2022年2月8日火曜日

「中央銀行が信用を無くす最たるものは債務超過」と訴える藤巻健史氏の誤解

経済評論家の藤巻健史氏は“オオカミ少年”に見える。「危機」が迫っていると煽るが、時期は明示しないし、危機的と見る根拠も弱い。8日付でSAKISIRUに載った「長期債の平均利回り下落が示す、日本国債『Xデイ』の予兆~サマーズ元米財務長官の注目発言、読み解きも」という記事にも問題が目立った。中身を見ながら具体的に指摘したい。

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【SAKISIRUの記事】

サマーズ氏は「インフレにするのは簡単だ。中央銀行が信用を無くせばよい」とも発言している。中央銀行が信用を無くす最たるものは債務超過だ。また日銀の雨宮正佳副総裁も日本金融学会2018年度秋季大会での特別講演で「中央銀行への信用が一たび失われれば、ソブリン通貨といえども受け入れられなくなることは、ハイパーインフレの事例が示す通りです」と述べられている。

このように中央銀行の債務超過は大事件であり、その点で、今後の長期金利の動向は一大注目なのだ。


◎他国中銀の「債務超過」をどう見る?

インフレにするのは簡単だ。中央銀行が信用を無くせばよい」というのは分かる。しかし「中央銀行が信用を無くす最たるものは債務超過」とは思えない。

1970年代にはドイツ連邦銀行(ブンデスバンク)が1990年代にはチリ中央銀行が債務超過に陥ったらしい。この時に「中央銀行が信用を無く」して急激なインフレが起きたのか。藤巻氏は知っているはずだ。

「ドイツやチリは日本と状況が違う」と言うのならば単純に「中央銀行が信用を無くす最たるものは債務超過」とは言えない。

債務超過」と聞いて「潰れそう」と思うのは、企業経営の話ならば的外れではない。しかし中央銀行は全く別だ。日銀の場合、無から限界なく日本円を生み出せるのだから、少なくとも資金繰りに行き詰る心配はない。

日銀が「債務超過」でも資産超過でもその「信用」に大きな違いはない。「信用を無く」すとすれば金融政策の中身だ。企業や家計と違って日銀は日本円を無限に創出できる。そこを押さえて物事を考えたい。

記事の結論部分も見ておこう。


【SAKISIRUの記事】

景気が良くなり(もしくはスタグフレーションで)金利が上昇すれば、日本と日銀は幸せどころか逆に危機を迎えてしまう。これら日本にとっての様々な不都合は、財政再建をないがしろにして起きた財政破綻危機を、異次元の量的緩和という名の財政ファイナンス(政府の資金繰りを中央銀行が紙幣を刷ることによりファイナンスする)で先送りした結果で起きる

政策ミスに加え、MMTや「統合政府で考えれば大丈夫」「さらなる財政出動を」論者がお先棒を担いだ結果だ。その結果、中央銀行のとっかえ、円紙幣の紙くず化という大きなコストを国民が払うことになる。ポピュリズム政治に陥った政府に頼らず、ドルMMF の購入、暗号資産の購入で自己防衛を真剣に考える時期だと思う。


◎「危機」はいつ来る?

藤巻氏の最大の問題は「危機を迎えてしまう」とは言うものの時期を明示しないことだ。なので決して見通しが外れない。せめて「3年以内に」ぐらいは言ってほしい。でないと、当たった時だけ「ほら言った通りになっただろう」となってしまう。

他にも問題はある。「これら日本にとっての様々な不都合は、財政再建をないがしろにして起きた財政破綻危機を、異次元の量的緩和という名の財政ファイナンス(政府の資金繰りを中央銀行が紙幣を刷ることによりファイナンスする)で先送りした結果で起きる」という説明も謎だ。

起きた財政破綻危機」との記述からは既に「起きた」と取れるが「先送りした」とも書いている。解釈が難しい。

自分は日本の「財政破綻危機」を経験したことがない。日本国債の債務不履行が起きるのではとの観測が強まり国債価格が暴落して長期金利は天井知らずの上昇…といった事態を藤巻氏は実体験として見たのか。

財政破綻危機」はまだ起きていないとの前提で考えてみよう。この場合「財政ファイナンス」はそれほど悪くないと結論付けられる。「異次元の量的緩和という名の財政ファイナンス」と書いているのだから、開始から10年近くが経過している。その間もしっかり「先送り」できているし、「インフレ」に関しても2%の物価目標にも届かない状況が続いた。

インフレにするのは簡単だ。中央銀行が信用を無くせばよい」とすれば、「財政ファイナンス」に踏み出しても日銀の「信用」は揺らがなかったと結論付けられる。なのにここから少し金利が上がったぐらいで「危機を迎えてしまう」のか。

世界的にインフレ傾向が強まっているので日銀が実質的な利上げに踏み切る可能性はそこそこあるし、そうすべきだ。だからと言って、それによって「危機を迎えてしまう」ことはないと予言しておく。

円紙幣の紙くず化」はハイパーインフレーションを指すらしい。ここではハイパーインフレーションを「3年で物価2倍」と定義しよう。2024年までの3年間で「円紙幣の紙くず化=ハイパーインフレ」は起きないとも予言に付け加えたい。

藤巻氏が本気で「円紙幣の紙くず化」が起きると信じているのならば、例えば「2024年までの3年間で物価が2倍になると見るか」との問いに答えを出してほしい。そうしないと、いつまで経っても“オオカミ少年”のままだ。


※今回取り上げた記事「長期債の平均利回り下落が示す、日本国債『Xデイ』の予兆~サマーズ元米財務長官の注目発言、読み解きも

https://sakisiru.jp/20545


※記事の評価はD(問題あり)


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