2015年7月4日土曜日

日経「真相深層~緩和マネーが経験則覆す」への疑問(1)

4日の日経朝刊総合1面に載っていた「真相深層~緩和マネーが経験則覆す 食品・銀行株…新たな連動」という記事は問題が多い。 まずは最も気になる部分を見てみよう。

◎7割が市場平均を下回るのは「異常事態」?
オランダのスヘフェニンヘン(北海のビーチリゾート)
                  ※写真と本文は無関係です 

【日経の記事】

市場の「常識」が崩れつつある。日経平均株価は2万円台に駆け上がったのに、投資のプロであるファンドマネジャーは運用成績を伸ばせていない。7割の投資信託で運用成績が市場平均を下回るという異常事態だ。

上記の記述に関して、日経に以下の問い合わせをした。日経は読者の問い合わせにきちんと対応しない方針を貫いているので、まともな回答が届くことはないだろう。


【日経への問い合わせ】

記事で「7割の投資信託で運用成績が市場平均を下回るという異常事態」と書かれています。「投資信託」はアクティブファンドを指すのでしょう。5年で見ればアクティブファンドの7割程度が市場平均を下回るのは「常識」です。期間半年とは言え、今年に入って7割が市場平均を下回るのは「十分あり得ること」ではありませんか。記事の説明は不適切と考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断ならば、その理由を教えてください。


記事には「昨年末までに設定された日本株を投資対象とする公募投信580本(指数連動型除く)のうち、今年の運用成績が東証株価指数(TOPIX)の値動きを上回るのは170本強にすぎない」とも書いてあるので、「7割の投資信託」がアクティブファンドなのは間違いない。アクティブファンドは手数料が高めなので、その影響で市場平均を上回るのが難しい。運用期間が長くなるほど、市場平均に勝てない傾向が強まる。

記事で言っているのは「今年の運用成績」なので、7割は比率として通常より高いのかもしれないが「異常事態」と言えるほどなのか。アクティブファンドの過半が市場平均に勝てないのは資産運用の常識なのだから、「異常事態」と称するならば、通常はどうなのか、なぜ異常と言えるのかに言及すべきだ。

「日経平均株価は2万円台に駆け上がったのに、投資のプロであるファンドマネジャーは運用成績を伸ばせていない。7割の投資信託で運用成績が市場平均を下回る」と書いているのも気になった。市場平均を上回る難しさは原理的には上げ局面でも下げ局面でも変わらない。「日経平均は上がっているのに、7割の投信が市場平均を下回っているのは異常」と解釈できる書き方は感心しない。アクティブファンドは上げ局面の方が市場平均を上回りやすいという傾向があるのならば、その点を記事中で明示する必要がある。

※(2)へ続く。

日経 「人口病に克つ ~少子化にあらがう」への注文(2)

3日の日経朝刊1面に出ていた「人口減に克つ」について引き続き見ていく。ここでは5面(経済面)の関連記事「予算、高齢者に偏重」の気になる点を挙げていこう。


◎「支援が手厚いほど出生率も高まる」?
スヘルデ川西側のアントワープ(ベルギー) ※写真と本文は無関係

【日経の記事】

子育て支援が手厚い国ほど、出生率も高まる傾向がみられる――。経済協力開発機構(OECD)が子育て支援を中心にした家庭向けの政府支出(2009年時点)を比べたところ、日本は国内総生産(GDP)比で1.0%にとどまり、OECD平均の2.3%を下回った。(1面参照)

出生率が2を回復したフランスは3.2%。その他の欧州諸国も英国が3.8%、スウェーデンが3.7%、ドイツが2.1%と、日本を軒並み上回った。子ども手当や育児休業手当などのほか、託児所など保育施設の充実に多くの予算を投じているためだ。


記事中のグラフを見ても「子育て支援が手厚い国ほど、出生率も高まる傾向がみられる」とは感じなかった。5カ国中、最も出生率の高いフランスは家庭向け政府支出比率で3位。ドイツは日本の2倍以上の政府支出比率なのに、出生率は日本と変わらないか、若干下回っている。

そもそも、この5カ国で比べて「子育て支援が手厚い国ほど、出生率も高まる」などと論じても意味がない。まずサンプル数が少なすぎる。出生率と子育て支援の関係を見るならば、個人的には世界全体を対象にしてほしい。高い出生率を実現しているのは基本的に途上国だから、そこを除外するのは問題だ。先進国の中で高い低いと言っても、どんぐりの背比べに過ぎない。

百歩譲ってOECD加盟国に絞って比べるとしても、ご都合主義的に国を選ぶのは避けてほしい。OECD加盟国で出生率が高いのはイスラエル、メキシコ、トルコなどだが、記事では比較対象になっていない。子育て支援が手厚い国ほど出生率も高まる傾向が本当にあるのならば、これら3カ国の支援は手厚いはずだ。なのに、取材班は比較対象からなぜ除いたのだろう。


◎「高齢者向け支出との調整が欠かせない」?

【日経の記事】

一方、年金と介護に投じる高齢者向けの支出は日本が10.4%と、OECD平均の7.3%を大きく上回る。高齢化率など人口構成の違いはあるが、若者よりも高齢者に比重を置いていることが分かる。

日本の財政状況は非常に厳しい。子育て支援を手厚くするには高齢者向け支出との調整が欠かせない。少子高齢化の進展に合わせ、世代間の公平化の観点から年金の支給額を毎年抑える仕組みなど痛みを伴う改革の議論も必要になる。


記事中で「子育て支援を手厚くするには高齢者向け支出との調整が欠かせない」と断定しているのが引っかかる。「子育て支援を手厚くする」と「高齢者向け支出を削る」がなぜ裏表の関係ないのか。防衛費や公共事業費を削るのではダメなのか。増税という手もあるはずだ。

本気で出生率を引き上げたいのならば、年金支給額の引き下げは得策とは言えない。仮に年金給付額を現状の半分にして、その分を子育て支援に回すとしよう。莫大な財源は確保できるだろうが、「これで安心して子供を作れる」と現役世代は考えるだろうか。

自分が20代の若者ならば「ここまで年金が減らされたら、老後に年金だけで暮らすのは無理。若いうちに老後の資金を多めに用意しなきゃ」と思ってしまう。そうなると子育て支援を厚くする効果はかなり相殺される。公的年金の水準は今でもそれほど高くないので、大幅な年金減額となれば、引退した親を経済的に支援しなければならない人も続出するだろう。

どうしても出生率を上げたいのならば、子供を作らない人の税負担を重くするのが合理的だ。例えば、子供のいない30歳以上の人の所得税率を子供がいる人に比べてかなり高くするといった方法が考えられる。これなら財源が捻出できる上に、負担を強いられる側の人にも子供を持とうというインセンティブを与えられて一石二鳥だ。

記事で言うような「年金の支給額を毎年抑える」といった方策よりずっと効果があるだろう。個人的には、少子化は放置でいいと思うが…。

※記事の評価はC(平均的)。

2015年7月3日金曜日

日経 「人口病に克つ ~少子化にあらがう」への注文(1)

日経の朝刊1面で「人口病に克つ~少子化にあらがう」という連載が始まった。3日付の第1回「14年の出生率、1.42に低下~社会で育む認識共有を」は気になる部分が多かった。いくつか注文を付けてみたい。

◎具体例は具体的に

【日経の記事】

ブリュッセルの聖ミッシェル大聖堂 ※写真と本文は無関係です

フランス西部のナント市。シングルマザーのカトリーヌ・プリウ(31)の朝は娘のリア(7)を小学校、息子のアイデン(2)を託児所に送ることから始まる。人材派遣会社の職を失い、新しい仕事を探す毎日だが、悲愴(ひそう)感はない。
フランスでは託児所や低所得者住宅が整い、潤沢な子ども手当などで生計が成り立つ。金銭面だけでなく、女性が出産後も働くことへの理解が進む。2歳以下の子どもを持つ女性の約半数がフルタイムで働くが、平均労働時間はフルタイムでも1日8時間未満と残業が少ない。社内託児所を設置し、子どもとマイカー通勤ができるように駐車場に専用スペースを設ける企業もある。求職中でも託児所を使えるなど保育体制が充実し、社会全体で仕事と育児の両立を支える仕組みが整う。


せっかく「カトリーヌ・プリウさん」を登場させているのに、具体例として機能していない。彼女がどれぐらいの手当てをもらっていて、家賃などの生活費はどの程度なのかといった情報はなし。彼女のコメントも出てこない。これならば、わざわざ登場させる必要はない。

フランスの子育て支援策も具体的な情報はほとんどない。「託児所や低所得者住宅」は整っていて、「子ども手当」は潤沢らしいが、具体的にどう整っていて、どの程度の潤沢なのかは不明。日本との比較もない。「社内託児所」は日本でも珍しくないし、地方では子供とマイカー通勤ができるのも普通だ。しかも、記事に出てくるフランスの「専用駐車場」にどんなメリットがあるのかも謎だ。「休職中でも使える託児所」は日本にもあるだろう。フランスは「休職中でも無料で使える託児所」なのかもしれないが、記事中に説明がないので何とも言えない。

カトリーヌ・プリウさんが子ども手当てなどでいくらぐらい得ているのかを入れるだけでも、話に具体性が出て日本との比較を実感しやすいのだが…。

◎晩産化と関係ある? 

【日経の記事】
翻って日本。仕事と育児の両立は厳しく、晩婚化・晩産化の動きが止まらない。14年の出生率は1.42に低下した。


「日本では仕事と育児の両立は厳しい」という見解を受け入れるとしても、晩婚化とどう関係するのか理解できない。両立が難しいならば、結婚しても子供を作らなければ済む。

晩産化との関係も微妙だ。仕事と育児の両立がどんどん難しくなっているから、出産年齢が年々高まっているのであれば、「仕事と育児の両立が難しいから晩産化が進む」と言われても納得できる。しかし、むしろ逆ではないのか。「昔に比べれば両立が容易になっているのに、出産年齢の上昇が止まらない」というのが実態だろう。それとも、20年前や30年前の方が簡単に両立できたのだろうか。

「両立が難しいから14年の出生率が低下した」と取れる書き方も気になる。取材班でも当然分かっているはずだが、14年の出生率低下は9年ぶりだ。つまり、それまでは低下に歯止めがかかっていた。14年の低下を「両立が難しいからだ」と分析するならば、その前までの動向を基に「両立が難しくても出生率は引き上げられる」とも言えるだろう。


※(2)へ続く。

単なる無知? 日経「穀物、国際価格が大幅高」

下手なのか、それとも単なる無知なのか。両方だとは思うが、2日の日経朝刊マーケット総合2面に出ていた「穀物、国際価格が大幅高 ~トウモロコシなど 投機筋の資金流入」という記事はダメさが目立った。日経には以下の内容で問い合わせを送った。


【日経への問い合わせ】
ベルギーのアントワープ  ※写真と本文は無関係です

「建玉明細によると6月23日時点で大豆は買い越しに転じた」と書かれていますが、「大豆では投機筋が買い越しに転じた」の間違いではないでしょうか。大豆が全体として買い越しになることはありません。

また「天候悪化や在庫水準が市場予想を下回ったことを背景に」と書くと「天候悪化が市場予想ほどではなかった」と解釈できますが、それでは辻褄が合いません。「天候悪化や、在庫水準が~」などと表記すべきではありませんか。商品部の担当記者・デスクにお伝えください。


記事に「穀物は天候不順を理由に値上がりを期待しやすく、買いに動きやすい。米商品先物取引委員会(CFTC)の建玉明細によると6月23日時点で大豆は買い越しに転じた」と書いてあれば、「大豆市場は全体として買い越し」と理解するのが当然だろう。しかし、全体を均せば買い建玉と売り建玉は常に同数だ。この問題は日経に繰り返し指摘しているが、改善の兆しは見えない。この件での問い合わせに回答が届いたこともない。今回も無視して終わりだろう。最強のコンテンツ企業集団を目指す日経としては、これで自分たちの紙面や読者対応に自信が持てるのだろうか。

並立助詞の「や」の使い方が下手なのも日経の特徴で、この記事もその例に漏れない。記事では以下のように書いている。


【日経の記事】

投機筋は世界の穀物在庫の水準が高いことを理由に値下がりを見込んで売り持ち高を増やしていた。天候悪化や在庫水準が市場予想を下回ったことを背景に、売り持ち高を整理するなど「買い戻しを急いだとみられる」(コンチネンタルライスの茅野信行代表)。


普通に読むと、「天候悪化」や「在庫水準」が市場予想を下回った--と解釈したくなる。しかし、天候悪化が予想したほどではなかったのならば、買い戻しを急ぐのは不自然だ。筆者としては「『天候悪化』や『在庫水準が市場予想を下回ったこと』を理由に~」と言いたいのだろう。しかし、文章を書く上での基本的な技術が身に付いていないので、出来の悪い書き方になっている。

並立助詞については、日経の記者・デスクできちんと使える割合は10%未満だと断言できる。下手をすると1%に満たないだろう。使い方を覚えないまま記者時代を過ごすので、デスクになっても当然、記者を指導できない。そうなると、記者は指導されないまま経験を重ねて、やがてデスクになる--という悪い流れになっている。上記のくだりに関しても、記者や担当デスクは「この書き方では誤解を与えてしまうかも」とは露ほども思っていないはずだ。

※他にも問題点はあるが、この辺りでやめておく。記事の評価はE(大いに問題あり)とする。

2015年7月2日木曜日

最優秀記事は「住友不動産“非常識経営”の功罪」 4~6月

経済メディアの記事について、2015年4~6月期の「最優秀」と「最悪」を決めたい。あくまで「自分が読んだ記事の中では」という条件付きだ。読んでいない記事の方が圧倒的に多いのは言うまでもない。


◇最優秀記事

「特集2 住友不動産“非常識経営”の功罪」(ダイヤモンド4月11日号)  筆者=松本裕樹記者

4~6月に読んだ記事の中では断トツの出来だと思える。10ページの長い特集で、ツッコミどころもほぼなかった。批判精神をしっかり持って住友不動産の経営の問題点を洗い出し、その上で同社の強みも冷静に分析できていた。「こういう記事を書け」と若手記者に手本として読ませたくなるような記事だった。
ヴェンツェルの環状城壁(ルクセンブルク) ※写真と本文は無関係です


◇最優秀執筆者

松本裕樹記者(週刊ダイヤモンド)

上記の住友不動産の記事を書いた松本記者を最優秀執筆者に選んだ。これに関しては、ダイヤモンドでコラム「金融市場 異論百出」を連載している加藤出氏(東短リサーチ社長)とどちらにするか迷った。

加藤氏は週刊エコノミスト7月7日号でも「金利・債券 金融規制で流動性低下 高まる金利急騰のリスク」という記事を2ページにわたって書いていた。ライターが本業ではないのに、執筆量の多さに驚かされる。しかも質は高いし、内容のダブり感もない。加藤氏に関しては、書き手としてA(非常に優れている)と評価するしかない。



◆最悪記事


「オピニオン縦横無尽~憲法九条の下で無力な国にとどめたい理屈抜きの反日論説に惑わされるな」(週刊ダイヤモンド5月30日号)  筆者=櫻井よしこ氏

6月13日号に載った訂正記事も含めて、上記記事を4~6月の最悪記事に認定する。記事では「スイスは男女を問わず、国民は徴兵の義務を負う。60歳を超えると、毎年、年代層に応じて数日間の軍事訓練を受ける義務も負う」と書いたが、「男女を問わず」も「60歳を超えると」も誤りだった。

この2点を訂正したのはいいが、誤って「60歳を超えると」を「60歳になるまでは」に訂正してしまった。そして再訂正には応じず、ダイヤモンド編集部も櫻井よしこ氏も訂正記事への間違い指摘については黙殺を決め込んでしまった。この件に関しては「ダイヤモンド編集長へ贈る言葉」「櫻井よしこ氏へ 訂正の訂正から逃げないで」などを参照してほしい。


◆最悪執筆者

櫻井よしこ氏

理由は説明するまでもないだろう。櫻井氏が書き手としての基礎的資質を欠くのは間違いない。改めて1日も早い引退を勧告する。

2015年7月1日水曜日

リバランスは年1回? 日経 田村正之編集委員に問う

日経の田村正之編集委員は新聞記事での説明が苦手らしい。以前に記事の問題点を指摘すると「自分はFPの資格も持っているからそんなことは分かっている。行数の関係で十分に説明ができなかっただけだ」と弁明していた記憶がある。その時も問題になったのは日経朝刊のマネー&インベストメント面の記事だった。

200行はありそうな記事で「スペースが足りない」という言い訳に説得力は感じられなかったが、当時の田村編集委員は「行数制限のない電子版の記事ではきちんと説明している」と主張していた。1日付の「投資『リバランス』の効用」という記事でも、きちんとした説明は最初から諦めているのだろうか。

今回、引っかかったのは以下の記述だ。


【日経の記事】


オランダのマーストリヒト ※写真と本文は無関係です
リバランスの手法は主に2つある。1年ごとなど定期的に実施する方法と、基本とする配分比率から実際の配分比率が一定以上乖離したときに実施する方法だ。注目したいのは、どちらにせよ、あまり小刻みにやらない方が成績が向上しやすいことだ(図C)。

例えば毎月よりは1年、あるいは3年ごとの方がリターンは上がりやすい。同様に5%乖離でするよりは10%乖離でする方が成績はいい。「小刻みなリバランスは相場の流れに乗る効果が薄れる」(三菱UFJ国際投信の水野善公ネット・ETF推進部長)

個人投資家は例えば年に1度、誕生日や正月などに資産を見直すといった方法がよさそうだ。株高局面では「いったん全部売ろうか」などと迷うが、リバランスの考え方を知れば一時的な感情に惑わされずにすむ。基本の配分比率に戻すため一部だけを売ればいい。


記事によると、リバランスは小刻みにやらない方がいいらしい。「毎月よりは1年、あるいは3年ごとの方がリターンは上がりやすい」と書いてある。グラフを見ると確かに毎月より1年、1年より3年の方がリターンは高い。ならば、個人投資家は「年に1度、誕生日や正月などに資産を見直す」より、3年に1回の方がよいのではないか。しかし、なぜか田村編集委員は「年に1度」を薦めている。そもそも、グラフを見ると「3年」より「5年」の方がリターンは落ちているので、見直しの頻度とリターンの関係がきちんと成り立っているのか怪しい面はある。

本来の比率からの乖離が大きかろうが小さかろうが、年1回はリバランスするという考え方にも賛成できない。経済評論家の山崎元氏は「ほったらかし投資術」という本で以下のように記している。田村編集委員も参考にしてほしい。


【「ほったらかし投資術」の記事】

「定期的な」リバランスに何か優れた意味があるわけではありません。放置しておくとポートフォリオのバランスが狂うことがあるので、これを修正することに意味がありますが、それは市場に大きな変化(たとえば国内株式と外国株式のパフォーマンスの大きなずれ)があった時にそうなるのであって、それが定期的に起きるとは限りません。少し意地悪な言い方をすると、「1年に1度リバランスする」というのは、投資家の側の都合であって、それが運用的にも正しいタイミングだろうというのは、投資家側のご都合主義です。1年に1度決まった日に、まして投資家の誕生日に、投資上重要な変化が起こっていると考えるのは天動説を信じるような(自己中心的な)考え方です。


田村編集委員の「5%乖離でするよりは10%乖離でする方が成績はいい」という説明も気になる。グラフを見ると、この2つはリスクもリターンもほぼ同じだ。わずかな差はあるのだろうが「10%乖離でする方が成績はいい」と言えるほどではない。

そもそも乖離幅を大きく持たせた方が成績が良くなるとすれば、リバランスの必要性はあまりなさそうだ。例えば10%乖離でするより50%乖離でする方が高いリターンが期待できるとしよう。そうすると、長期にわたって投資しても、1度もリバランスの必要な局面がないことも十分あり得る。これで成績が良くなるのならば、リバランスをすれば「長期的に成績の向上につながりやすい」という田村編集委員の主張とあまり整合しない。

他にも気になる点を見ていこう。


◎買い増しならコストがかからない?

【日経の記事】

売却すると税負担や売買コストが発生することがある。リバランスは売却が不可欠ではなく、比率の下がった資産を買い増すことでも可能。毎月定額を積立投資している個人投資家rennyさん(ハンドルネーム、42)は「積立投資の際に比率が下がった資産を多く買うことで、元の比率に近づける」と話す。


「売却すると税負担や売買コストが発生することがある」と書いて、「買い増しでもリバランスはできる」と解説すると、買い増しなら売買コストは発生しないような印象を受ける。実際は買いでもコストがかかるはずだ。


◎結果論では?

【日経の記事】

「大事なのは決めたルールをきちんと守ること」と格付投資情報センターで企業年金のコンサルティングをする川村孝之フェローは指摘する。例えば金融危機後の09年。株価がさらに下げるとの懸念から多くの企業年金は「こんな時期に株は買えない」としてリバランスをためらった。「きちんとリバランスしなかった企業年金はその後の株価回復局面についていけなかった」(川村さん)


間違ったことは書いていないが、こういう結果論で「ルールを守ることが大事」と説くのは感心しない。金融危機後の株価低迷が今も続いていたら、リバランスの回避は吉と出たはずだ。その場合、「機械的にリバランスするのではなく、きちんと状況判断をして方針変更をためらわないことが重要」という結論も導き出せる。


最後に…

200行の前後の行数があって、グラフを3つも付けられるのであれば、「スペースが足りないのできちんと説明できない」との言い訳は通用しない。「ちゃんと説明するのは無理」と投げ出さず、「俺なら200行できっちり説明してみせる」との気概を持って記事を書いてほしい。

※記事の評価はD(問題あり)。田村編集委員への評価は期待も込めてC(平均的)を維持する。

日経 大林尚編集委員への疑問(3) 「景気指標」について

大林尚編集委員は年金分野の記事を書いていた時に問題のある記述が目立っていた。1年半ほど前の2013年12月10日の朝刊に載った「景気指標:アベノミクスと消費税増税」(景気指標面)を題材に見てみよう。

ブリュッセル(ベルギー)の聖ミッシェル大聖堂
               ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

さて14年4月からの落ち込みはどの程度か。大手企業の多くが人件費を増やす方向に傾いているのは、反動減をおさえる支援材料になる。年金生活者にとっては、消費者物価が上がった分が年金額に上乗せされるので、その是非はともかく増税の影響はかぎられる。



「増税で物価が上がっても、上昇分だけ年金が増えるから増税の影響は限られる」との説明には無理がある。2014年度の年金額は13年の物価上昇率を基に決まるので、増税で14年4月から物価が上がっても、14年度の年金額には反映されない。むしろ特例水準調整のための年金減額が13年10月に続いて14年4月にも実施されることになっていたので、14年度の年金額は名目でも減る可能性が高かった。

年金額が減る中での増税となりそうなのに、なぜか大林編集委員は「年金生活者にとっては、消費者物価が上がった分が年金額に上乗せされるので、その是非はともかく増税の影響はかぎられる」と書いてしまった。

大林編集委員には記事の掲載直後にメールで以下のように説明した。


【大林編集委員に送ったメールの内容】

2013年の物価上昇率をゼロと仮定すると(実際もこれに近いでしょう)、来年4月から公的年金は特例水準調整の影響で1%減額となります。そうであれば、増税による物価上昇の影響を年金生活者ももろに受けます。14年の物価上昇は15年度の年金額に反映されますが、一定以上の物価上昇率となった場合はマクロ経済スライドの発動に伴い物価上昇率を下回る年金増額になるようです。15年度以降に関しても「消費者物価が上がった分が年金額に上乗せされる」とは限らないでしょう。


これ以外にも記事の問題点をメールで3つ指摘した。まず気になったのは平仮名の多さだ。


【日経の記事】 ※カッコ内は漢字表記した方が良さそうな言葉

・ボーナスをふくめた給与水準     (含めた)

・3カ月半後にせまった          (迫った)

・振り子が大きくふれる          (振れる)

・資産効果があらわれている      (表れる)

・上昇をたもっている           (保っている)

・3四半期つづけて増えた        (続けて)

・クルマの購入をふくむ自動車関係費 (含む)

・影響はかぎられる            (限られる)

・反動減をおさえる             (抑える)


大林編集委員には「中学生でも書けそうな簡単な漢字を使わずにあえて平仮名表記する意味はあるのでしょうか? 文字数は増えるし、読みやすくもありません」と伝えた。

以下のくだりでは「資産効果」の説明が引っかかった。


【日経の記事】

アベノミクスによる資産効果があらわれているのは食関連だ。総務省の家計調査(2人以上の世帯の7~9月期平均値、以下同じ)によると、牛肉の平均購入単価は2012年10~12月期から丸1年間、上昇をたもっている。外食と飲酒への実質支出はいずれも1~3月期から3四半期つづけて増えた。


「食関連で資産効果が表れている」という説明が怪しい。「アベノミクスによる資産効果」と言っても、株価が高くなった程度で、不動産価格などは大して上がっていなかった。そもそも「食関連の消費」は資産価格との連動性が低いとされる分野だ。資産効果がゼロとは言わないが、「資産効果が主な要因となって食関連消費が伸びている」とは思えない。


記事の結論部分も感心しない書き方になっていた。


【日経の記事】

さて14年4月からの落ち込みはどの程度か。大手企業の多くが人件費を増やす方向に傾いているのは、反動減をおさえる支援材料になる。年金生活者にとっては、消費者物価が上がった分が年金額に上乗せされるので、その是非はともかく増税の影響はかぎられる。そもそも税率の上げ幅に物価がフルに連動するわけでもない。消費税増税というイベントを売り手がどう小さくみせるかも、個人消費の帰趨(きすう)を左右する。


「さて、14年4月からの落ち込みはどの程度か」と筆者自ら切り出しておきながら、「どの程度の落ち込みになるか」に触れないまま終わっている。「具体的な数値を示せ」とは言わないが、「景気を失速させるほどの落ち込みにはならないだろう」ぐらいの見解は欲しい。それができないのならば、編集委員が署名入りで書く必要はない。

記事の問題点を指摘したメールに対して、筆者から反応はなかった。この記事に限らず、大林編集委員は年金関連で基本知識の欠如をさらけ出す印象が強い。そうした点も考慮して、書き手としての評価はE(大いに問題あり)としている。