2021年8月18日水曜日

米国の敗因分析に不満残る日経「アフガンの蹉跌 試練の世界秩序(上)」

18日の日本経済新聞朝刊1面に載った「アフガンの蹉跌 試練の世界秩序(上)民主主義、繁栄もたらせず~タリバン復権招いた米国」という記事は悪い出来ではない。「ブリンケン米国務長官が『これはサイゴンとは異なる』と否定しようと、1975年のベトナム戦争終結に重ねざるを得ない歴史となった」と米国の敗北を直視している点は評価できる。ただ、気になる点が2つある。

夕暮れ時の筑後川

第一は米国の敗因についてだ。記事では「米世論が兵士と血税を投入し続けることを許さない中、20年かけても民主主義の豊かさをもたらせなかったことが敗因だ」と述べているだけで、軍事的な問題に触れていない。

民主主義の豊かさをもたらせなかった」としても、米国が圧倒的な軍事力でタリバンを一掃していれば、今回のような事態には至らなかった。長い年月をかけて「兵士と血税を投入し続け」てもタリバンの根絶ができなかったのはなぜか。米国の弱さとタリバンの強さを軍事的な面から分析してほしかった。

第二は「民主主義」の敗北と捉えている点だ。記事の終盤を見てみよう。


【日経の記事】

しかし世界の民主化への流れは逆回転を始めている。

2010年代前半に中東地域で広がった「アラブの春」の民主化運動は多くの国で頓挫し、唯一の成功例とされたチュニジアでも経済低迷から政治不信が高まっている。

米国が21年中に駐留米軍の戦闘任務を終わらせる方針を示すイラクも豊かさを享受できていない。世銀によると、同国の米ドル建ての名目国内総生産(GDP)は13年をピークに低下している。

欧州連合(EU)内では、かつて共産国だったハンガリーのオルバン首相が強権体制を強める。直近ではLGBT(性的少数者)への差別的な政策を打ち出し、域内で摩擦を生んでいる。背景にはドイツやフランスとの経済格差が埋まらない不満がある。

アフガンでの米国の蹉跌(さてつ)は、民主主義が抱えている負の側面を映し出した。イスラム過激派を生んだ貧困や富の偏在、不公正などの土壌はそのまま残っている。民主主義陣営が問題を解決できなければ、大きな禍根を残すことになる


◎「民主主義」の問題?

岐部秀光記者と馬場燃記者は今回の件を「民主主義が抱えている負の側面を映し出した」ものと捉えているようだ。この見方には賛成できない。米国介入主義の敗北と見るべきだろう。「民主主義」はあらゆる問題を解決してくれる魔法の杖ではない。筆者らは「民主主義」に多くを期待し過ぎている気がする。


※今回取り上げた記事「アフガンの蹉跌 試練の世界秩序(上)民主主義、繁栄もたらせず~タリバン復権招いた米国」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCB152BM0V10C21A8000000/


※記事の評価はC(平均的)。岐部秀光記者への評価はD(問題あり)からCへ引き上げる。馬場燃記者への評価はCを維持する。岐部記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

エルサレムは「アジアから縁遠い」? 日経 岐部秀光記者に問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2017/12/blog-post_7.html

中東への「第2波」はまだ「懸念」だと日経 岐部秀光記者は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/2.html

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