ユトレヒト(オランダ)のドム塔 ※写真と本文は無関係です |
記事中で「原油先物相場は1バレル40ドル割れと歴史的な低水準に下落」と書かれています。この説明は不適切ではありませんか。2003年頃まで40ドルを下回る水準は常態化していました。1998年には10ドル近くまで下げたはずです。10ドルに接近してきたならともかく、40ドル割れで「歴史的な低水準」とするのは無理があります。「問題ない」との判断であれば、その根拠を教えてください。
主観的な問題なので、40ドル割れを「歴史的な低水準」と強弁することはもちろんできる。しかし、こういう書き方をすると「この筆者は分かってないな」と読者に思われても仕方がない。日経から回答が届かないのは確実ではあるが、吉田記者には今後に記事を書く上での参考にしてほしい。
他にも気になる点を2つ挙げたい。
◎「一気に逆流」?
【日経の記事】
原油輸出国の同国は資源安が直撃して景気が減速し、米国の利上げ観測を受けて資金流出が続く。中国株式市場の異変が混乱に拍車をかけ、通貨リンギは1990年代後半のアジア通貨危機当時の水準に沈んだ。度重なる為替介入を背景に外貨準備高は1年で3割も減った。市場はナジブ氏の発言を「打つ手が細った」と解釈し、リンギ売りに拍車がかかった。
深刻な資金流出は新興国に共通する。インドネシアのルピアは17年ぶりの安値に沈み、ブラジルのレアルは左派政権が誕生した2003年以来の水準に落ち込んだ。
英マークイットによると、新興国に投資する上場投資信託(ETF)から50億ドル(約6000億円)を超す資金が7月以降に引き揚げた。高い成長を求めて舞い込んだマネーが一気に逆流する。
資源安はここ数カ月の出来事ではない。原油で言えば昨年後半から下落傾向が続いている。記事に付いた新興国通貨のグラフを見ると、通貨安も2011年頃からのトレンドと言える。ロシアのルーブルに関しては、今年よりも14年の急落が際立っている。なのに「高い成長を求めて舞い込んだマネーが一気に逆流する」と言われても説得力はない。「流出傾向は以前からあったが、ここにきて拍車がかかっている」ぐらいに考えるのが妥当だろう。
◎「新興国に三重苦」?
【日経の記事】
新興国は08年の世界危機後の経済をけん引した。日米欧の金融緩和に伴うマネーの流入、中国の需要拡大、資源相場の高騰の3つが重なり、新興国ブームに沸いた。
その構図が一変している。足元では米国の利上げが現実味を帯び、中国は景気の減速に直面する。原油先物相場は1バレル40ドル割れと歴史的な低水準に下落し、資源安に歯止めがかからない。成長を支えてきた条件が、逆に「三重苦」となって新興国の経済を襲う。
最初の2つはともかく、資源安を単純に「新興国にとってマイナス」と断定しているのが引っかかった。原油安は産油国には不利だろう。しかし、「新興国=産油国」ではない。全体として新興国にとってプラスなのかマイナスなのかは分析してほしかった。
記事では「タイやトルコなど新興国の多くが政情不安を抱え、物価高が進めば政権への不満が高まるのは必至だ。物価を抑えるには利上げが選択肢だが、いま金融を引き締めれば景気が急減速しかねない」と書いている。ならば、物価上昇を抑える原油安は、タイやトルコにとってそれほど悪くない話ではないのか。一般的に、原油価格の下落は世界経済全体にとってのプラス要因と考えられている。だとすれば、新興国全体で見たときにも、原油安を前向きに捉えて良さそうな気がする。
通貨安に関しても「通貨安を受け、輸入に依存する食料品の価格上昇が続く」と吉田記者は描写するが、一面のみを強調しているように思える。通貨安が国内で食料品の価格上昇を招くのは当然だ。しかし、一方では輸出競争力を高めてもいるはずだ。両方を併せて経済への影響を考える必要がある。この記事には、そういった視点が欠けている。
※色々と指摘してきたが、全体としての出来はそれほど悪くない。記事の評価はC(平均的)、クアラルンプールの吉田渉記者への評価は暫定でCとしていたが、Cで確定させる。
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