2019年2月12日火曜日

「快適性向上への努力」調査方法に難あり 東洋経済「最強の通勤電車」

週刊東洋経済2月16日号の特集「最強の通勤電車」の中に出てくる「通勤客1945人のアンケート回答 山手線と小田急線が高評価 ワーストは東急田園都市線」という記事はあまり意味がない。「通勤客1945人のアンケート回答」を基に「快適性向上に『努力している路線』」と「快適性向上に『努力が足りない路線』」を順位付けしているが、どちらも似たような結果だ。「そうなるだろうな」とは思う。
浜離宮恩賜庭園(東京都中央区)※写真と本文は無関係

まずは記事の全文を見てみよう。

【東洋経済の記事】

通勤電車の利用者は鉄道各社が都心エリアで進めるサービス改善策をどう受け止めているのか。1都6県在住の東洋経済メールマガジン会員を対象に、アンケートを実施した。快適性向上に「努力している路線」と「努力が足りない路線」など、日々の通勤電車利用者ならではの率直な声を集めた。調査は1月下旬に行い、1945人から回答を得た。

快適性向上に努力している路線として最も評価が高かったのは、JR山手線。理由のコメントで多かったのは、「車両が新しい」「ホームドアの設置を進めている」など。JR東日本は2017年から山手線への新型車両「E235系」導入を本格化。車内に多数配置した液晶ディスプレーも利用者に評判がいいようだ。

2位は小田急小田原線。「複々線化」の効果で遅延の解消や列車本数増による混雑緩和が図られたことが評価された。3位にランクインしたのは京王線。昨年2月にデビューした有料座席指定列車「京王ライナー」が好評だ。

上位路線の顔ぶれを見ると「新型車両」「ホームドアの設置」が高評価を得るキーワードになっている。

調査の選択肢には入れなかったが、「その他」路線の回答として相模鉄道が21票を獲得した。神奈川県の鉄道だが、東京都心につながる直通プロジェクトを進めており、それに先行する新型車両の導入が好感を持たれている。

一方「努力が足りない路線」の筆頭は東急田園都市線だ。「混雑が解消されない」「よく遅れる」といった負のイメージが強い。「宅地開発と輸送人員の限界がマッチしていない」との厳しい意見も複数あった。

2位のJR中央線快速は、「人身事故が多い割に、ホームドアなどの対策が進んでいない」ことが不満の主な原因。3位のJR京浜東北線に対しては、遅延の多さやホームドア設置の進捗状況に対する不満の声が多かった。

これまでは評判が芳しくなかったが、「汚名返上」の施策を講じたことで評価された路線も。東急田園都市線の新型車両「2020系」導入、JR総武線快速の「新小岩駅のホームドアの設置」は、快適性・安全性向上へ努力している証しとして挙げられた。

アンケートの回答からは、各路線の小さな努力に通勤客が気づいていることがうかがえた。今回評価が低かった路線も、細かなサービス向上を続けることで価値を高められるはずだ。


◎京成押上線がどちらも最下位…

調査対象となった「東京圏の主要32路線」のうち「努力している路線」でも「努力が足りない路線」でも、最下位は「京成押上線(押上-青砥)」だ。回答者の中でこの路線を利用している人が少ないから、こういう結果になったと推測できる。
九重"夢"大吊橋(大分県九重町)
    ※写真と本文は無関係です

このランキングを材料に「京成押上線(押上-青砥)」に関して「よく頑張っている」とか「もっと努力すべきだ」とか論じてもほとんど意味がない。

上位に関しても同様だ。「快適性向上に努力している路線として最も評価が高かったのは、JR山手線」だが、「JR山手線」は「努力が足りない路線」でも5位に入っている。

『努力が足りない路線』の筆頭は東急田園都市線」とも書いている。これも「努力している路線」でも5位だ。両方のランキングの差から路線別の「努力」を読み取る手もあるが、ちょっと苦しい。「好きな路線・嫌いな路線」といった調査ならば、今回のような調査方法で良かったかもしれない。しかし「快適性向上」に「努力している」かどうかを見るには向かない。

ついでに言うと、この「アンケート」で「中央線」「総武線」「常磐線」などを「快速」と「各駅停車」に分けているのも気になった。一緒にした方がいい。ちなみに、一緒にしていれば「努力が足りない路線」のトップは「中央線」の「177」で、「東急田園都市線」の「155」を大きく上回る。

「(努力が足りない路線で)2位のJR中央線快速は、『人身事故が多い割に、ホームドアなどの対策が進んでいない』ことが不満の主な原因」と筆者の橋村季真記者は書いている。これは「快速」だけの問題ではないだろう。


※今回取り上げた特集「最強の通勤電車
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/19932


※特集全体も当該記事も評価はD(問題あり)。橋村季真記者への評価も暫定でDとする。

2019年2月11日月曜日

東洋経済「最強の通勤電車」 なぜランキングは「東京圏」限定?

週刊東洋経済2月16日号の特集「最強の通勤電車」には問題を感じた。まず、なぜ「東京圏」限定でしか「『最強の通勤電車』総合ランキング」を出さないのか。「東京圏」の読者に向けて雑誌を作っているのならば分かる。しかし東洋経済は全国で販売しているはずだ。
特急 ゆふいんの森(大分県玖珠町)※写真と本文は無関係

ランキングの基になる「混雑率」などのデータは国土交通省のものだ。これを使う前提で考えても「大阪圏」「名古屋圏」を含めたランキングは出せるはずだ。まとめて順位を付けてもいいし、地域別でもいい。「東京圏」の「総合ランキング」しか出さずに「最強の通勤電車」を論じられても困る。

さらに言えば「総合ランキング」を算出する上で「混雑率改善度」はなくていい。「混雑率」だけで十分だ。「混雑率改善度」に関しては元々の「混雑率」が高い路線が有利になる。「最強の通勤電車」を選ぶのであれば必要のないデータだ。直近の実力を他の路線と比べれば済む。


※今回取り上げた特集「最強の通勤電車
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/19932

※特集全体の評価はD(問題あり)。

2019年2月10日日曜日

テーマの「痴漢 治療で撲滅できるか」を論じない安部敏樹リディラバ代表

週刊東洋経済2月16日号に載った「リディラバ 安部敏樹の『社会問題』入門 第3回 〈痴漢問題〉治療で撲滅できるか」という記事を見出しに釣られて読んだら騙された。3ページに及ぶこの記事では結局「治療で撲滅できるか」について何の答えも出していない。
大分県別府市 ※写真と本文は無関係です

治療」に言及した終盤を見ていこう。

【東洋経済の記事】

痴漢はスリルやリスクと隣り合わせだからこそゲーム性が高く、行為そのものに達成感を覚えていく。少しずつ手口が巧妙になり、逮捕される危険も回避できる。そうした実態は痴漢に「依存症」という側面があることを示している。

斉藤氏は「あらゆる依存症には、不安や苦痛といったストレスを一時的に和らげる効果があります。ほんの一時でも不安や苦痛から逃れようと、痴漢という行為に耽溺していくのです」とも話している。

斉藤氏は痴漢の治療プログラムを行っており、「受講者に『逮捕されなければずっと続けていましたか』と聞くと、ほぼ100%の確率で『はい』という返事が返ってきます。加害者に話を聞くと、逮捕されたときに『ホッとした』『捕まって安心した』と話します。自らの力で痴漢行為をやめられなくなっているんです」と話す。

痴漢が依存症という病気である以上、治療は欠かせない。痴漢をはじめとする性犯罪は高い再犯率が問題となっているように、痴漢と逮捕を繰り返す加害者は多い。しかし現状では、「逮捕されれば治療」という認識は広まっていない。新たな痴漢被害を生まないためには、逮捕から治療に結び付ける仕組みが求められている

「日本に痴漢が蔓延している」という事実は、多くの人が知るところだ。しかし、これまで痴漢は性犯罪の中でも、“軽犯罪”と認識され、深刻な社会問題として捉えられていなかったのではないだろうか。フランスで『Tchikan』を出版した佐々木くみ氏は、「痴漢被害に遭う日々に絶望し、何度も自殺を考えていた」と話す。

痴漢を減らすためのさらなる対策が必要とされている。


◎せめて「治療の効果」は論じないと…

記事のテーマは「〈痴漢問題〉治療で撲滅できるか」だ。できるかできないか明確な答えを出せとは言わない。ただ、この問題をしっかり論じるべきだ。その結果として「撲滅できるか」どうか全く分からないという結論になるのなら納得できる。

しかし、今回の記事では「治療で撲滅できるか」をまともに論じていない。「痴漢が依存症という病気である以上、治療は欠かせない」「逮捕から治療に結び付ける仕組みが求められている」などとは書いているが、「治療で撲滅できるか」に関しては手掛かりすらない。

逮捕から治療に結び付ける仕組みが求められている」と書いているので筆者の安部氏は「治療に効果あり」との立場なのだろう。ところが、どの程度の効果があるのかも教えてくれない。これでなぜ「〈痴漢問題〉治療で撲滅できるか」というテーマを掲げたのか。

ついでに言うと「痴漢が依存症という病気である以上、治療は欠かせない」と断定しているのも引っかかる。「痴漢に『依存症』という側面がある」かもしれないが、「痴漢に手を染める人=依存症」とは言い切れないはずだ。

痴漢で有罪判決を受けた人のうちどの程度が「依存症という病気」なのかが知りたい。その上で治療効果を見極めたい。「全員が依存症で治療によって100%治る」のならば、「痴漢と逮捕を繰り返す加害者」はゼロにできるだろう。仮に痴漢被害の99%が「痴漢と逮捕を繰り返す加害者」によるものならば、ほぼ「撲滅」と言える。

しかし「依存症」とは言えない人が多かったり、治療しても効果が上がらない人がかなりいたりする場合は「治療で撲滅」はできない。この辺りは「2000人以上の性犯罪加害者の臨床に携わった精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳氏」に質問してもいいはずだ。記事にはそうした形跡が見当たらない。

なのに安部氏は「逮捕から治療に結び付ける仕組みが求められている」と結論付けている。治療効果が小さい場合、「逮捕から治療に結び付ける仕組み」を作ってもあまり意味がない。「逮捕から治療に結び付ける仕組みが求められている」と訴えたいのならば、その主張に説得力を持たせるための材料をしっかりと読者に提供すべきだ。

今回の記事ではそれができていない。東洋経済編集部の担当者も責任を感じてほしい。


※今回取り上げた記事「リディラバ 安部敏樹の『社会問題』入門 第3回 〈痴漢問題〉治療で撲滅できるか
https://dcl.toyokeizai.net/ap/textView/init/toyo/2019021600/DCL0101000201902160020190216TKW038/20190216TKW038/backContentsTop


※記事の評価はD(問題あり)。安部敏樹リディラバ代表への評価も暫定でDとする。

2019年2月9日土曜日

「昔の株主は株主還元だけで満足」と日経ビジネスは言うが…

「何かそれらしく記事を締めたかったんで、適当なことを書いてしまいました」といったところか。日経ビジネス2月11日号に載った「時事深層 COMPANY~株主から物言い相次ぐ LIXIL、不可解人事の波紋」という記事は、最後の段落が引っかかった。
長崎鼻(大分県豊後高田市)※写真と本文は無関係

【日経ビジネスの記事】

折しも、日本でもガバナンスに対する投資家の関心はここ数年高まってきている。日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告を巡る問題を見るまでもなく、ガバナンスの機能不全が企業価値を毀損させる例が相次いでいるのだから当然のことだろう。

配当や自社株買いなど株主還元策を施していれば、株主は満足する。そんな時代はもはや終わりを迎えていることを企業経営者は肝に銘じる必要があるだろう。


◎「そんな時代」あった?

配当や自社株買いなど株主還元策を施していれば、株主は満足する」時代があっただろうか。「そんな時代はもはや終わりを迎えている」と「日経ビジネス編集部」は言うが「そんな時代」は元々なかったと思える。

例えば、「株を買った後もズルズルと値を下げて買値の半分を下回る状態が3年以上も続いている。でも無配にはなってないから満足」と考える株主が昔は当たり前にいたのか。今も昔もほとんどいないはずだ。

米ファンド、ソニーに事業分離提案 映画・音楽など、上場求める」という2013年5月15日付の日経の記事によると「米有力ヘッジファンドのサード・ポイントは14日、ソニーに映画や音楽などの事業を分離し、米国で上場するよう提案した」らしい。

サード・ポイントによると、同社は実質的にソニーの株式の約6%を保有するという」のだから、株主と考えてよいだろう。そしてソニーは13年の時点では無配になったこともない。つまり「配当や自社株買いなど株主還元策を施して」いたのに、「株主は満足」していなかったと判断できる。

となると、少なくとも13年時点で「そんな時代」は終わっていたはずだ。「そんな時代」とはいつの話なのか。なかったと考える方が自然ではないか。

ついでに言うと「日産自動車元会長のカルロス・ゴーン被告を巡る問題」を「ガバナンスの機能不全が企業価値を毀損させる例」と断定するのは早計だろう。不正があったのか、不正の存在を知りながら他の役員らがそれを黙認していたのかといった点について「日経ビジネス編集部」は確たる根拠を持っているのか。


※今回取り上げた記事「時事深層 COMPANY~株主から物言い相次ぐ LIXIL、不可解人事の波紋


※記事の評価はD(問題あり)。

2019年2月7日木曜日

「英国の地続き国境」問題 朝日と日経どっちが正しい?

アイルランド島にある英領北アイルランドとアイルランドの国境は、島国の英国にとって唯一の地続きの国境だ」という説明は正しいか。こんな問題があったら、どう答えるだろうか。自分ならば「誤り」を選ぶ。英領ジブラルタルがあるからだ。しかし、日本経済新聞の中島裕介記者は違う考えのようだ。中島記者だけではない。日経の多くの記事で似たような記述がある。
白池地獄(大分県別府市)※写真と本文は無関係です

一方、朝日新聞はジブラルタルを「スペインと地続き」の「英国の領土」とみているようだ。日経の説明で問題ないのか。それとも自分や朝日が正しいのか。以下の内容で日経に問い合わせを送っている。

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 中島裕介様 国際アジア部 担当デスク様

7日の朝刊総合1面に載った「真相深層~英国境問題、再燃の危機 EU離脱で開いたパンドラの箱」という記事についてお尋ねします。記事には「アイルランド島にある英領北アイルランドとアイルランドの国境は、島国の英国にとって唯一の地続きの国境だ」との記述があります。しかし英領ジブラルタルにも「地続きの国境」があります。

スペイン、英離脱協定案に不満」という2018年11月25日付の日経の記事では「スペインのサンチェス首相は23日、英国と欧州連合(EU)が大筋合意した離脱協定案について、隣接する英領ジブラルタルの扱いを理由に不満を示した」と報じています。この記事を信じれば、「英領ジブラルタル」は「スペイン」と「隣接」しています。地図で見る限り、川や湖が「スペイン」と「英領ジブラルタル」を隔てているとも思えません。

ちなみに「スペインと地続き、英国の領土って? EU離脱を考える」(2018年9月14日付)という朝日新聞の記事では「英国が欧州連合(EU)加盟国と地続きなのは、英領北アイルランドとここ(=ジブラルタル)だけである」と記しています。

真相深層」での「英領北アイルランドとアイルランドの国境は、島国の英国にとって唯一の地続きの国境だ」との説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

2018年11月15日付の「北アイルランド、陸続きの国境 関税同盟の扱い、火種に」という日経の記事でも「島国の英国にとって、アイルランドは唯一の地続きのEU加盟国」と書いており、御紙はこれまでも似たような説明を繰り返しています。朝日と日経、この件で正しい説明をしているのはどちらなのか。じっくり検討してください。

せっかくの機会なので、もう1つ記事の問題点を指摘しておきます。

70年代以降、アイルランド統一をめざすカトリック系とプロテスタント系が武力衝突を繰り返した」と中島様は説明しています。この書き方だと「カトリック系とプロテスタント系」の両方が「アイルランド統一をめざす」とも取れます。

また朝日を出して恐縮ですが、朝日は「北アイルランド紛争」に関して「英国に残った北アイルランドでは、英国からの分離とアイルランドへの併合を求める少数派のカトリック系住民と、英国の統治を望む多数派のプロテスタント系住民が対立した」と記しています。「真相深層」でも「アイルランド統一をめざすカトリック系と、英国統治を望むプロテスタント系が~」などと書いた方が良いでしょう。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※「真相深層~英国境問題、再燃の危機 EU離脱で開いたパンドラの箱
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190207&ng=DGKKZO40973060W9A200C1EA1000


※記事の評価はD(問題あり)。中島裕介記者への評価も暫定でDとする。

「オリオン買収」に関する日経ビジネス長江優子記者の誤解

日経ビジネス2月4日号の「時事深層 INDUSTRY~野村とカーライルがTOBで傘下に オリオン買収、アサヒは乗らず」という記事で、「オリオン買収」に絡めて「今回のTOBはファンドが日本の中小の経営に手を出す先駆けとみることもできる」と筆者の長江優子記者は結論付けている。しかし「先駆けとみること」はできない気がする。

鏡山(大分県玖珠町)※写真と本文は無関係
この件に関する問い合わせと回答は以下の通り。

【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 長江優子様

2月4日号の「時事深層 INDUSTRY~野村とカーライルがTOBで傘下に オリオン買収、アサヒは乗らず」という記事についてお尋ねします。記事では「国内ビール5位のオリオンビールが野村ホールディングスと米カーライル・グループに買収されることが決まった」ことを受けて「今回のTOBはファンドが日本の中小の経営に手を出す先駆けとみることもできる」と解説しています。

オリオンの2018年3月期の売上高は283億円」なので「中小」に分類するのは厳しい気もしますが、長江様の見解に従って「中小」だとしましょう。この場合「カーライル」自身が既に「日本の中小の経営」に手を出した実績があります。2003年のキトー買収です。03年3月期のキトーの売上高が200億円をやや超える程度なので、「オリオン」が「中小」ならばキトーも「中小」に入るはずです。03年の時点で「カーライル」自ら「日本の中小の経営」に手を出していたのに「今回のTOB」を「ファンドが日本の中小の経営に手を出す先駆けとみる」のは無理がありませんか。

他にも「ファンドが日本の中小の経営に手を出す」動きは珍しくありません。日本大百科全書(ニッポニカ)では「中小企業再生ファンド」に関して「2012年から2013年初頭にかけ、全国で中小企業再生ファンドの設立ラッシュとなり、新規ファンド額は2012年度だけで1000億円を超えている」と説明しています。

これらを考え合わせると「(オリオンに対する)今回のTOBはファンドが日本の中小の経営に手を出す先駆けとみることもできる」との説明は誤りではありませんか。

他にも疑問に感じた点を挙げておきます。

(1)「オリオンは経営の立て直しが必要」ですか?

オリオン」に関して「規模は小さいが、沖縄県内で高シェアを保つ。営業利益率は10.75%と高く、国内大手メーカーが買収してもよさそうだ」と長江様は説明しています。ここからは「経営面で大きな問題はない」と読み取れます。

しかし、その後に「アサヒの幹部は『オリオンは経営の立て直しが必要』と終始、距離を置いていた」と出てきます。こちらを信じれば、「オリオンは経営の立て直しが必要」な追い詰められた状況です。「営業利益率は10.75%」ならば安泰とは言いません。ただ、「立て直しが必要」なほど経営状況が悪いのならば、それが分かるような材料を読者に提示すべきでしょう。

(2)「協力」には出資が必須ですか?

記事には「2002年の提携以降、アサヒはオリオンに社員を出向させ、販売支援だけでなく製造開発で技術を供与。今回、アサヒが株式を持ち続けるのも『アサヒが抜けたらオリオンは商品を作れなくなる』(アサヒ幹部)からだという」との記述があります。ここには2つの疑問を感じます。

アサヒが抜けたらオリオンは商品を作れなくなる」から「アサヒが株式を持ち続ける」のだとしたら「アサヒには何のメリットもないのに、オリオンが商品を作り続けられるように株式保有を続ける」とも考えられます。上場企業として褒められたやり方ではありません。アサヒは本当に慈善事業のような感覚でオリオンの株式を保有しているのでしょうか。記事からはそう判断できますが、常識的にはあり得ない気がします。

さらに言えば「アサヒが抜けたらオリオンは商品を作れなくなる」としても「アサヒが株式を持ち続ける」必要はないはずです。「オリオンに社員を出向させ、販売支援だけでなく製造開発で技術を供与」するのに出資は必須ではありません。業務提携で十分です。

百歩譲って株式保有が欠かせないとしても、出資比率は10%でなくてもいいはずです。アサヒにとって必要のない株式保有ならば出資比率ははるべく低く抑えたいはずです。10%でないとダメな理由があるのでしょうか。あるならば記事中で説明が欲しいところです。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願いします。


【日経BP社の回答】

日経ビジネスをご愛読頂き、ありがとうございます。ご質問に回答させていただきます。

今回のスキームに参加している野村ホールディングスは、高齢化社会の進展を受け、事業承継に伴う悩みが増えているとみて、出資を通じたソリューションビジネスを提供する意向を示し、カーライルと手を組みました。このため、ファンドが中小の経営に関与するビジネスが今後本格化する先駆けという意味で記事化しましたが、初めてのことと受け止められ、誤解を生む余地があったかもしれません。真摯に受け止め、その他のご意見も含め、今後の記事の参考にさせて頂きたいと思います。

以上です。引き続き、日経ビジネスをご愛読頂きますよう、お願い申し上げます。

◇   ◇   ◇

回答の内容自体は苦しい。ただ、これでいいと思う。全体を通して、あまり深く考えずに記事を作った印象が強い。「それではダメだ」と長江記者が気付いてくれることを期待したい。


※今回取り上げた記事「時事深層 INDUSTRY~野村とカーライルがTOBで傘下に オリオン買収、アサヒは乗らず
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/00024/


※記事の評価はD(問題あり)。長江優子記者への評価はDで確定させる。長江記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「日本ワインも需要増に追いつかず」が怪しい日経ビジネス
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_26.html

2019年2月6日水曜日

「牛丼大手の収益明暗」に感じる日経 亀井亜莉紗記者の未熟さ

6日の日本経済新聞朝刊企業1面に載った「牛丼大手の収益明暗~ゼンショー、季節商品好評 吉野家、セルフ化で遅れ」という記事は、厳しく言えば「まともな説明」ができていない。記事の全文を見た上で具体的に指摘したい。
別府海浜砂湯(大分県別府市)
       ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

牛丼大手3社の収益の明暗が分かれている。「すき家」を展開するゼンショーホールディングスは5日、2018年4~12月期が営業増益になったと発表した。一方、松屋フーズホールディングスは同営業減益、吉野家ホールディングスの18年3~11月期営業損益は9年ぶりの赤字だった。人件費や原材料費が高騰する中、顧客満足度や値上げ力、業務の効率性という3要素を満たしているかどうかで収益力に差が付いた。

 ゼンショーHDの18年4~12月期の連結営業利益は、前年同期比7%増の146億円だった。

同社はすき家でほぼ毎月、「お好み牛玉丼」など季節限定の商品を投入する。値段は500円と定番の並盛り(350円)より4割以上高いが、目新しいメニューが好評で昨年8月以降は既存店客数が増え続けており、顧客満足度が高い。

一方、吉野家HDは季節商品の展開時期を見誤った。人気の大型メニューである「牛すき鍋膳」の投入が11月1日からと例年より遅くなった。

値上げの巧拙でも明暗が分かれた。松屋フーズとゼンショーHDの2社は18年4月までに定番メニューで値上げしており、今期の材料高や人件費の負担増を補っている。吉野家HDは、14年の値上げで客離れを招いた苦い経験から、足元のコスト高にもかかわらず価格改定を見送った。

業務の効率性でも差がある。松屋フーズはセルフサービス店を増やし、売上高に占める人件費の割合を引き下げた。ゼンショーHDは需要予測の精度を高めたことで食材ロスが減少している。吉野家HDはセルフ店への改装が20店程度にとどまり、現時点では業績への貢献は低いとみられる。

外食業界は消費者の節約志向にも左右されやすい。ゼンショーHD、松屋フーズも足元は好調でも事業環境が急変するリスクはつきまとう。高い顧客満足度に裏付けられた値上げ力や業務効率化に終わりはない。


◎松屋フーズは好調組?

牛丼大手3社の収益の明暗が分かれている」と冒頭で打ち出し、「ゼンショーホールディングスは5日、2018年4~12月期が営業増益になったと発表」「一方、松屋フーズホールディングスは同営業減益、吉野家ホールディングスの18年3~11月期営業損益は9年ぶりの赤字」と書いている。ならば「」が「ゼンショーHD」で、「」が「松屋フーズ」と「吉野家HD」のはずだ。しかし、この後の分析で筆者の亀井亜莉紗記者は「松屋フーズ」を「」に入れている。

値上げの巧拙でも明暗が分かれた。松屋フーズとゼンショーHDの2社は18年4月までに定番メニューで値上げしており、今期の材料高や人件費の負担増を補っている」との記述からは「松屋フーズ」がうまく「値上げ」をしてきたと読み取れる。「松屋フーズはセルフサービス店を増やし、売上高に占める人件費の割合を引き下げた」「松屋フーズも足元は好調」といった説明も、「松屋フーズ」が「」に入ると示している。

どうしても「松屋フーズ」を「」として描きたいのならば、営業利益を用いてはダメだ。仮に経常利益で「ゼンショーHD」と「松屋フーズ」が増益、「吉野家HD」が減益ならば、経常利益を前面に出せばいい。適当なものがない場合、「松屋フーズ」を「」に入れるのは諦めるべきだ。

ついでに言うと、外食や小売りの業績関連記事を書く時には、既存店売上高の増減率をなるべく入れた方がいい。店舗の競争力を示す重要な指標だからだ。今回の記事では「ゼンショーHD」に関して「昨年8月以降は既存店客数が増え続けており」とは書いているが、既存店売上高は全く出てこない。

牛丼大手3社の収益の明暗が分かれている」のであれば、既存店売上高の増減でどの程度「明暗が分かれている」のかは知りたくなる。

最後の段落の「外食業界は消費者の節約志向にも左右されやすい。ゼンショーHD、松屋フーズも足元は好調でも事業環境が急変するリスクはつきまとう。高い顧客満足度に裏付けられた値上げ力や業務効率化に終わりはない」という説明はなくてもいい。当たり前のことを書いているだけだ。ここを削って、より重要な情報を盛り込んでほしかった。

記事から判断すると、亀井記者は業績関連記事を書くための十分な実力をまだ身に付けていないのだろう。若手記者ならば仕方のない面もある。問題は担当デスクだ。今回の記事を読んで「まともな分析記事になってないな」と気付かなかったのならば、記者時代もきちんとした分析記事は書けていないと思える。


※今回取り上げた記事「牛丼大手の収益明暗~ゼンショー、季節商品好評 吉野家、セルフ化で遅れ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190206&ng=DGKKZO40943810V00C19A2TJ1000


※記事の評価はD(問題あり)。亀井亜莉紗記者への評価も暫定でDとする。