2019年2月26日火曜日

「ムダ排除」に説得力欠く日経「Neo economy 進化する経済(2)」

日本経済新聞朝刊1面に載った「Neo economy 進化する経済(2)『ムダ』排除が生む低温経済 摩擦ゼロに備えはあるか」という記事は説得力に欠ける内容だった。「摩擦」を減らしそうもない話を「摩擦ゼロ」に向かう動きと捉えてしまっている。まずは最初の事例を見ていこう。
長崎大学(長崎市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

モノ、時間、カネ。経済の価値を生む源なのに、意図せぬ摩擦も生む。摩擦ゼロの滑らかな経済は夢か。

1月、バンコク。カフェを訪れた会社員、マニーラット・テプラビパードさんは店員から小包を受け取ると、コーヒーも飲まずに更衣室に入った。小包の中の衣類3点を試着し、1点を買った。アパレルのネット通販ポメロは2018年末、利用者が指定したカフェやヨガスタジオなどに衣類を送り、「試着室」に変えるサービスを始めた。

空いた空間を「試着室」に転じる発想を支えるのは、ドライバーの位置を把握し、返品された衣類を別の「試着室」に転送するデジタル技術だ。カフェの従業員らの更衣室が1日の間に使われる時間はわずか。自宅の空き部屋、週末しか乗らないマイカー。どんな邸宅や高級車も使わなければ新たな価値を生まない。

需要と供給の動きを見極めて流通の無駄を極力まで減らせれば、大型店舗で大量販売するよりも細かな需要にきめ細かく応じる方が収益につながる。米国の文明評論家、ジェレミー・リフキン氏は「ビッグデータを分析することで在庫を極限まで減らし、生産性を劇的に高められる」と語る。

企業はより効率的な在庫管理に動く。主要10カ国の経済成長率を在庫増が押し上げた度合いをみると、1970年代の1.6%から足元は0.4%まで低下した。40カ月周期の景気循環を指す「キチンの波」を起こすとされる在庫が意図せぬ形で増えるのを防げば、景気の波は穏やかになる。


◎あまり変化ないような…

取材班は「アパレルのネット通販ポメロ」の「サービス」を「摩擦ゼロ」かそれに近いものと判断したのだろう。「需要と供給の動きを見極めて流通の無駄を極力まで減ら」すことで「在庫を極限まで減ら」している事例と見ているようでもある。

しかし、大きな変化はなさそうだ。「空いた空間」は有効活用できるかもしれないが、そのためには「衣類」を移動させなければならない。「空いた空間を『試着室』に転じる発想を支えるのは、ドライバーの位置を把握し、返品された衣類を別の『試着室』に転送するデジタル技術だ」と言うが、「デジタル技術」だけでは「転送」できない。

ドライバー」を使って「衣類を別の『試着室』に転送する」のに「摩擦ゼロの滑らかな経済」に近付けるだろうか。この手のサービスが広がって「バンコク」の道路渋滞が悪化する可能性も十分にある。

需要と供給の動きを見極めて流通の無駄を極力まで減らせれば、大型店舗で大量販売するよりも細かな需要にきめ細かく応じる方が収益につながる」とも書いているが、「ポメロ」が従来のアパレルよりも「需要と供給の動きを見極めて」いると取れる材料は見当たらない。消費者が購入する候補を見つけて試着するという流れは「大型店舗で大量販売する」場合と同じだ。

付け加えると「極力まで減らせれば」は日本語として不自然だ。「極限まで減らせれば」と書きたかったのだろう。

在庫」に関しても「ポメロ」の事例が「摩擦ゼロ」に近付くものとは思えない。「試着室」が点在しているのであれば、「大型店舗で大量販売するよりも」在庫は多く抱える必要がありそうだ。売れ残りも当然に出てくる。

需要と供給」や「在庫」の話は一般論で「ポメロ」とは関係ないとの主張もできなくはない。ただ、そうなるとなぜ最初に長々と「ポメロ」の事例を紹介したのかとの疑問が残る。記事の構成を見ると、「需要と供給」や「在庫」の話は、2番目の事例とは明確に切り離されている。

その2番目の事例も見ておこう。

【日経の記事】

経済の潤滑油、貨幣も摩擦の種だ。欧州で無店舗の銀行事業を展開するN26のバレンティン・シュタルフ最高経営責任者は「ひどい銀行サービスと高い料金に苦しむ人が世界中にいる」という。同社ではマスターカード加盟のATMで手数料なく現金を引き出せ、運営コストは既存銀行の6分の1。創業6年で230万人が利用する。


◎これが「Neo economy」?

欧州」の事情は分からないが、これが「Neo economy」の事例なのかとは思う。ただのネット専業銀行ではないのか。「ATMで手数料なく現金を引き出せ」るのは、そんなに新しい動きではない。日本であれば、多くの銀行では自行のATMだけでなくコンビニでも「手数料なく現金を引き出せ」るようにしている(回数制限ありの場合が多いが…)。「N26」をわざわざ取り上げる意味があるのか。

さらに苦しいのが3番目の事例だ。

【日経の記事】

世界のキャッシュレス取引は今後5年、年2桁のペースで伸びる見通しだ。フィンテック企業のペイミー(東京・渋谷)は給与の即日払いサービスを手掛ける。月1回の給料支給という「摩擦」が減れば、給料日後に潤う居酒屋、ボーナス狙いの年末商戦といった風景が消えるかもしれない。



◎「摩擦」が増えるような…

ペイミー」の「給与の即日払いサービス」を使うと「摩擦」が減るだろうか。給与を受け取る回数で見れば「摩擦」は増える。しかも「ペイミー」への手数料の支払いも発生する。なのに「摩擦」が減ると見たのが不思議だ。
九重"夢"大吊橋(大分県九重町)
       ※写真と本文は無関係です

経済が「摩擦ゼロ」に近付いていくとすれば「ペイミー」は淘汰されるべき存在だ。

記事で取り上げた事例は以上の3つ。そして結論部分へ移っていく。そこも見ておこう。

【日経の記事】

あり余るモノをつくり続け、大量に資源を消費してきた結果、人類は地球環境の破壊という負の遺産を残し、産業革命前に比べて世界の気温は1度上昇した。経済から余計なモノをそぎ落とし、摩擦ゼロに近づけていけば、効率は高まり、社会の調和は増すだろう。

だがその半面、投資や生産は減り、物価が抑えられるデフレ圧力が強まる。見た目の成長が鈍る「低温経済」が続き、大量雇用という工業化社会の前提も崩れるかもしれない。仕事が人工知能(AI)やロボットに置き換わったとき、失業したと嘆くのか、それとも余暇や自由という新たな豊かさを手にしたと感じるのか。従来の延長線ではない、発想の転換への備えがあるのかが問われている。



◎「デフレ圧力が強まる」?

摩擦ゼロに近づけていけば、効率は高まり、社会の調和は増すだろう。だがその半面、投資や生産は減り、物価が抑えられるデフレ圧力が強まる」との見方には同意できない。「デフレ圧力」が弱まる可能性もある。「余計なモノをそぎ落とし」た「摩擦ゼロ」の世界で、在庫一掃のための安売りは起きるだろうか。「余計なモノ」を作るから需給バランスが崩れて「デフレ圧力が強まる」面もある。

やはり、この記事には説得力がない。


※今回取り上げた記事「Neo economy 進化する経済(2)『ムダ』排除が生む低温経済 摩擦ゼロに備えはあるか
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190226&ng=DGKKZO41741840W9A220C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。

2019年2月25日月曜日

今回も市場への理解不足が見える日経 滝田洋一編集委員「核心」

日本経済新聞の滝田洋一編集委員は市場に関する理解に欠ける面がある。25日の朝刊オピニオン面に載った「核心~統計『サプライズ』で動く」という記事でも変化は見えない。記事を見ながら問題点を指摘したい。
呼子大橋(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

一つ一つの統計に金融市場が目を凝らし、経済の流れが変わるとみれば敏感に反応する。政策当局者、なかでも歴代の米連邦準備理事会(FRB)議長もしかり。「金融政策は統計の結果を重視する」と折に触れて強調する。統計を通じて市場と当局が生き生きと対話しているのだ

毎月勤労統計の不正処理をきっかけに、日本でも統計の問題ににわかに関心が集まった。国会でも統計不正が集中審議された。野党は「アベノミクス偽装」という標語に表れるように、政府批判の格好の材料としているようだ。経済運営に役立てるため、統計をどう改善するかの議論はあまり聞かれない

それにしても統計の取り扱いに、なぜ日米でかくも大きな差が生じるのか。米国の場合、キーワードは雇用だ。



◎うまく比較できてる?

上記のくだりは説明として苦しい。米国では「統計を通じて市場と当局が生き生きと対話している」のに日本は違うというならば分かる。日本では「経済運営に役立てるため、統計をどう改善するかの議論はあまり聞かれない」のに、米国では活発な議論があるという話でも成り立つ。

しかし、そういう比較にはなっていない。なのに「統計の取り扱いに、なぜ日米でかくも大きな差が生じるのか」と言われても困る。

「滝田編集委員は市場への理解が足りない」と確認できるのが以下のくだりだ。

【日経の記事】

そんななか市場参加者や政策当局者は、もどかしさを感じていた。たとえ経済統計が好調だったとしても、事前の予想ほどではなかったなら、市場にガックリ感が出てしまう。反対に統計が多少振るわなくとも、事前の予想がもっと悪ければ、市場はホッと一息つくことになる。

つまり市場の反応は、統計の実績と事前の予測の綱引きだ。そこで予測と実績を比べどちらが上回ったかを数値化した「サプライズ(びっくり)指数」がある。予測と実績の差、すなわちサプライズが大きければ、市場参加者が大急ぎで取引を巻き戻し、株価や為替相場が急変する。



◎当たり前の話では?

経済統計が好調だったとしても、事前の予想ほどではなかったなら、市場にガックリ感が出てしまう」のは当たり前だ。「政策当局者」はともかく「市場参加者」でそこに「もどかしさを感じ」る人などいるのか(いてもわずかだろう)。
旧出島神学校(長崎市)※写真と本文は無関係です

サプライズが大きければ、市場参加者が大急ぎで取引を巻き戻し」という説明も引っかかる。ここで言う「巻き戻し」とはポジションの解消を指すのだろう。「サプライズ」に相場を動かす力はあるが、それは「巻き戻し」に限らない。新規の売買につながる場合も当然ある。

次の説明も引っかかった。

【日経の記事】

サプライズ指数は為替のトレーディングの手段として米シティグループが開発した。FRBもリアルタイムの市場心理を測る物差しとして注目し、13年11月に調査報告をまとめている。ここでも統計をめぐって市場と当局が対話を重ねているのである。

シティは欧州や日本についてもこの指数を算出しているが、18年後半からユーロ圏の不振が目立つ。この流れに抗しきれず欧州中央銀行(ECB)は、19年中に目指す政策金利の引き上げを、見送らざるを得なくなりつつある。

日本のサプライズ指数は米国の波に沿うように動いている。そこで日本の株価や円相場も米国の後を追うことになりがちで、残念ながら日本の指標にはあまり反応しない



◎辻褄が合わないような…

引っかかるのは「日本のサプライズ指数は米国の波に沿うように動いている。そこで日本の株価や円相場も米国の後を追うことになりがちで、残念ながら日本の指標にはあまり反応しない」という説明だ。まず「米国の波に沿うように動いている」感じがあまりない。

記事に付けたグラフを見ると17年の後半に日本は80に迫る上昇を見せるが、この時の米国はゼロ近辺だ。その後に日本がゼロ近辺に低下すると、米国が80を超える水準に上昇する。

18年には日本がマイナス50近くまで下げているのに、その時の米国はプラスを維持している。その後に日本が20を超えるところまで上昇するのとは逆に、米国は低下を続けマイナス圏へ落ちていく。

動きはあまり似ていないし、似ているとしても日本の方が先に動いているようにも見える。「サプライズ指数」の動きを基に市場が「日本の指標にはあまり反応しない」根拠を見出すのは難しいだろう。

記事の終盤にも注文を付けたい。

【日経の記事】

日銀は大規模な金融緩和で年2%の物価上昇率を目指しているが、副作用として、とりわけ債券市場の感度は鈍っている。市場がほとんど関心を寄せないようでは、統計に基づいた経済政策の運営といっても切実感に乏しい



◎「切実感に乏しい」?

市場がほとんど関心を寄せないようでは、統計に基づいた経済政策の運営といっても切実感に乏しい」という解説は謎だ。「統計に基づいた経済政策の運営」の必要性と市場の「関心」は切り離して考えるべきだ。

雇用政策を考える上では雇用関係の統計が重要になる。正しく状況を把握できなければ、適切な「政策」は打ち出しにくい。これは、雇用関係の統計を市場関係者が重視するかどうかとは別問題だ。

最終段落にもツッコミを入れておきたい。

【日経の記事】

10月に予定される消費税の再増税について、判断の時期が迫る。なのに足元の景気指標ではなく、過去の統計ばかり話題になる。前でなくバックミラーを見て車を運転しているようで奇妙だ



◎どちらも「過去」では?

足元の景気指標ではなく、過去の統計ばかり話題になる」と滝田編集委員は言うが「足元の景気指標」も基本的には「過去の統計」だ。例えば「足元」の完全失業率は2.4%だが、これは18年12月という「過去」の数値だ。

滝田編集委員は「前でなくバックミラーを見て車を運転しているようで奇妙だ」と言うが、どうなれば「奇妙」でなくなるのか。「足元の景気指標」に注目しても「前でなくバックミラーを見て車を運転している」状況は変わらない気がするが…。


※今回取り上げた記事「核心~統計『サプライズ』で動く
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190225&ng=DGKKZO41632020S9A220C1TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。滝田洋一編集委員への評価はE(大いに問題あり)を据え置く。滝田編集委員については以下の投稿も参照してほしい。


日経 滝田洋一編集委員 「核心」に見える問題点(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_4.html

日経 滝田洋一編集委員 「核心」に見える問題点(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_24.html

日経 滝田洋一編集委員 「核心」に見える問題点(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_5.html

引退考えるべき時期? 日経 滝田洋一編集委員 「核心」(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_32.html

引退考えるべき時期? 日経 滝田洋一編集委員 「核心」(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_40.html

市場をまともに見てない? 日経 滝田洋一編集委員「羅針盤」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_69.html

日経 滝田洋一編集委員「リーマンの教訓 今こそ」の問題点
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_16.html

市場への理解が乏しい日経 滝田洋一編集委員「羅針盤」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/01/blog-post_9.html

株式も「空前の低利回り」? 日経 滝田洋一編集委員の怪しい解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/02/blog-post_19.html

2019年2月24日日曜日

「総総分離論」でも自説なしの日経 大場俊介政治部次長

日本経済新聞の大場俊介 政治部次長に関しては「訴えたいことのない書き手」と評してきた。24日の朝刊総合3面に載った「風見鶏~外交からの『総総分離』論」という記事でも、その傾向は変わっていない。記事の全文を見た上で問題点を指摘したい。
杵築城(大分県杵築市)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

「総総分離という手がある」。自民党内で浮上している安倍晋三首相の党総裁4選論に、首相の外交ブレーンの一人はこう返す。

 「総総分離」は総理(首相)と総裁を別の人物が務める手法だ。自民党内でたびたび持ち上がったことがあるが、一度も実現したことはない。一歩手前までいったのは1982年10月に鈴木善幸首相が退陣表明したときの後継選びだ。

鈴木、田中、中曽根の主流派は話し合いで「中曽根康弘総理・総裁」の選出をめざしたが、非主流派の福田、河本、中川の各派は難色を示した。鈴木氏と田中派の二階堂進幹事長、福田赳夫元首相の3人に調整が委ねられたが難航し、告示日を迎えた総裁選には中曽根、河本敏夫、安倍晋太郎、中川一郎の4氏が立候補した。

選挙活動を凍結して調整を続けた最終段階で突如、浮上したのが「中曽根総理・福田総裁」の総総分離案だった。河本氏ら3候補は受け入れたが、田中角栄元首相が支援する中曽根氏は拒否し、総裁公選に突入し、中曽根氏が大勝した。

総総分離論が取り沙汰されたのは主流派と非主流派の抗争を収める一つの知恵だった。いまさら古色蒼然(そうぜん)たるこの手法が浮上するのはなぜか。

大きな理由は外交だ。

首相と距離のある議員ですら「安倍首相が会いたいと言えばどこの首脳も断らないだろう。長期政権の最大の強みだ」と語る。安倍首相は主要7カ国(G7)の首脳のなかでドイツのメルケル首相の次に在任期間が長い。

安倍首相が平和条約交渉を加速させるロシアのプーチン大統領は昨年3月に通算4選を決め、任期は24年5月までとなった。トランプ米大統領も来年の大統領選で再選すれば、任期は25年1月まで延びる。中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は2期10年までだった任期を撤廃した。

首脳間の個人的関係が影響する外交は長期政権が有利だ。プーチン氏との領土交渉では安倍首相のいまの総裁任期があと2年半余りで切れることから「足元をみられる」との指摘がある。仮に首相が総裁4選すれば任期は24年9月までと逆転する。

プーチン氏が北方四島に在日米軍が基地を建設するのではないかと懸念していることも領土交渉の障害になっている。これを払拭するためにも安倍首相とトランプ氏との蜜月関係に期待する向きは多い。

とはいえ現状では総裁4選の現実味は乏しい。自民党は連続2期までと定めていた総裁任期に関する党則を連続3期までに変えたばかりだ。いま60歳代の「ポスト安倍」の有力者らはあと5年たてば70歳をうかがう年齢になる。

そこで安倍氏が首相は続投し、総裁は別の誰かが務めればよいというのが、外交面からの総総分離論だ。

だが難点も多い。多数党の党首が首相になる議院内閣制の趣旨からも、総理と総裁はもともと密接不可分なものだ。

ほかにも安倍首相が日ロ交渉や北朝鮮の拉致問題などの「戦後外交の総決算」に引き続き取り組む手はある。安倍首相は第1次政権後、5年余りの歳月を経て首相の座に返り咲いた。プーチン氏もかつてメドベージェフ氏に大統領を譲り、4年後に再登板した。

「私とプーチン大統領で終止符を打つ」と領土問題で首相は意気込む。「安倍1強」を脅かす勢力は今のところ自民党内にも野党にも見あたらない。ならば外交は安倍氏に任せればよい――。これが外交ブレーンが語る、総総分離論の背景だ


◎結局、何を訴えたい?

首相の外交ブレーンの一人」が「外交」を理由に「総総分離論」を唱えてます--。この記事は簡単に言えば、それだけの話だ。署名入りでコラムを書くのならば「総総分離」に関して大場次長がどう見ているのかが肝だ。なのにそこをごっそり省いて、自らの主張はほぼ出していない。「鈴木善幸首相が退陣表明したときの後継選び」の細かい経緯はなくていい。代わりに以下の要素を入れてほしかった。
大分県立日田林工高校(日田市)※写真と本文は無関係

(1)「総総分離」の実現可能性は?

現状では総裁4選の現実味は乏しい」と大場次長は言う。ならば「総総分離」による首相続投の「現実味」はどうなのか。「いま60歳代の「ポスト安倍」の有力者ら」の中に「総総分離」を受け入れてくれそうな人物はいるのか。その辺りは気になるが、大場次長は何も教えてくれない。


(2)「総総分離」には賛成? 反対?

そもそも大場次長は「総総分離」に賛成なのか。「難点も多い」とは書いているが、賛成なのか反対なのか判然としない。そこは明確にしてほしい。


(3)領土問題は「2年半」では決着しない?

安倍首相」の「総裁任期」は「あと2年半余り」ある。この間に「領土問題」は解決しそうにないが、「総総分離」によってさらに長く首相を務められるようにすれば、解決の可能性が高まるとの前提を「外交ブレーン」の「総総分離論」には感じる。

この前提をどう見るのかを大場次長には論じてほしかった。個人的には、「2年半余り」の時間があっても解決しそうもないのに、さらに期間を延ばすと「いけるかも」と思うのは楽観的過ぎる気がする。

ついでに、記事で気になった点を2つ指摘したい。

◎「どこの首脳も断らない」?

まず「首相と距離のある議員ですら『安倍首相が会いたいと言えばどこの首脳も断らないだろう。長期政権の最大の強みだ』と語る」という説明が引っかかる。

安倍首相が会いたいと言えばどこの首脳も断らないだろう」との見方は妥当なのか。「首相『拉致解決する決意』 日朝会談に意欲」という2018年6月10日付の日経の記事では「安倍晋三首相は9日の主要国首脳会議(シャルルボワ・サミット)後の記者会見で、日朝首脳会談を実施して日本人拉致問題を解決することに改めて意欲を示した。『日本と北朝鮮の間で直接協議し解決する決意だ』と述べた」と報じている。

しかし、半年以上が経過しても「日朝首脳会談」は実現していない。そういう状況下で「安倍首相が会いたいと言えばどこの首脳も断らないだろう」というコメントを使うのは適切なのか。あるいは「日朝首脳会談」は実現間近で、それを「首相と距離のある議員」や大場次長は知っているということか。


◎そんな「趣旨」ある?

多数党の党首が首相になる議院内閣制の趣旨からも、総理と総裁はもともと密接不可分なものだ」と大場次長は書いている。これに関しては「そんな『趣旨』ある?」と感じた。

議院内閣制」とは「政府(内閣)の存立が議会の信任を必須要件としている制度」(大辞林)だ。「議会の信任」が得られれば「党首が首相」である必要はないし、「制度」の「趣旨」にも反していないと思える。

今回の記事にも出てくる「ドイツのメルケル首相」は「党首」を辞任した後も首相を続けているが、これは「議院内閣制の趣旨」に反するのか。


※今回取り上げた記事「風見鶏~外交からの『総総分離』論
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190224&ng=DGKKZO41625150S9A220C1EA3000


※記事の評価はD(問題あり)。大場俊介政治部次長への評価はDを維持する。大場次長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

行数埋めただけの 日経 大場俊介次長「風見鶏~清和会がつなぐ人口問題」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_13.html

「訴えたいことがない」のが辛い日経 大場俊介政治部次長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_9.html

2019年2月23日土曜日

FACTAと大西康之氏に問う「 JIC問題、過去の記事と辻褄合う?」

ジャーナリストの大西康之氏は過去に自分が書いたこととの整合性を気にせずに新たな気持ちで記事を作る“特技”を持っているのだろうか。FACTA3月号に載った「JIC社長に『GPIFの水野』浮上」という記事は、2018年10月号で書いているた内容を否定するような中身になっている。
白池地獄(大分県別府市)※写真と本文は無関係です

過去に書いた内容が間違っていたのならば、そこはしっかりと総括してほしい。そこを省いて、整合性に問題のある記事を読者に届けてしまうのがFACTAと大西氏の悪い癖だ。FACTAには以下の内容で問い合わせを送った。

【FACTAへの問い合わせ】

大西康之様  FACTA 主筆 阿部重夫様  発行人 宮嶋巌様  編集長 宮﨑知己様

2019年3月号の「JIC社長に『GPIFの水野』浮上」という記事についてお尋ねします。記事の最初の方に「2兆円の投資枠を持つJIC」と書いていますが、最後の段落では「2兆円の融資枠を持つJICの周辺で暗躍する『セコ(世耕)友』は、森友・加計問題で一躍有名になった『アベ友』より、はるかに上手かも知れない」と「融資枠」になっています。

投資枠」も「融資枠」もともに「2兆円」という可能性も考慮しましたが、「JIC」に関する報道などから判断すると違うと思えます。「2兆円の融資枠」としたのは「2兆円の投資枠」の誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

次に問題としたいのは、2018年10月号の「盗人に追い銭『産業革新機構』」という記事との整合性です。筆者はやはり大西様です。

今号で大西様は以下のように記しています。

昨年12月、11人の取締役のうち民間出身の9人が所轄の経済産業省と衝突して辞任を表明した産業革新投資機構(JIC)で、『ケンカ正(まさ)』こと田中正明社長(元三菱UFJフィナンシャル.グループ副社長)の後任に、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の水野弘道最高投資責任者(CIO、67)が浮上している。水野は世耕弘成経済産業大臣の『お友達』で、GPIF入りの時にも物議を醸した人物。田中、坂根正弘(元コマツ会長)、冨山和彦(経営共創基盤CEO)といった『うるさ型』を外してお友達を送り込み、2兆円の投資枠を持つJICをコントロールしようという野望が透けて見える

ここからは「田中正明」氏と「坂根正弘」氏は「うるさ型」であり、彼らが「取締役」にいると「JICをコントロール」しづらいと読み取れます。

一方、18年10月号では「とはいえ、志賀や勝又と同じく、田中や坂根も所詮は『雇われマダム』。4兆円を動かすのは彼らではなく、アベノミクスで我が世の春を謳歌する経産官僚だ」と解説しています。この記事では「ケンカ正(まさ)」や「うるさ型」といった話は出てきません。

今号では「辞任した9人は『日本でソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)をやるとしたら、これ以上は望めないメンバー』(金融関係者)だった」とも解説しています。「所詮は『雇われマダム』」の「田中」氏らを集めたところで、資金を動かすのは「アベノミクスで我が世の春を謳歌する経産官僚」のはずです。誰を取締役にしても同じではありませんか。

18年10月号では「田中のワントップでは税金を食い物にする魂胆が見え見え」とも書いていました。しかし、今号では「うるさ型」で「日本でソブリン・ウェルス・ファンド(SWF)をやるとしたら、これ以上は望めないメンバー」の一員になっています。

2つの記事の食い違う説明はどう理解すれば良いのでしょうか。回答をお願いします。

推測ですが、18年10月号の記事では色々と見方が甘かったのでしょう。それを責めるつもりはありません。しかし、過去の記事と整合性に問題がある記事を何もなかったかのように載せるのは感心しません。

御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。大西様に関しても同様です。記事の作り手としての良心に照らして適切な行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

3月号の記事では以下のくだりにも問題を感じた。

【FACTAの記事】

発足時のJICが目指したSWFは運用益を最大化して国富を増やすことを目的としたはずだった。そのためにはクローズドな超一流の投資ファンドの世界にアクセスできる一流のファンドマネージャーが必要であり、グローバル水準の報酬体系を用意しないと一流のチームは組めないのは明白だ。



◎そんなもの要る?

クローズドな超一流の投資ファンドの世界にアクセスできる一流のファンドマネージャーが必要」という話は誰から聞いたのか。想像だが、「田中」氏あるいはその周辺の人に上手く丸め込まれたのではないのか。少し考えれば、おかしな話だと気付けるはずだ。
小石川後楽園(東京都文京区)※写真と本文は無関係です

記事の説明が正しければ「クローズドな超一流の投資ファンドの世界」では、市場平均を大幅に上回るリターンを継続的に確保できているはずだ。でなければ、そこに「アクセス」するために「一流のファンドマネージャー」に「グローバル水準の報酬」を支払う意味はない。

投資に関して高コストのアクティブファンドが不利なのは投資の世界の常識だ。「実力」で高リターンを実現しているアクティブファンドはほとんどないと見た方がいい。「一流のファンドマネージャー」ならば「実力」を見抜けるという可能性を完全には否定できないが、原則として高い報酬を払う意義は見出せない。

運用益を最大化して国富を増やすこと」が「目的」ならば、「ファンドマネージャー」に支払うコストは極力低くする方が合理的だ。「超一流の投資ファンドの世界にアクセスできないと成功は望めない」といった話に大西氏は怪しさを感じなかったのだろうか。


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「JIC社長に『GPIFの水野』浮上
https://facta.co.jp/article/201903033.html

※記事の評価はD(問題あり)。大西康之氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。大西氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日経ビジネス 大西康之編集委員 F評価の理由
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_49.html

大西康之編集委員が誤解する「ホンダの英語公用化」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_71.html

東芝批判の資格ある? 日経ビジネス 大西康之編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_74.html

日経ビジネス大西康之編集委員「ニュースを突く」に見える矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/01/blog-post_31.html

 FACTAに問う「ミス放置」元日経編集委員 大西康之氏起用
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/facta_28.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」が空疎すぎる大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_10.html

文藝春秋「東芝前会長のイメルダ夫人」 大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_12.html

文藝春秋「東芝 倒産までのシナリオ」に見える大西康之氏の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_74.html

大西康之氏の分析力に難あり FACTA「時間切れ 東芝倒産」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/facta.html

文藝春秋「深層レポート」に見える大西康之氏の理解不足
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_8.html

文藝春秋「産業革新機構がJDIを壊滅させた」 大西康之氏への疑問
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/blog-post_10.html

「東芝に庇護なし」はどうなった? 大西康之氏 FACTA記事に矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/09/facta.html

「最後の砦はパナとソニー」の説明が苦しい大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_11.html

経団連会長は時価総額で決めるべき? 大西康之氏の奇妙な主張
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/01/blog-post_22.html

大西康之氏 FACTAのソフトバンク関連記事にも問題山積
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/facta.html

「経団連」への誤解を基にFACTAで記事を書く大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/facta.html

「東芝問題」で自らの不明を総括しない大西康之氏
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_24.html

大西康之氏の問題目立つFACTA「盗人に追い銭 産業革新機構」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/facta.html

FACTA「デサント牛耳る番頭4人組」でも問題目立つ大西康之氏
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/facta4.html

大西康之氏に「JIC騒動の真相」を書かせるFACTAの無謀
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/jicfacta.html

2019年2月21日木曜日

「知的障害者は家庭では必要とされない?」に日経ビジネスが回答

日経ビジネス2月18日号の特集「どこにある? ベストな人生」に関する問い合わせに回答があったので、その内容を紹介したい。「知的障害者」は家庭で「褒められること」「役立つこと」「必要とされること」はないのかとの問いに正面から答えてはいない。しかし、よく考えられた回答だとも感じた。
小石川後楽園(東京都文京区)※写真と本文は無関係です

問い合わせと回答は以下の通り。

【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 北西厚一様 佐伯真也様 武田健太郎様 広田望様 古川湧様

2月18日号の特集「どこにある? ベストな人生」の中の「PART3~『感動チョーク工場』に学ぶ仕事の幸福感を増やす方法」という記事についてお尋ねします。記事では「日本理化学工業」の「大山泰弘会長」が「住職」から聞いた話を以下のように紹介しています。

人間の究極の幸せは、『(1)愛されること、(2)褒められること、(3)役立つこと、(4)必要とされること』。施設や家庭でできるのは(1)だけで、(2)や(3)や(4)は働くことでしか得られない

これが全ての人に当てはまる話なのか、「日本理化学工業」で働く「知的障害者」に限定した話なのか微妙ですが、狭く考えて「知的障害者」に関するものだとしましょう。

だとしても「施設や家庭でできるのは(1)だけで、(2)や(3)や(4)は働くことでしか得られない」とは思えません。「知的障害者」は家庭で家事を手伝ったりしても「褒められること」も「役立つこと」もないのでしょうか。「愛される」存在であれば、それだけで「必要とされ」そうです。なのに「家庭」では決して「必要とされること」がないのでしょうか。答えは明らかです。しかし記事では「大山泰弘会長」だけでなく筆者も「住職」の話をありがたく受け入れてしまっています。

施設や家庭でできるのは(1)だけで、(2)や(3)や(4)は働くことでしか得られない」という説明は誤りではありませんか。また、今回のような偏見に満ちた誤った考え方を無批判に紹介するのは、「知的障害者」とその家族、さらには「知的障害者」を支える施設の関係者に対して配慮に欠けると思えますが、いかがでしょうか。

ついでで恐縮ですが、特集の中の「PROLOGUE~同窓会行かない症候群 原因は『昭和の働き方』の破綻」という記事にも注文を付けさせていただきます。記事ではまず「全国の同窓会で中高年参加者が伸び悩む現象が起きている」と記しています。これを信じれば「参加者の増加は続いているが、増加率は鈍化傾向」となっているはずです。しかし、記事にはこれを裏付けるデータが出てきません。また「伸び悩む(増加の勢いが衰える)」だけならば「同窓会行かない症候群」という話自体が怪しくなってきます。

記事には以下の記述もあります。

同窓会幹事代行サービスを手掛ける笑屋(東京・千代田、真田幸次代表取締役)によると、日本では現在、『同窓会の小規模化』が進行しているという。同社が20~50代の男女1107人を対象にしたアンケート調査によると、2010年の時点で既に89%の人が『50人以上の同窓会に参加した経験がない』と回答

笑屋」は「『同窓会の小規模化』が進行している」と分析しているだけです。これだと「全国の同窓会で中高年参加者が伸び悩む現象が起きている」かどうかの手掛かりにはなりません。さらに言えば「アンケート調査」は「同窓会の小規模化」の裏付けにもなっていません。「同窓会の大規模化」が起きていても調査結果と矛盾はないからです。

そもそも「調査」自体が9年前のものです。「既に89%の人が~」と書いていますが、その後にこの比率が高まったというデータは示していません。また、「中高年」に限った数字でもありません。「中高年」に関しては、記事の中で上記の話に続いて以下のように説明しています。

特に参加率が低いのが50代で、温泉旅行の予約サービスを運営するゆこゆこホールディングス(東京・中央、池照直樹社長)の調査によると、この世代の参加率は24.8%にとどまるという

記事を素直に読めば「50人以上の同窓会」への「50代」の「参加率は24.8%」と理解したくなります。しかし「20~50代」で「参加した経験」ありは11%しかいないので「24.8%」であれば「特に参加率が低い」とは言えません。

別々の調査を一体であるかのように紹介したため、こうした問題が生じたのでしょう。「ゆこゆこホールディングス」のデータは2016年の「シニアの同窓会に関する調査」から持ってきたと思われます。

この「調査」によると「この1年間の同窓会参加状況」は「50代24.8%、60代42.5%、70代以上62.2%と、高年齢者ほど参加している」ようです。

御誌の記事では調査時期が不明な上に「この1年間」だと示していません。「特に参加率が低いのが50代」と書くと、全世代の中で「50代」が特に低いと理解したくなりますが、この調査では「シニア」のみが対象です。様々な意味で、データの見せ方に問題があります。

なぜこうなったのかは想像できます。「中高年」に「同窓会行かない症候群」が広がっているとの仮説を立てて、それを裏付けるデータを探したのでしょう。しかし適当なデータは見つけられなかった。だから、いくつかのデータを強引に並べて、それらしく書いてしまった。そんなところではありませんか。気持ちは分かりますが、お薦めしません。

「きちんとした説得力のある記事を読者に届けたい」との気持ちを持っているならば、この手のごまかしからは距離を置くべきです。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。


【日経BP社の回答】

「日経ビジネス」をご愛読いただき、誠にありがとうございます。

先日いただいたお問い合わせに回答させていただきます。

①日本理化学工業編 住職の話の引用について

当事者に取材をする中で、「ダイレクトに読者にお伝えすべき内容である」と判断し、そのまま引用いたしました。しかしながら、「偏見に満ちた誤った考え方を無批判に紹介している」「『知的障害者』を支える施設の関係者に対して配慮に欠ける」と受け取ら
れた読者の方が現実にいる以上、引用方法や記事化までのプロセス、表現方法などにおいて一段の工夫の余地があった可能性は否めません。今後は、全ての読者の方の気持ちに配慮した記事を実現すべく研鑽して参ります。

②同窓会のデータについて

同窓会事情に詳しい関係者への取材で得られた材料に、関連データを合わせ、構成した記事でした。しかしながら①同様、「いくつかのデータを強引に並べて、それらしく書いた」と受け取られた読者の方がいる以上、データの選択や探し方、記事の構成方法に努力すべき余地があった可能性は否めません。ご指摘を真摯に受け止め、今後は、きちんとした説得力のある記事を読者に届けるべく、記事の作り方や取材方法をより工夫し、最大限の努力を図って参ります。

今後とも日経ビジネスをよろしくお願いいたします。

◇   ◇   ◇

※今回取り上げた記事

PART3~『感動チョーク工場』に学ぶ仕事の幸福感を増やす方法
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00037/

PROLOGUE~同窓会行かない症候群 原因は『昭和の働き方』の破綻
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00034/


※記事の評価はいずれもD(問題あり)。担当者らの評価は以下の通りとする(敬称略)。

北西厚一(暫定D→D)
佐伯真也(暫定D→D)
武田健太郎(Dを維持)
広田望(暫定D→D)
古川湧(暫定C→暫定D)

2019年2月20日水曜日

必須情報が抜けた日経「独決済ワイヤーカードに空売り規制」

20日の日本経済新聞朝刊国際1面に載った「独決済ワイヤーカードに空売り規制 会計不正疑惑で株価急落」という記事では、肝心の「空売り規制」の内容に触れていない。ニュース記事としては致命的な欠陥だ。
別府海浜砂湯(大分県別府市)
   ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

【ベルリン=石川潤、ロンドン=篠崎健太】欧州のフィンテックを代表する独決済サービス、ワイヤーカードの株価が急落し、ドイツ連邦金融監督庁が18日、空売り規制に踏み切った。2月に入ってから海外の投機筋を中心にワイヤーカードに対する売り持ち高が膨れあがり、金融市場全体を不安定にしかねない状態になっていたという。

ワイヤーカードはモバイル端末を通じたオンライン決済などのサービスを世界の3万超の企業に提供している。時価総額が一時は240億ユーロ(約3兆円)強まで膨らみ、独銀最大手のドイツ銀行を上回っていた。

そんなワイヤーカードの株価が下がり始めたのは、英紙フィナンシャル・タイムズ(FT)が1月、会計不正疑惑を報じたのがきっかけだ。記事は内部告発者がもたらした社内資料をもとに、偽造契約書で不正な取引が行われていた形跡があるなどと伝えた。

アジア太平洋地域の会計を統括するシンガポール法人の幹部が不正を主導したとされる。ワイヤーカード側は不正行為を強く否定している。

問題を複雑にしそうなのが、独南部ミュンヘンの検察当局が市場操作の可能性がないか、捜査を始めたことだ。検察当局によると「投資家の告発をもとに、FT記者の捜査手続きに入った」という。FTは「根拠がなく偽り」と反発している。


◎ブルームバーグと比べると…

ドイツ連邦金融監督庁が18日、空売り規制に踏み切った」とは書いているが、「規制」の中身は教えてくれない。関連情報をあれこれ書く前に、どこまで「空売り」を「規制」したのか説明すべきだ。

ブルームバーグの記事によると「ワイヤーカード株のネットショート・ポジション(売り持ち)の新規構築と既存の同ポジションの上積みは即時禁止となった。4月18日まで適用される」らしい。この情報は日経の記者も当然に知っているはずだ。なのに、なぜ抜いて記事を書いたのか。

独決済ワイヤーカードに空売り規制」という見出しの記事で「規制」の中身に触れないのは、普通の記者ならば強い抵抗があるはずだ。石川潤記者も篠崎健太記者も国際アジア部のデスクも、気にならなかったのか。

ついでに言うと「フィンテック」企業の「株価が急落」した程度で「金融市場全体を不安定にしかねない状態」になるのが、よく分からない。仮に「ワイヤーカード」が破綻すると金融システム不安が広がる可能性が高いのだとしたら、「空売り規制」で株価を下支えしてもあまり意味がなさそうに思える。

色々な意味で疑問ばかりが残る記事だった。


※今回取り上げた記事「独決済ワイヤーカードに空売り規制 会計不正疑惑で株価急落
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190220&ng=DGKKZO41458200Z10C19A2FF1000


※記事の評価はD(問題あり)。石川潤記者への評価はCからDへ引き下げる。篠崎健太記者への評価はDで確定とする。両記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

日銀担当 石川潤記者への信頼が揺らぐ日経「真相深層」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_29.html

肝心の情報がない日経 篠崎健太記者「仏メディア、3社関係改善を期待」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/3.html

2019年2月19日火曜日

「カラー取引」の説明不足に見える日経 藤田和明編集委員の限界

良いコラムを書くためには、批判精神に溢れていて「訴えたいこと」が明確でなければならない。さらには、自らの主張に説得力を持たせるための材料を集めて記事を組み立てる技術が要る。「その両方で日本経済新聞の藤田和明編集委員は厳しいのかな」と19日朝刊の記事を読んで感じた。
勘定場の坂(大分県杵築市)※写真と本文は無関係

記事中の「カラー取引」の説明にも問題ありと思えたので、日経には以下の内容で問い合わせを送っている。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 編集委員 藤田和明様

19日の朝刊投資情報面に載った「一目均衡~孫氏がかけた『保険』の意味」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下の説明です。

『市場に供給のあるプット(売る権利)をほぼ全数、半年かけて黙って静かに買い集めた』。2月6日、ソフトバンクグループ(SBG)の決算発表で孫正義会長兼社長は保有する米半導体大手、エヌビディア株の急落に備え、いかに『保険』をかけていたかを披露した。半年前といえば『エヌビディアの株価が絶好調のとき』になる。この手法は『カラー取引』と呼ばれる。金融派生商品を使い一定以上の値上がり益を放棄する分、値下がりしても損が膨らまない構えをつくりあげる。これが株評価損の穴を埋める役目を果たした

藤田様の説明だと「カラー取引」とは株価下落に備えた「プット(売る権利)」の買いになります。しかし、これでは「一定以上の値上がり益を放棄する」ことになりません。「エヌビディア株」が急騰した場合、「プット」を買うために支払ったプレミアム分は損失となりますが、「エヌビディア株」の「値上がり益」は株価が上がれば上がるほど膨らみます。

SBG」のケースでの「カラー取引」とは「プット(売る権利)」の買いとコールの売りの組み合わせではありませんか。そうであれば「一定以上の値上がり益を放棄する」と言えます。

ちなみに「孫正義会長兼社長」の決算説明会での発言は「市場に供給のあるプットをほぼ全数、半年かけて黙って静かに買い集めた」ではなく「市場に供給のあるコールとプットをほぼ全数、半年以上かけて黙って静かに買い集めた」とした方が正確です。「コールの売り」とは言っていませんが、「コールとプット」の両方が「カラー取引」に絡むことは「孫正義会長兼社長」も認識しているのでしょう。

カラー取引」に関する記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。控えめに言っても不正確だと思えます。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

せっかくの機会なので、他にも気になった点を記しておきます。まずは以下のくだりです。

アレン氏の取引は2000年だ。IT(情報技術)バブルがはじけ、マイクロソフトは株価急落に直面していた。大株主だったアレン氏は資産の目減りを防ぐのにカラー取引を使ったとされる。当時はマイクロソフトの経営から離れ、自身のファンドを設立。『結ばれた世界』を掲げてケーブルテレビなどの買収に傾注していた頃だ。かたや今の孫氏は人工知能(AI)が世界を変えるとして投資の軸足を移している。不思議なほどに相似形だ

本当に「不思議なほどに相似形」ですか。「孫氏」が「SBG」の「経営から離れ、自身のファンドを設立」しているのならば、まだ分かります。しかし「孫氏」は会長兼社長」という絶対的な権力者のままです。「ケーブルテレビなどの買収」と「人工知能(AI)」分野への投資もそれほど似ていません。両者を関連付けるために強引に「相似形」にしてしまったのではありませんか。

最後の段落にも注文を付けておきます。

投資家が保有株にかけた保険は、これ以上の株高は容易でないとのメッセージを含む。アレン氏の保険は結果的にITブームが終わるなかで使われバフェット氏の手堅さはその後、再評価された。孫氏の保険は成長株の天井を意識させ、割安株が優位になるサインとなるか。注目だ

残念なのが「成り行き注目」型の結論になっていることです。「孫氏がかけた『保険』の意味」と見出しでも打ち出しているのですから「孫氏の保険」が何の「サイン」なのか、藤田様なりの答えを出すべきです。「注目だ」で逃げられると、見出しに釣られて読んだ身としては騙された気になります。

さらに言えば「孫氏」が「保険」をかけ始めたのは半年以上も前の話です。「保険」が何らかの「サイン」になるとしても、時間が経ち過ぎている感は否めません。実際に「エヌビディア株」は「サイン」が出始めてから半年の間に「急落」しています。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社の一員として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「一目均衡~孫氏がかけた『保険』の意味
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190219&ng=DGKKZO41398950Y9A210C1DTA000


※記事の評価はD(問題あり)。藤田和明編集委員への評価はDで確定とする。藤田編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「FANG」は3社? 日経 藤田和明編集委員「一目均衡」の説明不足
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/fang.html

改善は見られるが…日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_2.html

「中国株は日本の01年」に無理がある日経 藤田和明編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/01.html