2016年6月22日水曜日

構成に難あり 日経 鈴木亮編集委員の「マネー底流潮流」

21日の日本経済新聞夕刊マーケット・投資2面に鈴木亮編集委員が書いた「マネー底流潮流~英投票 もう一つの読み方」という記事はツッコミどころの多い内容だった。記事の全文を見た上で、問題点を列挙したい。
加藤清正公像(熊本市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

世界のマーケットを揺さぶっている英国の欧州連合(EU)からの離脱騒動も終盤戦、いよいよ23日の投票日が迫ってきた。先週は離脱派が有利との世論調査が伝わり、円高・株安が進んだ。一方、英国のブックメーカー(賭け屋)の予想では、残留派の有利が続いている

ヒト(世論調査)とカネ(ブックメーカー)、どちらを信じるか。ロンドン駐在時代の取材先が面白い指摘をしてくれた。「盛り上がっているのはイングランドだけ。スコットランドもウェールズも無関心、北アイルランドでは何の話題にもなっていない

聞くとスコットランドは五大政党のすべてが残留支持で、同国の世論調査では75%が残留派だった例もあるという。北アイルランドに至ってはそれ以上が残留支持で、理由はEUを離脱すると、国境を接しているアイルランドとの交易に支障が出るからだ。北アイルランドの主力産業のひとつは農業で、輸出の34%がアイルランド向けだ。

イングランド以外の3国はEU離脱に反対か無関心が大半で、投票に行かないか、残留に1票を投じる住民が多くなりそうだ。世論調査とブックメーカーの賭け率に差があるのは、このあたりが要因の一つなのかもしれない

イングランドで離脱を支持しているのはシニア層が多い。彼らは東欧などからの移民が社会保障などの恩恵を受け、英国民の仕事を奪っていると不満を持つ。不満の根底にあるのはドイツへの嫌悪感だ。難民問題だけでなく、金融や貿易など様々なルールをEUが主導し、英国に押しつけていると感じている。

EUを牛耳っているのはドイツだから、英国のシニア層は反EUというより嫌ドイツだ。英国で18年金融業務に関わった投資ファンド社長の青木健太郎氏は「EU離脱はイングランドのシニアにとって、武器を使わない第3次世界大戦なのかもしれない」と語る。

世界を揺るがせた英国のEU離脱騒動だが、16日に悲しい事件が起きた。労働党の女性議員で残留支持だったジョー・コックスさんが、離脱派とみられる男性に襲撃され、死亡した。2児の母でもあり労働党のホープだった。「じょ

この痛ましい事件を受けて離脱派の勢いは消沈している。流れは変わった。ポンド相場は17日に急騰し、日本株市場でも先物の買い戻しが入った。国民投票の結果が判明するのは日本時間の24日午後だが、答えは出たと言ったら言い過ぎだろうか。

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◎スコットランドは「国」?

スコットランドや北アイルランドを「」と呼ぶのが間違いだとは言わないが、英国の中に4つの国があると見なすとかなり分かりにくい。きちんと英国の構成について説明した上で「」という表現を使うか、「」扱いを避けるのが賢明だと思える。例えば「同国の世論調査同地域の世論調査」「イングランド以外の3国イングランド以外の3地域」と言い換えても、問題は生じないはずだ。

◎交易に支障が出るのに「話題にもなっていない」?

盛り上がっているのはイングランドだけ。スコットランドもウェールズも無関心、北アイルランドでは何の話題にもなっていない」とのコメントを紹介した後で「北アイルランドに至ってはそれ以上が残留支持で、理由はEUを離脱すると、国境を接しているアイルランドとの交易に支障が出るからだ」と鈴木編集委員は書いている。北アイルランドでは本当にEU離脱が「何の話題にもなっていない」のだろうか。

◎なぜ「差」が生まれる?

イングランド以外の3国はEU離脱に反対か無関心が大半で、投票に行かないか、残留に1票を投じる住民が多くなりそうだ。世論調査とブックメーカーの賭け率に差があるのは、このあたりが要因の一つなのかもしれない」という説明が、この記事で最も引っかかった部分だ。

例えば「世論調査はイングランドの住民しか調べない」という事情があるのならば、「ブックメーカーの賭け率」と「世論調査」が食い違うのも分かる。ただ、常識的に考えれば、英国全体の住民を対象に調査しそうなものだ。仮にイングランド以外の住民の動向は世論調査に反映されにくい仕組みになっているのならば、そこは説明が要る。

あるいは「イングランドを除くと、世論調査で離脱賛成と答える人の多くが投票に行かない」と言いたいのかもしれない。ただ、「スコットランドもウェールズも無関心。北アイルランドでは何の話題にもなっていない」のであれば、離脱反対派も同じように投票に行かないのではないか。色々考えたが、鈴木編集委員が何を言いたいのか解読できなかった。

◎記事の前半は何のため?

そもそも「ブックメーカーと世論調査」とか「イングランドとそれ以外」を記事の前半で論じたのは何のためなのか。その後は「イングランドで離脱を支持しているのはシニア層が多い」「イングランドのシニアにとって、武器を使わない第3次世界大戦なのかもしれない」といった話に移り、さらには女性議員襲撃事件へと展開していく。

この構成だと、記事の前半と後半につながりが乏しい。断絶があると言ってもいい。結局、「英国のEU離脱問題について、思い付くままにあれこれ書いてみました」とでも言うべき内容になっている。次からは「何を自分は訴えたいのか」をしっかり考えた上で、記事の結論に説得力を持たせるようなストーリーを生み出してほしい。

今回の記事で言えば、「国民投票の結果が判明するのは日本時間の24日午後だが、答えは出たと言ったら言い過ぎだろうか」という結論自体は問題ない。ただ、その根拠は女性議員襲撃事件しか見当たらない。だとしたら、「不満の根底にあるのはドイツへの嫌悪感だ」といった関連性の低い話は省いて、襲撃事件を記事の中心に据えるべきだろう。

◎見出しの「もう一つの読み方」とは?

今回の記事に付いた「英投票 もう一つの読み方」という見出しもよく分からない。まず世間で広く知られた「読み方A」があって、それとは異なる「読み方B」を記事で紹介したと言いたいのだろう。しかし、何がAかBか謎だ。

「世論調査から読む」がAで「ブックメーカーから読む」がBなのか。それとも「イングランド目線で読む」がAで「イングランド以外の目線で読む」がBなのか。あれこれ考えてみたが、どれもしっくり来ない。

ただ、見出しを付けた整理部の担当者を責めるのは酷だ。焦点が絞れていない構成ゆえに、分かりにくい見出しで逃げるしか手がなかったのだろう。


※記事の評価はD(問題あり)。鈴木亮編集委員への評価はC(平均的)からDへ引き下げる。

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