| 夕陽 |
2022年1月31日月曜日
台湾有事の「議論を大々的に行うべきではない」と週刊ダイヤモンドで訴えた田中均氏の罪
日経 羽田野生記者が書いた中国人民大学教授のインタビュー記事は興味深い
31日の日本経済新聞朝刊国際面に羽田野生記者が書いた「『27年までに台湾武力統一』 中国、米上回る軍事力~タカ派中国人民大の金燦栄教授 米軍介入の有無焦点に」という記事は興味深い内容だった。台湾有事の問題を考える上で参考になる。本社コメンテーターの肩書で米中関係を論じている秋田浩之氏も、この記事を読んだ上で自らの立ち位置を明確にしてもらいたい。
| 筑後川と恵蘇宿橋と夕陽 |
記事の一部を見ていこう。
【日経の記事】
米中関係を専門とする中国人民大学の金燦栄教授は日本経済新聞の取材で、習近平(シー・ジンピン)指導部が2027年までに台湾の武力統一に動くとの見方を示した。台湾有事では中国人民解放軍がすでに米軍を上回る戦力を保持していると指摘した。
金氏は習指導部の外交政策に助言する学者の一人とされる。タカ派の論客としても知られ、インターネットを中心に活発に発信している。
習指導部は台湾統一を目標に掲げるが、時期は示していない。金氏は「22年秋の共産党大会が終われば、武力統一のシナリオが現実味を増す。解放軍の建軍から100年となる27年までに武力統一に動く可能性は非常に高い」と強調した。
米インド太平洋軍のデービッドソン前司令官も21年3月、米上院軍事委員会で「6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」と述べた。
台湾有事では米軍が介入するかどうかが一つの焦点となる。金氏は「中国は1週間以内に台湾を武力統一できる能力をすでに有している」と主張し、「解放軍は海岸線から1000カイリ(約1800キロメートル)以内ならば、相手が米軍であっても打ち負かせる」と説いた。
解放軍は中国近海に米軍艦艇を寄せつけない戦略をとっており、中国近海での対米国のミサイル攻撃力を磨いていることなどが念頭にあるとみられる。
日本では「台湾有事は日本有事」(安倍晋三元首相)との声がある。金氏は「台湾有事に日本は絶対に介入すべきではない。この問題で米国はすでに中国に勝つことはできない。日本が介入するなら中国は日本もたたかざるを得ない。新しい変化が起きていることに気づくべきだ」と語った。
◎日本は台湾有事に介入すべきか?
関連記事の中で「(台湾に対して)中国が武力行使に踏み切れば、当然、米国との対決が待っている」と羽田記者は書いているので、この前提で考えてみよう。
日経はこれまで念仏のように「日米同盟の強化」を唱えてきた。言い換えれば「属国路線の強化」だ。そうなると当然に「台湾有事は日本有事」となる。
米国が中国と戦うのだから、日本も子分として協力するしかない。結果として、日本が攻撃を受けた訳でもないのに中国との戦争に突入する。20世紀に続いて21世紀でも中国と戦争だ。
結果が勝利ならば救いはある。しかし「中国は1週間以内に台湾を武力統一できる能力をすでに有している」「解放軍は海岸線から1000カイリ(約1800キロメートル)以内ならば、相手が米軍であっても打ち負かせる」と「金燦栄教授」は述べているらしい。
この分析が正しいのかどうかは分からない。英国、オーストラリアなどを加えるとどうなのかも考える必要があるだろう。だが、他の報道なども併せて考えると台湾有事で「米国との対決」となった場合に中国が圧倒的に劣勢とは考えにくい。
そこでどうするかだ。個人的には「台湾有事に日本は絶対に介入すべきではない」と訴える「金燦栄教授」に同意する。日本は台湾を中国の一部と認めている。中国が武力統一に踏み切ったとしても基本的には中国の国内問題だ。
そこに軍事介入して多くの自衛隊員が命を落とすことを容認できるのか。
「日本が介入するなら中国は日本もたたかざるを得ない」と考えるのは当然だ。そうなれば自衛隊員だけでなく一般市民にも多くの犠牲者が出る。
それでも「台湾有事に日本は絶対に介入すべき」なのか。そこを秋田氏らには考えてほしい。「対中戦争をためらうなとは言いにくいし、だからと言って日米同盟の強化を唱えるのはやめたくないし…」というジレンマがあるのだろう。日経はこの問題でやたらと歯切れが悪い。
しかし「金燦栄教授」は「27年までに武力統一に動く可能性は非常に高い」と強調している。思考停止に陥っている余裕はない。
※今回取り上げた記事「『27年までに台湾武力統一』 中国、米上回る軍事力~タカ派中国人民大の金燦栄教授 米軍介入の有無焦点に」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220131&ng=DGKKZO79688530Q2A130C2FF8000
※記事の評価はB(優れている)。羽田野生記者への評価は暫定でBとする。
2022年1月30日日曜日
「非食品」の伸びで利益押し下げ? 日経ビジネス江村英哲副編集長の誤解
日経ビジネスの江村英哲副編集長が1月31日号に書いた「時事深層 COMPANY 海外で好調のセブン&アイ~国内コンビニに忍び寄る不安」という記事は、業績関連の説明に問題を感じた。「2022年2月期通期の連結業績予想を上方修正したセブン&アイ・ホールディングス」の「国内コンビニ事業」について江村副編集長は以下のように記している。
【日経ビジネスの記事】
それ(海外コンビニ事業)と対照的だったのが国内コンビニ事業。通期見通しを営業収益、営業利益ともに下方修正した。営業利益は前の期比5.1%増としていた予想を同2.0%減に引き下げた。
国内ではテレワークの広がりでオフィス街の昼間人口が減少し、都市型店舗の売り上げが減っている。セブン&アイは住宅街やロードサイドの店舗で巣ごもり需要を取り込み、「加工食品」や「ファストフード」など粗利率の高い商品を伸ばす想定だったが、その狙いが外れた。
食肉価格が世界的に高騰する「ミートショック」で鶏肉の供給が不足。カウンターなどで販売する鶏肉商品を思うように伸ばせなかった。たばこ増税前の駆け込み需要により、相対的に粗利率の低い「非食品」が伸長したことも利益を押し下げる一因となった。
◎「非食品」が伸びたのに「利益押し下げ」?
上記のくだりで最も引っかかったのが「たばこ増税前の駆け込み需要により、相対的に粗利率の低い『非食品』が伸長したことも利益を押し下げる一因となった」との解説だ。「非食品」の「粗利率」がプラスとの前提で言えば、記事の説明は間違っている。
「非食品」の売上高が「伸長」すればするほど「利益」は押し上げられる。普通に考えれば分かるはずだ。仮に「たばこ」の粗利益率が10%で低いとしよう。それ以外の商品は売上高も粗利益率も不変とする。販管費なども変化しない。「増税前の駆け込み需要」で「たばこ」の売上高だけ前年同期の10倍になったと考えてほしい。「国内コンビニ事業」の営業利益はどうなるだろうか。当然に増える。
「相対的に粗利率の低い『非食品』が伸長」した場合、「国内コンビニ事業」全体(あるいは会社全体)で見た「粗利率」を「押し下げる」要因にはなる。「利益」ではない。「利益」率だ。江村副編集長はそこを混同しているのではないか。
「食肉価格が世界的に高騰する『ミートショック』で鶏肉の供給が不足。カウンターなどで販売する鶏肉商品を思うように伸ばせなかった」という説明にも似た問題を感じる。「思うように伸ばせなかった」という書き方だと「ある程度は伸びた」と取れる。だったら「粗利率」が下がっていない前提で言えば増益要因となる。
「国内コンビニ事業」の「営業利益」は通期見通しで「2.0%減」。記事で触れていないので21年3~11月期について調べてみると3%減となっていた。営業収益はいずれも2%増なので増収減益だ。「粗利率」が落ち込んだり販管費が増えたりといった要因がないと増収減益にはならない。しかし、記事を最後まで読んでも、3~11月期と通期がなぜ増収減益なのか見えてこない。
もう1つ気になったのが「国内ではテレワークの広がりでオフィス街の昼間人口が減少し、都市型店舗の売り上げが減っている」との説明だ。2021年2月期ならば分かる。しかし記事で解説しているのは「2022年2月期」だ。前期に比べれば「巣ごもり」が減り「都市型店舗の売り上げ」が戻っている気がする。そうなっていないのならば、その理由は触れてほしい。
江村副編集長は記者を指導する立場にいるはずだ。しかし今回の記事は悪い見本にしかなっていない。そこはしっかり反省してほしい。
※今回取り上げた記事「時事深層 COMPANY 海外で好調のセブン&アイ~国内コンビニに忍び寄る不安」
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/01334/
※記事の評価はD(問題あり)。江村英哲副編集長への評価も暫定でDとする。
2022年1月29日土曜日
インフレ対応として預貯金・国債へのシフトを日経 小栗太編集委員は勧めるが…
日本経済新聞の小栗太編集委員が29日朝刊マネーの学び面に書いた「インフレ不安、家計を守る~支出を抑え、運用は分散重視」という記事は問題が多かった。ここでは資産運用に関する解説を見ていく。
| 夕暮れ時の筑後川 |
【日経の記事】
インフレ不安は個人の資産運用にも悪影響を及ぼす。米国の中央銀行である米連邦準備理事会(FRB)は、早ければ3月にも政策金利の引き上げ開始を見込む。市場では金融引き締めで米国の景気回復にブレーキがかかることへの警戒感が台頭。ウクライナを巡る地政学リスクも加わり、世界的な株価の乱高下が起きている。
昨年までの株高を背景に、日本の個人投資家の間では米国株などへの投資が膨らみ、世界的な株価や為替相場の乱高下で大きな損失を被るリスクが高まっている。相場が不安定で先行きの不透明感が強い間は、株式や外貨を中心にした運用で損失を膨らませないように、預貯金や個人向け国債などの割合を高め、運用先を分散しておくことが重要となる。
◎特別なことはしない方が…
まず「インフレ不安は個人の資産運用にも悪影響を及ぼす」という説明がよく分からない。問題は「インフレ」ではなく「インフレ不安」なのか。とりあえず「インフレ」の方だとしよう。名目ベースで言えば「インフレ」は「個人の資産運用」にとってプラスだ。基本的には株価も上がりやすい。
物価の影響を除いた実質ベースで言えば、どちらとも言えない。過去のデータから経験則は導き出せるかもしれないが、小栗編集委員もそうしたデータは見せてくれない。「インフレ」傾向が強まっているからと言ってリスク資産の比率を下げる必要は感じない。
ところが「相場が不安定で先行きの不透明感が強い間は、株式や外貨を中心にした運用で損失を膨らませないように、預貯金や個人向け国債などの割合を高め」るべきだと小栗編集委員は言う。これは賛成できない。
通常であれば「インフレ」は金利上昇を伴うので「預貯金や個人向け国債」(ただし国債は変動金利型に限る)を持つのは悪くない選択だ。預貯金金利も連動して上がってくれる。
しかし現状では「預貯金や個人向け国債」は「インフレ」に弱すぎる。日銀は物価上昇率が2%を安定的に超えてこない限り利上げには踏み切らないだろう。つまり2%の「インフレ」になっても「預貯金や個人向け国債」の利回りはほぼゼロのままだ。実質価値は目減りが避けられない。なのに預貯金や個人向け国債などの割合を高め」るべきなのか。
「相場が不安定で先行きの不透明感が強い」のは多かれ少なかれいつものことだ。それでいちいちリスク資産の比率を下げていたら何のために投資しているのか分からなくなる。
「個人投資家」であれば、持っておくべき無リスク資産の金額を決めたら、残りの資金はリスク資産に投じてひたすら待つスタンスでいい。「インフレ」だからとか「地政学リスク」とかを考えても仕方がない。そうした材料は既にほとんどが市場価格に織り込まれている。
「インフレ」だからと言って資産運用で特別なことはしない。それが「インフレ不安」に対応する一番の方法だと思える。
※今回取り上げた記事「インフレ不安、家計を守る~支出を抑え、運用は分散重視」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220129&ng=DGKKZO79637520Y2A120C2PPK000
※記事の評価はD(問題あり)。小栗太編集委員の評価はE(大いに問題あり)を据え置く。小栗編集委員については以下の投稿も参照してほしい。
「『金利消失』新興国でも」と読者を欺く日経 小栗太編集委員https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_23.html
ビットコイン解説に見える日経ヴェリタス小栗太編集長の「限界」https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/10/blog-post_4.html
処方箋を示してる? 日経1面「人口病に克つ」への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_97.html
日経 小栗太氏 E評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_18.html
2022年1月28日金曜日
「日本はMMTの成功例なのか?」に答えを出さないフォーブス・ジャパン「伊藤隆敏の格言致知」
27日付のフォーブス・ジャパンに載った「伊藤隆敏の格言致知~日本はMMTの成功例なのか?」という記事は問題が多かった。そもそも、この記事では「日本はMMTの成功例なのか?」という問題提起しながら、結局は答えを出していない。そこは後で触れるとして、まずは「MMT」に関する伊藤氏の解説から見ていこう。
| 夕暮れ時の筑後川 |
【フォーブス・ジャパンの記事】
国債が自国通貨建てで発行できる先進国では、債務不履行はありえないので、いくらでも国債を発行することができると主張する、MMT(Modern Monetary Theory、現代貨幣理論)信奉者だ。
自国通貨建て国債をいくら発行しても、債務不履行にはならない、というMMTの主張は正しい。しかし、債務不履行にはならなくても、経済には大きな打撃になるシナリオはある。
◎MMTをちゃんと理解してる?
まず「MMT」では「国債が自国通貨建てで発行できる先進国では、債務不履行はありえないので、いくらでも国債を発行することができると主張」しているだろうか。通貨主権を持つ国が能力面で「いくらでも国債を発行することができる」と見ているのは確かだが「MMT」ではインフレを制約条件としている。なので「インフレを抑え込めていれば、いくらでも国債を発行することができると主張」しているなどと説明すべきだ。
それは「先進国」に限った話ではない。「MMT」の主唱者であるステファニー・ケルトン氏は著書の中で「(MMTは)高いレベルの通貨主権を持つあらゆる国において、政策の選択肢を理解し、改善するのに役立つ」と述べている。「MMT」の考えでは、通貨主権さえあれば途上国でも「債務不履行はありえない」と言える(政府が債務不履行を容認する場合は別)。
伊藤氏は「MMT」をきちんと理解しているのか。そこが引っかかった。
記事の続きを見ていこう。
【フォーブス・ジャパンの記事】
将来、国債の償還可能性に少しでも疑問が生じると国債の買い手がいなくなる。買い手を引き留めるには、国債金利を引き上げるか、財政収支を黒字化しなくてはならない。国債金利の急騰は、国債を保有する金融機関に巨額の評価損をもたらし銀行危機に発展する。財政緊縮は、将来世代に増税を課すことになる。
金利高騰も、増税も避けるには、中央銀行が無制限に国債を買い取るしかない。自国通貨建て国債の場合これが可能だが、それはハイパーインフレにつながり、経済活動に大きな混乱を招く。
◎色々とおかしな点が…
「将来、国債の償還可能性に少しでも疑問が生じると国債の買い手がいなくなる」という前提が成立するだろうか。「国債の償還可能性に少しでも疑問が生じる」状況は既にある。その象徴とも言えるのが、いわゆる矢野論文だ。
文藝春秋2021年11月号で「あえて今の日本の状況を喩えれば、タイタニック号が氷山に向かって突進しているようなものです。氷山(債務)はすでに巨大なのに、この山をさらに大きくしながら航海を続けているのです」と財務事務次官の矢野康治氏が認めている。
「少し」どころか「国債の償還可能性」に多大な「疑問が生じる」事態だ。矢野論文の発表後には「国債の買い手がいなくなる」事態に発展しただろうか。「国債金利の急騰」が起きただろうか。財務事務次官が「タイタニック号」を引き合いに出して財政の危機的状況を訴えているのに、国債の利回りが0%近辺に張り付いたままなのは、なぜか。
伊藤氏はそこを検討しなかったのか。
ついでに言うと「財政緊縮は、将来世代に増税を課すことになる」という説明が理解できなかった。「財政緊縮」策として増税に踏み切った場合、税金を納めるのは現役世代のはずだ。しかし、なぜか「将来世代に増税を課すことになる」と伊藤氏は解説する。だとすると積極財政策は「将来世代」への減税なのか。こちらの理解力に問題があるのかもしれないが、話が見えてこない。
さらに続きを見ていく。
【フォーブス・ジャパンの記事】
実質成長率が実質金利を上回っていれば、債務は維持可能だ、という考え方もある。これは、この条件が成り立っていれば、毎年の(基礎的)財政収支を均衡させることで、長期的に債務・GDP比率を低くしていくことができるからだ。しかし、現在、成長率が金利を上回っていたとしても、それが未来永劫続く保証はない。
公的債務が積み上がると、国債金利が上昇して、予算に占める金利負担が上昇してマイナスの効果をもたらす。だが、1990年以降、先進国では名目国債金利が長期的に低落傾向にあり、長期的に維持可能な(均衡)実質金利も低下してきたと考えると、より高い債務水準を維持できる。彼らは、日本がMMTの正当性を証明している、という。
しかし、現在の日本には、財政保守派の人たちも、MMT派の人たちも見逃している問題がある。それは日本の人口減少である。20〜64歳の働き手の人口は、1998年をピークに減少を続けている。
◎で「日本はMMTの成功例」?
「日本はMMTの成功例なのか?」という話に最も近づいたのが上記のくだりだ。しかし「彼らは、日本がMMTの正当性を証明している、という」と述べた後、本当に「証明している」のかを論じないまま「現在の日本には、財政保守派の人たちも、MMT派の人たちも見逃している問題がある。それは日本の人口減少である」と話を逸らしてしまう。
そもそも日本に「人口減少」という「問題がある」ことぐらい「財政保守派の人たちも、MMT派の人たちも」知っているのではないか。
記事からは「MMTを否定したいけど否定できる論理展開はできそうもない。だから話を逸らせて記事をまとめてみた」という印象を受けた。「日本はMMTの成功例なのか?」という見出しに釣られて記事を読んだ身としては、ガッカリと言うほかない。
※今回取り上げた記事「伊藤隆敏の格言致知~日本はMMTの成功例なのか?」https://forbesjapan.com/articles/detail/45529/2/1/1
※記事の評価はD(問題あり)
2022年1月26日水曜日
「ウクライナ情勢に関与する余裕はない」米国が「派兵準備」? 日経の記事に矛盾あり
26日の日本経済新聞朝刊1面トップを飾った「米ロ、冷戦期以来の緊張 金融市場揺るがす~東欧に米軍8500人派兵準備」という記事はツッコミどころが多い。まず「政治体制が異なる核保有国同士が直接対峙するのは冷戦期以来の事態だ」との説明について考えたい。ポイントは2つある。
| 夕暮れ時の筑後川 |
そもそも米ロは「直接対峙」となるのか。13版の記事では「ロシア軍はウクライナ国境付近に集結しており、同国を挟んで米ロが対峙する」と説明している。だとすると「直接対峙」というより「間接対峙」だ。
もう1つ気になるのが「政治体制が異なる核保有国同士が直接対峙するのは冷戦期以来」との説明だ。記事には「1990年代の台湾海峡危機では、米国の圧倒的な軍事力の前に中国は引き下がった」との記述がある。つまり「1990年代の台湾海峡危機」では米中という「政治体制が異なる核保有国同士が直接対峙」している。そして、この「危機」が起きたのは冷戦終結後の1996年。となると「政治体制が異なる核保有国同士が直接対峙するのは冷戦期以来」ではなくなる。
追加でツッコミを入れておきたいのが「現在の米国は国力が低下し、ウクライナ情勢に関与する余裕はない」という解説。記事には「米国防総省は24日、ウクライナ周辺の東欧地域に最大8500人規模の米軍を派遣する準備に入ったと明らかにした」との記述もある。
「ウクライナ周辺の東欧地域に最大8500人規模の米軍を派遣する」意思と能力があるのに「ウクライナ情勢に関与する余裕はない」のか。「米軍を派遣する準備に入ったと明らかにした」のは単なる脅しなのか。脅しだとしても「関与」はしているのではないか。
日経は26日付の電子版に「ウクライナ、ロシア再侵攻説の否定に躍起~米に同意せず」という記事を載せている。これによると「ウクライナに対するロシア軍侵攻が間近に迫っているとの見方は主に米国が示しているが、ゼレンスキー大統領や国防相らが真っ向から否定」しているらしい。
つまりウクライナが助けを求めている訳でもないのに、米国主導で「ウクライナに対するロシア軍侵攻が間近に迫っているとの見方」を広めて「米軍を派遣する準備」に入っている。なのに「ウクライナ情勢に関与する余裕はない」と認識してしまうのは、ピントがズレすぎている。
※今回取り上げた記事「米ロ、冷戦期以来の緊張 金融市場揺るがす~東欧に米軍8500人派兵準備」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220126&ng=DGKKZO79549080W2A120C2MM8000
※記事の評価はD(問題あり)
2022年1月25日火曜日
斎藤正勝氏に丸め込まれた? 日経 関口慶太記者「一目均衡~市場を壊す『3月期』の呪縛」
25日の日本経済新聞朝刊 投資情報面に関口慶太記者(肩書はフィンテックエディター)が書いた「一目均衡~市場を壊す『3月期』の呪縛」という記事には色々と疑問が湧いた。中身を見ながら具体的に指摘したい。
| 室見川 |
【日経の記事】
「1カ月で30社超の新規株式公開(IPO)は多すぎる。これが続くとマーケットを壊しかねない」。auカブコム証券の前社長で、現在はミンカブ・ジ・インフォノイド副社長の斎藤正勝氏は17日、東京証券取引所を訪れ、山道裕己社長に訴えた。
2021年12月のIPOは34社(東京プロマーケット含む)。1991年以来、30年ぶりの高水準となった。年間の4分の1が1カ月に集中した。12月24日は1日だけで7社が上場した。
個人マネーが中心の新興市場は、IPOの集中を支えきれずに、初値が公開価格を下回る銘柄が続出した。資金回転の効かなくなった市場はもろい。東証マザーズ指数は21年12月に8%下落。22年1月はさらに18%下落している。
◎「資金回転が効かなくなった」?
まず「IPOの集中を支えきれずに、初値が公開価格を下回る銘柄が続出した。資金回転の効かなくなった市場はもろい」という説明が謎だ。
「初値が公開価格を下回る銘柄が続出」することが「資金回転の効かなくなった」根拠と言えるのか。「資金回転」の定義にもよるが、売買がきちんと成立しているのならば「資金回転」は効いているのではないか。
「東証マザーズ指数は21年12月に8%下落」したらしいが、これを「IPOの集中」と単純に結び付けているのも引っかかる。因果関係を証明できないのは分かる。それでも「IPOの集中」が指数の下落につながったと見る市場関係者のコメントぐらいは欲しい。
「22年1月はさらに18%下落している」とも書いている。これはさすがに苦しい。12月に「IPOの集中」が起きたので12月の株価が下がったという話はまだ分かる。翌月に2倍以上の下落率となったのならば別の要因と見るべきだ。翌月になった改めて「IPOの集中」を株価に織り込むとは考えにくい。
続きを見ていこう。
【日経の記事】
一極集中の悪影響は明らかなのに12月に集中するのはなぜか。IPOの主幹事を務める大手証券会社の幹部は「上場後の下方修正を避けるためだ」と明かす。「3月期決算だと、4~9月の上半期の結果が出た秋に上場申請すれば、年間計画がぶれる可能性が低くなる」というわけだ。
上場する企業や主幹事証券がIPO直後の下方修正を過度に恐れるきっかけになったのが、2015年のgumiショックだ。
14年に東証1部に上場したgumiは、上場からわずか2カ月半後に大幅な下方修正を発表した。株価はストップ安となり、日本取引所グループの斉藤惇最高経営責任者(当時)は「3カ月で営業黒字から赤字にするのは、経営者としてありえない」と批判。主幹事証券にも怒りの矛先を向けた。
15年3月に東証と日本取引所自主規制法人は日本公認会計士協会に対し「新規公開の品質向上に向けた対応のお願い」と題する要請をした。上場直後に業績予想を大幅修正する場合には前提条件やその根拠の適切な開示をするよう求めた。東証の永田秀俊上場推進部長は「主幹事証券や監査法人は、東証は上場直後の下方修正は認めないと受け止めたのではないか」とみる。
12月と違い、1月はほとんどIPOがない。1月でも年間計画は見通せるはずだが、1月の上場には準備の問題がある。12月のクリスマスの時期は国内外の機関投資家が休暇に入る。IPOに向けて機関投資家を回って事業や財務の説明をするロードショーができないのが、1月に上場する企業が少ない理由だ。
◎2月はなぜ少ない?
IPOが「12月に集中する」のは「上場後の下方修正を避けるため」らしい。「1月でも年間計画は見通せるはず」だが、「12月のクリスマスの時期は国内外の機関投資家が休暇に入る」から「1月に上場する企業が少ない」らしい。「クリスマスの時期」に休むと言っても数日の話ではないかと思える。「ロードショーができない」という説明を受け入るとしても、だったら2月はなぜダメなのかとの疑問は残る。
記事の終盤も見ておく。
【日経の記事】
解決策はある。決算期をずらすことだ。例えば12月期決算ならば、9~10月に年間計画が見通せる。3月期決算企業は東証1部の約7割。日本公認会計士協会などは20年3月、公認会計士を見つけられない監査難民を解消するためにも「決算期を異なる時期とすることが期待される」とする報告書をまとめている。
IPOの増加はリスクマネーの供給を増やそうと官民挙げて取り組んだ成果だ。ただ結果として生じたマーケット需給の悪化は放置できない。企業も証券会社もまずは3月期決算の呪縛から解き放たれてみてはどうだろうか。
◎どうやって「ずらす」?
「解決策はある。決算期をずらすことだ」と関口記者は言うが具体策には触れていない。「企業も証券会社もまずは3月期決算の呪縛から解き放たれてみてはどうだろうか」と呼び掛けているだけだ。「3月期決算」以外の企業の上場申請を優先して審査する仕組みに改めるとか、何か策を提言してほしい。
個人的には12月に「IPOの集中」が起きても「市場を壊す」ようなことはないと思える。百歩譲って12月に「マーケット需給の悪化」が起きるとしよう。これは「放置」でいい。
そもそも「マーケット需給」が緩むことを単純に「悪化」とは見るべきなのか。結果として株価が下がっても、押し目を拾いたい人にとっては好機だ。
そもそも企業の株価は、中長期で見れば企業価値に見合ったものになるのではないか。「IPOの集中」の影響で本来の価値よりも大幅に低い水準で初値が付いた企業があるとしよう。割安な株価でこの企業に投資したいと考える投資家にとっては絶好の買い場だ。そうやって株価は修正されていく。一時的な「需給の悪化」による株価の変動を気にする必要はない。
12月に「IPOの集中」が起きているということは、裏返せば他の月の「IPO」は少ない訳だ。これは「マーケット需給」の“改善”要因となる。結局、集中させても分散させても年間ベースでの「IPO」による株式の新規供給は同じなのだから12月の「マーケット需給の悪化」は他の月の“改善”で相殺されるはずだ。
関口記者は「ミンカブ・ジ・インフォノイド副社長の斎藤正勝氏」に上手く丸め込まれたのだろうか。ここで書いたような話は「フィンテックエディター」というもっともらしい肩書を付けて日経に株式関連の記事を書く記者ならば、当然に理解しているべきなのだが…。
※今回取り上げた記事「一目均衡~市場を壊す『3月期』の呪縛」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20220125&ng=DGKKZO79505890U2A120C2DTA000
※記事の評価はD(問題あり)。関口慶太記者への評価はDを維持する。関口記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。
疑問だらけの日経「本田圭佑選手、VBファンド設立」https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_19.html
「お金のデザイン」が好きすぎる日経「市場の力学」https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/02/blog-post_53.html
逆張り消えた?日経 関口慶太記者「スクランブル」に疑問(1)https://kagehidehiko.blogspot.com/2015/09/blog-post_26.html
逆張り消えた?日経 関口慶太記者「スクランブル」に疑問(2)https://kagehidehiko.blogspot.com/2015/09/blog-post_27.html