2022年3月5日土曜日

男性のみ兵役義務がある韓国を「男性優位社会」と断定する日経の記事に思うこと

4日の日本経済新聞朝刊国際面に載った「〈格差と葛藤 韓国大統領選〉(上)かすむ20代女性『イデニョ』 若い男性層、強まる影響力~野党・尹氏は『女性家族省廃止』」には引っかかるものを感じた。どこに焦点を当てどの側に立つかは筆者の勝手ではある。だが差別に苦しんでいる側を軽く扱う姿勢は支持できない。

両筑橋

記事の前半を見ていく。

【日経の記事】

2月26日、ソウルきっての若者の街、弘大(ホンデ)。保守系最大野党「国民の力」の尹錫悦(ユン・ソクヨル)候補の遊説では、熱心に声援を送る若い男性の姿が目立った。

「文在寅(ムン・ジェイン)政権は公正を叫びながら自分の利益を追求し、社会を分断させた。尹氏なら公正と常識を取り戻してくれる。友達もほとんどが尹氏支持だ」。演説を聞きにきた大学生の男性は語る。

韓国で近年、政治勢力として急速に台頭するのが「イデナム」(20代男性を指す略語)だ。韓国はなお男性優位社会だが、男女平等の教育を受けて育った若い男性の認識は異なる。男性だけの兵役義務や一定以上の女性比率を義務付けるクオータ制などで、男性が逆差別を受けているとの不満が爆発している


◎韓国は「男性優位社会」?

韓国はなお男性優位社会」だと記事では断言しているが、根拠は示していない。何を基準にするかで「男性優位社会」かどうかは変わってくるはずだ。「男性だけの兵役義務」という強烈な性差別があるのだから、それを打ち消して余りある男性優遇がない限り「男性優位社会」だとは思えない。さらに国会議員の比例代表に関して「一定以上の女性比率を義務付けるクオータ制」まで導入しているのならば「女性優位社会」と見るのが自然だ。

男女平等の教育を受けて育った」人ならば「不満が爆発」するのは当然だろう。「逆差別」というより単なる性差別だ。女性も「男女平等の教育を受けて育った」はずなのに「男性だけの兵役義務」はおかしいと声を上げないのか。

記事の続きを見ていこう。


【日経の記事】

こうした声をすくい上げているのが尹氏だ。一時は著名フェミニストを要職に迎え女性票を狙ったが、20代男性のアイコンである李俊錫(イ・ジュンソク)党代表と選挙協力で合意してからはイデナムに焦点を絞った。

「女性家族省廃止」――。尹氏は1月7日、自身のフェイスブックにたった7文字のメッセージを載せた。同省は若い男性から文政権の女性優遇政策の象徴と受け止められている省庁だ。

韓国メディアによると、尹氏は遊説で男女が平等に恩恵を享受する「ジェンダー予算」に30兆ウォン(約2兆9000万円)が使われていると指摘。その一部を回すだけで北朝鮮の核の脅威を食い止められると発言した。女性団体からは猛抗議を受けたが、イデナム結集には一役買った。

一方、与党「共に民主党」の李在明(イ・ジェミョン)候補は歯切れが悪い。2月25日の韓国ギャラップの世論調査では20代男性の与党支持が15%にとどまる一方、「イデニョ」(20代女性を指す略語)は29%だ。李在明氏の潜在的支持層といえるが、ジェンダー政策を強調すればイデナムの支持を失いかねないジレンマがある。

民主党は3人の自治体首長がセクハラ事件を起こしたが、被害者でなく身内をかばい猛批判された苦い記憶がある。「女性の味方」を名乗りにくい事情もある。

イデナムの影響力が強まるなか、イデニョはいま、何を思うのか。ソウルの学生街で話を聞いてみると、考え方も意中の候補もさまざまだった。

イデナムと呼ばれる人びとが女性の人権をおとしめることに熱を上げているようで残念」。大学生の金施演(キム・シヨン)さん(20)は語る。「尹候補は女性家族省の廃止を掲げるが、廃止ではなく改革を主張する候補もいるし、ジェンダー平等を掲げる候補もいる。公約をみて選びたい」


◎徴兵での性差別をどう思うか聞いてほしい

イデナムと呼ばれる人びとが女性の人権をおとしめることに熱を上げているようで残念」という「金施演(キム・シヨン)さん」のコメントを今回のような形で使うのは感心しない。このコメントを入れたいならば「イデナムと呼ばれる人びとが女性の人権をおとしめることに熱を上げている」と取れる具体例が欲しい。

それより知りたいのが「イデニョ」である「金施演(キム・シヨン)さん」が「男性だけの兵役義務」をはじめとする性差別制度をどう見ているのかだ。「ジェンダー平等を掲げる候補」を好意的に見ているのならば「男性だけの兵役義務」はおかしいと感じるのが当然だと思えるが…。

記事に出てくるもう1人の「イデニョ」の発言も見てみよう。


【日経の記事】

大学院生の李銀美(イ・ウンミ)さん(26)は「主要4候補のうち、女性や障がい者など疎外された側に配慮する候補に投票したい」という。イデニョの意見を総合すると、人物よりも公約重視、尹氏には批判的で、まだ候補を決めていない人もいた。


◎どこが「疎外」?

李銀美(イ・ウンミ)さん」のコメントも、このまま使うのは頂けない。「女性」を「疎外された側」と断定しているものの、その根拠は見当たらない。「男性だけの兵役義務」があり、国会議員に関しても「一定以上の女性比率を義務付けるクオータ制」を導入済み。しかも「若い男性から文政権の女性優遇政策の象徴と受け止められている省庁」である「女性家族省」まであるらしい。なのになぜ「女性」は「疎外された側」と言えるのか。「優遇」されている側と見るのが自然だ。

筆者は韓国の「女性優遇政策」を支持したい気持ちがあるのだろう。それはそれで尊重したい。しかし根拠も示さず「韓国はなお男性優位社会」と断定した上で、女性側の根拠薄弱なコメントをそのまま使うのは好ましくない。

男性だけの兵役義務」が明らかな性差別なのは筆者にも分かるはずだ。韓国ではそれを上回る圧倒的な女性差別制度があるのならば記事の中で説明してほしい。「そんな強烈な女性差別はない」と思えるのならば、あからさまな性差別に苦しむ韓国の男性にもっと寄り添ってはどうか。

今の韓国に「男性だけの兵役義務」などの性差別制度は必要なのか。それを改めて考えてほしい。


※今回取り上げた記事「〈格差と葛藤 韓国大統領選〉(上)かすむ20代女性『イデニョ』 若い男性層、強まる影響力~野党・尹氏は『女性家族省廃止』

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220304&ng=DGKKZO58767720T00C22A3FF8000


※記事の評価はD(問題あり)

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