2022年8月14日日曜日

野口悠紀雄氏のMMT批判が説得力欠くダイヤモンドオンラインの記事

一橋大学名誉教授の野口悠紀雄氏を経済評論家として高く評価してきたが11日付のダイヤモンドオンラインに載った「コロナ禍で“盛況”だった『MMT』はやはりインフレで破綻した」という記事には失望した。「MMT」が「インフレで破綻した」と思える内容になっていないからだ。記事の一部を見ていこう。

夕暮れ時

【ダイヤモンドオンラインの記事】

MMT(現代貨幣理論)という考えがある。

自国通貨で国債を発行できる国は決してデフォルトしない。だから、税などの負担なしに、国債を財源としていくらでも財政支出ができるという主張だ。

コロナ禍ではMMTを地で行くような大規模財政支出が米国や日本などで行われてきた。

従来の正統的な考えは、「国債を財源とすれば負担感がないので、財政支出が膨張しすぎ、インフレになる。だから、こうした財政運営を行ってはならない」とされてきた。

MMTは、従来の経済理論に対する挑戦と言われた。

しかし実は、新しい内容はほとんどない。これまでの経済理論の寄せ集めなのだが、従来の理論との唯一の違いは、こうした財政運営をすればインフレになることの危険を軽視したことだ。

「インフレにならないように注意すれば大丈夫」だと、いわば、最も重要な点をMMT論者ははぐらかしたわけだ


◎逆では?

厳密に言うと「自国通貨で国債を発行できる国は決してデフォルトしない」と「MMT」では考えない。例外的な「デフォルト」を否定していない。

上記の説明でさらに問題なのは「従来の理論との唯一の違いは、こうした財政運営をすればインフレになることの危険を軽視したこと」とのくだりだ。「最も重要な点をMMT論者ははぐらかした」と野口氏は断言するが、そんなことはない。

MMT主唱者のステファニー・ケルトン氏は著書の中で以下のように述べている。

過剰な支出によってインフレが起きてしまってから、事後的にインフレと戦うのは避けたい。議会が新たなプログラムへの支出を決定する前に、CBOのような政府機関が、新たな法律にインフレリスクがないか評価することで、リスクを事前に抑えるのが好ましい。要するにMMTは、財政支出に対する人工的制約(歳入)を、真の制約(インフレ)に置き換えることを目指している

これを受けて、「MMT」に関して「インフレになることの危険を軽視した」「最も重要な点をMMT論者ははぐらかした」などと訴えるのは無理がある。「過剰な支出によってインフレが起きてしまってから、事後的にインフレと戦うのは避けたい」とまでケルトン氏は述べているのだ。

野口氏の主張をさらに見ていこう。


【ダイヤモンドオンラインの記事】

MMTは、国債依存の財政運営は、「インフレが起きないかぎり、続けられる」としていた。

しかし、コロナの収束が視野に入って経済活動が再開されてくると、アメリカではインフレが起きてしまった。

6月の消費者物価の上昇率は前年比9.1増。ウクライナ戦争による資源価格上昇の影響もあるとはいえ、約40年半ぶりという高インフレだ。

同じような状況がヨーロッパでも他の国でも起きている。

つまり、多くの人が危惧していたように、MMTは実際には機能しないことが証明されたのだ。


◎おかしな説明では?

MMT」が「国債依存の財政運営は、『インフレが起きないかぎり、続けられる』」と主張しているとしよう。この主張は「高インフレ」が起きると「実際には機能しないことが証明され」るだろうか。

国債依存の財政運営でインフレが起きることはない」と訴えていたのならば分かる。しかし、そうした主張を「MMT」はしていない。「過剰な支出によってインフレが起き」ることを「MMT」は想定しているし危惧してもいる。

さらに続きを見ていく。


【ダイヤモンドオンラインの記事】

経済学の教科書には、MMTが主張するような財政運営を行なえば、必ずインフレーションが起きると書いてある。

インフレが起きると人々の購買力が減るから、インフレは税の一種だ。しかも、所得の低い人に対して重い負担を課す過酷な税だ。

その通りであることが実証されたのだ。

誰も負担をせずに、財政支出の利益だけを享受できるという魔法が実現できるはずはない。”打出の小づち”などあり得ないというごく当たり前のことが実証されただけだと言える


◎それはMMTも訴えているが…

”打出の小づち”などあり得ないというごく当たり前のことが実証されただけだと言える」と書いてあると「MMT」は「”打出の小づち”」があり得ると主張しているように見える。もちろん、そうではない。

政府支出には何の制約もないのだろうか。じゃんじゃん紙幣を印刷すれば経済は繫栄するのか。とんでもない。MMTは打出の小槌ではない。非常に重要な制約は存在する。それを見きわめ、尊重しなければ、とんでもないことになる」とケルトン氏は述べている。野口氏の見方とかなり近い。

今回の記事の中で「MMTの主張者の1人、ステファニー・ケルトン・ニューヨーク州立大学教授は、『支出を行なう際に適切な措置が行われなかったからだ』と防戦しているが、説得性に欠けることは否めない」とも野口氏は書いている。どこが「説得性に欠ける」のか。「MMTは、財政支出に対する人工的制約(歳入)を、真の制約(インフレ)に置き換えることを目指している」。その「置き換え」が実現したのに「高インフレ」になったと言うなら、野口氏の主張には多少は説得力があるが…。

「野口氏もそろそろ書き手としての引退を考えた方が良いのでは」と思える記事だった。



※今回取り上げた記事「コロナ禍で“盛況”だった『MMT』はやはりインフレで破綻した

https://diamond.jp/articles/-/307887


※記事の評価はD(問題あり)

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