2019年10月7日月曜日

どうなったら「勧告に向き合う総務省」と言える? 日経社説への疑問

7日の日本経済新聞朝刊総合・政治面に「勧告に向き合わない総務省」という社説が載っている。見出しから判断すると「総務省」に「勧告」と向き合うよう求める内容だと思ってしまう。しかし社説を読んでみると、具体的にどうすれば「勧告」と向き合うことになるのかよく分からない。
金華山黄金山神社(宮城県石巻市)※写真と本文は無関係

社説の全文を見た上で、この問題を考えてみたい。

【日経の社説】

地方自治に則した対応を求める勧告に誠実に向き合ったとは言えない。ふるさと納税をめぐり、総務省は国地方係争処理委員会が不適切とした指摘を受け入れず、法廷闘争も辞さない判断を下した。

自治体の駆け込み寺とされる第三者機関をないがしろにするかのような姿勢である。自治の理念より、国の役所としてのメンツを優先したと言わざるをえない。

ふるさと納税制度から外された大阪府泉佐野市の訴えを受け、係争委は除外の根拠が不適切だとして再検討するよう勧告していた。総務省は再検討の結果、除外を維持するとの結論を出した

よその自治体への影響を顧みない泉佐野市の手法は是正が必要だとは係争委も認めていた。その意味で改めて除外としたのはやむを得ない面がある問題は係争委が不適切だとした除外の根拠に関する見解が食い違っていることだ

係争委は、過去に返礼品ルールに違反した事実を、将来にわたって除外の要件とするのは、裁量の範囲を超える恐れがあるとした。総務省は法律で裁量は幅広く認められており、妥当だとした。裁判になれば一つの争点になろう。

法改正前の返礼品ルールは自治体が従う義務のない技術的助言で、地方自治法は助言に従わないのを理由に国が自治体に不利益な扱いをするのを禁じている。係争委は、返礼品ルールに従わないから除外するというのは、この規定に触れかねないとしていた。

総務省は今回、法律の根拠があれば助言に従わない自治体の不利益になってもよいとの見解を示した。国と自治体を対等な関係とする基本原則にかかわる部分で、国に強い権限を認めた印象だ。

係争委を軽んじる姿勢も、不利益な扱いを容認する解釈も、地方分権が形骸化していることを総務省が自ら示したようなものだ。司法の場で決着するまでは変えられないということかもしれないが、これでは他の省庁が自治体への統制を強めても、自治体側に立つべき総務省は文句を言えまい。



◎「除外を維持」との両立が…

係争委は除外の根拠が不適切だとして再検討するよう勧告していた」。そして「総務省は再検討の結果、除外を維持するとの結論を出した」。「勧告」通りに「再検討」したのだから「向き合った」とも言えるが、社説では「勧告に誠実に向き合ったとは言えない」と言い切っている。これはこれでいい。

除外」を見直さないと「勧告に誠実に向き合ったとは言えない」との見方も成り立つ。しかし「よその自治体への影響を顧みない泉佐野市の手法は是正が必要だとは係争委も認めていた。その意味で改めて除外としたのはやむを得ない面がある」と社説では「除外」に理解を示している。

となると「除外を維持」したまま「勧告に誠実に向き合」う道があるのだろう。しかし、社説を最後まで読んでも、どう対応すれば「勧告に誠実に向き合った」と言えるようになるのか不明だ。

問題は係争委が不適切だとした除外の根拠に関する見解が食い違っていることだ」と書いているので、ここがポイントになりそうな気はする。しかし「係争委は、過去に返礼品ルールに違反した事実を、将来にわたって除外の要件とするのは、裁量の範囲を超える恐れがあるとした」のだから、「勧告」と「誠実に向き合」うために「係争委」の見解を採り入れると「除外を維持」する根拠が危うくなる。

今回の社説で主張の大枠を維持したまま整合性の問題を解消するには「『除外』の決定を見直せ」と訴えるしかないような…。


※今回取り上げた社説「勧告に向き合わない総務省
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191007&ng=DGKKZO50658020V01C19A0PE8000


※社説の評価はD(問題あり)

2019年10月6日日曜日

「未公開市場の膨張」はそんなに問題? 日経1面「チャートは語る」

6日の日本経済新聞朝刊1面トップの「チャートは語る~『上場で成長』今は昔 未公開株にマネー 揺らぐ市場機能」という記事は悪い出来ではない。ただ「揺らぐ市場機能」に関する説明は説得力に欠けた。その部分を見ていく。
渡月橋(宮城県松島町)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

特定のプロしかいない未公開市場の膨張は、資源配分をゆがめかねない。一人ひとりの目利き力は優れても「株主が少なく過剰評価になりやすい」(Hijojoパートナーズ)。カネ余りのなかで資金の出し手よりも創業者の立場が強まり、経営は野放図になりがちだ。企業が生む富も特定の人間に集中しかねず、「個人が良い投資機会を得られない」(米証券取引委員会=SECのクレイトン委員長)と問題視する声がある。

音楽配信スポティファイ・テクノロジーのように上場時に新株を発行せず、株主に売却機会を与えるために上場する例も出てきた。公開市場が一部投資家の利益確定の場に成り下がれば、資本主義は揺らぎかねない


◎「過剰評価」になり得る?

まず「一人ひとりの目利き力は優れても『株主が少なく過剰評価になりやすい』(Hijojoパートナーズ)」という説明が謎だ。完璧な「目利き力」を持つ少数の投資家が上場前のA社の株主になるとしよう。この場合「過剰評価になりやすい」だろうか。

十分な「目利き力」を持つ投資家は適正価格を正確に把握できるので「過剰評価」は起きようがない。「株主が少なく過剰評価になりやすい」のならば「一人ひとりの目利き」は大したことがないと見るべきだ。

カネ余りのなかで資金の出し手よりも創業者の立場が強まり、経営は野放図になりがちだ」との解説にも同意できない。ここでは上場する場合と比べて「経営は野放図になりがち」かどうかを考えてみたい。

未公開市場」での資金調達で「創業者」の出資比率は20%に下がり、残りを4社の大株主が20%分ずつ保有するとしよう。上場した場合、大株主4社の出資比率はそろって1%に減り、残りは個人投資家などが幅広く持つとしよう。「創業者」の出資比率はやはり20%だ。

この場合、「未公開市場」での資金調達を選んだ方が株主からの圧力は強くなる可能性が高い。3社が合意すれば「創業者」を解任できる。同じことを上場後にやろうとすれば、多くの株主の同意が必要になる。

創業者の立場」が強いままで「経営」が「野放図」になる状況もあり得るが、「未公開市場」での資金調達だと「経営は野放図になりがち」だと言い切れるのかは疑問だ。

音楽配信スポティファイ・テクノロジーのように上場時に新株を発行せず、株主に売却機会を与えるために上場する例も出てきた。公開市場が一部投資家の利益確定の場に成り下がれば、資本主義は揺らぎかねない」との結論部分も納得できない。

公開市場」で資金調達するのが本来の姿だと筆者の山下晃記者は考えているのだろう。だが、増資は「未公開市場」で済ませて「公開市場」では発行済みの株式を売買するだけになったとしても、それで企業の増資のニーズに対応できるのならば問題はないはずだ。

資本主義は揺らぎかねない」とまで心配しているが、そもそも「公開市場が一部投資家の利益確定の場に成り下が」るとの懸念が理解できない。「一部投資家の利益確定の場」になるのは悪いことではない。

上場時に「まだまだ割安だ」と思う投資家は買いを入れてくるし、そうでなければ株価が下がり「一部投資家の利益確定」も難しくなる。それだけの話だ。

過剰評価」が誰の目にも明らかになれば「公開市場」での上場自体が難しくなる。そうした事態は既に起きている。今回の記事でも「シェアオフィス『ウィーワーク』を運営する米ウィーカンパニーは9月末、上場申請を撤回した。年初に470億ドル(約5兆円)と評価された企業価値は、初期の資金調達時の485倍だった。これ以上の伸びは見込めないと、ウィー株の需要は乏しかった」と書いていたではないか。

資本主義」がきちんと機能しているから「ウィーカンパニー」は「上場申請を撤回した」のではないか。「資本主義は揺らぎかねない」と心配すべき状況にあるとは思えないが…。


※今回取り上げた記事「チャートは語る~『上場で成長』今は昔 未公開株にマネー 揺らぐ市場機能
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191006&ng=DGKKZO50575800T01C19A0MM8000


※記事の評価はC(平均的)。山下晃記者への評価はD(問題あり)からCへ引き上げる。山下記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

説明が不可解 日経「米ファンド、サムスンに会社分割提案」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/10/blog-post_7.html

ご都合主義的な説明目立つ日経1面「ヘッジファンドの黄昏」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post.html

2019年10月5日土曜日

「上海高島屋が閉店撤回」の解説が雑過ぎる週刊エコノミスト

週刊エコノミスト10月8日号に載った「深層真相~上海高島屋が閉店撤回 家賃減額でも前途多難」という記事は雑な作りで驚いた。全文を見た上で具体的に指摘したい。
瑞鳳殿(仙台市)※写真と本文は無関係です

【エコノミストの記事】

百貨店の高島屋が中国・上海にある上海高島屋の閉店を撤回し、営業を継続している。6月に閉店を発表し、8月25日に閉店すると発表していたが、あと2日に迫った23日に「営業継続のお知らせ」を店頭に掲示した。

閉店の理由は、「ビルの賃貸料が高騰して経営が成り立たなくなった」ことで、今回の撤回は「建物所有会社の支援などで、事業継続の条件が整ったため」と説明しているが、現地の日本人でこれを額面通りに受け取る人は少ない

同店は2012年、本格的な日本型百貨店として上海市長寧区に開業した。同地区は、高級住宅地で、日本人はじめ外国人が多く住んでいるぐらいしか特徴のない町だ。一方で“上海っ子”のショッピングは、当時からすでに百貨店ではなく、専門店や有名店が集まる巨大なショッピングセンターに移り始めていた。

日本の百貨店の先陣を切る形で進出した伊勢丹が、上海有数の繁華街・淮海中路に建つ「華亭伊勢丹」を閉店したのが08年。しかも近年はネットショッピングの隆盛が著しく、流通業の変化は激しい。近隣の日本人住民は、「家賃を下げてもらっても、肝心のお客さんが来るのか」といぶかっている。



◎では、どう受け取ってる?

今回の撤回は『建物所有会社の支援などで、事業継続の条件が整ったため』と説明しているが、現地の日本人でこれを額面通りに受け取る人は少ない」と書いているので、「現地の日本人」が実際はどう受け取っているのか教えてくれるのだろうと思って読み進めるが、最後まで答えは出ない。

近隣の日本人住民は、『家賃を下げてもらっても、肝心のお客さんが来るのか』といぶかっている」といった説明はあるものの、「事業継続」の理由として「家賃」以外に何が考えられるのかヒントさえない。「まともな記事に仕上げるつもりがあるのか」と聞きたくなる出来だ。

ついでに言うと「高級住宅地で、日本人はじめ外国人が多く住んでいるぐらいしか特徴のない町だ」との説明も引っかかった。「高級住宅地」で「外国人が多く住んでいる」のならば、それだけで十分に「特徴」があると思えるが…。


※今回取り上げた記事「深層真相~上海高島屋が閉店撤回 家賃減額でも前途多難
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20191008/se1/00m/020/047000c


※記事の評価はE(大いに問題あり)

2019年10月4日金曜日

伊勢丹メンズ館に関する「裏付け」が成立してない日経 中村直文編集委員

4日の日本経済新聞朝刊企業3面に載った「ヒットのクスリ~伊勢丹新宿本店の異変 若い女性『男物購入』増加」という記事で、中村直文編集委員が無理のある分析をしている。まずは冒頭部分を見ていく。ここで「購買データとしてはどうか。三越伊勢丹によると、それは裏付けられた」と中村編集委員は言い切る。本当に「裏付けられた」か検証してみたい。
東北大学の魯迅先生像(仙台市)
     ※写真と本文は無関係です


【日経の記事】

ファッション通の女性は伊勢丹新宿本店メンズ館(東京・新宿)で、しょっちゅう買い物をするらしい。本当なのか。メンズ館へ足を向けると確かに若い女性が品定めをしている姿を見かける。

購買データとしてはどうか。三越伊勢丹によると、それは裏付けられた。2019年3月に全面改装オープン直後、カード顧客の売上高は前年比トントンだが、女性に限って言えば2%程度伸びていたのだ



◎どう読み取れば…

ファッション通の女性は伊勢丹新宿本店メンズ館(東京・新宿)で、しょっちゅう買い物をするらしい。本当なのか」と中村編集委員は問いかけている。これを「裏付け」るためにはどんな「データ」が要るか。

例えば「ファッション通を自認する女性1000人への調査で『月に1回以上は伊勢丹新宿本店メンズ館で買い物をする』と答えた人の割合が95%に達した」といった「データ」を示してもらえれば「裏付けられた」と言えるだろう。

しかし「2019年3月に全面改装オープン直後、カード顧客の売上高は前年比トントンだが、女性に限って言えば2%程度伸びていた」という「購買データ」だけでは何の「裏付け」にもならない。

女性」の「カード顧客」が「ファッション通」なのかどうかがまず不明だ。また「買い物」の頻度が分からないので「しょっちゅう買い物をする」かどうかも確認できない。この「購買データ」から「ファッション通の女性は伊勢丹新宿本店メンズ館(東京・新宿)で、しょっちゅう買い物をする」との「裏付け」が得られると中村編集委員が確信できたのならば、ちょっと怖い。

記事の続きも見ておく。

【日経の記事】

メンズ館のオープンは03年。開業時は女性の比率が70%と半数を超えていた。父の日やバレンタインデー、クリスマスなどのギフト需要が大きく、代理購買が中心だったからだ。

ところが年々ギフト需要は低下する。バレンタインも女性は自分や友人のために買うケースが増えるなど、代理購買が減少したからだ。18年までに男女比率はほぼ半々に低下。メンズ館の開業当初は「男である幸福」を掲げていたが、女性から届けられる幸福感はすっかり薄れたようだ。

代理購買が減ると、今度は女性の実需が増え始めた。三越伊勢丹の紳士MD統括部エディタの落合将一氏は「メンズ館のMD(商品政策)も色のバリエーションが増えるなど、デザインのジェンダーレスが進んでいるからではないか」と話す。1階の雑貨売り場では女性客が革小物やコスメなどを自家需要として購入している。



◎「女性の実需が増え始めた」と言うが…

代理購買が減ると、今度は女性の実需が増え始めた」という話を裏付ける「データ」が見当たらないのが引っかかる。「ギフト需要」かどうかは包装から判断できるだろうが「女性の実需」かどうかは分かりづらい。「ギフト」用の包装を頼まなかったからと言って自分で使うとは限らない。夫や恋人に頼まれて買い物をしているだけといった可能性は残る。

今回の記事で「伊勢丹新宿本店メンズ館」の売り上げに関しては「2019年3月に全面改装オープン直後、カード顧客の売上高は前年比トントンだが、女性に限って言えば2%程度伸びていた」という情報しかない。しかし「カード顧客の売上高」では「代理購買」と「女性の実需」が一緒になっている。「2%程度伸びていた」のも「代理購買」が寄与したのかもしれない。

結論としては、まともな「データ」の「裏付け」がないのに断定的にストーリーを組み立てた記事と見るべきだろう。



※今回取り上げた記事「ヒットのクスリ~伊勢丹新宿本店の異変 若い女性『男物購入』増加
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191004&ng=DGKKZO50483440S9A001C1TJ3000


※記事の評価はD(問題あり)。中村直文編集委員への評価はDを維持する。中村編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

無理を重ねすぎ? 日経 中村直文編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2015/11/blog-post_93.html

「七顧の礼」と言える? 日経 中村直文編集委員に感じる不安
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_30.html

スタートトゥデイの分析が雑な日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_26.html

「吉野家カフェ」の分析が甘い日経 中村直文編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」が苦しすぎる
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_3.html

「真央ちゃん企業」の括りが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_33.html

キリンの「破壊」が見えない日経 中村直文編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_31.html

分析力の低さ感じる日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_18.html

「逃げ」が残念な日経 中村直文編集委員「コンビニ、脱24時間の幸運」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/24.html

「ヒットのクスリ」単純ミスへの対応を日経 中村直文編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_27.html

日経 中村直文編集委員は「絶対破れない靴下」があると信じた?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_18.html

「絶対破れない靴下」と誤解した日経 中村直文編集委員を使うなら…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_21.html

「KPI」は説明不要?日経 中村直文編集委員「ヒットのクスリ」の問題点
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/kpi.html

日経 中村直文編集委員「50代のアイコン」の説明が違うような…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/50.html

「セブンの鈴木名誉顧問」への肩入れが残念な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_15.html

「江別の蔦屋書店」ヨイショが強引な日経 中村直文編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_2.html

渋野選手は全英女子まで「無名」? 日経 中村直文編集委員に異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_23.html

早くも「東京大氾濫」を持ち出す日経「春秋」の東京目線
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_29.html

日経 中村直文編集委員「業界なんていらない」ならば新聞業界は?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_5.html

2019年10月3日木曜日

日経「Deep Insight」に見える丸谷浩史 政治部長の実力不足

署名入りのコラムを担当させるならば、訴えたいことがあって、書き手としての技術もしっかりした人にしてほしい。3日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~『ポスト安倍』の条件とは」という記事を読むと、丸谷浩史 政治部長がその「条件」を満たしていないのが分かる。
支倉常長像(宮城県石巻市月の浦)※写真と本文は無関係

記事を見ながら問題点を指摘していく。

【日経の記事】

安倍晋三首相の自民党総裁としての任期が10月で2年を切った。先の内閣改造・自民党役員人事で安倍氏は、総裁候補を政府と党の要路に配した。どの役職の、誰が「ポスト安倍」の最短距離にいるのか、永田町と霞が関は喧(かまびす)しい。よく口の端に上るのが、かつて最大派閥の領袖として君臨した田中角栄氏と竹下登氏が「総理総裁」の条件としてつくりあげたモデルである。

田中氏が示した2つの条件は「党三役のうち幹事長を含む2つ、蔵相、通産相、外相のうち2つ」とされる。日本が議院内閣制のモデルとした英国ではウィンストン・チャーチル氏が蔵相、現職のボリス・ジョンソン氏が外相を務めた。国の基本政策に習熟するハードルを越えなければ、指導者たり得ないとの含意だろう。

竹下氏は重要閣僚は何点、党三役は何点……と1回ごとにウエートをつけて点数化し、特に幹事長を重視した党首が首相となる議院内閣制では、選挙や国会対策などの党務全般に通じることが欠かせないとの考え方だ。



◎「田中・竹下モデル」とは?

この記事では「田中・竹下モデル」がキーワードになる。しかし、これがどんな「モデル」なのかよく分からない。

田中モデル」ならば分かる。「党三役のうち幹事長を含む2つ、蔵相、通産相、外相のうち2つ」を経験していることが「総理総裁」の「条件」となるのだろう。しかし「田中・竹下モデル」は「田中角栄氏と竹下登氏が『総理総裁』の条件としてつくりあげたモデル」だ。

竹下氏は重要閣僚は何点、党三役は何点……と1回ごとにウエートをつけて点数化し、特に幹事長を重視した」とは書いているが、これで「田中モデル」と「田中・竹下モデル」にどう違いが出るのか判断が難しい。

さらに言えば「党首が首相となる議院内閣制」という説明も不正確だ。「議院内閣制」とは「内閣が議会に対して責任を負い、その存立が議会の信任に依存する制度」(ブリタニカ国際大百科事典)であり「党首が首相となる」必要はない。

議院内閣制」のドイツではメルケル首相が首相職にとどまったまま党首を辞めている。日本でも同じようなことは起こり得る。丸谷部長も知らないはずはないが…。

記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

今回、最も注目されたのが幹事長だったのは、この考え方に沿う。田中氏は幹事長として差配した選挙を通じて勢力を拡大し、首相の座をつかんだ。政調会長に留任した岸田文雄氏とその周辺が幹事長就任を期待した背景には、この「田中神話」がある。

「田中・竹下モデル」は経済が高度成長で、中選挙区で派閥が競い、長く東西冷戦が続いた時代だからこそ説得力があった。幹事長として総裁選に向けた兵を養い、蔵相として利益の分配ににらみをきかせる。田中氏と竹下氏が蔵相と幹事長を経験して首相の座を射止めたことが、それを象徴する


◎「高度成長」は終わっているが…

高度成長」は1973年に終わったとされる。「田中氏」はともかく「竹下氏が蔵相と幹事長を経験して首相の座を射止めた」時代は「高度成長」期ではない。丸谷部長は「高度成長」期を誤解している可能性が高い。

さらに記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

本来、小選挙区制では野党第1党の党首が「ポスト安倍」の一番手となる。自民党で「田中・竹下モデル」が復活したのは、野党の低迷と表裏の関係にある。派閥の合従連衡による次期総裁レースが公然と語られるのも、自民党総裁イコール首相が前提になっているからにほかならない。

「田中・竹下モデル」が鳴りを潜めた時期もある。

2001年、3度目の総裁選で勝利した小泉純一郎氏に党三役、外相や蔵相の経験はなかった。田中・竹下モデルでいえば「総理総裁の資格なし」となる。ところが小泉氏は高い支持率を維持し、5年にわたる長期政権を築いた。変人と呼ばれたキャラクターで、党内が「これは小泉氏だけの特異現象」とひとまず納得した事情も大きかった。

だが小泉的なものは一過性ではなく、属人的でもない。執行部・総裁への権限集中と、首相と官房長官を中心とする官邸主導は、もともと派閥の機能を弱める目的だった小選挙区制と、省庁再編が導いた当然の帰結でもある。無派閥で党三役の経験がない菅義偉官房長官が「ポスト安倍」にあがるのは、平成から令和への発表効果だけではない。

今回の改造内閣では外相から防衛相に横滑りした河野太郎氏、竹下派の加藤勝信厚生労働相も「ポスト安倍」に数えられる。加藤氏は厚労相再登板で、厚相経験2度の小泉氏に似る。純一郎氏の次男、38歳で初入閣した小泉進次郎環境相もいる。フランス大統領の現職、エマニュエル・マクロン氏は39歳で就任している。

変わらずに重要性が増したものもある。小渕恵三氏は1997年、官房長官の退任から8年ぶりとなる入閣にあたって「冷戦が終わった今こそ外交の時代」と外相を熱望した。念願をかなえた翌98年には首相となった。

今回、外相に就いた茂木敏充氏は経済財政担当相として日米貿易交渉を最終合意に導いた。70年代には田中角栄氏が繊維交渉を、90年代は橋本龍太郎氏が自動車交渉をそれぞれ決着させた。日米同盟が外交・安全保障政策の基軸である日本にとって、米国との経済摩擦を軟着陸させる重要性は、いまも昔も変わらない。


◎「田中・竹下モデル」が復活してる?

自民党で『田中・竹下モデル』が復活した」と丸谷部長は言い切る。しかし、そうは思えない。ここでは「田中・竹下モデル=党三役のうち幹事長を含む2つ、さらに財務相、経済産業相、外相のうち2つを経験していることを条件に自民党総裁が生まれるモデル」との前提で考えてみよう。
宮城縣護國神社(仙台市)※写真と本文は無関係です

今の「自民党」でこの「条件」を満たす人が「総裁」候補として注目を浴び、「条件」を満たさない人が脱落しつつあるのならば「復活」と言える。記事では、顔写真付きで6人の「総裁」候補をこれまでの役職と共に紹介している。しかし「田中・竹下モデル」の「条件」を満たす人が1人もいない。

田中・竹下モデル」の「条件」に最も近い人が有力で、そうでない人が脱落しつつあるとの可能性も考えたが、記事にはそうした説明もない。6人の中で「条件」に最も近いのは「外相に就いた茂木敏充氏」だが、丸谷部長は「茂木敏充氏」が最有力とは書いていない。

記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

安倍氏は幹事長と官房長官だけを経験して首相となった。この2つのポストでいえば、当時無役だった小渕氏の還暦祝いの席で、竹下氏が「私は官房長官をやってから幹事長になった。小渕君もそうだ。私が首相になったのは63歳で、小渕君にはあと3年ある」と励ましたことがある。安倍氏は「田中・竹下モデル」が条件とする党と内閣の要職を経験していたともいえる。



◎「当時」の使い方が…

安倍氏は幹事長と官房長官だけを経験して首相となった。この2つのポストでいえば、当時無役だった小渕氏の還暦祝いの席で~」と書くと「当時=安倍氏の首相就任時」と理解したくなる。しかし、その時に「小渕氏」は生存していない。

この手の不親切かつ不正確な書き方ができるところに丸谷部長の書き手としての技量不足を感じる。

記事の結論部分を見ていこう。

【日経の記事】

1期目は短命に終わり、2度目の総裁選も議員票では石原伸晃氏に、地方票では石破茂氏に後れをとり、決選投票で逆転した。そして吉田茂元首相以来の再登板を果たし、11月には桂太郎を抜いて憲政史上、最長の政権担当者となる。「田中・竹下モデル」からはほど遠い勝利が、超長期政権につながっている。

安倍氏の強みは、この両面性にある。父・晋太郎氏の秘書を務め、最後の中選挙区選挙で初当選し、小選挙区時代にキャリアを重ねた。ネット世論にも敏感で、デジタルツールで積極的に発信する。保守派の顔で、リベラルな政策も実行する。古い派閥政治と、官邸主導、新しいデジタル政治の双方を知る「ハイブリッド型」だ。

安倍氏自身に4選や任期延長の雰囲気はうかがえず、恐らくもう一度、最後の人事を手がけるだろう。次期総裁は派閥連携の「田中・竹下モデル」型か新しいタイプか。「ポスト安倍」は自民党だけでなく日本政治の今後をも占う



◎訴えたいことがないのなら…

結局「『ポスト安倍』の条件とは」に答えを出さず「どうなるんでしょうね」的な締め方をしている。

『田中・竹下モデル』型か新しいタイプか」については「田中・竹下モデル」でないのは明確だ。「田中・竹下モデル」の「条件」を満たす人物がそもそもいない。

丸谷部長も書いてるうちに気付いたのかもしれない。最後になって「党三役のうち幹事長を含む2つ、蔵相、通産相、外相のうち2つ」といった「条件」から離れて「派閥連携の『田中・竹下モデル』型」と説明を変えている。だったら「田中・竹下モデル」は「派閥連携」に関する「条件」でないと苦しい。

Deep Insight」を任されたので、色々と頭を捻ってを紙面を埋めたのだとは思う。だが、訴えたいことがないのは致命的だ。説明も上手くない。「Deep Insight」は他の書き手に任せて丸谷部長は管理職としての役割に専念する。それが最良の選択ではないか。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~『ポスト安倍』の条件とは
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191003&ng=DGKKZO50506520S9A001C1TCT000


※記事の評価はD(問題あり)。丸谷浩史政治部長への評価はDで確定とする。丸谷部長に関しては以下の投稿も参照してほしい。
 
丸谷浩史政治部長の解説に難あり 日経「日本の針路決まる3年」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_88.html

2019年10月2日水曜日

何のためのインド出張? 日経 小平龍四郎編集委員「一目均衡」

1日の日本経済新聞朝刊投資情報面に小平龍四郎編集委員が書いた「一目均衡~企業価値高めるインドの薬」という記事の最後には「インド・アンドラプラデシュ州にて」 との説明がある。わざわざインドまで出張して記事を書いたのだろう。しかし「何のためにインドまで行ったの? 東京で取材しても書けるのでは?」と聞きたくなる中身になっている。
長崎港(長崎市)※写真と本文は無関係です

全文を見た上で色々と注文を付けてみたい。

【日経の記事】 

ベンガル湾に面したインドの中堅都市ビシャカパトナム。通称バイザック。市内から車で1時間ほどの経済特区に、日本の製薬大手エーザイが工場を構えている。ここで製造されるリンパ系フィラリア症治療薬のDEC錠に、関心を寄せる投資家は多い。

リンパ系フィラリア症とは、蚊を介して寄生虫が体内に入り起きる病気だ。足がゾウのように腫れあがる。アジアを中心に約10億人が感染リスクにさらされている。

薬はあるが、新興国や発展途上国の人たちには高価すぎて手が届かなかった。2013年からインドでつくった治療薬を世界中に無償で提供してきたのがエーザイだ。累計で19億錠に達する。

寄付や社会貢献ならば分かる。エーザイの内藤晴夫社長は「無償配布はビジネスの一環だ」と語っている。どういうロジックか。病院のようなバイザック工場の磨かれた廊下を歩きながら考えた

まず、ブランド力を高める効果はあるだろう。世界の製薬会社はアジアなど新興国の業務に力を入れつつある。無償配布で知名度を高めれば、のちの業務にプラスだ。

また、工場の稼働率が上がる。DEC錠だけなら赤字だが、他の薬を含めた総合的な原価低減が見こめる

さらに、難病の制圧に貢献している事実は現場のプライドに響く。エーザイ・バイザック工場の従業員の1年間の離職率は5%弱と、15%を超える他社より低い。技能の取得に必要な教育のコストも節約できるという。

エーザイ最高財務責任者(CFO)の柳良平氏の計算では、そうしたいくつかの要素を加味すると、薬の無償配布は管理会計のうえで、18年度に黒字に転換した

エーザイのDEC錠配布は「ミッション(社会的使命)と企業価値」の関係を考えさせる。そう教えてくれたのは、国際会議でよく一緒になる米国の年金運用担当者だ。

エーザイの投資家向け広報(IR)活動では、DEC錠配布が「患者満足の増大」という同社ミッションと関連づけて説明されることが多い。ミッションは定款に盛りこまれており、株主からの信任をうけた本業の一つという位置づけになる。

世界の資本市場では「ミッション」への注目が高まる潮流が生まれつつある。

8月に米国のビジネス・ラウンドテーブルが「株主至上主義の修正」を発表したのも、背景にある考えは企業の社会的使命の問い直しだ。

英オックスフォード大学客員教授のロバート・エクルズ氏は、社会問題を解決するためにビジネスとして何ができるか、企業の取締役会が声明を出すよう提案した。

命に関わる事業を営む製薬会社は、ミッションを打ち出しやすいという面は、確かにある。しかし、どんなビジネスでも、社会との関わりを抜きに成り立たない。社会的な価値がまったく見いだせないとすれば、その事業はどこかおかしい

◇   ◇   ◇

気になった点を列挙してみる。

(1)インドでの取材の成果は?

どういうロジックか。病院のようなバイザック工場の磨かれた廊下を歩きながら考えた」という記述はあるが、小平編集委員がインドの工場で誰かに取材した形跡は窺えない。せっかくインドまで行ったのだから、現地に行ったからこそ分かった材料を見せてほしかった。何にも特筆すべきものがなかったとしても、現地従業員のコメントぐらいは記事に盛り込みたい。


(2)「原価低減」が見込める?

病院のようなバイザック工場の磨かれた廊下を歩きながら考えた」という「ロジック」も謎だ。「工場の稼働率が上がる。DEC錠だけなら赤字だが、他の薬を含めた総合的な原価低減が見こめる」との説明が納得できない。

仙台市博物館(仙台市)※写真と本文は無関係です
原価低減」を実現させるためには「原価」を減らす必要がある。しかし追加で「DEC錠」を製造するのならば、最低でも原材料費は新たに発生する。なのに「バイザック工場」全体で見ると「原価低減」になるという。そんな魔法のような話があるのか。

固定費を考えると利益率の低い商品でも作って稼働率を高めた方が「総合的」に見て利益が増えるのは分かる。しかし「DEC錠」は「無償配布」なので、これも当てはまらない。しかも小平編集委員は「無償配布」の「DEC錠」を製造すると「原価低減」が実現すると解説している。一体どういう「ロジック」なのか。


(3)本当に「廊下を歩きながら考えた」?

小平編集委員は「病院のようなバイザック工場の磨かれた廊下を歩きながら考えた」らしい。そして「エーザイ・バイザック工場の従業員の1年間の離職率は5%弱と、15%を超える他社より低い。技能の取得に必要な教育のコストも節約できるという」と考えを捻り出している。

しかし、このくだりは既に取材で聞いていたのではないか。「技能の取得に必要な教育のコストも節約できるという」との記述からは、そう判断するのが自然だ。だとすると「廊下を歩きながら考えた」という話が怪しくなってくる。

付け加えると「離職率」が他社より低いのは「無償配布」が従業員の「プライド」を高めているからとは限らない。例えば他社より給与が高いといった要因も考えられる。因果関係が本当にあるかどうかは慎重に検討してほしい。


(4)何を訴えたいか考えよう!

どんなビジネスでも、社会との関わりを抜きに成り立たない。社会的な価値がまったく見いだせないとすれば、その事業はどこかおかしい」というのが記事の結論だ。異論はないが、改めて言うまでもない当然の話だ。

わざわざインドまで行ったから「エーザイ」で記事を書かなくてはと考えたものの、そこから何を訴えたいかが定まらなかったのだろう。だから当たり障りのないことを適当に付けて結論とした--といったところか。

そんな記事だから見出しを付ける側も苦労したはずだ。見出しでは「企業価値高めるインドの薬」となっているが、記事からは「DEC錠」が「エーザイ」の「企業価値」を高めたかどうかは判断できない。

薬の無償配布は管理会計のうえで、18年度に黒字に転換した」というのが見出しの根拠かもしれないが、17年度までは赤字だったはずだ。それに「黒字に転換した」のも「ブランド力を高める効果」などを加味した「管理会計」上の評価に過ぎない。

無償配布」であれば財務会計上は赤字が避けられない。なのに「企業価値」を高めているというならば、その「ロジック」をしっかり説明すべきだ。しかし記事にそうした記述は見当たらない。

結局、インドに出張したから書いただけの記事になっている。しかも出張したからこそ書ける中身にもなっていない。次はもっと工夫して記事を仕上げてほしい。


※今回取り上げた記事「一目均衡~企業価値高めるインドの薬
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191001&ng=DGKKZO50415570Q9A930C1DTA000


※記事の評価はD(問題あり)。小平龍四郎編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。小平編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 小平龍四郎編集委員  「一目均衡」に見える苦しさ
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_15.html

基礎知識が欠如? 日経 小平龍四郎編集委員への疑念(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_11.html

基礎知識が欠如? 日経 小平龍四郎編集委員への疑念(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_73.html

日経 小平龍四郎編集委員の奇妙な「英CEO報酬」解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_19.html

工夫がなさすぎる日経 小平龍四郎編集委員の「羅針盤」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_3.html

やはり工夫に欠ける日経 小平龍四郎編集委員「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_11.html

ネタが枯れた?日経 小平龍四郎編集委員「けいざい解読」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_20.html

山一破綻「本当に悪かったのは誰」の答えは?日経 小平龍四郎編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/10/blog-post_10.html

日経「一目均衡」に見える小平龍四郎編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_14.html

相変わらず問題多い日経 小平龍四郎編集委員「一目均衡」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_53.html

2019年10月1日火曜日

「法人税の最低税率」への誤解が怖い日経 上杉素直氏「Deep Insight」

日本経済新聞の上杉素直氏(肩書は本社コメンテーター)は経済コラムの書き手として基礎的な資質を欠いているのではないか。1日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~消費税10%の先を考える」という記事では、「法人税の最低税率」に関する初歩的な誤解が見られた。そこで躓いている人物が、経済紙のコラムで顔写真まで付けて税制のあるべき姿を論じても意味はないだろう。
大川小学校跡地(宮城県石巻市)※写真と本文は無関係

記事の一部を見ていく。

【日経の記事】

課題先進国と呼ばれる日本は、人類史に例のない高齢化を筆頭にいくつものテーマを抱えている。経済成長や物価は低迷し、国内総生産の2倍を超える公的債務は心配の種だ。正社員の夫を専業主婦が支える均一的な家族像は崩れ、単発の仕事を請け負うフリーランスのような働き方が増えてきた。社会の変化に応じて所得税を手直ししながら、老若男女が等しく担う消費税の役割を高めるのがふさわしいのではないか。

そんな考えがさらに強くなったのは今年6月、福岡で開かれた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議を取材したときだ。米国の「GAFA」に代表されるデジタル企業の台頭をふまえ、税逃れを防ぐために法人税の最低税率を定めるアイデアがあっさり合意に至ったのには驚いた。税率を決める権限は国の主権の根幹に関わる大事な要素。もはや、そこまで手放さなければグローバル企業の税逃れを防げなくなってきた現実を思い知らされた

最低税率が決まれば、企業を誘致したい各国の税率は最低ラインに集まるだろう公共サービスを賄う税収の源としては当てにしにくくなる。富裕層をめぐって法人税に似たイタチごっこが所得税や相続税でも始まった。企業や富裕層の潤いを社会に還元する税制の役目は変わらないが、人やカネが簡単に国境を越える時代に法人税や所得税の限界は色濃い



◎2つの誤解が…

まず「G20」での「法人税の最低税率」に関する「合意」の内容を確認しておこう。6月11日付の朝日新聞の社説では以下のように解説している。

G20は、法人実効税率の最低水準を決めることも確認した。水準を下回る国にある子会社の利益は、親会社の利益と合算して、親会社のある国が課税することにする。税率が極端に低い国をなくし、課税逃れを防ぐねらいだ

他社の報道内容とも基本的に齟齬はないので、「G20」での「合意」は上記のようなものだとの前提で話を進める。

上杉氏の第1の誤解は「税率を決める権限」の放棄に「合意」したと理解してしまったことだ。「(最低)水準を下回る国にある子会社の利益は、親会社の利益と合算して、親会社のある国が課税することにする」のだから「最低水準」を下回る国があるのが前提だ。もちろん「最低水準」を上回る「税率」でも構わないはずだ。なのにどうして「もはや、そこ(税率を決める権限)まで手放さなければ」と書いてしまったのか。

2つ目の誤解は「法人税」の「限界は色濃い」と判断したことだ。

今回の「合意」は「税率が極端に低い国をなくし、課税逃れを防ぐ」のが狙いだ。狙い通りに「税率が極端に低い国」が「税率を低くしても企業は集まらないしメリットは薄いな」と感じて低税率を見直すとしよう。その場合、「法人税」の「限界は色濃い」と言えるだろうか。

最低水準」がどこに決まるかという問題はあるが、「税率が極端に低い国」に引きずられて法人税率が低下する傾向に歯止めがかかる効果は期待できる。そうなれば現状で「最低水準」を上回る税率の国では「法人税」の税収に頼りやすくなる。

なのになぜ「法人税」の「限界は色濃い」と理解してしまったのか。上杉氏の理解力に不安を感じる。

ついでに言うと「最低税率が決まれば、企業を誘致したい各国の税率は最低ラインに集まるだろう」との見方には賛成できない。これに関しては上杉氏の予想が当たる可能性もある。ただ「水準を下回る国にある子会社の利益は、親会社の利益と合算して、親会社のある国が課税することにする」だけならば「子会社」ではない会社を「税率が極端に低い国」に置くメリットは残る。なので「税率が極端に低い国」は残りそうだ。

また、現状は言ってみれば基準となる「最低税率」がゼロだ。だからと言って「各国の税率」がゼロ近辺に集まっている訳ではない。先進国だけで見ても税率にはかなりのバラツキがある。「最低税率」が決まっただけで、今のバラツキが解消に向かうのか疑問ではある。



※今回取り上げた記事「Deep Insight~消費税10%の先を考える
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191001&ng=DGKKZO50395340Q9A930C1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。上杉素直氏への評価はDを維持する。上杉氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「麻生氏ヨイショ」が苦しい日経 上杉素直編集委員「風見鶏」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_25.html

「医療の担い手不足」を強引に導く日経 上杉素直氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_22.html

麻生太郎財務相への思いが強すぎる日経 上杉素直氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_66.html

地銀に外債という「逃げ場」なし? 日経 上杉素直氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_8.html

日経 上杉素直氏 やはり麻生太郎財務相への愛が強すぎる?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_27.html

「MMTは呪文の類」が根拠欠く日経 上杉素直氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/mmt-deep-insight.html