2018年5月17日木曜日

3番手でも「2番手グループ」? 週刊ダイヤモンド医学部特集

ここでは、週刊ダイヤモンド5月19日号の「20年後も医学部・医者で食えるのか? 医歯薬看の新序列」という特集に出てくる医学部の「総合難度」の図について問題点を指摘したい。この図は比較的問題が少ないが、気になる点はある。
佐世保市博物館島瀬美術センター(長崎県佐世保市)
          ※写真と本文は無関係です

編集部への問い合わせの内容は以下の通り。

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部 土本匡孝様 臼井真粧美様 西田浩史様 野村聖子様

5月19日号の「20年後も医学部・医者で食えるのか? 医歯薬看の新序列」という特集についてお尋ねします。ここでは「Part 4 大学の最新序列 医歯薬看 徹底解剖!だから親世代はブランドにこだわる 格上が支配する学閥社会」という記事を取り上げます。

まず64~65ページの図についてです。

(1)「関東私立医大2番手グループ」に東京医科大、東邦大、日本大、国際医療福祉大の4校を入れています。しかし、図を見るとまず「私立医学部御三家グループ(慶應義塾大、東京慈恵会医科大、日本医科大)」があって、その下に「最近上昇した2大学グループ(順天堂大、昭和大)」が位置しています。「関東私立医大2番手グループ」はさらにその下です。分類が正しければ、東京医科大、東邦大、日本大、国際医療福祉大は「関東私立医大3番手グループ」ではありませんか。

さらに言えば、日本大学は総合大学なので「私立医大」に含めるのは不適切だと思えます。

(2)金沢大に付けた「140年以上の伝統」という説明も正確さに欠けるのではありませんか。金沢大のホームページには「金沢大学医学類は、藩政末期の1862年、加賀藩に開設された金沢彦三種痘所をその起源とする。以来、百四十余年に渡り、この地方の政治、経済、文化の推移の中で、大きな変遷を経てきた」との説明があります。

1862年を出発点とすれば、156年ほどの歴史があります。「140年以上」には156年も入るので間違いとは言えません。しかし、正確に言えば156年となる場合に「140年以上」と普通は言いません。「140年以上」と聞くと「140~149年」の範囲だと受け取る人がほとんどでしょう。

ホームページには「百四十余年に渡り」との記述があるので、これに引っ張られたのかもしれません。しかし、1862年が起点として正しければ「150年以上の伝統」などとすべきではありませんか。

御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた特集「20年後も医学部・医者で食えるのか? 医歯薬看の新序列」
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/23478


※特集全体の評価はD(問題あり)。担当者らへの評価は以下の通りとする。

土本匡孝記者:Dを維持
臼井真粧美副編集長:暫定D→D
西田浩史記者:Dを維持
野村聖子記者:暫定D→D


※今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

説明が雑な週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_19.html

「医学部への道」が奇妙な週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_54.html

近大は「医科大学」? 週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_18.html

今回も「学閥」に疑問 週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_82.html


※ダイヤモンドは2016年6月18日号でも「最新 医学部&医者」という特集を組んでいる。これに関しては以下の投稿を参照してほしい。

「学閥」に疑問残る 週刊ダイヤモンド特集「医学部&医者」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_15.html


※学校関連で多くの記事を書いている西田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「大学序列崩し」が見えない週刊ダイヤモンド西田浩史記者の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_7.html

偏差値トップは東大理3? 週刊ダイヤモンド「大学序列」の矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_68.html

昔の津田塾は「女の東大」? 週刊ダイヤモンド特集「大学序列」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_11.html

九州知らずが目立つ週刊ダイヤモンド特集「大学序列」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_17.html

「中高一貫校」主要178校の選び方がおかしい週刊ダイヤモンド
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/03/178.html

「医学部は三大都市圏の高校出身が大多数」? 週刊ダイヤモンドの誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post_16.html

「医学部への道」が奇妙な週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集

週刊ダイヤモンド5月19日号の「20年後も医学部・医者で食えるのか? 医歯薬看の新序列」という特集について、さらに問題点を指摘したい。2年前の特集「最新 医学部&医者」もそうだったが、図表にツッコミどころが目立つ。例えば、今回付けた図で「医学部入試の壁は、早慶理工学部以上!」と書かれた壁を乗り越えているのは「三大都市圏の私立中高一貫校生」だけだ。だが「早慶理工学部以上」に合格できる学力を持つ生徒は「三大都市圏」以外にも公立高校にも当たり前にいる。
筑後川橋(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

特集の担当者らには以下の内容で問い合わせを送ってみた。

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部 土本匡孝様 臼井真粧美様 西田浩史様 野村聖子様

5月19日号の「20年後も医学部・医者で食えるのか? 医歯薬看の新序列」という特集についてお尋ねします。問題としたいのは「Prologue 小学校時代から始まる『安定』『高収入』医者へのルート大争奪戦」という記事に付けた図についてです。この図では「三大都市圏の私立中高一貫校生」「公立トップ校生」「その他の高校生」の3つに分けて医学部に入り医師になるまでの道のりを示しています。質問は以下の5つです。

(1)図には「医学部入試の壁は、早慶理工学部以上!」と記された壁があり、これを越えているのは「三大都市圏の私立中高一貫校生」だけです。言うまでもありませんが、こうした壁を越えられる学力を持つ生徒は「公立トップ校生」「その他の高校生」の中にも当たり前にいます。この「壁」の説明は誤りではありませんか。

(2)さらに「公立トップ校生」に関しては「早慶理工学部以上」の壁を越えられず「地方国公立大の地域枠入試を目指す」ルートにしかありません。言うまでもありませんが、公立高校から地域枠のない旧帝大の医学部に合格する生徒も珍しくありません。医学部を目指す「公立トップ校生」には「地方国公立大の地域枠入試」しか選択肢がないような表記は誤りではありませんか。

(3)また、この「地方国公立大の地域枠入試を目指す」ルートからは「下位層」が「ダメなら下位国立大学か学費を払えそうな私立大医学部」に流れると示しています。これもおかしな話です。「公立トップ校生」は「早慶理工学部以上」の壁を越えられないはずなのに「下位国立大学」や「私立大医学部」を目指す道があるようです。ここはどう理解すればよいのでしょうか。

(4)図の中の医学部のピラミッド構造にも整合性の問題があります。ピラミッドの頂点には「医学部四天王」として東京大、京都大、大阪大、慶應義塾大が入り、これらを「神」と呼んでいます。その下に「旧帝大」「旧制六医科大」があって、さらに下に「私立旧制医科大」が出てきます。ここでは「私立御三家」として慶應義塾大、東京慈恵会医科大、日本医科大が「私立旧制医科大」に入ると説明しています。

つまり慶應は頂点の「神」にも、上から4番目の階級の「私立旧制医科大」にも入っています。矛盾していませんか。

(5)図で「三大都市圏の私立中高一貫校生」「公立トップ校生」「その他の高校生」の3つに分けているのも解せませんでした。特に「三大都市圏の私立中高一貫校生」と区分しているのが謎です。国立大医学部への合格者ランキングを見ると、久留米大附設(福岡)やラ・サール(鹿児島)といった「三大都市圏以外の私立中高一貫校」が上位に入っています。こうした高校を除外して「三大都市圏」に絞る意味があるでしょうか。

さらに言えば、「公立トップ校」もどう定義しているのか不明です。各都道府県で入試の難易度が最も高い公立高校という意味でしょうか。東京都で言えば、日比谷が「公立トップ校」で西や国立が「その他の高校」となるのでしょうか。しかし、日比谷と西、国立を分ける意義は感じられません。

学区内の「公立トップ校」と言いたいのかもしれませんが、この区分もあまり意味がなさそうです。例えば熊本県では公立トップの熊本と2番手の済々黌が同じ学区です。この2校に大学合格実績で大差はありません。3つに分けるならば「入試難易度上位の私立中高一貫校生」「入試難易度上位の公立校生」「その他の高校生」とでも分けるべきでしょう。

質問は以上です。御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた特集「20年後も医学部・医者で食えるのか? 医歯薬看の新序列」
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/23478


※特集全体の評価はD(問題あり)。担当者らへの評価は以下の通りとする。

土本匡孝記者:Dを維持
臼井真粧美副編集長:暫定D→D
西田浩史記者:Dを維持
野村聖子記者:暫定D→D


※今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

説明が雑な週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_19.html

3番手でも「2番手グループ」?  週刊ダイヤモンド医学部特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_73.html

近大は「医科大学」? 週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_18.html

今回も「学閥」に疑問 週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_82.html


※ダイヤモンドは2016年6月18日号でも「最新 医学部&医者」という特集を組んでいる。これに関しては以下の投稿を参照してほしい。

「学閥」に疑問残る 週刊ダイヤモンド特集「医学部&医者」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_15.html


※学校関連で多くの記事を書いている西田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「大学序列崩し」が見えない週刊ダイヤモンド西田浩史記者の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_7.html

偏差値トップは東大理3? 週刊ダイヤモンド「大学序列」の矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_68.html

昔の津田塾は「女の東大」? 週刊ダイヤモンド特集「大学序列」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_11.html

九州知らずが目立つ週刊ダイヤモンド特集「大学序列」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_17.html

「中高一貫校」主要178校の選び方がおかしい週刊ダイヤモンド
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/03/178.html

「医学部は三大都市圏の高校出身が大多数」? 週刊ダイヤモンドの誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post_16.html

2018年5月16日水曜日

数十センチ浮くだけで「空飛ぶバイク」? 日経ビジネスに問う

「空飛ぶクルマ」関連の記事は何かと問題が多い。日経ビジネス5月14日号に載った「時事深層『空飛ぶバイク』、10月にも離陸~サッカー日本代表、本田圭佑氏も出資」もそんな記事の1つと言える。今回は「空飛ぶバイク」ではあるが…。この手の記事では「ものすごい変化が起きつつある」と訴えたくなってしまうのだろう。実際には、それほどでもない場合が多い。記事で紹介した「空飛ぶバイク」も数十センチ浮くだけなので、「空飛ぶ」と言うのは無理がある。
ハンググライダー発進基地(福岡県久留米市)
           ※写真と本文は無関係です

日経ビジネス編集部への問い合わせと回答は以下の通り。

【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 北西厚一様

5月14日号の「時事深層『空飛ぶバイク』、10月にも離陸~サッカー日本代表、本田圭佑氏も出資」という記事についてお尋ねします。記事では、エアリアルラボが開発中の「ホバーバイク」に関して「車輪の代わりにプロペラを装着」「地面に風を送って反力で浮くのが、このバイクならではの仕組みだ」と説明しています。

「反力」が何を指すのか明確ではありませんが(地面から跳ね返ってくる風の力でしょうか)、プロペラを回転させて地面に風を送った時に生じる力であれば、ヘリコプターやドローンも「地面に風を送って反力で浮く」面があると言えそうです。記事で取り上げた米インテルの「有人ドローン」もそうです。「ホバーバイク」に限ってみても、ドバイの警察が導入を予定している機体は映像を見る限り「地面に風を送って」います。

エアリアルラボの機体は「反力」に頼る部分が大きいので数十cmしか浮上できないのかもしれませんが、だとしたら単にプロペラの生み出す揚力が弱いだけではありませんか。記事を読む限りエアリアルラボの「仕組み」に独自性は感じられません。

「地面に風を送って反力で浮くのが、このバイクならではの仕組みだ」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会ですので、他にも気になった点を記しておきます。

まず、エアリアルラボの「ホバーバイク」を「空飛ぶバイク」と呼ぶのは無理がありませんか。「数十cm浮上して走行する」だけならば「浮くバイク」とでも称するのが適切でしょう。例えばリニアモーターカーは浮いて走行しますが、だからと言って「空飛ぶ列車」と呼べるでしょうか。明確な境界線はないのでしょうが「空飛ぶバイク」と呼ぶには、数メートルは浮上してほしいところです。

また、「サッカー日本代表、本田圭佑氏も出資」と見出しで取っているのに、記事にそれ以上の情報がないのも引っかかりました。出資額が1000万円なのか10億円なのか、出資比率が1%なのか50%なのかでインパクトは全く変わってきます。エアリアルラボが本田氏の出資額も出資比率も明らかにしていないのであれば、その点は記事中で明示すべきでしょう。

最初の段落で「2020年の東京五輪までに事業化を目指す。世界中の大企業に先駆ける構えだが、国内の規制をクリアできるかが課題になりそうだ」と書いているのも気になりました。「五輪期間には間に合わせたい」というエアリアルラボの社長コメントも使っていますが、「ホバーバイク」と五輪がどう関係するのか記事には説明がありません。

また「国内の規制をクリアできるかが課題になりそうだ」と書いているのに、記事の終盤には「(エアリアルラボの社長は)『主力市場は海外』と割り切る」との記述が出てきます。だとしたら「国内の規制をクリアできるか」はあまり重要ではないでしょう。「海外市場」を開拓できるかどうかの方が大きな「課題」ではありませんか。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願いします。


【日経BP社からの回答】

日経ビジネスをご購読頂きまして誠にありがとうございます。メールでご指摘頂いた点につきまして、お答えさせていただきます。

本文18行目「地面に風を送って反力で浮くのが、このバイクならではの仕組みだ」と記しました。車輪の代わりにプロペラを採用しており、他のバイクにはない仕組みということを示すため、こういった表現を用いました。また、記事の後半で「航空機ではない」との国交省航空局のコメントも引用しております。国交省によりますと、「地面からの反力で浮いている」ホバークラフトの類のものは航空機の定義には当てはまらず、ヘリコプターやドローンは「空気の反力によって浮いている」との解釈とのことです。

内容としては以上の通りですが、誤解を受ける可能性を少なくするため、より丁寧に説明するべきだったと考えております。ご指摘を真摯に受け止め、今後はより正確な表現になるよう心がけたいと思います。

ご指摘ありがとうございました。

◇   ◇   ◇

予想外の回答だった。「他のバイクにはない仕組み」という意味で「地面に風を送って反力で浮くのが、このバイクならではの仕組みだ」と書いたらしい。ただ、ドバイの警察が導入を予定しているホバーバイクの存在は既に知られているので「他のバイクにはない仕組み」とも言えそうもない。

「今後はより正確な表現になるよう」心掛けてくれるようなので、北西記者の今後の記事に期待したい。


※今回取り上げた記事「時事深層『空飛ぶバイク』、10月にも離陸~サッカー日本代表、本田圭佑氏も出資」
http://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/depth/050801031/?ST=pchttpbusinessnikkeibpcojpatclNBD15depth120800149STpc


※記事の評価はD(問題あり)。北西厚一記者への評価も暫定でDとする。

登場人物の「瞬間移動」が気になる日経「スタートアップ大競争」

日本経済新聞朝刊1面で連載していた「スタートアップ大競争 都市は競う」が終わった。16日の「(下) 紅いシリコンバレー 自由と統制、矛盾抱え膨張」に関しても、記事の書き方で1つ注文を付けたい。今回は登場人物の「瞬間移動」の問題だ。
門司港(北九州市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

「ここはもはや遅れているよ」。香港を拠点にアジアでスマートロッカー事業を展開するパクポボックスの共同創業者、呉枢棋(マシュー・ヌグ)氏は、対岸の中国・深圳の街を見ながらため息をついた。

ヌグ氏は香港で生まれ、ロンドンで11年を過ごした。2つの金融都市で育ったヌグ氏が憂うのは伝統的な都市につきまとう規制だ。

ブィィィ――。世界最大の電脳街と呼ばれる深圳・華強北(ファーチャンベイ)を歩く大勢の人の頭上を、スペースシャトル型のドローン(小型無人機)が飛び交う。「香港では規制があり、こうはいかない。この自由さこそがイノベーションを生むんだ」。ヌグ氏の目は真剣だ。深圳は2017年、香港の域内総生産(GDP)を抜いた。



◎「ヌグ氏」は瞬間移動?

上記のくだりでは「ヌグ氏」のいる場所が引っかかる。

「香港を拠点にアジアでスマートロッカー事業を展開するパクポボックスの共同創業者、呉枢棋(マシュー・ヌグ)氏は、対岸の中国・深圳の街を見ながらため息をついた」と書いてあるので、この時点では香港にいるはずだ。

しかし、その直後に「深圳・華強北(ファーチャンベイ)を歩く大勢の人の頭上を、スペースシャトル型のドローン(小型無人機)が飛び交う」様子を見て「香港では規制があり、こうはいかない」とコメントしている。コメントを発した場所は「深圳」と理解するしかない。

「深圳」に場所を移すなとは言わない。だが、移すならばその流れをきちんと説明すべきだ。断りもなく場所が変わってしまうと読む方は面食らってしまう。

ただ、3回の連載全体の出来はそれほど悪くなかった。後は細部への目配りの問題だ。


※今回取り上げた記事「スタートアップ大競争 都市は競う(下) 紅いシリコンバレー 自由と統制、矛盾抱え膨張」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180516&ng=DGKKZO30511360V10C18A5MM8000


※連載全体の評価はC(平均的)。連載の最後には「加藤貴行、遠藤邦生、岐部秀光、白石透冴、佐藤浩実、鈴木健二朗、大西綾、矢野摂士、吉田楓が担当しました」と出ていた。連載の責任者を加藤貴行氏と推定し、同氏への評価を暫定でCとする。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

データの扱いが恣意的な日経1面「スタートアップ大競争」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_14.html

ダブリンは首都でも「辺境」? 日経「スタートアップ大競争」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_15.html

2018年5月15日火曜日

説明が雑な週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集

週刊ダイヤモンド5月19日号の「20年後も医学部・医者で食えるのか? 医歯薬看の新序列」という特集には色々と問題を感じた。多くの場合、説明が雑だ。まずは「国公立大学医学部は序列が明確で、旧七帝大を頂点に歴史が古いほど、格も高ければ偏差値も高い」との説明に問題がないのか検討したい。
佐世保港(長崎県佐世保市)※写真と本文は無関係です

編集部には以下の内容で問い合わせを送っている。

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

5月19日号の「20年後も医学部・医者で食えるのか?」という特集についてお尋ねします。「Part 4 大学の最新序列 医歯薬看 徹底解剖![医][歯][薬][看][獣医]211学部の偏差値」という記事には「上表は医、歯、薬、看護、獣医211学部における駿台予備学校の最新の偏差値データである。国公立大学医学部は序列が明確で、旧七帝大を頂点に歴史が古いほど、格も高ければ偏差値も高い」との記述があります。しかし「表」を見ると、そうはなっていません。

まず「旧七帝大」です。「歴史が古い」順に並べると東京大学、京都大、東北大、九州大、北海道大、大阪大、名古屋大となるようです。一方、表中の偏差値順に並べると東京大(78)、京都大(76)、大阪大(74)、名古屋大(71)、東北大(70)、九州大(69)、北海道大(68)となります。医学部設置の遅い阪大と名大が東北大、九大、北大の偏差値を上回っています。

さらに言えば、表で「旧制医専」に入れている東京医科歯科大(72)、神戸大(69)と、「旧制六医大」に入れている千葉大(69)は北大の偏差値を上回っています。こうした大学は北大よりも歴史が浅いはずです。「国公立大学医学部は歴史が古いほど偏差値も高い」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

付け加えると、表の「医学系(私立)」の「新設大・医学部」に防衛医科大学校を入れているのが気になりました。防衛医科大は準大学なので国立大ではありませんが、私立大学でもありません。入学すれば防衛省職員(特別職国家公務員)になるのですから、どちらかに入れるとしたら「医学系(国立)」の「新設大・医学部」にすべきではありませんか。「私立」に含めるのが適切との判断であれば、これに関しても根拠を教えてください。

御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

「国公立大学医学部は歴史が古いほど偏差値も高い」という大まかな傾向はあると言える。だが、「国公立大学医学部は序列が明確で、旧七帝大を頂点に歴史が古いほど、格も高ければ偏差値も高い」と言い切っていいほどではない。

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた特集「20年後も医学部・医者で食えるのか? 医歯薬看の新序列」
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/23478


※特集全体の評価はD(問題あり)。担当者らへの評価は以下の通りとする。

土本匡孝記者:Dを維持
臼井真粧美副編集長:暫定D→D
西田浩史記者:Dを維持
野村聖子記者:暫定D→D


※今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「医学部への道」が奇妙な週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_54.html

3番手でも「2番手グループ」?  週刊ダイヤモンド医学部特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_73.html

近大は「医科大学」? 週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_18.html

今回も「学閥」に疑問 週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_82.html


※ダイヤモンドは2016年6月18日号でも「最新 医学部&医者」という特集を組んでいる。これに関しては以下の投稿を参照してほしい。

「学閥」に疑問残る 週刊ダイヤモンド特集「医学部&医者」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_15.html


※学校関連で多くの記事を書いている西田記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「大学序列崩し」が見えない週刊ダイヤモンド西田浩史記者の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_7.html

偏差値トップは東大理3? 週刊ダイヤモンド「大学序列」の矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_68.html

昔の津田塾は「女の東大」? 週刊ダイヤモンド特集「大学序列」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_11.html

九州知らずが目立つ週刊ダイヤモンド特集「大学序列」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_17.html

「中高一貫校」主要178校の選び方がおかしい週刊ダイヤモンド
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/03/178.html

「医学部は三大都市圏の高校出身が大多数」? 週刊ダイヤモンドの誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/04/blog-post_16.html

ダブリンは首都でも「辺境」? 日経「スタートアップ大競争」

15日の日本経済新聞朝刊1面に載った「スタートアップ大競争 都市は競う(中) さらば企業城下町 辺境の地、頭脳で勃興」という記事について1つだけ指摘したい。「辺境」の使い方だ。「辺境」とは「中央から遠く離れた地帯。国ざかい。国境」(デジタル大辞泉)を指す。それを踏まえて記事の当該部分を見ていこう。

「ブルーウィングもじ」と「レトロハイマート」
  (北九州市)※写真と本文は無関係です
【日経の記事】

人工知能(AI)やビッグデータの米テキサス州オースティン、フィンテックが特色のダブリン(アイルランド)、ブロックチェーン(分散型台帳)に力を入れる地中海の島国マルタ――。辺境であっても、柔軟な発想と機動力を生かす都市に好機がやって来た。



◎3つとも「辺境」ではないような…

上記の書き方から判断すると、取材班は「米テキサス州オースティン」「ダブリン(アイルランド)」「島国マルタ」を「辺境」と見ているようだ。個人的には3つとも違う気がする。

明らかに違うのが「ダブリン」だ。首都なので「中央から遠く離れた地帯」にはなり得ない。「中央」そのものだ。「この場合、中央はEU本部があるブリュッセル」というやや無理のある前提で考えてみても、ダブリンを「辺境」と見るのは苦しい。この前提ではローマやマドリードも「辺境」になってしまうが、こうした都市を「辺境」だと感じる人はほとんどいないはずだ。

「島国マルタ」に関しては、まず「都市」ではなく「国」だ。ブリュッセルからは遠く離れてはいるが、国全体を「辺境」と見なすのは失礼だし、言葉の意味から考えても適切ではない。

「辺境」に最も近いのは「オースティン」か。「中央(=ワシントン)から遠く離れた地帯」ではある。だが、それを言えばシリコンバレーも「辺境」になる。しかもオースティンはテキサス州の州都で、人口で見ても米国で20位以内に入る大都市だ。これを「辺境」と呼ぶのは、ちょっと苦しい。

日本で言えば、新潟市や熊本市を「辺境」と呼んでいる感じになる。今回の記事を「オースティン」「ダブリン」「マルタ」の関係者が読む機会はほとんどないかもしれない。だが、「辺境」というややマイナスイメージのある言葉を使うのならば、その使い方には慎重であってほしい。


※今回取り上げた記事「スタートアップ大競争 都市は競う(中) さらば企業城下町 辺境の地、頭脳で勃興」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180515&ng=DGKKZO30473230U8A510C1MM8000


※記事の評価はC(平均的)。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

データの扱いが恣意的な日経1面「スタートアップ大競争」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_14.html

登場人物の「瞬間移動」が気になる日経「スタートアップ大競争」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_16.html

2018年5月14日月曜日

データの扱いが恣意的な日経1面「スタートアップ大競争」

日本経済新聞朝刊1面で「スタートアップ大競争 都市は競う」という連載が始まった。14日の「(上) パリからの逆襲 『起業力』は国家なり」という記事では、データの恣意的な使い方が引っかかった。当該部分を見ていこう。
原田駅(福岡県筑紫野市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

米A・T・カーニーが世界128都市のイノベーションの起こしやすさなど成長性を評価した調査によると、17年の1位はサンフランシスコ、2位がニューヨーク。米国の都市に次いで、前年から10も順位を上げ3位に入ったのがパリだ。

中略)翻って高齢化が進む日本。スタートアップ支援の機運はあるがライバルに比べ存在感を示せていない。A・T・カーニーの調査では、パリとは対照的に東京は23位と4つも後退した。これ以上遅れるわけにはいかない。



◎ご都合主義が過ぎるような…

記事では「A・T・カーニー」の調査について「イノベーションの起こしやすさなど成長性を評価した調査」と説明している。これがまず苦しい。

同社の資料を見ると、東京が23位となったのは「グローバル都市展望」で、これは「個人の幸福」「経済」「イノベーション」「ガバナンス」の4分野を評価して都市としての「将来の潜在的能力を予測する」ものだ。「成長性を評価した」と言えるか微妙だ。

「スタートアップ支援」について論じるために使うならば「イノベーション」を抜き出した方が適切だと思える。ちなみに資料に出てくる上位25都市のうち「イノベーション」だけをグラフで見ると、東京は10位前後に見える。128都市中で10位前後ならば、かなり優秀だ。

しかも、この調査は「グローバル都市展望」と「グローバル都市指標」で順位を出しており、「グローバル都市指標」で東京は4位。両方で25位以内の都市を「A・T・カーニー」は「グローバルエリート」と呼んでおり、アジアで入っているのは東京とシンガポール(展望11位、指標4位)だけだ。

「パリとは対照的に東京は23位と4つも後退した」のはウソではないだろうが、「これ以上遅れるわけにはいかない」と危機感を持つべき調査結果だとは思えない。

さらにご都合主義的だと感じたのが、ドバイに関してランキングに触れていない点だ。記事では冒頭から以下のようにドバイを取り上げている。


【日経の記事】

電気自動車(EV)やロケットで新境地を切り開いた米国の起業家、イーロン・マスク氏が注目する都市が中東にある。

 「脱石油改革」にまい進するアラブ首長国連邦(UAE)のドバイ。マスク氏は時速千キロメートル超の超高速輸送システム「ハイパーループ」の実証の地の一つに選んだ。

 呼び水が2016年にムハンマド首長の肝煎りで生まれた「ドバイ・フューチャー・アクセラレーター」(DFA)だ。新技術に必要な規制緩和や金融支援などを通じ、将来の経済のけん引役になるスタートアップの誘致、育成を狙う。

「イノベーションは競争に勝つカギ。アイデアを持つ者が最大限の力を発揮できる環境を提供する」。DFAを運営するアブドルアジズ・ジャジリ副最高経営責任者(CEO)は語る。

DFA参加企業は112社で4分の3が政府関連組織と事業開始の覚書を交わした。アジア勢も集い、中国のアレスカ・ライフ・テクノロジーズは水や電力の消費量が少ない農業システムを開発中。ドバイは自国発産業の育成、輸出に本気だ。

◇   ◇   ◇

「ドバイは自国発産業の育成、輸出に本気だ」と書いているが、「A・T・カーニー」の調査でドバイがどうなっているのかには触れずにパリの話に移っている。
宇佐神宮(大分県宇佐市)※写真と本文は無関係です

調べてみると、ドバイは「グローバル都市展望」でも「グローバル都市指標」でも25位以内に入っていない。記事では東京に関して「スタートアップ支援の機運はあるがライバルに比べ存在感を示せていない」と言っている。これが当てはまるのはドバイの方ではないか。「自国発産業の育成、輸出に本気」になっているのに、ランキングでは圏外なのだから。

その辺りは都合が悪いので触れなかったのか。だとすれば、まさにご都合主義だ。「海外は頑張っているし、先進的だ。それに比べて日本は遅れている」という前提で記事を作り過ぎていないか、もう一度よく考えてみてほしい。


※今回取り上げた記事「スタートアップ大競争 都市は競う(上) パリからの逆襲 『起業力』は国家なり」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180514&ng=DGKKZO30439920T10C18A5MM8000


※記事の評価はC(平均的)。今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

ダブリンは首都でも「辺境」? 日経「スタートアップ大競争」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_15.html

登場人物の「瞬間移動」が気になる日経「スタートアップ大競争」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_16.html