2022年6月22日水曜日

効果の乏しそうな「手」が並んだ日経連載「少子化打つ手はないか」

 日本経済新聞朝刊 経済教室面で20~22日に連載した「少子化打つ手はないか」は失望させられる内容だった。筆者3人の主張の「ポイント」を並べてみよう。


夕暮れ時

(1)松田茂樹 中京大学教授

・個人や世帯の特性問わない総域的対策を

・現物給付拡充も現金給付はかなり低水準

・財源確保へ国民の幅広い費用負担が必要


(2)前田正子 甲南大学教授

・少子化対策は財源問題を抱えつぎはぎに

・自治体格差や利用者属性による格差も

・子どもや若者守るという社会の覚悟示せ


(3)脇坂明 学習院大学教授

・父親の育児短時間勤務の利用なお低水準

・祖父母が育児休業をとれる制度も検討を

・テレワーク普及へ管理職の利用促進図れ


◎結局、打つ手はない?

少子化打つ手はないか」との問いに関して言えば、当然に「打つ手」はある。だが、先進国的な枠組みを前提にすると、有効な「打つ手」は見当たらない。「有効な手」とは「人口置換水準である出生率2強を確保できる手」との前提で話を進めたい。

上記の3氏は連載の中であれこれと語っているが、誰も「有効な手」を教えてくれない。特に前田氏と脇坂氏は具体性に欠ける話が多く、編集側も「ポイント」を挙げるのに苦労したのではないか。脇坂氏の「祖父母が育児休業をとれる制度も検討を」は具体策ではあるが、これで出生率が大きく上がると考える人はほぼゼロだろう。

3氏の中で最も具体性があると感じた松田氏の主張をもう少し詳しく見てみよう。

【日経の記事】

今後少子化対策を総域的に推進するために、2点の優先的な取り組みが求められる。

第1に現金給付の充実だ。主要国に比べ日本の現金給付水準は大幅に低い。表に家族関係社会支出(子育て支援への支出におおむね相当)の国内総生産(GDP)比と国民負担率(国民所得に占める税と社会保障負担の割合)を示した。

日本は17年時点で現金給付のGDP比が0.65%、現物給付が0.93%、税制が0.2%で、合計1.8%だ。20年時点では現物給付のGDP比が1.3%に高まったことで、合計も2.1%に上昇した。それでも主要国と比較すると、現物給付の水準は英仏とほぼ同程度になったが、現金給付および現金給付と税制の合計については欧州主要国よりも大幅に低いままだ


◎相変わらず欧州と比べたがるが…

少子化問題を語る上で気を付けたいのが「欧州見習え論」だ。進歩的な考え方をする論者の多くがこの罠にはまってしまう。「欧州主要国」で人口置換水準を安定的に上回っている国はない。つまり、どの国も有効な手を打てていない。移民の高い出生率という支えがあるフランスでも人口置換水準に届かないのだから、「欧州」的(「先進国」的と言ってもいい)なアプローチで少子化の克服は難しいと見るべきだ。

松田氏を含め、今回の連載の筆者3人は「欧州見習え論」を展開はしていない。しかし、どうしても「欧州主要国」との比較はやめられないようだ。

現金給付および現金給付と税制の合計については欧州主要国よりも大幅に低いまま」だとして、それを「欧州主要国」の水準に合わせると少子化を克服できるのならば「打つ手」として検討してもいい。しかし、そういう状況にはない。

出生率を学校の成績に例えれば、「欧州主要国」も日本も「劣等生」だ。世界には「優等生」もいるのだから、そこを見習えば早いのだが、どうしても多くの論者が嫌がってしまう。優等生の多くが途上国だからだ。

先進国よりも途上国の方が圧倒的に出生率が高い。終戦直後の貧しい時代の方が、食うに困らない令和の日本よりはるかに出生率が高い。こうした事実からは「出生率を上げたかったら昔に戻れ。途上国的であれ」という仮説を導き出したくなる。

しかし先進国的な枠組みに慣れた人にとっては抵抗が強い。自分もその1人だ。だから「少子化は放置でいい」と訴えている。だが「少子化は克服すべき」という考えを捨てないままの人は、苦しい主張に追い込まれていく。

松田氏も「現金給付の充実」をしていけば出生率を大幅に引き上げられるとは唱えていない。記事ではこの後「第2に現物給付については、結婚・出生を総域的に支えるように充実させていくことが期待される」とも書いているが、どの程度の効果が見込めるかは触れていない。

では先進国的な枠組みを外して考えると、どんな手が打てるか。個人的には「子供がいない人に限った徴兵制」を導入すると良いのではと思う。例えば30歳、35歳、40歳でそれぞれ半年程度の徴兵を義務化し、子供がいる人は徴兵免除とする。

徴兵期間にはもちろん訓練もするが男女が行動を共にすることで恋愛が生まれやすくなる工夫を凝らして実質的には婚活の場とする。

徴兵忌避の傾向は強そうなので、少子化対策としては効果が大きいと見ている。ただ、今の日本で実施するのは難しいし、もちろん先進国的ではない。

こうした選択肢を排除していくと、今回の3氏のように当り障りはないが効果も乏しそうな対策が並んでしまう。

結局、少子化は放置でいい。人がどんどん減っていけば、ある時点で底を打つと見ている。仮に底を打たなくても、それが人々の自由な選択に基づくものならば受け入れたい。


※今回取り上げた記事「経済教室:少子化に打つ手はないか(上) 幅広い支援と現金給付充実」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220620&ng=DGKKZO61799830X10C22A6KE8000


※連載への評価はD(問題あり)

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