2021年11月19日金曜日

MMTに対する中空麻奈氏の誤解が凄い日経「エコノミスト360°視点」

BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部副会長の中空麻奈氏を記事の書き手としては評価していない。19日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「エコノミスト360°視点~財政再建の第一歩は『無駄』の排除」という記事でも、雑な主張が目立った。一部を見ていこう。

大阪城

【日経の記事】  

持続可能な社会をつくるには、財政規律を守りキャッシュフローを潤沢に回す仕組みが肝要だ。それが財政再建の着実な推進につながる。

それでも、財政再建を振りかざした途端、いくつもの反論が出てこよう。代表的なものとして3つ挙げる。第1に、金利が低い間はどれだけ借金しても問題はないとする、いわゆる現代貨幣理論(MMT)。第2に、借金に注目する際は莫大な資産に着目せよ、とする考え方。第3に、借金として財務省が発行する日本国債は日銀が購入すればよく、統合政府ベースではネットで負債は減少するというバランスシート統合論だ。


◎金利の問題?

中空氏は「MMT」を誤解しているようだ。「MMT」とは「自国通貨を発行する政府はデフォルトに陥ることはあり得ないから、高インフレにならない限り、財政赤字を拡大しても問題ない」(「全国民が読んだら歴史が変わる奇跡の経済教室」より)という理論だ。

金利が低い間はどれだけ借金しても問題はない」とは言っていない。インフレ率と金利は連動しやすいが、必ず連動する訳ではない。「金利が低い」としても「高インフレ」になってくれば話は別だ。この時に「どれだけ借金しても問題はない」と「MMT」は考えない。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

MMTはいくつもの制約と仮定のもとに成り立つ恒等式にすぎないうえ、金利が十分に低くとも元本が増えれば財政の悪化に歯止めはかからない。日本の資産に計上される空港や防衛施設などの公用地や外交上も有効な米国債などは軽々に売却できない。また、独立している日銀のバランスシートを統合して帳面上ネットゼロを果たしたところで、負債残高が消えるわけではない、のである。


◎やはり理解してない?

やはり中空氏は「MMT」を理解していないようだ。「金利が十分に低くとも元本が増えれば財政の悪化に歯止めはかからない」と書いているが、そもそも「MMT」は「金利が十分に低ければ財政の悪化に歯止めをかけられる」と訴えている訳ではない。インフレを抑えられている状況であれば「財政の悪化」を問題視する必要がないと唱えている。

ここから中空氏はさらに無理のある主張を展開していく。見ておこう。

【日経の記事】

しかし、言い古された考え方を蒸し返すことがここでの本意ではない。力説したいのは財政再建派と、基礎的財政収支(プライマリーバランス)黒字化を一時凍結し景気を優先するいわゆるリフレ派の、二項対立での捉え方からそろそろ卒業すべきではなかろうか、という点だ。

リフレ派とて、景気が上昇した暁には財政再建を目指すのであろうし、財政再建派も堅調な景気回復を完全に諦めたわけではない。ただ、20年間にわたって1%にも届かないような成長しかしていない日本で、過度に楽観的な景気回復シナリオを描くのは幻想が過ぎるだろう。


◎まとめて「リフレ派」?

リフレ派の主張は、政府・中央銀行が数パーセント程度の緩慢な物価上昇率をインフレターゲットとして意図的に定めるとともに、長期国債を発行して一定期間これを中央銀行が無制限に買い上げることで、通貨供給量を増加させて不況から抜け出すことが可能だとするもの」(知恵蔵)だとしよう。

中空氏は「MMT」と「借金に注目する際は莫大な資産に着目せよ、とする考え方」と「バランスシート統合論」をひとまとめにして「リフレ派」と呼び、「財政再建派」との「二項対立」があると説く。

MMT」論者は基本的に「リフレ派」ではない(重なる人も多少はいるだろうが…)。「MMT」はインフレ警戒的だ。インフレ歓迎的な「リフレ派」とは、あまり相性が良くない。

中空氏は「MMT」(あるいは「リフレ派」)への理解を欠いたまま「リフレ派とて、景気が上昇した暁には財政再建を目指すのであろう」と推測している。

MMT」では「景気が上昇した」からと言って「財政再建を目指す」ことはない。インフレが抑えられている前提で言えば「景気が上昇した」としても、国民にとってプラスとなる財政支出があれば「財政再建」など気にせずに支出すべきとなる。

ここでは代表的な「MMT」論者であるステファニー・ケルトン氏が書いた「財政赤字の神話~MMTと国民のための経済の誕生」の一部を引用しておこう。


【本の引用】

国家として財政の均衡を目指すのをやめ、経済の均衡を回復させることに積極的に取り組んだらどうだろう。MMTのレンズに基づく財政運営では、特定の財政上の結果を目指すことは一切ない。財政赤字の増加は赤字の縮小、あるいは財政黒字と同じように許容されるべきものだ。重要なのは財政年度の終了時点で予算の枠からこぼれ落ちた数字ではない。誰もが生き生きと暮らせる、健全な経済の実現こそが重要だ。働きたいと思う人全員に行き渡るだけの、正当な報酬を支払う仕事はあるだろうか。国民は必要な医療と教育を受けられているだろうか。高齢者は尊厳ある第二の人生を送れるだろうか。すべての子供に十分な食べ物、きれいな飲み水、安全な住居があるだろうか。地球が生存可能な惑星であり続けるように、できることはすべてやっているだろうか。要するに、私たちは本当に重要な「赤字」に対処しているだろうか。


◇   ◇   ◇


これだけでも読めば「MMT」が「景気が上昇した暁には財政再建を目指す」ものではないと分かるはずだ。とりあえず「財政赤字の神話」だけでも中空氏には読んでほしい。

MMT」は「金利が低い間はどれだけ借金しても問題はない」とは唱えていないし、「リフレ派」でもないし、「景気が上昇した暁には財政再建を目指す」訳でもない。

そこを理解しないと話は始まらない。出発点で躓いていることに早く気付いてほしい。


※今回取り上げた記事「エコノミスト360°視点~財政再建の第一歩は『無駄』の排除」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211119&ng=DGKKZO77686420Y1A111C2TCR000


※記事の評価はE(大いに問題あり)中空麻奈氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

BNPパリバの中空麻奈氏に任せて大丈夫? 東洋経済「マネー潮流」https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/bnp.html

日経「エコノミスト360°視点」に見えるBNPパリバ 中空麻奈氏の実力不足https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/360bnp.html

「『長年の謎』から格付けの意義を問う」中空麻奈氏に感じた「謎」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/blog-post_10.html

日経「エコノミスト360°視点」でBNPパリバ証券 中空麻奈氏が見せた市場への理解不足https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/360bnp.html

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