2018年11月10日土曜日

LINEほけんは「好調そのもの」? 日経ビジネス武田安恵記者に問う

日経ビジネス11月12日号に載った「時事深層 COMPANY~金融、若者巻き込み『収穫』へ LINEほけん、登録は3週間で460万人」という記事で、筆者の武田安恵記者は「LINEほけん」に関して「滑り出しは好調そのもの」と言い切っている。だが、どうも怪しい。問題のくだりは以下のようになっている。
小石川後楽園(東京都文京区)
       ※写真と本文は無関係です

【日経ビジネスの記事】

無料対話アプリLINE(ライン)と損害保険ジャパン日本興亜は10月16日からスマホアプリ内で加入できる損害保険の販売を始めた。滑り出しは好調そのもので、いわゆる「友だち登録」をした人の数は3週間で460万となった。

この数は実際に保険に加入する前段階のものだが、「加入予備軍」が着々と膨らみ続ける現状に競合各社は驚きを隠さない。LINEと組んだ当の損害保険ジャパン日本興亜でさえ「損保の売り方を少し変えただけでこれほど興味を持ってもらえるとは」と話す。


◎契約実績をなぜ見せない?

「『友だち登録』をした人の数は3週間で460万となった」ことを根拠に「滑り出しは好調そのもの」と武田記者は書いている。なぜ「3週間」の契約実績で語らないのか。「保険に加入する前段階」の数字で好不調を判断するのは危険だ。「友だち登録」をする人は多くても実際の契約では苦戦している可能性がかなりある。

取材に対し「LINE」が契約実績は開示しないのに「友だち登録」の数字だけを教えてくれる場合は、特にその可能性を考慮すべきだ。調べてみると、「LINEほけん」では「合計70万名さまに『スマホのおまもり』『自転車のおまもり』『年越しのおまもり』をプレゼント」するキャンペーンをやっているようだ。

この「無料でもらえる保険おまもりシリーズ」が「友だち登録」の原動力となっていても不思議ではない。だとすると「460万」という数字も割り引いて考える必要がある。その辺りも十分に考慮した上で「滑り出しは好調そのもの」と武田記者は書いたのか。「LINE」側に上手く丸め込まれたのではないかとの疑念は拭えない。

「『加入予備軍』が着々と膨らみ続ける現状に競合各社は驚きを隠さない」と書きながら「LINEと組んだ」「損害保険ジャパン日本興亜」のコメントを持ってくるのも引っかかる。「損害保険ジャパン日本興亜」が提携相手を持ち上げるのは当然だ。

この記事には第三者のコメントは全く出てこない。「競合各社は驚きを隠さない」という情報も「LINE」や「損害保険ジャパン日本興亜」が武田記者に吹き込んだのではないかと勘繰りたくなる。

武田記者に関しては「LINE」や「損害保険ジャパン日本興亜」の側に立った書き手と見た方が良さそうだ。「LINEほけん」に関して武田記者は「保険料も1日100~500円と安く抑え、若者を意識して『敷居』を極力低くする工夫をほどこしている」とも書いている。

だが「1日100~500円」が安いと言える根拠は示していない。例えば「同じ保障内容の他社の保険と比べて2~3割安い」といった情報があれば納得できる。しかし「1日100~500円」だけでは判断できない。この辺りの説明にも、武田記者の書き手としての姿勢が垣間見える。


※今回取り上げた記事「時事深層 COMPANY~金融、若者巻き込み『収穫』へ LINEほけん、登録は3週間で460万人
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/depth/110601277/?ST=pc


※記事の評価はD(問題あり)。武田安恵記者への評価もDを据え置く。

2018年11月9日金曜日

ぐるなび会長の寄付で「変わる相続」語れる? 日経「ポスト平成の未来学」

適当な事例が見つからなかったのに「変わる相続」というテーマで強引に押し切ってしまったのだろうか。8日の朝刊未来学面に載った「ポスト平成の未来学 第13部 死を考える 『生きた証し』誰に~寄付・ペット…変わる相続」という記事では、「相続」と直接関係のない普通の「寄付」がメインの事例になっている。本当は「遺贈寄付」の事例を取り上げたかったのだとは思うが…。

ご意見や情報をmiraigaku@nex.nikkei.co.jpにお寄せください」と記事には出ていたので、筆者に意見を送ってみた。

長崎鼻(大分県豊後高田市)
     ※写真と本文は無関係です
【日経に送ったメールの内容】

日本経済新聞社 渡辺淳様

8日の朝刊未来学面に載った「ポスト平成の未来学 第13部 死を考える 『生きた証し』誰に~寄付・ペット…変わる相続」という記事について意見を述べさせていただきます。記事では「相続は長い人生の決算。どんな変化があるのか、探ってみた」との記述に続いて「東京工業大学」の事例が出てきます。「2020年秋の開設をめざし、日本人の学生と留学生が交流を育む地上2階・地下2階建ての施設」に関して渡辺様は以下のように説明しています。

約30億円と見込まれる総事業費は東工大のOBで、飲食店の検索サイト『ぐるなび』創業者で会長の滝久雄さん(78)が寄付した。『日本が発展するには外国人の協力が必要。もっと留学生を大事にすべきだ』。教育にはお金は惜しまないが、余分なお金は人をダメにするという考えを子どもも理解している。自分の考えを実現し、見届けたいと寄付にこだわった。施設名は夫妻の名前から『Hisao&Hiroko Taki Plaza』に決まった

相続」の「変化」を「探ってみた」と書いた直後の事例なので「寄付」であれば「遺贈寄付」の話かと思いましたが、単なる「寄付」の話です。これでは「相続」に「どんな変化があるのか」は探れません。自分の財産を生きている間にどう使うかの問題です。

相続」の話はやめたのかと思いましたが、結局は「相続」に戻って以下のように記事は続きます。

チャリティー文化が根づく欧米と異なり、日本では億単位の寄付者は少ない。野村資本市場研究所の推計では、国内で1年間に相続される資産総額は50兆円強。一方、相続税の申告から把握できる相続財産の寄付額は13年時点で、約300億円にとどまる

ここでは「相続財産の寄付額」に言及しています。しかし、東工大への「寄付」の件は「相続財産の寄付」ではないはずです。話が混線していませんか。

それに「相続税の申告から把握できる相続財産の寄付額は13年時点で、約300億円にとどまる」としても「日本では億単位の寄付者は少ない」かどうかは分かりません。滝氏が東工大にしたような「寄付」は「相続財産の寄付額」には入らないと思えます。滝氏の話の後で「日本では億単位の寄付者は少ない」と書くのならば、「相続財産」以外の「寄付」も含めて考えるべきです。

記事で取り上げたペット信託の事例にも問題を感じました。記事では以下のように書いています。

福岡県内に住む40歳代の女性は5年前に小型犬を家族に迎えた。その後に夫が県外へ単身赴任し、週末はマイカーで夫の元へ通う日々が始まった。ハンドルを握るたび『もし交通事故に巻き込まれたら愛犬はどうなるんだろう』と不安が募り、ペットのための信託契約を結んだという

40歳代の女性」が「マイカーで夫の元へ通う」時に「」は同乗していないはずです。ならば「交通事故に巻き込まれても愛犬は夫が面倒をみてくれる」と考えるのが自然ではありませんか。しかし、なぜか「ペットのための信託契約」を結んでしまいます。不自然さは拭えません。
旧香港上海銀行長崎支店記念館(長崎市)
       ※写真と本文は無関係です

今回の記事では、ペット信託の宣伝的な臭いも感じました。渡辺様は以下のように説明しています。

いまやペットは我が子同様の存在だ。自分たちに万が一のことがあれば、あらかじめ指定した親族や知人が新しい飼い主となってくれる。金銭的な負担をかけるわけにはいかないと、飼い主の銀行口座には自らの信託財産から愛犬の餌代などの飼育代や謝礼を定期的に払い込んでもらう契約にしている。この女性に信託契約を勧めた服部薫さん(36)はかつては動物看護師で、現在はペットの相続を専門とする行政書士だ。ペットにお金を残そうと遺言書をしたためても『相続争いの火種になりやすく、ペットのために遺産がきちんと使われないことも少なくない』

まず費用に触れていないのが引っかかります。相当に裕福でペットを溺愛している人にとってはペット信託も選択肢になるかもしれません。しかし、平均的な「40歳代の女性」が出す費用として、かなり重い負担になるはずです。そこに触れないで「遺言書よりも確実」というプラスの印象だけを与えるような書き方は感心しません。

次は「大相続時代 さらに多様化」という関連記事についてです。気になったのは以下のくだりです。

高齢化による大相続時代は目の前に迫っている。総務省の家計調査報告から単純計算すると、貯蓄の60%近くを60歳以上の高齢者(17年、2人以上の世帯)が占める。財務省の資料によると、80歳以上で亡くなった高齢者の相続人が50歳以上だった割合は13年時点で約69%と15年間に22ポイント増えた。相続資産が住宅の購入や子どもの教育費を必要とする現役世代に回らず、滞留する『老々相続』は年々進む。生前贈与を促す政策の後押しも必要だろう

まず「大相続時代」が謎です。「大相続時代は目の前」と書いてあるので、今は「大相続時代」ではないのでしょう。しかし、どういう状況になれば「大相続時代」に入ったと言えるのか渡辺様は教えてくれません。これは困ります。

また「80歳以上で亡くなった高齢者の相続人が50歳以上だった割合は13年時点で約69%と15年間に22ポイント増えた」と書いた後で「相続資産が住宅の購入や子どもの教育費を必要とする現役世代に回らず、滞留する『老々相続』は年々進む」と解説しているのも納得できませんでした。

50代は「現役世代」には入らないのですか。「子どもの教育費を必要とする」50代は当たり前にいます。「相続人が65歳以上だった割合」を取り上げた上で「老々相続」と言うのならば分かりますが、50代を入れては説得力に欠けます。

さらに言えば「老々相続」が進むと「相続資産が住宅の購入や子どもの教育費を必要とする現役世代に回らず、滞留する」と考えるのは短絡的です。「80歳以上で亡くなった高齢者」が子や孫の「教育費」を生前に出していた可能性は十分にあります。財産を相続した「50歳以上」の人が子や孫に資金援助する場合もあるでしょう。その辺りも含めて「滞留」を判断すべきです。

私の意見は以上です。今後の記事作りの参考にしていただければ幸いです。

◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事

ポスト平成の未来学 第13部 死を考える 『生きた証し』誰に~寄付・ペット…変わる相続
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181108&ng=DGKKZO37473820X01C18A1TCP000

大相続時代 さらに多様化
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181108&ng=DGKKZO37473880X01C18A1TCP000


※記事の評価はD(問題あり)。渡辺淳記者への評価はDで確定とする。渡辺記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

肝心なことが抜けた日経「保険販売、手数料が高騰」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_76.html


※過去の「ポスト平成の未来学」については以下の投稿も参照してほしい。

「シェア経済」に食傷を感じる日経「ポスト平成の未来学」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/blog-post_9.html

「ピクセルワーカー」が魅力的に映らぬ日経未来学面の記事
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/blog-post_16.html

日経 未来学面「2050年 オフィスが消える」に足りないもの
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/2050.html

「若者たちの新地平」を描けていない日経「ポスト平成の未来学」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/blog-post_24.html

悪い意味で無邪気な日経 未来学面「考えるクルマ 街へ空へ」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_26.html

「肌着からデータ送信」が怪しい日経「ポスト平成の未来学」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_9.html

IT企業の社員は「林業ガール」? 日経 若狭美緒記者に問う
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_23.html

「フリーアドレス制でダイバーシティー効果」が怪しい日経の記事
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_88.html

中長期の正確な気象予測は可能? 日経「ポスト平成の未来学」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_5.html

「海にゴミを捨てるのは合法」と解説する日経 未来学面の記事
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_13.html

未熟さ感じる日経「ポスト平成の未来学~ ゴミはなくせる」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_21.html

「飛行機600人乗り」の予測は的中? 日経 鬼頭めぐみ記者に問う
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/600.html

「障害者」巡る問題多い日経「ポスト平成の未来学」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_10.html

「AIで犯罪予知」に問題目立つ日経「ポスト平成の未来学」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/ai.html

2018年11月8日木曜日

「中小の新卒採用は10年に1人」と岩本隆 慶大教授は言うが…

求人倍率10倍」は「10年に1人採用できるかどうか」を意味するだろうか。日経ビジネス11月5日号の「気鋭の経済論点~今や10年に1人、対策急げ 中小企業の新卒採用」という記事では、見出しでも「今や10年に1人」と打ち出していた。他にも誤りと思える記述があったので、問い合わせをしてみた。
活水女子大学 東山手キャンパス(長崎市)
        ※写真と本文は無関係です

その内容と回答は以下の通り。


【日経BP社への問い合わせ】

慶応義塾大学大学院 経営管理研究科 特任教授 岩本隆様  日経ビジネス編集部 担当者様

11月5日号の「気鋭の経済論点~今や10年に1人、対策急げ 中小企業の新卒採用」という記事についてお尋ねします。見出しにもなっている「10年に1人」に関して、記事には以下の記述があります。

リクルートワークス研究所の調査では、大企業の求人倍率はたった0.37倍。一方で中小企業は16年卒採用から急激に上がり始め、19年卒採用では約10倍となった。1人の学生を10社が奪い合う状況だ。言い換えれば中小企業1社は10年に1人採用できるかどうかというほど厳しい状況にさらされているのだ

求人倍率」が「約10倍」であれば「1人の学生を10社が奪い合う状況」だとは言えます。しかし「言い換えれば中小企業1社は10年に1人採用できるかどうかというほど厳しい状況にさらされているのだ」との説明は納得できませんでした。

全ての「中小企業」は新卒採用で1年に1人の求人しかしないのならば「10年に1人採用できるかどうか」かもしれません。しかし、実際には10人、20人の求人をする「中小企業」もあるはずです。1社平均で年10人を求人するのならば「1年に1人採用できるかどうか」ですし、求人が平均で年5人ならば「2年に1人採用できるかどうか」です。

言い換えれば中小企業1社は10年に1人採用できるかどうかというほど厳しい状況にさらされているのだ」との説明は誤りではありませんか。それとも、新卒に対する中小企業の求人は例外なく年間1人なのでしょうか。

もう1つ質問があります。記事では中小企業の「求人倍率」について「16年卒採用から急激に上がり始め、19年卒採用では約10倍となった」と説明しています。しかし、記事に付けたグラフを見ると、「中小企業(従業員300人未満)」の「16年3月卒」では「求人倍率」が「15年3月卒」を下回っています。「17年3月卒」では少し上向きますが、それでも「15年3月卒」の水準を超えていません。「急激に上がり始め」るのは「18年3月卒」からです。

中小企業は16年卒採用から急激に上がり始め」という説明はグラフと矛盾します。どちらかが間違っていませんか。問題なしとの判断であれば、グラフと記事の食い違いをどう理解すればよいのか教えてください。グラフも「出所:リクルートワークス研究所」となっているので、使用しているデータは同一のはずです。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。


【日経BP社の回答】

いつもご愛読いただき、ありがとうございます。このたび、お寄せいただいたご意見に回答いたします。

質問1)「10年に1人」の表現について

求人倍率の「10年に1人」の件ですが、ご指摘の通り、中小企業の募集人数が1年あたり1人とは限りません。そのため、誤解を招きかねない表現でした。もともと著者は、「単純な計算ではあるが、仮に従業員300人未満の中小企業の新卒募集人数が年間1人だとすると、企業にとっては毎年 0.1 人が採用できる。極端に言い換えれば10 年に 1 人しか採用できない」と表現されていたところ、紙面編集の過程で大幅に端折ってしまったため、紙面ではこのような表現になりました。仮定が抜け落ちてしまい、全体として著者のおっしゃりたかったことを伝えきれない表現になってしまいました。

質問2)求人倍率のグラフについて

「求人倍率のグラフ」に関しては、トレンドとして16年卒採用から求人倍率が底を打ち、
19年卒にかけて上昇し続けていること、および19年卒が約10倍と高い数値になったことの2つの意味を読者に伝えるために、筆者との相談の上、「急激に」と表現いたしました。とはいえ、16年卒と17年卒の求人倍率を取り出して比較した場合に急激と言えるかどうかにつきましては、ご指摘の通り判断の分かれるところで、言葉足らずで誤解を招きかねない表現になっていました。「16年卒採用から急激に上がり始め…」より、「16年卒採用から毎年上がっており…」などとした方がより適切な表現だと考えます。

分かりにくい表現があったことを反省し、今後の記事編集に生かしてまいります。貴重なご指摘をありがとうございました。
九重"夢"大吊橋(大分県九重町)
     ※写真と本文は無関係です

よろしくお願い申し上げます。

◇   ◇   ◇

あえて無視しているのか、質問の意図が伝わらなかったのか分からないが、上記の回答では「中小企業」の「16年3月卒」の求人倍率が「15年3月卒」比でマイナスだった問題に触れていない。以下のような状況に関して「16年卒採用から毎年上がっており」とすると「適切な表現」になるだろうか。

16年3月卒=小幅なマイナス
17年3月卒=小幅なプラス
18年3月卒=大幅なプラス
19年3月卒=大幅なプラス

上がって」いるのは「17年3月卒」からだ。「16年卒採用から」ではない。

筆者の岩本教授も最終的なチェックはしているはずだ。なのに「10年に1人採用できるかどうか」「16年卒採用から急激に上がり始め」といった記述に注文を付けなかったのか。だとしたら少し不安になる。


※今回取り上げた記事「気鋭の経済論点~今や10年に1人、対策急げ 中小企業の新卒採用
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/093000009/102600163/?ST=pc


※記事の評価はD(問題あり)。岩本隆慶大教授への評価も暫定でDとする。

2018年11月7日水曜日

「生産性」を論じない日経「生産性考~その先に何が(下)」

7日の朝刊1面に載った「生産性考~その先に何が(下) ケインズの予言 富の再分配、新たな議論」という記事は「生産性」に全く触れていない。「生産性」を論じるのが難しいのならば「生産性考」とのタイトルは外すべきだ。
豊後森機関庫公園(大分県玖珠町)
      ※写真と本文は無関係です

最初の事例を見ていこう。

【日経の記事】

富山涼平さんの「職場」は長野県松本市の自宅だ。平日は2社から請け負うプログラミングの仕事に充て、週末は趣味のスノーボードに費やす。「色々な仕事ができるとやる気も上がる」。仕事はネットで完結。月収60万円が目標だ。

 30年後、こんな働き方が普通になるかもしれない。副業、兼業を含めた広義のフリーランスは日本に1119万人いるといわれ、労働力人口の17%にあたる。人材サービスの米アップワークなどは、米国で2027年に広義のフリーランスが労働力人口の半分を占めると予想する。

経済学者のジョン・メイナード・ケインズは「労働時間は1日3時間になるだろう」と未来を予想したが、そんな時代が近づいているのだろうか

◇   ◇   ◇

問題点を列挙してみる。

(1)「色々な仕事」をしてる?

富山涼平さん」は「2社から請け負うプログラミングの仕事」をしているらしい。これで「色々な仕事」ができているのか。「プログラミングの仕事」しかしていないと感じる。

プログラミングの仕事」の中に「色々な仕事」があると言いたいのかもしれない。それを言い出せば、よほどの単純労働でない限り「色々な仕事」がある。医師、教師、警察官、会社経営者なども同じだ。「色々な仕事」ができるのが「フリーランス」の特徴だと取材班は示唆したいのだろう。だが説得力はない。


(2)今は「普通」じゃない?

平日に「フリーランス」として「プログラミングの仕事」をしていると聞いて、特殊な「働き方」だと思うだろうか。個人的には「普通の働き方」だと感じる。記事でも「副業、兼業を含めた広義のフリーランスは日本に1119万人いるといわれ、労働力人口の17%にあたる」と書いている。なのになぜ「30年後、こんな働き方が普通になるかもしれない」と書いてしまったのか。


(3)「富山涼平さん」は「3時間」労働?

経済学者のジョン・メイナード・ケインズは『労働時間は1日3時間になるだろう』と未来を予想したが、そんな時代が近づいているのだろうか」と記事に出てくる。文脈的に考えて、冒頭で紹介した「富山涼平さん」の「労働時間」が「1日3時間」以下でないと話が成立しない。しかし「労働時間」に関する情報は見当たらない。

それに「1日3時間」の「労働時間」は既に現実になっている。パートやアルバイトでは「1日3時間」の「労働時間」でも働く場所はたくさんある。パートやアルバイトは取材班の眼中にないかもしれないが…。

ここから記事を最後まで一気に見ていこう。「生産性」をしっかり論じているかチェックしてほしい。

【日経の記事】

現実は厳しい。電話通訳1件100円、テープ起こし1時間1500円。フリーの仕事を見つけるサイトでは機械化の可能性がある仕事の賃金下落が激しい。会社勤めは手厚い福利厚生を期待できるがフリーはそれもない。生活は不安定になるかもしれない。安全網はどうあるべきなのか。

「おかげで生活は充実しているわ」。シニ・マルッティネンさんはフィンランドの首都ヘルシンキで、カフェを運営しながら「赤十字でのボランティアにも打ち込めている」。政府からベーシックインカム(基礎所得)を月約7万2千円受け取っているためだ。

同国は17年、2千人の失業者に対し、収入の有無に関係なく最低限の所得としてもらえるベーシックインカムの実験を始めた。シニさんはこの取り組みで一定の収入が確保できたため、仕事をやめてカフェの起業に一念発起した。

ばらまきといわれかねないベーシックインカムだが、ネット革命の最先端の経営者が賛同し始めている。米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者は「新しいことに挑戦できる考え方として検討すべきだ」と話す。

27兆円。GAFA(グーグルの親会社アルファベット、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)4社の手元資金の総額はこの3年で7割増えた。余るお金は、米アップルの巨額の自社株買いのように株主に流れる。

20世紀型の製造業なら投資して工場を建設し、従業員も多く雇った。だが、知識集約型のデジタル経済を担う企業ではかつてほど投資や雇用を必要としなくなっている。経済全体に富が配分されるメカニズムが働きにくくなっている。先進国で労働分配率が低迷している現実と、デジタル経済の進展に伴う富の集中はコインの裏表だ。

取り残された中間層のいらだちがポピュリズムのかたちで政治を揺らし、いずれは自分たちにも跳ね返ってくる。こんなリスクを感じるからこそ、IT企業の経営者がベーシックインカムの議論に傾いている。

富の集中の行き過ぎを解消する答えがベーシックインカムなのかはわからない。ただ、世界のあちこちで再分配を巡る議論が始まっている意味を、問い直す時期に来ているのかもしれない。


◎「生産性」はどこに行った?

フリーランス」を取り上げるのもいい。「ベーシックインカム」について考えるのも悪くない。だが、この連載は「生産性考」だ。「フリーランス」や「ベーシックインカム」が「生産性」とどう関連してくるのかを論じなければ、記事として成立しない。
平和祈念像(長崎市)※写真と本文は無関係です

その作業を投げ出して「世界のあちこちで再分配を巡る議論が始まっている意味を、問い直す時期に来ているのかもしれない」などと書いても意味はない。問題は「生産性」だ。

ちなみに、企業2面に載せた「生産性考~働き方、職住近接シフト」という関連記事の最後には「生産性」の文字が見える。記事の終盤を見てみよう。


【日経の記事(企業2面)】

フリーランスでなくても、会社に出勤しない働き方は広がりつつある。日立製作所はテレワークを活用し、3年後にグループ10万人が社外で働ける体制を整える。政府はそんなテレワーク導入企業を2017年の14%から20年に30%超へと増やす目標を掲げている。

第一生命経済研究所の熊野英生エコノミストは、通勤時間を労働時間に置き換えると「東京都の事業所だけで1年間に8兆6千億円の経済効果がある」と試算する。

人工知能(AI)やロボットが普及して世界がどこへ向かうかはっきりとは見えない。だが、かつてない変化が進行中だ。個人や企業、国はそれぞれの生産性をどう高めるのか、答えを出していかなければならない


◎取材班でしっかり反省を

関連記事では「職住近接」を取り上げているが、「生産性」とどう関係するのかは触れていない。「東京都の事業所だけで1年間に8兆6千億円の経済効果がある」とのコメントは出てくるものの「生産性」との関連は不明だ。

そして最後に「個人や企業、国はそれぞれの生産性をどう高めるのか、答えを出していかなければならない」と取って付けたように「生産性」という言葉を入れて連載を終えている。

関連記事には「緒方竹虎、森本学、今出川リアノン、嘉悦健太、島津忠承、田中暁人、栗本優、秦野貫、大島有美子、増田有莉、松川文平、大鐘進之祐、高尾泰朗、矢崎日子が担当しました」と出ていた。今回の連載がなぜ失敗作となったのか。14人全員でしっかり考えてほしい。



※今回取り上げた記事「生産性考~その先に何が(下) ケインズの予言 富の再分配、新たな議論
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181107&ng=DGKKZO37456810W8A101C1MM8000


※連載全体の評価はD(問題あり)。緒方竹虎氏を連載の責任者と推定し、同氏への評価を暫定でDとする。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

CEO選任は「会社法で義務付け」? 日経1面連載「生産性考」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/ceo.html


※過去の「生産性考」については以下の投稿も参照してほしい。

日本の労働生産性は「低下傾向」? 日経「生産性考」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_27.html

「労働生産性」を数値で見せない日経1面「生産性考」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_28.html

解雇規制緩和で生産性が向上? 日経「生産性考」の無理筋
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_83.html

「鍵は経営者」だとデータが物語らない日経「生産性考」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_36.html

「日本の高齢化は世界最速」? 日経「生産性考」取材班に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post.html

最後まで問題だらけの日経「生産性考~危機を好機に」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_2.html

本当にコンサル部門初の「育児中の女性」? 日経「生産性考」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_2.html

2018年11月6日火曜日

日経「パイオニア再建、視界不良」で堀田隆文記者に注文

6日の日本経済新聞朝刊企業3面に載った「パイオニア再建、視界不良~頼みは自動運転地図、提携探る 出資交渉は月内が正念場」という記事は興味深く読めたが、引っかかる点もあった。まずは以下のくだりだ。

長崎の鐘(長崎市の平和公園)
      ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

小谷進会長(68)や森谷浩一社長(61)らパイオニア経営陣が安堵したのは8月中旬のことだ。「お困りなら、出資する前段階で融資もしましょう」。投資ファンドが資金を貸す異例の内容に経営陣は飛びついた。

直前の8月6日に発表した2018年4~6月期の決算。パイオニアは「継続企業の前提への疑義」を決算書に注記しなければならなかった。

この時点で実態は絶望的だった。「すでに、銀行は支援を打ち切ると伝えてきていた」とパイオニア幹部は話す。三菱UFJ銀行など十数行が参加する130億円の協調融資の満期は9月末だったが、銀行側に借り換えに応じる姿勢は感じられなかったという。手元資金が300億円程度のパイオニアにとっては致命的だった。


◎手元資金で返済できるのに「致命的」?

130億円の協調融資の満期は9月末だったが、銀行側に借り換えに応じる姿勢は感じられなかったという。手元資金が300億円程度のパイオニアにとっては致命的だった」と記事では説明している。パイオニアにとって苦しい状況だとは思うが「絶望的」「致命的」は大げさだ。

手元資金が300億円程度」あるのならば「130億円」を返済しても170億円の「手元資金」が残る。しかも、記事によると子会社の「インクリメント・ピー」には「400億円の価値がある」ようだ。「万策尽きた。倒産しかない」という状況ならば「絶望的」「致命的」と言えるが、記事の説明を信じれば「8月6日」の時点でそこまで追い詰められてはいない。

記事には、どう理解すべきか分からない記述もあった。

【日経の記事】

1990年、世界初のカーナビを発売。その後も車にあらかじめ取りつける「純正品」でホンダやトヨタとがっちり組んだ。だがトヨタで調達担当をした元役員は見抜いていた。「あの会社はたしかに技術はあるけど、技術の見通しには欠ける

2010年ごろから米グーグルが地図に進出する。クラウドにデータを載せたグーグルの地図サービスはめまぐるしく更新され、既存のカーナビは、新設の橋を更新できず海の上を走ることになる

パイオニアがカーナビで成功したのは、子会社に高精度なデジタル地図向けのデータベースを持つインクリメント・ピーがあったからだ。インクリメントの関係者は「グーグルから提携を打診されたこともある」と話す。



◎「技術の見通しには欠ける」?

「(パイオニアは)技術はあるけど、技術の見通しには欠ける」という「トヨタで調達担当をした元役員」のコメントに続いて「既存のカーナビは、新設の橋を更新できず海の上を走ることになる」と書いてあるので「パイオニアのカーナビは地図情報の更新がやたらと遅かったのかな」と感じた。

杵築城(大分県杵築市)※写真と本文は無関係です
しかし、次の段落では「パイオニアがカーナビで成功したのは、子会社に高精度なデジタル地図向けのデータベースを持つインクリメント・ピーがあったからだ」「グーグルから提携を打診されたこともある」と説明している。だとすると「技術の見通し」もしっかりしていたのではないか。

パイオニアの「カーナビ」が「高精度なデジタル地図向けのデータベース」を備えているとしたら「既存のカーナビは、新設の橋を更新できず海の上を走ることになる」という話はどうなるのか。パイオニアともグーグルとも関係ない「カーナビ」に関する話なのか。結局、よく分からなかった。

次は言葉の使い方に注文を付けたい。

【日経の記事】

ファンド傘下でリストラを進めて収益を改善し、自動運転分野で大手メーカーと提携するのがパイオニアの「ベストシナリオ」だろう。だが、「最悪、インクリメント社を切り売りしてイグジット(投資回収)する解体シナリオも十分ある」とファンド関係者は話す。



◎「イグジット」は要らないような…

イグジット」は「出口」という意味なので「イグジットする」には違和感を覚える。「ファンド関係者」は使うのかもしれないが…。余計な横文字だとも思えるので「インクリメント社を切り売りして投資回収する解体シナリオも十分ある」と直した方がいい。匿名のコメントでもあり、「イグジット」を省いても何の問題もないはずだ。

記事の結びに移ろう。

【日経の記事】

11月、東京・銀座。高級宝飾店がひしめくマロニエ通りを歩くと、見慣れた景色がなくなっていた。パイオニアのショールーム「パイオニアプラザ銀座」だ。2011年2月、一等地にオープンした展示場は、ひっそりと営業を終了していた。ほろ苦い風景の先に何が起きるのか、時間との戦いだ。



◎きれいに終わってはいるが…

結びとしては美しい。筆者である堀田隆文記者の書き手としてのセンスを感じる。ただ、この結びにするならば「パイオニアプラザ銀座」が「営業を終了」したのは、ここ数カ月の話でないと苦しい。

調べてみると、閉館は2016年8月7日のようだ。2年以上前に「営業を終了」しているのに「11月、東京・銀座。高級宝飾店がひしめくマロニエ通りを歩くと、見慣れた景色がなくなっていた」と言われても…とは思う。


※今回取り上げた記事「パイオニア再建、視界不良~頼みは自動運転地図、提携探る 出資交渉は月内が正念場
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181106&ng=DGKKZO37401430V01C18A1TJ3000


※記事の評価はC(平均的)。堀田隆文記者への評価は暫定Dから暫定Cに引き上げる。堀田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「人件費」にほぼ触れない日経「インドIT3社、人件費高騰」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/07/blog-post_22.html

2018年11月5日月曜日

CEO選任は「会社法で義務付け」? 日経1面連載「生産性考」

日本経済新聞朝刊1面で「生産性考」の連載が始まった。過去にも「生産性考」のタイトルで何度か連載しており、ツッコミどころの多い内容が目立った。今回もこれまでの流れを引き継いでいるようだ。取材班は「CEO」の選任が「会社法で義務付けられている」と誤解している可能性が高い。
日本橋高島屋S.C.(東京都中央区)
       ※写真と本文は無関係です

日経に送った問い合わせの内容は以下の通り。

【日経への問い合わせ】

5日の日本経済新聞朝刊1面に載った「生産性考~その先に何が(上)新たな分業 AI浸透 変わるカイシャ」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

<記事の当該部分>

「新しいメンバーに何をやってもらおうか」。求人サイト運営のアトラエに11月1日、ウェブデザイナーが中途入社した。仕事内容は社長や役員ではなくデザイナーチームが決めた。最も業務に詳しい人が判断すべきだとの考えからだ。

同社は会社法で義務付けられている取締役など以外の役職は置いていない。上司からの指示でなく自分で考えて自分で動くために、会社のすべての情報を共有する。新居佳英最高経営責任者(CEO)は「創造性が求められる時代こそ、フラットに全員で考えることが合理的だ」と話す。

--ここからが質問です。

記事の説明を信じれば「アトラエ」に「会社法で義務付けられている取締役など以外の役職」はないはずです。しかし記事には「新居佳英最高経営責任者(CEO)」と出てきます。「CEO」は「会社法で義務付けられている取締役など以外の役職」に当たるのではありませんか。

アトラエ」のホームページを見てみると「CEO」以外にも「プロジェクトリーダー」となっている人物が出てきます。これも「会社法で義務付けられている取締役など以外の役職」の存在を示唆しています。

同社は会社法で義務付けられている取締役など以外の役職は置いていない」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので、他にも気になった点を指摘しておきます。

記事では「アトラエ」を「社内の階層をなくす組織運営=ホラクラシー」の具体例として紹介しています。仮に「階層」がないとしても、「アトラエ」のメンバーは55人しかいません。この規模ならば「フラットに全員で考えることが合理的だ」とは言えます。問題は会社が大きくなった時です。50人規模の会社の組織を「フラット」にしているとしても、それを革新的な組織運営であるかのように取り上げるのは無理があります。

しかも「仕事内容は社長や役員ではなくデザイナーチームが決めた」という話は「フラットに全員で考えることが合理的だ」とのコメントと整合しません。この方針に従うならば新たなメンバーの「仕事内容」も「全員で考えることが合理的」なはずです。なのに「社長や役員」はその輪から外れてしまっています。

そもそも50人規模の会社で「ウェブデザイナー」を採用してから「新しいメンバーに何をやってもらおうか」と考えるのも理解に苦しみます。やってほしいことが先にあって、それを実現するために「ウェブデザイナー」を中途採用する方が「合理的」です。

会社のすべての情報を共有する」という話も本当ならば問題です。例えば社内でセクハラ問題が起きた時に、その情報は全て社内で「共有」されてしまいます。これでは怖くて被害者も相談しにくいでしょう。「この相談内容は内密に」とお願いしても「会社のすべての情報を共有する」との方針があるので、セクハラの加害者にも相談内容が筒抜けになってしまいます。

最後に、記事全体に関して問題点を指摘しておきます。

今回の記事には「AI浸透 変わるカイシャ」という見出しが付いています。しかし、記事を最初から最後まで読んでも「AI浸透」の具体的な事例は出てきません。
別府大学(大分県別府市)※写真と本文は無関係です

冒頭に出てくる「ガラス加工メーカーの松浪硝子工業」はロボットを導入しただけです。「松浪硝子は2044年に創業200年を迎える。そのころには『ロボットに人工知能(AI)が埋め込まれ、一段と賢くなる』。そう考える松浪社長は『無から有を生むアイデアこそが利益の源泉になる』と、生産現場の社員を商品企画に移す案を練っている」とは書いていますが、「AI浸透」には至っていません。

記事には「AIの能力が急速に上がるなか『ヒトとAI』の分業の仕組みをつくれるかが生産性向上と成長の鍵になりつつある」との記述もあります。しかし「アトラエ」の事例になると「『ヒトとAI』の分業の仕組み」にもなっていません。50人規模の会社を「フラット」に運営しているだけです。

AI浸透 変わるカイシャ」という見出しを付けるのならば、AIが浸透している状況を描いた上で、それによって「カイシャ」が変わってきている姿を描くべきです。今回の記事では、どちらもできていません。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「生産性考~その先に何が(上)新たな分業 AI浸透 変わるカイシャ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181105&ng=DGKKZO37353660U8A101C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。過去の「生産性考」については以下の投稿も参照してほしい。

日本の労働生産性は「低下傾向」? 日経「生産性考」の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_27.html

「労働生産性」を数値で見せない日経1面「生産性考」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_28.html

解雇規制緩和で生産性が向上? 日経「生産性考」の無理筋
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_83.html

「鍵は経営者」だとデータが物語らない日経「生産性考」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/11/blog-post_36.html

「日本の高齢化は世界最速」? 日経「生産性考」取材班に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post.html

最後まで問題だらけの日経「生産性考~危機を好機に」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_2.html

本当にコンサル部門初の「育児中の女性」? 日経「生産性考」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_2.html

2018年11月4日日曜日

「GAFAがデータ独占」と誤解するのは日経グループの癖?

4日の日本経済新聞朝刊1面の記事によると「GAFA」は「データを独占して高成長を続ける一方で、税や賃金など『社会全体への還元』には十分な関心を払ってこなかった」らしい。日経ビジネスも6月4日号で「GAFA」による「データ独占」を取り上げていた。個人的には「GAFA」による「データ独占」はあり得ないと思える。
小石川後楽園(東京都文京区)
     ※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 成瀬美和様 増田咲紀様 中西豊紀様

4日の朝刊1面に載った「巨人GAFA、社会共存の風圧~課税強化・賃上げ・偽ニュース対策…コスト膨張、下がる利益率」という記事についてお尋ねします。記事では「GAFA(グーグル親会社のアルファベット、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)」に関して「データを独占して高成長を続ける一方で、税や賃金など『社会全体への還元』には十分な関心を払ってこなかった」と説明しています。本当に「GAFA」は「データを独占して」きたでしょうか。

百歩譲って、世界中の「データ」を「GAFA」が全て有しているとしましょう。その場合でも、4社あるので「独占」ではなく「寡占」です。「GAFA」は一体となって活動する企業グループではありません。

それに、「データ」を「GAFA」のみが有しているとの前提は明らかに誤っています。この前提が正しければ、日経の購読者に関する「データ」は日経社内にはなく「GAFA」だけが握っているはずです。あり得ますか。

やや無理がありますが「GAFAはそれぞれが集めたデータをそれぞれが“独占”している」との意味で「独占」と書いた可能性も考慮しました。この場合も「独占」は成立していません。

例えばアップルは「製品やサービスの提供に関してAppleに協力したり、お客様への宣伝に関してAppleを支援したりする戦略パートナー企業に対して、一定の個人情報を提供することがあります」と自社サイトで説明しています。「戦略パートナー企業」と「データ」を共有しているのであれば「独占」とは言えません。

GAFA」が「データを独占して」きたとの説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので、他に気になった点を記しておきます。

まず以下のくだりです。

18年7~9月期決算は総じて好調だったものの、水面下で『稼ぐ効率』を示す利益率が低下していることが一因だ。トランプ減税の影響を受けない税引き前利益のアナリスト予想の集計値をみると、売上高対比の利益率が19年度には全体で20.09%まで低下する。ピークの12年度比では約6ポイントの落ち込みだ

水面下」と表現した理由が理解できませんでした。「利益率」が低下しているのは18年度までは各社の決算で確認できるはずです。「アナリスト予想」も基本的には公開情報なので「水面下」で「利益率が低下」するとは思えません。

トランプ減税の影響を受けない税引き前利益」という説明も引っかかります。「税引き前利益であれば法人税率引き下げの影響を受けない」と考えたのかもしれません。しかし「トランプ減税」に関しては「2018年1月から個人所得税も大幅に軽減する」と日経も報道していました。だとすると消費拡大などを通じて「GAFA」の「税引き前利益」に「影響」を与えている可能性が高いでしょう。

記事には「設立から日が浅く、理想主義的な傾向もあるGAFA」との記述もあります。例えばアップルは1976年の設立で、40年以上が経っています。常識的には「設立から日が浅く」とは言えません。皆さんは取材先の企業が設立40周年だと知った時に「設立から日が浅いんだな」と思いますか。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「巨人GAFA、社会共存の風圧~課税強化・賃上げ・偽ニュース対策…コスト膨張、下がる利益率
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181104&ng=DGKKZO37349720T01C18A1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。担当者らの評価は以下の通りとする(敬称略)。

成瀬美和:C→D
増田咲紀:暫定D
中西豊紀:Dを維持


※日経ビジネス6月4日号の「データ独占」関連記事については以下の投稿を参照してほしい。

GAFAが個人情報を独占? 日経ビジネス吉野次郎記者に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/gafa.html