2021年8月2日月曜日

ベーシックインカム導入を無理筋とみる橘玲氏「無理ゲー社会」に異議あり

橘玲氏の「無理ゲー社会」という本は興味深く読めた。しかし納得できない部分もある。今回は「ユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)」の問題を考えてみたい。

夕陽

UBI受給対象者を国民に限定したとしても大きな混乱が予想される。それは、『日本人』の家族をいくらでも増やせるからだ」と橘氏は言う。「アフリカや中南米、東南アジア、南アジア」などで「日本人男性」が現地の女性と結婚して「日本人」の子供を増やしていけば多額の「UBI」が得られると述べた上で、こうした行動に走る「日本人の男が何万人、何十万人と出てきたら、いったいどうなるのか?」と橘氏は問う。そして以下のように結論付けている。

こうした事態を避けようと思えば、誰が『日本人』で誰がそうでないかを厳密に区別するほかない。たとえば国家が『日本人遺伝子』を決めて、それを70%超保有している場合にしかベーシックインカムの支給対象にはしない、とか。これはまさに『優生学』そのもので、UBIの理想が実現すれば、わたしたちは人類史上もっともグロテスクな『排外主義国家』の誕生を目にすることになる

この問題の解決方法はかなり簡単だ。「ベーシックインカムの支給対象」を「日本国籍を有する国内在住の者」と定めれば済む。橘氏が想定するケースでは「日本人男性」が現地女性と結婚して子供を作り続けるので、子供たちもほとんどがその国に住むはずだ。なので「支給対象」から外れていく。

「国内在住」の定義をどうするかという問題はあるが、島国の日本では出入国の管理はかなりやりやすい。例えば、1カ月以上海外に滞在する場合は「支給対象」から外れるようにすれば、海外で生まれて海外で暮らし続ける子供に「ベーシックインカム」を「支給」するケースはほぼなくなるだろう。

もう1つアイデアがある。ITを活用する方法だ。「ベーシックインカム」は各人のスマホやマイナンバーカードに電子マネーのような形で「支給」してはどうか。

この場合、日本国籍を有する全員を「支給対象」としても問題ない。その代わりに電子マネーが使えるのは国内の実店舗のみで有効期限を1カ月などと限定する。

ネット販売には利用できない。他者にスマホやマイナンバーカードを渡しての利用は違法とする。ITを活用すれば「海外にいるはずの人間が国内の実店舗で買い物をしている」と検知できるだろうから、スマホやカードを親戚などに代理利用させるケースもほぼ防げるはずだ。「ベーシックインカム」の有効期間を短くすれば、たまに日本に来て爆買いして帰るといった行動も取れない。

個人的には「ベーシックインカム」を支持している。導入に当たっては、この電子マネー方式で現物支給に近い形にするのが望ましいと見ている。

スーパーでは使えるが、百貨店では使えない。牛丼屋では使えるが高級フランス料理店では使えない。そんな具合だ。線引きの難しさはあるが、贅沢な消費行動には使えないように設計する。

そうなると財源問題もかなり解決する。国民全員に月10万円の電子マネーを支給したとしても、高級品を好む富裕層などには意味のないものになる。有効期限が過ぎれば電子マネーは消失する。実質的には「中低所得層への現物支給」に近い形になる。消失分を考慮すれば、インフレ圧力もかなり抑えられる。それでも、年収や資産に関係なく「支給」するという「ベーシックインカム」の骨組みは守られる。

どうだろうか。本当に「UBIの理想が実現すれば、わたしたちは人類史上もっともグロテスクな『排外主義国家』の誕生を目にすることになる」のか。橘氏には改めて考えてほしい。


※今回取り上げた本「無理ゲー社会


※本の評価はB(優れている)

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