろうか。記事を読む限りでは「闘う」様子が伝わってこない。

記事の後半部分にも注文を付けたい。

【日経の記事】

リー氏が注意深く見てきたのは日本の動向だ。強固な株式持ち合いや取締役会の閉鎖性といった日本の問題は、財閥支配が強い韓国にも重なるものがあるからだ。「日本が資本市場の力を使って、そうした問題をどう解決していくのか興味があった」

00年代の初めには投資活動を始めたばかりの村上世彰氏や、米カリフォルニア州職員退職年金基金(カルパース)と共同ファンドをつくったスパークス・グループの事例を研究。隣国でのもの言う株主の台頭に刺激を受けたリー氏は、当時勤務していた独系運用会社でガバナンスファンドの運用に力を入れた。

1997年の通貨危機を経て、00年前後からは韓国をはじめとするアジア全域でコーポレートガバナンス改革が始まった。時代の風にも背中を押され、リー氏は運用会社の設立構想を固めていった。

リー氏が追ってきた日本のガバナンス改革は、これからどこに向かうのか。数のうえで社外取締役が増えたことなどもあり、一部企業に達成感も漂う。

日本がこの程度で立ち止まるのはいかにも惜しい……。韓国の闘う投資家の視線には今、期待と不安が入り交じっている

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◎「韓国のブルース・リーは問う」になってる?

記事には「韓国のブルース・リーは問う」との見出しが付いている。だが、何を問うてるのか判然としない。記事に出てくるリー氏のコメントは「まだ運用規模が小さいため情報開示の義務はない」「(韓国の)中小の上場企業も同じような『財閥的問題』を抱えており、資本の無駄遣いがまん延している」「日本が資本市場の力を使って、そうした問題をどう解決していくのか興味があった」の3つ。特に日本に対して何かを「問う」感じはない。

日本がこの程度で立ち止まるのはいかにも惜しい……。韓国の闘う投資家の視線には今、期待と不安が入り交じっている」と小平編集委員は記事を締めているが、リー氏が何かを問うているわけではない。「日本がこの程度で立ち止まるのはいかにも惜しい」とは小平編集委員のつぶやきだと解釈するのが自然だ。「韓国の闘う投資家の視線には今、期待と不安が入り交じっている」と言うものの、リー氏の「期待と不安」の具体的な内容は不明だ。小平編集委員が勝手に「視線」を感じ取ったとでも言うべき曖昧な書き方だ。

推測するに「韓国のアクティビストに会ってみたが、それほど華々しく活躍しているわけではなかった」「日本に関して何かコメントしてくれないかと働きかけてみたものの、こちらの意向に沿った発言をしてくれなかった」--といったところではないか。しかし、当初の構想通りに記事をまとめてしまったので、苦しい内容になった。そう考えると納得できる。

数のうえで社外取締役が増えたことなどもあり、一部企業に達成感も漂う」という問題意識を小平編集委員が持っているのであれば、それを記事でより詳細に訴えればよいではないか。「さらに何を進めるべきなのか」「なぜこの程度で達成感が出てしまうのか」など色々と論じるべき点はありそうだ。

韓国のブルース・リー」に話を聞いて「これだ」と思えるものがあったのならば、それを柱に据えてもいい。しかし、期待通りにいかなかった時は大胆に方向転換すべきだ。「それができれば苦労しない。書きたいことがなかなか浮かばないんだ」と小平編集委員は言うかもしれないが…。


※記事の評価はD(問題あり)。小平龍四郎編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。F評価については「基礎知識が欠如? 日経 小平龍四郎編集委員への疑念(1)」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_11.html)「基礎知識が欠如? 日経 小平龍四郎編集委員への疑念(2)」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_84.html)を参照してほしい。小平編集委員については「工夫がなさすぎる日経 小平龍四郎編集委員の『羅針盤』」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_3.html)でも触れている。

「過ちて改めざる」東洋経済の西村豪太新編集長への手紙

週刊東洋経済の編集長が10月から西村豪太氏に代わったらしい。前任の高橋由里氏がどこへ行ってしまったのか分からないが、2人とも記事中のミスの握りつぶしをためらわないタイプなので、良い方向へは行きそうもない。それでも、別紙で送られてきた「新編集長就任のご挨拶~日本と世界の難題を俯瞰し、皆様と突破口を探します」を受ける形で、お祝いとお願いのメールを東洋経済編集部へ送っておいた。
亀山八幡宮(山口県下関市) ※写真と本文は無関係です

内容は以下の通り。

◆西村豪太新編集長への手紙◆

週刊東洋経済 編集長 西村豪太様

10月8日号と一緒に「新編集長就任のご挨拶」というお知らせが送られてきたので、読ませていただきました。編集長への就任おめでとうございます。挨拶文の中で西村様はこう述べています。「私たちは1895年の創刊以来、『より突っ込んだ情報』を求める読者に支えられてきました。そうした目利きに選ばれ続けるために、読者の皆様のニーズを満たすべく努力を重ねています」。これを信じて、西村様に一読者としてお願いがあります。

読者からの間違い指摘を無視したり、記事中の誤りを握りつぶしたりといった読者への背信行為をやめていただけませんか。西村様に関しては、明らかな誤りと思える2件の問い合わせをしていますが、完全に無視されたままです。これで「読者の皆様のニーズを満たすべく努力を重ねて」いると言えるでしょうか。メディアとしての最低限の説明責任さえ果たしていません。

「ますます混沌を深める現代を読み解くために週刊東洋経済の定期購読を、自信を持ってお勧めいたします」とも西村様は訴えています。「記事は間違いだらけじゃないか」などと文句を付けるつもりはありません。ただ、誤りがあれば素直に認めて反省し、次回以降に生かしてほしいのです。「誤りではない」との判断ならば、根拠を示して回答すれば済む話です。それができずに逃げ回っているのに、「定期購読を、自信を持ってお勧め」するのは不遜が過ぎます。

10月8日号の「編集部から」では「失敗の経験だけは豊富ですので、これを頼りにタイムリーな雑誌作りに邁進します。ご愛読のほど、よろしくお願いします」とも西村様は書いています。「失敗の経験」が多くても、失敗を失敗と認めずに、闇から闇へと葬り去っていては「タイムリーな雑誌作り」に生かすことなど夢のまた夢です。西村様はプライドが高すぎるのでしょう。優れた記事を生み出す上で、余計なプライドは百害あって一利なしです。

「過って改むるに憚ることなかれ」--。編集長に就任された西村様に私からこの言葉を贈ります。西村様が無視したままの問い合わせも改めて送っておきます。新編集長就任の挨拶文には「皆様と突破口を探します」との見出しが付いていました。まずは、読者への背信行為をやめられない今の状況を「突破」してみませんか。


【問い合わせ~その1(2015年11月)】

40ページの記事「新オイルショックの現実味」には「仮に米中軍の衝突でマラッカ海峡経由のシーレーンが遮断されれば、原油の最大の輸入国である中国への供給不安も顕在化する。そうなれば世界の石油市場は売り手市場へ一変するだろう」との解説があります。しかし、「中国への原油輸出の途絶は供給過剰を招く要因になる」と考えるのが自然です。つまり、買い手市場になりやすくなります。もちろん米中の軍事衝突自体は原油相場の上昇要因でしょうが、「中国への供給不安の顕在化→一気に売り手市場になる」という経路での変化は考えにくいと思えます。

記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題がないとすれば、その根拠も併せて教えてください。


【問い合わせ~その2(2016年5月)】

5月28日号の特集「セブン再出発」についてお尋ねします。58ページの記事では、イトーヨーカ堂の不採算店舗の閉鎖が進まない理由として「これまでは鈴木会長がリストラを抑えてきたという見方もある。鈴木会長はヨーカ堂幹部に対し、『HDが増益できる範囲でないと特損を出してはいけない』と指示してきたようだ。店舗を一気に閉鎖すれば、数百億円の巨額特損が発生する」と説明されています。

セブン&アイHDが増益を続けてきたのならば分かりますが、純利益で見ると2016年2月期まで2期連続の減益です。特損計上の回避によって増益を維持してきたとは考えられません。

49ページで「鈴木会長は退任会見で『この数年、連続最高益でやってきた』と実績を誇ったが、それを維持するためにリストラへの踏み込みが不十分だった懸念がある」と書いているのも、ヨーカ堂の不採算店舗閉鎖に関連したものです。ただ、ここで言うHDの「連続最高益」は営業利益ベースではありませんか。だとすると、リストラで巨額の特損を計上しても最高益は維持できます。

記事の説明には問題があると考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その理由も併せて教えてください。

付け加えると「増益できる範囲」との表現には違和感があります。「増益する」「減益できない」といった言い方はあまりしません。「増益になる範囲」などした方が自然ではないでしょうか。

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※問い合わせへの無視が続く前提で西村豪太編集長への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。この評価については「道を踏み外した東洋経済 西村豪太編集長代理へ贈る言葉」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_4.html)を参照してほしい。

2016年10月3日月曜日

工夫がなさすぎる日経 小平龍四郎編集委員の「羅針盤」

多くの人が扱っているテーマでコラムを書く場合、「なぜ、あえてこの問題を自分が取り上げるのか」を考える必要がある。その意味で3日の日本経済新聞朝刊予定面に載った「羅針盤~『官製相場』を考える」は新味に欠ける内容だった。筆者の小平龍四郎編集委員は書くことがなくて仕方なく「日銀のETF購入問題」を取り上げたのだとは思う。しかし、それにしても工夫がなさすぎだ。
中津城(大分県中津市)※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

株式市場で「官製相場」という言葉を耳にする機会が増えた。日銀が上場投資信託(ETF)を積極的に購入し、株価を下支えしている状態を指す。

日銀の中曽宏副総裁は9月8日の講演で年6兆円の買い入れ額を、アベノミクス開始からの最初の3年間(2013~15年)に外国人投資家が買い越した金額が16兆円だったことと対比し「極めて大きなもの」と述べた。自分たちが株式市場の主要参加者の一人であることの自覚は日銀側も持っている。

しかも、外国人投資家は売ったり買ったりを繰り返すのが常だが、日銀という投資家が売りに回るのは今のところ考えられない。買うのみだ。株価指数が一定以上に下がるとかなりの確率で日銀が動くことも、経験則として知られる。株価の下支え役としての存在感は「6兆円」という金額以上のものがある。

経済再生に向けた金融緩和策のメニューの一つと位置づけられるため、日銀のETF購入を強く批判する向きは、決して多数派ではない。国内のセルサイド(証券会社)ほど支持者が多いようにも見受けられる。「1ドル=100円近辺まで円高・ドル安が進んでも日経平均株価が1万5000円を下回らないのは日銀の買い支え効果が大きい」(大手証券)。要は、株価の為替離れである。

ETF買いによって株価を為替変動から遮断できたとしても、企業業績はそうはいかない。2017年3月期決算の予想の前提として、足元の状況より円安・ドル高の為替水準を見込む企業もあるようだ。このまま1ドル=100円近辺の水準が円安の方向に是正されないようだと、いずれ業績の下方修正が避けられない。そうなると日銀のETF買いで維持される株価は割高感が強まり、為替離れの度合いも大きくなる。それでもなお、市場の筋論として、日銀の株価維持を積極的に評価できるものだろうか。

企業の最新の為替見通しを聞いてみたい

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基本的には「日銀が大量にETFを買うから円高になっても株価が下がらない。市場のあるべき姿として、これでいいのか」と言っているだけだ。この点は日銀がETF購入枠を6兆円に拡大した直後から繰り返し指摘されてきた。枠の積み増しから2カ月も経った後で「市場の筋論として、日銀の株価維持を積極的に評価できるものだろうか」と問いかけるだけならば、記事を載せる意味はない。円高になれば企業業績に下方修正圧力が働くのは誰でも分かる。小平編集委員にしかできない、小平編集委員ならばできる分析が欲しい。それが無理ならば、「編集委員」の肩書を付けてコラムを書く資格はない。

ついでに3点を指摘しておく。

◎「為替離れの度合いも大きくなる」?

株価と為替相場がリンクしにくくなっていると述べた後で、円高によって業績の下方修正が進むと「株価は割高感が強まり、為替離れの度合いも大きくなる」と小平編集委員は言う。これは妙だ。

「為替相場が1ドル100円ならば日経平均は1万4000円が適正水準なのに、日銀がETFを買うから1万5000円台を維持している」としよう。ここで為替相場と株価が変わらないのに、企業業績が落ち込むと株価の「為替離れの度合い」は大きくなるだろうか。

株価も為替相場も変化しないのだから「(株価の)為替離れの度合い」は大きくも小さくもならない。企業業績が落ち込んで株価が下がらなければ、株価の「業績離れの度合い」は大きくなるだろうが…。


◎「円安の方向に是正」?

このまま1ドル=100円近辺の水準が円安の方向に是正されないようだと、いずれ業績の下方修正が避けられない」とのくだりで「円安の方向に是正」と表現しているのが気になった。「今の為替相場は望ましい水準よりも円安に振れている」と小平編集委員は判断しているのだろう。しかし、その根拠は示していない。

円高が企業業績にマイナスだとしても、だからと言って「是正」すべきものとの前提で記事を書くのは感心しない。円高にはメリットもあるし、円安のデメリットもある。今回の場合、「このまま1ドル=100円近辺の水準が円安に動かないようだと~」といった中立的な表現で良かったのではないか。


◎唐突で説得力に欠ける結び

そうなると日銀のETF買いで維持される株価は割高感が強まり、為替離れの度合いも大きくなる。それでもなお、市場の筋論として、日銀の株価維持を積極的に評価できるものだろうか」と書いた後で、「企業の最新の為替見通しを聞いてみたい」と強引に記事を終わらせている。

日銀の株価維持を積極的に評価できるものだろうか」で前の段落が終わっているのだから、例えば「日銀支持派の市場参加者に改めて意見を聞いてみたい」ならば、まだ分かる。だが、小平編集委員はなぜか「企業の最新の為替見通しを聞いて」みたくなったらしい。

聞いてどうするのだろう。「今の為替相場の水準を前提に業績見通しを立てています」と言われたら、「それなら日銀の株価維持も悪くないかも…」とでもなるのだろうか。「市場の筋論として、日銀の株価維持を積極的に評価できる」かどうかと「企業の最新の為替見通し」は基本的に関係ないはずだ。説得力に欠ける唐突な結びと言うほかない。


※記事の評価はD(問題あり)。小平龍四郎編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。この評価については「基礎知識が欠如? 日経 小平龍四郎編集委員への疑念(1)」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_11.html)「基礎知識が欠如? 日経 小平龍四郎編集委員への疑念(2)」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_84.html)を参照してほしい。

7~9月最優秀記事はエコノミスト「人口でみる世界経済」

2016年7~9月の最優秀経済記事は週刊エコノミスト10月4日号の特集「人口でみる世界経済」としたい。この特集を担当した黒岩亜弓記者を最優秀の書き手とする。同誌の7月12日号の特集「英国EU離脱の衝撃」(担当は桐山友一記者、種市房子記者、大堀達也記者)とほとんど差はないが、「なるほど」と思わせてくれる感じは前者の方が強かったような気がする。
競秀峰と青の洞門(大分県中津市) ※写真と本文は無関係です

最近は週刊ダイヤモンド、週刊東洋経済のメイン特集で経済離れが目立つ。「落語にハマる!」「今こそ!嫌われる勇気」「日本の警察」「どう生きますか逝きますか」「『実家』の大問題」「孫子」「皇室」「歌舞伎に誘う」--。これらはダイヤモンドがここ数カ月に組んだメイン特集の一部だ。タイトルから「週刊ダイヤモンド=経済誌」と判断できるだろうか。

東洋経済も9月10日号で「みんなペットに悩んでる」という明確な脱線特集を組み、9月24日号「納得いく死に方」、10月8日号「『脳』入門」など経済とは距離のある特集をメインに据えている。そんな中で経済の特集を前面に押し出してくれるエコノミストは貴重な存在になりつつある。8月30日号の「天皇と憲法」はやや脱線気味だが、このぐらいは許容範囲だろう。経済誌の読者(特に定期購読者)は経済情報を得るために雑誌を購入しているはずだ。エコノミストには、今後もその期待に応えて続けてほしい。

「就職活動を控えているんで、やはり日経を読んでおいた方がいいですか」と大学生に相談された時には「経済に関する基礎的な情報を押さえておくだけなら、日経を読む必要はない。ダイヤモンドか東洋経済のどちらかを毎号読んだ方がいい」などと助言していた。しかし、最近の両誌を見ていると、お薦めリストからは外さざるを得ない。


※週刊エコノミスト10月4日号の特集「人口でみる世界経済」については「これぞ経済誌の特集 エコノミスト『人口でみる世界経済』」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/09/blog-post_28.html)を参照してほしい。同誌7月12日号の特集「英国EU離脱の衝撃」については「英国EU離脱特集 経済4誌では週刊エコノミストに軍配」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_7.html)で触れている。

2016年10月1日土曜日

「日銀の新緩和策」分析に難あり日経ビジネス「時事深層」

日経ビジネス10月3日号の「時事深層 INSIDE STORY~日銀の新緩和策に市場は冷淡 進む財務悪化、単年度赤字も」という記事は分析の甘さが目立った。
靖国神社(東京都千代田区) ※写真と本文は無関係です

まずは記事の一部を見ていこう。

【日経ビジネスの記事】

もっとも日本経済が浮上したとして、そこにも難関が待ち受ける。経済が回復期を迎えると、マイナス金利をやめて政策金利を引き上げる必要が出てくる。

日銀は現在、銀行など金融機関から受け入れている日銀当座預金の一部に0.1%の利子をつけているが、「構造的に付利を引き上げなければ市場金利が上がらない」(末澤豪謙・SMBC日興証券金融経済調査部部長 金融財政アナリスト)。だが、付利を上げれば利払いが増え、前述の利息収入による収益をさらに圧迫する。

さらに金利が上昇して債券価格が下落すると、機関投資家などは保有する大量の国債で含み損を抱えることとなり、その損失を穴埋めするために保有する株やETF(上場投資信託)の売却が必要となる可能性がでてくる。

その結果、株価が大幅下落して、日銀は保有する株やETFが減損を迫られる負のスパイラルに至る可能性もある。日銀は、今年7月の追加緩和でETF買い入れ額を6兆円に増やしたばかり。大量のリスク資産保有が裏目に出る可能性も否定できない。

国債の利息収入が減る一方で当座預金への利払いが増大し、ETFなどの資産にも損失が発生する事態となると、日銀は単年度業績で赤字に転落しかねない。赤字が続けば、最終的には債務超過にすらなりかねない。

日銀の単年度赤字転落というような事態を避ける道筋があるとすれば、緩やかな金利上昇が続くことで、保有国債の処理を長時間かけて進めることだけだ。日銀の進む道は、ほとんど見えないほどに細いものになりつつある。


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「日本経済の状況が上向く→金利が上がる(債券価格が下がる)→債券で損失を出した投資家が株を売る→日銀の保有するETFの価値が減る」という流れを筆者らは想定している。しかし、これは苦しい。「日本経済が浮上」する時には、株式相場も上昇すると想定するのが自然だ。もちろん売りに回る投資主体もあるだろうが、景気が上向きの時に「株価が大幅下落して、日銀は保有する株やETFが減損を迫られる負のスパイラルに至る」と心配する必要性は乏しい。

日銀は単年度業績で赤字に転落しかねない。赤字が続けば、最終的には債務超過にすらなりかねない」などと日銀の財務状況をやたら気にするのもよく分からない。狂ったような勢いの金融緩和からの出口を模索するのは困難になっており、その点で「日銀の進む道は、ほとんど見えないほどに細い」とは言える。しかし「日銀の単年度赤字転落というような事態を避ける」ことは、仮に難しいとしても重要な問題なのか。

普通の会社で赤字や債務超過が問題となるのは、支払い能力の低下と結び付くからだ。しかし、日銀の場合、赤字だから銀行への利払いができなくなるといった事態は想定しづらい。この記事の冒頭には「『日銀破綻』の可能性も出てくる」と書いているが、お札を発行する権利を有する日銀が「破綻」するとはどういうことなのか。筆者らは日銀を普通の会社(あるいは普通の銀行)と同じような感覚で分析しているように見える。

記事の結論部分にも疑問が残った。

【日経ビジネスの記事】

金融緩和の効果が薄れ、財務面でも窮地に立たされた日銀。「打てる手は全て打った。次は政府が構造改革で効果を出す時だ」。黒田総裁の心の中には、そんな思いがあるはずだ。「緩和策は需要の先食いしかできない」(BNPパリバ証券の河野氏)。だからこそ、政府が構造改革を進めることで潜在成長率を安定的に引き上げ、日本経済を救い、日銀財務の重荷を処理していく。残されたシナリオはこれしかない

政策決定会合が開かれた21日、米ニューヨークで国連総会に参加した安倍晋三首相は金融関係者と対話していた。その場で「私にとって最大のチャレンジは経済、経済、経済だ」と断言。2016年度第2次補正予算案の成立を急ぐが、成長力の底上げにつながる構造改革への取り組みは急務で、「働き方改革」などを最優先課題に挙げた。政府が構造改革に手を打てるのかが日本経済の将来を決める

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日本経済が浮上したとして、そこにも難関が待ち受ける」「日銀の単年度赤字転落というような事態を避ける道筋があるとすれば、緩やかな金利上昇が続くことで、保有国債の処理を長時間かけて進めることだけだ」と筆者らは主張していた。そのためには「政府が構造改革を進めることで潜在成長率を安定的に引き上げ、日本経済を救い、日銀財務の重荷を処理していく。残されたシナリオはこれしかない」とも言い切っている。

政府が構造改革を進めて経済状況が上向いたとしよう。しかし「日本経済が浮上したとして、そこにも難関が待ち受ける」のだから、苦しい状況に変わりはない。筆者らの主張に従えば、残された道を行くためには「緩やかな金利上昇が続くこと」が条件になる。構造改革が日本経済を救うものだとしても、金利上昇を緩やかにしてくれるわけではない。「残されたシナリオ」を語るならば、金利上昇をどうやって緩やかにするのかを提示する必要がある。

個人的には「働き方改革」などの「構造改革」で「潜在成長率を安定的に引き上げ」られるとは思えない。現在0%に近いと言われる潜在成長率を人口減少期に入った日本で「安定的に引き上げ」る政策などあるのか。そんな特効薬があるなら教えてほしい。「解雇規制を緩めたり、残業代なしで働き放題にしたりすれば、潜在成長率は2%、3%へと順調に高まっていく」などと筆者らは本当に信じているのだろうか。


※記事の評価はD(問題あり)。記事の担当は田村賢司主任編集委員、武田健太郎記者、 安藤毅編集委員の3人だが、主な執筆者は田村主任編集委員だと推定し、他の2人への評価は見送る。田村主任編集委員への評価はDを維持する。

※この記事に関しては「日銀は今、金融調整になる国債の償還前売却は実施していない。つまり元本以上の高値で国債を購入することはできない。初めから損を確定させたような取引なのである」との記述で「国債を購入」は「国債の売却」の誤りではないかとの問題もある。この点に関しては「『購入』と『売却』を間違えた?日経ビジネス『時事深層』」(http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/09/blog-post_30.html)を参照してほしい。