2022年2月9日水曜日

なぜ1面に? 日経「『米は同盟国を尊重』エマニュエル駐日大使」に透ける属国根性

9日の日本経済新聞朝刊1面によく分からない記事が載っている。3段見出しで2番手の扱い。重要なニュースのはずだ。しかし、その見出しは「『米は同盟国を尊重』 エマニュエル駐日大使~アジア重視強調」と何の重要性も新規性も感じられない。しかも発言の主は「エマニュエル駐日大使」。バイデン大統領への単独インタビューでもやったのならば、当たり前の発言を1面で取り上げるのも分かるが…。

巨瀬川

中身を読むとさらに疑問が膨らむ。順に見ていこう。

【日経の記事】

バイデン米政権は7日、日本から輸入する鉄鋼に課している追加関税について、4月1日から一部免除すると発表した。8日に日本経済新聞との電話インタビューに応じたエマニュエル駐日米大使は「米国は同盟国を尊重し、協調する」と述べ、同関税を導入したトランプ前政権の「一国主義」からの転換を強調した。

エマニュエル氏は今回の合意について、1月21日の日米首脳オンライン協議で優先課題と位置付けられ、両首脳が「お互いを尊重した方法で解決することで合意した」と説明した。


◎「追加関税」の話なら…

バイデン米政権は7日、日本から輸入する鉄鋼に課している追加関税について、4月1日から一部免除すると発表した」との書き出しでニュース記事を作るならば「追加関税」について報じるべきだ。しかし、それは5面の関連記事に任せている。1面の記事は「エマニュエル駐日大使」が「電話インタビューに応じた」から書いたものだろう。だったら冒頭で、そう打ち出すべきだ。

追加関税」の話は最初の2段落で終わる。直接の言及は「お互いを尊重した方法で解決することで合意した」という素っ気ないコメントのみ。「米国は同盟国を尊重し、協調する」という発言も出てくるが、これは「追加関税」との関連で出てきたものか微妙だ。

そして話は逸れていく。


【日経の記事】

米国との通商関係では、11カ国で発効した環太平洋経済連携協定(TPP)への米国の復帰も焦点の一つになっている。

エマニュエル氏は復帰の是非については言及しなかったものの「我々も、インド太平洋地域の同盟国も米国のプレゼンスの重要性を理解している」と述べ、米国がアジアへの関与を強める姿勢を強調した。


◎質問はしなかった?

TPPへの「米国の復帰」が「焦点」になっているのなら、そこは質問すべきだ。なのに「エマニュエル氏は復帰の是非については言及しなかった」で済ませている。質問はしたのに回答が得られなかったのか。質問さえもしなかったのか。そこは明示してほしい。

そして「我々も、インド太平洋地域の同盟国も米国のプレゼンスの重要性を理解している」という漠然としたコメントを取り上げている。これで「米国がアジアへの関与を強める姿勢を強調した」と理解するのも謎だ。

見出しでも「アジア重視強調」と取っているが、そう理解できる発言は記事に出てこない。そもそも「インド太平洋地域=アジア」ではない。

さらに見ていこう。


【日経の記事】

米国がライバル視する中国はTPPへの加盟を申請するなど、通商面で攻勢を強めている。こうした動きにエマニュエル氏は、日米両国は鉄鋼の過剰生産や温暖化ガスの排出削減に共同で取り組む考えを示し、中国は「こうした基準にまったく従っていない」と指摘した


◎かみ合ってないような…

中国はTPPへの加盟を申請するなど、通商面で攻勢を強めている」として、それと「日米両国は鉄鋼の過剰生産や温暖化ガスの排出削減に共同で取り組む」という話がどう関連するのか、よく分からない。「こうした基準」がどんな「基準」なのかも説明していない。

強引に理解すれば「中国は無視して日米で頑張りましょう」という話か。もう少し分かるように書いてほしい。

最後の段落にも注文を付けておきたい。


【日経の記事】

米国は11月の中間選挙を控え、輸入増加につながりかねない貿易協定には慎重とみられる。エマニュエル氏は「日米両国の企業は直接投資を通じて経済成長と雇用創出に貢献している」と述べ、投資を通じた経済関係強化を目指す考えを示した


◎現状分析を述べただけでは?

米国は11月の中間選挙を控え、輸入増加につながりかねない貿易協定には慎重とみられる」と感じているのならば、そうなのか聞いてみればいい。質問したのかもしれないが、ここでも話はかみ合っていない。

記事では「投資を通じた経済関係強化を目指す考えを示した」と言い切っている。しかし「エマニュエル駐日大使」のコメントからそんな「考え」は見えてこない。「直接投資を通じて経済成長と雇用創出に貢献している」と現状分析を述べているだけだ。

推測だが、あれこれ聞いてみたものの、はぐらかすような当たり障りのない発言ばかりだったのではないか。だったら紙面では小さく扱えばいい(載せない選択もアリ)。

「米国の『駐日大使』に取材したのだから無理してでも朝刊1面に持っていかなければ…」という意識でもあるのだろうか。だとすれば属国根性が過ぎる。


※今回取り上げた記事「『米は同盟国を尊重』 エマニュエル駐日大使~アジア重視強調

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220209&ng=DGKKZO79992950Z00C22A2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

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