2022年7月31日日曜日

強引なストーリー展開が残念な日経1面「チャートは語る:出生率反転、波乗れぬ日本」

31日の日本経済新聞朝刊1面に載った「チャートは語る:出生率反転、波乗れぬ日本~先進国の8割上昇、夫在宅でも妻に負担偏重」という記事は問題が多かった。筆者ら(北爪匡記者と天野由輝子記者)は「自分たちの望むストーリー展開にするためなら強引にデータを利用しても良い」と覚悟を決めているのかもしれない。そこを具体的に見ていこう。

筑後川

【日経の記事】

先進国の8割で2021年の出生率が前年に比べて上昇した。新型コロナウイルス禍で出産を取り巻く状況がまだ厳しい中で反転した。ただ国の間の差も鮮明に現れた。男女が平等に子育てをする環境を整えてきた北欧などで回復の兆しが見えた一方、後れを取る日本や韓国は流れを変えられていない。

経済協力開発機構(OECD)に加盟する高所得国のうち、直近のデータが取得可能な23カ国の21年の合計特殊出生率を調べると、19カ国が20年を上回った。過去10年間に低下傾向にあった多くの国が足元で反転した格好だ。


◎なぜ全加盟国にしない?

先進国の8割で2021年の出生率が前年に比べて上昇した」と言うが「先進国」の定義が恣意的だ。「経済協力開発機構(OECD)に加盟する高所得国」としており、「高所得」の基準は示していない。なぜ「OECD」加盟国全体で見なかったのか。おそらく筆者らが望むデータにならないからだろう。

記事の続きを見ていこう。


【日経の記事】

21年の出生率に反映されるのは20年春から21年初にかけての子づくりの結果だ。まだワクチンが本格普及する前で健康不安も大きく、雇用や収入が不安定だった時期。スウェーデンのウプサラ大学の奥山陽子助教授は「出産を控える条件がそろい、21年の出産は減ると予想していた。それでも北欧などでは産むと決めた人が増えた」と話す。

理由を探るカギの一つが男女平等だ。20年から21年の国別の出生率の差とジェンダー格差を示す指標を比べると相関関係があった。世界経済フォーラム(WEF)の22年版ジェンダーギャップ(総合2面きょうのことば)指数で首位だったアイスランドの21年の出生率は1.82。20年から0.1改善し、今回調べた23カ国で2番目に伸びた。

19年まで出生率の落ち込みが大きかった同2位のフィンランドは2年連続で上昇し、21年は0.09伸びて1.46まで回復した。奥山氏は「長い時間をかけてジェンダー格差をなくしてきた北欧では家庭内で家事・育児にあてる時間の男女差が少なく、女性に負担が偏りにくい」と指摘。コロナ禍で在宅勤務が広がるなか「男性の子育ての力量が確認された」という。


◎強引すぎない?

理由を探るカギの一つが男女平等だ」と自分たちの好みに合ったストーリーを作り始めていく。「20年から21年の国別の出生率の差とジェンダー格差を示す指標を比べると相関関係があった」と言うが、それは恣意的に線引きした「先進国」での話であり、あくまで「相関関係」だ。

ジェンダー格差」は以前から小さいのに北欧などでも出生率の低下は続いていた。「19年まで出生率の落ち込みが大きかった同2位のフィンランド」と記事でも書いている。「ジェンダー格差」を減らせば少子化対策になるとしたら、フィンランドでの「出生率の落ち込み」はなぜ起きたのか。

さらに記事を見ていく。


【日経の記事】

先進国で女性の社会進出は少子化の一因とされ、1980年代には女性の就業率が上がるほど出生率は下がる傾向にあった。最近は北欧諸国などで経済的に自立した女性ほど子供を持つ傾向があり、直近5年では女性が労働参加する国ほど出生率も高い。

日本は女性の就業率が7割と比較的高いにもかかわらず出産につながりにくい。家事・育児分担の偏りや非正規雇用の割合の高さといった多岐にわたる原因が考えられる。保育の充実といった支援策に加え、男女の格差是正から賃金上昇の後押しまであらゆる政策を打ち出していく覚悟が必要になる。


◎先進国の中で見ても…

女性の社会進出は少子化の一因」とされるのが筆者らは嫌なのだろう。「直近5年では女性が労働参加する国ほど出生率も高い」と書いている。しかし具体的なデータはない。

基本的には新興国や途上国で出生率が高く、先進国では低い。「女性が労働参加する国」は新興国や途上国に偏っているのか。おそらく「先進国の中でしか見ていない」という話だろう。新興国や途上国を含めて考えると「少子化を克服したかったら先進国的ではダメだ」という結論になるのが自然だ。

それが筆者らには受け入れられない。だから先進国以外は視界から外してデータを強引に解釈して都合の良いストーリーに仕上げてしまう。そこに説得力があるかと言うと…。

答えは言うまでもない。


※今回取り上げた記事「チャートは語る:出生率反転、波乗れぬ日本~先進国の8割上昇、夫在宅でも妻に負担偏重

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220731&ng=DGKKZO63058800R30C22A7MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

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