2019年2月14日木曜日

「鉄道会社の淘汰の時代」に説得力なし 東洋経済 大坂直樹記者

週刊東洋経済2月16日号の特集「最強の通勤電車」の中の「じわり広がる鉄道各社間の格差 鉄道会社の淘汰の時代はすでに始まりつつある」という記事は看板に偽りありだ。記事を最後まで読んでも「鉄道会社の淘汰の時代はすでに始まりつつある」とは感じられない。
田島神社(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係

冒頭で「大手鉄道会社間の格差がじわじわと広がっている」と打ち出し、「大手私鉄16社とJR東日本の関東圏在来線、JR西日本の近畿圏在来線について2009年度の輸送人キロを100とした場合の17年度までの状況」を分析しているので、記事で言う「鉄道会社の淘汰」とは「大手鉄道会社」に関するものだろう(大手以外に言及したくだりは記事中にない)。「淘汰」に関しては、記事の終盤に唐突に出てくる。そこを見ていこう。

【東洋経済の記事】

一方で、鉄道各社は設備投資額を年々増やしている(図3の上)。車両の更新・改良、運転保安設備整備、踏切の改良といった安全面の投資に加え、エレベーター、エスカレーター、ホームドアの設置といったサービス面の投資に力を入れている。

06年施行のバリアフリー新法は、20年度までに全国の主要3575駅にエレベーター、エスカレーターなどを設置し、段差を解消することを求めている。18年3月末時点で約9割の駅に設置され、目標達成が見えてきた。

ホームドアの設置駅数も増え、800駅の設置目標に対して18年3月末時点で725駅が設置済みだ(図4の左)。しかし、設置済みの駅には利用者が少ない駅も多く、国が求める利用者10万人以上の駅では約6割がホームドア未設置だ(図4の右)。
 そんな中でホームドア設置に力を注ぐのが東京メトロだ。25年度までに全路線全駅への設置を目指す。丸ノ内線、日比谷線などでの新型車両の導入にも積極的で、他社と比較すると設備投資の大きさが際立つ(図3の下)。

設備投資額が東京メトロに次いで大きいのが東急電鉄だ。沿線には、自由が丘や二子玉川といった人気のエリアが多く、高橋和夫社長は「想定以上に沿線人口が増えている」と語る。それゆえ鉄道の混雑率が高いという悩みを抱えるが、それ以外のサービス改善でカバーしようと投資を惜しまない。ホームドアも東横線と田園都市線の全駅に19年度中に設置予定だ。

沿線の魅力が高まれば、ほかの地域から人口が流入し、鉄道利用者を増やし続けることができる。そのためには、鉄道の安全性やサービス改善は欠かせない。

長期にわたる設備投資額が将来生き残る路線を決めるといっても過言ではない。鉄道会社淘汰の時代は始まりつつある


◎説得力ゼロでは?

鉄道各社」の「設備投資」についてあれこれ書いた後で「長期にわたる設備投資額が将来生き残る路線を決めるといっても過言ではない」と導いているのは分かる。問題は最後の「鉄道会社淘汰の時代は始まりつつある」だ。これに説得力を持たせる材料はほとんどない。

鉄道会社淘汰の時代は始まりつつある」との結論に説得力を持たせるためには、「大手鉄道会社」の一部で単独での生き残りが難しくなっている状況を描く必要がある。しかし、記事にはそうした記述は見当たらない。「大手鉄道会社間の格差がじわじわと広がっている」としても、「鉄道会社淘汰の時代」が「始まりつつある」と言える訳ではない。

鉄道会社の淘汰の時代はすでに始まりつつある」と見出しでも打ち出しているのだから「近い将来、淘汰される大手鉄道会社が出てきてもおかしくないな」と読者に思わせる内容にすべきだ。

この記事に関しては前半にも問題を感じた。そこも見ておく。

【東洋経済の記事】

大手鉄道会社間の格差がじわじわと広がっている。図1「輸送人キロ」(乗客数に各人の利用距離を乗じたもの)で比較してみよう。大手私鉄16社とJR東日本の関東圏在来線、JR西日本の近畿圏在来線について2009年度の輸送人キロを100とした場合の17年度までの状況だ。

最も伸びたのは東京メトロ。堅調な景気を背景にビジネス利用が増えており、インバウンドなどの観光利用者が上乗せされた。

2位は阪神電鉄。09年の阪神なんば線開業で沿線の利便性が向上し、利用者が増えた。3位京成、4位名鉄はどちらも空港アクセス鉄道が絶好調だ。

一方で、17位の西鉄、18位の近鉄は09年度よりも利用状況が悪化した。西鉄は福岡が地盤。近鉄は路線距離が私鉄最大で、2府3県にまたがる。東京、大阪という大都市を外れると、大手鉄道会社といえども安泰ではない


◎話が違うような…

引っかかるのは「東京、大阪という大都市を外れると、大手鉄道会社といえども安泰ではない」という解説だ。「4位名鉄」は「空港アクセス鉄道が絶好調」らしい。しかし「東京、大阪という大都市を外れ」ている。

一方、「18位の近鉄は09年度よりも利用状況が悪化した」ものの「大阪」からは「外れ」ていない。どうも話が違う。

結局、この記事ではまともな分析ができていない。筆者の大坂直樹記者に猛省を促したい。


※今回取り上げた特集「最強の通勤電車
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/19932


※特集全体も当該記事も評価はD(問題あり)。大坂直樹記者への評価も暫定でDとする。

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