2021年8月30日月曜日

本当にワクチン接種は「広げる」べき? 日経 前村聡記者に考えてほしいこと

30日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に社会保障エディターの前村聡記者が書いた「『7割の壁』と変異型に各国焦り」という解説記事では「ワクチン接種=推進すべき」との前提が引っかかった。全文を見た上で、前村記者に考えてほしいことを列挙してみる。

夕暮れ時の交差点

【日経の記事】

新型コロナウイルスのワクチン接種が先行した国では、接種比率が7割に近づくと頭打ちになる「壁」に直面している。感染力の強いデルタ型が流行し、焦りを強めた国や都市が接種率を引き上げるための対策に乗り出した。

飲食店の利用時などに接種証明書を提示することを義務化したフランスのような強い対応に日本は慎重だ。昨年12月の予防接種法改正の際、衆参両院の付帯決議に「接種していない者に対して不利益な取り扱いは決して許されない」と盛り込まれた。

1948年制定の予防接種法は戦禍からの復興を目指し、感染症を抑えるため天然痘ワクチン(種痘)などを義務接種として罰則を設けた。その後は感染症が激減する一方で副作用問題が注目され、76年に罰則がなくなり、94年には接種は努力義務に弱められた。

もっとも、付帯決議のころに1日数千人だった国内の新規感染者数は、足元では2万人を超える日が多い。接種率の上昇が鈍化するようになれば、踏み込んだ促進策が議論されそうだ。

自らの感染リスクを下げる「個人防衛」の接種もしたくない人に、集団免疫の獲得という「社会防衛」のための接種は遠い。自己決定権の尊重は成熟社会の証し。十分な情報と当事者参加の議論が「壁」を突破する一歩になる。


◇   ◇   ◇


(1)「鈍化」は確実では?

接種率の上昇が鈍化するようになれば、踏み込んだ促進策が議論されそうだ」と書いているが、「接種率の上昇が鈍化」するのは確実だ。「接種率」には100%という上限がある。「鈍化」は避けられないのだから、今から「議論」しておけばとは感じる。

前村記者は「鈍化」しない可能性もありと見ているのか。ひょっとすると「全員が4回接種したら200%と見なす」といった考え方なのか。


(2)集団免疫の獲得は可能?

クーリエ・ジャポンの12日付の記事によると「集団免疫の達成は、デルタ株の流行によって『不可能だ』と英オックスフォード大学ワクチングループ代表が述べた」らしい。

接種率を高めていけば「集団免疫の獲得」が可能と前村記者は見ているようだが、その前提は正しいのか。可能性を否定している専門家もいるのだから、改めて検討してほしい。

集団免疫の獲得」が可能だとしても、なぜ「接種率」をそんなに上げたいのか理解に苦しむ。

抗体を持つ人の比率が8割になると「集団免疫」が実現するとしよう。しかし「接種率」は「7割」で頭打ちだ。「このままだと集団免疫を獲得できない」と嘆くべきだろうか。

残りの3割うち1割分の人が自然感染で抗体を獲得していれば「集団免疫」を実現できる。なぜワクチンだけで抗体を獲得したがるのか。「自らの感染リスクを下げる『個人防衛』の接種もしたくない人」は「感染」しやすいのだから、自然感染に期待すればいいではないか。

少なくとも「集団免疫」獲得の可能性を考えるときは、自然感染の影響を考慮すべきだ。


(3)「十分な情報」を与えれば接種率は上がる?

「接種=良いこと」と前村記者は信じているので「接種比率が7割に近づくと頭打ちになる『壁』」も「十分な情報」を与えれば「突破」できると考えたくなるのだろう。

29日付でNEWSポストセブンに載った「ワクチン接種者と偽薬接種者の死亡率が同じ~ファイザー公表データの意味」という記事を前村記者はぜひ読んでほしい。

一部を引用しておく。


【NEWSポストセブンの記事】

だが多くの研究者が驚いたのは有効率ではなく、ワクチン接種後の「死亡率」だった。

研究では、16才以上の参加者約4万人を「ワクチン接種群(約2万人)」と、正式なワクチンではない偽薬を与えた「プラセボ群(約2万人)」に分けて、接種後の安全性を確認する追跡調査も行った。

その結果、管理期間中に死亡したのは、ワクチン接種群が15人、プラセボ群が14人だった。つまり、ワクチンを打っても打たなくても、死亡する確率はほとんど変わらなかったのだ。医療経済ジャーナリストの室井一辰さんがこの結果の衝撃度を語る。

「その研究はファイザーの研究者と、ワクチンを共同開発した独ビオンテック社の研究者が行ったもので、4万人を追跡調査する世界最大規模の研究です。これほどの規模の研究はほかにありません。

意外な発見として注目されたポイントは、ワクチン接種群とプラセボ群の死亡率に差がなかったことです。実際に研究者の間ではこの結果が議論の的になっていて、“一体どういうことなんだ”と戸惑う専門家がいるほどです」


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ワクチンを打っても打たなくても、死亡する確率はほとんど変わらなかった」とすれば、「新型コロナで死ぬのが怖い」という人にとってワクチン接種に意味がない可能性が高まってきた。

ワクチンなしでも死亡リスクがほぼゼロの若者に「打たなくても、死亡する確率はほとんど変わらなかった」ワクチンを打つように勧めるべきなのか。

十分な情報」を与えた時に、合理的な判断ができる若者はワクチン接種するだろうか。都合の悪いデータを隠して接種に誘導しない限り「」は「突破」できないと考える方が自然だ。


※今回取り上げた記事「『7割の壁』と変異型に各国焦り」https://www.nikkei.com/paper/article/?ng=DGKKZO75213060X20C21A8TCT00

※記事の評価はC(平均的)。前村聡記者への評価はCを維持する。前村記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「積極的安楽死」への踏み込み不足が残念な日経 前村聡記者の解説記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_25.html

日経の記事で「死の権利はあるか」への答えを避けた会田薫子 東大大学院特任教授https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/blog-post_5.html

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