2021年11月12日金曜日

筆者のワクチン信仰が垣間見える日経社説「3回目職域接種の準備万全に」

ワクチンへの信仰心を一度持ってしまったら、冷静な分析や判断は難しくなるのだろう。12日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「3回目職域接種の準備万全に」という社説には、安易なワクチン信仰が目に付いた。一部を見ていこう。

御堂筋

【日経の社説】

12月から新型コロナウイルスワクチンの3回目接種が始まる。医療従事者や高齢者に続き、来春以降は2回の接種を終えた全員が対象になる。企業や大学での職域接種をうまく生かし、滞りなく進めてほしい。

ワクチンは接種完了後、半年たつと感染予防効果が大きく減ることがわかってきた。3回目の追加接種によって免疫力を回復させ、再び感染・発症しにくくする


◎いつまでやる?

ワクチンは接種完了後、半年たつと感染予防効果が大きく減る」としよう。「ワクチン」に頼って感染対策を進める場合、年2回の「接種」を死ぬまで続けるのが標準になるはずだ。なのに今後も「職域接種」を続けるべきなのか。いつになったらやめるのか。「感染者が大幅に減ったら」と言うならば、その条件は既に満たしている。

日経は給付金を使ったバラマキに否定的だ。「ワクチン」も無料を維持するのならば、かなりのバラマキだ。感染が収まっても「再拡大を防ぐため」という理由でずっと無料にすべきなのか。そこも考えるべきだ。

少し話がそれた。本題のワクチン信仰に関するくだりを見ていこう。


【日経の社説】

厚生労働省は2回目接種後8カ月以上たった人に実施する方針。今月中旬にも専門家会合で、接種の進め方や推奨の度合い、使用するワクチンなど詳細を決める。

日本は他の主要国に比べワクチン接種で出遅れた。しかし、6月以降、職域接種を取り入れ、接種スピードを加速させた。短期間に国民の7割超が接種を終え、第5波が急速に収まる要因になった


◎断定できる根拠ある?

ワクチン接種」は「第5波が急速に収まる要因になった」と言い切っている。何を根拠にそう断定したのか。感染者数の急減は「ワクチン接種」率の高まりでは説明できないと多くの専門家が指摘している。

日経の記事でも、例えば大阪大学特任教授の松浦善治氏は以下のように述べている。

新型コロナウイルス感染症の新規患者数が日本で急減した理由は分からない。ワクチン接種が進んだことが指摘されがちだが、海外でも接種が遅れたインドネシアで患者が減り、タイやロシア、英国は増えてきた。ワクチンだけでは説明できない

日本でも「6月以降、職域接種を取り入れ、接種スピードを加速させた」のに、8月に感染者数がピークに達した。「ワクチン接種」に大きな効果があるのならば、そもそも「第5波」はなぜ起きたのか。その後に驚くほどのスピードで急減したのだから「ワクチン接種」との関連を確信する方がおかしい。

なのに「第5波が急速に収まる要因になった」と何の疑いも持てず書けるのだとしたら、「ワクチン」への信仰心が芽生えてしまったのだろう。

社説の最後には、どう理解すべきか分からない説明も出てくる。そこも見ておこう。


【日経の社説】

ワクチン未接種だと感染した際に肥満や糖尿病の人と同じような重症化リスクになるとの見方もある。一度も打っていない人が12月以降、打つ機会を逃すようなことがあってはならない。

◎何と何を比べた?

ワクチン未接種だと感染した際に肥満や糖尿病の人と同じような重症化リスクになるとの見方もある」という説明がよく分からない。

ワクチンが存在しない状況下で、「肥満や糖尿病の人」(ここではハイリスク群と呼ぶ)の「重症化リスク」は10%、そうでない人(ローリスク群と呼ぶ)の「重症化リスク」は1%と仮定しよう。社説の説明を単純に信じれば、ローリスク群が「ワクチン未接種」を選択すると「重症化リスク」が一気に10%へ上がってしまう。

これは奇妙だ。「ワクチン未接種」を選択したからと言って、ローリスク群の体には何の影響もない。なのに「接種しなくていいや」と決めただけで「重症化リスク」が跳ね上がるのか。常識的にはあり得ない。

では、社説の筆者は何が言いたかったのか。

肥満・糖尿病とは無縁な人がワクチン未接種で感染した場合、肥満・糖尿病の問題を抱えている接種済みの人と同程度の重症化リスクが生じるとの見方もある

自分は上記のように解釈した。これが正しいとすれば、社説の説明は雑で下手だ。

この解釈の場合も、何が問題なのか分かりにくい。ローリスク群の「重症化リスク」は「未接種」でも1%のままだ。ハイリスク群の「重症化リスク」が「ワクチン接種」によって1%に下がりローリスク群と同程度になったとしよう。

「良かったね」でいいのではないか。特に問題はない。ローリスク群の「重症化リスク」が高まる訳ではない。

ローリスク群は「ワクチン接種」をすれば「重症化リスク」を0.1%まで引き下げられるとしよう。この場合「重症化リスク」を0.9ポイント下げることに意味があるかどうかを「接種」のリスクと比較して検討すればいい。

意味があると思えば「接種」、ないと思えば「未接種」でいい。社説の筆者は「未接種」だと危険だと訴えたいのだろうが、説明は下手だし、きちんとした根拠も提示できていない。

ワクチンへの信仰心を持つ人が社説を書くのは好ましくない。今さら「信仰心を捨てて冷静に分析しろ」と言っても難しいとは思うが…。


※今回取り上げた社説「3回目職域接種の準備万全に」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211112&ng=DGKKZO77495460S1A111C2EA1000


※社説の評価はE(大いに問題あり)

0 件のコメント:

コメントを投稿