2020年6月26日金曜日

日経 松本裕子記者の「脱炭素 マネーが促す」に抱いた5つの疑問

26日の日本経済新聞朝刊1面に載った「脱炭素 マネーが促す~世界20銀行、投融資320兆円 達成度で金利優遇も」という記事には色々と疑問が湧いた。この「320兆円」について筆者で「ESGエディター」の松本裕子記者は以下のように書いている。
田主丸大塚古墳(福岡県久留米市)
     ※写真と本文は無関係です


【日経の記事】

企業に脱炭素の取り組みを促すマネーの動きが広がってきた。日本経済新聞が世界の大手銀20行の2030年までの計画を集計したところ、環境・社会を考慮した投融資は320兆円にのぼる。気候変動への銀行の責任を果たすだけでなく、脱炭素を進める企業が長期には勝ち組となり、融資先として有望という考え方がある。企業の目標達成度合いで金利を優遇する融資も増えている。

中略)ESG(環境・社会・企業統治)マネーは、まず長期投資家による株式や社債への投資で始まり、銀行融資に広がってきた。大手が相次ぎ計画をまとめており、主要20行の目標額320兆円は、19年度末の貸出金の合計額(約1350兆円)と比べ2割と大きい


◇   ◇   ◇


疑問点を列挙してみる。

◆疑問その1~「320兆円」は「企業に脱炭素の取り組みを促すマネー」?

脱炭素 マネーが促す~世界20銀行、投融資320兆円」という見出しを見ると「320兆円」は「企業に脱炭素の取り組みを促すマネー」だと感じる。記事の冒頭でも「企業に脱炭素の取り組みを促すマネーの動きが広がってきた」と書いている。ただ「環境・社会を考慮した投融資は320兆円」と「社会」という言葉も入っており、少し怪しくなってくる。

その後では「ESG(環境・社会・企業統治)マネー」として「320兆円」を扱っており、「脱炭素 マネーが促す~世界20銀行、投融資320兆円」という見出しは厳しそうな感じがする。

320兆円」のうち「企業に脱炭素の取り組みを促すマネー」がどの程度あるのかは記事中で明示すべきだ。「銀行」が情報を開示していないのならば、その点には触れる必要がある。


◆疑問その2~「残高」それとも「新規」?

2030年までの計画」で「環境・社会を考慮した投融資は320兆円にのぼる」らしい。この説明だと「320兆円」が「投融資」の残高なのか新規分なのか判断できない。


◆疑問その3~これまでとの比較は?

仮に「320兆円」は残高だとしよう。その場合、直近の残高との比較は欲しい。そうしないと「2030年まで」にどの程度「投融資」を伸ばそうとしているのか分からない。

新規分だとしても同じだ。過去の実績との比較は要る。


◆疑問その4~比較対象として適切?

主要20行の目標額320兆円は、19年度末の貸出金の合計額(約1350兆円)と比べ2割と大きい」と解説しているが「320兆円」は「投融資」の額だ。「投資」を含んでいる。それを「投資」を含まない「貸出金の合計額」と比較するのは適切なのか。


◆疑問その5~「主要20行」の残りは?

記事に付けた9行が「主要20行」に入るのは分かる。しかし、残りの11行は不明。記事には「農林中央金庫」「米ゴールドマン・サックス」「みずほフィナンシャルグループ」も出てくるが、これらが「主要20行」の一角なのかどうかも分からない。「主要20行」の具体名と選定基準は、注記でいいので記事に入れてほしい。

最後に文章の作り方について注文を付けておきたい。

【日経の記事】

国際エネルギー機関(IEA)は21年からの3年間で3兆ドルを再エネ開発やビルの省電力化、電気自動車購入など環境重視の施策に投じれば、温暖化ガスを45億トン削減できるだけでなく、世界の経済成長率を年1.1%押し上げ、年900万人の雇用を生むと分析する


◎文が長い上に…

上記のくだりは紙面では12行に達する。1つの文としては長すぎる。しかも主語の「国際エネルギー機関(IEA)は」と述語の「分析する」がかなり離れている。読者に負担を強いる書き方だ。

改善例を示してみる。

【改善例】

21年からの3年間で3兆ドルを再エネ開発やビルの省電力化、電気自動車購入など環境重視の施策に投じれば、温暖化ガスを45億トン削減できる。加えて世界の経済成長率を年1.1%押し上げ、年900万人の雇用を生む。国際エネルギー機関(IEA)はそう分析している。



※今回取り上げた記事「脱炭素 マネーが促す~世界20銀行、投融資320兆円 達成度で金利優遇も
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200626&ng=DGKKZO60812120V20C20A6MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。松本裕子記者への評価はDを維持する。松本記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経「超低金利 揺れる企業年金」の苦しい内容
https://kagehidehiko.blogspot.com/2015/06/blog-post_21.html

ご都合主義的な説明目立つ日経1面「ヘッジファンドの黄昏」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post.html

ETFの信託報酬 最安は0.5%? 日経 根本舞・松本裕子記者の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/etf-05.html

0 件のコメント:

コメントを投稿