2016年7月7日木曜日

英国EU離脱特集 経済4誌では週刊エコノミストに軍配

英国のEU離脱決定を受けて、今週発売の経済誌はそろって関連特集を組んでいる。4誌を読み比べた上で順位を付けると、最も優れていたのは週刊エコノミストだ。一方で最も失望させられたのが週刊ダイヤモンドだった。まずは各誌が特集に割いたページ数を見ていこう。

◆週刊エコノミスト7月12日号 「英国EU離脱の衝撃」30ページ

◆週刊東洋経済7月9日号 「EU離脱 英国発 世界不安」18ページ

◆日経ビジネス7月9日号 「英離脱ショック」11ページ

◆週刊ダイヤモンド7月9日号 「英国EU離脱」9ページ

熊本学園大学(熊本市) ※写真と本文は無関係です
今回の場合、ページ数が多いほど評価も高くなる結果になった。「英国が離脱を決めるかもしれない」との意識を強く持って準備を進めていた編集部は厚みのある特集を組めたが、そうでないところは離脱が決まってから慌てて誌面作りを進めたのだろう。それがページ数の多寡に表れていると考えれば納得できる。

ちなみに、東洋経済、日経ビジネス、ダイヤモンドは「緊急特集」としていたが、エコノミストだけは「緊急」の文字が見当たらない。特集の冒頭では「総力特集する」と宣言している。この時点で他誌との勝負は付いている。エコノミストの担当者は桐山友一、種市房子、大堀達也の各記者。「どうせ残留だろ」と決め付けず、入念な準備を進めた姿勢を高く評価したい。

エコノミストの特集の中では「現地ルポ 主権を取り戻そうと情に訴えた離脱派 ひ弱なエリートの残留派を打ち破った」という記事(筆者はジャーナリストの今井一氏)が印象に残った。

日経ビジネスがロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授のパトリック・ダンレビー氏に「直接民主主義の恐ろしさが表れた」と語らせたように、国民投票で国の重要問題を決めることに懐疑的な見方がメディアでも多い。しかし、今井氏の主張はこれと一線を画す。記事の一部を紹介しよう。

【エコノミストの記事】

「EU離脱という愚かな選択をしたひどい国民投票だった」

投票結果が出た後、英国内では残留派の中からこうした声が噴出している。日本でも同様の発言をする学者や評論家がいるが、彼らの中には「3年前に実施を公約にしたキャメロン首相が悪い」と批判する人もいる。

確かにキャメロンが党首を務める政権与党(保守党)内のEU離脱派議員(約4割)の不満を抑え込む狙いもあっての実施だった。それも承知の上で、国民投票で決着を図ったことを私は肯定したい。その理由は3つ。

1つ目は、イギリスはECに加盟した2年後の1975年に「EC残留」の是非を問う国民投票を実施しているのだが、あのとき以上に「EU残留」に対する懐疑心が充満していることだ。

2つ目は、キャメロンVSジョンソン前ロンドン市長に代表されるように、政権与党が「残留・離脱」で真っ二つになっている状況で、議会や政府が「残留だ」と言い続けても多くの国民は納得しない。

3つ目は離脱派、残留派を問わず、国民の多数は「国民投票での決着」を支持している。今回の国民投票はまさに「デモクラティア(民主主義、人民主権)」を具現化するものだったからだ。

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現地で離脱派、残留派それぞれの集票活動を取材した上で、上記のように訴える今井氏の記事には説得力があった。この記事も含め、エコノミストの特集には質と量の両面で満足できた。

それに比べるとダイヤモンドは辛い。表紙には「落語にはまる!」という大きな見出しが躍り、「EU離脱の深刻」の文字は片隅に追いやられている。40ページも使って落語の楽しみ方を伝えるのが経済誌としてのダイヤモンドの使命なのか。ビジネスマンの趣味を応援する雑誌にでもなっていくつもりか。

落語にはまる!」のような脱線企画をたまにはメインに据えていいのかもしれない。しかし、英国のEU離脱という歴史的な転換点を迎えた時に、この問題を9ページで済ませて40ページの落語特集を組むのがダイヤモンドの在り方ならば、そこに頼って経済情報を収集する気にはなれない。


※特集の評価は週刊エコノミストがB(優れている)。他誌はC(平均的)とする。エコノミストの桐山友一記者への評価はBを維持する。暫定でBとしていた種市房子記者と大堀達也記者はBで確定とする。ジャーナリストの今井一氏は暫定でBとする。

2016年7月6日水曜日

日経 藤原隆人記者「スクランブル」での多すぎる問題点

5日の日本経済新聞朝刊マーケット総合1面に載った「スクランブル~出光、M&Aリスク映す 不協和音に投資家不信感」は、最初から最後までツッコミどころの途切れない内容だった。筆者は藤原隆人記者。本人に何か異変でも起きているのだろうか。
靖国神社(東京都千代田区) ※写真と本文は無関係です

記事を順に見ていきながら、問題点を指摘してみたい。

【日経の記事】 

4日の東京市場では出光興産が続落し、約2カ月ぶりに節目の2000円を割り込んだ。6日続伸した日経平均株価とは対照的な値動きだ。原油市況が反転するなかでの独歩安――。出光創業家らの反対をきっかけに、昭和シェル石油との合併には暗雲が漂う。大型M&A(合併・買収)が円滑に進まない現実が、日本株のリスクとして意識され始めた。

出光株を敬遠しているのは機関投資家だ。東証の空売り残高によると、UBS、みずほ証券などを経由した注文が目立つ。創業家らが合併に反対した翌日(6月29日)から直近までの下落率は一時13%と、石油株の平均4%よりきつい。


◎出光興産は「独歩安」?

出光興産に関して「原油市況が反転するなかでの独歩安」と書いているが、その後に「創業家らが合併に反対した翌日(6月29日)から直近までの下落率は一時13%と、石油株の平均4%よりきつい」と説明している。石油株の中では「独歩安」ではないようだ。何を以て「独歩安」と言っているのだろうか。「4日の東京市場」で「独歩安」なのか。しかし、日経平均採用銘柄で見ても65銘柄が下げている。出光が「独歩安」とは思えない。

◎「空売り」は敬遠しているから?

出光株を敬遠しているのは機関投資家だ。東証の空売り残高によると、UBS、みずほ証券などを経由した注文が目立つ」という説明も引っかかる。保有株を手放したり、様子見を決め込んだりしているならば「敬遠」でいいだろう。しかし、空売りの対象にしている場合、「敬遠」とは言い難い。積極的に出光株を手掛けていると見るべきだ。


【日経の記事】

SMBC日興証券の塩田英俊氏は、「経営者への不信感が投資家の売りにつながっている」と指摘する。QUICK・ファクトセットによると、米運用大手のブラックロック、バンガードも出光株を減らした。

2月に1バレル20ドル台まで下落した原油市況は足元で50ドル前後まで回復している。本来なら真っ先に収益改善を期待した買いが入るはずが、M&Aをめぐる会社と創業家らとの対話不足にかき消されている


◎原油高を好感した買いは不発?

上記の説明だと、「2月に1バレル20ドル台まで下落した原油市況は足元で50ドル前後まで回復している」のに、出光株には「収益改善を期待した買い」が入っていないような印象を受ける。しかし、記事に付けたグラフを見ると、出光株は今年1月を底に大きく上げており、日経平均を圧倒している。直近の値動きはさえないが、「M&Aをめぐる会社と創業家らとの対話不足にかき消されている」と言うほどの下げではない。きちんと「収益改善を期待した買い」が入ったように見える。


【日経の記事】

M&Aが頓挫するリスクは海外でも意識されている。米医薬大手ファイザーは今年4月、アイルランド同業のアラガン買収を断念。「シェラトン」などを展開する米ホテル大手スターウッド・ホテルズ・アンド・リゾーツ・ワールドワイドの買収戦では、買い手に内定していた米マリオット・インターナショナルが中国企業の「参戦」でいったん白紙になった。

こうした企業の株価はさえない動きが目立つ。米オフィス用品大手ステープルズの株価は合併断念と相前後して15%下落。独禁当局の差し止めに加え、当事者間や株主の対話が不十分だったのが嫌気された。

コモンズ投信の糸島孝俊氏は「出光のようなもめ事は今後も日本企業で相次ぐだろう」という。大塚家具、セコム、セブン&アイ・ホールディングス――。いずれも企業としての収益性には定評がありながらも、経営者や大株主をめぐる不協和音が噴出した企業群だ。株価は相前後して不安定な値動きを見せた。

もともと創業家などの持ち株比率が高い38社を見ると、経営の安定度が評価されてきた。株価は日経平均を上回る場面も多い。出光はその代表格だ。

変化の兆しは見え始めている。企業統治指針の導入2年目となり、社外取締役の複数導入など体制整備は進んだ。「企業統治強化の流れは後戻りできない」(大和総研の小林俊介氏)

◎ダブり感のある表現

株価は相前後して不安定な値動きを見せた」とすると、「株価」と「値動き」にダブり感が出てしまう。「株価は相前後して不安定な動きを見せた」とした方がよい。「株式は相前後して不安定な値動きを見せた」でも問題ない。


◎M&Aの話はどうなった?

今回の記事のテーマは「M&Aリスク」だったはずだ。しかし、途中から様子がおかしくなり、創業家や企業統治に話が移っていく。焦点が絞り切れていない。

◎大塚家具は「収益性には定評」?

大塚家具を「企業としての収益性には定評がありながらも、経営者や大株主をめぐる不協和音が噴出した企業群」に含めているのが解せない。同社は2009年、10年、14年に営業損益が赤字となっている。同業のニトリとの比較でも負け組に分類されるのが普通だ。なぜ「収益性には定評」と藤原記者は判断したのだろうか。

◎M&A混乱企業の「株価は株価はさえない」?

M&Aが頓挫するリスクは海外でも意識されている」と書いたうえで、「こうした企業の株価はさえない動きが目立つ」と藤原記者は解説している。「ステープルズの株価は合併断念と相前後して15%下落」したようだが、記事に付けた表を見ると、ファイザーとスターウッド・ホテルズ・アンド・リゾーツ・ワールドワイドは株価が下がっていない。ファイザーは合併撤回後に8%も値上がりしている。「こうした企業の株価はさえない」というより、「高安まちまち」とでも評すべきだろう。

◎創業家銘柄指数は日経平均を上回る?

創業家などの持ち株比率が高い38社を見ると、経営の安定度が評価されてきた。株価は日経平均を上回る場面も多い」との説明も苦しい。記事に付けたグラフを見ると、2015年7月末以降で日経平均と創業家銘柄指数(創業家の株式保有が2割を超える38社の平均株価)はほぼ連動。日経平均の方が上回る場面はそこそこあるが、創業家銘柄指数が上に来るのはわずかな期間しかない。個別銘柄では日経平均を上回る例もあるだろうが、これで38社について「経営の安定度が評価されてきた」と書いても説得力はない。

【日経の記事】

投資家が失望の傍らで抱く期待感は、出光株の商いからもうかがえる。下値では買いが入り、4日の売買高は240万株と、1~6月の平均に比べ2倍強に膨らんだ。誰に意思決定権があるのか、そして外部からもわかりやすい経営を高めていくか、出光株が出直る条件になっているように思われる。

◎不自然な日本語

あまり意味のない結論だが、それは置いておこう。ここでは日本語の不自然さを指摘したい。「出光株が出直る条件」として藤原記者は「誰に意思決定権があるのか」「外部からもわかりやすい経営を高めていくか」の2つを挙げている。しかし「誰に意思決定権があるのか」では「条件」にならない。「経営を高めていく」との表現にも違和感がある。藤原記者の言いたいことを推測して、改善例を作ってみたい。

ついでに付け加えると、記事中で使っている「市況が反転」「市況が回復」という表現は薦めない。「原油市況は足元で50ドル前後まで回復」に関しては、「原油相場は足元で50ドル前後まで回復」の方が好ましい。

【改善例】

誰に意思決定権があるのか明確にするなど、外部からも分かりやすい経営を進めていくことが、出光株にとって出直りの条件だと思える。

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やっと問題点の指摘が終わった。藤原記者は疲れがたまっているのならば、ゆっくり休んで出直した方がいい。心身ともに問題なしの場合、書き手としての能力そのものが問われる。いずれにしても、今後が心配だ。

※記事の評価はD(問題あり)。藤原隆人記者への評価も暫定でDとする。

2016年7月5日火曜日

東洋経済の特集「子なしの真実」に見える不都合な真実

週刊東洋経済7月9日号の第1特集は「『子なし』の真実」。経済誌ではなくAERAにでも任せておけばと思えるテーマだが、そこは問わないでおこう。ただ、「『子どもはまだ』。その一言に傷つく夫婦は少なくない。子がいないことは罪なのか」という問題提起には無理がある。それは記事で用いたデータからも明らかだ。
西南学院中学・高校(福岡市早良区)※写真と本文は無関係です

この特集では「『子なし』夫婦に対する世間の風当たりは厳しい」と断定した上で、「『子どもはまだ?』『なぜ持たないの?』『自分のことしか考えていない。わがままだ』『親不孝だ』…。職場の上司や同僚、親、親戚は、紋切り型の無神経な言葉を平気でぶつけてくる」と、子なし夫婦の置かれた厳しい現状を説明する。

紋切り型の無神経な言葉を平気でぶつけてくる」人がいないとは言わない。しかし、昔に比べるとこの手の質問がタブー視されるようになっているのも確かだ。「そんなに『子なし』を面と向かって責める人が多いかな」と思いながら読み進めると、その疑問に答えてくれるデータが出てきた。

52ページのグラフを見ると「子どもがいないことで肩身が狭いと感じたことはあるか」との質問に対し、「ある」と答えた人は24%に過ぎない(東洋経済のアンケートで子どもゼロと回答した590人が対象)。この結果に対し、誌面では「子なしに引け目を感じる」と見出しを付け、「子どもがいないことで、親戚の集まりや社内で孤独を感じる人が多い」と説明を加えている。

これはかなり無理のある解釈だろう。「肩身が狭いと感じたことがある人」は24%しかいない。76%が「引け目を感じたことがない」のだから「子どもがいないことで、親戚の集まりや社内で孤独を感じる人」は「子なし」の中でも必然的にかなりの少数派となる。「日本は『子なし』でもあまり肩身の狭い思いをせずに済む社会」と評価する方が自然だ。

記事では「社会はまだ子なしの選択を完全に受け入れてはいないようだ」と書いている。それはその通りだろう。だが、「全ての人が完全に子なしを受け入れる社会」は実現可能なのか。我が子に「早く孫の顔を見せて」と言ってくる親をゼロにはできないだろう。

例えば「酒を飲まない人」や「タバコを吸う人」の中にも、肩身の狭い思いをしている人はいる。こうした人に「罪」はない。だが、肩身の狭い思いをする場面を日本全体でゼロにはできない。8割近い人が「肩身の狭い思いはしていない」と回答する状況を実現できていれば十分ではないか。「子なし」も同じだ。

8割近くが「肩身の狭い思いはしていない」のに、「『子なし』夫婦に対する世間の風当たりは厳しい」との前提で特集を組むのは、作り手のご都合主義だと言われても仕方ないだろう。


※特集の評価はC(平均的)。担当者に関しては、中島順一郎記者、鈴木良英記者、許斐健太記者を暫定B(優れている)から暫定Cに引き下げる。暫定でCとしていた中原美絵子記者はCで確定させる。ライターの斉藤真紀子氏と加藤順子氏は暫定でCとする。

2016年7月4日月曜日

「まじめにコツコツだけ」?日経 西條都夫編集委員の誤解

書くことがなくて苦し紛れに捻り出しているのだとは思う。だとしても、この完成度では苦しい。4日の日本経済新聞朝刊企業面に載った「経営の視点~ルールが変える競争の姿 車・IT、技術のみにあらず」という記事で、筆者の西條都夫編集委員は日本の自動車メーカーに関して「まじめにコツコツだけで十分か」と心配してあげている。しかし、本当に日本メーカーは「まじめにコツコツだけ」なのだろうか。
震災で被害を受けた熊本城(熊本市) ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

当たり前のことだが日本は島国であり、国内の動向だけに気を取られていると、世界で起きている重大な潮流変化を見逃してしまうことがある。

例えば、日本人の多くはエコカーといえば、エンジンとモーターを併用するハイブリッド車を思い浮かべるだろう。昨年末にモデルチェンジしたトヨタ自動車の「プリウス(4代目)」は販売ランキングの首位を快走し、国内新車販売の2割強をハイブリッド車が占めている。

ところが、世界に目を広げると、少なくとも2015年はハイブリッドが足踏みした年だった。ナカニシ自動車産業リサーチの中西孝樹代表によると、世界市場におけるハイブリッド車の販売が昨年は145万台前後にとどまり、前年比で約1割減ったという。

最大の理由は原油価格の下落でガソリンが安くなり、米消費者の燃費志向が後退したことだ。ハイブリッド車の代名詞である「プリウス」の3代目がモデル末期に差し掛かった事情もある。これらはいずれも一時的な要因で、仮に油価が反転すれば、ハイブリッド車が再び脚光を浴びるのは間違いない。トヨタをはじめとする日本メーカーの、技術をまじめに磨き上げる姿勢は何物にも代えがたい競争優位の源泉である。

ただ「まじめにコツコツだけで十分か」という心配も一方で頭をもたげる。世界各国はそれぞれ独自の燃費、環境規制を持つが、米欧と中国という世界三大市場で「従来型ハイブリッド車に冷たい」といって言い過ぎなら、それ以外のエコカーを重視するような規制が導入されつつある。

「それ以外のエコカー」の中には、電気自動車や燃料電池車などの排ガスゼロ車のほか、外部電源から充電できるプラグイン型ハイブリッド車も含まれる。欧州連合(EU)はプラグイン車がかなり有利になる燃費算定方式を採用しており、それもあって欧州勢はプラグイン車の品ぞろえで日本車に先行している。

中国も電池だけで走れる距離の長いプラグイン車重視の姿勢を示し、米国ではカリフォルニアなどの有力州が排ガスゼロ車の普及を強力に促す規制の導入を決めた。こうした動きを「日本車包囲網」と騒ぎ立てるのは被害妄想の感を免れないが、規制のあり方が競争の有利不利や各社の戦略を大きく左右するのは事実であり、各メーカーや日本政府は世界にアンテナを高く張る必要がある

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「欧米や中国では従来型ハイブリッド車以外のエコカーを重視する規制が導入されつつあるのに、日本メーカーはそれを認識していない。海外の規制に関心を示さず、まじめにコツコツ技術を磨くだけで大丈夫なのか」と西條編集委員は心配しているようだ。

世界中で幅広く事業展開するトヨタなどの自動車メーカーが、海外でのルール変更に無知だとは考えにくい。「実は何にも知らないんだよ」と西條編集委員が確信しているのならば、その根拠を記事中で示すべきだ。

ちなみに6月16日の日経の記事(筆者は不明)では、トヨタについて以下のように述べている。

【日経の記事(6月16日)】

世界各国で環境車に対する政策変化が起こっている。対応次第によっては、将来の自動車メーカーの勢力地図を塗り替えかねない。

米国では歴史的に先進的な環境規制を導入してきたカリフォルニア州が18年に、環境車の規制を厳しくする。メーカーに一定数量の販売を義務付ける環境車の対象からトヨタが強いHVを除外し、EVや燃料電池車(FCV)に狭める。

トヨタはFCVに力を入れており、14年に国内で発売。米国でも15年10月に発売した。ただ、本格普及には水素ステーションの整備が前提。一部の工程もネックとなり16年の生産台数は2000台と限られている。

一方、中国ではEVとPHVを「新エネルギー車」と定め、購入者には1台当たり最大100万円程度の補助金を支給して普及を後押ししている。こうした流れを受け、小型車「カローラ」「レビン」にPHVを設定し、18年に現地生産を始める。

トヨタはFCVを環境車の本命としているが、世界の潮流に合わせてPHVも押さえる全方位戦略を進める

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この記事が正しいのならば、トヨタは環境規制に関して「世界にアンテナを高く」張っているはずだ。「燃料電池車(FCV)を環境車の本命としているが、世界の潮流に合わせてプラグインハイブリッド車(PHV)も押さえる全方位戦略を進める」のだから、「従来型ハイブリッド車」に固執しているわけでもない。「環境車の本命」にさえしていない。「まじめにコツコツだけで十分か」と日本メーカーを心配する西條編集委員の認識は間違っている公算が大きい。

あくまで推測だが、西條編集委員は日本メーカーが「まじめにコツコツだけ」の存在ではないと知っているのだろう。しかし、それだと記事としては苦しい。「日本メーカーは海外での規制変更の重要性をきちんと認識し、それに合わせて戦略を定めている」とすると、西條編集委員が何か言ってあげる余地は乏しくなる。だから、多少の無理は承知で「まじめにコツコツだけ」の存在に仕立て上げたのではないか。

ついでに、もう1つ指摘しておこう。「仮に油価が反転すれば、ハイブリッド車が再び脚光を浴びるのは間違いない」と西條編集委員は書いているが、「油価」は2月を底に「反転」している。西條編集委員は原油相場の動きをきちんと理解していないような…。


※記事の評価はD(問題あり)。西條都夫編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。
西條編集委員に関しては「春秋航空日本は第三極にあらず?」「何も言っていないに等しい日経 西條都夫編集委員の解説」「日経 西條都夫編集委員が見習うべき志田富雄氏の記事」「日経『一目均衡』で 西條都夫編集委員が忘れていること」も参照してほしい。F評価については「タクシー初の値下げ? 日経 西條都夫編集委員の誤り」で理由を述べている。

2016年7月3日日曜日

最優秀書き手16年4~6月は週刊エコノミスト種市房子記者

2016年4~6月の最優秀経済記事は週刊エコノミスト6月7日号の特集「固定資産税を取り戻せ!」としたい。今期は「これだ」という記事がなく、強いて最優秀記事を挙げれば…という評価になる。この特集を担当したのは種市房子記者と桐山友一記者。中でも種市記者には注目している。週刊エコノミスト4月19日号の「編集部からFrom Editors」で気になることを書いていたからだ。改めてその中身を紹介したい。
三柱神社(福岡県柳川市) ※写真と本文は無関係です

【エコノミストの記事】

新聞業界には事前報道主義がはびこっている。毎日新聞経済部記者として次年度予算案の取材をしていた時のこと。あと10時間もすれば発表される地方交付税額を事前報道するために、深夜1時まで関係者を回った。その結果、朝刊での事前報道には成功したが、不毛な仕事をした徒労感のみが残った。

官庁の政策・予算、企業の社長人事、春闘の妥結水準まで事前報道合戦は果てしない。裏付けが十分でないために起こる人事報道の誤報も見受けられる。「あの予算額が決まった背景にある社会情勢は」「この人事はどういうパワーバランスで決まったのか」。ニュース発表後でも、背景検証の余地はある。

4月に経済部からエコノミスト編集部に異動しました。あやふやな速報性にこだわらず、埋もれた事実を掘り起こす姿勢で取材に当たります。よろしくお願いします。

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待っていれば発表される類の話を事前に報道しようと走り回る悪しき習慣が新聞社から無くなることを願ってやまない。それだけに、毎日新聞社という組織の中にいる段階でしっかり問題提起できた種市記者には光るものを感じた。特集「固定資産税を取り戻せ!」の完成度が高かったことと併せて評価し、種市記者を4~6月の経済メディア最優秀書き手に認定したい。

※種市記者に関しては「事前報道に懐疑的な週刊エコノミスト種市房子記者に期待」を参照。


一方、最悪の記事は6月4日の日本経済新聞朝刊女性面に詩人・社会学者の水無田気流氏が書いた「女・男 ギャップを斬る『女性活躍』掲げれど 音速の人生設計、まるでF1」。最悪の書き手も水無田気流氏とする。

「34歳までに子どもを2人以上産み育てつつ就労継続すべしと政府が推奨している」との根拠に乏しい説明をした上に、問い合わせても回答はなし。記事には他にもツッコミどころが満載だ。これをそのまま新聞に載せた日経女性面の編集担当者の責任も重い。

※この記事と筆者については「日経女性面『34歳までに2人出産を政府が推奨』は事実?」「日経女性面に自由過ぎるコラムを書く水無田気流氏」で詳しく触れている。

2016年7月2日土曜日

日経 田村正之編集委員が勧める「積み立て投資」に異議

日本経済新聞の田村正之編集委員が2日の朝刊マネー&インベストメント面の「株安 積み立て投資増額  上昇時のリターンに期待」という記事で積み立て投資を取り上げている。日経はやたらと積み立て投資を勧めるが「自分でもやってみよう」という気にはなれない。メリットが乏しいからだ。田村編集委員お薦めの「修正積み立て投資」も例外ではない。

西鉄柳川駅(福岡県柳川市) ※写真と本文は無関係です
積み立て投資については「大きな害はないが、メリットも乏しい」と覚えておくのが一番だろう。なぜそう言えるのか、記事に即して説明したい。

【日経の記事】

「相場下落時に怖くて売ってしまう行動を避けるには投資のルール化が有効だ」(コメジス氏)。例えば毎月一定額を買い続ける積み立て投資だ。価格が安いときに多くの数量を買うことで平均買いコストを抑えやすい。

この単純な定額積み立てよりさらに成績が上がりやすい方法がある。安値圏では通常よりも購入額を増やし、反対に高値圏では一部を売却して利益確定する。英国のEU離脱決定で株価が安値圏にある今こそ知っておきたい手法だ

例えば、ある月の株価終値が過去1年間の平均値より(1)10%以上低かったら2万円分を購入する(2)10%以上高かったら2万円分を売却する(3)プラスマイナス10%の範囲内であれば1万円分を購入する――という具合にルールを設定する。

これに基づき長期で修正積み立て投資をしたとして運用成績を試算したのがグラフBの上部だ。先進国全体の株価を示す指数に連動する投信を対象に、1990年から今年6月まで約26年間、投資を続けてきたと仮定している。

例えば株価が高値圏にあった2014年11月~15年5月は多くの月で2万円分を売却。今年は世界景気の減速懸念から株安となった2月と英EU離脱が決まった6月(24日時点で計算)に2万円分を買っている。

26年間、月々購入した金額と売却した金額を通算すると108万円になる。一方、足元の株価水準を反映して現在の資産額を評価すると362万円。株価が長期で右肩上がりだったのと「安値買いの高値売り」の両方の効果により、資産額が投資額に対して3倍強の水準に増えた計算だ。

比較対照として定額積み立てによる効果をグラフBの下に示した。投資額累計が同じ108万円になるよう逆算して月々の積立額を設定した。この場合、資産額は足元で251万円になる。2倍強に増えたとはいえ、同じ投資額に対するリターンとしては修正積み立ての方に分がある。

竹中正治・龍谷大学教授は修正積み立て投資を自らの資産運用の参考にするとともに人にも薦めている。価格が5年平均より30%以上低ければ増額購入し、30%以上高ければ売却するルールを目安にしている。

どれだけ価格が変動したら増額購入や売却をするか、それぞれの金額をいくらにするかというルールは投資対象や余裕資金額に応じて決めたい。リスクは増大するが、「一般に金額の倍率を高めた方が成績は上がりやすい」(竹中氏)。

修正積み立てが定額積み立てに比べて常に有利とは限らない。例えば数年にわたり株価が大幅に上がり続ける相場では、売りを出さない分だけ定額積み立ての方が成績が良くなる。

どちらにせよ積み立て投資は、価格が基調として右肩上がりでないと効果は出にくい。為替取引のように方向感が定まりにくい資産には向かない。世界株式で運用する投信のように、幅広く分散されて長期的に価格上昇が期待できる資産を選ぶのが基本だ。

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どちらにせよ積み立て投資は、価格が基調として右肩上がりでないと効果は出にくい」と田村編集委員は書いている。ゆえに「長期的に価格上昇が期待できる資産を選ぶのが基本」らしい。

ならば、「短期的には下がる場面もあるが、長期的には上昇していく」と見込める対象に投資する前提で考えてみよう。20年後に資金を回収するとして、以下のどちらを選ぶのが得策だと思えるだろうか。

(1)最初から100万円を投じる

(2)20年にわたって毎年5万円を投じる

長期的に上昇すると見込んでいるのであれば、最初から100万円を投じたくならないだろうか。(1)は100万円を20年間にわたって「長期的に上昇する対象」に投じられる。ところが(2)を選ぶと、せっかく有望な投資対象を見つけたのに、10年経った段階でも50万円しか投じていない。これは勿体ない。

田村編集委員が「単純な定額積み立てよりさらに成績が上がりやすい方法」として勧める「修正積み立て投資」も基本的には同じだ。助言を求められたら、やはり「大きな害はないが、メリットは乏しい」と答えたい。強いて言えば、「修正積み立て投資」よりも「単純な定額積み立て」の方が好ましいだろう。

記事で紹介した運用成績の比較では「投信のコストは考慮せず」となっている。これではきちんとした比較はできない。投信の売買にコストが発生する場合、「修正積み立て投資」は「単純な定額積み立て」よりもコストが膨らんでしまう。これは避けたい。手数料が多くかかる分を補って運用成績が上がると期待できる根拠はないはずだ。「単純な定額積み立てよりさらに成績が上がりやすい方法がある」は言い過ぎだろう。

そもそも「長期的に価格上昇が期待できる資産を選ぶのが基本」であれば、途中で機械的に利食いをする必要はない。持ち続ける方が合理的だ。

結局、積み立て投資を正当化できるのは以下のような場合だと思える。

(1)投資したい対象を見つけたが、投じるべきだと判断している金額をすぐには用意できない。少しずつ余裕資金が生まれてくるので、それに合わせて投資金額を増やしたい。

(2)「一番高いところで買ってしまった」といった後悔だけは避けたい。

この2つのどちらにも該当しない人が積み立て投資を考慮する必要はない。(1)の場合も、余裕資金ができたら「定額」にこだわらずに投資を増やして、早めに自分の考える投資金額に到達させる方が合理的だろう。


※記事の評価はC(平均的)。田村正之編集委員の評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。F評価については「ミスへの対応で問われる日経 田村正之編集委員の真価」で理由を述べている。

2016年7月1日金曜日

日経 宮本岳則記者「野村株、強気の勝算」の看板に偽り

「看板に偽りあり」の典型的な記事が1日の日本経済新聞朝刊マーケット総合1面に出ていた。「スクランブル~ 野村株、強気の勝算 米ファンド『リーマンと違う』」という記事で、筆者の宮本岳則記者は「国際株ファンドで3兆円を動かす運用会社がそろり動き出した。米ハリス・アソシエイツ。中でも強気なのが、野村ホールディングス(HD)株だ。その勝算は――」と最初の段落で打ち出している。しかし、野村株に関するまともな分析がないまま話が広がっていく。これでは苦しい。
水前寺成趣園(熊本市) ※写真と本文は無関係です

まずは記事の前半部分を見ていこう。

【日経の記事】

株価が割安な時に買い集め、長期で高いリターンを狙う「逆張り投資家」。英国の欧州連合(EU)離脱で様子見姿勢を決め込む多数派を横目に、国際株ファンドで3兆円を動かす運用会社がそろり動き出した。米ハリス・アソシエイツ。中でも強気なのが、野村ホールディングス(HD)株だ。その勝算は――

 「野村は売られすぎだよ」。ハリスのデービッド・ヘロー最高投資責任者は自信を見せる。世界中を飛び回り、自ら企業を徹底調査するのが持ち味。過去に米調査会社から「最高のファンドマネジャー」に選ばれた著名投資家だ。日本株の注目銘柄を聞くと即答した。「一気に買いあさる局面ではないが、極端に割安になった株を徐々に増やす

ヘロー氏の運用は通説の割安株投資よりも「逆張り色」が強い。スイスの資源商社グレンコア、欧州金融大手のクレディ・スイスにBNPパリバ――。3兆円ファンドの組み入れ上位には、業績が景気で大きく振れるとして敬遠されがちな銘柄がずらりと並ぶ。日本株の持ち高では野村が8.5億ドル(約875億円)でトップ。ホンダ、トヨタ自動車などが続く。

多くの投資家は英国ショック以降、こうした銘柄に手が出なくなっている。野村は28日に約3年半ぶりに安値に沈んだ。30日は続伸したが、英国ショックで下げた分の2割しか戻していない。約5割を埋め合わせた日経平均株価に比べ、出遅れ感は際立つ。

自動車株の相対PBR(株価純資産倍率)は、リーマン・ショック後の2009年1月以来の低さだ。

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上記の部分にしか野村に関する記述はない。米ハリス・アソシエイツの最高投資責任者は「野村は売られすぎだよ」と発言しており、このファンドの「日本株の持ち高では野村が8.5億ドル(約875億円)でトップ」らしい。「そんなに割安なのか。なぜそう言えるんだろう?」と思って読み進めても、後は野村株の値動きが出てくるぐらいで、まともな解説はない。

野村株について「出遅れ感は際立つ」と書いたあと、「売られ過ぎ」かどうか分析するのかと思いきや「自動車株の相対PBR(株価純資産倍率)」に話は飛んでしまう。最初の段落で「中でも強気なのが、野村ホールディングス(HD)株だ。その勝算は――」と書いたのを、途中で忘れてしまったのだろうか。

そもそも「中でも強気なのが、野村ホールディングス(HD)株だ」と言えるのか疑問だ。「8.5億ドル」もの野村株をいつ仕入れたのかは不明だが「(現状は)一気に買いあさる局面ではない」とのコメントからすると、英国のEU離脱が決まる前に投資した分が多くを占めると推測できる(記事に付けた表では、組み入れ銘柄に占める野村株の比率が3月末時点で3.3%に達している)。

だとすると「約3年半ぶりに安値に沈んだ」後に「英国ショックで下げた分の2割しか戻していない」野村株について「売られすぎ」との感想を持つのは当然だろう。自分たちが大量に保有している銘柄だから、「今の価格が適正水準」とか「もっと下がってしかるべきだ」などと言うはずもない。本当に野村に対して「強気」ならば、ここがチャンスとばかりに思い切って買い増すはずなのに、そうでもなさそうだ。

注目銘柄」を聞いたら「野村」と即答したようだが、持ち高の多さから考えて「上がってくれないと困るという意味で注目している銘柄」なのだろう。結局、「売却までは考えないが、積極的に買っていくほど強気でもない」と言ったところではないか。

ついでに記事の後半部分についても注文を付けたい。

【日経の記事】

ヘロー氏の見方は異なる。「英国のEU離脱問題リーマン・ショック比較するのはナンセンス。世界経済は3%成長を維持できる」と主張する。金融機関の資本増強が進み、金融システム不安や株式市場の「底割れ」は起きないとみている。愚直に割安株投資を貫き、1998年ごろのアジア通貨危機、08年のリーマン・ショックなどを乗り切ってきた自信こそが強気の支えだ。

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英国のEU離脱問題リーマン・ショック比較するのはナンセンス」は助詞の使い方が不自然だ。「離脱問題リーマン・ショック」か「離脱問題リーマン・ショック」にすべきだろう。

株式市場の『底割れ』」は「株式相場の『底割れ』」にした方がいい。相場には「」や「天井」があるが、「市場の底」はやや意味不明だ。

1998年ごろのアジア通貨危機」も引っかかる。「1997年のアジア通貨危機」でいいのではないか。98年には危機を完全に脱したのかと言われれば違うだろうが、「97年」は外さない方が好ましい。「97年だけではない」という点にこだわるならば「1997年ごろのアジア通貨危機」か。

最後に、記事の結論部分を見よう。

【日経の記事】

米マフューズ、英シルチェスター――。29~30日に提出された大量保有報告書を見ると、複数の海外投資家が24日の株価急落直後、いち早く日本株買いに動いた様子が浮き彫りになる。

「リーマン当時とは状況が異なる」との声は、国内勢からも出始めた。DIAMアセットマネジメントの岩間恒上席ポートフォリオマネジャーは「リーマン当時の教訓で各国・地域がより迅速に政策協調に動くようになっている」という。

それでも「7月に企業業績の下方修正が相次げば、日本株の先行きは楽観できない」(ゴールドマン・サックス証券のジョン・ジョイス・グローバルエクイティ営業部長)との見方がなお支配的だ。英国ショックをきっかけに逆張り投資に動くかどうか、その判断で投資家の優勝劣敗が分かれそうだ。

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英国ショックをきっかけに逆張り投資に動くかどうか、その判断で投資家の優勝劣敗が分かれそうだ」という結びに意味がない。「そりゃそうでしょ」的な結論を導かれると、読んで損した気分になる。「特に訴えたいことなどない。順番が回ってきたから苦し紛れに書いただけ」という筆者の心の声が聞こえてきそうな終わり方だ。


※記事の評価はD(問題あり)。宮本岳則記者への評価も暫定でDとする。