デンハーグ(オランダ)に建つ像 ※写真と本文は無関係です |
W杯ブラジル大会は「チリ」と「地理」からサッカーを考える大会に個人的にはなった。4強は欧州と南米で分け合ったが、16強はコロンビア、チリ、コスタリカ、米国などアメリカ大陸勢が半数を占めた。時差がほとんどない大会は彼らに有利に作用したのだろう。
中でもベスト8を懸けた戦いで開催国を仕留めかけたチリの闘争心あふれる戦いには心を揺さぶられた。うらやましかったのは戦い方に1ミリの迷いもないこと。チリの集団戦法の土台をつくったのはアルゼンチン人のビエルサ元監督といわれるが、ハードワークでビエルサ流に応える勤勉精神はこのチームに昔から脈々と流れるものだ。
ブラジル、アルゼンチンの2強、古豪ウルグアイ、実力伯仲のパラグアイ、コロンビアといった中堅国と軒を接するからだろう。彼らとの戦いに何十年と明け暮れるうちに球際の強さを当たり前のように身に付けているのも頼もしい。
武智編集委員はチリについて「ブラジル、アルゼンチンの2強、古豪ウルグアイ、実力伯仲のパラグアイ、コロンビアといった中堅国と軒を接するからだろう」と書いている。しかし、この中でチリと国境を接しているのはアルゼンチンだけだ。コロンビアやウルグアイと「軒を接している」とは言い難い。「『地理』からサッカーを考える」と切り出したのに、地理に関する武智編集委員の知識がかなり危うい。しかも、その危うさはこれで終わらない。さらに記事を見てみよう。
【日経の記事】
チリやウルグアイ、コスタリカなどの「自分たちの戦い方」には徹底的に他者に鍛えられた「自分」が存在するように感じられる。彼らにはブラジルやアルゼンチン、米国やメキシコのような常に自分たちを圧迫する隣人がいる。そこから導き出される戦い方は付け焼き刃ではあり得ない。
上記の場合「コスタリカの隣人=米国やメキシコ」なのだろう。しかし、確実にコスタリカの隣人と言えるのはパナマとニカラグアぐらいだ。「隣人」を「近所の人」程度の意味で使っているとしても、米国を「隣人」とするのは無理がある。米国がコスタリカの隣人なら、ポルトガルがドイツの隣人でもおかしくない。武智編集委員は各国の位置関係を把握しているのだろうか。
ついでに薩英戦争に関する記述にも注文を付けておこう。
【日経の記事】
そんな話を聞きながら「ここは幕末か」と思ったものである。選手がまるで攘夷(じょうい)か開国かで揺れるサムライのように見えたのだ。自分たちの節を曲げないことが現実を変えることにつながるのか。現実を直視すべきなのか。
その議論は11月の欧州遠征でオランダと引き分け、ベルギーに勝ったことで棚上げされた格好になった。勝負事に「もし」は禁物だが、あそこで英国艦隊などに壊滅的な打撃を受けた薩摩、長州のような目に日本代表が遭っていたら、W杯での戦い方は違ったものになっていたのかもしれない。
「英国艦隊などに壊滅的な打撃を受けた薩摩、長州」という記述にも問題を感じる。関連書籍によると、薩英戦争では「薩摩側の戦死者は5名、負傷者は16名、城下では500戸あまりが焼失した。英国側の被害も甚大で艦長を始め戦死者13名、負傷者50名。1862年7月2日に始まった戦闘は3日も小規模ながら続いたが、艦に被害を受け弾薬も乏しくなった英国艦隊が撤退した」。武智編集委員の書き方だと「薩摩が英国に一方的にやられた」という印象を受けるが、実際は違うのではないか。戦死者5人を「壊滅的な打撃」と評価するは、さすがに大げさだろう。
武智編集委員に関しては、様々な面で「ちゃんと分かっているのか怪しい記者」だと判断して間違いない。「要注意編集委員」として引き続き注視していく。
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