2015年9月5日土曜日

日経 宮東治彦デスクへの助言 1面「働きかたNext」(3)

4日の日経朝刊1面「働きかたNext~若者が問う(5) 地方は都落ちじゃない 『等身大』が活力生む」に関して、担当の宮東治彦デスクへの助言を続ける。


ユトレヒト(オランダ)のカタライネ修道院博物館
               ※写真と本文は無関係です
◆宮東治彦氏への助言

◎「若者の輪が広がっている」?

【日経の記事】

地方に移り住む若者の輪が広がっている。内閣府が昨年実施した調査では20~30代の過半が「地方移住も良い」と回答。ふるさと回帰支援センターへの問い合わせも半分近くは20~30代からだ。

都会の「歯車」になり、自分を見失いがちな若者たち。大企業神話が色あせた彼らにとって地方は決して「都落ち」の存在ではない。汗をかき仲間や地域と成長する。そんな等身大の活躍の場を求める動きが広がる。


地方に移り住む若者の輪が広がっている」と書いてあると「地方に移り住む若者が相互に情報をやり取りするネットワークを広げている」と思ってしまいます。しかし、記事には意識調査の結果などが出ているだけです。これでは「輪が広がっている」かどうか判断できません。地方に移り住む若者が増えているかどうかさえ不明です。

大企業神話が色あせた彼らにとって地方は決して『都落ち』の存在ではない」という説明も気になりました。「大企業神話が色あせた」と言い切っていますが、就職に関して若者に今も根強い大企業志向があるのは、宮東デスクも知っているはずです。「いや、そんなものは色あせている」と考えているのならば、その根拠を読者に見せた方がよいでしょう。

地方は決して『都落ち』の存在ではない」というのも昔から変わりません。東京の大学を卒業して地方の出身地で就職する学生は当たり前のように昔からいましたし、そういう学生を「都落ち」と冷ややかに見る人はそんなに大勢いたのでしょうか。記事を読むと、昔は「東京を離れて地方で働く=都落ち」と一段低く見られていたような印象を受けます。


◎東京では受身でも色々と生まれる?

【日経の記事】

東大教授の玄田有史(50)は「若者にとって地方は自分に価値があると実感できる場所」とみる。地方では受け身では何も生まれない。悩みながらも自ら考え、自ら動く若者が増えれば、陰る地方の光明になり得る。次代の若者の問いに向き合えば、常識にとらわれない明日の日本の働き方も見えてくる。



地方では受け身では何も生まれない」という記述からは「東京(あるいは都会)では受け身でも何かしら生まれる」との前提を感じます。しかし、そんなに明確な対比が可能でしょうか。東京では受け身でも何かしら生まれるかもしれませんが、地方でも程度の差はあれ何かしら生まれそうです。地方では受け身だとなかなか物事が前に進まないとすれば、それは東京でも似たようなものではありませんか。そう考えると「地方では受け身では何も生まれない」との説明はかなり強引な断定だと言えます。

次代の若者の問いに向き合えば」のくだりも、なぜ「今の若者」を飛び越えて「次代の若者」と向き合う必要性を訴えているのか謎です。「次代を担う若者」と言いたかったのなかとは思いますが、「次代の若者」だと「次の時代に現れる若者」と解釈するしかありません。


ここまで色々と注文を付けてきましたが、「働きかたNext」を年初から通して見れば、完成度はそこそこ高まっている気がします。年内にまだ連載があるのならば、これまでに解説したような点に留意して記事を組み立ててみてください。「さすが」と思わせてくれる記事を期待しています。



※記事の評価はC(平均的)とする。宮東治彦デスクへの評価は、強含みながらD(問題あり)を据え置く。

2015年9月4日金曜日

日経 宮東治彦デスクへの助言 1面「働きかたNext」(2)

4日の日経朝刊1面「働きかたNext~若者が問う(5) 地方は都落ちじゃない 『等身大』が活力生む」に関して、担当の宮東治彦デスクへの助言を続ける。

アムステルダムの国立美術館 ※写真と本文は無関係です

◆宮東治彦氏への助言  ※(1)からの続き

今回の4つの事例で最も要らなさそうなのが以下の宮崎の話です。

【日経の記事】

「デュアルライフ採用」。宮崎市のIT企業、アラタナは一風変わった制度で若者を募る。1年間は東京、宮崎でそれぞれ希望の日数で働けるよう配慮する仕組みだ。

平田あずさ(26)は昨夏、求人サイト運営のリブセンスに1カ月間出向した。「東京は刺激的だったが、田舎で働く良さも感じた」と話す。あえて宮崎に囲い込まず、多様な働き方を認める柔軟さが若者をひき付ける。


なぜ上記の話が不要かと言えば、大した試みではなさそうだからです。「1年間は東京、宮崎でそれぞれ希望の日数で働ける」ことに何か意味があるでしょうか。宮崎に移住したいと考える若者にとっては、ほとんどメリットがありません。「アラタナはいい会社のようだが、東京を離れるのがちょっと…」という若者であれば、「1年限定ですが、希望する日数は東京で働けますよ」と言われても、「1年だけじゃ少なすぎる」と思ってしまうでしょう。

そこで、この事例が削りの候補となります。全体の行数の枠が変わらなくても、事例を1つ減らせばこれまでに指摘してきた説明不足を解消できます。

あくまで一般論ですが、今回ぐらいの行数であれば事例は3つでも多いでしょう。3つにするならば、3つ目はごく簡単に紹介できるものに限ります。今回のように4つの事例を詰め込んで、統計数字や識者コメントまでねじ込めば、説明不足が起きるのは必然です。

社内で上の顔色をうかがうことを優先すれば、「事例をたくさん入れてアピール」でいいかもしれません。しかし、それを続けている限り、記事の完成度は頑張っても「そこそこ」止まりです。

(3)では、今回の記事に関して他にもいくつかツッコミを入れておきます。参考にして今後に生かしてください。


※(3)へ続く。

日経 宮東治彦デスクへの助言 1面「働きかたNext」(1)

ものすごく出来が悪いわけではないが、4日の日経朝刊1面に載った「働きかたNext~若者が問う(5) 地方は都落ちじゃない 『等身大』が活力生む」には満足できなかった。日経の1面企画(特に10人以上の取材班で作るもの)にありがちな「事例を詰め込みすぎて説明不足になる」という傾向から脱却できていない。担当デスクは宮東治彦氏のようなので、同氏への助言という形式で記事の問題点を指摘してみる。

ルクセンブルクのギヨーム2世広場 ※写真と本文は無関係です

◆宮東治彦氏への助言

連載の5回目は主に4つ(岡山、淡路島、佐賀、宮崎)の事例から成り立っています。「4つは多すぎる」と単純には言い切れませんが、今回の記事のように説明不足が生じるならば、事例を減らした方がよいでしょう。取材班を編成して作る1面企画では、どうしても多くの事例を盛り込んで「こんなに取材したんだ」と社内にアピールしたくなります。しかし、それが日経の1面企画の陥りやすい罠なのです。

まずは、今回の記事のどこに説明不足があるのかを見ましょう。最初は岡山の事例です。


【日経の記事】

岡山県のある過疎地が若者の注目を集めている。住民の大半が70歳以上の美作市梶並地区。20~30代が頻繁に訪れ、3年で約30人が移住した。

赤星賢太郎(27)もその一人。東京のIT企業でウェブデザインを手掛ける技術者だった。仕事は面白かったが、残業続きの仕事に追われて「新鮮な発想が出なくなった。自分のペースで働きたい」と移住を決めた。

地方で生活できるか。そんな不安を、現地で若者の支援を行う藤井裕也(28)が和らげる。「収入が少ないなら仕事を増やせばいい」。商品のパッケージ作りから、田畑の草刈りまでこなす赤星。「楽じゃないが、気がつけば収入も東京の約2倍」と笑顔を見せる。


この事例では「岡山県のある過疎地が若者の注目を集めている」と切り出しているのに、なぜ注目を集めているのかを説明していません。若者を支援する人がいるのは分かりますが、自治体などで移住する若者を支援する例は珍しくありません。注目を集めるに足る美作市梶並地区の特殊性は、読者にきちんと提示すべきです。

事例の中に出てくる「赤星賢太郎」が美作市で何の仕事をしているのかも必須でしょう。ベースの仕事がITなのか農業なのか、もっと言えば自営業なのかサラリーマンなのかさえ不明です。「気がつけば収入も東京の約2倍」と高収入を強調するのは構いませんが、その前の基礎的な説明が欠けています。

淡路島の例も説明が不十分です。


【日経の記事】

不動産会社を辞め、パソナ関連会社で働く加藤大祐(29)の舞台は淡路島だ。農業チームの5人を率い、東京ドームほどの広さの農場を管理する。上司への事前報告や相談は必要ない。生産品目や販路開拓など何でも自分で判断し、行動する。「普通のサラリーマンにはできない経験」と手応えを感じている。


加藤大祐」の例は記事のテーマである「地方への移住」なのか明確ではありません。「パソナ関連会社で働く」のであれば、淡路島での勤務は単なる地方赴任だとも思えます。「淡路島に本社があるパソナ関連会社に勤務している」「淡路島で働き続けられるという条件でパソナ関連会社に転職した」といった事情があるのならば、その点を明示すべきでしょう。

「行数が限られる中では、説明不足になるのも仕方がない」と思うかもしれません。それに対する答えは、既に述べたように「事例を減らせ」です。今回の記事で最も要らない話は、宮崎の事例だと思います。その理由を(2)で解説しましょう。

※(2)へ続く。

2015年9月3日木曜日

東洋経済「郵政上場特集」 せっかくの力作なのに…(4)

例えば「大阪府の人口は東京都、神奈川県に次ぐ3位」と書いてあったら、当然に東京都が1位で神奈川県が2位(1位タイの可能性はあり)だと思っていた。「1位が東京都で2位が神奈川県」と知った上で「大阪府の人口は神奈川県、東京都に次ぐ3位」と表記するような記者がいたとは…。東洋経済9月5日号に関する問い合わせへの回答は、かなり意外な内容だった。

ユトレヒト(オランダ)の運河に面したカフェ 
              ※写真と本文は無関係です

【問い合わせ】

東洋経済9月5日号の「郵政上場特集」に関する問い合わせに対し、丁寧な回答を頂きありがとうございます。ただ1点、記事の説明と食い違う部分がありましたので、再びお尋ねいたします。

回答では株主数に関して「NTTは、みずほより後に上場してきた第一生命にまず抜かれ、次にみずほに抜かれ、いったんみずほを抜き返し、しかし第一生命を抜くほどではなく、その後にみずほにまた抜かれ、最終的にはみずほは第一生命も抜いた」と書かれています。しかし53ページの記事では「(NTTは)現在は第一生命、みずほFGに次ぐ3位」となっています。回答によると、現在の株主数トップはみずほFGですが、記事に従えば第一生命です。どちらを信じればよいのでしょうか。

付け加えると、今回の回答からは「記事中の分かりにくい説明をできるだけなくしていこう」という意思が感じられませんでした。そこは少し心配です。

たびたび申し訳ありませんが、回答をよろしくお願いします。


【回答】

平素は東洋経済オンラインお読みいただき誠にありがとうございます。

ご指摘の箇所「第一生命、みずほFGに次ぐ3位」は、「第一生命やみずほFGという上位2社(いうなれば2強)に次ぐ3位」という意味で記述しております。

しかしながら、鹿毛様は「並べて表記すれば、最初に社名を挙げた第一生命が1位、次に挙げたみずほFGが2位」と読まれたようです。鹿毛様のような誤解をされないように、「第一生命やみずほFGの2強に次ぐ3位などと表記を工夫すべきだったかもしれません。

ご指摘、ありがとうございました。今後、さまざまな誤解を避けるべく、いっそう努めてまいる所存です。

何かご不明点などが御座いましたら、お気軽にご連絡下さい。今後ともご愛顧の程、よろしくお願い申し上げます。


あえて細かい話をすると、株主数が多い2社を「2強」と呼ぶのは違和感がある。それに、みずほFGが株主数で1位ならば「(NTTは)現在はみずほFG、第一生命に次ぐ3位」と書けば済む。

それにしても「巨人は阪神、ヤクルトに次ぐ3位」と書いてあった場合、「ひょっとすると1位ヤクルトで2位阪神なのかも…」と考えなければならないのは、かなり面倒だ。

東洋経済は「重し」も「負担」の意味で使うと明言しているし、読むに当たって色々と注意が必要な媒体と言える。それでも、問い合わせにほぼ回答しない日経などに比べれば、相当にまともではあるが…。

素人くささ漂う ダイヤモンド「回転寿司 止まらぬ進化」(2)

週刊ダイヤモンド9月5日号の特集3「ビッグデータまで活用 回転寿司 止まらぬ進化」について引き続き「素人くささ」を見ていく。以下の結論部分も「分かって書いているのかなぁ…」と不安になった。
アントワープ中央駅(ベルギー) ※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドの記事】

しかし、実は唯一にして最大の空白地帯が残されている。それは都心部である。

薄利多売のビジネスモデルのため、特に100円均一の回転寿司は、これまで家賃の低い郊外に出店が限定されていた。ある回転寿司の幹部は「売上高が月間4000万円稼げても、家賃の高い都心部は経営的には苦しい」と話す。

そういう意味では、高い家賃でも利益が出せる新たなビジネスモデルを開発し、都心部を制した企業が飛躍的に成長する可能性を秘めているといえる。だが、それができなければ、飽和した市場におけるパイの奪い合いは収まらず、行き着く先はさらなる再編淘汰しかないのかもしれない。


まず「唯一にして最大の空白地帯」が気になる。「『唯一』なら当然に『最大』でしょうね」とツッコミたくなる。例えば「唯一にして巨大な空白地帯」ならば違和感はないが…。それに「都心」とは「大都市の中心部」だ。そもそも面積が狭く、新たなビジネスモデルを開発できても出店数はたかが知れている。あきんどスシローで言えば、東京でも江戸川区や足立区には既に出店している。空白地帯の「都心」は山手線の内側辺りで、非常に限られた地域だ。大阪や名古屋だと、さらに狭くなるだろう。そこを押さえれば「飛躍的に成長する可能性を秘めている」と書くところに、記者の「素人くささ」を感じてしまう。

ついでに、あと2つ指摘したい。


◎リーマンショックは何年前?

【ダイヤモンドの記事】

もともとカッパは、回転寿司業界におけるリーディングカンパニーだった。100円均一価格や高速レーンをいち早く導入し、売上高ではトップを走り続けた。

ところが、6年前から既存店売上高が前年を下回るようになる。リーマンショック後には大量閉店に追い込まれ、ついに13年2月期には当期赤字に転落した。


「6年前に既存店売上高が前年割れになり、リーマンショック後に大量閉店」と聞くと、「6年前」の後に「リーマンショック」と思ってしまう。しかし、「6年前=2009年」で「リーマンショック=2008年」だ。上記のくだりはどう理解すべきなのだろう。


◎「外食市場は漸減傾向」?

【ダイヤモンドの記事】

日本は少子高齢化社会に突入、外食市場も成長はピークアウトし、漸減傾向にある。そうした業界にあって回転寿司は成長を続けている数少ない業態だ(103ページ上図参照)。

「外食市場は漸減傾向」と書いてあるので103ページの図を見てみた。しかし図によると、「外食市場全体」は2011年を底に3年連続で伸びている。これを「漸減傾向」と言うのはかなり苦しい。


※記事の評価はD(問題あり)、須賀彩子記者の評価も暫定でDとする。

2015年9月2日水曜日

素人くささ漂う ダイヤモンド「回転寿司 止まらぬ進化」(1)

週刊ダイヤモンド9月5日号の特集3「ビッグデータまで活用 回転寿司 止まらぬ進化」(須賀彩子記者)は素人くささが漂う記事だった。「あまり回転寿司に詳しくない記者が回転寿司業界を取材して、感じたことをまとめてみました」といった印象だ。それは以下のくだりからも読み取れる。

デュルブイ(ベルギー)の街並み ※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドの記事】

従前は、職人の経験と勘に頼っており、「当たり外れが大きかった」(スシロー)という。それが、ICチップを導入した2002年以降、レーンに流しながら売れない「食べ残し」を激減させることに成功した

また、ICチップで皿を管理することが可能となったことで、レーン上を350メートル回っても売れなかった皿は自動廃棄するようになった。これにより、乾いたネタを排除することができ、品質とイメージ向上につながっているという。

まるで客の食べたいものを見透かしたかのように皿が流れてくる回転寿司。その裏にはビッグデータ分析があったのだ


自社内で得られるデータだけを用いていても「ビッグデータ分析」なのかは疑問だが、そこは受け入れるとしよう。しかし、特集のタイトルにもなっている「ビッグデータまで活用」する動きが出てきたのが「2002年以降」なのは苦しい。つまり10年以上前から“ビッグデータ”は活用されてきた。ならば、わざわざ大げさに紹介する必要は乏しい。

以下のくだりに至っては、いつと現在を比べているのか不明だ。


【ダイヤモンドの記事】

スシローでは1日に3回、仕込み作業を行っている。その際、こうしたデータを詳細に分析、どの時間帯にどのネタを何グラム解凍させるかといったところにまで反映させている。ネタの鮮度が保たれ、これがおいしさにつながっている。

ネタの発注もしかりだ。勘に頼るのではなく、データに基づいて人気のあるネタを適切な量発注することでロスを大幅に低減できるようになったのである。こうして現在は、発注から仕込み、販売に至るトータルのロス率は、なんと1.5%、それまでの4分の1以下になった。「昔だったら100円で大とろを出すなんてとても無理だったが、データという強い味方を得てそれを可能にした」(スシロー)という。


ロス率は、なんと1.5%、それまでの4分の1以下になった」と須賀彩子記者は強調するが、「それまで」がどの時期を指すのか謎だ。強いて言えば、「2002年まで」だろう。しかし、10年以上前から今と同レベルの廃棄率ならば「なんと1.5%」と驚くのは“素人”丸出しだ。「昔だったら100円で大とろを出すなんてとても無理だった」というコメントに関しても「昔」がいつを指すのか不明だ。

結論部分にも素人くささを感じた。それに関しては(2)で述べる。

※(2)へ続く。

東洋経済「郵政上場特集」 せっかくの力作なのに…(3)

買いますか 買いませんか 日本郵政株」という東洋経済9月5日号の特集に関する問い合わせに回答が届いた。納得できるものではなかったが、興味深い中身だった。早速、内容を分析してみよう。
スヘフェニンヘン(オランダ)のクルハウス 
             ※写真と本文は無関係です

◎「重し」は負担?

【問い合わせ】

(1)51ページには「ユニバーサルサービスのインフラである全国約2万4000の郵便局の存在が収益の重しになっている面もありそうだ」との記述があり、87ページの見出しは「ユニバーサルサービス 2600億円超の維持費用が重しに」となっています。「重し」を「重荷」の意味で用いるのは誤りです。8月29日号の「ライザップの真実」でも同じような使い方をしており、問い合わせに対して「『重し』ではなく、『重荷』とすべきでした」との回答を既に頂いています。なのになぜ、似たような表現を2カ所も使ってしまったのでしょうか。編集部内で情報共有はされているのでしょうか。

【回答】

先日、「ライザップ」の記事に関して回答を差し上げました後、関係者で協議しました結果、「重荷」と「重し」をいずれも「負担」という意味で用い、ネガティブかそうでないか前後の文脈に応じて使い分けることにいたしました。私どものルールに照らしますと今週号のご指摘部分に関しては誤りではございません。


デジタル大辞泉で「重し」を調べると(1)物を押さえつけるために置くもの。おし。「辞書を―にする」(2) 人を押さえ鎮める力。また、その力をもっている人。「若輩で―がきかない」(3) 秤(はかり)のおもり--となっている。これで「重し」を「負担」の意味に用いられるだろうか。例文にある「辞書を重しにする」の場合、辞書は何かの「負担」になっているわけではない。風で何かが飛んだりしないようにする役割を担っているのだろう。

ネガティブかそうでないか前後の文脈に応じて使い分ける」というのはよく分からないが、東洋経済が「重し」を「負担」の意味で用いると決めたのなら、読者としては従うしかないだろう。これまで「組織内ではAさんが重しとなっていた」と書いてあった場合、「Aさん=組織を安定させる役割を担う人」と解釈していたが、これからは東洋経済の記事であれば「組織にとって負担になる人」と変換する必要がある。それを考えると、ちょっと面倒ではあるが…。


◎みずほFGを除けば済む話では?

【問い合わせ】

(2)53ページに「第一生命保険、みずほFGが上場するまで、NTTは最も株主数が多い銘柄だった」との記述があります。上場時期はみずほFGが2003年、第一生命が2010年と離れています。
NTTが株主数で最多だった時期はどう理解すればよいのでしょうか。「2003年に株主数トップではなくなったが、その後に再びトップとなり、2010年に今度は第一生命に抜かれた」ということでしょうか。仮にそうだとしても「第一生命保険、みずほFGが上場するまで、NTTは最も株主数が多い銘柄だった」との説明は適切なのでしょうか。

【回答】

こちらに関します事実関係は以下の通りです。

NTTは、みずほより後に上場してきた第一生命にまず抜かれ、次にみずほに抜かれ、いったんみずほを抜き返し、しかし第一生命を抜くほどではなく、その後にみずほにまた抜かれ、最終的にはみずほは第一生命も抜いた

当該記事の主旨は「NTTは長らく株主数で首位だった」ことです。そこで詳細については割愛し、「第一生命保険、みずほFGが上場するまで、NTTは最も株主数が多い銘柄だった」との記述としています。


結論から言うと、この記事の説明ではダメだ。回答の通りの事実関係ならば「第一生命保険が上場するまで、NTTは最も株主数が多い銘柄だった」でいい。みずほFGを除くだけで問題はほぼ解消する。「記事中で詳細に記述しろ」と求めているわけではない。混乱させるような書き方をなぜするのかが問題だ。回答の説明を信じれば「みずほFGの上場時期」と「NTTが株主数トップではなくなった時期」に直接的な関係はない。しかし、記事を素直に読めば、そうは思わないだろう。だから、この書き方では不合格だ。


◎「伝わらないこと」への恐れはある?

【問い合わせ】

(3)63ページの記事では、メルパルクについて「日本郵政が承継・運営してきたが、08年に挙式サービス会社・ワタベウェディングにゼロ円で事業譲渡された」と書かれています。しかし、その後に「(日本郵政の)宿泊事業の損益はかんぽの宿が赤字、メルパルクが黒字」との説明があります。後者を信じれば、日本郵政は現在もメルパルクの宿泊事業を自社で手がけていることになります。これはどう理解すべきでしょうか。日本郵政はメルパルク関連の不動産を保有しているようですが、それだけならば「宿泊事業」とは呼ばないはずです。

【回答】

ワタベへの譲渡は、記載しております通り「事業」の譲渡であり、保有資産の譲渡ではありません。ワタベに賃貸する形で日本郵政が宿泊事業を運営しています。なお、日本郵政の宿泊事業にはメルパルクだけでなく、保有・運営するかんぽの宿も含まれます。


ワタベへの譲渡は、記載しております通り『事業』の譲渡であり、保有資産の譲渡ではありません」というのは、もちろん分かっているし、問い合わせにも書いている。問題は記事中の説明の仕方だ。メルパルクについて「事業譲渡した」と書いた後で「宿泊事業の損益はメルパルクが黒字」と出てくれば、「えっ!どういうこと? 事業譲渡したんじゃなかったの?」と読む側が混乱するのは当然だ。

例えば、「A社はB社に百貨店事業を売却。その結果、A社の百貨店事業が黒字化した」と書いてあったら、「何それ?」と思わないだろうか。不動産を日本郵政が保有して貸し出しているのであれば、常識的には「不動産賃貸事業」だ。それを日本郵政が「宿泊事業」に含めるのは勝手だが、だからと言って記者がその情報をそのまま記事にしてはダメだ。改善例を示してみる。


【改善例】

(日本郵政の)宿泊事業の損益はかんぽの宿が赤字で、保有不動産を貸すだけとなったメルパルクは黒字。

例えば上記のように書いてあれば、すんなり読めた。今回の回答からは「自分たちの記事は読者にきちんと伝わるような配慮が十分にできているだろうか。何か足りないところはないだろうか」という恐れが感じられない。それが残念だ。せっかくの力作なのに…。

編集部には再度の問い合わせをした。最後にその内容を紹介する。


【東洋経済への問い合わせ】

東洋経済9月5日号の「郵政上場特集」に関する問い合わせに対し、丁寧な回答を頂きありがとうございます。ただ1点、記事の説明と食い違う部分がありましたので、再びお尋ねいたします。

回答では株主数に関して「NTTは、みずほより後に上場してきた第一生命にまず抜かれ、次にみずほに抜かれ、いったんみずほを抜き返し、しかし第一生命を抜くほどではなく、その後にみずほにまた抜かれ、最終的にはみずほは第一生命も抜いた」と書かれています。しかし53ページの記事では「(NTTは)現在は第一生命、みずほFGに次ぐ3位」となっています。回答によると、現在の株主数トップはみずほFGですが、記事に従えば第一生命です。どちらを信じればよいのでしょうか。

付け加えると、今回の回答からは「記事中の分かりにくい説明をできるだけなくしていこう」という意思が感じられませんでした。そこは少し心配です。

たびたび申し訳ありませんが、回答をよろしくお願いします。


※この問い合わせへの回答は(4)で紹介する。