29日の日経朝刊マネー&インベストメント面に出ていた「
はじめの一家修業中~新婚、住まい購入は焦らず」では、かなり大胆に「賃貸よりも持ち家が有利」と示唆していた。これには納得できなかった。記事の筆者が持ち家有利とする根拠は以下のようなものだ。
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アントワープ(ベルギー)にあるスヘルデ川西側の公園に建つ像 ※写真と本文は無関係です |
【日経の記事】
たいきち また僕に丸投げですね。いいですよ。トウモロコシ、好物なんです。まず家を買う前に持ち家と賃貸の違いを確認しましょう。住宅ローンを毎月返済するのも家賃を払うのも、額が同じなら家計に与える影響は変わりません。違うのは住宅が自分のものになるかどうかです。持ち家は住宅ローンを完済すれば資産になりますが、賃貸はいくら支払っても自分のものにはなりません。
とうしろう 「家賃がもったいない」というのは、そういう意味なんだ。
たいきち 賃貸は持ち家より老後資金が多くかかる点にも注意が必要です。厚生労働省によると日本人男性の約11人に1人、女性の4人に1人が95歳まで生きます。65歳でリタイアしてから30年間生きる可能性に備えるなら、毎月の家賃が10万円とすると計3600万円必要です。持ち家は定年退職までに完済するように住宅ローンを組めば、老後の住居費は維持費や修繕費程度ですみます。
とうしろう 老後資金を3000万円以上多く用意するのは厳しいな。
たいきち 自宅を資産と考えると、持ち家の長所がわかります。例えば借り手が見つかれば、賃料収入を期待できます。いざというときに売却すれば、まとまった資金になる可能性もあるでしょう。持ち家を担保に生活資金を融資する金融機関も最近は増えています。
とうしろう つまり賃貸より持ち家の方が有利で、なるべく早く買った方がいいと助言すればいいんだな。
たいきち 生涯で得られる収入はある程度決まっている以上、自宅が資産になる持ち家は有利にみえます。でも家を買うときは資金計画を十分に考える必要があります。特に大切なのは頭金です。頭金なしで家を買うのはあまりお勧めできません。
「
持ち家は住宅ローンを完済すれば資産になりますが、賃貸はいくら支払っても自分のものにはなりません」というのは、何となく説得力がありそうだからか、持ち家有利説でよく持ち出される。しかし、まともな資産になるかどうかは考える必要がある。返済期間30年の住宅ローンを組んで新築マンションを購入した場合、完済時に残るのは築30年の中古マンションだ。それが資産として残ることに、そんなに価値があるだろうか。
記事では「
65歳でリタイアしてから30年間生きる可能性に備えるなら、毎月の家賃が10万円とすると計3600万円必要です。持ち家は定年退職までに完済するように住宅ローンを組めば、老後の住居費は維持費や修繕費程度ですみます」と書いている。これは読者に誤解を与える説明と言える。
35歳で30年の住宅ローンを組んで新築マンションを購入し、95歳まで生きるケースを考えてみよう。この前提では最終的にマンションは築60年となる。なのに「
維持費や修繕費程度」で済むだろうか。常識的に考えれば、建て替えが視野に入ってくる。建て替えを回避できても大規模な補修などは必須だろう。これは一戸建てでも似たようなものだ。
記事中の「
住宅ローンを毎月返済するのも家賃を払うのも、額が同じなら家計に与える影響は変わりません」との解説にも同意できない。これも多くの人がはまりやすいワナだ。月々の住宅ローン返済額と家賃を比べて「ほぼ同じ額ならば、資産になる分、買った方が得」と考えてしまう人が多い。この場合、ボーナス時の返済額を考慮しているのだろうか。考慮した上でも返済額が家賃と変わらないとしても、持ち家には固定資産税や修繕積立金などの負担がある。「家賃とローン返済額がほぼ同じならば、返済後に資産が残る分だけ持ち家が有利」という単純な判断は非常に危険だ。
記事中にはさらに危険な説明もあった。「
自宅を資産と考えると、持ち家の長所がわかります。例えば借り手が見つかれば、賃料収入を期待できます。いざというときに売却すれば、まとまった資金になる可能性もあるでしょう」との解説は、間違いではないにしても明らかに問題がある。
例えば、賃貸住宅に住み1000万円の預金を持っているAさんにとって、100万円を手元に残して900万円を頭金に充てて5000万円のマンションを買うと、そんなに長所があるだろうか。記事では「
借り手が見つかれば、賃料収入を期待できます」と言うが、その時に自分はどこに住むのか。賃貸住宅に住むのであれば、元のままでいいのではないか。
それに、借り手が見つからない場合もある。売却しようとしてもなかなか買い手が現れず、ローン残額を下回る価格でしか売れない可能性も十分にある。一方、賃貸住宅に住んでいれば、1000万円の預金は困った時にすぐに使えるし、引き出さなければ名目額が目減りする心配はない。持ち家には地震などで被害を受けた場合、修復費用を自ら負担しなければならないリスクもある。
持ち家の最大のリスクは、資産内容が不動産に偏ってしまうことだ。Aさんの場合、預金100%だった資産内容が、住宅購入によって「ほぼ不動産のみ」に変わってしまう。しかもローンを組んでいるので、約5倍のレバレッジが効く。「不動産は他の資産に比べて高い値上がりが見込める」との判断ならともかく、不動産という流動性が低く価格下落リスクもそこそこ高い資産でポートフォリオのほとんどを占めてしまうのが健全だとは思えない。
原理的に言えば、持ち家と賃貸のどちらが得とははっきり言えない水準で家賃や不動産価格が決まっていくはずだ。どちらかが一方的に有利ならば、裁定が働いて価格は調整されるのが自然だ。であれば、住み続けたい場所が明確で資金的にも余裕がある場合、持ち家も否定しない。しかし、人口減少に転じて空き家が増えている日本で、住宅ローンによるレバレッジまでかけて持ち家を購入する理由を見出すのはかなり困難だ。
※今回の記事では「
賃貸住宅にもメリットはあるんでしょ?」といった質問も設定していたので、バランスはそこそこ取れていた。「持ち家有利」と断定的に論じているくだりが気にはなったものの、記事としての完成度はそれほど低くない。記事への評価はC(平均的)とする。