2016年9月3日土曜日

「手数料開示」地銀に甘すぎる日経ビジネス杉原淳一記者

日経ビジネスの杉原淳一記者は優しい性格なのだろう。それ自体は責めるべきことではない。ただ、記者としては優しさが時としてマイナスに働く場合もある。9月5日号の「時事深層~窓販手数料開示に悩む地銀」という記事はその一例と言える。
柳川高校(福岡県柳川市) ※写真と本文は無関係です

杉原記者は以下のように書いている。

【日経ビジネスの記事】

銀行が保険会社から受け取っている窓口販売手数料の開示問題で、地方銀行の対応に注目が集まっている。大手銀行が先駆けて自主開示に踏み切り、取り残された格好になったからだ。実務対応が間に合わないという事情に銀行数の多さという実態が加わり、解決は容易でなくなっている

(中略)商品によっては保険料の10%程度の手数料をもらえる保険窓販は、貴重な収益源となる。

開示が進めば、顧客が手数料の多い商品を敬遠したり、保険会社が手数料の引き下げに動いたりするなどして、収益の落ちる公算が大きい。

とはいえ、地銀業界が善後策を取るのは難しい。理由の1つはマンパワーの問題。大手地銀幹部は「できれば開示に踏み切りたいが、10月ではそもそも実務対応が間に合わない」とこぼす

もう1つは規模のばらつきだ。地銀・第二地銀は計105行あり、預金量が10兆円を超す大手がある一方、1兆円以下の中小地銀も少なくない。経営体力も、保険窓販の手数料収入が収益全体に占める割合も違うため、業界の意思統一が図りにくいという。

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これをよんで「なるほど」と思えただろうか。

まず「マンパワーの問題」。記事の書き方から判断すると、杉原記者は「できれば開示に踏み切りたいが、10月ではそもそも実務対応が間に合わない」という地銀幹部の説明を疑わずに受け入れたのだろう。

常識的に考えて、1カ月もの時間的余裕があるのに開示できないとは考えにくい。どの商品でどの程度の手数料をもらっているかは改めて調べる必要がない。データは揃っている。後はその数値を公表するだけだ。仮に地銀のホームページ上で公開するとして、そんなに「マンパワー」が必要なものか。

ホームページ上で公開できれば、支店ではそれを基に対応するだけなので、そんなに難しい話ではない。本社が開示用の資料を作成して支店に配布する場合もあるだろうが、担当者が1人だとしても1カ月はかかりすぎだ。1日でできても不思議ではない。なのに杉原記者は何の疑問も抱かなかったようだ。

百歩譲って10月に間に合わないとしても、だったら11月から開示すれば済む。11月が無理なら12月でもいい。それで終わりだ。なのに杉原記者は「実務対応が間に合わないという事情」があるので「(自主開示問題の)解決は容易でなくなっている」と書いている。

次は「規模のばらつき」について考えてみる。「経営体力も、保険窓販の手数料収入が収益全体に占める割合も違うため、業界の意思統一が図りにくいという」と杉原記者は解説する。だが、そもそも「業界の意思統一」を図る必要があるのか。

今回は大手銀行の自主開示方針を受けて地銀はどうするかという話だ。自主開示なのだから、各行がそれぞれに判断すればいいわけで、「業界の意思統一」は要らなさそうに思える。

『複数の大手地銀がまとまり、年末から年明けごろに開示するのでは』(地銀関係者)との見方もあるが、銀行ごとに対応にばらつきが出る可能性が高い」と杉原記者も書いているではないか。なのになぜ「業界の意思統一が図りにくい」ことが「善後策を取るのは難しい」と言える根拠になるのか。

自主開示ならば、それぞれの銀行が自由に判断すればいいし、法的な規制がかかったらそれに従うしかない。地銀にとっては開示するもしないも茨の道だろう。それは分かる。だからと言って、杉原記者のように業界関係者の話を鵜呑みにして、地銀への思いやり溢れる記事を書いてあげるのは感心しない。地銀のためにも読者のためにも杉原記者のためにもならないはずだ。


※記事の評価はD(問題あり)。杉原淳一記者への評価もDを据え置く。杉原記者に関しては「『個人向け国債』を誤解? 日経ビジネス杉原淳一記者」「投資の『カモ』育てる日経ビジネス杉原淳一記者の記事」も参照してほしい。


追記)杉原記者の記事が出たすぐ後に、多くの地銀が「10月からの開示」を公表しているようだ。

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