2023年3月6日月曜日

「『リアル書店』米で人気復活」が苦しい日経 清水石珠実記者

 6日の日本経済新聞朝刊国際面に清水石珠実記者が書いた「『リアル書店』、米で人気復活 ~コロナ下で読書ブーム、最大チェーン『今年30店増』」という記事は出来が悪かった。全文を見た上で具体的に問題点を指摘していく。

錦帯橋


【日経の記事】

米国で「リアル書店」の人気が復活している。新型コロナウイルス下で読書ブームが再燃し、書店に足を運んで紙の本を買うことの楽しみが米消費者に再認識された。ニューヨーク市では独立系書店の開店が相次ぎ、米最大チェーンのバーンズ・アンド・ノーブル(B&N)も全米で店舗拡大に動く。

「今年は総店舗数が30店ほど増える見通しだ」。B&Nのジェームズ・ドーント最高経営責任者(CEO)は日本経済新聞とのインタビューで語った。現在、B&Nは全米で約600店舗を経営する。2年連続で店舗数が純増になる予定で、約10年続いた店舗数の縮小傾向に歯止めがかかってきた。

独立系書店の開店ラッシュも続く。ニューヨーク市に本拠を置く「マクナリー・ジャクソン」は1月、市内随一の観光地ロックフェラーセンターに5店舗目を開いた。2022年には大物ロビイストが経営する書店として話題を集めた「P&Tニットウエア」が、ブルックリン区在住の作家が経営する「ブックス・アー・マジック」は2店舗目をそれぞれ開店した。独立系書店は品ぞろえや内装に個性があり、週末には書店巡りを楽しむ若者の姿が目立つ。

米国では米アマゾン・ドット・コムの台頭を受け、11年に当時書店チェーン2位だったボーダーズ・グループが経営破綻した。B&Nも経営難が続き、19年に米ヘッジファンドのエリオット・マネジメントに6億8300万ドル(当時の為替レートで約740億円)で身売りした。

苦境続きの書店が反転のきっかけを得たのがコロナ禍だ。巣ごもり需要で読書ブームが再燃し、コロナ禍で楽しめる数少ない娯楽の一つとして書店を訪れる人が増えた。米NPDグループによると、21年に米国市場での紙の書籍販売は8億2800万冊と、04年の調査開始以来で過去最高になった


◇   ◇   ◇


(1)「人気復活」を裏付けるデータは?

この記事はいわゆる傾向物だ。「米国で『リアル書店』の人気が復活している」というなら、裏付けとなる直接的なデータが欲しい。「リアル書店」の米国全体の売上高などがその候補。しかし記事には、その手のデータは見当たらない。となると状況証拠的なデータで「『リアル書店』の人気が復活」と読者を納得させる必要があるが、それもできていない。

バーンズ・アンド・ノーブル(B&N)」の店舗数拡大は「『リアル書店』の人気が復活」の根拠としては弱い。「米最大チェーン」が中小書店のシェアを奪って成長している可能性もある。それでも多くのチェーンが出店攻勢をかけているなら「人気が復活」しているのかなとは思う。だが、残りの事例も力不足。

マクナリー・ジャクソン」が5店目、「P&Tニットウエア」と「ブックス・アー・マジック」が2店目を開いたというだけの話。「B&N」の店舗数拡大の動きをベースに傾向物の記事にしようと考えたものの、有力な事例は見つけられなかったのだろう。だったら傾向物にするのを諦めるべきだ。


(2)ネット販売との比較は?

米国では米アマゾン・ドット・コムの台頭を受け、11年に当時書店チェーン2位だったボーダーズ・グループが経営破綻した」と清水記者も書いているように「リアル書店」の苦戦の大きな原因はネット販売の台頭だったはずだ。だったら、そことの比較も欲しい。

21年に米国市場での紙の書籍販売は8億2800万冊と、04年の調査開始以来で過去最高になった」とは書いているが、ネットと「リアル書店」に分けるとどうなるのかは触れていない。そもそもなぜ「21年」の数字なのかとの疑問も残る。常識的に考えれば22年のデータもありそう。


(3)「反転のきっかけ」が「コロナ禍」なら

苦境続きの書店が反転のきっかけを得たのがコロナ禍だ」で「巣ごもり需要で読書ブームが再燃し、コロナ禍で楽しめる数少ない娯楽の一つとして書店を訪れる人が増えた」ことを「復活」の要因とするなら、20年と21年に大きく伸びて22年以降は勢いが鈍っていると見るのが自然。実際、清水記者も米国の「紙の書籍販売」が「過去最高」になったのは「21年」と書いている。なのに23年になって「人気が復活」と取り上げるのはなぜなのか。「コロナ禍」以外の要因を見出さないと苦しい。「独立系書店」(よく分からない表現ではあるが…)の人気が要因なら、記事の柱はそちらにすべきだ。


(4)文が分かりにくい…

2022年には大物ロビイストが経営する書店として話題を集めた『P&Tニットウエア』が、ブルックリン区在住の作家が経営する『ブックス・アー・マジック』は2店舗目をそれぞれ開店した」という文は非常に分かりにくい。

主語を簡素化すると「2022年にはAが、Bは2店目をそれぞれ開店した」という構造になっている。この形にするなら、まず助詞(「が」と「は」)は揃えた方がいい。また時期もそれぞれに付けた方が意味を捉えやすい。「2022年3月にはAが、同年6月にはBが2店目を開店した」といった具合だ。

「確かに読みずらい」と清水記者は同意してくれるだろうか。「何が問題なのか、さっぱり分からない」と感じるようなら記事の書き手としては苦しい。


※今回取り上げた記事「『リアル書店』、米で人気復活 ~コロナ下で読書ブーム、最大チェーン『今年30店増』

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230306&ng=DGKKZO69000640V00C23A3FF8000


※記事の評価はD(問題あり)。清水石珠実記者への評価もDとする。清水記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

あるべき情報が見当たらない日経「NYタイムズ、電子版収入が紙超え」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/ny.html

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