2015年5月24日日曜日

日経の「拡販」記事は読む必要なし

日経で主見出しに「拡販」が入ってたら、読む必要のない記事だと判断して間違いない。「拡販」は無理に記事を生み出す時に使いやすい言葉であり、記事の質も基本的に高くない。典型例として、23日朝刊企業面の3段記事「大塚製薬 香港で機能性食品拡販」の全文を見てみよう。
オランダのロッテルダム中央駅から見えるビル
            ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

大塚製薬は香港で機能性食品を拡販する。このほど栄養ドリンクの「オロナミンC」、飲料などに溶かして飲む食物繊維食品の「賢者の食卓」を発売した。既に販売しているスポーツ飲料「ポカリスエット」や栄養食品「ソイジョイ」などに加え、販売品目を増やす。健康志向の高まりに伴い、ビジネスマンなどの需要を見込む。

オロナミンCはこれまで韓国や中東諸国で展開している。日本を除き8カ国・地域目となる香港は、社会ストレスの増加などを背景にビタミン飲料やエナジードリンクの市場が拡大している。価格は1本12.9香港ドル(約200円)と、日本(105円)よりも高めに設定し、ブランド化を目指す。

賢者の食卓は初の海外展開。糖分や脂肪の吸収を抑える効果があるとされ、外食の多いビジネスマンや富裕層への拡販を目指す。

2014年4~12月期の大塚ホールディングスの機能性食品事業の売上高は2381億円。国内販売は伸び悩むが、海外売り上げは増加傾向にある。


「オロナミンC」は5月20日、「賢者の食卓」は4月23日に大塚製薬が香港での発売を発表している。「何日も前に発表したものを今頃書くな」と言う気はない。しかし、ニュースリリースの内容を抜粋して1つの記事に仕上げたとしか取れない内容ではダメだ。記事はニュースリリースと決算短信さえあれば、ほぼ取材なしで書ける。こんな付加価値のない記事を世に送り出して、筆者は平気でいられるのだろうか。

「拡販」を柱に据えるのならば、売上高をどの時期にどの程度拡大しようとしているのかは必須の情報だ。上記の記事の場合、大塚製薬が香港で機能性食品を年間いくらぐらい販売していて、それをどこまで伸ばそうとしているかは外せない。大塚製薬がその情報を教えてくれないとしたら、「オロナミンC」「賢者の食卓」に関して、香港での販売目標を入れ、そこからどの程度「拡販」するのかを読者に見せるといった工夫がいる。そうした情報さえ得られないのならば、「拡販」を柱に据えて記事を書くのは諦めるべきだ。

記事で「大塚ホールディングスの機能性食品事業の売上高」には触れていても、香港の売上高に関する情報はない。海外全体の売上高でさえ具体的な数値はなく、言ってみれば「読者をなめた記事」だ。

今回の記事には「なぜ他の地域ではなく香港なのか」も入れたい。香港に関して「健康志向の高まり」「社会ストレスの増加」といった文言が記事中に出てくるものの、なぜ他地域ではなく香港なのかは分からない。さらに言えば、もし自分が筆者ならば、中国全土に販路を広げる考えがあるかどうかにも言及しただろう。

付け加えると、記事の最後の方で注釈なしに「大塚ホールディングス」が出てくるのは感心しない。冒頭では「大塚製薬は~」と書いているのだから、最終段落で大塚ホールディングスを出すのであれば「大塚製薬の親会社である大塚ホールディングス」などと表記すべきだ。

※工夫のかけらも感じられない安直な記事であり、評価はEとする。

2015年5月23日土曜日

スカイツリー 「平日底上げ」はどこへ?

23日付の日経朝刊に「開業3年 スカイツリー客足鈍る」(企業・消費面)という記事が出ている。この中で、来場者減少を食い止めるカギは「平日の入場者数の底上げ」と書いているが、最後まで読んでも「土日祝日ではなく平日の入場者数を底上げするための策」が見当たらない。記事は以下のような展開になっている。
オランダのロッテルダム市庁舎   ※写真と本文は無関係です


【日経の記事】

低迷打開のカギを握るのは平日の入場者数の底上げだ。634メートルと日本一の高さを誇るツリーの泣きどころは風。強風で揺れると自動的にエレベーターが停止するため、14年度に営業の一時休止や完全な中止に追い込まれた日数は28日に上った。

日時指定のチケットを予約しても昇れないケースが頻発するため、特に修学旅行などの団体に敬遠されがち。近くの浅草エリアは訪日外国人に人気のスポットだが、海外からの旅行ツアーにもツリーは組み込みにくいとの声が上がる。

こうした事態を打開するため、15年度は稼働停止による入場者減を覚悟のうえで、4基あるエレベーターのうち2基を改修する。エレベーターをつるすロープの強度を高めて、強風でも揺れにくくする。1基目は既に3月に工事を始めており、9月に完成予定。2基目は秋に工事を始める。

現在の大人・日時指定のチケット代は2570円で、値下げはしない方針。エレベーター改修による観光スポットとしての復権にこだわり、なかでも訪日外国人の需要の取り込みに力を入れる。



平日の入場者数を底上げするための打開策は、エレベーターを改修して営業休止を減らすことなのだろう。しかし、これは平日だけでなく土日祝日の底上げ策にもなるはずだ。「団体客や外国人は平日に集中するので、エレベーターの改修は特に平日の底上げ策になる」という話ならば、そう明示してほしい。

なぜ土日祝日ではなく平日の底上げが低迷打開のカギなのかも説明がないので、「平日の落ち込みが激しいのかな」などと想像するしかない。本来なら、その辺りにも触れた上で、エレベーター改修が特に平日に効く理由を述べてほしかった。

ついでに記事中で気になった表現をいくつか指摘しておく。


(1)「旅行ツアー」にダブり感

「ツアー」には「旅行」という意味があるので「海外からの旅行ツアー」にはダブり感がある。「海外からのツアー」でいいのではないか。


(2)「既に」は必要?

記事はできるだけ簡潔に書いてほしい。「1基目は既に3月に工事を始めており」の「既に」は必要ないと思える。


(3)スカイツリーは一度落ちぶれた?

観光スポットとしての復権」という表現も引っかかった。現在のスカイツリーが観光スポットとして落ちぶれた存在ならば「復権」でもいいだろう。しかし、今も東京を代表する人気観光スポットのはずだ。2年連続で入場者数が減りそうだとはいえ、「復権」という言葉を使うのは大げさに過ぎる。

※記事の評価はD。

日経の地域経済面…短いベタ記事に問題山積

日経の地域経済面を久しぶりに読んでみた。相変わらず完成度が低い。九州経済面の22日付のベタ記事「一蘭 全従業員対象に接客マナー検定」を例に取ろう。


【日経の記事(全文)】
アントワープ(ベルギー)の裁判所 
               ※写真と本文は無関係です

豚骨ラーメン店を手掛ける一蘭(福岡市、吉冨学社長)は全従業員を対象にユニバーサルマナー検定を実施する。自分以外のことを思いやれるようにすることで、すべての来店客が心地よく過ごせるようにする。福岡のほか、東京や大阪で実施する。


障害者や高齢者の定義、ユニバーサルデザインの基礎知識、心構えなどを学ぶ。200人以上の全社員が対象になる。


わずか16行の記事の中によくもこれだけ問題点を詰め込めたと感心してしまう。気になる点を列挙してみる。


(1)Whenがない

この記事も、日経のお家芸とも言える「Whenがない記事」だ。これからの話を記事にしているのだから「When」は必ず入れてほしい。


(2)いきなり「ユニバーサルマナー検定」はちょっと…

「ユニバーサルマナー検定」とは日経(あるいは九州経済面)の読者なら当然知っているものなのだろうか。とてもそうは思えない。枕詞を付けて読者の理解を助けるといった配慮が欲しい。


(3)余計な言葉が多い

思いやりとは基本的に自分以外が対象となるものなので、「自分以外のことを思いやれる」と書く必要があるのか疑問だ。「すべての来店客が心地よく」というくだりも「すべて」はなくていい。ついでに言うと「こと」「実施する」を繰り返しているのも上手くない。


(4)何の「心構え」を学ぶか不明

「障害者や高齢者の定義、ユニバーサルデザインの基礎知識、心構えなどを学ぶ」と書いてあると、何を学ぶのだと読者は受け取るだろうか。読点を頼りに考えれば「障害者や高齢者の定義」「ユニバーサルデザインの基礎知識」「心構え」だろう。しかし、単に「心構え」と言われても何を学ぶのか分からない。「ユニバーサルデザインの心構え」と解釈したくなるが、「デザインの心構え」もイメージしにくい。それに「ユニバーサルデザイン」も注釈なしに使うのは問題がある。「ユニバーサルマナー」との関係も分かりづらい。


(5)誰が対象か分かりづらい

最初は「全従業員が対象」と書いているのに、最後の方では「全社員が対象」となっている。ラーメン店チェーンならば、常識的には従業員の中にアルバイトもいるはずだ。アルバイトは検定の対象なのか違うのか、よく分からない。


(6)学ぶ内容が「思いやり」につながっていない

自分以外のことを思いやれるようにすることで、すべての来店客が心地よく過ごせるようにする」ための検定のはずだ。しかし「障害者や高齢者の定義」「ユニバーサルデザインの基礎知識」を学ぶと思いやりの心を持てるようになるのだろうか。「心構え」は思いやりと関連がありそうな感じだが、何の「心構え」なのか不明なので何とも言い難い。


「検定」を受けるだけで「学べる」のかどうかよく分からない。こうした点も含めて(1)~(6)の問題点を解消した改善例を示しておく。情報が足りない部分は適当に補っているので、事実とは必ずしも合致しない。



【改善例】 ※事実と異なる内容を含む可能性あり

豚骨ラーメン店を手掛ける一蘭(福岡市、吉冨学社長)は、高齢者や障害者への理解度を測れるユニバーサルマナー検定を6月から全社員に受けさせる。検定時に受ける講習などを通じ、社会的弱者への思いやりを身に付けさせ、接客に生かしてもらう。

講習では、障害者や高齢者に接する時の心構えなどを学ぶ。200人以上いる社員には、福岡、東京、大阪のいずれかの試験会場で、来年3月までの受験を義務付ける。


※全体を通して決定的な問題点はないものの、短いベタ記事でこれだけ問題点があるのは致命的。典型的な粗製乱造型の記事であり、デスクなどのチェックもまともに働いていない点を重く見て、記事の評価はEする。



「会社研究 ホンダ(下)」への疑問

「会社研究 ホンダ」には疑問が多く残った。特に22日付の(下)は理解に苦しむ説明が目立つ。その中でも気になったのが、ホンダの現地生産への評価だ。具体的に見てみよう。

【日経の記事】
グラン・プラス(ブリュッセル)で売られていた絵画
                          ※写真と本文は無関係です

だが、減産は4~9月期でほぼ一巡。北米での新型「シビック」投入を機に下期から反転攻勢に入る。その前にホンダは積年の課題にめどを付ける覚悟を決めた。

1980年代以降の北米展開で、ずばぬけた強さをホンダが示したのは徹底的な現地生産シフトで為替変動のリスクを抑えたことが大きい。北米の現地生産比率は99%と車7社で断トツだ。とくに金融危機後の円高局面ではその強さが際立ち、11年3月期に上場企業で最多の純利益を稼ぎ出す原動力となった。

だが構造的な円高対応が前期は裏目に出た。輸出比率が富士重工業で8割弱、トヨタ自動車も約5割に上るのに対し、ホンダはわずか3%。このため円安の追い風を生かせず、前期の円安効果は790億円と、販売台数で約5分の1の富士重(約1000億円)を下回る結果となった。


上記の説明からは「現地生産比率の高さがホンダの積年の課題」と受け取れる。しかし、そうだろうか。「積年の課題」と言うからには、現地生産比率の高さはずっと経営上の問題点とされてきたのだろう。ならば、なぜ積極的に現地生産シフトを進めたのかとの疑問が湧く。現地生産比率の高さが円高局面で強さを発揮したのならば、なおさら「積年の課題」だったのか疑わしい。こうした点に留意しながら記事を読み進めると、さらに疑問が浮かび上がってくる。


【日経の記事】

需要が伸びる海外への生産シフト自体は正しい戦略だが、国内で安定的に稼ぐことが前提だ。世界の研究開発の中枢を担う単独収益の悪化は、グローバル商品競争力の低下につながりかねない。岩村哲夫副社長は「リスクへの備えが不十分だった」と反省する。

ホンダは反攻に向けて始動した。一つは生産の国内回帰だ。今夏以降、「フィット」の英国での生産をとりやめ、メキシコからの移管分と合わせ約5万台分の生産を寄居工場に移す方向だ。これで稼働率低迷に直面する寄居工場の稼働率はほぼ100%になり、採算が上向く。今期の輸出比率は1割近くまで上昇する公算で、円安効果も享受しやすくなる。


筆者である奥貴史記者は「海外への生産シフト自体は正しい戦略」とも書いている。ならば「なぜ海外生産比率の高さが積年の課題なのか」との疑問はさらに膨らむ。「海外シフトは正しい戦略だが、国内で安定的に稼ぐことが前提だ」との主張をとりあえず受け入れるとしても、その解決策が海外から国内への生産移管というのは理解に苦しむ。

ホンダの場合、国内の工場の稼働率が高まるのは、海外生産を国内に戻して輸出するからのようだ。輸出は海外で稼いでいる分と考えるのが一般的。ならば、いくら稼働率が上がっても「国内で稼いでいる」とは言い難い。

世界の研究開発の中枢を担う単独収益の悪化は、グローバル商品競争力の低下につながりかねない」との説明も苦しい。単独での収益が厳しくても、海外子会社の業績が良いのならば、子会社から資金を吸い上げれば済む話。生産拠点を国内に移せる支配力を持っているのだから、資金を本体に動かすのも容易なはずだ。連結業績が良くても単独業績が悪化すると必要な研究開発資金を捻出できないような体制ならば、単独業績を改善させる前にやるべきことがある。

記事では、「円安メリットを享受できる体制が望ましい」と示唆している。しかし、一般的に言えば為替相場の変動で業績が大きく変わるよりも、影響を受けにくい方が望ましいはずだ。円安メリットがある企業は裏返せば円高デメリットもある。ホンダは望ましい方向から望ましくない方向へ動こうとしているようだが、それがなぜ必要なのか伝わってこなかった。

グループ全体の生産能力を削減しないまま国内生産にシフトすれば、国内の稼働率は上がっても海外の稼働率低下で相殺される。海外の生産能力を削って、その分を国内に回すのならば、国内で能力を減らしてはダメなのかとの話になる。

ホンダが国内に生産を戻すのには、それなりの合理的な根拠があるはずだ。記事に出ていた「地域間で車を融通し、需要が強い地域に柔軟に供給する」という話なら、まだ分かる。しかし「現地生産比率の高さがホンダの積年の課題で、円安メリットを得られるように国内回帰を進める」と言われると、首を傾げざるを得ない。

※記事の評価はD、奥貴史記者の評価もD(暫定)とする。

2015年5月22日金曜日

土方細秩子氏が辛すぎる東洋経済「マクドナルド絶体絶命」

こんな外部ライターをなぜ使うのかと首を傾げたくなる記事が東洋経済5月23日号に出ていた。「マクドナルド絶体絶命」という特集の中の「米国でも危機は深刻! 新興勢力の追撃もきつい」(筆者は米国在住ジャーナリストの土方細秩子氏)という記事は、冒頭部分からいきなり厳しい。

【東洋経済の記事】
アントワープ(ベルギー)市内を走るトラム ※写真と本文は無関係です

米マクドナルドの2015年1~3月期決算は悲惨なものだった。販売総額は59億ドルと昨年同期比11%減、収益も8億1150万ドルと、過去6年で最低となった。この結果を受け、スタンダード&プアーズ同社の格付けをAからAマイナスに下げ、国内外に衝撃が走った。マクドナルドは起死回生の策として3月1日、長年同社のチーフ・ブランド・オフィサーだったスティーブ・イースターブルック氏をCEOに昇格させたが、4月に入っても売り上げはマイナス2.3%と低迷から抜け出せていない。

「収益」とは微妙な言葉で、「利益」とも「収入」とも解釈できる曖昧さがある。他社の報道によると、「8億1150万ドル」は「純利益」のようだが、それを「収益」と呼んでも誤りではない。とは言え、まず分かりにくい。読み始めてすぐに引っかかってしまった。加えて、「純利益」を「収益」と書いてしまうと素人っぽさを感じてしまう。それは「販売総額」でも同じだ。なぜ「売上高」と表記しないのだろうか。仮に、FCの売上高も含めたチェーン全体の売上高を「販売総額」と称しているのならば、その点を明示するのがプロレベルの書き手だ。

「同社」の使い方も問題がある。「スタンダード&プアーズは同社の格付けをAからAマイナスに下げ」と書くと、S&Pが自社に対する格付けを自ら引き下げたことになってしまう。さらに言えば、AからAマイナスに格下げになったぐらいで「国内外に衝撃」と表現するのは、いかにも大げさだ。「実際に衝撃が走ったんだ」と言われればそれまでだが、シングルAから1ノッチの格下げぐらいで衝撃が走るとは常識的には考えにくい。

大げさな表現としては「起死回生」もそうだ。絶望的な状況から復活するのが「起死回生」だろう。赤字にも転落していないし、格付けもAマイナスと投資適格級を維持している状況からの「起死回生の策」と言われると、「そもそも死にかけてないだろ」とツッコミを入れたくなる。

第1段落だけでこれだけ注文を付けられる記事も珍しい。後は推して知るべしだ。東洋経済のホームページで調べると、土方氏の専門は自動車となっていた。自動車関連できちんとした記事を書いているかどうかは確認していない。だが、東洋経済の編集部にこれだけは言いたい。「土方氏に専門外の記事を依頼しない方がいい。どうしても他に書き手がいないならば、編集部を挙げて補助するしかない」。この助言に納得できない場合は、今回の記事を読み直してほしい。土方氏に依頼したのが誤りだったとすぐに分かるはずだ。

※記事の評価はD。土方細秩子氏の評価もDとする。

2015年5月21日木曜日

週刊エコノミスト「ROE=株主資本を純利益で割る」の誤り

週刊エコノミスト5月26日号の中で、ROEに関する説明にミスを見つけた。問題のくだりは以下のようになっている。
アントワープ(ベルイー)のグルン広場  ※写真と本文は無関係です

【エコノミストの記事】

ROEは内部留保を含めた株主資本を当期純利益で割ることにより算出する投資指標である。そのため、ROEの向上には分子である当期純利益を増加させるだけではなく、内部留保を配当することで分母である株主資本を減少させる必要性が生じる。



株主資本を当期純利益で割る」は誤りで、「当期純利益を株主資本で割る」が正しい。単純なミスであり、筆者やメディアの実力が疑われるような間違いではない。誤りを認めて訂正すれば済む話だ。

しかし、週刊エコノミストの場合、対応がまずい。丸2日経っても連絡がないので電話で催促してみたら、担当者から折り返し電話があった。返事が遅れたのは「メールを見てなかったから」らしく、「次号には間に合わないので、次々号に訂正記事を載せる」と話していた。

悪い記事ではないものの、対応の遅さを重くみて記事の評価はDとする。

2015年5月19日火曜日

問題多い日経 太田泰彦編集委員の記事「けいざい解読~ASEAN、TPPに冷めた目」

日経の太田泰彦編集委員は問題の多い記者だ。過去の出来事を含めた詳細な説明は別の機会に譲るとして、17日付日経朝刊総合・経済面の「けいざい解読~ASEAN、TPPに冷めた目」に関して、問題点を見ていこう。

ロッテルダム(オランダ)のキューブハウス
                           ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

通商政策をめぐる米オバマ政権と米議会の攻防が、なかなか袋小路から抜け出せない。大統領が交渉権限を議会から取りつけなければ、環太平洋経済連携協定(TPP)構想は完成を目前に水泡に帰すかもしれない。

狭いワシントンの内側で調整にもたつく米国の姿は小さく見える。超大国の迷走に鼻白むのは、巨大な経済圏の中心にある東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国だ。空気は微妙に変わった。

「日本は孤立して困るでしょうな……」。1990年代に貿易自由化を推し進めたシンガポール政界の重鎮は、意外にも涼しい顔をしていた。

貿易と投資に未来を託す同国だが、米国や欧州連合(EU)、中国、日本など主な市場国とは、個別に自由化協定を締結済み。先手必勝の戦略が奏功し、経常黒字額は13年に日本を抜き14年には588億ドルに達した。


以上の記述から問題点を抜き出してみる。


(1)ASEANは巨大経済圏の中心?


巨大な経済圏の中心にある東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国」と太田泰彦編集委員はあっさり言い切っているが、そもそも「巨大な経済圏」が何を指すのか分かりにくい。推測すれば「アジア経済圏」「アジア太平洋経済圏」「TPP経済圏」あたりだろうか。なぜASEANが「中心」なのかも判然としない。地理的な中心なのか、存在感で見た中心なのかも不明だ。疑問ばかりが残る記述と言える。


(2)なぜ「日本は孤立して困る」?

日本は孤立して困るでしょうな」というシンガポール政界の重鎮のコメントも理解に苦しむ。あまりに説明が不十分だ。まず、どうなると孤立するのかがはっきりしない。TPP構想が水泡に帰すと孤立するのだろうか。それとも、交渉妥結に向けた動きの中で孤立すると見ているのだろうか。

「TPP構想が水泡に帰すと日本は孤立する」という前提で考えてみよう。これも、なぜ孤立するのか説明がない。それどころかシンガポールに関して「日本とは自由化協定を締結済み」と書いている。ならば、TPP構想が水泡に帰しても、シンガポールとの自由化協定があるので、孤立は免れるのではないか。それに、日本が自由貿易協定を結んでいるのはシンガポールだけではないはずだ。「孤立して困る」というコメントを紹介するなら、その根拠も読者に提示すべきだろう。


(3)自由化協定を結ぶと経常黒字が増える?

記事を読むと「シンガポールは先手を打って個別に自由化協定を結んだから経常黒字が増えた」との印象を受ける。しかし、この説明はよく分からない。自由化協定が貿易の自由化に近づくものならば、輸入も輸出も促進する方向に働くはずだ。輸出余力が大きくて輸入に対する需要が少なければ、経常黒字が増える要因にもなるだろう。しかし、この記事の書き方だと「自由化を推進すれば、基本的には経常黒字を増やせる」との誤解を読者に与えかねない。

さらに指摘を続ける。

【日経の記事】

もしTPP交渉が流れても、来年の米大統領選の後には次の機会が巡ってくるだろう。自由貿易の旗手を自任する小国シンガポールに、焦りの色はない。大物政治家の表情は、むしろ米国に翻弄される日本を案じているようにも見えた。
ブリュッセルのグラン・プラス  ※写真と本文は無関係です

他のASEAN諸国はどうか。日本の2倍の人口を擁する大国インドネシアには高水準の自由化は荷が重い。景気不振で政権発足から半年のジョコ政権は早くも人気が陰り始めている。内向きになる政権に、国有企業や労働市場の改革に挑む腕力は期待できない。

マレーシアはマレー系を優遇する「ブミプトラ(土地の子)政策」を守るのに必死。TPPの理念とは逆に国営企業のテコ入れを図る。こうしたナジブ政権の路線を、政界の実力者マハティール元首相が露骨に批判するなど、国内政治は不安定になっている。

アジアの新興国が経済成長を続けるためには、国内の構造改革が欠かせない。国内の抵抗を乗り切る上で、政権を担う指導者が大国の外圧を改革のテコに使う政治戦術もありうる。だが、その手法の大前提は、大国が高い理念を唱え続け、ぶれない姿勢を貫くことだ。


(4)インドネシアも参加国?

「TPP交渉が流れてもシンガポールは余裕。他のASEAN諸国はどうか」との流れでインドネシアとマレーシアを持ってくると、両国ともTPP交渉に参加しているような印象を受ける。しかし、インドネシアは参加国ではないようだ。交渉に参加しているシンガポールなどとインドネシアを同列に論じる意義があるだろうか。ASEAN各国の現状を見ているだけだとするならば、TPPはどこに行ってしまったのかという話になる。記事では「大国の外圧を改革のテコに」とのくだりも出てくるが、交渉に参加していないインドネシアでTPP絡みの外圧によって改革を進める余地は基本的にないだろう。

ついでに言えば、TPPの記事を書く場合、どの国が交渉参加国なのか読者は詳しく知らないという前提で説明すべきだ。「読者は参加国が全て頭に入っているはず」と考えて執筆したのであれば、不親切との謗りは免れない。

最後の3段落にも問題を感じた。


【日経の記事】

学級委員長(米国)は態度がでかい。しかも背後の教師(議会)の意向で言うことが変わる。副委員長(日本)はなんだか頼りない。そんなクラスはまとまらない――。アジアの目に今のTPPはこんな風に映る。

一時は関心を示したフィリピンやタイから、TPPに前向きな声は聞こえなくなった。中国と関係が深いカンボジアのフン・セン首相は「ASEANを2つに分断するのがTPPの本当の狙いだろう」と公言する。

フン・セン首相は間違っている。日米両国は、地域の結束を邪魔しようとなどしていない。自分の国の中の政治調整に精いっぱいで、アジアの大きなキャンバスに絵を描けないだけである。


(5)下手な例え

上記のくだりでは、まず例えが下手だ。米国を学級委員長、米国議会を教師としているが、米国議会も米国の一部なので設定自体に無理がある。記事の例えに従うと、TPPとは米国議会という教師の指導下で、米国や日本などが生徒として交渉をしていることになる。しかし、日本を含めた参加国は米国議会の授業を受けたりしているだろうか。太田泰彦編集委員には「例えを使うならば、ピッタリはまるものを使うように」と助言したい。


(6)TPPは日米主導のASEAN分断策?

カンボジアのフン・セン首相の「ASEANを2つに分断するのがTPPの本当の狙いだろう」というコメントに対して「フン・セン首相は間違っている。日米両国は、地域の結束を邪魔しようとなどしていない」と太田泰彦編集委員が主張しているのも奇妙だ。フン・セン首相の発言がどういう文脈で出たものか、他社の報道などから探ることはできなかった。なので、コメントの使い方がおかしいとは言わない。ただ、少なくともコメントに「日米」の文字はない。日本は遅れて最後の方で交渉に参加したのであり、その時点でASEANは参加国と不参加国に分かれていた。ゆえに、TPPにASEANを分断する狙いがあるとしても、それが「日米」主導だと考える余地は乏しい。

だとすると、「日米両国は絵を描けないだけである」と訴えるのがそもそもピント外れなのだろう。「日米がTPPを使ってASEANを分断しようとしている」という文脈でフン・セン首相が発言しているのであれば、その点を記事中で明示すべきだ。

※記事の評価はD。太田泰彦編集委員の評価はFとする。太田氏の評価をFとする理由については、別の機会に詳しく解説する。