2019年9月19日木曜日

「儒教資本主義のワナ」が強引すぎる日経 梶原誠氏「Deep Insight」

19日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~韓国、儒教資本主義のワナ」という記事で筆者の梶原誠氏(肩書は本社コメンテーター)は「(韓国では)『儒教資本主義』の限界が露呈している」と解説している。しかし、かなり強引な分析だ。当該部分を見ていこう。
瑞鳳殿(仙台市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

韓国で一体何が起きているのか。人々の行動の根底にある風土に着目すると、理解が一気に深まるだろう。「儒教資本主義」の限界が露呈している――と。

儒教は中国の孔子の教えを起源とする思想だ。14世紀ごろから朝鮮半島で独自の進化を遂げ、今も人々の生活に根強く残っている。

今こそ注目すべきなのは、儒教を普及させてきた特権階級「両班(ヤンバン)」の間で、「匠(たくみ)」が軽視されていた事実だ。農工業から料理まで、物作りは使用人の仕事で尊敬されなかった

そんな風土が部品産業、特に同産業を支える中小企業の弱さを招いた。1950年代の朝鮮戦争の荒廃から製造業を立て直す際、部品や素材は技術を持つ日本に頼った。その後も「産業の両班」である財閥は、製品の納入を渇望する下請けに低価格を求め、技術革新への資金的な余力を削った。

韓国は半導体や自動車などで輸出立国として成長したが、裏では技術面で頼りにする日本向けの貿易赤字が拡大していった。日本の輸出管理の厳格化は、韓国の「不都合な真実」を露呈させた。


◎なぜ「部品産業」だけ育たない?

農工業から料理まで、物作りは使用人の仕事で尊敬されなかった」のが「儒教」の教えによるものか怪しい気もするが、とりあえず受け入れてみる。

「だから製造業が育たなかった。有力企業はサービス業ばかり」となるならば分かる。しかし、なぜか「部品産業」に限って「弱さを招いた」という。「『匠』が軽視されていた」のならば「半導体や自動車などで輸出立国として成長」するのは難しいだろう。しかし「半導体や自動車」といった「物作り」では成功している。辻褄が合っていない。

さらに記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

曺法相の疑惑も、儒教全盛期の暗部と重なる。エリート官僚への登竜門となる試験「科挙」は事実上、両班しか受けられなかった。持てる者がもっと持ち、持たざる者は取り残された。

格差の構図は今も変わらない。金持ちが、有力塾のあるソウルの高級住宅地に住み、子弟が有名大に入り、財閥に就職していく。曺法相が人々の怒りを買ったのも、同氏が立場を悪用して娘を進学させた疑惑が浮上したからだ


◎さらに話が苦しいような…

曺法相の疑惑」と「儒教資本主義」の関連は薄そうだし、「『科挙』は事実上、両班しか受けられなかった」のが「儒教」の教えと関係あるのか不明だが、これも受け入れてみよう。ただ、今の「格差の構図」が「儒教全盛期の暗部と重なる」とは思えない。

有名大」や「財閥」が特権階級にしか門戸を開いていないのならば「儒教全盛期の暗部と重なる」だろう。しかし、厳しい試験を突破すれば誰でも「有名大」や「財閥」に入れるのではないか。となると「重なる」感じはしない。

立場を悪用して娘を進学させた疑惑」が「人々の怒りを買った」のであれば、韓国は「特権階級が優遇されることを当然視する社会」ではないはずだ。

韓国で一体何が起きているのか。人々の行動の根底にある風土に着目すると、理解が一気に深まるだろう。『儒教資本主義』の限界が露呈している――と

梶原氏はそう言い切っていたが「『儒教資本主義』の限界が露呈している」とは記事からは読み取れなかった。そもそも「儒教資本主義」なのかとの疑問が残った。

さらに言えば、「儒教を普及させてきた特権階級『両班(ヤンバン)』」の影響が根強く残っているのならば、「両班資本主義」の方がしっくり来る。「儒教資本主義」と呼ぶ場合、「儒教」の核となる教えに強い影響を受けた「資本主義」でないと苦しい。

割り当てられた紙面を埋めるために梶原氏が無理をして話を捻り出したのだとは思うが、やはり今回の記事も無理がある。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~韓国、儒教資本主義のワナ
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO49939670Y9A910C1TCT000/


※記事の評価はD(問題あり)。梶原誠氏への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。梶原氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 梶原誠編集委員に感じる限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_14.html

読む方も辛い 日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post.html

日経 梶原誠編集委員の「一目均衡」に見えるご都合主義
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_17.html

ネタに困って自己複製に走る日経 梶原誠編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_18.html

似た中身で3回?日経 梶原誠編集委員に残る流用疑惑
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_19.html

勝者なのに「善戦」? 日経 梶原誠編集委員「内向く世界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_26.html

国防費は「歳入」の一部? 日経 梶原誠編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_23.html

「時価総額のGDP比」巡る日経 梶原誠氏の勘違い
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/gdp.html

日経 梶原誠氏「グローバル・ファーストへ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/04/blog-post_64.html

「米国は中国を弱小国と見ていた」と日経 梶原誠氏は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_67.html

日経 梶原誠氏「ロス米商務長官の今と昔」に感じる無意味
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post.html

ツッコミどころ多い日経 梶原誠氏の「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/deep-insight.html

低い韓国債利回りを日経 梶原誠氏は「謎」と言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_8.html

「地域独占」の銀行がある? 日経 梶原誠氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_18.html

日経 梶原誠氏「日本はジャンク債ゼロ」と訴える意味ある?
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_25.html

「バブル崩壊後の最高値27年ぶり更新」と誤った日経 梶原誠氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/27.html

地銀は「無理な投資」でまだ失敗してない? 日経 梶原誠氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_56.html

「日産・ルノーの少数株主が納得」? 日経 梶原誠氏の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_13.html

「霞が関とのしがらみ」は東京限定? 日経 梶原誠氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/deep-insight.html

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