2021年8月1日日曜日

日経ビジネスでの橋下徹氏批判に見える小田嶋隆氏の「あまりにも粗雑な詭弁」

コラムニストの小田嶋隆氏に衰えが目立つことは以前から指摘してきた。日経ビジネス8月2日号に載った「新型コロナが教えてくれたこと」という記事を読むと、衰えが加速している印象を受ける。記事の終盤で小田嶋氏は以下のように記している。

耳納連山と夕陽

【日経ビジネスの記事】

ひき比べて、私が遺憾に思わずにいられないのは、ここへ来て、「論客」と呼ばれる、高学歴で口の達者な有名文化人の中に、コロナ禍を舐めたものの言い方をする人々が頻々と現れはじめていることだ。

言論商売というのは、なかなかどうして世知辛いもので、他人と似たようなことを言って歩いていたのでは思うようにお座敷がかからない。それで、コロナのような「誰もが似たような慎重なことを言っているジャンル」では、「逆張り」をする言論人に仕事がくる。

で、先日、さる民放のテレビ番組で、元大阪市長・府知事の橋下徹氏が「亡くなっている方もいるので言いにくいが、我々は自動車事故で毎年死者3000人のリスクを受け入れている。ゼロにするために自動車やめろと誰も言わない。コロナもどの程度のリスクを受け入れるかの問題だ」と言っていた。

テレビ向けとはいえ、あまりにも粗雑な詭弁だ。自動車が交通事故のリスクを受け入れるに足る利便を社会に提供しているのだとして、では、新型コロナウイルスは、感染症のリスクを打ち消すに足るどんなメリットを提供できるというのだろうか

橋下氏以外にも、マスク無用論や反ワクチン言説を唱える言論人、文化人が山ほどいる。それ以前の「コロナにビビる/ビビらない」で人々を分断しにかかっているマッチョのインテリもいる。勉強は大切だが、その結果であるはずの学歴はわりと信用できない。

コロナが教えてくれた貴重な教訓だ。


◎「粗雑な詭弁」なのはどっち?

我々は自動車事故で毎年死者3000人のリスクを受け入れている。ゼロにするために自動車やめろと誰も言わない。コロナもどの程度のリスクを受け入れるかの問題だ」という「橋下徹氏」の発言に問題はない。しかし小田嶋氏は「あまりにも粗雑な詭弁だ」と斬って捨てる。

自動車が交通事故のリスクを受け入れるに足る利便を社会に提供しているのだとして、では、新型コロナウイルスは、感染症のリスクを打ち消すに足るどんなメリットを提供できるというのだろうか」と述べているが、これこそが「あまりにも粗雑な詭弁だ」。

交通事故のリスクを受け入れる」と「自動車」がもたらす「利便」を得られる。

では「新型コロナウイルス」の「リスクを受け入れる」とどんな「利便」を得られるのか。自由な経済・社会活動という「利便」だ。簡単な話だ。それが小田嶋氏には理解できないのか。「新型コロナウイルス」が自由な経済・社会活動という「メリットを提供」してくれる訳ではない。当たり前だ。

自動車」の場合、「交通事故のリスク」を極小化しようとすると「自動車」がもたらす「利便」がなくなってしまう。

新型コロナウイルス」の場合、「感染症のリスク」を極小化しようとすると自由な経済・社会活動という「利便」が得られない。

交通事故のリスク」を「毎年死者3000人」だとする。「新型コロナウイルス」も同程度の「リスク」だとすると、前者を受け入れて後者は「リスク」を極小化しようとするのが、なぜ正しいのかという話だ。

自由な経済・社会活動という「利便」が「感染症のリスク」に比べて小さいからというなら分かる。なのに「新型コロナウイルスは、感染症のリスクを打ち消すに足るどんなメリットを提供できるというのだろうか」と小田嶋氏は問うてしまう。

問題は「新型コロナウイルス」が「提供」してくれる「メリット」ではない。「新型コロナウイルス」の「リスクを受け入れる」ことで生じる自由な経済・社会活動という「メリット」だ。

そこが理解できないのならば、この問題で物申すのは避けた方がいい。


※今回取り上げた記事「新型コロナが教えてくれたこと」https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00106/00126/


※記事の評価はE(大いに問題あり)。小田嶋隆氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

どうした小田嶋隆氏? 日経ビジネス「盛るのは土くらいに」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_25.html

山口敬之氏の問題「テレビ各局がほぼ黙殺」は言い過ぎ
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/06/blog-post_10.html

小田嶋隆氏の「大手商業メディア」批判に感じる矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_12.html

杉田議員LGBT問題で「生産性」を誤解した小田嶋隆氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/lgbt.html

「ちょうどいいブスのススメ」は本ならOKに説得力欠く小田嶋隆氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/ok.html

リツイート訴訟「逃げ」が残念な日経ビジネス「小田嶋隆のpie in the sky」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/pie-in-sky.html

「退出」すべきは小田嶋隆氏の方では…と感じた日経ビジネスの記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_16.html

「政治家にとってトリアージは禁句」と日経ビジネスで訴える小田嶋隆氏に異議ありhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_10.html

「利他的」な人だけワクチンを接種? 小田嶋隆氏の衰えが気になる日経ビジネスのコラムhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_15.html

根拠示さず小林よしのり氏を否定する小田嶋隆氏の「律義な対応」を検証https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_28.html

小田嶋隆氏が日経ビジネスで展開した「コロナ楽観論批判」への「反論」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_29.html

「女性限定の反撃」は「罪」? 小田嶋隆氏が日経ビジネスで展開した無理筋https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/blog-post_25.html

「女性側に原因がないこともない」を「失言」と見なす小田嶋隆氏に異議https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/02/blog-post_27.html

「彼女が中止のホイッスルを吹く日」に期待する小田嶋隆氏の矛盾https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/04/blog-post_16.html

2021年7月31日土曜日

歯切れの悪さ目立つ日経 上杉素直氏「Deep Insight~地銀『山口の変』の戒め」

31日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に上杉素直氏(肩書は本社コメンテーター)が書いた「Deep Insight~地銀『山口の変』の戒め」という記事は歯切れが悪かった。「山口銀行など3つの銀行を傘下にもつ山口フィナンシャルグループ(FG)の会長兼グループ最高経営責任者(CEO)だった吉村猛取締役」について上杉氏は記事の後半で以下のように書いている。

夕暮れ時の筑後川

【日経の記事】

もっとも、今回の人事に驚きを覚えるのは、その唐突さだけが理由でない。16年に社長に就いた吉村氏は改革派の剛腕として名をはせた経営者だった。

山口の産品を全国に届ける地域商社、地元企業に経営層の人材を紹介する専門企業……。吉村氏は銀行から「地域価値向上会社」への転換を掲げ、毎年のように新しい組織をつくって金融以外の新ビジネスを広げていた。

先の国会で成立した改正銀行法は銀行の事業会社への出資規制を緩め、地方銀行が金融以外のビジネスに力を入れる環境を整えた。そんな法改正の何歩も先を行くのが山口FGであり、吉村氏の経営手腕だと評されていた。

では、いったい何が6月の解任劇を招いたのか。直接の引き金は新銀行の構想をめぐる対立だったが、そこへ至るまでを振り返ると、改革を急いだがゆえに抱え込んだ課題も見えてくる。多くの地銀が近い将来向き合う可能性が高いテーマだともいえる。

伏線になった2つの懸念に注目したい。一つは銀行業の現場の士気にまつわる懸念だ

「あの会社は昔は銀行だったらしいね、と言われるようになりたい」。吉村氏が口癖のように語っていたセリフだ。金融以外の新ビジネスを急いで伸ばそうというのが真意だろうが、銀行業に携わる大多数の行員たちはどんな気分で受け止めただろうか。

収益はさっぱりだとしても、銀行業は顧客との強い結びつきをもたらす。行員のプライドの源にもなっている。本業とのシナジーあっての新ビジネスだとすれば、やはり銀行業の活気は改革を進める必要条件になるはずだ。

つまり、古きを守りながら新しいものを育てる曲芸めいた技能が求められるわけだが、そのバランスは難しい。山口FGの場合、社外取締役から「現場がついてきていないのではないか」という心配の声が上がっていたそうだ。経営のかじ取りをめぐる対立の芽は少し前から現れていた。


◎「現場の士気」は低かった?

改革を急いだがゆえに抱え込んだ課題」として「銀行業の現場の士気にまつわる懸念」を挙げているが「現場の士気」が低かったと言える材料は見当たらない。「社外取締役から『現場がついてきていないのではないか』という心配の声が上がっていたそうだ」とは書いているが、「吉村氏」と対立する側の「社外取締役」の「心配の声」だけでは何とも言えない。

心配の声が上がっていたそうだ」という書き方から推測すると、上杉氏はこの「社外取締役」から直接話を聞いた訳でもないのだろう。

現場の士気」をどうやって判断するかという問題もある。「吉村氏」のやり方に反対の行員が多数を占めていたとしても、だから「現場の士気」が低かったとは言い切れない。「CEOには不満があるが仕事はやりがいがあるし一生懸命やりたい」という行員がいてもおかしくない。

現場の士気」を問題にするならば、もう少し突っ込んだ取材が必要だろう。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

もう一つの伏線になったのは経営者の焦りではなかったか。山口FGに対する株式市場の評価が上がらないことを懸念する吉村氏の姿を覚えている人は多い。

それもそのはず。銀行が金融以外のビジネスを手がけても簡単にもうかるわけはないからだ。たとえば20年に参入した農業にしても、名産のワサビを途絶えさせない心意気はよいが、目先の収益はまた別の話だ。ほかの新ビジネスだって事情は似ている。

地域の将来にコミットしなければ、長い目で見た地域の発展も地銀の成長も見込めない。だが、すぐもうからないどころか成功する保証もないのだから、冷徹な株式市場が評価しないのもわかる。地銀改革の厳しさがここにある。それでもなお、収益を高める一発逆転の手としてミドルリスクの新銀行に走ったのだとしたら、山口FGらしくはなかった


◎辻褄合ってる?

銀行が金融以外のビジネスを手がけても簡単にもうかるわけはない」「収益を高める一発逆転の手としてミドルリスクの新銀行に走った」という書き方から判断すると「ミドルリスクの新銀行」は本業の「金融」故に「簡単にもうかる」可能性を秘めていると取れる。

だったら、やるべきではないか。「収益を高める一発逆転の手」を捨てて「簡単にもうかるわけ」がない「金融以外のビジネス」に手を出し続けるのが「山口FG」らしさなのか。

そもそも「ミドルリスクの新銀行」は「収益を高める一発逆転の手」なのかという疑問も湧く。記事の冒頭で上杉氏は「経営破綻した日本振興銀行」に触れ「(山口FGの新銀行は)その振興銀のいきさつを思い出させる案件だ、と指摘する当局関係者がいた」と述べている。だったら「収益を高める一発逆転の手」と見なす方がどうかしている。

簡単にもうかるわけはない」事業を新たに始めたという意味で「ミドルリスクの新銀行」の件は「山口FG」らしいと見る方が自然だ。

記事の結論部分も見ておこう。


【日経の記事】

もちろん、難しいから改革のペースを落とせばよいということにはならない。実行の局面に入ったからこそ見えてきた課題を着実に解消し、改革を軌道に乗せるのが王道だ。吉村氏の後任CEOに指名された椋梨敬介社長は「対話」を掲げてスタートした。その仕切り直しの巧拙は業界の改革機運を左右する重みをもつ。


◎結局、どっちを支持?

「『吉村氏』に問題あり。解任は妥当」と言いたいのかと思っていたら「難しいから改革のペースを落とせばよいということにはならない」とも最終段落で書いている。上杉氏の迷いが記事に投影されている印象を受ける。

今回の「山口FG」の件を取り上げるならば、「吉村氏」と「社外取締役」のどちらに付くかは明確にしたい。「どっちもどっち」と打ち出しても良いだろう。だが、上杉氏はあれこれ書いてはみたものの、結局うやむやに記事を終わらせている。

最後の段落では「吉村氏の後任CEOに指名された椋梨敬介社長」に触れた上で「その仕切り直しの巧拙は業界の改革機運を左右する重みをもつ」と成り行き注目型の結論で逃げている。それが上杉氏にとっての精一杯ならば、この問題を取りげるのは荷が重すぎた。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~地銀『山口の変』の戒め

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210731&ng=DGKKZO74350940Q1A730C2TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。上杉素直氏への評価はDを維持する。上杉氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「麻生氏ヨイショ」が苦しい日経 上杉素直編集委員「風見鶏」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_25.html

「医療の担い手不足」を強引に導く日経 上杉素直氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_22.html

麻生太郎財務相への思いが強すぎる日経 上杉素直氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_66.html

地銀に外債という「逃げ場」なし? 日経 上杉素直氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_8.html

日経 上杉素直氏 やはり麻生太郎財務相への愛が強すぎる?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_27.html

「MMTは呪文の類」が根拠欠く日経 上杉素直氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/mmt-deep-insight.html

「法人税の最低税率」への誤解が怖い日経 上杉素直氏「Deep Insight」https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/deep-insight.html

2021年7月29日木曜日

朝刊1面トップがこの完成度では…日経「追跡広告見直し機運」

29日の日本経済新聞朝刊1面トップを飾った「追跡広告見直し機運~サッポロビール、予算7割減 個人情報使わぬ新技術も」という記事は苦しい内容だった。中身を見ながら具体的に指摘したい。

有明海

【日経の記事】

ネット閲覧履歴などに基づき個人ごとに広告を出すターゲティング(追跡型)広告(総合2面きょうのことば)の見直しが日本でも広がり始めた。サッポロビールやアスクルは予算を大きく減らす。個人データを使わない広告の採用企業も増えている。個人情報の乱用につながるとの批判が高まり、データの入手が難しくなるためだ。プライバシー保護が技術開発を促し、ネットビジネスを大きく変えつつある。


◎2社だけでは…

この記事はいわゆる「まとめ物」だ。「ターゲティング(追跡型)広告の見直しが日本でも広がり始めた」という話に説得力を持たせるなら最低でも3社は事例が欲しい。1面トップであれば5社ぐらいあってもいい。しかし最後まで読んでも「サッポロビール」と「アスクル」しか出てこない。

記者は当然、他にも事例を探したのだろう。なのに2社しか見つからなかったのであれば「ターゲティング(追跡型)広告の見直しが日本でも広がり始めた」と理解するのは早計だ。

記事では「(日本の)ネット広告の中でも1兆円超が追跡型とみられる」とは書いているが、その規模が小さくなっているという話は出てこない。やはり怪しい。

さらに言えば「サッポロビール」と「アスクル」の話にも問題がある。その部分を見ていこう。


【日経の記事】

状況は急変している。酒類事業の広告宣伝・販促費に約190億円を使うサッポロビールは「個人追跡型には今後、頼れなくなる」として予算を約7割減らし、ネット広告全体に占める追跡型の比率を3割から1割以下にした。アスクルはネット通販「ロハコ」で追跡型広告の予算を直近3年で10分の1に減らした


◎予算は削減済み?

最初の段落では「サッポロビールやアスクルは予算を大きく減らす」と書いているので、これから「予算」が減るのだと理解したくなる。しかし読み進めると「サッポロビール」も「アスクル」も「予算」を削減済みだと分かる。騙しに近い書き方だ。

アスクル」は「予算を直近3年で10分の1に減らした」のだから、予算削減の動きはかなり前から出ていたはずだ。なのに「状況は急変している」のか。もう減らし終わっているのではないか。「アスクル」に関しては「予算」の規模に触れていないのも辛い。

例えば年間1億円の予算を1000万円に減らした程度ならば、事例としてのインパクトは弱い。だから実額に触れなかったのだろうか。

では「サッポロビール」の事例はどうか。

まず、いつ予算を減らしたのか、この書き方では分からない。「約190億円」がどの期間の「広告宣伝・販促費」なのかも不明だ。年間ベースの話だとは思うが、そこは明示すべきだ。

年間「約190億円」という水準が一定だと仮定すると「追跡型」の予算は57億円から19億円以下に減ったことになる。2020年度が57億円で21年度が19億円以下ということなのか。

そうかも知れないが、いくつかの仮定を置いているので断定はできない。いつの予算がいつと比べてどのぐらい減ったのか。肝となる話なのだから、きちんと説明してほしい。

事例が2つしかないのならば、なおさらだ。

夏枯れなのかもしれないが、朝刊1面トップの記事の完成度がこの低さでは辛い。


※今回取り上げた記事「追跡広告見直し機運~サッポロビール、予算7割減 個人情報使わぬ新技術も

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210729&ng=DGKKZO74274800Z20C21A7MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2021年7月28日水曜日

「入院率」は適切な指標? 日経「医療懸念、都内で再び」に思うこと

28日の日本経済新聞朝刊総合2面に載った「医療懸念、都内で再び~入院率2割、病床確保急ぐ」という記事は悪い出来ではない。「重症者の病床使用率はもっとも厳しかった1月の第3波ほどの逼迫感はない」などとも書いており、バランスもそこそこ取れている。とは言え引っかかる部分もあった。

電柱と夕陽

特に気になるのが「内閣官房によると26日時点で感染者のうち入院している人の割合を示す入院率が2割と、最も深刻な『ステージ4』に達した」ことだ。「『ステージ4』に達した」のはその通りだろう。だた「入院率」という指標には疑問を感じる。記事では以下のように説明している。

【日経の記事】

緊急事態宣言の対象とすべきかなどの目安にする指標のうち、入院率は今春から使う新しいものだ。コロナ患者が増加すると、本来は入院する必要があるのに入院できずに自宅や施設で療養する人も増加する。そのため入院率は数値が低いほど、受け入れることができない患者が増え、医療が逼迫している可能性があることを意味する


◎療養者は全員入院すべき?

入院率」の分母は「療養する人」全体だ。新型コロナウイルス関連の療養者は全員入院が好ましいのだろうか。この問題を日経には考えてほしい。「入院させるべき療養者」が分母ならば「入院率」で「医療が逼迫している」かどうかを見るのは適切だ。しかし「療養する人」の中に入院の必要がない人を含むのならば話は変わってくる。

常識的に考えれば「療養者=入院が必要な人」ではないはずだ。今の定義ならば「入院率」の指標としての有用性は低い。

付け加えると「コロナ患者が増加すると、本来は入院する必要があるのに入院できずに自宅や施設で療養する人も増加する」という説明は正確さに欠ける。

コロナ患者が増加」しても「入院する必要」がない人が増えただけならば「本来は入院する必要があるのに入院できずに自宅や施設で療養する人」が「増加する」とは限らない。さらに言えば、医療の受け入れ体制を拡充すれば「コロナ患者が増加」する一方で「自宅や施設で療養する人」が減る可能性もある。

ついでに「重症者」についてもコメントしておきたい。

【日経の記事】

東京都は26日、救急などの一般医療を一部制限し、コロナ病床を確保するように医療機関に要請した。都内の新規感染者数は6月中旬ごろから増加傾向が続いている。

感染力が強いデルタ型(インド型)の割合が高まっていることが背景にある。専門家からは過去最多を超えてもなお増加する可能性を指摘する声が上がる。重症者数は27日時点で82人となり、4連休を挟んで1週間で22人増えた。厚労省によると、重症者向けの病床使用率は21日時点で53%とステージ4の水準だ


◎わずか「82人」で「ステージ4」とは…

東京都」の「重症者数は27日時点で82人」と100人に満たない。人口比で見れば極めて低水準だ。それで「ステージ4」になってしまうとしたら、基準が厳しすぎるか医療体制が脆弱すぎるかのどちらかだ。

なのに、飲食店に営業自粛を求めたり人々の外出を抑制したりすべきなのか。この点も日経には改めて考えてほしい。


※今回取り上げた記事「医療懸念、都内で再び~入院率2割、病床確保急ぐ」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210728&ng=DGKKZO74241980Y1A720C2EA2000


※記事の評価はC(平均的)

2021年7月27日火曜日

「感染急拡大への危機意識高めよ」と言う割に厳しい措置を求めない日経の社説

日本経済新聞の社説が相変わらず苦しい。27日の朝刊総合1面に載った「政府は感染急拡大への危機意識高めよ」という社説では「政府は対策を再考すべきだ」と求めているが、何をどう変えるべきなのかよく分からない。中身を見ながら具体的に指摘したい。

有明海

【日経の社説】

東京など大都市を中心に新型コロナウイルスの感染が急拡大を続けている。病床も埋まりだし医療現場は逼迫し始めている。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が効果をあげているとは言い難く、政府は対策を再考すべきだ

感染拡大の中心は40~50代の働き盛りだ。職場や会食の場での感染が多い。高齢者から進めているワクチン接種はまだ行き渡っておらず、歯止めが利きにくい。

7月22~25日の4連休中には多くの人が移動した。東京五輪の会場周辺も人だかりが目立つ。8月のお盆の時期は帰省などによる人流の増加も予想される

人と人が接する機会が増えれば感染拡大リスクは高まる。感染力の強いインド型(デルタ型)の広がりが事態を悪化させている。

今のところ重症者は過去のピークに比べ少ないが、若い世代で入院患者は増えており呼吸管理が必要な中等症が多いという。

東京では自宅療養者が急増しており、入院先が決まらない「調整中」も増加傾向だ。これらも入院予備軍といえ、短期間に病床が埋まる事態が懸念される。


◎だったら厳しい措置を求めては?

政府は感染急拡大への危機意識高めよ」「政府は対策を再考すべきだ」と求め「東京五輪の会場周辺も人だかりが目立つ。8月のお盆の時期は帰省などによる人流の増加も予想される」と認識しているのならば、「東京五輪」を中止し「帰省など」を制限すべきと論陣を張るのが自然だ。しかし、そうはならない。

では、日経が求めている「対策」とは何だろうか。社説の続きを見ていこう。


【日経の社説】

軽症者が自宅やホテルで安心して静養できるよう、医師や看護師に常時連絡がつく体制を整える。中等症の患者は早めの治療で重症化を食い止める。こうして、重症病床が埋まるのをできるだけ遅らせ、救える命を救えない事態を防ぐことが大切だ。


◎今は連絡がつかず遅めの治療?

政府は感染急拡大への危機意識高めよ」「政府は対策を再考すべきだ」と言う割に、大したことは求めていない。今は「医師や看護師に常時連絡がつく体制」が整っておらず「中等症の患者」は遅めの治療で「重症化を食い止め」られない状況なのか。その辺りもよく分からない。「短期間に病床が埋まる事態が懸念される」のならば、せめて「病床」の拡充ぐらいは訴えればとも思うが、それもない。

結局「対策」をどう「再考すべき」なのか見えてこない。

続きを見ていこう。


【日経の社説】

厚生労働省の専門家組織のメンバーからは、新型コロナ感染が始まって以来、「今が一番危機的な状況である」との指摘もある。問題は、危機意識が政府内ですら共有されていない点だ。

英国やフランス、米国で、感染者が多いにもかかわらず行動制限が解除されたのを見て「日本も大丈夫」と考える人も多いかもしれない。だが、日本はワクチン接種率が低く「まねをすべきではない」と専門家は口をそろえる。

政府はいま一度、感染の現状と医療の実情、対策ごとの感染抑止効果などをデータに基づき丁寧に説明してほしい。そのうえで菅義偉首相が記者会見し、国民にあらためて協力を求めるべきだ。

ワクチンを40~50代に優先接種するのも有効だろう。人が集まりやすい場所で抗原検査やPCR検査を実施し、陽性なら行動を控えてもらうのも手だ。緊急事態や重点措置を漫然と続けているだけでは、危機を逃れられない。


◎今さら「40~50代に優先接種」?

最後に「ワクチンを40~50代に優先接種するのも有効だろう。人が集まりやすい場所で抗原検査やPCR検査を実施し、陽性なら行動を控えてもらうのも手だ」と追加で案を出している。

日経は「危機意識」が高いのならば、もう少しまともな案が出てきても良さそうなものだ。「40~50代」の「接種」はもう始まっている。高齢者が先行し、若者は「接種」に積極的ではないので、何もしなくても今後は「40~50代に優先接種する」のに近い形になる。しかも10~11月には、希望する全ての人の「接種」が終わる予定だ。「40~50代」の「接種」を多少早めても大きな違いはないだろう。

人が集まりやすい場所で抗原検査やPCR検査を実施し、陽性なら行動を控えてもらうのも手だ」という対策も意図が読みづらい。陰性ならば「行動を控え」る必要はないとの考えなのか。「緊急事態宣言」下の東京都では全ての人に「行動を控えてもらう」よう呼びかけているのではないのか。日経の主張が通れば「対策」を緩める方向に動きそうな気もするが、それでいいのか。

結局、日経の「危機意識」もそれほど強くないのだろう。それでいいとは思うが…。


※今回取り上げた社説「政府は感染急拡大への危機意識高めよ

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210727&ng=DGKKZO74200240W1A720C2EA1000


※社説の評価はD(問題あり)

2021年7月26日月曜日

「米国では暮らしが一変」に無理がある日経1面連載「キャッシュレス新世紀(上)」

悪い癖は簡単にはなくならないということか。日本経済新聞朝刊1面でまたも「世界一変系」の連載が始まった。世界はそんなに簡単に一変しないので、この手の連載はどうしても無理が生じる。26日の「キャッシュレス新世紀(上)塗り替わる世界金融地図~フィンテック、決済席巻 低所得層に恩恵大きく」という記事も例外ではない。

船小屋温泉大橋

最初の事例では「デジタル金融の最前線をいく米国では暮らしが一変した」と言い切っている。その説明に説得力があるかどうか見ていこう。


【日経の記事】

デジタル金融の最前線をいく米国では暮らしが一変した。ニューヨークに住む高校生ダニエル・モーティマー君(18)は、親からお小遣いを送金アプリ「ベンモ」で受け取る。「外での支払いは99%がアプリかカード。財布に現金は5ドルくらいしかない」。友達とカフェで割り勘するときもベンモで決済する。

現金以外の支払い手段はこれまでクレジットカードやデビットカードだった。コロナ下ではスマホ決済や送金も広がった。独調査会社スタティスタによるとベンモの送金額は1~3月に510億ドル(約5兆6000億円)と2年で2.4倍に急増した。米アクセンチュアは世界で30年までの10年間に48兆ドル、2兆7000億件の決済が現金からキャッシュレスにかわると予測する。


◎どこが「一変」?

ダニエル・モーティマー君」の事例はいつ、どんな変化が起きたのか不明だ。とりあえず1年前は「現金」のみを使っていたと仮定しよう。それが「親からお小遣いを送金アプリ『ベンモ』で受け取る」ようになり「外での支払いは99%がアプリかカード」になっただけだ。

友達とカフェで割り勘する」といった生活スタイルに変化はないのだろう。「支払い手段が一変した」かもしれないが「暮らしが一変した」感じはない。わざわざ事例に出した人物の変化がこの程度なのだから「米国」全体の「一変」度合いは推して知るべしだ。

現金以外の支払い手段はこれまでクレジットカードやデビットカードだった。コロナ下ではスマホ決済や送金も広がった」という説明も引っかかった。米国では小切手決済が昔から普及している。日本だとSuicaなどの電子マネーもかなり歴史がある。「現金以外の支払い手段」が「これまでクレジットカードやデビットカード」に限られていたかのような説明には問題がある。

さらに言えば「コロナ下ではスマホ決済や送金も広がった」という説明も苦しい。「送金」は「コロナ下」で「広がった」訳ではない。「コロナ下」でさらに「広がった」かもしれないが、「送金」自体は昔から当たり前にある。「スマホ決済やスマホ送金」という趣旨で「スマホ決済や送金」と記したのだろうか。だとしたら書き方が下手だ。

連載はあと2回続く。先が思いやられる。


※今回取り上げた記事「キャッシュレス新世紀(上)塗り替わる世界金融地図~フィンテック、決済席巻 低所得層に恩恵大きく

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210726&ng=DGKKZO74168980W1A720C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2021年7月24日土曜日

世界初のジェット機は1952年の「コメット」? 日経 中山淳史氏「Deep Insight」

それ(五輪の多様性)を可能にしたのは航空機の進歩でもあった。プロペラ機より長く、速く飛ぶ世界初のジェット機『コメット』(英デハビランド製)が実用化されたのは52年」と日本経済新聞の中山淳史氏(肩書は本社コメンテーター)が記事に書いていた。しかし第2次世界大戦中にはドイツがジェット戦闘機を実用化していたはずだ。日経には以下の内容で問い合わせを送った。

有明海のカモメ

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 中山淳史様

24日の朝刊オピニオン面に載った「Deep Insight~『飛ぶ』で占う五輪の未来図」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは「それ(五輪の多様性)を可能にしたのは航空機の進歩でもあった。プロペラ機より長く、速く飛ぶ世界初のジェット機『コメット』(英デハビランド製)が実用化されたのは52年」という記述です。

世界最初のジェット機は1939年に完成したドイツのハインケル178機とされて」(日本大百科全書)います。「実用化」で言えば1944年のメッサーシュミットMe262(ドイツの戦闘機)が「世界初のジェット機」のはずです。「コメット」は「世界初のジェット旅客機」とは言えますが「世界初のジェット機」には当たらないのではありませんか。

プロペラ機より長く、速く飛ぶ」という意味で「世界初のジェット機」という可能性も考慮しました。しかし「コメット」の航続距離は従来のプロペラ機とほぼ同じだったようなので、「プロペラ機より長く、速く飛ぶ」というのは「ジェット機」の一般的な性質に触れたものだと理解しました。

記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアの一員として責任ある行動を心掛けてください。


※今回取り上げた記事「Deep Insight~『飛ぶ』で占う五輪の未来図

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210724&ng=DGKKZO74104730R20C21A7TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。中山淳史氏への評価もDを据え置く。中山氏については以下の投稿も参照してほしい。


日経「企業統治の意志問う」で中山淳史編集委員に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_39.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_8.html

日経 中山淳史編集委員は「賃加工」を理解してない?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_87.html

三菱自動車を論じる日経 中山淳史編集委員の限界
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_24.html

「増税再延期を問う」でも問題多い日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_4.html

「内向く世界」をほぼ論じない日経 中山淳史編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_27.html

日経 中山淳史編集委員「トランプの米国(4)」に問題あり
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_24.html

ファイザーの研究開発費は「1兆円」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_16.html

「統治不全」が苦しい日経 中山淳史氏「東芝解体~迷走の果て」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post.html

シリコンバレーは「市」? 日経 中山淳史氏に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/01/blog-post_5.html

欧州の歴史を誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/deep-insight.html

日経 中山淳史氏は「プラットフォーマー」を誤解?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post.html

ゴーン氏の「悪い噂」を日経 中山淳史氏はまさか放置?
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_21.html

GAFAへの誤解が見える日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/gafa-deep-insight.html

日産のガバナンス「機能不全」に根拠乏しい日経 中山淳史氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_31.html

「自動車産業のアライアンス」に関する日経 中山淳史氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/blog-post_6.html

「日経自身」への言及があれば…日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/03/deep-insight.html

45歳も「バブル入社組」と誤解した日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/45-deep-insight.html

「ルノーとFCA」は「垂直統合型」と間違えた日経 中山淳史氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/fca.html

当たり障りのない結論が残念な日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/11/deep-insight.html

中国依存脱却が解決策? 日経 中山淳史氏「コロナ危機との戦い」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/03/blog-post_26.html

資産は「無形資産含み益」だけが時価総額に影響? 日経 中山淳史氏「Deep Insight」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/deep-insight_16.html

やはり苦しい日経 中山淳史氏の「Deep Insight~『時間経済』は商機か受難か」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/06/deep-insight_27.html

理解に苦しんだ日経 中山淳史氏の「Deep Insight~テスラが変える車のKPI」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/deep-insightkpi.html

ROEは「分母と分子を複利で成長させ」ないと維持できない? 日経 中山淳史氏の誤解https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/roe.html