2020年1月31日金曜日

日経1面トップ「日本製鉄、呉の高炉休止」に注文

31日の日本経済新聞朝刊1面トップを飾った「日本製鉄、呉の高炉休止~生産能力1割削減
世界で供給過剰」という記事にはいくつか引っかかる点があった。まず「高炉休止」なのかという問題だ。最初の段落では以下のように書いている。
姪浜港(福岡市)に停泊中のフラワーのこ
         ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

日本製鉄は呉製鉄所(広島県呉市)に現在2基ある高炉(総合2面きょうのことば)を休止する方針を固めた。国内の生産能力を1割削減する。同製鉄所は鋼板製造ラインも含めた将来の全面閉鎖も検討する。鉄鋼業界は保護主義の広がりと中国企業の大増産で市況が悪化し、日本勢のアジア向け輸出の競争も激しい。世界的に生産能力は過剰で、競争力の低い製鉄所の淘汰が広がる可能性がある。(関連記事企業2面に)



◎「廃止」の方が…

休止」とは「仕事・活動などを、一時休むこと。また、動きが止まること」(デジタル大辞泉)という意味なので、「高炉休止」と聞くと「廃炉ではない」との印象を受ける。しかし記事では「生産能力を1割削減」「(製鉄所の)全面閉鎖も検討」などと書いている。ここから判断すると廃炉となるのだろう。だとしたら「高炉廃止」の方がしっくり来る。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

世界鉄鋼協会によると、2019年の世界の粗鋼生産量は18億6990万トン。経済協力開発機構(OECD)の推計では18年時点の世界の鉄鋼業の生産能力はこれを約4億トン上回る。日本の粗鋼生産量の4倍の過剰能力を世界で抱えている計算だ。日本国内も約3割の過剰能力を抱える。


◎なぜ背景説明を前に?

第2段落でいきなり背景説明に移る。最近の日経の記事でよく見るパターンだ。ニュース記事の作り方の原則に反しているし、個人的にも好みではない。しかも、記事の終盤で再び背景説明が出てくる。最後にひとまとめにした方がいい。

次は第3段落だ。

【日経の記事】

日鉄は2月7日にも呉製鉄所の高炉休止を発表する。数年以内に実施する。同製鉄所の粗鋼生産量は19年3月期で273万トン。生産能力はグループ全体の7%に相当する。呉の高炉は1基を残し能力を増強する計画だったが2基とも休止する方針に転換した。北九州市の1基も21年3月末の休止を決めており、グループの国内の生産能力は現在の5400万トンから1割程度減る見通しだ。


◎ちょっと話が…

呉製鉄所(広島県呉市)に現在2基ある高炉」はどちらもこれまで「休止」が決まっていなかった。そして「2基」の「休止」によって「生産能力」が「1割削減」になる--。最初の段落を読んだ時はそう理解した。

しかし、第3段落で話が変わってくる。「呉の高炉は1基を残し能力を増強する計画だったが2基とも休止する方針に転換した」らしい。今回は「1基」の「休止」が新たに決まっただけだ。しかも「北九州市の1基」も合わせての「1割削減」らしい。

最初の段落では話を大きく見せたのだろう。1面トップなので気持ちは分かるが、お薦めしない。

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

呉製鉄所は子会社の日鉄日新製鋼が運営し、自動車の高機能鋼板などを製造する。規模がグループ内の他の製鉄所と比べ小さく、製鉄所全体の閉鎖も検討する



◎何が残る?

現在2基ある高炉」を「休止」しても「製鉄所全体の閉鎖」とはならず「鋼板製造ライン」が残る可能性があるのだろう。しかし「高炉」がないのにどうやって「鋼板製造」が可能なのかよく分からない。加工工程を残すのであれば、そう書いてほしい。

ここからは最後の2段落を見ていく。

【日経の記事】

閉鎖の場合、1000人程度いる従業員は配置転換を含め検討するもようで、協力会社を含めた3000人以上の雇用に影響する可能性がある。高炉のある製鉄所を全面閉鎖すれば日鉄グループの創業以来、初めてとみられる

鉄鋼業界の経営環境は急速に悪化している。米国が鋼材への輸入関税を引き上げ、米国に向かっていた製品がアジアや欧州でだぶついた。最大の生産国である中国は、政府の景気刺激策で過去最高のペースで鉄の増産を続ける。鉄鉱石など原材料価格は高止まりする一方、市況の低迷が続く二重苦に直面している。欧州では経営破綻も起きた。


◎なぜ「みられる」?

高炉のある製鉄所を全面閉鎖すれば日鉄グループの創業以来、初めてとみられる」と「みられる」を付けているのが引っかかった。「創業以来、初めて」かどうか確認できなかったのか。簡単に確認できそうな話だと思えるが…。


※今回取り上げた記事「日本製鉄、呉の高炉休止~生産能力1割削減
世界で供給過剰
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200131&ng=DGKKZO55071770R30C20A1MM8000


※記事の評価はC(平均的)

2020年1月30日木曜日

米軍駐留経費の負担増は「物理的に無理」と日経 秋田浩之氏は言うが…

30日の日本経済新聞朝刊オピニオン2面に載った「Deep Insight~『核の傘』代を求める米政権」という記事はツッコミどころが多かった。筆者は秋田浩之氏(肩書は本社コメンテーター)。記事を見ながら問題点を指摘していきたい。
水鏡天満宮(福岡市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

外国との同盟は、米国の資産ではなくコストだ。こう信じるトランプ米大統領は、海外に駐留する米軍経費に加え、米軍本体の運用費の一部も、同盟国に払わせるつもりのようだ。

米メディアによると、トランプ政権は駐留経費の負担を約5倍に増やすよう韓国に迫り、今年から交渉に入る日本にも現状の約4倍の増額を求めようとしている。その是非を考える以前の問題として、物理的に無理な話である

防衛省の試算によると、駐留経費の日本の負担はすでに8割を超える(2015年度)。ブッシュ(子)政権当時、米側が公表したデータでも、日本の負担率は約75%、韓国は約40%にのぼる。

日本は在日米軍駐留の関連経費として、19年度予算で約3900億円を割いた。この中には基地の光熱水料から住宅補修費、そこで働く労働者の福利費なども含まれる。さらに増やすとすれば、「米軍兵士の給料を払うくらいしかない。それでは日本の傭兵(ようへい)のようになってしまう」(日本の安保担当者)。


◎「物理的に無理な話」?

駐留経費の日本の負担」を「現状の約4倍」にするのは「物理的に無理な話」だと秋田氏は言うが、「物理的」には十分に可能だ。「駐留経費の日本の負担はすでに8割を超える」ことを根拠としているような書き方だが、米国に直接カネを渡せば「負担」は無限に増やせる。「物理的」な限界はほぼない。「4倍」を大きく超える「負担」も「物理的」には可能だ。

付け加えると「米軍兵士の給料を払うくらいしかない。それでは日本の傭兵(ようへい)のようになってしまう」という「日本の安保担当者」のコメントも的外れだ。

米軍兵士の給料を払う」とその「米軍兵士」が米国ではなく日本の指揮下に実質的に入るのならば「日本の傭兵(ようへい)のようになってしまう」と言える。しかし、日米の力関係を考えれば、米国が指揮権を手放すとは思えない。

記事の続きを見ていこう。


【日経の記事】

トランプ氏は本気のようだ。安倍晋三首相はこれまでの日米首脳会談で、日本は8割超を負担していると重ねて説いてきた。トランプ氏はその場では聞き置く姿勢を見せるが、次の会談で再び、現状に不満をこぼすという。

いったい大統領の本音はどこにあるのか。政権の内幕を探ると、これまでの同盟の本質を変えかねない新たな路線が浮かび上がる。

複数の外交筋によると、トランプ政権による韓国への増額要求には、駐留経費だけでなく、韓国の安全のために提供する核戦力と通常戦力の費用の一部も含めているという。詳細は伏せられているが、驚くべきは核戦力の一部費用まで徴収する方向で検討していることだ。

米国が同盟国保護のために提供する核戦力は「核の傘」と呼ばれる。米本土の大陸間弾道ミサイル(ICBM)、海外に配備された核爆弾とそれらを搭載する爆撃機、核ミサイルを積んだ原子力潜水艦……。「核の傘」を保つにはこうした兵器を運用せねばならず、確かに膨大な予算がかかる。

世界中の標的に照準を定め、いつでも核戦力を使えるようにするには、巨大な統制システムも維持しなければならない。

核戦力に加えて、米軍は空母やイージス艦、軍用機といった通常戦力も海外に展開し、脅威に目を光らせている。韓国や日本に負担増を求めるのは、これらの恩恵を受けている分、コストも一部払ってほしいと考えるからだ。

米軍を世界警察に例えれば、米国はこれまで「交番」を置く地域に、その費用の一部肩代わりを求めてきた。今度は、警察本体の運営にかかわる費用も一部払えといっているようなものだ。

トランプ政権は今後、欧州の同盟国にも、似た要求を突きつけるだろう。米政府筋によると、昨年来、欧州各国との同盟関係についても調べ上げ、どのくらい負担増を求めるか精査してきた。

米政権が本気でこの方針を強行すれば、同盟国の米国離れを招き、トランプ氏が望む「偉大な米国」と逆の結末を招く恐れがある。

そもそも、「核の傘」の最大の目的は、米国自身を守ることにある。同盟国がその恩恵を受けているのは事実としても、コストのどこまでが米国分で、どこからが同盟分と切り分けるのは難しい



◎それは基地も同じでは?

核の傘」について「コストのどこまでが米国分で、どこからが同盟分と切り分けるのは難しい」と秋田氏は言う。それは「海外に駐留する米軍経費」も同じだろう。なのに「駐留経費の日本の負担はすでに8割を超える」形で負担を分け合っている。「核の傘」では同じ対応ができないと考える理由はない。
西鉄甘木線(福岡県久留米市)
      ※写真と本文は無関係です

さらに記事を見ていく。

【日経の記事】

それでも米国が「核の傘」の代金を要求するなら、核戦力の詳細がどうなっているのか、同盟国には一定の情報を知り、運営に意見を言う権利がある。

元国防総省高官によると、核システムを共有する一部の欧州諸国などを除けば、米国は同盟国といえども、核戦力の詳細を明かしていない。国家の存亡にかかわる超重要機密だからだ

仮に、同盟国が核戦力の費用分担に応じるとしても、米国がこの秘密主義を変えることはないだろう。同盟国の側からみれば、口出しできないのに費用だけ徴収される「代表なき課税」に近い



◎「一部の欧州諸国」に明かしているのならば…

一部の欧州諸国」に「核戦力の詳細を明かして」いるのならば、他国には絶対に明かせない「超重要機密」とは言い難い。「核戦力の費用分担に応じる」条件として「核戦力の詳細」を開示するように求めてもいいのではないか。

国家の存亡にかかわる」と言われたら「一部の欧州諸国には開示してるじゃないか。開示がどうしても無理だと言うんならカネは出さないよ」と返せばいい。

記事の終盤も見ておこう。

【日経の記事】

そうなれば、同盟国の間には、自前の核を持った方がよいと考える意見が出てくるかもしれない。

韓国ギャラップが17年9月、韓国内で実施した世論調査によると、韓国による核保有について、6割が賛成と答えた。中央日報など韓国メディアは19年、核保有の是非を論じるコラムを載せている。

米国の同盟国に核保有の動きが出れば、核不拡散体制がほころび、北朝鮮やイランに核放棄を強いる論拠も弱まる。「非核三原則」を堅持する日本の安全保障にも悪夢の筋書きだ。

では、韓国や日本はどうするか。米国が「核の傘」代を徴収するという前例をつくらないためにも、当面の交渉は米軍の純粋な駐留経費だけに対象を絞り、「核の傘」や通常戦力の維持費分担については別の交渉に移し替えるのが一案だろう。そのうえで11月の米大統領選の結果を見極めればよい



◎なぜ交渉に応じる?

米国が『核の傘』代を徴収するという前例をつくらない」ことが重要ならば、交渉を求められても断固拒否すべきだ。なのに、なぜか「『核の傘』や通常戦力の維持費分担については別の交渉に移し替えるのが一案だろう」となってしまう。

そして最終段落では以下のように締めている。

【日経の記事】

トランプ氏が大統領に再選されれば、時間稼ぎは難しくなるだろう。その場合、北大西洋条約機構(NATO)諸国と日韓で連携し、トランプ氏の方針に抵抗を試みるしかない


◎「抵抗」するだけ?

抵抗を試みるしかない」という結論が辛い。徹底的に「抵抗」するとどうなるのかを考えてほしかった。日経のような日米同盟絶対主義の考えでは、結局は米国に従うという結論になるはずだ。

それはそれで1つの考え方だ。だったら、そう書いてほしい。「それでも米国が負担増を求めてきたら従うしかない。結局、日本には安全保障面で米国に逆らう選択肢はないのだ」とでも書けばいいのではないか。

そこを濁しているのが残念だ。日米同盟絶対主義は日本から見れば属国体制容認主義とも言える。そのことを認めずに話を進めるから説得力がなくなってしまう。

日本が米国の属国ではないのならば「駐留経費は十分に払っている。増額交渉には応じない。核兵器の維持費などの負担は論外。それが不満ならば日本から出ていってくれ」と米国に言えば済む話だ。

駐留経費の日本の負担」を「さらに増やすとすれば、『米軍兵士の給料を払うくらいしかない。それでは日本の傭兵のようになってしまう』(日本の安保担当者)」と秋田氏も訴えていたはずだが…。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~『核の傘』代を求める米政権
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200130&ng=DGKKZO54992760Z20C20A1TCT000


※記事の評価はD(問題あり)。秋田浩之氏への評価はE(大いに問題あり)を維持する。秋田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経 秋田浩之編集委員 「違憲ではない」の苦しい説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_20.html

「トランプ氏に物申せるのは安倍氏だけ」? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_77.html

「国粋の枢軸」に問題多し 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/deep-insight.html

「政治家の資質」の分析が雑すぎる日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_11.html

話の繋がりに難あり 日経 秋田浩之氏「北朝鮮 封じ込めの盲点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_5.html

ネタに困って書いた? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/deep-insight.html

中印関係の説明に難あり 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/deep-insight.html

「万里の長城」は中国拡大主義の象徴? 日経 秋田浩之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/02/blog-post_54.html

「誰も切望せぬ北朝鮮消滅」に根拠が乏しい日経 秋田浩之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_23.html

日経 秋田浩之氏「中ロの枢軸に急所あり」に問題あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_30.html

偵察衛星あっても米軍は「目隠し同然」と誤解した日経 秋田浩之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_0.html

問題山積の日経 秋田浩之氏「Deep Insight~米豪分断に動く中国」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/deep-insight.html

「対症療法」の意味を理解してない? 日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/deep-insight.html

「イスラム教の元王朝」と言える?日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/deep-insight_28.html

「日系米国人」の説明が苦しい日経 秋田浩之氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/deep-insight.html

2020年1月29日水曜日

野菜の栽培装置が「ディスラプション」を起こすと訴える日経の無理筋

ディスラプション」をテーマに連載するのは避けた方がいいと繰り返し指摘してきた。しかし日本経済新聞の朝刊ディスラプション面で連載が終わる気配はない。29日の「Disrupution 断絶の先に 第10部 地球に生き続ける(4)畑は店内 レタスは捨てない」という記事も苦しい内容だった。
博多リバレインモール(福岡市)
     ※写真と本文は無関係です

ディスラプション(創造的破壊)」が感じられるかどうか最初の事例を見ていこう。

【日経の記事】

私たちの健康な暮らしに欠かせない食事。2050年、世界の人口が98億人まで増えたとき、地球は必要な食料を供給できるのだろうか。世界で生産される年40億トンの食べ物のうち3分の1が食卓に届く前に失われている。作りすぎたり腐らせたりしているムダをなくし、いつか到来する「地球の限界」を超えていかなければならない。ディスラプション(創造的破壊)を起こして、課題を解決しようとするスタートアップなどが、新たな食の循環型社会を切り開こうとしている

ドイツ・ベルリンのスーパー、エデカには、来店客に人気の一風変わった売り場がある。緑鮮やかなレタスやイタリアンバジルが並ぶ「畑」だ。

売り場の後ろに控える約2メートル四方の冷蔵ケースの中には、人工の光で照らされた野菜が青々と実る。時折、スタッフがやってきて、食べごろのみずみずしい野菜を選んで、てきぱきと売り場に並べていく。

この野菜の栽培装置は、2013年創業の独スタートアップ、インファームが開発した。遠い他国や地方の畑から、店に届くまでに傷んでしまう野菜をどうしたら少なくできるのか。インファームが見いだした答えは「店の中に畑を持ち込む」ことだった。都市近郊の拠点で苗まで育てておき、後は店内の専用ケースの中で育て「完成品」とする。離れていた畑と店が近づけば、輸送コストや廃棄ロスは減る。燃料から生じる二酸化炭素(CO2)も減らせる。一石二鳥だ

インファームの「畑」は600を超える。スーパーだけでなく、レストランにも広がり始めた。英仏など欧州6カ国に続き、2019年には米国にも進出し、小売り大手クローガーと組んだ。日本でも参入の準備を進めている。


◎小さな改善かもしれないが…

やはり「ディスラプション(創造的破壊)」と呼ぶには事例が弱い。「野菜の栽培装置」が普及して、いずれは世界の畑のほとんどが不要になると言えるのならば「ディスラプション」でいい。しかし、そういう話は出てこない。

一部の作物を「店内の専用ケースの中で育て『完成品』とする」のは「廃棄ロス」を減らす1つの方法だろう。だが、問題を一気に解決できるインパクトはない。それらの積み重ねが世界を変えていく面はあるとしても「ディスラプション」ではない。変化は連続的で緩やかなものになるはずだ。

「小さな積み重ねが世界を変える」などと訴えれば説得力があるのに「ディスラプション(創造的破壊)を起こして、課題を解決しようとするスタートアップなどが、新たな食の循環型社会を切り開こうとしている」と大きく構えるから苦しくなる。この連載の宿命だ。

野菜の栽培装置」に関する説明には他にも問題を感じた。

輸送コストや廃棄ロスは減る」と書いているが、「ドイツ・ベルリンのスーパー、エデカ」でどの程度の効果があったのか触れていない。なぜ肝心のデータを見せないのか。分からないのならば、そこは正直に記してほしい。

遠い他国や地方の畑から、店に届くまでに傷んでしまう野菜をどうしたら少なくできるのか」とも書いているが、傷みやすい「レタス」などを「遠い他国」から持ってくる量は限定的だろう。であれば「野菜の栽培装置」で減らせる「輸送コスト」が大きいとは思えない。

しかも「都市近郊の拠点で苗まで育て」るので「店の中」では完結しない。結局は「輸送コスト」が残ってしまう。「野菜の栽培装置」を買う必要があるし、「店内の専用ケースの中で育て『完成品』とする」過程では電気代もかかりそうだ。

最も近いところから仕入れる方が安く付くケースも多いだろう。そういう面にも記事では触れていない。

燃料から生じる二酸化炭素(CO2)も減らせる。一石二鳥だ」とも言い切っているが、「売り場の後ろに控える約2メートル四方の冷蔵ケースの中には、人工の光で照らされた野菜が青々と実る」との説明から判断すると、かなりの電力消費になりそうだ。そこを考慮せずに「一石二鳥だ」と評価して良いのか。

他の事例にも問題を感じたが、長くなるのでやめておく。最初の事例だけでも、この記事の苦しさは明らかだ。


※今回取り上げた記事「Disrupution 断絶の先に 第10部 地球に生き続ける(4)畑は店内 レタスは捨てない
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200129&ng=DGKKZO54809540U0A120C2TL1000


※記事の評価はD(問題あり)。潟山美穂記者、渋谷江里子記者、白石透冴記者への評価も暫定でDとする。

2020年1月28日火曜日

説明に無理がある日経 藤田和明編集委員「一目均衡~次世代に資本のバトンを」

ネタに困って苦し紛れに書いたのだろう。日本経済新聞の藤田和明編集委員が28日の朝刊 投資情報面に書いた「一目均衡~次世代に資本のバトンを」は強引さの目立つ内容だった。記事の後半を見ていこう。
福岡県立福岡高校(福岡市)
     ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

高い理念を掲げ、実際のビジネスで成長軌道に乗る新興企業が目立ってきた。すでに上場したレノバは再生可能エネルギー事業を手掛ける。ラクスルは印刷や広告・物流など中小企業の課題をシェアリングで解決する。

中小型株運用で実績を上げてきたアセットマネジメントOneの岩谷渉平氏は大きな変化を感じている。金融危機前の起業ブームのような、うかれた雰囲気が経営者にまるでない。「特に30代のトップの社会問題への意識は高い」

自分の職業を考える時期に金融危機や東日本大震災が重なったせいか。正面から社会的課題に向き合う。資本も自分のものではなく、他人から託されたとの思いが強い。

その姿勢が周囲を動かす。「上の世代が自分では実現できなかったバトンを、若いリーダーに託し始めたようにみえる」と岩谷氏。レノバの会長には第二電電(現KDDI)を創業した千本倖生氏が就いている。資本の出し手側も多くは上の世代。年齢の逆転現象が明らかに起きている

エンジェルジャパン・アセットマネジメントの柳葉徹氏も、企業訪問を重ねるなかで新たな経営者像をみている。「経済価値と社会価値の両立を自然に考える世代だ。高いビジョンに、この指止まれで人が集まる」

振り返れば2000年代はまだライブドアのような新勢力の台頭に、旧世代の抵抗があった。今や資本をうまく生かせる新たな担い手に渡す土壌は整いつつある。日本全体でみた資本の再配置だ。

5年、10年先にはそうした企業の中から、日本経済を描き直す主役が育ってくるはずだ。バブル高値から30年。GAFAのような巨大企業の不在を嘆くより、いま動き出した歯車をしっかり前に、着実に進めるときだろう。


◎バトンを託してる?

上の世代が自分では実現できなかったバトンを、若いリーダーに託し始めた」例として「レノバの会長には第二電電(現KDDI)を創業した千本倖生氏が就いている」と書いたのだろう。

しかし「会長」職にあるのならば「若いリーダーに託し始めた」とは言い切れない。「上の世代」が現役で頑張っている事例に使う方がまだしっくり来る。

さらに言えば「千本倖生氏」を「第二電電(現KDDI)を創業した」と紹介するのも苦しい。KDDIのサイトで「第二電電の概要」を見ると「母体は京セラ、創業者は稲盛和夫」となっており「千本倖生氏」を「創業者」とは認定していない。

藤田編集委員の説明だと「第二電電」を「千本倖生氏」が1人で「創業」したような印象を受ける。「千本倖生氏」を強引に「創業者」と見なすとしても「稲盛和夫氏とともに」ぐらいは入れてほしい。

さらに理解に苦しむのが「資本の出し手側も多くは上の世代。年齢の逆転現象が明らかに起きている」というくだりだ。エンジェル投資に関して言えば「資本の出し手側も多くは上の世代」というのは「2000年代」でも、さらに遡っても変わらない気がする。しかし藤田編集委員は「年齢の逆転現象が明らかに起きている」と断定している。

記事を素直に解釈すると、以前は「資本の出し手側」の「多く」が「下の世代」だったのに、最近は「上の世代」が「資本の出し手側」に回る「年齢の逆転現象」が「起きている」のだろう。

しかし、常識的には考えにくい。以前は「資本の出し手側」の「多く」が「下の世代」だったと判断できる材料は記事中にも見当たらない。

大した変化が起きていないのに重要な転換点を迎えたかのように書こうとして無理が生じ、よく分からない説明になってしまったと考えるべきだろう。

今回の記事にも及第点は与えられない。


※今回取り上げた記事「一目均衡~次世代に資本のバトンを
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200128&ng=DGKKZO54892390X20C20A1DTA000


※記事の評価はD(問題あり)。藤田和明編集委員への評価はDを維持する。藤田編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「FANG」は3社? 日経 藤田和明編集委員「一目均衡」の説明不足
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/fang.html

改善は見られるが…日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_2.html

「中国株は日本の01年」に無理がある日経 藤田和明編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/01.html

「カラー取引」の説明不足に見える日経 藤田和明編集委員の限界
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_37.html

東証は「4市場」のみ? 日経 藤田和明編集委員「ニッキィの大疑問」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_28.html

合格点には遠い日経 藤田和明編集委員の「スクランブル」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_10.html

2020年1月27日月曜日

日経女性面でのクオータ制導入論が「非論理的」な上野千鶴子氏

認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)の上野千鶴子理事長」は以前から雑な主張が目立つ。27日の日本経済新聞朝刊女性面に載った「男女平等、日本は過去最低 上野千鶴子氏に聞く~仕組みが意識を変える 『風土合わない』は非合理的/骨抜きの法律 効果はゼロ」という記事でも、その傾向は変わらない。
東公園(福岡市)※写真と本文は無関係です

『風土合わない』は非合理的」に関する発言を見ていこう。

【日経の記事】

――20年に女性管理職を30%にするという目標も達成は難しそうです。

「最初に聞いたときはなぜ50%じゃないの?と思いました。ただ、意思決定の場に女性がもっと入っていく必要があることは確かです

他の国は強制力のあるクオータ制を導入して社会を変えてきました。過渡期に一時的にでも強制力のある制度を作ることは大きな意味がありますが、日本では『クオータ制は日本の風土に合わない』と否定的です

『日本の風土に合わない』という言葉が意味するのは『合理的な説明ができない』ということです。論理的に答えられないから質問をシャットアウトするために使うのです


◎「上野千鶴子理事長」は論理的?

上記の発言だけでも色々と問題がある。

まず「意思決定の場に女性がもっと入っていく必要があることは確かです」との主張に根拠が見当たらない。

他の国は強制力のあるクオータ制を導入して社会を変えてきました」と書いているが、どこの国が「クオータ制を導入」しているのかも触れていない。上記のやり取りだと、多くの国で「女性管理職」に関して「クオータ制を導入」している印象を受ける。

個人的には「女性管理職」に関して「クオータ制を導入」している国を知らない。自分の知識不足かもしれないので、そういう国が多数あるのならば具体名を教えてほしかった。

日本では『クオータ制は日本の風土に合わない』と否定的です」とも上野氏は言うが、これも本当にそうなのか疑問だ。日本国民の多数意見であるかのように説明しているが、根拠はあるのか。例えば「クオータ制は日本の風土に合わない」との意見が8割といった調査結果があるのならば、示してほしい。

女性管理職」に関する「クオータ制」には個人的には反対だ。「合理的な説明」は簡単にできる。

まず性差別だからだ。男女は平等であるとの価値観に基づけば、男女どちらかを優遇するのは差別に当たる。「クオータ制」を導入する場合、「男女平等の原則は国として捨てる」との合意形成をすべきだ。

クオータ制」が男女双方に新たな問題を生じさせることも反対の理由として挙げたい。「クオータ制がなければ俺が昇進できていたのに…」という不満が男性側にはたまりやすい。女性にとっては「あいつはクオータ制があったから管理職になれたんだ」と低くみられやすくなる。

どうしても導入するならば、こうした点を補って余りあるほどの効果が欲しい。「女性管理職」に関して「クオータ制」を導入すると、その効果で実質経済成長率が継続的に2桁に乗るといった話ならば、多少は導入賛成に傾く。しかし大した効果がないのならば「クオータ制」はなしでいい。

なお、企業の取締役に関して「クオータ制」を導入したノルウェーに関しては「女性取締役比率の上昇は企業価値を低下させることが示唆された」との研究結果があるらしい(「原因と結果の経済学」より)。だとしたら「女性管理職」に関して「クオータ制」を導入すべきとの主張にはさらに説得力がなくなる。

結局、「クオータ制」の導入の必要性を「論理的」に説明できていないのは上野氏の方ではないか。


※今回取り上げた記事「男女平等、日本は過去最低 上野千鶴子氏に聞く~仕組みが意識を変える 『風土合わない』は非合理的/骨抜きの法律 効果はゼロ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200127&ng=DGKKZO54800540U0A120C2TY5000


※記事の評価は見送る。上野千鶴子氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「ダイバーシティー推進で企業はもうかる」と断定する上野千鶴子氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_22.html

2020年1月26日日曜日

長者番付トップ50に「バブル世代」はゼロ? 日経「大機小機」に疑問

フォーブスジャパン」の「19年における日本の長者番付トップ50」には当時54歳の人物が3人いる。一般的に言えば「バブル世代」だ。しかし日本経済新聞のコラム「大機小機」の筆者である甲虫氏は「売り手市場であった80年代末から90年代初頭に社会に出た『バブル世代』のランク入りがゼロであった」と言い切っている。
亀山上皇銅像(福岡市)※写真と本文は無関係

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

25日の日本経済新聞朝刊マーケット総合2面に載った「大機小機~就職氷河期世代のスーパースター」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

『フォーブスジャパン』で19年における日本の長者番付トップ50をみると、その大半が65歳以上の高齢者であるなか、就職氷河期世代である40代前半(41歳から45歳)が既に5人もランク入りしている。これは、売り手市場であった80年代末から90年代初頭に社会に出た『バブル世代』のランク入りがゼロであったのとは好対照である

当該ランキングを見ると、楽天の三木谷浩史氏(5位)、光通信の重田康光氏(6位)、オープンハウスの荒井正昭氏(49位)の名前があります。この時点での年齢はいずれも54歳となっているので「売り手市場であった80年代末から90年代初頭に社会に出た『バブル世代』」に当てはまるはずです。

『バブル世代』のランク入りがゼロ」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

付け加えると「就職氷河期世代である40代前半(41歳から45歳)」との説明も引っかかりました。「40代前半」は「40歳から44歳」です。「就職氷河期世代」と「バブル世代」が「好対照」となるように、ご都合主義的に線を引いていませんか。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界最強のビジネスメディア」であろうとする新聞社として責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「大機小機~就職氷河期世代のスーパースター
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200125&ng=DGKKZO54837780U0A120C2EN2000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年1月25日土曜日

前田道路と前田建設を「親子」としていた日経がやっと軌道修正

25日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「真相深層~株主の圧力、亀裂深める 前田道路、前田建設TOBに反対 『買収から守る』に疑念」という記事を読んで少し安心した。この件に関して日経は当初「『親子上場』する両社が対立」などと間違った説明をしていた。しかし、今回の記事では両社を「親子」とは捉えていない。
旧福岡県公会堂貴賓館(福岡市)
      ※写真と本文は無関係です

最初の段落は以下のようになっている。

【日経の記事】

道路舗装事業などを手掛ける前田道路は24日、ゼネコン準大手の前田建設工業が21日から実施中のTOB(株式公開買い付け)に対し、反対を表明した。独立を保ちながらも資本関係はあった両社の決裂が決定的になった。亀裂の深まりをもたらしたのは自ら圧力を強めただけでなく、両社の交渉にも影響をもたらした物言う株主の存在だ。



◎正しい認識だが…

独立を保ちながらも資本関係はあった両社の決裂が決定的になった」との説明に問題は感じない。

ただ「亀裂の深まりをもたらしたのは自ら圧力を強めただけでなく、両社の交渉にも影響をもたらした物言う株主の存在だ」という文は拙い。「AだけでなくB」という形を上手く作れていない。「もたらした」を繰り返しているのも気になる。改善例を示しておく。

【改善例】

亀裂が深まったのは自ら圧力を強めたためではあるが、両社の交渉に影響をもたらした物言う株主の存在もあった。

◇   ◇   ◇

ついでにもう1つ。記事には「この直前に、前田建設はオアシスから、いくつかの選択肢を迫られたという」との記述がある。「選択を迫られた」ならば分かるが「選択肢を迫られた」との表現には不自然さを感じる。

話を戻そう。今回の件を総括して、記事の終盤では以下のように書いている。

【日経の記事】

20~50%を出資する事業会社が大株主の上場企業は244社と多い。子会社ではないため経営の独立性は高く、ともすると大株主と戦略を巡り対立しやすい。伊藤忠商事とデサントが代表例だ。

物言う株主は資本関係の見直しを日本市場の大きな投資テーマとみている。株主の圧力のなかで関連企業が資本関係を巡って対立する構図は、あちこちに広がりそうだ。



◎やっとまともな方向へ…

子会社ではないため経営の独立性は高く」という説明も、今回の件と整合する。「親子」であれば、親の支配権が確立しているので、「前田建設」と「前田道路」のような問題は基本的に起きない。今回はどちらかと言うと「親子」ではないが故の対立だ。

それを「『親子上場』する両社が対立する異例の展開となる」と認識してしまうと、根本から間違ってしまう。日経もやっと軌道修正したようだが、「親子」の問題と最初に捉えてしまったのは経済紙として恥ずかしい。

ちなみに「『親子上場』する両社が対立する異例の展開となる」との説明は誤りではないかと日経に問い合わせて4日が経つが、やはり回答はない。


※今回取り上げた記事「真相深層~株主の圧力、亀裂深める 前田道路、前田建設TOBに反対 『買収から守る』に疑念
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200125&ng=DGKKZO54800740U0A120C2EA1000


※記事の評価はC(平均的)。堤健太郎記者と四方雅之記者への評価も暫定でCとする。


※今回の件に関しては以下の投稿も参照してほしい。

前田道路と前田建設は「親子上場」と誤解させる日経の罪
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_21.html