2020年3月7日土曜日

日経「楽天、通販一律の『送料込み』延期」に感じる好ましい変化

日本経済新聞が良い方向に変わり始めているのではないか。7日の朝刊総合1面に載った「楽天、通販一律の『送料込み』延期~強制色薄める」という記事の以下のくだりを読んでそう感じた。
亀山上皇銅像(福岡市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

軌道修正は新型コロナの影響としたが、導入を見送る店舗の延期期間は「現時点では無期限」だ。6日の会見では報道陣から「いつ一律に導入するのか」「一律導入の撤回ではないのか」と質問が相次いだが、楽天は「未定」を繰り返した



◎楽天に寄り添わない姿勢を評価

普通ならば「導入を見送る店舗の延期期間は未定としている」ぐらいで通り過ぎるところだ。それをわざわざ「報道陣から『いつ一律に導入するのか』『一律導入の撤回ではないのか』と質問が相次いだが、楽天は『未定』を繰り返した」と書いたのは「会見」での「楽天」の対応に記者が不誠実さを感じたからだろう。

それでも「楽天」のような有力企業のご機嫌を損ねるような書き方をしないのが日経の基本姿勢だった(不祥事を起こしたり経営危機に陥ったりした場合は別)。今回のような書き方をすれば「楽天」からネタをもらうのは難しくなるだろう。「それならそれでいい」と担当記者が腹を括っているのならば一読者として歓迎したい。

待っていれば発表されるネタを抜くとか抜かれるとかはどうでもいい。伝えるべきだと感じたことを読者に伝える--。それを最優先してほしい。

話はそれるが、楽天の三木谷浩史会長兼社長には失望した。送料無料化に関して「たとえ政府や公取委と対峙しようとも必ず遂行する」との発言が伝えられた時には、当然に何手先も読んで勝算ありと確信しているのだと思っていた。

それが、あっという間にどんどん後退してしまった。深い考えなしに感情的になって「政府や公取委と対峙しようとも必ず遂行する」と言ってしまったのだとしたら、あまりに未熟だ。そして三木谷氏は未熟さが許容される年齢ではない。


※今回取り上げた記事「楽天、通販一律の『送料込み』延期~強制色薄める
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200307&ng=DGKKZO56513040W0A300C2EA1000


※記事の評価はB(優れている)

2020年3月6日金曜日

岩村充 早大教授が東洋経済オンラインで展開した「MMT」否定論に疑問

6日付の東洋経済オンラインに早稲田大学大学院経営管理研究科の岩村充教授が「はたして『MMT』は画期的な新理論なのか暴論か~経済学主流派の欺瞞を暴いた新理論の正体」という記事を書いている。岩村教授は「MMT」を頭から否定している訳ではないが、結局は問題ありの理論だと結論付けている。その論理展開に納得はできなかった。
メディアモール天神(福岡市)※写真と本文は無関係です

問題点を指摘している部分を見てみよう。

【東洋経済オンラインの記事】

経済学主流派の面々がケルトンに最もてこずっている点は、彼女がこうした「安全装置」を付けて、「安全装置が付いているから財政を拡張してもいいでしょう」という議論を展開しているところにあるようですが、私からすればこれが最も危険な主張に思えます。

それはインフレに増税で対処することを自動化すれば、財政を拡張しても問題ないという発想自体が危ういからです。

育児支援や教育無償化などと言うと論点が錯綜するので、この際、少なくとも簡単には将来の富を生まない財政活動を思い浮かべてください。

ケインズ経済学の有名なたとえ話である「道路に穴を掘って埋め戻すという工事でも、失業を解消し総需要を拡大するから、経済にプラスになる」というのでもいいのですが、ややたとえが古臭いので、「毎年百万人の高校生を修学旅行として宇宙ステーションに招待し、そこで青い地球をながめることで環境問題の重要さを感じてもらう」というあたりでどうでしょうか。

こんなプロジェクトを国が始めたら。まあ、普通はインフレが起こるでしょう。それが費用に見合うほどの将来税収を生まないことはまず間違いないからです。

そこでケルトンの議論に従えば増税することになります。そうして増税すれば物価決定式が示すとおりでインフレは抑え込めそうです。でもインフレが抑え込まれれば、宇宙修学旅行計画は合理的であるとされ、次には月世界旅行や火星旅行に計画は拡大するということになるかもしれません。それでインフレが起こればまた増税、というサイクルになります。

この辺りで私たちはケルトンの議論の問題点に気づくことになるでしょう。「インフレ率が限度を超えたら増税」というMMT派のルールは、インフレが起こるような財政活動自体を制約するものではないので、そんな単純なルールを作って安心していると、経済学的には効率が悪い政策の自己拡大サイクルに財政運営が引きずり込まれかねないのです

そして、それは「インフレ率が限度を超えるまでは緩和」という単純なルールで株価を不自然なまでに釣り上げる一方で、貧富の格差拡大に目を背け続けてきた主流派経済学者や中央銀行たちの姿に重なります。

単純なルールによる副作用の自己拡大というリスクを見逃しているのはケルトンの幼さですが、自分たちが主張するルールに潜む同じ問題に気がつかない主流派経済学者たちや中央銀行たちの問題は、幼さではなく傲慢さが背景にあるだけに、実はケルトンより厄介かもしれません。


「安全装置」は機能しているような…

岩村教授の主張には2つ疑問がある。

まず「MTT」を信じて「宇宙修学旅行計画」を実行しても大きな問題が起きていない。「増税すれば物価決定式が示すとおりでインフレは抑え込めそうです」という見立てが正しければ「インフレは抑え込め」る。「増税」するので財政破綻にもつながらない。大不況に陥る訳でもなさそうだ。一体、何が問題なのか。

経済学的には効率が悪い政策の自己拡大サイクルに財政運営が引きずり込まれかねない」と岩村教授は言うが、経済的に大きな問題が起きないのならば、それでいいのではないか。

宇宙修学旅行計画」で「火星」に行ける国にしたいと国民の多くが望んでいる場合、それが「経済学的には効率が悪い」としても、財政破綻やハイパーインフレといった大きな代償を払わずに実現できるのならば、願ったり叶ったりだ。

もう1つ気になるのは「インフレが抑え込まれれば、宇宙修学旅行計画は合理的であるとされ」るとの前提だ。「宇宙修学旅行計画」のせいで「インフレ」になったから「増税」になると聞いて、国民はどう感じるだろうか。「インフレが抑え込まれ」たとしても、それで「宇宙修学旅行計画は合理的」だと判断して「火星旅行」などに「計画」が「拡大する」とは限らない。

宇宙修学旅行計画」のせいで「増税」になるのは許せないから、「計画」を廃止して減税しろと主張する人もいるだろう。そうした声が多数派になれば「インフレが抑え込まれ」たとしても「計画は拡大」しない。「経済学的には効率が悪い政策の自己拡大サイクルに財政運営が引きずり込まれ」ずに済む。

結局、税金で「宇宙修学旅行計画」の費用を賄うことを国民が許容するかどうかの問題に収斂していく。岩村教授が挙げた事例に関して言えば、「MTT」の「安全装置」はきちんと機能しているのではないか。

MTT」を個人的に支持している訳ではない。ただ、否定が難しい理論だとは感じる。多くの記事で否定論を目にしてきたが、その主張に納得できたことはない。今回の岩村教授の説明も例外ではなかった。



※今回取り上げた記事「はたして『MMT』は画期的な新理論なのか暴論か~経済学主流派の欺瞞を暴いた新理論の正体
https://toyokeizai.net/articles/-/333243


※記事の評価はC(平均的)。岩村充教授への評価も暫定でCとする。「MTT」に関しては以下の投稿も参照してほしい。


MMTの否定に無理あり 日経 菅野幹雄氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/mmt-deep-insight.html

「MMTは呪文の類」が根拠欠く日経 上杉素直氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/mmt-deep-insight.html

2020年3月5日木曜日

自らは知恵を絞らない日経社説「柔軟な政策で世界経済の失速を避けよ」

5日の日本経済新聞朝刊総合面に載った「柔軟な政策で世界経済の失速を避けよ」という社説では「各国が効果的な金融緩和や財政出動などの知恵を絞り、世界経済の下支えに万全を期してほしい」と訴えている。日経が得意とする「とにかく何とか上手くやってね」的な社説だ。「世界経済の下支えに万全を期してほしい」と願うならば、まずは自らが「知恵」を絞るべきだ。

資さんうどん 博多千代店(福岡市)
          ※写真と本文は無関係です
社説の中身を見ていこう。

【日経の社説】

新型コロナウイルスの感染拡大による世界経済の失速を避けるため、主要7カ国(G7)が必要な政策手段を総動員すると宣言した。その先陣を切る形で、米連邦準備理事会(FRB)が0.5%の緊急利下げに踏み切った。

景気悪化のリスクを封じ込めたいという当局の意図は理解できるが、政策対応の限界を市場に見透かされているのは否めない。各国が効果的な金融緩和や財政出動などの知恵を絞り、世界経済の下支えに万全を期してほしい

G7の財務相と中央銀行総裁が、新型コロナのまん延に警戒感を強めるのは当然だ。リーマン・ショックのような経済・金融危機とは様相が異なるが、実体経済や金融市場に与える悪影響はもはや看過できない状況にある。

FRBが17~18日の定例会合を待たずに先手を打ったのも、やむを得ない決断だろう。G7以外ではオーストラリアやマレーシアなどの中銀が利下げに動いた。

だが一連の行動で世界の不安が払拭されたとはいえない。G7が共同声明で「あらゆる適切な政策手段を用いる」と訴えても、リーマン危機の直後と同じ結束力を期待するのは難しい。もはや金融緩和の余地は乏しく、財政出動の規模にもおのずと限界がある

G7による政策協調やFRBによる利下げの効果に、市場もいったん懐疑的な反応を示した。株価や金利は不安定な状態が続く。



◎効き目が乏しく弾も残り少ないのに…

米連邦準備理事会(FRB)が0.5%の緊急利下げに踏み切った」上に「オーストラリアやマレーシアなどの中銀が利下げに動いた」のに「一連の行動で世界の不安が払拭されたとはいえない」。さらに「もはや金融緩和の余地は乏しく、財政出動の規模にもおのずと限界がある」という。

ミサイルを打ち込んでも効き目が乏しい上に、ミサイルの残りも少なくなってきている状況で、他の武器も頼りにならないといったところか。そこで「各国が効果的な金融緩和や財政出動などの知恵を絞り、世界経済の下支えに万全を期してほしい」と言われてもとは思う。

残りわずかな頼りない武器でどうやって効果的に戦うのか。そんな方法があるのならば教えてほしいところだ。しかし社説では自らの策は披露せず、各国の政府や中央銀行に「知恵」を求めるのみ。「自分たちに知恵はない」と感じているのならば、今回のような社説はなくていい。

社説の続きを見ていこう。

【日経の社説】

G7を中心とする各国の政策当局は、世界経済と金融市場の安定にそろって協力すべきだ。日銀や欧州中央銀行(ECB)の金融緩和がFRBよりも難しいのは確かだが、追加措置が必要ならば機動的に対応してほしい。



◎「追加措置が必要」かどうかを示さないと…

副作用を上回る効果の見込める追加の金融緩和は日本で難しいとの見方が多い。個人的にもそう思うが、日経が「追加措置が必要」と感じるならば、それはそれでいい。その理由を明確に読者に示してもらえば納得できるかもしれない。

しかし今回の社説では「追加措置が必要ならば機動的に対応してほしい」とお願いしているだけだ。現状で「追加措置が必要」なのか。さらに感染が拡大すれば「追加措置が必要」になるのか。日経自身の判断が社説には欲しい。しかし「追加措置が必要ならば~」で逃げている。

それが日経の「限界」ならば、やはり社説は廃止でいい。


※今回取り上げた社説「柔軟な政策で世界経済の失速を避けよ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200305&ng=DGKKZO56383250U0A300C2EA1000


※社説の評価はD(問題あり)

2020年3月4日水曜日

近鉄百貨店は「業界2番手」? 日経「銘柄診断」の問題点

百貨店の大手と言えば高島屋、大丸松坂屋百貨店、三越伊勢丹といった名前が思い浮かぶ。しかし4日の日本経済新聞朝刊マーケット総合1面に載った「銘柄診断~近鉄百、一時7%安 回復の遅れ懸念」の記事には「百貨店業界で2番手というイメージ」があるのは「近鉄百貨店」という市場関係者のコメントが出てくる。
筥崎宮(福岡市)※写真と本文は無関係です

記事を最初から見ていこう。

【日経の記事】

3日の東京株式市場で近鉄百貨店株が急落した。一時、前日比179円(7%)安の2436円を付けた。前日の取引終了後に発表した2月の売上高(速報値)が新型コロナウイルスの感染拡大で訪日中国人客を中心に落ち込み、ろうばい売りを誘った。終値は7%安の2445円だった。

近鉄百は訪日客を取り込んで売上高を伸ばしてきた。しかし、1月末に中国政府が海外団体旅行を禁止したことを受け、主力店の「あべのハルカス近鉄本店」(大阪市)は免税売上高が7割減少。店全体の売上高も15%減少した。

2月の売上高は百貨店各社が前日にそろって発表した。近鉄百の減少幅は競合と大差はなかったが、この日の株価は、同じく関西地盤の阪急阪神百貨店を傘下に持つエイチ・ツー・オーリテイリング(1%下落)や三越伊勢丹ホールディングス(2%下落)に比べて下げがきつかった。

市場では「百貨店業界で2番手というイメージがあり、回復が遅れるとみなされた」(auカブコム証券の河合達憲チーフストラテジスト)との声があった。


◎「百貨店業界で6番手」辺りでは?

百貨店業界で2番手というイメージがあり、回復が遅れるとみなされた」と「auカブコム証券の河合達憲チーフストラテジスト」が本当に発言したとしよう。だからと言って記者は免罪とはならない。「近鉄百貨店」が「百貨店業界で2番手」なのかどうかは確認すべきだ。

百貨店業界で2番手というイメージ」とコメントしているので、本当の順位が「3番手」ならばギリギリ許容範囲内かもしれない。しかし「百貨店業界」にいる人で「近鉄百貨店」に「2番手というイメージ」を持っている人は皆無に近いだろうし、「3番手」に広げても結果は同じだと思える。実際は「6番手」辺りのようだ。

推測だが、「河合達憲チーフストラテジスト」は「大手とは差がある第2グループ」といった趣旨で「百貨店業界で2番手」と言ったのではないか。

付け加えると「同じく関西地盤の阪急阪神百貨店を傘下に持つエイチ・ツー・オーリテイリング(1%下落)や三越伊勢丹ホールディングス(2%下落)」と書くと「三越伊勢丹ホールディングス」も「関西地盤」に見える。「同じく関西地盤の阪急阪神百貨店を傘下に持つエイチ・ツー・オーリテイリング(1%下落)や、三越伊勢丹ホールディングス(2%下落)」と読点を打った方が良い。

最後の段落にも問題を感じた。

【日経の記事】

今後も厳しい経営環境が続く。近鉄百は2日から新型コロナ対策で営業時間を短縮した。国内外で外出を控える動きも広がり、3月の売上高はさらに落ちこむ可能性がある。株価は当面、下値を探る展開が続く可能性がある



◎「可能性がある」を使うなら…

まず「3月の売上高はさらに落ちこむ可能性がある」「株価は当面、下値を探る展開が続く可能性がある」と「可能性がある」を繰り返すのが上手くない。

記事全般に言えることだが、市場関連記事では特に「可能性がある」を避けてほしい。「3月の売上高はさらに落ちこむ可能性がある」のも「株価は当面、下値を探る展開が続く可能性がある」のも当たり前の話だ。

例えば「現在2万1000円台の日経平均株価は3月中に1万円を割り込む可能性がある」と書くならば、まだ許せる。市場関係者のほとんどが「1カ月以内に日経平均が半値以下に落ち込む」とは思っていないだろう。そこでは「可能性がある」も意味を持つ。

しかし「2万円を割り込む可能性もある」だと「それはそうでしょうね」となってしまう。この場合は「2万円を割り込む可能性が高い」などとしないと、わざわざ記事に入れる意味がない。

今回の記事ならば「3月の売上高はさらに落ちこむ可能性が高い。株価は当面、下値を探る展開が続きそうだ」ぐらいは書いていい。「3月の売上高」や「株価」について決め付けにはなっていないはずだ。


※今回取り上げた記事「銘柄診断~近鉄百、一時7%安 回復の遅れ懸念
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200304&ng=DGKKZO56334320T00C20A3EN1000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年3月3日火曜日

「同日」の使い方に難あり 日経 堤健太郎記者「前田建設、不毛なTOB」

2月27日には前田建設がこの配当策を理由にTOBの期限を従来の3月4日から12日に延長したが、同日に前田道路はNIPPOとの資本業務提携の検討入りを打ち出した」と書いてあった場合、「同日」は何月何日を指すか。これが国語の試験ならば「3月12日」と答えるしかない。しかし筆者は「同日2月27日」のつもりで書いているはずだ。
那珂川(福岡市)※写真と本文は無関係です

記事を書いた日本経済新聞の堤健太郎記者には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 堤健太郎様

3日の朝刊 投資情報面に載った「前田建設、不毛なTOB~利益押し上げ小さく 前田道路は対抗増配 強行してもシナジー疑問」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

前田道路が特別配当で『買収のうまみ』を損なわせるカードを切り、2月27日には前田建設がこの配当策を理由にTOBの期限を従来の3月4日から12日に延長したが、同日に前田道路はNIPPOとの資本業務提携の検討入りを打ち出した

これを信じれば「前田道路」が「NIPPOとの資本業務提携の検討入りを打ち出した」のは「(3月の)12日」です。「打ち出した」と過去形になっていますが、まだ「12日」にはなっていません。「資本業務提携の検討入りを打ち出した」のは「2月27日」のはずです。しかし、記事からは「同日3月12日」と読み取るしかありません。

記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

堤様には先月に以下の内容で問い合わせを送っていますが、まだ回答を頂いていません。こちらも併せて回答をお願いします。

日本経済新聞社 堤健太郎様 桜井豪様

21日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「真相深層~前田道路、資産削減の奇策 配当6倍 前田建設TOBに対抗」という記事についてお尋ねします。「前田道路」が決めた今回の対抗策を「価値ある資産を流出させる『クラウンジュエル』に似ている」とした上で12版の記事では以下のように解説しています。

07年には韓国サムスン電子が米半導体大手サンディスクへの買収を画策した際に使われた。サンディスクが東芝へ生産設備の一部を売却。結果、サムスン側は買収を断念した。前田道路は配当だが、現金流出による資産縮小という点は同じだ

サンディスクが東芝へ生産設備の一部を売却」したのならば「サンディスク」にとっては「現金流出による資産縮小」とはなりません。逆に「売却」によって「現金」が入ってきます。「現金流出による資産縮小という点は同じだ」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

ちなみに、最終版では「現金流出による」との文言がなくなっています。誰かが誤りに気付いたのでしょう。

ただ「現金流出による」を削れば済むとは思えません。「生産設備の一部」を売却すれば「生産設備」の「資産」は「縮小」しますが、一方で現金が入ってきます。現金ももちろん「資産」です。なので単純に「資産縮小という点は同じだ」とは言えません。「前田道路は配当だが、資産縮小という点は同じだ」との説明も「問題あり」と見るべきではありませんか。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界最強のビジネスメディア」であろうとする新聞社の一員として責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「前田建設、不毛なTOB~利益押し上げ小さく 前田道路は対抗増配 強行してもシナジー疑問
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200303&ng=DGKKZO56293360S0A300C2DTA000


※記事の評価はD(問題あり)。堤健太郎記者への評価はDで確定させる。堤記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

前田道路と前田建設を「親子」としていた日経がやっと軌道修正
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_25.html

「現金流出による」を削った理由は? 日経 堤健太郎・桜井豪記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_21.html

2020年3月2日月曜日

「長々」と続く昔話は行数稼ぎ? 日経 原田亮介論説委員長「核心」

特に訴えたいことはないが、順番が回ってきたので頑張って紙面を埋めてみた--。2日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「核心~疫病が試す政治の強度」という記事を書いた原田亮介論説委員長はそんな気持ちだったのではないか。「1918~19年にパンデミック(感染爆発)を起こしたスペイン・インフルエンザ」について「長々と紹介した」ものの、その後に生きていないのは、このくだりが行数稼ぎだからだろう。
旧福岡県公会堂貴賓館(福岡市)※写真と本文は無関係

記事の流れを中心に全文を見ていこう。まずは最初の段落。

【日経の記事】

新型コロナウイルスの感染が拡大を続けている。震源地の中国は全国人民代表大会を延期し、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の感染対応を批判された日本政府は学校休止にかじを切った。疫病が政治を揺さぶるのは歴史の常だが、微温的だった日本と強権的な中国の対応はあまりに対照的だ



◎「対照的」な日中の対応を描く?

上記のくだりからは「新型コロナウイルス」に関して「微温的だった日本と強権的な中国の対応」の違いをメインテーマに据えたと読み取れる。それはそれでいい。そして「スペイン・インフルエンザ」に話が移っていく。


【日経の記事】

疫病が世界の歴史を変えた事例は1918~19年にパンデミック(感染爆発)を起こしたスペイン・インフルエンザがわかりやすい。諸説あるが当時の世界人口20億人弱のうち5億人が感染、4000万人が死亡したという。日本でも38万人が死亡した。詳細な記録をまとめる「史上最悪のインフルエンザ」(みすず書房刊)から一部を引こう。

まず名称だ。第1次世界大戦で多くの国が情報統制を敷くなか、スペインは中立国で感染拡大を公表したために、不名誉な名前を付けられた。

同書は「実際には18年3月に米国で出現した」という。膠着していた欧州戦線を打開するため、多くの感染者を含む米兵が大西洋を渡り、感染は一挙に欧州で拡大した。

輸送船は「外洋に出る前、すでに医務室のベッドはすべて埋まっていた。病人数は9月30日には700人だったが、航海を終える頃には2000人に膨れ上がっていた」。病のまん延は大戦の終結を早めたとも言われている。

もう一つ特記すべきは、ウィルソン米大統領がパリ講和会議のさなかに感染・発病したことである。大統領の精神的、体力的な衰えが、英仏などが主張する敗戦国ドイツへの懲罰的な賠償請求容認につながったと同書は紹介する。

100年前のことを長々と紹介した。それから感染症研究や公衆衛生学はめざましく進歩した。だが目に見えない新手のウイルスが感染を拡大したとき、まずやるべきは昔とそう変わらない。感染者を隔離し、拡大を防ぐことだ



◎何のために「長々と紹介」?

100年前のことを長々と紹介」するのがダメだとは言わない。それが記事に必須だと納得できれば問題ない。ただ、「まずやるべきは昔とそう変わらない。感染者を隔離し、拡大を防ぐことだ」といっ当たり前の話をするためならば、明らかに長すぎる。そもそも「100年前のことを長々と紹介」した中に「感染者を隔離」することの大切さを直接的に訴える事例も出てこない。

もう一つ特記すべきは、ウィルソン米大統領がパリ講和会議のさなかに感染・発病したことである」とも書いているので、これがその後の展開で生きてくるのかとも思わせる。

さらに続きを見ていこう。

【日経の記事】

今回、中国は最初に大きな失敗を犯した。2019年12月初めに武漢で患者が発生した後、勇気ある医師が告発したのに当局は隠蔽した。公に人から人への感染を認めたのは今年1月20日。この間、感染者の国境を越える移動を止めなかったためウイルスは世界に広がった。

日本政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議のメンバーの尾身茂氏(地域医療機能推進機構理事長)は「原因不明でも感染症が疑われる事例があれば、国際保健規則は速やかに世界保健機関(WHO)に届け出ることを定めている。湖北省の幹部が知らないはずがない」という。

ただその後の対応は強権国家らしい大胆さである。人口1100万人の武漢市だけでなく湖北省も封鎖、団体の海外旅行禁止や工場の操業停止などを次々に打ち出した。マスクなしの外出をドローンで監視し「墨俣の一夜城」のように病院を次々に建てた。交通遮断の動きは浙江省温州市などにも広がり、個人の人権や企業活動の自由より感染拡大を力で押さえ込むのを優先する姿勢を鮮明にしている。

日本の対応はどうだったか。まず武漢在住の邦人帰国のため中国にチャーター便を送ることに力を注ぎ、韓国など他国に先駆けて実現した。

とはいえ習近平国家主席の訪日という政治日程を控え、日本政府には遠慮があったようにもみえる。湖北省と浙江省に滞在した外国人は入国禁止にしているが、中国の他地域からの訪日客受け入れは拒否していない。

クルーズ船への対応には海外を中心に批判が相次いでいる。乗員乗客3700人といえば感染症が広がる1つの街を封鎖するような話だが、そこまでの覚悟があっての横浜港への入港だったかどうか。

後講釈になるが、(1)全員の感染の有無を速やかに判定する検査の供給力(2)着岸後に船内の衛生環境を改善する態勢(3)外国人に正確な情報を提供し、出身国政府に帰国支援を求める努力――。どれもすぐには整わなかったのである。

もともと船は英国船籍で日本政府に国際法上の義務はない。ただ人道的に考えると、今回の対応以外の選択肢も考えにくい。多数の日本人乗客がいる船の着岸を拒否し、窓のない客室で精神的に追い詰められた乗客の下船もさせないというのは、中国ならできたかもしれない。



◎「スペイン・インフルエンザ」との関連は?

メインテーマと思われる「微温的だった日本と強権的な中国の対応」に上記のくだりで触れている。しかし「スペイン・インフルエンザ」の話とは絡めていない。「100年前のことを長々と紹介」したのは何のためなのか、この段階では不明だ。

さらに見ていこう。

【日経の記事】

英調査会社キャピタル・エコノミクスのニール・シアリング氏は「中国の第1四半期の成長率は年率で2桁のマイナスになる」と予想する。習近平体制にとって景気悪化は大きな痛手だ。

それでも早期に感染を終息させ「ウイルスとの戦いの勝利」を宣言できれば、政治基盤が揺らぐことはないだろう。むしろ専制国家の方が人権を重視する民主主義国より感染症には強いという評価が下されるかもしれない。

イベント自粛や小中高への休校要請という厳戒モードに転換した安倍政権はどうか。景気の腰折れを防ぎ、習主席の訪日と東京五輪・パラリンピックを予定通り行う――。パンデミックが迫ってみると、いずれの目標もかなり難しい。五輪は、日本国内が終息しても世界で感染が続けば参加国が制限され競技が成り立たない事態も予想される

感染はいつピークアウトするのか。「史上最悪のインフルエンザ」を訳した西村秀一氏(国立病院機構仙台医療センターのウイルスセンター長)はこう話す。「まだ誰にもわからない」。疫病を完全に制御するのは難しい。政治の強度を試すゆえんである


◎やはり行数稼ぎにしか…

これで記事は終わり。「『史上最悪のインフルエンザ』を訳した西村秀一氏」のコメントを使ってはいるが、「スペイン・インフルエンザ」の話は結局絡んでこない。やはり行数稼ぎのために「100年前のことを長々と紹介した」と見るしかない。

書いている内容も独自性に欠ける。「日本」が「微温的」で「中国」が「強権的」なのは原田論説委員長に教えてもらわなくても、ほとんどの読者が知っているだろう。そこでどんな独自の視点を提供するかが腕の見せ所だが、腕を見せる気があるのかどうかも疑わしい内容だ。

習近平体制にとって景気悪化は大きな痛手だ。それでも早期に感染を終息させ『ウイルスとの戦いの勝利』を宣言できれば、政治基盤が揺らぐことはないだろう」--。この辺りも「それはそうでしょうね」と言うしかない当たり前の予測だ。

日本」に関してはさらに酷い。「安倍政権はどうか」と問いかけて「五輪は、日本国内が終息しても世界で感染が続けば参加国が制限され競技が成り立たない事態も予想される」とまで書いているのに、それがどう政治に影響するのか自らの見方は示していない。何のための論説委員長なのか。

そして「疫病を完全に制御するのは難しい。政治の強度を試すゆえんである」と成り行き注目型の結論で締めてしまう。紙面は埋めたかもしれないが、論説委員長という肩書に値する内容とは言い難い。


※今回取り上げた記事「核心~疫病が試す政治の強度
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20200302&ng=DGKKZO56194480Y0A220C2TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。原田亮介論説委員長への評価はDを維持する。原田論説委員長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「2%達成前に緩和見直すべき?」自論見えぬ日経 原田亮介論説委員長
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_77.html

財政再建へ具体論語らぬ日経 原田亮介論説委員長「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_33.html

日経 原田亮介論説委員長「核心~復活する呪術的経済」の問題点
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日経 原田亮介論説委員長「核心~メガは哺乳類になれるか」の説明下手
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中国「中進国の罠」への「処方箋」が苦しい日経 原田亮介論説委員長
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「中台のハイテク分断に現実味」が苦しい日経 原田亮介論説委員長
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2020年3月1日日曜日

東洋経済の特集「資産運用マニュアル」の「心得7カ条」に異議あり

週刊東洋経済3月7日号の特集「資産運用マニュアル」の中に、経済評論家の加谷珪一氏が書いた「長期投資のメリットをすべて享受する~資産運用の心得7カ条」という記事が載っている。この「心得」にいくつか異議を唱えたい。
博多リバレインモール(福岡市)※写真と本文は無関係

まず「(1)とにかく継続する」について見ていく。

【東洋経済の記事】

長期積み立て投資の最大のメリットは、長期的な経済成長の恩恵をそのまま享受できることである。過去60年における日本の名目GDP(国内総生産)成長率は平均7%程度だが、日本の株式市場の平均利回りも6%を超えており、経済成長とほぼ等しくなっている。つまりコツコツと投資を続けていれば、経済成長分の利益をかなりの確率で享受できる。6%のリターンというのは、高度成長、バブル経済とその崩壊、リーマンショックなどあらゆる相場を平均したものであり、投資期間が長ければ長いほど、平均的なリターンに近づいてくる。途中で投資をやめないことが重要である。



◎なぜ「積み立て」?

加谷氏によれば「長期的な資産形成を目指す場合には、コツコツと投資残高を積み上げていくやり方がベストだ」そうだ。しかし、記事を読んでも「積み立て」にこだわる理由はよく分からない。

長期的な経済成長の恩恵をそのまま享受」したいのなら、なるべく早めに投資金額を膨らませておくのが得策だ。平均すれば株式投資で「6%のリターン」を得られるとしよう。相続か何かで急に1000万円の資金を得たとする。これを全額すぐに株式投資に充てるのと、毎年100万円ずつ「コツコツと投資残高を積み上げていく」のと、どちらが「長期的な経済成長の恩恵」を「享受」しやすいだろうか。

もちろん前者だ。後者では最後の100万円を9年間も預金か何かで寝かせておくことになる。株式投資に充てるべきだと判断している金額が決まり、手元にその資金があるのなら「積み立て」にこだわる必要はない。

次は「(3)自身の価値観をしっかり持つ」を取り上げる。

【東洋経済の記事】

毎年100万円を積み立て、これに6%の利回りを当てはめてみると、30年後にはなんと8300万円を超える。富裕層入りが見えてくる数字だが、実際はどうだろうか。左ページ図は1985年から毎年100万円ずつ投資した場合の資産額推移だが、30年経過した2015年時点で8300万円とまさに理論値とぴったり一致している。これはバブル崩壊やリーマンショックといった大暴落を含んだ結果であり、少なくとも過去については理論どおりに推移したことを示している。



◎ご都合主義の臭いが…


なぜ「過去」を振り返る時に「1985年」を起点にしたのか。「30年」単位で考える場合、今なら「1990~2019年」にするのが自然だ。しかし、これだと「バブル崩壊」の影響はもろに受けるが「バブル」の恩恵は得られない。そこで「1985年から」にしたのではないか。だとしたらご都合主義の誹りは免れない。

最後に「(4)優良銘柄への投資を徹底する」にも注文を付けたい。

【東洋経済の記事】

具体的な投資対象だが、長期投資を試みる以上、10年で消滅してしまうような企業には投資できないので、必然的に著名な大企業が対象となる。こうした銘柄は高配当であることが多く、配当を再投資に回せば累積のリターンはさらに大きくなる。配当は使ってしまわず、再投資に回すのが原則である。近年、配当ではなく株主優待で還元する企業が増えているが、これは小売店に例えれば、お店で売っている商品を店主が消費してしまうことと同義であり、本当の意味での株主還元にはなっていない。株主優待を過度に重視する企業には注意したほうがよい



◎配当も大差ないのでは?

株主優待」に関して「小売店に例えれば、お店で売っている商品を店主が消費してしまうことと同義であり、本当の意味での株主還元にはなっていない」と加谷氏は言う。だったら「配当」も大差ない。「小売店に例えれば、お店のレジに入っているカネを店主が自分の財布に移す」ようなものだ。なのに「配当」だと「本当の意味での株主還元」になるのか。

個人的には、「配当」に着目するのはほぼ意味がないが「株主優待」は内容次第だと感じる。問題は身を削っているかどうかだ。

配当は企業が手持ちの資金を株主に配るので、必ず身を削る。配当を受け取ると、企業の価値が目減りして株価が下がるので、株主にとって基本的にプラスはない。しかし「株主優待」はそうとは限らない。

株主優待」で生活する著名投資家の桐谷広人氏の行動をテレビ番組で見ていると、株主優待券があるから頑張って映画を観ているのだと思える。映画館の運営会社が株主に優待券を配る場合、会社が負担する直接的なコストはほぼゼロだ。

ただ、本来ならば自腹で映画を観る人が株主だった場合、映画館の運営会社は得られるはずだった利益を優待券の配布で失う。この場合は身を削っていると言える。

ただ、桐谷氏のような株主の場合、運営会社は身を削らなくて済む。空いている席を無料で提供しただけだ(満席の場合は話が変わってくるが、ここでは無視する)。本来得られるべき利益は存在しない。

桐谷氏が映画を観ることに価値を感じている場合、そこで得られた価値は株式投資で得られたものだ。しかも投資対象の企業は身を削っていない(優待券の発送費用などはあるだろうが…)。

優待券をもらっても使わない株主も多いだろう。そう考えると「株主優待」を必ず使う人にとって、企業が身を削らない「株主優待」は魅力的だ。「株主優待」を「本当の意味での株主還元にはなっていない」などと否定的に捉える必要はない。


※今回取り上げた記事「長期投資のメリットをすべて享受する~資産運用の心得7カ条
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/23062


※記事の評価はD(問題あり)。加谷珪一氏への評価も暫定でDとする。