2016年8月7日日曜日

50代が「ゆでガエル世代」に見えない日経ビジネスの特集

日経ビジネス8月8・15日合併号の特集「どうした50代! 君たちは、ゆでガエルだ」は苦しい内容だった。このタイトルであれば「なるほど。50代は確かにゆでガエルだな」と思わせてほしい。しかし、この特集を最後まで読んでも「ゆでガエル」らしき事例さえ出てこない。特集では「命名」の理由を以下のように説明している。
熊本城(熊本市) ※写真と本文は無関係です

【日経ビジネスの記事】

ゆでガエル世代」--。

日経ビジネスは、今の50代をこう命名する。50代の読者にとっては、不愉快な話だろう。しかし、現状を冷静に分析すれば、そう指摘せざるを得ない。

カエルは熱湯に放り込むと驚いて飛び出すが、常温の水に入れ徐々に熱すると水温変化に気が付かず、ゆで上がって死んでしまう。この寓話はまさに、今の50代、とりわけ多くの男性の会社人生にそっくりだ。

彼らの会社人生はバブル経済到来とともに幕を開けた。数年後に30歳前後でバブルが崩壊。その後もITバブル崩壊やリーマンショックなど幾度となく危機が訪れた。ところが、「このまま安泰に会社員生活を終えられる」と、厳しい現実から目を背けてきた。そして50代になった今、過酷な現実を突きつけられ、ぼう然自失となっている。

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記事の分析が正しければ、今の50代は「水温変化に気が付かず、ゆで上がって死んでしまう(あるいは既に死んでいる)」はずだ。しかし、記事の説明とどうも合わない。

【日経ビジネスの記事】

「こんなはずじゃなかったのに」

今、多くの50代男性が、そんな思いにさいなまれている。原因の1つが、55歳前後の管理職から強制的にポストを剥奪する「役職定年制度」だ。バブル崩壊後の1990年代から大手企業の間で広がり始め、中央労働委員会が2009年に大企業218社を対象に調査したところ、約半数が既に役職定年制度を導入していたという。

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記事では何を以て「会社人生の死」としているのか不明なので、「出世競争からの脱落=会社人生の死」と仮定してみる。その場合、今の50代は「水温変化に気が付かず、ゆで上がって死んでしまう」人たちだろうか。

記事によると09年の段階で「(大企業の)約半数が既に役職定年制度を導入していた」らしい。だとしたら、よほどぼんやりしている人を除けば「水温変化」に気付いてしまう。そもそも、50代にもなれば出世競争で勝敗が明確になっているのは、就職した時点で分かるはずだ。役職定年制度があるのならば、いずれ役職を解かれて定年を迎えることも容易に予想できる。なのになぜ「水温変化に気が付かず、ゆで上がって死んでしまう」と表現したのか謎だ。

50代を「ゆでガエル世代」と名付けるならば、「自分の会社が10年前に役職定年制度を導入したのに気付かず働き続け、今年に入って制度適用の対象になって茫然とする50代男性」などの事例が欲しい。ただ、そうした事例はあっても特殊なので、それを50代全体に当てはめるのは無理があるが…。

こうした世代物の特集はどうしても無理のある内容になってしまう。理由は2つある。

まず、10年単位の世代ごとに明確な段差などない。今の49歳と50歳に大きな世代間格差があるならば、話は分かる。しかし、そうした例は極めてまれだ。ほぼないと言ってもいい。差と言う点では49歳と50歳よりも50歳と59歳の方が大きいだろう。しかし「50代は40代とは違う」と言い出すと、50歳は59歳と一緒にされて、49歳とは離されてしまう。

例えば80代と20代の比較ならばギャップは明確にあるだろう。だが、60代と50代を比べたり、50代と40代を比べると、差を明確にして論じるのは非常に難しくなる。

もう1つは個人差の問題だ。今回の特集で日経ビジネスは50代について「『このまま安泰に会社員生活を終えられる』と、厳しい現実から目を背けてきた」と言い切っている。しかし、現時点で既にリストラなどで職を失って困窮し、「安泰に会社員生活を終えられ」なかった人も多数いるだろう。会社員に見切りを付けて起業した人もいるはずだ。つまり個人差が非常に大きい。

なのに、こうした特集を組めば、一括りにして「今の50代はこうだ」と型にはめざるを得ない。「色々な人がいて一言では言えません」では話にならないからだ。だから、この手の特集を読んで「なるほど」と思えた試しがない。今回の特集もその例外ではなかった。


※特集の評価はD(問題あり)。担当者については、大竹剛記者、齊藤美保記者、小平和良記者への評価をDで据え置く。上木貴博記者と河野祥平記者は暫定でDとする。

2016年8月6日土曜日

素人レベルの知識で「原油市場」を語る日経 飛田雅則記者

6日の日本経済新聞朝刊マーケット総合2面に「ポジション~原油安 警戒感薄れる 注目指数『スキュー』で見通し 40~50ドルのレンジ相場に」という記事を書いた飛田雅則記者は市場関連の記事の書き手としては素人レベルのようだ。基本知識の欠如をうかがわせる記述があったので、まずはそこから見ていこう。
北原白秋生家(福岡県柳川市) ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

7月半ば以降、米国のガソリン在庫の増加がはっきりしてくると原油価格は下落。反対にスキューは上昇した。40ドル割れ目前に迫った7月下旬にはさらに上昇。原油安への警戒感は薄れ「市場は40ドル前後を下限とみている可能性がある」(ニッセイ基礎研究所の佐久間誠研究員)。「中国やインドの需要は強く、需給は均衡に向かっている」(丸紅の栃本恵一・石油貿易課長)との見方が根強いためだ。

米商品先物取引委員会(CFTC)によると7月26日時点で売り建玉(未決済残高)は約1割増えているが、「生産調整が進む中では売り建玉を長く維持しづらく買い戻しが入る」(マーケット・リスク・アドバイザリーの新村直弘代表)。

買い建玉は2月以降、50万枚台が続き変動は小さい。「買い建玉が崩れないことから、相場の持ち直しは早い」(エレメンツキャピタルの林田貴士社長)。中国や欧州で景気後退リスクが台頭し、市場心理が悪化しない限り、近く持ち直すとの見方が多い。原油オプション市場から40~50ドルのレンジ相場が読み取れそうだ。

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まず建玉に関する説明に問題がある。記事では注釈も付けずに「売り建玉(未決済残高)は約1割増え」「買い建玉は2月以降、50万枚台が続き変動は小さい」と書いている。普通に考えれば、NY原油全体の建玉について述べていると解釈したくなる。ただ、そうだとしたら売り建玉も買い建玉も同じ動向になるはずだ。NY原油先物全体では買い建玉と売り建玉は常に同数となるのだから。

しかし、記事によると「売り建玉は約1割増えて」いるのに「買い建玉は2月以降、50万枚台が続き変動は小さい」らしい。ここで言う建玉は「投機筋の建玉」ではないのか。その説明を省いているとすれば、市場関連記事の書き手としては未熟と言うほかない。

しかも、売り建玉の「1割増」はどの時点と比べているのか不明だ。飛田記者は「7月半ば」と比べているつもりかもしれないが…。

今回、飛田記者は「スキュー指数」を使って原油相場を論じている。これにも疑問がいくつも湧く。

【日経の記事】

米原油先物が値下がりし、今週3カ月ぶりに1バレル40ドルを割り込んだ。米国のガソリン消費の伸び悩みや、シェールオイルの復活も意識された。一度は収束したかにみえた大幅な価格下落が再びおこるのか。想定外の事態「ブラックスワン(黒い白鳥)」の発生を示唆するといわれる指数の動きから相場の見通しを探った

米国のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油先物は3日に一時、39.19ドルまで下落。その後やや持ち直し5日は41ドル前後で推移している。WTIは年初に30ドルを割り込んだ後、6月には50ドル前後まで上昇。再び崩れ始めた相場はどこまで行くのか。

シグナルの一つがスキュー(ゆがみ)指数だ。売買する権利をやりとりするオプション取引価格のボラティリティー(変動率)を使って算出する。原油安への警戒感が強ければ低下する産油国の過剰なシェア争いや投資マネーの急速な収縮など、原油市場の「ブラックスワン」の発生を織り込んで動くといわれる

6月に原油価格が上昇するとスキューは低下し始めた。投資家が高値警戒感を抱いたことを映した。「シェールオイルは損益分岐点の50ドル付近で生産が立ち上がる」(英調査会社ウッドマッケンジーのアンドリュー・ウッズ氏)との分析が背景にある。


◎疑問その1~「過剰なシェア争い」は「ブラックスワン」?

飛田記者は「産油国の過剰なシェア争いや投資マネーの急速な収縮」を「ブラックスワン」の例として挙げている。しかし、激しいシェア争いはよくあることだ。「投資マネーの急速な収縮」を伴う経済危機も過去に起きている。誰も起きるとは思っていなかったような出来事であれば「ブラックスワン」と呼ぶのも分かる。ただ、「過剰なシェア争い」程度の話ならば、驚きはゼロに近い。

◎疑問その2~原油の「スキュー指数」とは?

シカゴ・オプション取引所がS&P500を対象とするオプションの価格から算出している「スキュー指数」は「突発的に発生する大幅な下落リスクを示す指標」で「指数値100を平常状態とし、これを超えてくると、下落の場合のテール・リスクが通常以上に大きくなってきていることを意味する」(投資用語集)ようだ。

これなら分かるが、飛田記者が紹介している原油の「スキュー指数」は逆で「原油安への警戒感が強ければ低下する」。つまり指数の下落がテール・リスクの増大を示す。おかしいとは言わないが、分かりにくい指数だ。

しかも、グラフを見ると指数の単位は「」。「前年同月比」といった注記もないし、指数ならば単位は付かないのが普通だろう。さらに言うと、色々調べても原油の「スキュー指数」はどこが算出しているのか分からなかった(もちろん記事でも触れていない)。この指数はどこか怪しい。

◎疑問その3~「40~50ドルのレンジ相場」が読み取れる?

記事ではNY原油相場について「原油オプション市場から40~50ドルのレンジ相場が読み取れそうだ」と結論付けている。これには納得できなかった。「スキュー指数」が「突発的に発生する大幅な下落リスクを示す指標」であるならば、スキュー指数の動きからは「突発的でない緩慢な相場下落」のリスクは読み取れないはずだ。

例えば、40ドルだった原油相場が1カ月かけて30ドルまで下がるのであれば「突発的に発生する大幅な下落」とは言えないだろう。飛田記者はスキュー指数では読み取れないものまで読み取っているのではないか。


※記事の評価はD(問題あり)。飛田雅則記者の評価も暫定でDとする。

2016年8月4日木曜日

18年卒の就活は「長期化」? 日経「ビジネスTODAY」に疑問

4日の日本経済新聞 朝刊企業総合面に「ビジネスTODAY~大学3年生、就活はや号砲 『短期化』…実は長期戦に 夏のインターン4割増」という記事が出ている。記事では「2018年卒業予定の大学3年生」について「実質的な『就活』は長期化する」と書いているが、どうも怪しい。
三柱神社(福岡県柳川市) ※写真と本文は無関係です

記事の最初の部分を見ていこう。

【日経の記事】

2018年卒業予定の大学3年生の「就活」がはや始まっている。来年の就職活動に備え、業界研究や社会勉強のためインターンシップ(就業体験)に参加する学生を受け入れる企業は今夏、前年比で約4割増える。3日までに来春卒の大学生(大学院生含む)の約7割が内々定を取るなど売り手市場が続く中、企業が早めに動き出している。経団連の指針見直しで今年、就活期間は短縮されたが、実質的な「就活」は長期化する

主要な就職サイトに掲載された今夏実施のインターンは延べ8600社。文部科学省などはインターンを採用活動に結びつけないよう求めており、経団連も「採用につなげない」としている。ただ、現実は学生の資質を把握できるインターンを採用に生かす企業も増えている。

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上記のくだりの後は個別企業の取り組みなどが続く。記事を最後まで読んでも、18年春卒について就活の長期化を示すデータは見当たらない。強いて言えば見出しにもなっている「インターンシップ(就業体験)に参加する学生を受け入れる企業は今夏、前年比で約4割増える」という数字ぐらいだ。しかし、インターン実施企業の増加は就活の長期化を意味するわけではない。

記事には「売り手市場の中、企業は早めに動き出している」とのタイトルが付いた図がある。そこでは「2016年春卒」と「2017年春卒」の就活スケジュールを比べていて、17年春卒では大学3年の7月にインターンが始まっている。18年春卒のインターンが現時点で始まっていたとしても「企業が早めに動き出している」という話ではなさそうに見える。

この図には他にも気になる点がある。図を単純に信じると「16年春卒」ではインターンはなかったことになる。しかし、常識的にはあり得ない。

日経も2014年8月11日付で「インターン延々と  2016年卒 長い就活変わるはずが…」という記事を載せている。この記事ではインターンの時期について「8月が最多」と書いており、問題の図と矛盾する。

今回の記事を読む限りでは、17年春卒と18年春卒で就活に関して大きな変化は見当たらない。そこで記者らが強引に話を作ったのではないか。「これだ」と思える中身を見つけられなかったのならば、企画の段階で紙面化を断念すべきだ。


※記事の評価はD(問題あり)。流合研士郎記者と遠藤邦生記者への評価も暫定でDとする。

東洋経済を格下げ 経済メディア最上位は週刊エコノミスト

約半年ぶりに経済メディアの格付けを見直した。今回は週刊エコノミストをBBBからAに引き上げる一方、週刊東洋経済をAからBBB+に、日経ビジネスをBB+からBBに引き下げた。この結果、日本の経済メディアで最上位はエコノミストとなり、東洋経済は2位に転落した。
久留米百年公園(福岡県久留米市)の桜
               ※写真と本文は無関係です

東洋経済については高橋由里編集長も記事中のミスの握りつぶしに加担していることが確実となったため、メディアとしての評価も見直さざるを得ないと判断した。日経ビジネスも間違い指摘の無視が常態化しており、日経より高い格付けを付与する理由がなくなった。

エコノミストは読者からの問い合わせに誠実に対応している点が評価できるし、最近は特集の完成度の高さでも見るべきものがある。金山隆一編集長の手腕に今後も期待したい。

※上記の内容については「ミス黙殺に走った東洋経済の高橋由里編集長へ贈る言葉」「『逃げ切り』選んだ日経ビジネス 飯田展久編集長へ贈る言葉」「一読の価値あり 週刊エコノミスト『ヤバイ投信 保険 外債』」「英国EU離脱特集 経済4誌では週刊エコノミストに軍配」「最優秀書き手16年4~6月は週刊エコノミスト種市房子記者」などを参照してほしい。

◆経済メディア格付け(2016年8月4日時点)

週刊エコノミスト(A) ※従来はBBB
週刊東洋経済(BBB+) ※従来はA
週刊ダイヤモンド(BBB)
FACTA(BBB)
日経ビジネス(BB)※従来はBB+
日本経済新聞(BB)
日経ヴェリタス(BB)
日経MJ(BB-)
日経産業新聞(BB-)

※購読料を払うだけの価値があると思えるメディアをBBB以上に格付けしている。

2016年8月3日水曜日

「投信おまかせ革命」を煽る日経 田村正之編集委員の罪

心の底から落胆させてくれる記事が2日の日本経済新聞夕刊マーケット・投資2面に出ていた。 田村正之編集委員が書いた「マネー底流潮流~広がる『投信おまかせ革命』」 というコラムがそれだ。「ロボアドバイザー」の指示に従った投資の広がりを田村編集委員は「投資信託おまかせ革命」と呼び、歓迎すべき動きとして紹介している。何でもすぐに「革命」と呼びたがる田村編集委員ではあるが、こんなものが「革命」だと本気で思っているのだろうか。だとしたら、絶対に信用してはいけない書き手だ。
柳川の川下り(福岡県柳川市) ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

自分に向いた資産配分を低コストで構築できる「ロボアドバイザー」が、若い世代に広がり始めている。いわば「投資信託おまかせ革命」だ。

「予想を大きく上回る体験者数。しかも9割弱が20~40代」。ロボアドを使った資産運用サービス「THEO(テオ)」を提供するお金のデザイン(東京・港)の北沢直取締役はそう話す。

簡単な質問に答えるとその人に向いた資産配分がわかり、それに合わせて世界中の上場投信(ETF)の中から数十本を選んで買い付けてくれる。大きな価格変化があれば資産配分の再調整もする。数あるロボアドの中でも最も緻密な部類のサービスで、総コストは年1%強だ。

2月のサービス開始以来100日間で7万人以上が体験し、実際の申込者も5000人を超えた。「全体の9割弱がほぼ投資未経験者。若い世代に国際分散投資を促す狙い通りの展開」(北沢氏)と話す。体験者は現時点で10万人を突破している。

みずほ銀行のロボアド「スマートフォリオ」は去年10月のサービス開始。利用者のうち25~54歳の資産形成層が6割だ。「利用者のコストは信託報酬だけで、平均は年0.6%台」(みずほ銀行)

地方銀行に急速に広がりつつあるのが、三菱UFJ国際投信のロボアド「ポートスター」だ。個人のリスク許容度を無料で診断する。同社はポートスター稼働に合わせ、リスク水準が異なるバランス型投信5本で構成する「eMAXIS最適化バランス」シリーズを立ち上げている。


ポートスターでリスク許容度を診断すれば、5本の中から最適な1本が提示される。信託報酬(年0.5%)以外にコストはかからない。お金のデザインほどの緻密さは望まず、ざっくりとした診断で低コストで運用したい向きに適している。

「販売会社は現在13社と急速に広がり、中でも地銀が7社と多い。近く販社は20社になりそう」(代田秀雄取締役)。地銀は開拓が難しかった30~40代の資産形成層に食い込む武器になるとみているようだ。サービス開始後の体験者数は7万を超える。

最近、低コストの投信の品ぞろえが急速に進み、ネットを通じて興味を示してきたのが若い年齢層だ。しかしそれをどう組み合わせればいいのか自信がない人も多かった。ロボアドがその隙間を埋めつつあるのかもしれない。診断プロセスの開示など課題も残るが、若い世代の投資への入り口を広げつつあるのは間違いないようだ。

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読んでもらえれば分かるが、この記事はほぼ「広告」だ。「ロボアドバイザー」の問題点に触れているのは、わずかに「診断プロセスの開示など課題も残るが」という部分のみ。後は節操もなく「投信おまかせ革命」を煽っている。

百歩譲って「投信おまかせ革命」が起きているとしよう。それは歓迎すべき事態なのか。個人的には「危険すぎる革命が起きている」としか思えない。

「投信をどうやって選んだらよいのか分からない」と考えている若い世代が「そうか。投信おまかせ革命が起きてるんだから、ロボアドの指示に従って素直に投信を買えばいいんだ」と信じ込むのは好ましいだろうか。投信を売る側が歓迎するのは分かる。だが、投資する側は都合よく操られるだけだ。

身近にそういう人がいたら、こう助言するだろう。「業者が提供するロボアドに従ってよく分からないまま投信を買うなんて、まさにカモ。投信を選ぶ基準さえ持ち合わせていないのなら、投資なんか考えるな。預貯金か個人向け国債で十分。投信に手を出したいなら、まずは知識を持て」。

記事で紹介している「お金のデザイン」の「THEO(テオ)」に関してはコストが高すぎて話にならない。「総コストは年1%強」と田村編集委員は書いている。テオの手数料が1%で、ETFの信託報酬が上乗せされるようだ。だが、テオに年1%も払ったら、低コストのETFに投資するメリットが台無しだ。

手数料は1000万円の投資であれば年10万円にもなる。それだけの手数料を払っても利回りを上乗せしてくれるわけではない。むしろ悪化要因だ。例えば投資家を100人ずつに分けて、以下のような条件で10年間投資をするとしよう。どちらの利回りが高くなるか考えてほしい。

(1)テオに任せて運用する。もちろん年1%の手数料を払う。

(2)テオが運用対象としているETFの中から投資家本人の判断で適当にポートフォリオを組んでもらう。投資家はETFの売買手数料と信託報酬を負担する。

手数料を考慮しなければ、(1)も(2)も平均利回りに有意な差は出ないだろう。しかし手数料に差があるので、(2)の利回りが(1)を上回るはずだ。

「テオに従った方がきちんと分散投資ができる」との反論は出るかもしれない。しかし、投資対象はETFだ。どう選んでもかなりの分散はできている。「先進国株だけでなく新興国株も組み入れるべきだ」といったレベルの話ならば、それほど重要ではない。リバランスも同様だ。1%もの手数料を払ってまで対応すべき問題ではない。

「利回りが落ちてもいい。十分に分散してくれてリバランスもしてくれるのならば、1000万円の投資で年10万円の手数料は高くない」と考える投資家がいるかもしれない。しかし、わざわざ手数料を払って「平均的に利回りで負ける側」に加わりたい人はかなりの少数派だろう。

では、無料のロボアドならいいのか。これも自社の商品に誘い込むものならば論外だ。三菱UFJ国際投信のロボアド「ポートスター」について記事では「(同社の)バランス型投信5本で構成する『eMAXIS最適化バランス』シリーズ」の中から「最適な1本が提示される」と説明している。つまり自社の商品を買わせるためのツールだ。「三菱UFJ国際投信のバランス型投信以外は選択肢に入れたくない」と決めているならば話は別だが、幅広い選択肢の中から商品を選びたい投資家は近寄るべきではない。

使ってもいいロボアドがあるとすれば、中立的な助言に対して1回だけ料金を取り、ロボアドの提供者が商品の購入には関わらないものだろう。ポートフォリオを組んでしまえば、あとはリバランスをするだけなのに、毎年1%もの手数料を取るようなロボアドは無駄にリターンを低下させるだけだ。

ファイナンシャルプランナーの資格を持っているのが自慢の田村編集委員はそのぐらい百も承知のはずだ。では、なぜ金融業界に魂を売り渡すような記事を書いてしまったのか。

三菱UFJ国際投信の「ポートスター」を同社のホームページで見ると「あなたに合わせた資産配分は、グローバル視点で豊富な実績を有する『イボットソン・アソシエイツ・ジャパン』が提示」と出ていた。イボットソンと言えば、田村編集委員の記事に頻繁に登場する会社だ。今回の記事がイボットソンなど日ごろお世話になっている金融業界の方々へのお礼や配慮でなければよいのだが…。


※記事の評価はD(問題あり)。田村正之編集委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。田村編集委員については「ミスへの対応で問われる日経 田村正之編集委員の真価」「日経 田村正之編集委員が勧める『積み立て投資』に異議」「投資初心者にも薦められる日経 田村正之編集委員の記事」「なぜETFは無視? 日経 田村正之編集委員の『真相深層』」「功罪相半ば 日経 田村正之編集委員『投信のコスト革命』」「無意味な結論 日経 田村正之編集委員『マネー底流潮流』」「リバランスは年1回? 日経 田村正之編集委員に問う」も参照してほしい。

2016年8月2日火曜日

週刊ダイヤモンド「LCC乱気流」で須賀彩子記者に誤り?

週刊ダイヤモンドの須賀彩子記者が8月6日号で特集2「愛憎渦巻く人間模様 LCC乱気流」を担当していた。須賀記者に関しては素人臭さが目立つとこれまで指摘してきたが、今回の特集にはその匂いが感じられなかった。ただ、記事には誤りと思える記述があった。ダイヤモンドへ問い合わせた内容は以下の通り。
成田空港(千葉県成田市)のジェットスター機

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

8月6日号の特集2「愛憎渦巻く人間模様 LCC乱気流」についてお尋ねします。問題となるのは99ページの「スカイマークは日本航空(JAL)陣営にもANA陣営にも属さない唯一の新興航空会社だったが、15年1月の経営破綻に伴いスカイマークの抵抗もむなしく、ANAの資本が入った」との記述です。当時、国内ではフジドリームエアラインズという鈴与100%出資の新興航空会社がありました。2014年に日本での運航を始めた春秋航空日本は中国の春秋航空股分有限公司のグループ会社であり、JALやANAの陣営に属してはいません。2015年当時、スカイマーク以外にも「JAL陣営にもANA陣営にも属さない新興航空会社」があったのではありませんか。

記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。正しいとすればその根拠も併せて教えてください。

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上記の部分を除けば大きな問題はないが、ジェットスターとピーチが明暗を分けた理由については分析が甘いと思えた。そのくだりも見てみよう。

【ダイヤモンドの記事】

しかしJALは、カネは出しても経営への関与には距離を置き続けた。「世界的に大手航空会社がLCCを手掛けて成功した例は少ない」というのがその理由。唯一、カンタスがジェットスターを成功させているとして、経営はカンタスに委ねたのだ

人材面でも、ANAが、社長をはじめ経営企画などピーチの主要部門にエース級人材を“片道切符”で転籍させたのに対して、JALはジェットスター・ジャパンに、整備などの現場を除いた経営の中枢部には、「出向」のかたちで取締役1人を送り込んだにすぎなかった。

こうしたJALの腰の引けた姿勢により、拡大路線をひた走るカンタスの暴走を止めることができず、業績不振に陥ったのだった。

それでも、16年6月期にはどうにか黒字化できるもよう。関空の拠点化や、国際線への進出で1日の機材稼働時間は9時間を超え、路線見直しなどによって平均搭乗率も1年で9ポイントも改善。資金繰りも落ち着き、15年8月を最後にニューマネーも要していない。

ただ、ここにきてピーチは、「20年のオリンピックまでに30機体制にしたい」(井上社長)と拡大戦略を描くのに対し、ジェットスター・ジャパンは、「17年中にあと1機増やして21機体制にする。その先は未定」(片岡優会長)と保守的になってきた。このままでは、こだわってきた規模でもピーチに追い抜かれてしまう。

LCCビジネスに真正面から本気で取り組んでいったANAに対し、及び腰だったJAL。この両社の姿勢の違いが、LCCビジネスの明暗を分けたといえそうだ。

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カネは出しても経営への関与には距離を置き続けた」JALを須賀記者は「及び腰」と評している。そうだろうか。例えば買収した企業の経営者に対し「必要ならばカネはたっぷり出す。経営は引き続き任せるから自由にやってみなさい」というオーナーがいたら「この人は及び腰だなぁ」とは思わないだろう。「太っ腹」と評する方がしっくり来る。

経営は自ら関与する方がうまくいくとは限らない。「世界的に大手航空会社がLCCを手掛けて成功した例は少ない」「唯一、カンタスがジェットスターを成功させている」という状況であれば、カンタスに任せるのは合理的だ。JALがやれば成功する確率はもっと高かったとは言い切れない「(日本以外で)ジェットスターを成功させている」カンタスが日本ではなぜ躓いたのかを須賀記者には解説してほしかった。


※特集全体の評価はC(平均的)。記事中の「スカイマークは日本航空(JAL)陣営にもANA陣営にも属さない唯一の新興航空会社だった」という説明はおそらく誤りだが、ダイヤモンドの体質を考えると、回答が届く可能性はゼロに近い。間違い指摘を無視するならば、E(大いに問題あり)としている須賀彩子記者への評価はF(根本的な欠陥あり)に引き下げるしかない。

※須賀記者に関しては「素人くささ漂う ダイヤモンド『回転寿司 止まらぬ進化』」「週刊ダイヤモンド 素人くささ漂う須賀彩子記者への助言」「ロイヤル社長を愚か者に見せる週刊ダイヤモンド須賀彩子記者」「週刊ダイヤモンド須賀彩子記者の『解決できない構造問題』」も参照してほしい。

追記)結局、回答はなかった。

2016年8月1日月曜日

もはや記事型広告 日経「低リスク型の投信 あおぞら投信」

1日の日本経済新聞 朝刊金融面に「低リスク型の投信 あおぞら投信、為替ヘッジ活用」という広告と見紛う記事が出ている。 こうした記事を載せないと紙面が埋まらないのならば、金融面をニュース記事で構成するのは諦めた方がいい。
三柱神社(福岡県柳川市) ※写真と本文は無関係です

問題の記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

あおぞら投信は低リスクを売り物にした投資信託商品を販売する。為替リスクを避けるヘッジ手法を活用し、資産価値の目減りリスクを抑える。預金金利が低下するなかで、新たな資産運用手段として売り込む。

新たに販売するのは期待利回り年3%の「森のしずく」と年1%の「海のしずく」の2つのファンド。為替ヘッジの活用で想定リスクを抑える。高い利回りを求める投資家に年5%の「星のしずく」も販売する。

あおぞら投信は業務を始めた2014年からの2年間で運用資産残高が1千億円を超えた。柳谷俊郎社長は「今後も顧客が安心して利用できる独自商品を提供していきたい」と話す。

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ニュース記事を書くときは「どこにニュース性があるのか」を考えるべきだ。この記事には、そのニュース性が見当たらない。強いて挙げれば「低リスクを売り物にした投資信託商品を販売する」ことだろう。あるいは「為替リスクを避けるヘッジ手法を活用」する点か。

「低リスク投信の販売は日本初」「投資信託では初めて為替ヘッジを採用した」というのであれば、記事にするのは分かる。現実には低リスクの投信は山のようにあるし、為替ヘッジも珍しくない。なのに、なぜわざわざ記事にするのか。

しかも「どの程度の低リスクなのか」には言及していない。「低リスク型の投信」という見出しを付けているのだから、必須な情報だ。「柳谷俊郎社長は『今後も顧客が安心して利用できる独自商品を提供していきたい』と話す」という読者にとっては無駄とも言える情報を載せる余裕があるのならば、低リスクの度合いに触れるべきだ。この記事を「記事型広告」と見なせば、宣伝臭い社長コメントを入れているのも頷けるが…。

ちなみに、あおぞら投信のサイトを見ると、期待利回り年1%の「海のしずく」は購入手数料が1.08%、信託報酬の実質的な負担が年0.925%となっていた。保有期間を仮に10年とすると、手数料負担を差し引いた期待利回りはほぼゼロだ。低リスクとは言え、わざわざリスクを取って購入するような商品ではない。

ニュース性もないし、金融商品として魅力的なわけでもない。なのに記事で紹介して「今後も顧客が安心して利用できる独自商品を提供していきたい」という社長コメントまで載せてあげる。この救いようのなさは、ある意味で凄い。

しかも「低リスクを売り物にした投資信託商品を販売する」と書いているのに、いつから販売するのか不明だ。調べてみると、7月に販売が始まっているようだ。だったら「販売を始めた」と書くべきだ。この辺りにも記者の節操のなさが出ているのだろう。

※記事の評価はE(大いに問題あり)。