2020年12月25日金曜日

日本株は「史上最高値圏」とジム・ロジャーズ氏は語るが…週刊エコノミストに問い合わせ

週刊エコノミストの記事で「ジム・ロジャーズ」氏が「米国や日本の株式市場は過熱しており、史上最高値圏にある」と述べている。「日本」に関しては「史上最高値圏にある」とは思えないので以下の内容で問い合わせをしている。

大阪市中之島の紅葉

【エコノミストへの問い合わせ】

岩田太郎様 週刊エコノミスト編集長 藤枝克治様 

12月29日・1月5日合併号の特集「世界経済総予測 2021」の中の「インタビュー1~ジム・ロジャーズ『21年の株は最後のひと上げ まだ割安の日本は“買い”だ』」という記事についてお尋ねします。記事中で「米国や日本の株式市場は過熱しており、史上最高値圏にある」とロジャーズ氏は述べています。

日経平均株価で見ると「史上最高値(終値)」は1989年に付けた3万8915円です。2020年に関しては3万円にも届かない状況が続いており「史上最高値圏にある」とは言えません。しかもロジャーズ氏自身が記事の中で「日本株」について「史上最高値よりまだ4割も安い」と述べており、発言に矛盾があります。

米国や日本の株式市場は過熱しており、史上最高値圏にある」というのはロジャーズ氏の発言を忠実に訳したのかもしれませんが事実関係が誤っているのではありませんか。回答をお願いします。間違いであれば次号で訂正してください。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

御誌では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。読者から購読料を得ているメディアとして責任ある行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「インタビュー1~ジム・ロジャーズ『21年の株は最後のひと上げ まだ割安の日本は“買い”だ』

https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20210105/se1/00m/020/072000c


※記事の評価はD(問題あり)

2020年12月24日木曜日

財務体質の強化になる? 日経「エイベックス 本社ビル売却へ」

 最近の日本経済新聞で気になる言葉の1つに「財務」がある。24日の朝刊企業2面に載った「エイベックス 本社ビル売却へ~700億円で、カナダのファンドに」という記事を材料にこの問題を考えてみたい。

JR久留米駅に入ってくる列車

【日経の記事】

エイベックスは東京都港区の本社ビルをカナダの大手不動産ファンド、ベントール・グリーンオーク(BGO)に売却する方針を固めた。金額は700億円強となる見通し。エイベックスは新型コロナウイルスの感染拡大で音楽ライブを開催できなくなるなど、業績が悪化していた。発表済みの希望退職者の募集と合わせ、資産の売却で財務を強化する狙いがあるとみられる。


◎「財務を強化」?

財務」とは「財政に関する事務」(デジタル大辞泉)を指す。財務部の人員を増やすといった話ならば「財務を強化」でいいだろう。しかし「資産の売却」で「財務を強化」と言われると妙な感じになる。

企業の資産・負債の状況を「財務体質」と表現するのは分かる。定着した用語だ。最近の日経でよく見る「財務を強化」は「財務体質を強化」を略しているようだが違和感は拭えない。できれば「財務体質を強化」と書いてほしい。

さらに言えば「資産の売却で財務を強化」できるのかという疑問も残る。例えば増資ならば「財務体質」は良くなる。しかし「資産の売却」は違う。

エイベックス」の「本社ビル」の価値が「700億円強」だとしよう。これを売却して現金に替えても「エイベックス」の持つ資産額は変わらない(税金等は考慮しない)。不動産で持つか現金で持つかの違いだけだ。

簿価が「700億円強」を下回っている場合は売却益が見込める。その場合には「財務体質」が良くなったと言えるだろうか。見かけ上の自己資本は増えるかもしれないが、実質的な変化はない。時価ベースで考えれば「エイベックス」の「財務体質」に大きな変化はない。

資産の売却で資金繰りを良くする」効果はあるだろう。「エイベックス」が「本社ビル」を売却するのも、そのためだと推測できる。

当面は本社を移転しない見通し」なので「エイベックス」には売却後に賃料負担が生じる。売却で得た資金を有効に使えなければ、賃料負担のマイナスが上回り、結果的に「財務体質」が悪化する可能性も十分にある。

資産の売却」を発表する企業は「財務を強化」などと説明するかもしれない。しかし経済紙である日経の記者には「本当に財務体質の改善につながるのか。単なる資金繰り対策では?」と考える力を持ってほしい。

ついでに記事についていくつか注文を付けておきたい。

【日経の記事】

エイベックスの業績は悪化している。2020年4~9月期の連結決算は最終的なもうけを示す最終損益が32億円の赤字(前年同期は17億円の赤字)だった。最終赤字は同期間として2年連続となる。ライブ中止にともない、グッズ販売が落ち込んだことも打撃となった。21年3月期通期の見通しは「未定」としている、足元でも感染が広がるなど、収益の回復に向けた道筋は見えていない。


◎逆接ではないのなら…

逆接でない場合、接続詞「」の使用は避けたい。「21年3月期通期の見通しは『未定』としているが、足元でも感染が広がるなど、収益の回復に向けた道筋は見えていない」という記述に関しては「21年3月期通期の見通しは『未定』としており、足元でも感染が広がるなど、収益の回復に向けた道筋は見えていない」などとした方が好ましい。

こと」もできるだけ使わないようにしたい。「ライブ中止にともない、グッズ販売が落ち込んだことも打撃となった」に関しては「ライブ中止に伴うグッズ販売の落ち込みも打撃となった」でいい。情報量はそのままに文字数を減らせているはずだ。

最後に「同社」の使い方について。

【日経の記事】

シンガポールを拠点とする資産運用会社、3D・インベストメント・パートナーズが3日、関東財務局に提出した大量保有報告書では、同社株の5.59%を保有することが明らかになった。


◎「同社=3D・インベストメント・パートナーズ」

この書き方だと「同社=3D・インベストメント・パートナーズ」になってしまう。「3D・インベストメント・パートナーズが3日、関東財務局に提出した大量保有報告書では、エイベックス株の5.59%を保有することが明らかになった」と伝えたかったはずだ。記事の説明は厳しく言えば間違っている。記事を書くための基礎的な技術をしっかり身に付けてほしい。


※今回取り上げた記事「エイベックス 本社ビル売却へ~700億円で、カナダのファンドに

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201224&ng=DGKKZO67627770T21C20A2TJ2000


※記事の評価はD(問題あり)

2020年12月23日水曜日

材料が弱すぎるFACTA「老害撒き散らす『近鉄の暴君』」

個人的にはヨイショ記事より批判記事が好きだ。しかし他者を批判するのだから、きちんと根拠は示すべきだし表現にも配慮すべきだ。FACTA2021年1月号に載った「老害撒き散らす『近鉄の暴君』」という記事はそれができていない。「老害」「暴君」という言葉はできれば使ってほしくない。使うのならば「老害」「暴君」だと納得できる十分な材料が欲しい。

有明海

記事の一部を見ていこう。

【FACTAの記事】

近鉄GHDの足を引っ張ったのは上場旅行会社のKNT︱­CTホールディングスだ。21年3月期の連結最終損益が170億円の赤字を見込み、子会社合併や賞与削減などで22年度に200億円のコストを削減する。約7千人いる社員は24年度末までに約3分の2に減らし、22年度入社の新卒採用は取りやめる。店舗138店は約3分の1に縮小する。危機的状況だ。

原因は社長・会長として13年間、近鉄GHDに君臨する小林哲也会長(77)にある。

とにかく怖い。悪い報告を持っていくと怒鳴りつけ、罵倒する。KNT︱CTは足がすくみ、早めのリストラで手が打てなかった。同じことが百貨店や不動産など近鉄グループ各社にも起きて赤字が雪ダルマ式に膨らんでいった。


◎それだけ?

悪い報告を持っていくと怒鳴りつけ、罵倒する」と書いてあるだけで具体性に欠ける。「なんでこうなるんだ。この前と話が違うじゃないか。どうしてきちんとできないんだ」といった程度の話かもしれない。この材料だけで「暴君」はさすがに厳しい。他に材料が出てくるのかと思って読み進めたが、結局「暴君」に関してはこれだけだ。

小林哲也会長」が「自分に都合がいい人事」をやったともFACTAは訴える。これも根拠は薄弱だ。


【FACTAの記事】

少林寺拳法オンラインマガジン(16年6月28日付)のインタビューでリーダー像を「いちばん大切なのは責任を回避しないこと。俺が責任を取るから心配するなという姿勢が大事」「この人は信頼できない、と思われるとその組織は崩壊する」と説いた。その決してあってはいけない現象が現在、近鉄GHDで起きている。

「公平であることが大事で、好き嫌いや、自分に都合がいいように考えるような人は絶対にダメ」とも語ったが、今年のトップ交代で「自分に都合がいい人事」をやった。16年に傘下の三重交通グループホールディングス社長に出していた小倉敏秀氏(65)を4年で呼び戻し、近鉄GHD社長に据えた。社長だった吉田昌功社長(68)を近鉄不動産会長に放逐し、自らは会長で留任し、さらに社長交代のどさくさに紛れて新設のCEO(最高経営責任者)に就いた


◎どこが「自分に都合がいい人事」?

どこが「自分に都合がいい人事」なのかよく分からない。「小倉敏秀氏(65)を4年で呼び戻し、近鉄GHD社長に据えた」上で「社長だった吉田昌功社長(68)を近鉄不動産会長に放逐」したのはなぜ「自分に都合がいい」と言えるのか説明がない。

新設のCEO(最高経営責任者)に就いた」のは「自分に都合がいい人事」かもしれないが、元々が実質的な最高権力者だったのならば大きな変化はない。「決してあってはいけない現象が現在、近鉄GHDで起きている」とまで言うのならば、もう少ししっかりした材料が欲しい。

記事の結論部分も頂けない。


【FACTAの記事】

小林会長は大手前高校同窓会のホームページで「毎朝、CDに録音した6種類の体操をやる」と打ち明けた。「ラジオ体操第1」「ラジオ体操第2」「みんなの体操」などを30分ぐらいかけて全てこなす。さらに30分ほど近所をウォーキング。入浴し、仏壇と神棚に手を合わせてから軽く朝食をとり出勤する。内視鏡手術で良性腫瘍を切除してから酒をやめた。カラオケで大好きな軍歌を歌う時に少し飲む程度だ。

これだけ体に気を使い、神仏の加護を願えば長生きしてしまう。近鉄GHD社員3万人(連結)にとって最大の悩みである


◎早く死ぬべき?

小林会長」が「長生きしてしまう」ことが「近鉄GHD社員3万人(連結)にとって最大の悩み」と言い切っている。どうやって「社員3万人」の意思を確認したのか。「小林会長」の死を「社員3万人」が願っているかような書き方は「社員」にも「小林会長」にも失礼だ。

百歩譲って「社員3万人」のほとんどが「小林会長」の「長生き」を懸念しているとしても、それを書くべきか疑問だ。きちんと事実関係を確認していない場合は、さらに罪深い。


※今回取り上げた記事「老害撒き散らす『近鉄の暴君』」https://facta.co.jp/article/202101018.html


※記事の評価はD(問題あり)

2020年12月22日火曜日

無理のある説明が並ぶ日経1面「パクスなき世界~大断層(2)」

 22日の日本経済新聞朝刊1面に載った「パクスなき世界~大断層(2)『巨大ITが秩序』現実に デジタル化、国家置き去り」という記事は無理のある内容だった。特に引っかかったのが以下のくだりだ。

耳納連山に沈む夕陽

【日経の記事】

伊ボローニャ大のエミリオ・カルバノ准教授らの実験では、複数の人工知能(AI)に商品の値付けをさせると、バラバラだった価格が最終的に均一の価格となった。AIが他者の動きをにらんで利益を最大化した結果で、消費者には不利益となる価格水準に収まるケースもある。

既存の概念では「価格カルテル」に当てはまりそうな事例だが、カルバノ氏は「人の意思や交渉によらない『AIカルテル』を、現行の競争法で規制することはできない」と指摘する。経済協力開発機構(OECD)もこれまでの報告書で同様の懸念を示している。


◎既存の概念では「価格カルテル」?

AIが他者の動きをにらんで利益を最大化した結果」として「バラバラだった価格が最終的に均一の価格となった」という「実験」に触れて「既存の概念では『価格カルテル』に当てはまりそうな事例」と解説している。

AI」間で合意があるならば分かるが「他者の動きをにらんで利益を最大化した」だけならば、同じことを人間がやっても「価格カルテル」にはならない。

例えば同じ地域のガソリンスタンドの価格が「均一」に近い状態になるのは珍しくない。クルマの運転者に分かるようにそれぞれのガソリンスタンドが道路に向けて価格を表示している影響が大きいのだろう。だが「他者の動きをにらんで利益を最大化」しただけならば取り締まりの対象とはならない。

AI」が既に話し合いや合意形成の力を持っているという話ならば、そう書いてもらわないと困る。

記事の続きを見ていこう。


【日経の記事】

米グーグルの新たな決済アプリ。2021年からシティバンクなどの口座がひも付くが、銀行側には口座維持手数料や最低残高の決定権が制限されているという。グーグルなど「GAFA」合計の時価総額はシティなどグローバルに展開する30金融機関の2倍。強者のルールに弱者が従う構図は金融も例外ではない。

トマス・ホッブズが17世紀に「リバイアサン」で提唱して以来、万能な国家が市民の上に立つのが近代の統治モデルの前提だった。21世紀のいま、膨大な個人データとデジタル技術を持つ巨大IT企業は国家をしのぐ影響力を持ち始めている

米国では当局がグーグルとフェイスブックを反トラスト法(独占禁止法)で提訴している。圧倒的な市場支配力で公正な競争を阻害していると判断し、M&A(合併・買収)で事業領域を拡大したフェイスブックに対しては、事業分割も求めている


◎「国家をしのぐ影響力」?

膨大な個人データとデジタル技術を持つ巨大IT企業は国家をしのぐ影響力を持ち始めている」と言うが、それを裏付ける材料は見当たらない。「口座維持手数料や最低残高の決定権」を「グーグル」が「制限」できるからなのか。「国家」の「影響力」はそれをはるかにしのぐはずだ。

圧倒的な市場支配力で公正な競争を阻害していると判断」されれば「国家」の力で「事業分割」を強制されることもある。記事を読む限りでは「巨大IT企業」が「国家をしのぐ影響力を持ち始めている」感じはしない。

記事の結論部分も引っかかった。


【日経の記事】

富やデジタル化の恩恵を人々に平等に分配する仕組みやルールを誰が、どう作るのか。各国の政府や司法機関は前例のない問いに対する答えを探し始めている。


◎「平等に分配」すべき?

富やデジタル化の恩恵を人々に平等に分配する仕組みやルールを誰が、どう作るのか」と書いているので「富やデジタル化の恩恵」は「平等に分配」すべきとの考えが取材班にはあるのだろう。起業して成功を収めた人も、働かずに生活保護を受けて暮らしている人も「」は「平等に分配」されるべきなのか。

税金などを使って「」を再分配するのは分かる。しかし「平等に分配」していたら、起業して頑張ろうと考える人はほとんどいなくなるだろう。良い就職先を見つける必要もなくなる。働かずに家で待っていれば「」を「平等に分配」してもらえるからだ。

それでは社会が上手く回らないことは自明のはずだが…。


※今回取り上げた記事「パクスなき世界~大断層(2)『巨大ITが秩序』現実に デジタル化、国家置き去り

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201222&ng=DGKKZO67491180Y0A211C2MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

「女性も働くことで幸福度は上がる」と日経に書いた出口治明氏の誤解

21日の日本経済新聞朝刊女性面に載った「ダイバーシティ進化論~コロナと女性活躍 行動を変え、未来をつくろう」という記事に「女性も働くことで世帯の暮らしは豊かになり、幸福度は上がる」と立命館アジア太平洋大学学長の出口治明氏が書いている。この説明は正しいのだろうか。

大阪取引所

これを考えるために3月6日付の東洋経済オンラインに載った「『働く妻』が働けば働くほど不幸になる深刻理由」という記事を見ておこう。筆者の橘木俊詔氏は自分たちの研究結果を以下のように記している。

【東洋経済オンラインの記事】

第1に、既婚女性に関しては、本人の家計負担率が高くなる(すなわち本人がもっと働く)と、本人の生活満足度が低下するのである。すなわち自分が働けば働くほど家計所得は増加すれど生活満足度(幸福度)は下がるのが、既婚女性で働く人の気持ちなのである

一方で既婚男性に関しては、本人がもっと働いて所得が増加しても、生活満足度には影響を与えない。女性と男性とでは自分がもっと働くことの効果に関して、異なる評価をしているとの発見は興味深い。


◎出口氏の話とは合わないが…

女性も働くことで世帯の暮らしは豊かになり、幸福度は上がる」という出口氏の解説とは逆に、女性の場合は「自分が働けば働くほど生活満足度(幸福度)は下がる」というのが橘木氏らの結論だ。

既婚男性に関しては、本人がもっと働いて所得が増加しても、生活満足度には影響を与えない」のだから、夫婦の「幸福度」を最大化するためには「男は仕事、女は家庭」という分業制が合理的だ。もちろん全ての夫婦に当てはまる訳ではないが「女性も働くこと」を社会全体で推進していけば、女性の「幸福度」は低下していくだろう。

もう1つ材料を提示しよう。「2億円と専業主婦」という本で著者の橘玲氏は「第6回世界価値観調査(2010~2014)」の内容を以下のように紹介している。

【「2億円と専業主婦」の引用】

ニュージーランドは、「とても幸せ」な専業主婦の割合が55.4%なのに対し共働きは38.7%で、その格差は16.7%と専業主婦の方が幸福度が高くなっています。こうした「専業主婦の幸福度が高い国」は59カ国中35カ国(約6割)です。

日本(格差13.8%)はそのニュージーランドに次いで「専業主婦の幸福度が高い国」ですが、「#MeToo」運動発祥の地で共働きが当然とされるアメリカも19位(格差5.1%)ですから、世界的にも「専業主婦は幸せ」という傾向があることがわかります。


◎願望と現実は別なのに…

世界の中でも日本は「専業主婦の幸福度が高い国」のようだ。「共働き」の女性よりも明確に「幸福度が高い」らしい。「女性も働くことで世帯の暮らしは豊かになり、幸福度は上がる」という出口氏の説明はますます怪しくなってくる。

ここで取り上げた情報がそろって間違っている可能性も当然にある。出口氏は何らかの確固たる根拠を持って「女性も働くことで世帯の暮らしは豊かになり、幸福度は上がる」と断言したのかもしれない。しかし少なくとも記事中では根拠を示していない。

推測だが「女性も働くことで世帯の暮らしは豊かになり、幸福度は上がる」と根拠なしに思い込んでいるのだろう。なぜそうなるかと言うと「そうでなくては困るから」ではないか。

出口氏の書いたものを読んでいると「女性も男性も同じように働き、家事を平等に分担するのが好ましい。ついでに言えば国会議員の数も企業の管理職の数も男女同数が理想」という価値観を感じる(明確にそう出口氏が言っている訳ではない。しかし方向としては合っていると思う)。

こうした「あるべき社会の理想像」を持つのは悪くない。しかし「自分の理想に近付く」のと「世の中が良くなる」のは別だ。「仕事も家事も男女が同じようにやる社会」では社会全体の幸福度が上がるのか。経済成長率が高まるのか。企業価値が向上するのか。少子化に歯止めがかかるのか。これらは個別に検証する必要がある。

自分の思い描く理想に近付けば、社会全体が好ましい方向に動くとの前提を出口氏には感じる。だから「女性も働くことで世帯の暮らしは豊かになり、幸福度は上がる」と根拠なしに言い切ってしまうのだろう。

女性も働くことで世帯の暮らしは豊かになるが、女性の幸福度は下がる」という調査結果があっても、出口氏がそれを受け入れて考えを改めるとは考えにくい。不都合な情報として無視していくのではないか。読者としては「出口氏の話は信用しない」という姿勢で臨むしかない。


※今回取り上げた記事「ダイバーシティ進化論~コロナと女性活躍 行動を変え、未来をつくろう

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201221&ng=DGKKZO67458140Y0A211C2TY5000


※記事の評価はD(問題あり)。出口治明氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。


女性「クオータ制」は素晴らしい? 日経女性面記事への疑問
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/04/blog-post_18.html

「ベンチがアホ」を江本氏は「監督に言った」? 出口治明氏の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_2.html

「他者の説明責任に厳しく自分に甘く」が残念な出口治明APU学長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/apu.html

日経で「少子化の原因は男女差別」と断定した出口治明APU学長の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/apu.html

日経「ダイバーシティ進化論」巡り説明責任 果たした出口治明APU学長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/12/apu.html

日経「ダイバーシティ進化論」に見えた出口治明APU学長の偏見
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/apu.html

日経女性面での女性管理職クオータ制導入論が苦しい出口治明氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/04/blog-post_20.html

立命館アジア太平洋大学は日本人学生の6割が東京・大阪出身? 日経ビジネスの回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/05/6.html

人生100年時代は60歳で「残り半分」だと出口治明APU学長は言うが…
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/10/10060apu.html

「男性と女性の差は筋力だけ」と日経ビジネスで語った出口治明APU学長の誤解
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/apu.html

2020年12月21日月曜日

「強引」な比較をあえて選ぶ日経 西條都夫上級論説委員「核心」のご都合主義

分析記事を書く上で比較対象の選択は重要だ。不適切な比較をすれば記事の信頼性に疑問符が付く。21日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に載った「核心~市場が映す企業の浮沈」という記事で、筆者の西條都夫上級論説委員はあえて不適切な比較をしているように見える。

夕暮れ時のうきは市

【日経の記事】

さて日本企業の弱点として「成長力不足」が指摘されて久しいが、この弱みは株高の今も継続中だ。ここでは日本を代表する銘柄として、経済界のパワーエリートである経団連正副会長の母体企業19社に登場してもらおう

時価総額を自己資本で割った株価純資産倍率(PBR)の値が大きいほど成長期待が大きく、逆に1倍を切れば、経営のまずさやその他の要因で、株主価値が将来にわたって破壊されると市場が判断していることを意味する。厳しくいえば、PBR1倍割れ銘柄は「事業の継続が株主にとってプラスにならない」とみなされている企業である。

日本企業はもともとこのPBRが海外勢に比べて低いが、経団連銘柄はさらに低く、19社平均のPBRは0.75倍。個別企業でみても2倍超えの銘柄はなく、最高がコマツの1.46倍。以下1倍超えは日立製作所、三菱電機、ANAホールディングス(HD)、トヨタ、東京海上HD、NTTの計7社で、残る12社は時価総額が解散価値(=自己資本)を下回っている。

なぜこんなことになるのか。シンプルな答えは経団連銘柄の構成企業が総じて古く、成長力に欠けることだ。19社中、純粋な戦後生まれはANAHDただ1社で、それとて1952年の創業。社齢は70歳近い。

一方で米国のダウ構成銘柄はマイクロソフトやウォルマートなど戦後生まれが半数近くを占める。経団連銘柄とダウ銘柄を直接比較するのはやや強引かもしれないが、やはり日本の産業社会の新陳代謝の不足はここでも明らかであり、私たちが直視すべき「日本経済の弱み」である。


◎なぜ「日米の株価指数」で比べない?

米国のダウ構成銘柄」との比較対象を日本で探すとすれば何が適切だろうか。株価指数の構成銘柄だということは最優先で考慮すべきだ。すぐに思い付くのは日経平均株価だろう。

ダウ」の30社に対して日経平均は225社で社数が違いすぎると考えるならばTOPIXコア30がある。これなら日米ともに30社で比べられる。どちらもその国の主要企業が名を連ねる。「構成銘柄」の歴史の長さで日米の「新陳代謝」の差を見せたいのならば、自分が思い付く範囲ではTOPIXコア30が最適だ。西條上級論説委員が適切な比較対象をしっかり探していれば辿り着けそうな指数だ。TOPIXコア30を知らなかったとしても日経平均は選べるはずだ。

しかし西條上級論説委員は「経団連正副会長の母体企業19社」を選んでいる。「経団連銘柄とダウ銘柄を直接比較するのはやや強引かもしれないが」とは書いているが、「やや強引かもしれない」ではなく「明らかに不適切」だ。

どうしても「経団連銘柄」を使いたいのならば、米国の比較対象をビジネス・ラウンドテーブルの会員企業にしてもいい。このぐらいのことは西條上級論説委員も分かっているだろう。

では、なぜ不適切な比較を選んだのか。「米国のダウ構成銘柄」には「新陳代謝」が顕著に感じられ、「経団連銘柄」にはそれがないからではないか。西條上級論説委員が描こうとするストーリーに合うように比較対象を恣意的に捉えたと考えれば腑に落ちる。

例えばTOPIXコア30を比較対象に選ぶとソフトバンクグループやキーエンスなど多くの「戦後生まれ」企業が入ってくる。米国も「戦後生まれ」は「半数近く」に過ぎないのだから日米の差はあまり明確にならない。

それはまずいと考えて「経団連銘柄」との比較を選んだのならば、ご都合主義との誹りを免れない。TOPIXコア30や日経平均との比較は全く思い付かなかったとすれば、分析記事を書くための基礎的な能力が欠けていると言わざるを得ない。


※今回取り上げた記事「核心~市場が映す企業の浮沈

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20201221&ng=DGKKZO67474640Y0A211C2TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。西條都夫上級論説委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。西條上級論説委員については以下の投稿も参照してほしい。


春秋航空日本は第三極にあらず?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_25.html

7回出てくる接続助詞「が」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_90.html

日経 西條都夫編集委員「日本企業の短期主義」の欠陥
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_82.html

何も言っていないに等しい日経 西條都夫編集委員の解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_26.html

日経 西條都夫編集委員が見習うべき志田富雄氏の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_28.html

タクシー初の値下げ? 日経 西條都夫編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_17.html

日経「一目均衡」で 西條都夫編集委員が忘れていること
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_14.html

「まじめにコツコツだけ」?日経 西條都夫編集委員の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_4.html

さらに苦しい日経 西條都夫編集委員の「内向く世界(4)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_29.html

「根拠なき『民』への不信」に根拠欠く日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_73.html

「日の丸半導体」の敗因分析が雑な日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_18.html

「平成の敗北なぜ起きた」の分析が残念な日経 西條都夫論説委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_22.html

「トヨタに数値目標なし」と誤った日経 西條都夫論説委員に引退勧告
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_27.html

「寿命逆転」が成立してない日経 西條都夫編集委員の「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_17.html

「平井一夫氏がソニーを引退」? 日経 西條都夫編集委員の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_19.html

「真価が問われる」で逃げた日経 西條都夫論説委員の真価を問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_16.html

周知の「顔」では?日経 西條都夫上級論説委員「核心~GAFA、もう一つの顔」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/gafa.html

2020年12月20日日曜日

高齢者による高齢者のための主張…野口悠紀雄氏に失望した東洋経済オンラインの記事

 「自分が属する集団の利益を守れ」と外に向かって訴えるのは美しくない。訴えるならば「結果として社会全体の利益につながる」という理屈が欲しい。しかし20日付の東洋経済オンラインに載った「80歳の私が政府のコロナ対策に強く切望する事~通常医療を保って救える命を守れるように」という記事で、筆者で早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問の野口悠紀雄氏は「自分を含む高齢者の利益を守れ」と強く訴える。同氏を長年高く評価してきたが今回の記事には失望した。

夕暮れ時の巨瀬川(久留米市)

一部を見ていこう。

【東洋経済オンラインの記事】

そこで、つぎのような考えが生まれます。

まず、高齢者や基礎疾患者は、隔離状態に置きます。

それら以外の人々については、社会経済活動の制限は、最小限にとどめます。

そして、ある程度の感染を許容します。

感染が拡大して医療崩壊に至った場合には、高齢者は見捨てます。これは、「トリアージ」(選別)と呼ばれる措置です。

スウェーデンでは、実際に、これに近い考えが採られました。

医療現場での個別的判断だけでなく、都市のロックダウンを行わないなど、社会全体としての政策にも、その考えが反映されました。これを「社会的トリアージ」と呼ぶことができるでしょう。

私は、こうした政策には断固反対です。 

沖縄やスウェーデンやトリアージのことを考えていたのは、春のことです。ところが、最近になって、日本でもすでに間接的な社会的トリアージが始まっていると考えるようになりました。

そう考えたきっかけは、私の近所の病院で、新型コロナウイルスのクラスターが発生したことです。

40人程度の感染者が発生したようです。一部のテレビでは報道されましたが、新聞に記事が現れません。地域版にも記事がでません。

外来には影響がなかったからということのようです。外来患者への通知もありませんでした。

つまり、この程度のことは、もはやニュースにもならない「当たり前」のことになってしまったのです。今年の春であれば、大ニュースだったでしょう。

ところで、この件があったため、この病院の外来診療は、当面休止になってしまいました。ここは地域の中心病院なので、多くの人が診療を受けられなくなりました。その大部分は高齢者です。

コロナによる医療逼迫とは、コロナ患者の病床が不足することだけでなく、通常医療ができなくなることでもあると、改めて認識しました。

コロナ感染を免れたとしても、そのほかの病で命を落とす確率が上昇しているわけです。


◎自分を守りたいから?

社会的トリアージ」には「断固反対」だと野口氏は言う。その理由は「コロナによる医療逼迫とは、コロナ患者の病床が不足することだけでなく、通常医療ができなくなることでもある」からのようだ。「地域の中心病院」で「多くの人が診療を受けられなく」なり「その大部分は高齢者」だったという事例も紹介している。

記事では「高齢者や基礎疾患者以外の人々が『自分は大丈夫』と考えるのは、多分、合理的な判断」とも書いている。そうした人たちが「高齢者」のために「社会経済活動の制限」に協力すべきだというのが野口氏の考えだ。

つまり「高齢者や基礎疾患者以外の人々」の犠牲の下に自分たちの利益を増やしたいと訴えている。気持ちは分かる。だが自分たちへの利益誘導を懸命に訴えられても共感はできない。

野口氏は記事を以下のように締めている。

SNSの発信は若い世代が中心です。60代以上の高齢者になるほど、インターネットの利用率、スマホの保有率は下がり、その声はSNSではあまり現れません。なんとか、コロナ弱者である高齢者の声が、政策当局に届いてほしいものです

高齢者」が声を上げて「高齢者」の利益を守る。悪いことではない。しかし、それが全体の利益につながるという理屈を野口氏は示していない。そうなると結局は「高齢者」による「高齢者」のための訴えだ。

個人的には「若い世代」の利益を優先させたい。それを堂々と言えるのは自分が「若い世代」に属していないからだ。「感染が拡大して医療崩壊に至った場合には、高齢者は見捨て」ていい。基本的には年齢が上の者から犠牲になるような仕組みにしたい。

結果的に自分が「見捨て」られる側に回るとしても受け入れるつもりだ。そこそこ長生きしてきた人間が「若い世代」に多大な犠牲を強いてさらに長生きしようとする姿勢には醜さしか感じない。

若い世代」もいずれ年老いていく。自分たちが「高齢者」になった時に同じような状況になれば、上の世代を見習って今度は自分たちが「見捨て」られる側に回る。そういう社会にであってほしい。

野口氏のような優れた書き手が「80歳」になって声高に「高齢者」の利益を守れと主張したのには驚いたし、がっかりした。

自分も「80歳」になったら野口氏のように考えるのだろうか。だとしたら怖い。


※今回取り上げた記事「80歳の私が政府のコロナ対策に強く切望する事~通常医療を保って救える命を守れるように

https://toyokeizai.net/articles/-/396720


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