2016年7月13日水曜日

日経の高橋里奈記者 「スタバ」で触れていない肝心なこと

肝心なことを書いていない記事を読まされると、何とも言えない不満が残る。13日の日本経済新聞夕刊マーケット・投資1面に載っている「ウォール街ラウンドアップ~スタバ、株価反発の裏の悲鳴」という記事(筆者はニューヨーク支局の高橋里奈記者)はその典型だ。スターバックスの従業員が人員不足の解消を訴えてきたことに対して、経営側は賃上げを決め、賃上げの原資を得るために値上げに踏み切るという話のようだ。しかし、「人を増やしてくれるのか」に関しては、ほとんど説明がない。
熊本城(熊本市) ※写真と本文は無関係です

少し長くなるが、記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

ダウ工業株30種平均は12日、最高値を更新した。米景気に対する悲観論の後退や、米連邦準備理事会(FRB)の利上げが遅れるとの見方が支えた。米国の直営店での値上げを発表したスターバックスも反発した。前日は賃上げを発表し、「賃上げ→値上げ」が株高の背景にある。

「拝啓、従業員様」。11日、スターバックスのハワード・シュルツ最高経営責任者(CEO)は自ら「パートナー」と呼ぶ従業員に向けた手紙を公開した。全米にある約1万2700店のうち6割を占める7600店の直営店で、従業員と店舗マネジャーの約15万人を対象に10月3日付で5%以上の賃上げをするという内容だ。その文面はひどく感傷的だった。

「この週末、あなたがたと重要なニュースを分かち合うことを準備していた私は、ある言葉を見つけた。信用だ」

シュルツ氏は従業員に「あなたがたの信用を得ることが私にとって基礎的な原則」と訴えかけ、最低5%の賃上げと、2年以上の勤務者には1年ごとに与えるスターバックス株式を2倍にすることなどを表明。勤務体系もより柔軟にするほか、「多様性や自己表現を尊重する」として服装規定も緩和するとした。

リベラル派として知られるシュルツ氏が感傷的な手紙の公開に踏み切った背景には、疲弊しきった従業員の反発がある。

「スターバックス史上、最も過酷な人員削減が行われており、9年近い勤務経験の中でも(従業員の)モラールは最低だ」。従業員のジェイミー・プレイターさんは「適切な人員に増やし、少しでも息をつけるようにしてほしい。さもないと顧客サービスは下がる一方だ」として、オンラインで待遇改善を求める署名活動を始めた。

実際、ニューヨーク市内のターミナル駅にある店舗には長い行列ができており「堪忍袋の緒が切れそうだ」と怒りをあらわにする男性客もいた。店内の従業員は3人のみ。スマートフォンで事前注文できるようになってから注文が増えたが、人員増が追いつかない

「シフト管理者としては、必要な人員の2分の1から3分の2しか確保できていない。我々は皆、ひどい過労にさいなまれている」「全社的に利益は上がり続けているのに、スタッフは長い行列、労働力の欠如に追い込まれている」。請願には次から次へと賛同の声が集まり、直近で1万3千人以上が署名した。

「社員を大切にする」イメージを掲げるシュルツCEOだが、賃上げには原資が欠かせない。賃上げを発表した11日に株価は続落したが、値上げを発表した12日は2%高。下落分を補ってあまりある上昇だった。発表の順序もしたたかだ。

「スターバックス株は正当な価格で成長すると信じている」(RBCキャピタル・マーケッツ)と市場の期待は大きい。21日は4~6月期の決算発表が控えている。

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適切な人員に増やし、少しでも息をつけるようにしてほしい」という従業員の要望に対する答えが「最低5%の賃上げと、2年以上の勤務者には1年ごとに与えるスターバックス株式を2倍にすることなど」なのだろう。これは「人は増やせない。でも賃金は上げるから我慢してくれ」と理解すればいいのか。そうかもしれないが、記事中に明確な説明はない。

そもそもスターバックスで人が増えているのか減っているのかもはっきりしない。「スターバックス史上、最も過酷な人員削減が行われており」と書いているので、人減らしの真っ最中なのかなと最初は思った。ところが、その後に「人員増が追いつかない」と出てくる。肝心なことには触れないくせに、読者を惑わせるような情報はちりばめる。高橋記者は読者に嫌がらせでもしているつもりなのか。

記事によると「ニューヨーク市内のターミナル駅にある店舗には長い行列ができており『堪忍袋の緒が切れそうだ』と怒りをあらわにする男性客もいた」らしい。そこに値上げが重なれば、客離れを招いて業績が悪化しそうな気もするが、高橋記者はその辺りにも触れようとしない。

最終段落では「『スターバックス株は正当な価格で成長すると信じている』(RBCキャピタル・マーケッツ)と市場の期待は大きい」といった具合で、前向きに記事を締めている。疲弊している現場に十分な人員を配置できないまま値上げに踏み切るのであれば、投資家としては不安が上回るのが普通ではないのか。

おそらく、手間をかけてまともな市場関連記事を書く気は高橋記者にはない。スタバの賃上げ・値上げに関して、高橋記者は夕刊にニュース記事も書いている。それを多重活用して、「ウォール街ラウンドアップ」を安直に仕上げたのだろう。そう考えると、完成度の低さも納得できる。

これは高橋記者の癖になっていると思える。猛省を促したい。

※記事の評価はD(問題あり)。暫定でDとしていた高橋里奈記者への評価はDで確定とする。高橋記者に関しては「市場分析は? 日経 高橋里奈記者『ウォール街ラウンドアップ』」も参照してほしい。

2016年7月12日火曜日

「東洋紡は船場で誕生」? 日経の九州経済面に誤りあり

12日の日本経済新聞朝刊の九州経済面に載った「大阪・船場の帝人ビル JR九州へ売却検討」という記事に誤りを見つけた。東洋紡の誕生の地を大阪の船場地区としている点だ。日経には以下の問い合わせを送っておいた。記事の全文と併せて見てほしい。
火事(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

帝人が大阪・船場地区にある大阪本社が入る「帝人ビル」(大阪市)の土地と建物の売却を検討していることが明らかになった。2017年春をめどに大阪・中之島などへの移転を検討しており、売却先にはJR九州が候補に挙がっている。船場地区はかつて繊維メーカーや問屋の集積地だったが、近年は梅田や東京への流出が相次いでいる。

帝人の登記上の本社は大阪だが、実質的な本社機能は東京に移っている。現在は繊維やエンジニアリング部門に加え、帝人フロンティアなどグループ会社も入っている。帝人ビルの完成は1974年で老朽化が進んでいた。

船場地区では東洋紡など繊維会社が誕生したが、繊維産業の衰退とともに東京への本社移転が相次いだ。大手商社でも伊藤忠商事が大阪の拠点を2011年に、丸紅が15年にそれぞれ船場から梅田地区に移している。

【日経への問い合わせ】

7月12日付の朝刊九州経済面に載った「大阪・船場の帝人ビル JR九州へ売却検討」という記事についてお尋ねします。

この中に「船場地区では東洋紡など繊維会社が誕生したが~」との説明が出てきます。しかし、東洋紡のホームページでは、大阪紡と三重紡が合併して東洋紡が誕生した当時に関して「創立時の本社は、三重県の四日市工場内にありました」と記しています。大阪紡も発祥の地は大阪市大正区で、船場とは距離があります。記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。正しいという場合、その根拠も教えてください。記事が誤りである場合は訂正記事の掲載もお願いします。

ついでに当該記事に関して注文を付けておきます。「帝人が大阪の帝人ビルをJR九州に売却する方向で検討している」という記事を九州経済面に載せるなとは言いません。しかし、載せるのであれば九州経済面用に仕上げるべきです。

記事中の九州に関する情報は「売却先にはJR九州が候補に挙がっている」という一文だけです。「大阪の船場地区」や「帝人グループ」について紙幅を割く余裕があるのならば、「JR九州はどうコメントしているのか」「なぜJR九州が大阪でビル購入を検討しているのか」などに触れてほしいところです。

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東洋紡にも問い合わせたところ「弊社の発祥の地は船場地区ではありません。日本経済新聞社へは弊社から記事の誤りを指摘しました」との回答を得たので、記事の説明は誤りだと断言してよいだろう。日経の体質からすれば回答はないと思うが、訂正記事が載るかどうかは注目したい。

九州経済面の記事なのにJR九州の情報がほとんどない問題については、記者を責めるのは難しい。整理担当者や地方部担当デスクの責任と考えるべきだ。電子版で記事を見ると、記事の最後に「JR九州は不動産事業に力を入れており、ホテルかマンションとして再開発することを検討している」という説明がある。

あくまで推測だが、近畿経済面用に書いた記事を九州経済面でも使ったのではないか。そこで最終段落を削ってしまったために、JR九州の情報がほとんどない状態になったのだろう。「記事を削るならば、最後から削る」というのは紙面編集の基本ではあるが、それも状況次第だ。

九州経済面で使うならば、「大手商社でも伊藤忠商事が大阪の拠点を2011年に、丸紅が15年にそれぞれ船場から梅田地区に移している」を削って「JR九州は不動産事業に力を入れており、ホテルかマンションとして再開発することを検討している」を入れることを考えてほしかった。

※記事の評価はD(問題あり)。

追記)結局、日経からの回答はなし。13日の九州経済面に訂正記事は載らなかった。

週刊ダイヤモンド田中博編集長は自社誌面に目を通さず?

英離脱」「日銀のマイナス金利導入」「トランプ氏躍進」は「ブラックスワン(あり得ない事象。予期せぬ出来事)」と言えるだろうか。一般の人が「まさか」と驚くのは分かる。しかし、経済誌の編集長がそうでは困る。ところが、週刊ダイヤモンドの田中博編集長は7月16日号の「From Editors」で以下のように書いている。
太宰府天満宮(福岡県太宰府市) ※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドの記事】

「何事も起こりませんように」──。編集部内ではマクロ担当の女性記者がこう祈ると「何事」かが起こるというジンクスがあります。  私はひそかに「パラドックスの女王」と呼んでいますが、極め付きが今回の英国のEU離脱をめぐる国民投票。胸騒ぎが的中し、この2週間、企画の差し替えに追われました。  英離脱だけでなく、日銀のマイナス金利導入やトランプ氏躍進など、年初にはあり得ないと思っていた〝ブラックスワン〟が、次々に出現。市場はそのたびに大混乱となり、実体経済を揺るがしています。  しかし、経済といえども歴史という軸を通して俯瞰すれば見えるものがあるはず。情報の洪水となった大混乱を報じるのではない、味付けを変えた特集にしました。(田中)

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田中編集長はそもそも週刊ダイヤモンドをきちんと読んでいるのだろうか。2015年10月10日号 ではダイヤモンド自身が「ワールドスコープ >  【米国】 “停滞する米国”の象徴 ポピュリスト不動産王 米大統領選で快進撃」という記事を載せている。この中で筆者である松浦肇 産経新聞ニューヨーク駐在編集委員は以下のように書いている。

2016年の米大統領選に出馬した不動産王、ドナルド・トランプ氏の進撃が止まらない。CNNなどによる最近の世論調査では共和党指名争いでトップとなり、有力な対抗馬のジェブ・ブッシュ元フロリダ州知事の支持率を優に上回った」。

つまり「トランプ氏の躍進」は昨年の段階で既に現実になっていた。なのに田中編集長の目には「年初にはあり得ないと思っていた〝ブラックスワン〟」と映っている。

英国のEU離脱も似たようなものだ。ダイヤモンド2016年1月9日号で「ワールドスコープ
【from 欧州】 2016年の英国は 利上げ、EU離脱議論 テロとの戦いに注目」という記事を三菱東京UFJ銀行経済調査室ロンドン駐在の高山真氏が書いている。

この中には「現実味を帯びてきたのが、英国の欧州連合(EU)からの離脱懸念だ」との記述がある。これを田中編集長が読んでいれば、国民投票の結果を受けて「年初にはあり得ないと思っていた〝ブラックスワン〟」と驚かずに済んだはずだ。

最も気になるのが、日銀によるマイナス金利政策を「ブラックスワン」と考えていたことだ。日銀より前に欧州ではマイナス金利政策を導入していた。それでも田中編集長は年初の段階で「日本でのマイナス金利政策はあり得ない」と思い込んでいたのか。

「可能性が低い」と判断するのは分かる。「(日銀の)黒田総裁は、導入を決めた1月29日の金融政策決定会合直前の衆参の委員会で追加緩和やマイナス金利の可能性を否定し続けていた」(産経)からだ。だが、否定したのはマイナス金利の導入観測が年初にあったことの裏返しでもある。導入が「サプライズ」だったのは間違いない。だが「年初にはブラックスワンだった」とは考えにくい。

田中編集長には改めて問いたい。「英離脱だけでなく、日銀のマイナス金利導入やトランプ氏躍進など」は本当に「年初にはあり得ないと思っていた〝ブラックスワン〟」ですか--。


※田中博編集長への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。F評価については「田中博ダイヤモンド編集長へ贈る言葉 ~訂正の訂正について」を参照してほしい。

2016年7月11日月曜日

ぬる過ぎる週刊ダイヤモンドの鈴木敏文氏インタビュー

ここまで「ぬるい」インタビュー記事を作れるのは、ある意味で凄い。週刊ダイヤモンド7月16日号に載った鈴木敏文セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問へのインタビュー記事「DIAMOND REPORT~流通のカリスマ ラストメッセージ  コンビニ誕生から退任劇、将来を語る」は、経済記事の書き手が反面教師とすべき内容になっている。

熊本城(熊本市) ※写真と本文は無関係です
鈴木氏の発言はツッコミどころが満載なのに、田島靖久副編集長と大矢博之記者は、ひたすら鈴木氏に気持ちよく語らせるだけだ。特に田島副編集長は、最後まで“鈴木教の信者”としての道を貫いているのだろう。しかし、インタビュー記事としては、明らかに問題がある。

まず、引退を表明した会見で鈴木氏が顧問2人とともに登場した件を見ていこう。ダイヤモンド5月14日号の「カリスマ退場~流通帝国はどこへ向かうのか」という特集の中の「絶大な権力を持ち続けた末に “裸の王様”になったツケ」という記事では、以下のように書いている。

【ダイヤモンドの記事】

前述した引退会見でも、鈴木会長の暴走は顕著だった。会見には、経営の表舞台からとうに退いたはずの顧問2人が出席。鈴木会長によれば、退任に至るまでの経緯について自分の話にうそがないかを証明する「証人」として招聘したとのことだ。

鈴木敏文・セブン&アイ会長(左端)の引退会見には村田紀敏・同社長の他、古参顧問も出席した。しかし、彼らの出席は、ただただセブン&アイの恥の上塗りをしただけだった。何しろ、語られた内容というのがひど過ぎた

「井阪隆一・セブン-イレブン・ジャパン社長の退任案を同氏の父親に伝えに行って了承してもらい、事を穏便に済ませようとした」という、およそ6兆円企業にあるまじきやりとりだったからだ。

古参顧問の出席は、直前に鈴木会長が決めたため止める間がなかったとも、説得は試みたものの時間切れで押し通されてしまったともいわれるが、いずれにしても、鈴木会長を止められる人物が同氏の周りにいなかったということに変わりはない。

絶大な権力を持ち続けたことで、いつしか裸の王様になってしまった鈴木会長。それに気付けなかったことが、大きなつまずきの要因だったのかもしれない。

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この件に触れている部分が今回のインタビュー記事に出てくる。

【ダイヤモンドの記事】

──それまでの過程は、大きな騒動になりました。

みっともないなと。僕は(会長辞任の)記者会見をしたときに、こんな大きな問題になると思っていなかった。新聞の隅っこに、記事が出るくらいだと考えていた。

でも、辞めるにしても、本当のことを言っておかないと、「悪いことをしたから辞めたんだ」という臆測が出てしまいかねない。だから、顧問の2人に一緒に会見に出てくれと頼んだんだ

──鈴木さんが辞めたら、それは大騒ぎになりますよ

記者会見をする前に自宅に電話して、妻に「辞めるから」と伝えたんだ。「どうして」と聞くから「僕が言っていることを、みんなが理解できないから」と伝えたら、妻は「ああそう」とだけ。それくらいの話だと思っていたんです。

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5月14日号の特集には田島副編集長も大矢記者も参加している。そこで「(顧問である)彼らの出席は、ただただセブン&アイの恥の上塗りをしただけだった。何しろ、語られた内容というのがひど過ぎた」とまで書いているのだから、インタビューでは「なぜ、あんな愚かなことをしたのか」と聞くのが当然だろう。

しかし、質問では「恥の上塗り」について何も問おうとしない。鈴木氏の方から言い訳が出てくるだけだ。その後に「2人を出席させたのは、結果的に失敗でしたね」ぐらいは言えそうなものだが、「鈴木さんが辞めたら、それは大騒ぎになりますよ」と何の追及もなしに話が続いていく。

もう1つ「なぜツッコミを入れないのか」と感じたくだりを紹介する。

【ダイヤモンドの記事】

──チェーンストア理論が寿命を迎えた後はどうなると考えますか。

それは自分たちで考えないと。米国の小売業は、ウォルマートをはじめどこも苦しい状況です。移民が多く、消費者が増えている地域ですら厳しいんです。日本のように人口が減っている地域がより早く苦境に陥るのは当然のことで、皆がそうしたことを考えないのは、僕には不思議で仕方がない。

国内の大型店が苦しいのは、海外のまねをすればいいと思っていたからでしょう。ダイエーさんや西友さん、そしてヨーカ堂だって、海外のチェーンストア理論を金科玉条のようにまねしてきた。それじゃあ駄目なんです

コンビニだって、扱う商品は弁当やおにぎり、雑貨だと、みんなが勝手に定義しているわけですよ。僕はそんな定義なんかしない。自動車を売ってもいい。30坪の店で、何を売ったっていいんです。

──その発想の先にあるのがオムニチャネル戦略なのですか。

オムニチャネルと皆が言いますが、僕が目指すのはどこにもない取り組みです。インターネットとリアルの融合といっても、多くの場合は、メーカーの商品を集める単純なものばかりです。

僕の考えは、コンビニや百貨店、専門店、スーパーなどグループの多様な資源を使って商品を作り、ネット上で販売すること。それに加えて、メーカーの商品も扱う。ここまでできると、世界に例のない取り組みになります。

──商品作りまで手掛けることが重要だということですね。

そう。でも、今後うちができるかどうか分かんないよ。だって、僕が引いちゃったから。

今、百貨店やスーパーが苦しいのは、どこも同じ商品を売っているからです。なぜなら、問屋が同じだから。では、今成長している企業はどこですか。衣料品はユニクロ、家具はニトリ。全部、自主マーチャンダイジング(MD)をやっています。そして、最初におにぎりや弁当などの自主MDを始めたのがセブン-イレブンですよ

だから、人任せにしては駄目。新しい業態や、新しい消費を作り続けないといけない。そんなことは本を読んでも書いていない。

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そしてヨーカ堂だって、海外のチェーンストア理論を金科玉条のようにまねしてきた。それじゃあ駄目なんです」と鈴木氏は例によって他人事のようにヨーカ堂を語っている。「ダメだと分かっていたのなら、なぜ変えなかったのですか。セブン&アイの最高権力者として君臨してきた鈴木さんには、時間も権力もあったはずです」ぐらいの質問はしてほしい。

百貨店やスーパーが苦しいのは、どこも同じ商品を売っているからです」との鈴木氏の発言に関しても同様だ。「だったら、ユニクロやニトリのようなやり方をそごう・西武やヨーカ堂でなぜやらなかったのか。あなたはヨーカ堂のCEOをだったんですよね」と聞きたくならないのが不思議だ。“信者”とはそういうものだと言われれば、それまでだが…。


※記事の評価はD(問題あり)。書き手の評価については、大矢博之記者をD、田島靖久副編集長をF(根本的な欠陥あり)で据え置く。F評価については「週刊ダイヤモンドを格下げ 櫻井よしこ氏 再訂正問題で」を参照してほしい。田島副編集長と鈴木氏の関係には「度が過ぎる田島靖久ダイヤモンド副編集長の『鈴木崇拝』」でも触れている。

2016年7月10日日曜日

「東急不動産 賃貸、低価格で刷新」に見える日経の低品質

事実を伝えるだけのニュース記事は他のメディアとの差を付けにくく、コモディティー化しやすい。だが、日本経済新聞の場合、コモディティーとしての必要最低限の品質さえ満たしていない記事も多い。10日の朝刊企業面に載った「老朽賃貸、低価格で刷新 東急不動産、オーナー支援」もそんな記事の1つだ。
秋月城跡の桜(福岡県朝倉市) ※写真と本文は無関係です

その全文は以下の通り。

【日経の記事】 

東急不動産ホールディングス(HD)はグループ会社が管理する賃貸物件のオーナーに対し、低価格リノベーション(住宅の大規模改修)の提案を月内にも始める。DIYの関連商品を売る東急ハンズやリノベ業者と連携し、老朽化した物件の魅力を高める。特徴的な物件を紹介するサイトにも登録し、入居者確保などに悩むオーナーを支援する。

このほどリノベを手掛けるgooddaysホールディングス(東京・千代田)と資本・業務提携した。出資額は非公表。グループ会社が施工やサイトでの物件紹介も担う。月内にもモデルルームを東京・代官山エリアに開き、初年度で100戸の受注を目指す。

東急不動産HDは以前からオーナーにリノベを提案している。分譲マンション仕様のリノベで広さ60平方メートルまでで定額290万円(税別)のプランがあるが、より低価格で、多様な改修プランを求める声が上がっていた

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東急不動産HDは以前からオーナーにリノベを提案している」らしい。そして「低価格リノベーション(住宅の大規模改修)の提案を月内にも始める」というのが今回取り上げた「ニュース」だ。つまり「低価格」が記事の根幹部分になる。それは「老朽賃貸、低価格で刷新」と付けた見出しからも明らかだ。しかし、「低価格」に関する情報はわずかしかない。

分譲マンション仕様のリノベで広さ60平方メートルまでで定額290万円(税別)のプランがあるが、より低価格で、多様な改修プランを求める声が上がっていた」--。これが「低価格」に関する情報の全てだ。

月内にも始める」提案では「60平方メートルまでで定額290万円(税別)」より低価格になるのだろうとは思う。ただし、記事では「より低価格で、多様な改修プランを求める声が上がっていた」と書いているだけだ。「より低価格にする」とは断言していない。

しかも、現状と比べてどの程度の「低価格」になるのか全く手掛かりがない。せめて「従来より○○%以上安い」ぐらい情報は欲しい。月内にもモデルルームを東京・代官山エリアに開くのであれば、ある程度の価格政策は決まっているはずだ。

本来なら「他社と比べても低価格なのか」「なぜ低価格にできるのか」といった情報も欲しい。記事の性格から判断して、そちらをまず書くべきだ。

gooddaysホールディングス(東京・千代田)と資本・業務提携した」ことが「低価格」と関連しているのであれば、なぜ提携が低価格につながるのかの説明も要る。低価格と提携の関係が乏しいのであれば、提携に関する記述を削ってでも「低価格」の詳細に紙幅を割くべきだ。

ついでに言うと「DIYの関連商品を売る東急ハンズやリノベ業者と連携」という部分も引っかかった。「DIYの関連商品を売る」ことと「リノベーション」に直接の関係はないので、何のために「東急ハンズと連携」するのか謎だ。記事中にも説明はない。

また、東急ハンズは東急不動産HDの傘下にある企業だ。「連携」も何もないだろう。事業会社の東急不動産が中心になり、東急ハンズも手伝うという話だとは思うが…。

記事中で東急ハンズを東急不動産HDの傘下企業と明示していないのも感心しない。「そのぐらい読者は知っているはずだ」との前提で記事を書いているのであれば、不親切が過ぎる。


※記事の評価はD(問題あり)。筆者にはきちんと記事を仕上げる能力が身に付いていないと思われる。記事を担当したデスクの力量ももちろん不足している。

2016年7月9日土曜日

日経ビジネス特集「不老 若さはここまで買える」の期待外れ

期待するのが間違っているのかもしれないが、日経ビジネス7月11日号の「永遠の欲望市場  不老  若さはここまで買える」は期待外れの内容だった。このタイトルだと「ここまで若さが買えるようになっているのか。すごいな」という材料が欲しい。しかし、そんな話は出てこない。
柳川の川下り(福岡県柳川市) ※写真と本文は無関係です

Part1 若返り狂想曲 欲望が生んだ美の巨人アラガン」でまず取り上げたのが「美容整形」だ。「『不老』を求める欲望の際限のない拡大は、既に米国の美容整形の世界で現実に起きつつある」と訴えるこの記事では、以下のように現状を描写している。

【日経ビジネスの記事】

米大手銀行でITマネジャーを務めるケネス・ホールデン氏。組織で働く至って普通のビジネスパーソンだが、実は彼はこれまでに4回整形している。

最初にメスを入れたのは大きくて気に入らなかった耳たぶ。その後、顔の昔の傷を取り除き、頬骨を削り、顎をシャープにした。次に狙うのはまぶたの下のたるみだ。養育費の支払いで金欠状態だが、これまでに約6万ドル(約600万円)を注ぎ込み、さらにカネがたまり次第、たるみを取ると決めた。

「プレゼンの中身も重要だが、稼ぎたければ外見が良くなきゃダメだ」

彼に限らず、ビジネスや就職のために美容整形に踏み切る男性は増えている。政治家や企業の幹部、テレビキャスターなど露出の多い職業は特にそうだ。従来は女性のものというイメージだった美容整形。だが、銀河鉄道999の世界のように、「若さ」を人工的に取り戻すことは一般的になりつつある。

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特集の最初を飾る事例が「ケネス・ホールデン氏」の「美容整形」だ。そもそもこれは「若返り」なのか。「耳たぶ」にメスを入れ、「その後、顔の昔の傷を取り除き、頬骨を削り、顎をシャープにした」のは若返りと関係がなさそう。「まぶたの下のたるみ」を取るのも、若返りかどうか微妙だ。

ホールデン氏の年齢も不明だし、同氏自身は「稼ぎたければ外見が良くなきゃダメだ」と見た目へのこだわりは見せているが、若返りを目指していると判断できる材料はない。

記事には「(美容整形)クリニックで働くダニエル・モッローネさんは豊胸、太ももの脂肪吸引、貧弱だった顎の増強などに3万ドルをつぎ込んだ。『パパは半狂乱だったわ。俺の娘の顔じゃないって(笑)」という事例も出てくる。これも若返りとの関連は乏しい。

しかも、記事で言及している「しわ取り」のような美容整形術は広く知られている。「若さはここまで買える」との見出しに釣られて読んだ人を満足させる内容とは思えない。

Part1では「アイルランドの製薬メーカー、アラガン」(※「製薬メーカー」は重複表現なので避けた方が良い。「医薬品メーカー」「製薬会社」がお薦め)の取り組みも紹介している。だが、「目尻などに注射をすれば、筋肉の動きが抑制されてしわが目立たなくなる」効果がある「ボトックス」などを手掛けている程度で、若返りの画期的な新薬は見当たらないようだ。「ボトックス」も持続期間は「3~6カ月前後」。「若さはここまで買える」というより「若さはなかなか買えない」の方がしっくり来る。

Part2 日本の男性も若さに執着 サプリも医療も抗老化が成長市場」でも、「ここまで老化を食い止めるサプリが出ているのか」と思わせる商品は見当たらない。以下の説明を読んで、「若さはここまで買える」と希望が持てるだろうか。

【日経ビジネスの記事】

特に活況を呈しているのが、簡単に摂取できるサプリメント市場だ。ファンケルは昨年、抗酸化物質などで目のピント機能を調整する効果を発揮するサプリ「えんきん」を、機能性表示食品としてリニューアル。その前の年と比べて売上高は4倍以上に拡大した。

肌の衰えなどに対処する化粧品ブランド「アスタリフト」が人気の富士フイルムでは、抗酸化と糖吸収抑制を2本柱にサプリ事業を「現在の数倍規模にする計画がある」(同社の医薬品・ヘルスケア研究所の永田幸三・統括マネジャー)。抗酸化技術を生かし、脳の記憶力改善や眼精疲労軽減、睡眠改善などに機能性表示食品を拡大する方針だ。

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やや乱暴に言えば「サプリで若さを買おうなんて、少なくとも現時点では考えるな」ということだろう。「Part3 現代の錬金術師だち IT長者も巨額資金、『不老薬』は近い?」では、将来の画期的な「不老薬」の可能性を示してはいる。だが、「若さはなかなか買えない」の方がしっくり来る状況は変わらない。

若さはここまで買える」ではなく、「若さを買える時代がすぐそこまで」ぐらいの見出しにして将来に焦点を当てれば、今回の特集はそこそこ説得力を持ったかもしれない。だが、「既に大きな進歩がある」との前提で走ってしまったので、苦しい展開になっている。


※特集の評価はD(問題あり)。ニューヨーク支局の篠原匡記者への評価はDを据え置く。暫定でDとしていた日野なおみ記者と大竹剛記者への評価はDで確定とする。篠原記者に関しては「日経ビジネス篠原匡記者の市場関連記事に要注意」も参照してほしい。

2016年7月8日金曜日

享年77は「早世」? 日経ビジネス秋場大輔副編集長に問う

77歳で亡くなった人は「早世」と言えるだろうか。日経ビジネス7月4日号の「ニュースを突く~早すぎた人の早世を悼む」という記事では、「富士通で社長、会長を務めた秋草直之氏がなくなった」ことを秋場大輔副編集長が取り上げている。秋草氏は「享年77」らしい。
福岡県立伝習館高校(柳川市) ※写真と本文は無関係です

早世」は「早く世を去ること。早死に。若死に。夭折」(デジタル大辞泉)という意味だ。高齢化が進んでいるとはいえ、77歳で亡くなった人に関して「早世を悼む」と言われると、違和感が拭えない。経営者の場合、大目に見ても60代までだろう。第一線を退いてから何年も経っている人が77歳で亡くなった時に「早世」を使うのは理解に苦しむ。

秋草氏に関して秋場副編集長は「先を見通す力を持っていた人だった気がする」とも書いている。しかし、記事を最後まで読んでも、そうは思えなかった。「先を見通す力」に言及した部分を見てみよう。

【日経ビジネスの記事】

1998年、社長に就任。早速、「ソフトやシステムはハードの添付品。それが今や主役になった」と言った。今でこそ当たり前だが、IT(情報技術)の世界でパラダイムシフトが起きていることを、早くに言い当てた

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朝日新聞の評伝によると「ソフトやシステムは昔はハードの添付品。それが脇役になり、いまや主役になった」と秋草氏は社長就任会見で語ったそうだ。これは現状を分析しているだけだ。先見の明があるわけではない。「ソフトが主役」の代表格とも言える米マイクロソフトは、98年には既に巨大な存在となっていた。秋草氏の分析に、特段の目新しさはなさそうな気がする。

記事の最後で秋場副編集長は以下のように述べている。

【日経ビジネスの記事】

リーマンショックの後、日立製作所やパナソニックなど日本の大手電機メーカーが相次ぎ巨額損失を計上し、大掛かりな構造転換を実施した。ITバブル崩壊後に富士通が手掛けたことと同じである。しかし一方は「快刀乱麻を断った」と高く評価され、21世紀を前に「Everything on the Internet」と喝破した人はヒールになった。「早過ぎる人」が唱える耳慣れない発言を受け止める包容力があれば、この国はもう少し変わるのかもしれない。合掌。

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Everything on the Internet」と秋草氏が「喝破」した時期を秋場副編集長は「21世紀を前に」としか書いていない。これが「21世紀になる直前」だとしたら「早過ぎる人」とは言えない。そもそもITバブルが「21世紀を前に」崩壊しているのだ。90年代末には「インターネットが世界を大きく変える」と唱える人がたくさんいた。秋草氏がその1人だったとしても「喝破した」というほどの話ではない。

秋草氏が経営者として「先を見通す力」を持っていたとしたら、収益面でも結果を残せたはずだ。しかし「ITバブル崩壊後」に富士通は業績不振に陥ったようだ。だとしたら、経営者として本物の「先を見通す力」が秋草氏にあったのかどうか疑いたくはなる。

富士通が2期連続で最終赤字を計上するという最も苦しい時期に、インタビューで『(業績悪化は)従業員が働かないから』と発言し、世間からすっかり『ヒール(悪役)』のレッテルを貼られてしまった」ことにも秋場副編集長は理解を示す。「『従業員が…』発言も、『働きが悪ければ業績が良くなるわけないじゃないか』と、当たり前のことを言ったつもりだったのだろう」。

このかばい方には無理がある。業績悪化について「従業員が働かないから」と述べたのであれば、「業績悪化の責任は働きの悪い従業員にある」と解釈すべきだ。一方「働きが悪ければ業績が良くなるわけないじゃない」になると、「従業員の働きが悪いと業績拡大は期待できない」との意味になる。これだと「業績が悪化した」とも、「従業員の働きが現実に悪い」とも言っていない。

秋草氏をかばうのは自由だが、こうした意味の違ってくる言い換えをしてあげるのは感心しない。このやり方を採用すれば、あらゆる問題発言を擁護できる。

秋場副編集長としては、「よく知っている経営者が亡くなったので、思い出話をしたい」だけでは記事として物足りないので、秋草氏を「先見性のある早過ぎた経営者」に仕立て上げようとしたのだろう。だが、それに成功しているとは思えない。


※記事の評価はD(問題あり)。秋場大輔副編集長への評価も暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。秋場副編集長については「『まず日経ビジネスより始めよ』秋場大輔副編集長へ助言」も参照してほしい。