2021年2月28日日曜日

日経1面「アルツハイマー症状予測、AIで精度8割超」に感じた怪しさ

 28日の日本経済新聞朝刊1面に載った「アルツハイマー症状予測、AIで精度8割超~富士フイルム」という記事には疑問が残った。全文を見た上で具体的に指摘したい。

筑後川

【日経の記事】

富士フイルムは軽度認知障害(MCI)からアルツハイマー病へと症状が進行する患者を最大85%の精度で予測する技術を開発した。MCI患者の脳の画像や遺伝子情報などを人工知能(AI)で解析し2年後の症状を予測する。2024年にも使い始める。病気の診断支援に使われるAIが症状の進行も予測することにより、病気の予防にもつながりそうだ。

認知症の前段階であるMCIのうち、一部はアルツハイマー病に進行する一方、症状が継続したり改善したりする患者も多い。同病の薬の開発失敗が相次ぐ背景には、病気に移行しない患者が臨床試験(治験)に参加し薬の有効性を証明しにくい状況が影響している。

富士フイルムは製薬会社の治験で、アルツハイマー病に進行し、薬を投与する必要性が高い患者を選ぶのにAIを活用する。将来は厚生労働省の承認を得て同病の診断支援にAIを使うことも見据えている。

同社はアルツハイマー病に関する共同研究のデータベースを使ってAIを開発した。MCIの症状を持っていた患者239人のデータを20年夏にAIで解析した。2年後にアルツハイマー病に移行するか、MCIのままかを予測し、実際の病状と照合したところ85%の確率で合致したという。

世界保健機関(WHO)は、15年に約5000万人いるアルツハイマー病を中心とした認知症患者が、高齢化に伴い50年に1億5200万人に増えると予想している。そのため薬の開発を急ぐ動きが出ている。


◎本当に効く薬なら…

同病の薬の開発失敗が相次ぐ背景には、病気に移行しない患者が臨床試験(治験)に参加し薬の有効性を証明しにくい状況が影響している」との説明が引っかかる。ここで言う「」とは「軽度認知障害(MCI)からアルツハイマー病へと症状が進行する」ことを防ぐものだとしよう。

」を投与しないと30%が「アルツハイマー病へと症状が進行する」。「投薬なしだとアルツハイマー病へと進行してしまう人」の半分を救う力が「」にはある。「治験」は治療群と対照群がそれぞれ100人。この条件で考えてみよう。

この場合、治療群で「アルツハイマー病」へ進行するのは15人で、対照群は30人となる。

AI」を使って「投薬なしでも進行しない人」を排除してみよう。単純化のため100%の予測精度だとする。今度は治療群で「アルツハイマー病」へ進行するのは50人で、対照群は100人となる。どちらにしても「」はリスクを半減している。

」に効果があるならば「病気に移行しない患者が臨床試験(治験)に参加」していても基本的には問題ないはずだ。なのに「AI」を「治験」に使うという。

治療群と対照群に患者を振り分ける時に「AI」を使って対照群にハイリスクの患者を集中させれば、何の効果もない「」だとしても治療群には素晴らしい結果が出るはずだ。しかし、これは明らかなインチキだ。

色々と考えてみたが、インチキに使うのでない場合、「AI」を使った「富士フイルム」の「技術」が「治験」において、どう役に立つのか理解できなかった。記者には分かったのだろうか。

ついでに言うと「病気の診断支援に使われるAIが症状の進行も予測することにより、病気の予防にもつながりそうだ」という説明も引っかかった。

これをどう「予防」につなげるのか。「アルツハイマー病」に進行するリスクが高い人にも低い人にも「MCI」であれば同じように対策を講じる場合、「予測」を「予防」につなげる効果は期待できない。

リスクが高い人にだけ適用される効果的な「予防」策があるのならば話は別だが…。

ニュース性が乏しく怪しそうな話をなぜ朝刊1面に持ってきたのか。紙面作りに関わった人たちは誰も疑問に思わなかったのだろうか。


※今回取り上げた記事「アルツハイマー症状予測、AIで精度8割超~富士フイルム」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210228&ng=DGKKZO69511580Y1A220C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2021年2月27日土曜日

「女性側に原因がないこともない」を「失言」と見なす小田嶋隆氏に異議

高い地位にある高齢男性」が「企業で女性の役員登用が進んでいない理由を問われて、『女性側に原因がないこともない』とし、さらに『チャンスを積極的に取りにいこうとする女性がそれほど多くないのではないか』」と述べた場合、「失言」と言えるだろうか。日経ビジネス3月1日号に載った「小田嶋隆の『Pie in the sky』絵に描いた餅ベーション~分かっちゃいるけど失言しちゃう」という記事でコラムニストの小田嶋隆氏は「失言」と決め付けているが、同意できない。問題の部分を見てみよう。

夕暮れ時の筑後川

【日経ビジネスの記事】

中西会長の失言から約1週間後の16日、今度は経済同友会の桜田謙悟代表幹事が、企業で女性の役員登用が進んでいない理由を問われて、「女性側に原因がないこともない」とし、さらに「チャンスを積極的に取りにいこうとする女性がそれほど多くないのではないか」と、ダメを押したことで、めでたく炎上する次第となった。

この発言も精いっぱい気持ちを汲んで差し上げれば、特段に事実と異なった内容を述べているわけではない。実際に女性の側にも問題はあるだろうし、役員就任に消極的な女性も少なくないはずだからだ。

思うに、両者の発言がアウト判定をくらった理由は、地位にふさわしいポジショントークを求められている場所で、うっかり本音を漏らしたからだ

経営者は、リアリストでないといけない。彼らは「理想はともかく、現実はこんなもんだろ?」という冷徹な現実認識から戦略を組み立てる。一方、経済団体のリーダーは、リアルとは正反対の「建前」「理想」「高く掲げる目標」に立脚した展望を求められる。

たとえば女性登用について「すぐには無理だわな」という本音と「喫緊の課題として取り組まなければならない」という建前が併存している場合、企業の経営者なら前者を選んでもよい。しかし、経済団体のトップなら、断然、後者を告知しなければならない。というのも、トップ経済人は内外の企業や社会に向けて理想を掲げるのが仕事だからだ。いや、こんなことは私が言うまでもなく、偉い人たちは十分に承知している基本中の基本だ。

その当たり前の基本のABCを、経済人のトップが踏み外してしまうのは、結局、われわれの社会の中で、本音と建前(あるいは現実と理想)が、あまりにも乖離しているからなのだろう。

してみると、間違っているのはどっちなのだろう。社会の現実の方だろうか。それとも、掲げている理想が見当違いなのだろうか? 間違っているのは現実だ、と、答えておくところなのだろうね。社会派コラムニストのポジショントークとしては。


◎「炎上」したら「アウト」?

失言」とは「言うべきではないことを、うっかり言ってしまうこと。また、その言葉」(デジタル大辞泉)という意味だ。

経済同友会の桜田謙悟代表幹事」の発言が「特段に事実と異なった内容を述べているわけではない」と小田嶋氏も認めている。それでも「失言」に分類しているのは「地位にふさわしいポジショントークを求められている場所で、うっかり本音を漏らした」からだと言う。

まず「地位にふさわしいポジショントークを求められている」のか疑問だ。“失言”が飛び出したのは定例記者会見の場だ。出席する記者の立場としては、当たり障りのない発言よりも、見出しの立ちそうな発言を「求め」ていそうだ。「地位にふさわしいポジショントーク」が「喫緊の課題として取り組まなければならない」といった面白くも何ともない発言だとしたら、それを「求め」ているのは記者ではないだろう。「経済同友会」のスタッフ辺りか。だとして、その「求め」に応じるべきなのか。

仮に「地位にふさわしいポジショントーク」をすべきだったとしよう。その場合でも、今回の発言が該当しないとは言い切れない。「経済団体のトップ」として「告知しなければならない」のは「経営側ばかりに問題を求めるのは間違いだ」という点だとも考えられる。だとすると「経済同友会の桜田謙悟代表幹事」は事実誤認などの問題がない範囲で「地位にふさわしいポジショントーク」をしたとも言えそうだ。

発言が「炎上」したからと言って「アウト判定をくらった」と決め付ける必要もない。問題は中身だ。例えば、日米開戦前に経済界の要人が「米国と戦うなんて無謀なことは考えるべきではない。やっても勝てるはずがない」と発言して「炎上」したとしよう。この場合、「地位にふさわしいポジショントーク」はできていないかもしれない。だからと言って「失言」と評価すべきなのか。

裸の王様を見ても「立派な服ですね」と称賛することを「ポジショントーク」として求められていたら、それに従うのが「基本中の基本」なのか。だとしたら、その「基本中の基本」は捨てていい。

小田嶋氏の言う「本音と建前(あるいは現実と理想)」が何を指すのか明確ではないが、仮に「本音=女性側に原因がないこともない」「建前=女性側には全く原因がない」だとしたら、間違っているのは明らかに「建前」の方だ。間違った「建前」を基に議論を進めていいのか。

間違っているのは建前(理想)だ」と「社会派コラムニストのポジショントークとしては」答えておくべきだ。小田嶋氏には、そこに気付いてほしい。


※今回取り上げた記事「小田嶋隆の『Pie in the sky』絵に描いた餅ベーション~分かっちゃいるけど失言しちゃう

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/00106/00105/?P=1


※記事の評価はD(問題あり)。小田嶋隆氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

どうした小田嶋隆氏? 日経ビジネス「盛るのは土くらいに」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_25.html

山口敬之氏の問題「テレビ各局がほぼ黙殺」は言い過ぎ
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/06/blog-post_10.html

小田嶋隆氏の「大手商業メディア」批判に感じる矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_12.html

杉田議員LGBT問題で「生産性」を誤解した小田嶋隆氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/lgbt.html

「ちょうどいいブスのススメ」は本ならOKに説得力欠く小田嶋隆氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/ok.html

リツイート訴訟「逃げ」が残念な日経ビジネス「小田嶋隆のpie in the sky」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/pie-in-sky.html

「退出」すべきは小田嶋隆氏の方では…と感じた日経ビジネスの記事https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/10/blog-post_16.html

「政治家にとってトリアージは禁句」と日経ビジネスで訴える小田嶋隆氏に異議ありhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_10.html

「利他的」な人だけワクチンを接種? 小田嶋隆氏の衰えが気になる日経ビジネスのコラムhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_15.html

根拠示さず小林よしのり氏を否定する小田嶋隆氏の「律義な対応」を検証https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_28.html

小田嶋隆氏が日経ビジネスで展開した「コロナ楽観論批判」への「反論」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_29.html

「女性限定の反撃」は「罪」? 小田嶋隆氏が日経ビジネスで展開した無理筋https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/01/blog-post_25.html

2021年2月26日金曜日

小渕、森の両首相が「見えるわけない」? Makiharalabo projects さんのツイートを考察

 東京大学教授の牧原出氏が週刊東洋経済2月27日号に書いた「フォーカス政治~破綻した官邸主導政治から転換を」という記事を少し前に取り上げた。これに関してツイートしたところ「Makiharalabo projects」というアカウントによる引用ツイートがあった。なので、もう少しこの問題を掘り下げてみたい。

筑後川

まずはツイートを順に紹介する。

【自分のツイート】

橋本龍太郎氏や小泉純一郎氏のような優れた「リーダー」が「連綿と続くこと」を「官邸機能強化論」の「担い手」は「安易に想定しすぎた」と東京大学教授の牧原出氏が #週刊東洋経済 に書いている。間の小渕恵三氏と森喜朗氏が「改革論の担い手」には見えなかったのか? 


【Makiharalabo projects さんの引用ツイート】

見えるわけないでしょう。語らないのは武士の情けというものです。


【自分の引用ツイート】

なぜ「見えるわけ」がないのか? 普通の日本人でも時の首相を視界から外して生きる方が難しいが…。小渕恵三氏も森喜朗氏も「見えるわけ」がないほど無知な「改革の担い手」とは誰なのだろう?


◇   ◇   ◇


ブログで記事の問題点を指摘した部分も再掲しておく。


【ブログでの指摘】

官邸機能強化論」には「橋本龍太郎=小泉純一郎バイアス」があり「こうしたリーダーがその後も連綿と続くことを、改革論の担い手は安易に想定しすぎたのである」と牧原氏は言う。「橋本龍太郎」氏から「小泉純一郎」氏へ首相のバトンが渡ったのならばまだ分かる。しかし両者の間に小渕恵三氏と森喜朗氏がいる。橋本氏と小泉氏が○で小渕氏と森氏が×ならば「リーダー」は○××○となる。なのになぜ○タイプの「リーダーがその後も連綿と続くことを、改革論の担い手は安易に想定しすぎた」のか。

直近4人の「リーダー」のうち○は2人。直近3人に絞れば○は1人だけだ。なのに○タイプが「その後も連綿と続く」と「想定」するのは不自然だ。今後は×タイプが「リーダー」になることはないと「想定」できる理由は考えにくいし、牧原氏も言及していない。

森氏や小渕氏が首相だったことを「改革論の担い手」は知らなかったとも考えにくい。「橋本龍太郎=小泉純一郎バイアス」があったという牧原氏の分析に問題がある気がする。

牧原氏が書く政治関連記事は要注意。そう見ておくべきだろう。


◇   ◇   ◇


以上を材料として問題を掘り下げていく。


◎なぜ「見えるわけない」?

官邸機能強化論」の「担い手」には小渕恵三氏と森喜朗氏という2人の首相が「見えるわけない」と「Makiharalabo projects」さんは言う。しかし、なぜ「見えるわけない」のかは教えてくれない。00年代初めに「官邸機能強化論」の「担い手」となった人には「橋本龍太郎」氏と「小泉純一郎」氏は見えて、小渕氏と森氏は見えなかったことになる。

官邸機能強化論」の「担い手」がどんな人か牧原氏は明示していないが、常識的に考えれば政治家や官僚か。広げてみても学者や経済人辺りだろう。こうした人たちに時の首相が見えなかったとは考えにくい。

百歩譲って、「官邸機能強化論」の「担い手」は愚かな人ばかりで小泉氏の前に森氏や小渕氏が首相を務めていたことを知らなかったとしよう。しかし、なぜか橋本氏と小泉氏の姿は見えている。さらに、そうした人たちが「官邸機能強化論」の「担い手」の中でそこそこ多数派でなければ「橋本龍太郎=小泉純一郎バイアス」は生まれない。やはり無理がある。

Makiharalabo projects」さんの言う「語らないのは武士の情けというものです」とのコメントについても考えてみよう。「(森氏と小渕氏について牧原氏が)語らないのは武士の情けというものです」との趣旨だとする。

自分としては「森氏と小渕氏について牧原氏が語るべきだった」とそもそも考えていない。求めているのは「○××○」という流れで首相が交代したのに、なぜ「改革論の担い手」は○タイプのリーダーが「その後も連綿と続く」と「想定」したのかだ。基本的には2つの理由が考えられる。


(1)「これまでもずっとそうだった」と「担い手」が誤解していた

(2)×タイプのリーダーが出てこられないような状況が作られた


(1)については非常に考えにくいと既に述べた。

(2)もなさそうな気がするし、牧原氏も言及していない。あるのならば、そこは記事中で「語って」ほしかった。小渕氏や森氏について語ってほしかった訳ではない。

Makiharalabo projects」さんのツイートでは、牧原氏の記事に関する疑問が何ら解消しない。これが結論だ。


※今回取り上げた記事「フォーカス政治~破綻した官邸主導政治から転換を

https://premium.toyokeizai.net/articles/-/26198


※今回の件に関して最初に取り上げた投稿

「橋本龍太郎=小泉純一郎バイアス」? 牧原出 東大教授が東洋経済で展開した謎の解説https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/02/blog-post_24.html


※牧原氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

東洋経済「フォーカス政治」に見える牧原出 東大教授の実力不足https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_10.html

2021年2月25日木曜日

プレジデントオンラインでの「少子化」の解説に無理がある田中俊之 大正大准教授

2月24日付のプレジデントオンラインに載った「少子化も女性管理職不足も『女性のせい』と考える人に欠けている視点」という記事は説得力に欠けた。「日本では少子化が深刻な問題になっています。原因についてもさまざまな議論が行われていますが、その中には社会学の観点から見て正しくないと思われるものもあります。その代表例が『少子化の進行は女性の社会進出が進んだせいだ』というものでしょう」と筆者である大正大学心理社会学部人間科学科准教授の田中俊之氏は言う。しかし「正しくない」とは思えなかった。

電柱と烏

記事の一部を見てみよう。

【プレジデントオンラインの記事】

こうした変化は、時期的には女性の社会進出やパートの増加、フルタイム共働きの増加などと重なっているため、一見しただけでは「ベビーブーム時代に比べて働く女性が増えたせい」と思ってしまいがちです。

しかし、2019年の1.36という数字は、結婚する人が減った結果でもあります。男女問わず結婚する人が減れば出産も減りますから、女性のフルタイム勤務だけに原因を求めるのは正しい考え方とは言えません。

また、他の先進国では、フルタイム共働きが増えても出生率はおおむね維持されています。一方、日本では待機児童の問題もあり、女性が「育児か仕事か」と二択を迫られるケースも少なくありません。働く女性が増えたのは海外も日本も同じなのに、なぜ日本だけここまで出生率が下がっているのでしょうか


◎色々と疑問点が…

少子化の進行は女性の社会進出が進んだせいだ」という見方について最初は「社会学の観点から見て正しくないと思われる」と言っていた田中氏だが、読み進めると「女性のフルタイム勤務だけに原因を求めるのは正しい考え方とは言えません」とトーンダウンしている。

個人的には「女性の社会進出」と「少子化の進行」には因果関係があると思っている。しかし「女性のフルタイム勤務だけに原因を求める」つもりはない。様々な要因が絡んでいるのは当然だ。

記事の最初の方では「少子化の進行は女性の社会進出が進んだせいだ」という見方を全否定していたのに、その後に「原因はそれだけではない」とすり替えている。ここが、まずズルい。

そして「他の先進国では、フルタイム共働きが増えても出生率はおおむね維持されています」「働く女性が増えたのは海外も日本も同じなのに、なぜ日本だけここまで出生率が下がっているのでしょうか」と続けている。

低い「出生率」は「先進国」共通の問題だ。人口置換水準と言われる2.1程度の「出生率」を「他の先進国」が揃って維持しているのに、日本だけが1.4程度の低い「出生率」ならば「なぜ日本だけ」となるのも分かる。しかし、そうではない。

先進国」の「出生率」は基本的に2未満。韓国のように1を下回っている国もある。「なぜ日本だけここまで出生率が下がっているのでしょうか」という問題提起がそもそも間違っている。「なぜ日本を含めて先進国では出生率が低くなってしまうのでしょうか」などと問うべきだ。

2019年の1.36という数字は、結婚する人が減った結果」でもあるので「女性のフルタイム勤務だけに原因を求めるのは正しい考え方とは言えません」という説明も問題がある。「女性のフルタイム勤務」が増えると「結婚する人」が減り、その結果として「少子化の進行」を招いたのだとしよう。この場合「女性のフルタイム勤務だけに原因を求めるのは正しい」と言える可能性がある。

記事の続きを見ていこう。


【プレジデントオンラインの記事】

そう考えていくと、日本の出生率低下は、働く女性が増えたことが原因なのではなく、その変化に対応しきれていない社会に原因があるということがわかってきます。そのひとつが、家事育児は女性がするものだという、昔ながらの「見えないルール」です。社会は変わったのにルールは変わっていない、ここに出生率低下の根本原因があるように思います。


◎またおかしなことを…

そう考えていくと、日本の出生率低下は、働く女性が増えたことが原因なのではなく、その変化に対応しきれていない社会に原因があるということがわかってきます」と田中氏は言う。しかし、考え方や状況認識が間違っているので、それに基づく結論は支持できない。

田中氏は最初から「日本の出生率低下は、働く女性が増えたことが原因なのではなく、その変化に対応しきれていない社会に原因がある」と信じているのだろう。「結論ありきだから無理のある主張になってしまう」と考えると腑に落ちる。

第2次ベビーブームの頃に今より「出生率」が大幅に高かったのは、男性が家事・育児に協力的だったからなのか。当時の方が「家事育児は女性がするもの」という意識は強かったはずだ。なのに「出生率」は今をはるかに上回る。その理由を分析しないと「少子化」の本当の原因には辿り着けないだろう。

これをきちんとやると、田中氏のような考え方の人たちには不都合な結論に達するはずだ。しかし「北欧などを見習って日本ももっと社会を進歩的な方向に変えていかないと…」といった結論でないと受け入れられない人は多い。それが「少子化」問題の理解を難しくしている。

「人口置換水準を安定的に上回る出生率を確保したいのならば、発展途上国に逆戻りするような政策もためらうな」というのが「少子化」対策の結論だと思える。

女性管理職」の件に関してもツッコミを入れておきたい。

【プレジデントオンラインの記事】

日本では、管理職になると会社にいる時間が長くなる傾向があります。だからといって「育児は女性がするもの」という社会的プレッシャーは変わりません。これでは「育児と両立できないからなりたくない」と考える女性が出るのも当然でしょう。

しかし、企業側はこの背景を無視して「女性がなりたがらなくて困っている」と結論づけてしまいがちです。本当に女性管理職を増やそうと思うなら、なぜなりたがらないのか、どうすれば解消できるのかを考えなければなりません。そうでなければ、女性のほうは管理職を避けたまま、企業のほうは「女性はなりたがらないものだ」と勘違いしたまま、延々と悪循環が続いていくことになります。


◎「勘違い」はないような…

企業のほうは『女性はなりたがらないものだ』と勘違いしたまま」と田中氏は言うが、「管理職」に「なりたくない」と考える女性が多い傾向があるのならば「企業のほう」に「勘違い」はない。

女性管理職を増やそうと思うなら、なぜなりたがらないのか、どうすれば解消できるのかを考えなければなりません」というのはその通りだ。しかしここでは「(女性は管理職に)なりたがらない」という前提を田中氏も置いている。なのに「女性はなりたがらないもの」がどうして「勘違い」なのか。

女性が「なりたがらない」のであれば、無理して「女性管理職を増やそう」とする必要はない気がする。こう言うと「ジェンダーギャップ指数で日本は…」といった声が聞こえてきそうだ。しかしジェンダーギャップ指数の順位を上げることに意味は感じない。それが国民の幸福につながるならば別だが、「なりたがらない」人を強引に管理職にして指数の順位を上げても、国民の幸福につながるとは思えない。



※今回取り上げた記事「少子化も女性管理職不足も『女性のせい』と考える人に欠けている視点
https://president.jp/articles/-/43400


※記事の評価はD(問題あり)

2021年2月24日水曜日

「橋本龍太郎=小泉純一郎バイアス」? 牧原出 東大教授が東洋経済で展開した謎の解説

東京大学教授の牧原出氏は賢い人なのだろうが、記事にはその賢さが出ていない。週刊東洋経済2月27日号の「フォーカス政治~破綻した官邸主導政治から転換を」という記事でも辻褄の合わないことを平然と書いている。

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当該部分を見ていこう。

【東洋経済の記事】

内閣機能強化論なかんずく官邸機能強化論は、2001年の省庁再編の大きなテーマであった。省庁間セクショナリズムを打破し、国家の基本方針を大胆に定めるには、首相と官邸に権力を集中すべきとする改革論が叫ばれた。

しかし、今にして思い返せば、そのときの改革論には大きなバイアスがあった。それは、「橋本龍太郎=小泉純一郎バイアス」とでも呼ぶべきものである

省庁再編を政治課題に掲げた橋本首相は、そのための諮問機関であった行政改革会議を自ら議長として取り仕切った。各省庁の状況を熟知していたうえに、財界人、言論人、法律専門家らが居並ぶ会議をまとめ上げるだけの識見も十分備えていたのである。

そして、再編された省庁を担ったのは、自民党総裁選挙で橋本氏を破り首相に就任した小泉氏であった。小泉内閣は確かに「官邸主導」を実質的に作り上げたが、小泉首相は経済財政諮問会議の議長として、閣僚たちに役所のペーパーの読み上げを許さず、自分も意のままに発言した。小泉首相は政策の細部にこだわらない姿勢を変えはしなかったが、おおむね全体の流れを直感的であったにせよ、把握していた。

こうしたリーダーがその後も連綿と続くことを、改革論の担い手は安易に想定しすぎたのである。新型コロナウイルス感染症という直面する果てない危機に際して、官僚のペーパーを読むことしかできない前首相・現首相を見ると、かつての想定がいかに甘いものであったかがわかる。2人とも、多数の意見が入り乱れる会議の中で、それぞれの発想を踏まえて合意点を見いだしつつ、リーダーシップを発揮するということができていない。官邸強化論は、現在のような、いわば平均的な自民党総裁には荷が重すぎるというべきである。


◎2人の首相は見えなかった?

官邸機能強化論」には「橋本龍太郎=小泉純一郎バイアス」があり「こうしたリーダーがその後も連綿と続くことを、改革論の担い手は安易に想定しすぎたのである」と牧原氏は言う。「橋本龍太郎」氏から「小泉純一郎」氏へ首相のバトンが渡ったのならばまだ分かる。しかし両者の間に小渕恵三氏と森喜朗氏がいる。橋本氏と小泉氏が○で小渕氏と森氏が×ならば「リーダー」は○××○となる。なのになぜ○タイプの「リーダーがその後も連綿と続くことを、改革論の担い手は安易に想定しすぎた」のか。

直近4人の「リーダー」のうち○は2人。直近3人に絞れば○は1人だけだ。なのに○タイプが「その後も連綿と続く」と「想定」するのは不自然だ。今後は×タイプが「リーダー」になることはないと「想定」できる理由は考えにくいし、牧原氏も言及していない。

森氏や小渕氏が首相だったことを「改革論の担い手」は知らなかったとも考えにくい。「橋本龍太郎=小泉純一郎バイアス」があったという牧原氏の分析に問題がある気がする。

牧原氏が書く政治関連記事は要注意。そう見ておくべきだろう。


※今回取り上げた記事「フォーカス政治~破綻した官邸主導政治から転換を

https://premium.toyokeizai.net/articles/-/26198


※記事の評価はE(大いに問題あり)。牧原氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

東洋経済「フォーカス政治」に見える牧原出 東大教授の実力不足https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_10.html

2021年2月23日火曜日

「ナベプロ1社寡占に挑む」? 「1社」なら「独占」では? 日経に問い合わせ

1社寡占」という言葉には矛盾を感じる。「寡占」状態は「1社」では作れないからだ。しかし23日の日本経済新聞朝刊文化面には見出しで「1社寡占」と出ている。以下の内容で問い合わせを送っておいた。

岡城跡

【日経への問い合わせ】

ホリプロ  堀威夫様 日本経済新聞社 担当者様

23日の日本経済新聞朝刊文化面の「私の履歴書~堀威夫(22)『スター誕生!』 ナベプロ1社寡占に挑む 第1回優勝は幼さ残る森昌子」という記事についてお尋ねします。見出しで「ナベプロ1社寡占に挑む」と打ち出し、本文にも「けれど芸能ビジネスの発展を考えれば、1社寡占はよくない」との記述があります。

寡占」とは「複数のしかし少数の大企業がその産業のマーケット・シェアを占めている産業構造のこと」(世界大百科事典)です。「1社」では「寡占」になりません。「芸能ビジネス」の市場を「ナベプロ」だけで押さえているのならば「1社独占」のはずです。「1社寡占」という表現は誤用ではありませんか。

ナベプロ」による「独占」または「寡占」が成立していたかどうかも疑問が残ります。記事には「井原さんはナベプロ以外のプロダクションの社長を集め、助力を求めた」との記述があります。ここからは、なかりの数の「プロダクション」があったと推察できます。であれば「独占」ではありませんし「寡占」とするのも苦しいでしょう。

せっかくの機会なので、記事に関する感想も添えておきます。

今回の記事では「ナベプロ創業者の渡邊晋さん」と堀様の「けんか」を取り上げています。「けんか」に至るまでの経緯は詳しく説明していますが、結末に関してはほぼ触れていません。「晋さんは小癪(こしゃく)な奴めと思ったかもしれない。ただ私とは、けんかにならない感じのけんかだった」と書いてあるだけで、別の話題に移っています。

これでは読む側としてはすっきりしません。顛末をきちんと説明する気がないのならば「けんか」の話は省いた方が良いでしょう。

問い合わせは以上です。「1社寡占」に関しては回答をお願いします。日本経済新聞社では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。担当者様には日本を代表する経済メディアの一員として責任ある行動を期待します。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「私の履歴書~堀威夫(22)『スター誕生!』 ナベプロ1社寡占に挑む 第1回優勝は幼さ残る森昌子

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210223&ng=DGKKZO69324150S1A220C2BC8000


※記事の評価はD(問題あり)

2021年2月22日月曜日

東洋経済 山田雄大氏の「日本製鉄が東京製綱に振り上げた『拳』の威力」に足りないもの

日本製鉄が東京製綱に敵対的TOBを仕掛けた件には関心がある。なぜ「19.9%への出資比率引き上げ」に留めるのか引っかかるからだ。東洋経済オンラインに山田雄大氏が書いた記事もこの疑問を解消してくれなかった。単純ミスを見つけたこともあり、以下の内容で問い合わせを送った。

筑後川と片の瀬橋

【東洋経済オンラインへの問い合わせ】

週刊東洋経済 解説部コラムニスト 山田雄大様 東洋経済オンライン 担当者様 

21日付の東洋経済オンラインに載った「日本製鉄が東京製綱に振り上げた『拳』の威力~株式を買い増して『会長は退け』と詰め寄る」という記事についてお尋ねします。この中に「TOBの期間は3月8日までだが、目標とする19.9%への出資比率引き上げは成立の確立が高い」との記述があります。「成立の確立」は「成立の確率」の誤りではありませんか。回答をお願いします。

問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。誤りであれば、問題部分の修正もお願いします。

せっかくの機会なので記事の感想も付け加えておきます。

今回の件で私が最も気になるのは、なぜ「19.9%への出資比率引き上げ」に留めるのかです。「TOBが成立しても19.9%しか出資しない以上、他の株主の利益相反となるような行動は取れない。かといって、東京製綱の再建支援を通して自社の利益を高められなければ、今度は日本製鉄の経営陣が株主から責任を問われるおそれがある」と山田様も書いています。

TOB」の本当の狙いが「海外材の調達拡大や脱鉄の動きに対する見せしめ」や「東京製綱の田中会長」の排除であれば、子会社化した方が話は簡単です。「日本製鉄」にとって資金負担が重いとも思えません。なのに「19.9%」止まり。その理由を知りたいのに、今回の記事には納得できる解説が見当たりません。今後に期待しています。

また東洋経済新報社では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。


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※今回取り上げた記事「日本製鉄が東京製綱に振り上げた『拳』の威力~株式を買い増して『会長は退け』と詰め寄る

https://toyokeizai.net/articles/-/412132


※記事の評価はC(平均的)。山田雄大氏への評価はB(優れている)からCへ引き下げる。山田氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

東洋経済 山田雄大記者の秀作「スズキ おやじの引き際」https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/10/blog-post_5.html

東洋経済「ニュースの核心」結果論で語らない山田雄大氏の姿勢を評価https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/blog-post.html